こちら - 住友生命健康財団

スミセイ コミュニティスポーツ推進助成プログラム
2015 年 9 月 26 日( 土 )
記念シンポジウム 住友会館
コミュニティスポーツの現在― 5年間の助成を通して見えてきたこと―
5 年の成果を振り返り、
これからの 5 年へステップアップ
スミセイ コミュニティスポーツ推進助成プログラムは、2010 年より開始しました。これまでの 5 年間の
活動を振り返り、次の新たな 5 年間に向けてステップアップを図るために、贈呈式に引き続いて記念シン
ポジウムを開催しました。会場には贈呈式に参加した方々を含め、コミュニティスポーツの現場で日々奮
闘している市民活動団体や研究者の皆さんが集まり、熱心に耳を傾けていました。
助成対象者からの声をバネに新たなる第Ⅱ期がスタート
メンバーと心を一つにし、自己犠牲的な愛を知る場
冒頭で、住友生命健康財団常務理事の佐藤昭雄が 5 年
続いて「なぜコミュニティスポーツなのか その推進の
間の総括となる基調報告を行いました。
意義」と題し、福岡孝純氏(日本女子体育大学招聘教授)
「本プログラムにおきましては、この 5 年間で調査・研
が記念講演を行いました。ドイツのコミュニティスポー
究助成 52 件に対し 6,980 万円、実践助成 75 件に対し
ツを研究している福岡氏は、冒頭で「日本とドイツの違い」
3,624 万円を助成してきました。さらに 2011 年度からは、
を紹介。
東日本大震災被災者の支援活動に対する特別枠も設けて
「生活習慣病の対策として、国がスポーツ施設の整備を
応援してきました。ここ 4 年間の応募件数は、平均して
進めてきたドイツには約 9 万 3000 カ所ものスポーツクラ
90 件ほどで安定しています。2010 ~ 2013 年度までの助
ブがあり、国民の 3 分の 1 が所属しています。日本も政
成対象 62 件に書面アンケートを行ったところ、助成金に
府の補助で総合型地域スポーツクラブの設立を進めては
ついては『使用制限が少ないため使いやすい』との評価
いますが、まだ約 3300 カ所に過ぎません」という現状を
がある一方、『財団のホームページで活動を紹介してほし
示した上で次のように「コミュニティスポーツの必要性」
い』『成果報告会を開いてほしい』との要望が多く寄せら
を訴えました。
れました。これらの声を反映させて 2015 年度、本プログ
日本ではスポーツのマネジメントがようやく重要視さ
ラムは第Ⅱ期を新たにスタートします」
れるようになりました
が、“水 平 的”な マ ネ ジ
メントに加え、理想を追
求する“垂直性”もスポー
ツには欠かせないもので
す。スポーツの根源は“遊
び”です。遊びにより集
い、祭らうことこそが人
佐藤昭雄 常務理事
間の原衝動であり原風景
福岡孝純氏
であることを石器時代の壁画も示しています。
入が進行中。将来指導員につなげるボランティアの養成
ところが現代人は、スマホやパソコンに囲まれた情報
にも力を注いでいます」
刺激需要反応型の生活を送る中で“ライヴな運動”の機
会を喪失してしまいました。人の遺伝子は 1 万年前とほ
自閉症の子にワークショップ スポーツが身近な存在に
とんど変わっていないのに、運動量は激減。1 日 10 ~ 13
次は、同じく調査・研究の部で 2 年間の助成を受けた、
キロも歩いていた狩猟採集時代の人類に対し、現代人の
金沢大学子どものこころの発達研究センター特任助教の
多くが 1 日の運動量ゼロ。これでは病気になるのも無理
竹内慶至氏で、報告は次の通りです。
はありません。
医療社会学が専門で自閉症関連の研究をしてきました。
現代のスポーツ振興はルールづくりに重点を置きがち
政府主導の『自閉症に優しい社会』を考えるプロジェク
ですが、もっと大事なのは“One for All,All for One.”
トに金沢で 3 年関わる中で、担い手や社会資源の不足な
の精神です。自分だけでなく、家族やコミュニティのこ
どに課題を感じて本プログラムに応募しました。金沢大
とも大事に思う心。運命共同体であるメンバーと心を一
学で運営を担う学生を募り、楽器に合わせて体を動かす
つにすることや、功利主義にとらわれない自己犠牲的な
ワークショップや、巨大ボールを使った球技“キンボール”
愛を知る場こそがコミュニティスポーツの現場なのです。
のワークショップなどを 2 年で 30 回近く開催しました。
私の父、福岡孝行は疎開先の長野県白馬村で 1944 年、
すべてのワークショップをビデオで撮影し、効果を検証
地元の人たちにスキーを教えました。これをきっかけに
したところ、マルチタスクが
地元の若者たちが立ち上がり、大木を切ってスキーのコー
苦手な自閉症の子どもたちが
スをつくり、1947 年に始まったのが八方尾根リーゼンス
スポーツを身近に感じるよう
ラローム大会です。この大会は今も続き、60 回以上も開
になったことがわかりまし
催されています。仲間と共に生き、力を合わせて、何も
た。学 生 組 織 も 徐 々 に 形 に
ないところから立ち上がろうとする熱い決意。これこそ
なってきたので、少しずつ活
がコミュニティスポーツにとって、もっとも大事なもの
動の場を広げていけたらと考
です。ここに集まった皆さんが中心となって志を立て、
一人でも多くの方が仲間となることを期待しています。
えています。
竹内慶至氏
2つの報告に対して、選考委員の福岡孝純氏(日本女
記念講演に続き、第Ⅰ期で助成した 5 団体に、取り組
子体育大学)からは、「障がい者に関わるスポーツは、ま
み事例を発表していただきました。調査・研究の部で助
だまだ社会の関心が薄く、現場が少ないという状況があ
成を受けた 2 人の研究者から、続いて実践の部で助成を
ります。その中で、“ハード”、“ソフト”、“ヒューマン”
受けた 3 団体から報告いただきました。
をマネジメントし、何より人を大切にする現場を実現さ
れている両先生方の取り組みは素晴らしいと思います。」
総合型クラブを舞台に障害者の参加を促進
とコメントされました。
最初は、徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サ
イエンス研究部准教授の行實鉄平氏です。行實氏は 2008
年と 2009 年、福岡県が受託した文部科学省の「総合型ク
ラブにおける障害者のスポーツ参加機会向上推進事業」
に推進委員として参加。その後、自主事業となった途端
に活動が停滞。当時在籍していた久留米大学に拠点を移
し、本プログラムの助成を活用しながら、学生と活動を
継続していくことにしました。内容は、次のとおりです。
3 カ所の総合型地域スポーツクラブでアイデアを出して
福岡孝純氏と司会の谷本都栄氏
もらい、障害の有無を問わず一緒に楽しめるアダプテッ
ドスポーツとして、フライン
少子高齢化が深刻な町で住民の自主運営をサポート
グディスク、ハンドバイク、
実践の部からは 3 団体が発表。一人目は、NPO 法人ひと
車いすを使ったスポーツ教室
づくりくまもとネットの岡田聖史氏。熊本の天草で幅広
を展開し、その内容をしっか
い年代を対象にスポーツ教室や体験活動などを行ってい
りと評価しました。この取り
ます。報告は次のとおりです。
組みが認められ、現在は福岡
少子高齢化が深刻な問題となっている上天草市の 3 町 5
県の事業として 7 地区 14 ク
地区で、市、総合型地域スポーツクラブ、地元婦人会と
ラブで同様のプログラムの導
行實鉄平氏
連携しながら、ストレッチ運動やリズム体操などの運動
プログラムを実施しました。
り組みました。ジャンプしたり、走ったり、ボールを投げ
助成 2 年目は活動の担い手と
たりといった運動を通して、さまざまな状況に対応でき
なる“元気リーダー”を養成。
る能力を楽しみながら育むのが目的です。助成1年目は16
幅広い年代が参加しやすいテ
人、2年目は23人が参加。学校体育に参加したがらなかっ
ニスやレクリエーションなど
た児童が参加するようになった、若いお母さんが子育て
の種目も増やしました。3 年
の悩みを共有する場ができたという成果もあがっていま
目には“元気リーダー”主催
岡田聖史氏
す。
のイベントや地域交流会でコ
助成 3 年目の今年は集団行動を学ぶ機会をつくり、仲
ミュニティの絆が深まり、地域の方の主体性も芽生え始
間との関わりやルールを守ることの大切さを伝えていく
めました。日常生活にウォーキングなどの運動を採り入
予定です。これからも、自信をもって社会に出ていける
れる人も増えています。新たな担い手の育成や今後の運
子どもを育てていきたいと考えています。
営費をどうするかといった課題もありますが、地域の方
が自主運営できるようになるまで、サポートを続けてい
3つの実践助成の事例報告を受けて、選考委員の水谷
きます。
綾氏(大阪ボランティア協会事務局長)が「どの取り組
みにも、人と人が触れ合うことで意欲や自発性を引き出
日本の若者を元気にするブレイクダンス教室を開催
す魅力が詰まっていて、生活者の目線だからこそできる
次は、NPO 法人 Street Culture Rights 共同代表の阿部
ことの強みを感じました。今後も今日のような情報発信
将顕氏。不登校が増えたり、将来に夢や希望をもつ高校
を続け、日本の新たな社会創造へと結びつけていきたい
生の割合が低かったりと、元気がない日本の若い世代を
ものです」とコメント。いくつかの質疑応答を経て終了
「ストリートカルチャー」でわくわくさせようという日本
しました。
初の団体で、以下の報告がありました。
東京・杉並区の小中高生を中心に、ブレイクダンス教
室を開きました。不登校や生活困窮家庭、外国籍の子も
来やすいように 18 歳以下は無料。2012 ~ 15 年で 68 回開
催し、延べ約 1700 人が参加しました。中には、自ら英語
の勉強を始めた 10 歳の子もいました。子ども・若者の教
育に携わっている NPO カタリバと協働で文京区にも活動
を広げていく予定ですが、そのためには、高校生や大学
司会の山岡義典氏と水谷綾氏
生が主体となった運営チームを編成することが喫緊の課
題となっています。同時に、
その後、参加者の皆さんが親睦を深める交流会の場が
教室に参加していた 20 代の
設けられ、住友生命健康財団初の試みとなった記念シン
子たちがスケボーやダンスの
ポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。
経験を今後のキャリアにつな
げるための支援もしていきた
い。今後は、この両輪でやっ
ていきます。
阿部将顕氏
発達障害児の運動教室子育ての悩みも共有
最後は、総合型地域スポーツクラブ HEROES クラブ代表
の井之上千秋氏で、報告は次のとおりです。
もとは知的障害者のバスケットボールチームから始ま
り、福岡県内 4 会場で活動
しています。
集団行動が苦手で、民間
や学校におけるクラブ活動
の受け入れ態勢も整ってい
ない発達障がいの子どもた
ちを対象に 、コーディネイ
ティブレクリエーションに取
井之上千秋氏