448kHz の電気刺激によって促進されるヒト間葉系幹細胞の増殖 ( ELECTRIC STIMULATION AT 448 kHZ PROMOTES PROLIFERATION OF HUMAN MESENCHYMAL STEM CELLS) HERNÁNDEZ-BULE, PAÍNO CL, TRILLO MA, ÚBEDA A. CELL PHYSIOL BIOCHEM 2014; 34:1741-1755 (承認済み要約。原著論文は http://www.karger.com/Article/FullText/366375 で閲覧可能。) はじめに 材料および方法 前駆細胞は、組織の再生で重要な役割を果たす。増 殖後、新しい細胞は組織本来の機能を取り戻す。間 葉系幹細胞(MSC)は損傷修復の増殖期に関わる重 要な細胞集団であり、ほぼすべての成体組織に存在 する。 細胞培養 脂肪由来幹細胞は、4名の健康なドナー(年齢65歳、 69歳の男性2名、29歳、35歳の女性2名)の皮下脂肪 サンプルから分離した。第3~8継代のADSCを実験 に使用した。 従来、電気的または電磁気的刺激を利用した理学療 法は、美容医学でも同様に使用され、傷害または変 性組織病変の再生に満足すべき結果を出してきた (1-7)。 これらの療法のうち、容量性/抵抗性電移法(CRET) は、400kHz – 450kHzの高周波領域の電流を用いる 非侵襲性の電熱治療である。最近のin vitroの結果は、 温熱性の電流密度で適用したCRETがヒト癌細胞で 細胞傷害性を引き起こし、こうした温熱効果が、標 的とする腫瘍組織への金属微小粒子注入により増 強される(8)ことを示している。細胞レベルでは、 CRETの効果は温熱効果に限定されない。非温熱性 (非加熱)量のCRETの刺激は、培養ヒト腫瘍細胞株 で増殖抑制および細胞傷害反応を誘発しうるが、初 代培養ヒト末梢血単核細胞では誘発しない(9-13)。 これらの実験結果は、CRET医学療法の効果が、温度 上昇のみによるのでなく、電気的刺激自体への直接 的な細胞反応にもよるという従来の根拠を裏付け るものと解釈することができる。組織の再生に関し て、CRETセラピーは、現在、リハビリテーションや スポーツ医学の分野で筋肉、骨、靱帯、腱の損傷の 治療に利用されている(14-16)。CRETによる損傷回 復の促進は、抗炎症プロセス、鎮痛、筋機能回復 (17-20)と共に損傷を受けた領域の拡大の全般的な 縮小に関わっている。 CRET曝露 CRET電流への細胞曝露(図1参照)は、448kHz、 50μA/mm2の非温熱性の電流密度の5分間パルスを4 時間毎に計48時間であった。こうした曝露パラメー タは、我々のグループの以前の研究(9-13)で細胞増 殖に影響することが検証されている。培養細胞はイ ンキュベーター中で増殖させ、常にモニターした。 疑似曝露用に、コントロールのペトリ皿に装着した 一対の電極も電流発生装置に接続したが、通電はし なかった。 図1. 2個の電極間に流れる448kHzの電流へのin vitro 曝露。 電極ギャップ間(曝露/疑似曝露領域で、1065mm2)のペト リ皿表面の電流密度は均一。拒絶された細胞はペトリ皿から 本研究の目的は、細胞増殖の促進が、非温熱性の電 流密度の CRET に誘発された組織の再生に関わる現 象の一つであるかどうかを、MSC の一種である脂肪 由来幹細胞(ADSC)で調べることである。 かき取り、処理終了後直ちに廃棄した。 間葉系特性評価のための分化アッセイ 採取したADSCの多分化能を評価するために、細胞を 脂肪生成培地、軟骨形成培地または骨形成培地中で 培養した。それぞれの分化培地中での培養15日目に、 ADSCを脂肪、軟骨または骨分化評価のため固定した。 分化評価と同じ手順を、ADSCの多分化能がCRET曝 露の影響を受けるかどうかについての検討に応用 した。 細胞増殖の評価 細胞増殖に対するCRETの効果は、XTT比色アッセイ、 および5-ブロモデオキシウリジン(BrdU)取込みの 免疫蛍光検出によるDNA合成の定量化により確認 した。 細胞周期分析 細胞周期に対する通電の潜在的な効果は、第 3 およ び 4 継代の培養細胞を使用したフローサイトメトリ ーで評価した。細胞周期の S および G2 期にある細 胞を評価するために、DNA ポリメラーゼ関連タンパ ク質マーカーである増殖細胞核抗原(PCNA)(21) を使用した。 結果 ADSCの脂肪分化、軟骨分化、骨分化 ADSC は、検討した 3 種の細胞系統(脂肪細胞、軟 骨細胞、骨細胞)への明確な分化パターンを示した (図 2)。 図 3. 増殖アッセイ。 (A)第 2~8 継代の培養細胞中のビスベ ンズイミド染色細胞核の蛍光顕微鏡による計数。データはそ れぞれのコントロールサンプルに対して正規化している。 (B) 第 3~7 継代の培養細胞の細胞増殖についての XTT アッセイ。 *0.01 ≤ p ≤ 0.05; **0.001 ≤ p ≤ 0.01;***p < 0.001(スチュー デントの t テスト) 。 図 2. 脂肪生成培地、軟骨形成培地、骨形成培地を添加した場合(Dif.) 、脂肪組織から分離した細胞は相応する細胞系統へ分化 したが、添加していない場合(ND) 、細胞は未分化のままであった。スケールバー=100μm。 CRET増殖 CRETの効果は培養細胞の継代に依存した。第3~5 継代で通電したADSCは、細胞数の統計的に有意な増 加を示し、第5継代で疑似曝露コントロールに対し て25%まで増加した(図3A) 。XTT比色アッセイでは、 第3~5継代で通電した培養細胞でコントロールに 対して20%までの細胞数の増加が確認された(図 3B) 。 通電した群のBrdU陽性細胞の割合は、コントロール に対して38%有意に増加した(p < 0.001) 。 数により裏付けられた。 細胞周期分析 細胞周期に対する CRET の効果については、第 3~5 継代では、S および G2/M 期の細胞の統計的に有意 な増加(コントロールに対してそれぞれ 21%、10%) を伴い、G0/G1 期の細胞の割合の僅か 3%ではある が統計的に有意な減少があった(図 4)。これらの データは、CRET がコントロールに対して統計的に 有意な増加(35%)を誘発した陽性細胞の PCNA 計 図 4.異なる周期における細胞数に対する CRET の効果。 コントロール(100%)に対する率。*0.01 ≤ p ≤ 0.05。 CRET 処理後の ADSC の多分化能 相応する分化培地の存在下での曝露後 2 週間の培養 後、CRET 曝露サンプルの分化パターンにコントロ ールのものとの有意な違いはなかった(図 5)。 図 5. CRET 処理後の ADSC の多分化能。CRET または疑似曝露後、第 3~4 継代の培養細胞 を分化培地の存在下で 14 日間増殖させた。 (A)脂肪生成培地(上) 、軟骨形成培地(中) 、 骨形成培地(下)中で維持し、それぞれオイ ルレッド、アルシアンブルー、アリザリンレ ッドで染色したサンプルの代表的な顕微鏡画 像。スケールバー:100μm。(B)ADSC の分 化をコンピュータ支援画像解析での染色定量 化によって評価した。ヒストグラムは、CRET 曝露サンプルでの光学密度の平均±SEM が、 対応するコントロールでのものと有意な差が なかったことを示している(p > 0.05) 。 結論 今回の結果は、容量性/抵抗性電移(CRET)セラピ ーで使用する448kHzの電気的刺激への間欠的な曝 露が、S期、G2期、有糸分裂期の細胞の割合を高め、 ヒト間葉系幹細胞の増殖を促進することを示して いる。今回の結果は、CRETの電気的処理が、その後 の脂肪、軟骨または骨分化のための幹細胞の多分化 能を損なわずに損傷領域に存在する静止状態の脂 肪由来幹細胞(ADSC)の増殖を活性化することで、 組織再生を促進する可能性を示している。これらの データは、以前に発表された実験的根拠と共に、温 熱以外の分子および細胞機序が、組織の修復への利 用も含めたCRET治療の有効性にとって重要であり 得るという仮説を強く裏付ける。 つまり、まとめると、ここで発表した結果は、CRET の電気的治療が、すでに増殖しつつある幹細胞の増 殖を刺激することで損傷の修復を促進または加速 する可能性を示唆している。この点から、様々な組 織の損傷および血管病変の回復に有効な補助療法 として、または一部の化学療法の副作用に敏感な患 者の治療の選択肢としてのCRETの適用の可能性を 提案することができる。CRETは抗炎症治療で有効で ある可能性もある。 参考文献 1 Messerli MA, Graham DM: Extracellular electrical fi elds direct wound healing and regeneration. 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