栄光ゼミナール PRESENTS カエル テーマ みぢか りょうせいるい せいたい にんげん カエルは身近な両生類だけど、その生態は人間 ちが とはまったく違う。オタマジャクシからカエル テキスト版 ひ ふ こきゅう すいりく になり、皮 膚で呼 吸ができて、水 陸どちらでも かつどう おどろ い もの ふ し ぎ 活動できる! この驚くべき生き物の不思議を み 見てみよう。 執筆/柳田理科雄 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール い もの 1 ◆カエルって、 どんな生き物? はる とうみん つち で 春になると、冬 眠していたカエルが土のなかから出てくる。 カエルと は、 どんな動物なのだろう? どうぶつ さいだい とくちょう たまご ① ② ③ ④ う カエルの最 大の特 徴は、卵から生まれたときはオタマジャクシで、 水中で暮らし、成長すると、尻尾がなくなって手足が生え、陸上で暮ら すいちゅう く せいちょう し っ ぽ て あ し は りくじょう すことだ。 く こきゅう カエルは、オタマジャクシのときと、カエルになってからでは、呼吸の 仕方が違う。オタマジャクシは、水のなかで暮らすので、魚と同じように 水中の酸素を体に取り込むための 「えら」 を持っている。カエルは陸上 し か た すいちゅう ちが みず さ ん そ からだ く と く こ にんげん さかな おな も おな くうきちゅう りくじょう さ ん そ と こ はい も で暮らすので、人間と同じように空気中の酸素を取り込む肺を持ってい る。えらが、どうやって肺に変わるのだろうか。 はい か せいちょう うし あし は まえあし オタマジャクシは、成長すると、まず後ろ足が生える。前足は、えらを とお みず からだ そと だ あな は まえあし 通ってきた水を体の外に出す 「えら穴」 から生えてくる。前足がだんだん 大きくなっていくと、えらはなくなっていく。尻尾が短くなり、前足が大き おお し っ ぽ せいちょう みじか まえあし からだ おお うし あし で ①オタマジャクシ ②後ろ足が出て… ③ まえあし で しっぽ みじか みごと 前足が出て尻尾が短くなり… ④見事な アマガエルに! はい く成長するころには、えらはすっかりなくなって、体のなかに肺ができて いる。 動物はいまから6億年前に海で生まれ、次第に陸に上がってきた。 どうぶつ おくねんまえ し ん か みちすじ うみ う し だ い りく あ いっしょう カエルは、その進化の道筋を、一生のなかでたどるのだ。 今日の1日1科学 うみ りく しんか いっしょう カエルは海から陸への進化を一生でたどる ひ ふ こきゅう 2 ◆カエルは皮 膚でも呼吸する!? にんげん はい こきゅう はい くわ ひ ふ 人 間は肺でしか呼 吸できないけど、 カエルは肺に加えて、皮 膚でも こきゅう 呼吸できる。 カエルの皮膚はいつも濡れていて、その水に溶け込んだ酸素を吸収 ひ ふ に さ ん か た ん そ ぬ からだ みず ひょうめん みず す と こ さ ん そ こきゅう きゅうしゅう す こ し、二酸化炭素を体の表面の水に捨てている。カエルは呼吸で吸い込 む酸素の半分ぐらいを皮膚から取り入れている。このため、カエルは体 が乾くと、息が充分にできなくなって死んでしまう。 さ ん そ かわ にんげん はんぶん いき ひ ふ と じゅうぶん い からだ し ひ ふ こ き ゅ う わりあい ひ ふ こ き ゅ う 人間も皮膚呼吸しているが、 その割合は0. 5%ぐらいなので、皮膚呼吸 ができなくても困らない。 カエルの皮 膚は、水 分を吸 収することもできる。つまりカエルは、体 こま ひ ふ すいぶん きゅうしゅう からだ ひ ふ こきゅう カエルは、皮 膚で呼 吸することもできる ひ ふ みず の し、皮膚で水を飲むこともできる! すご ひ ふ い皮膚だなあ! 1 みず の で水を飲むのだ。 また、余計な水分も、皮膚から捨てている。 すごい皮膚だと驚くが、水 よ け い で すいぶん ひ ふ す い からだ ひ かわ ふ おどろ みず もんだい が出入りするから、 それだけ体が乾きやすいという問題もある。 今日の1日1科学 からだ みず の カエルは体で水を飲む こ そ だ 3 ◆びっくり ! カエルの子育て おお たまご すいちゅう う か ば し ょ たまご う カエルの多くは、卵を水中に産むが、変わった場所に卵を産むカエル もいる。 たとえば、モリアオガエルは、池や沼の上に張り出した木の枝や草 いけ は たまご う だ ぬま ねば うえ け は だ き えきたい えだ くさ なんびき の葉に卵を産む。メスが出した粘り気のある液体を、メスと何匹かのオ うし あし ま あ わ だ スが後ろ足でかき混ぜ、メレンゲのように泡立てて、メスはそのなかに たまご う あわ ひょうめん かんそう じょうぶ う 卵を産む。泡の表面は乾燥して丈夫になり、そのなかで生まれたオタマ あめ あわ と いけ ぬま お たまご さかな こんちゅう ジャクシは、雨で泡が溶けると池や沼に落ちる。卵のうちに、魚や昆虫 に食べられないための仕組みだ。 た し く たいちょう からだ また、ピパというカエルがいる。体長は15㎝ぐらいで、体はぺったん こ。とてもカエルには見えないが、南アメリカのアマゾン川に住む立派 み みなみ がわ なか たまご う す たまご り っ ぱ なか なカエルだ。ピパのメスは、オスのお腹に卵を産む。オスは卵をお腹に せ な か だ たまご せ な か あつ くっつけたまま、メスの背中に抱きつく。すると、卵はメスの背中の厚 い皮 膚に埋め込まれる。その穴のなかで生まれたオタマジャクシは、 ひ ふ う ははおや こ けっかん あな う ようぶん か しゅうせい 母親の血管から養分をもらってカエルになる。この変わった習性から、 にっぽん よ 日本ではコモリガエルとも呼ばれる たいていのカエルは1000個から1万 個ぐらいの卵を産むが、モリ こ こ まん こ たまご こ う う すく たまご アオガエルは500個、ピパは100個ぐらいしか生まない。少ない卵を たいせつ そだ 大切に育てるのだ。 たまご うえ した モリアオガエルの卵 (上) とピパ (下) 。 どち たまご かず すく こそだ らも卵の数の少ないカエルなので、子 育 くふう ても工夫されている 今日の1日1科学 せなか たまご う こ ピパのメスは、オスの背中に卵を埋め込む じゅみょう 4 ◆カエルの寿 命はどれくらい? な ん ど とうみん なんねん い カエルは何度も冬眠する。 これは、何年も生きるということだ。 カエル は、 何年ぐらい生きるのだろうか。 なんねん い おお ねん ねん い しょうがくせい カエルは、多くのものが10年から15年ぐらい生きる。小学生がカエ ルに会ったら、自分より年上かもしれないということだ。 動 物は、大きなものほど寿 命が長いが、 10年から15年という寿 命 あ どうぶつ じ ぶ ん としうえ おお じゅみょう おお いぬ なが ねこ ねん おな ねん じゅみょう りょうせいるい は、カエルよりずっと大きい犬や猫と同じだ。カエルなどの両 生類や、 カメなどのは虫類は、じっとしていることが多く、エネルギーを使わない ので、体の大きさのわりに寿命が長いと考えられている。なかでもヒキ ちゅうるい からだ おお おお ちょうじゅ じゅみょう ねん い なが つか かんが き ろ く ガエルは長寿で、 36年も生きたという記録がある。 カエルの仲間の両生類のなかで寿命が長いのは、オオサンショウウ な か ま りょうせいるい じゅみょう ひだり ねん ヒキガエル (左) は36年、オオサンショウ みぎ ねん い きろく ウオ (右) は55年も生きた記録がある! なが 2 え ど じ だ い にっぽん き い し ゃ オだ。江 戸時代に日本に来たオランダの医 者のシーボルトが、 1826 年に捕まえたオオサンショウウオをオランダに持ち帰ったところ、 1881 ねん つか ねん も い かえ ねん つか 年まで生きていたという。なんと55年! これは、捕まえられてからの ねんげつ じっさい なが い かんが 年月だから、実際にはもっと長く生きたと考えられる。 今日の1日1科学 ねん い ヒキガエルは36年も生きる き け ん どく も 5 ◆危 険! 毒を持つカエル! どく も カエルのなかには、毒を持つものがいる。 にっぽん み め うし じ せ ん ば し ょ 日本でもよく見かけるヒキガエルは、目の後ろにある耳腺という場所 から毒を出す。敵に出会うと、相 撲の仕 切りのように体 勢を低くして、 どく じ せ ん だ てき てき で む あ す も う つ だ し き どく たいせい さわ どうぶつ ひく ひ ふ 耳腺を敵に向かって突き出す。その毒は、触 った動物の皮膚をただれ しんぞう しんけい よわ させ、心臓や神経を弱らせる。 みなみ きた な ん ぶ す 南アメリカや、北アメリカの南 部や、ハワイに住むヤドクガエルは、 皮膚からいつも毒を出している。なかでも毒が強いのは、モウドクフキ ヤガエルで、人間が5万分の1gを体内に入れると、神経の働きを邪魔 ひ ふ どく だ にんげん どく まんぶん たいない し つよ い た しんけい みず はたら じ ゃ ま にん し つよ ゆ み や ふ や コバルトヤドクガエル (右) 。鮮やかな色は ぬ あか き い ろ あお しろくろ め あお どくせい から、たった1滴で2500人が死ぬということだ。この強い毒性のため、 昔は弓矢や吹き矢に塗られていた。 むかし ひだり 黄色いモウドクフキヤガエル (左) と青い されて死んでしまう。スポイトから垂らす水1滴がおよそ20分の1gだ てき きいろ ぶん てき だ いろ みぎ けいかいしょく あざ いろ よ 「警戒色」 と呼ばれる も よ う ヤドクガエルは、赤や黄色や青や、 白黒まだらなど、 目立つ色や模様 ほか どうぶつ じ ぶ ん た し けいこく をしている。 これは他の動物に 「自分を食べると死ぬぞ!」 と警告するた めで、警戒色と呼ばれる。 けいかいしょく よ 今日の1日1科学 め だ いろ もよう けいこく ヤドクガエルは目立つ色と模様で警告している ① ② な か ま 6 ◆カエルの仲 間たち みず なか く カエルは、 オタマジャクシのときは水の中で暮らし、 カエルになると 陸上で暮らす両生類だ。 両生類には、 どんな動物がいるのだろうか。 両 生類にはおよそ6000種 類があり、そのうち4000種 類がカエル りくじょう く りょうせいるい りょうせいるい りょうせいるい どうぶつ しゅるい だ。ほかには、イモリ・サンショウウオ・ウーパールーパー・サイレン・ アシナシイモリなどがいる。 両生類はカエルの仲間なので、生まれたばかりのころは、オタマジャ りょうせいるい な か ま う すがた ③ しゅるい すがた な ま え ④ ⑤ に クシのような姿をしている。イモリと姿も名 前もよく似たヤモリという 動物がいるが、ヤモリはヘビやカメやワニなどと同じは虫類の仲間なの どうぶつ おな ちゅうるい な か ま じ だ い で、オタマジャクシの時代がない。 イモリやサンショウウオは、成長したあとも長い尻尾がある。ウーパー ルーパーは、カエルのように大きく姿を変えることなく、後ろ足と前足が せいちょう おお は すがた いっしょう なが すがた か し っ ぽ うし あし まえあし す 生えたオタマジャクシの姿で一生を過ごす。 サイレンは、大きなものは体長が1mにもなるが、前足だけで後ろ足 おお たいちょう まえあし うし あし ①アカハライモリ ②カスミサンショウウ オ ③ウーパールーパー ④サイレン ⑤ア りょうせいるい シナシイモリ。どれも両生類で、カエルの なかま 仲間だ 3 りょうせいるい げ ん し て き あし がない。アシナシイモリは両 生類のなかでいちばん原 始的で、足がな く、大きなミミズのような姿をしている。大きなものは、体長150㎝にな おお すがた おお たいちょう るという! 今日の1日1科学 すいちゅう りくじょう く りょうせいるい なかま カエルは水中と陸上で暮らす両生類の仲間 やなぎた り か お へんしゅう こ う き 柳田理科雄の編集後記 ぼく しょうがっこう うらにわ おお すいそう めん ば 僕の小学校には、裏庭に大きな水槽がありました。 1面がガラス張りになっていて、 ちょ ぼく め たか すいそう さかな はる うど僕らの目の高さにありました。水槽は3つあり、魚やエビや、春にはオタマジャクシが か ねんせい ぼく ちい すいぞくかん まいにちかよ 飼われていました。 1年生になったばかりの僕は、 その小さな水族館に毎日通い、 オタマ みとど い ジャクシがカエルになるのを見届けました。 カエルたちは、 みんなどこかへ行ってしまいま すいそう かんり せんそう い こわ した。その水 槽をていねいに管 理していたのは、戦 争に行ったことのある、 とても怖い せんせい ふ し ぎ き おぼ やなぎた 先生でした。 なんだか不思議な気がしたのを覚えています。 (柳田) 4
© Copyright 2024 ExpyDoc