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修士論文要旨
論文タイトル:
「日本企業におけるオープン・イノベーションについて―「インサイドアウ
ト型」オープン・イノベーションを中心に」
学 籍 番 号:AM12033
氏
名:李 佳偉
指導
教授:伊藤
善夫
教授
【論文の構成】
はじめに
第 1 章 問題認識と研究目的
第 2 章 先行研究と分析
第 3 章 事例研究と仮説の構築
第 4 章 仮説の実証分析
第 5 章 考察と今後の課題
おわりに
【論文の内容】
問題意識
厳しくなる競争環境の中、自社の優位性を確保するために研究開発のスピードを上げることは必須の
課題になっている。これに対して、社内外の経営資源を積極的に利用するオープン・イノベーションが
注目を浴びている。しかし、社外の資源を取り入れる一方で、社外に資源を出す「インサイドアウト型」
オープン・イノベーションは、多くの企業で敬遠されている。社内で経営資源の「選択と集中」をした
上で、主力事業から外された事業、事業化されない技術・サービスを社外にオープン化すれば、企業収
益の向上、将来の成長性に寄与すると言われている。ではなぜ「インサイドアウト型」オープン・イノ
ベーションが進まないのか、これを問題意識として研究を展開する。
1.
研究目的
社内に多くの棚上げされた技術を保持している企業が、社外の技術を社内に取り入れる「アウトサイ
ドイン型」オープン・イノベーションから社内の技術を社外に公開する「インサイドアウト型」オープ
ン・イノベーションへ転換することが困難な状況について、その原因を詳しく調べたうえで、成功した
事例の考察に基づいて、「インサイドアウト型」オープン・イノベーションを促進する要因を探索する
ことを、本研究の目的とする。
2.
研究方法
Chesbrough(2003,2006,2009,2010)のオープン・イノベーションに関する議論に基づき、オープン・
イノベーションについての基盤知識、特に「インサイドアウト型」オープン・イノベーションについて
の必要な基盤知識をまとめる。そして、
「インサイドアウト型」オープン・イノベーションを通じて事
業化に成功を収めた企業の事例を分析し、成功要因を確認する。抽出された成功要因を、理論的に確認
する。理論的な確認と事例分析を総合して、「インサイドアウト型」オープン・イノベーションの成功
要因について仮説を構築し、これを実証する。
3.
4.
先行研究
イノベーションの新しいパラダイムとしてのオープン・イノベーションの定義を明確化する。その上
で、オープン・イノベーションと従来の「自前主義」と称されるクローズド・イノベーションを比較し、
メリットとデメリットを説明する。オープン・イノベーションを分類して、特に「インサイドアウト型」
オープン・イノベーションに関する先行研究を分析する。分析の結果として、「インサイドアウト型」
オープン・イノベーションの促進を阻害している要因が、棚上げされ技術への「NSH シンドローム」
という考えにあることを確認した。もし、企業がこの「NSH シンドローム」という考え方を減少させ
ることができれば、企業は主力事業に全力を入れると同時に、事業化されない技術をオープン化するこ
とによって、企業の収益性と将来性を確保できるものと考えられる。
事例研究と仮説の構築
本研究では、IBM、NEC、SONY の事例を取り上げて、オープン・イノベーションの推進について
分析する。事例分析と先行研究を踏まえ、「インサイドアウト型」オープン・イノベーションの推進要
因に関する仮説を構築する。仮説としては、「企業が社内に事業化されない技術、プロジェクトに関す
る保守的な判断が減少すれば、
「インサイドアウト型」オープン・イノベーションを促進できる」とし
た。
5.
研究結果
構築した仮説に対する実証・分析を行った。方法としては、日本の上場企業に対してアンケート調査
を実施した。収集したデータに対して、共分散構造分析を用いて実証分析を行った。実証結果として、
本研究において構成された仮説モデルと調査データとの乖離は大きくないことが確認され、仮説が実証
された。また、中国に進出する日系企業のオープン・イノベーションの推進状況の調査を行った。
6.
【主要参考文献】
1.
Chesbrough.H(2003),Open Innovation:The New Imperative for Creating And Profiting from
Technology,Harvard Business School Press(大前恵一郎訳 (2004) 『OPEN INNOVATION-ハー
バード流 イノベーション戦略のすべて』産業能率大学出版社).
2.
Chesbrough.H, W.Vanhaverbeke, and J.West ed.(2006),Open innovation:Researching a New
Paradigm,Oxford University Press(長尾高弘訳(2008)『オープン・イノベーション―組織を越えた
ネットワークが成長を加速する』英治出版社).
3.
Chesbrough.H(2009)“Open R&D and open Innovation” R&D
Management,Vol.39,No.4,
pp.311-430.
4.
Chesbrough.H, A.Garman(2010),“How Open Innovation Can Help You Cope in Times”,
Harvard Business Review,Vol.87,No.12,pp68-76(鈴木英介訳(2010)
「社内の知を外部化し、新規
事業を創造する―インサイドアウト型オープン・イノベーション 「インサイドアウト型」オープ
ン・イノベーション」
『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』,Vol.35,No.4 号,pp.22-35).
5.
濱岡豊(2011)
「オープン・イノベーションに関する日韓調査」
『三田商学研究』,Vol.54,No.1,pp.21-49.
6.
絹川真哉(2008)
「オープン・イノベーションと研究成果の無償公開」『研究レポート』,(富士通
総研(FRI)経済研究所)No.312.pp.1-18
7.
米 倉 誠 一 郎 (2012) 「 オ ー プ ン ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 考 え 方 」『 一 橋 ビ ジ ネ ス レ ビ ュ
ー』,Vol.60,No.2,pp.6-15.