そにっとキャンプ~ 瞳きらきら 心わくわく ~ 1.趣旨 プログラム全般に、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)を取り入れ、自然体験活 動や宿泊体験を通して、子どもの社会性や自己肯定感を養う。 保護者には親プログラムを通して、子どもへの適切な支援の在り方についての研修を行う。 【メインキャンプに適用】 2.期日 プレキャンプ 平成21年 6月27日(土)~28日(日) メインキャンプ 平成21年 9月19日(土)~21日(月) 3.対象及び人数 プレキャンプ 発達障害のある小学生 11名 メインキャンプ 発達障害のある小学生 保護者 9名 10名 4.概要 プログラム全般にSSTを取り入れ、活動前に先行条件を提 示し、活動後に自己評価を行うことで、子どもの社会性を養う ようにした。 SSTを機能させるために、トークンエコノミー(token economy)の活用を図った。キャンプの約束という実現可能なル ール、そして視覚的な手順カードによるオリエンテーションな どで、どうやってキャンプを楽しく過ごすことができるのかを 理解し、キャンプの約束・体験活動・ふりかえりという活動プログラムにより達成経験の積み 重ねをめざした。子どもたちは楽しみながらキャンプの約束に対するトークン(ごほうびポイ ント)を獲得していった。 室内では多動性を強く示す子どもたちが多く、比較的落ち着く野外での活動を多くした。ま た、子どもたちに、 「やればできる」という実感を持たせ、共同作業を通して人間関係能力を養 うために、プレキャンプ・メインキャンプを通して、野外炊飯を設定するとともに、子どもた ちに達成感を味あわせ、自信を持たせるために冒険的要素を取り入れたプログラムを実施した。 プレキャンプにおいては、上記の趣旨に加え、子どもたちの行動特性を把握しアセスメント を整え、メインキャンプに備えて子どもたちの特性にそったトークンエコノミーの活用を検討 した。 また、メインキャンプにおける親プログラムでは、互いに協力し合い、楽しみながら子ども たちへの支援の方策を見いだせる内容を展開した。 5.プログラム プレキャンプ 1 日目 午後 開会式(はじまりの式) キャンプの約束(トークンエコノミーについて) 亀仙人の秘密基地を探せ!(そにっとウォークラリー) 夜 よるの散歩(ホタルナイトハイク・そにっとキャンプの歌) ふりかえり 2 日目 午前 今日の約束 野外炊飯(山菜御飯・豚汁) ふりかえり 午後 交流タイム(名刺交換) トークンエコノミーのまとめ 閉会式(むすびの式) メインキャンプ 1 日目 午前 子どもプログラム 親プログラム 開会式(はじまりの式) 開会式(はじまりの式) キャンプの約束 オリエンテーション (トークンエコノミー) 午後 アイスブレイク 情報交換会 野外炊飯(ちゃんこ鍋) アイスブレイキング 親ミーティング(スタンツの計画) 夜 2 日目 午前 午後 夜 3 日目 午前 夕食 夕食(子どもの招待夕食会) 冒険の準備 星座観察・アダルトファイアー ふりかえり 情報交換会 朝のつどい 朝のつどい 沢登り 親ミーティング(スタンツの計画) ↓ そにクルージング ↓ 親ミーティング(スタンツの計画) ↓ ファイアー準備 CPF CPF(スタンツ) ふりかえり ブレイクタイム(情報交換会) 朝のつどい 朝のつどい 清掃・片付け 清掃・片付け クラフト(寄せ書き焼板) 野外炊飯(焼きそば・お好み焼き) 昼食(親の招待昼食会) 昼食 午後 ふりかえり 思い出アルバム発表会 思い出アルバム発表会 調査アンケート記入 調査アンケート記入 キャンプのふりかえり 閉会式(むすびの式) 閉会式(むすびの式) 6.活動の様子 プレキャンプ 1日目 ○亀仙人の秘密基地を探せ! 初めて出会う友だちとうち解けあえるように、プログラム全 般に協力の要素をちりばめるとともに、キャンプへのモチベー ション維持のため、 「亀仙人」を神秘の象徴として登場させるこ とで、子どもたちをキャンプの中に引き込んでいった。 「なかまづくりゲーム」のあと「そにっとウォークラリー(亀 仙人の秘密基地をさがせ!) 」に挑戦した。班のなかまと協力し 息を合わせないと次に進めない通過ポイントを設定した。子どもたちは協力し合うことを楽しみ ながら曽爾高原を縦断して、見事秘密基地を発見し、亀仙人からのプレゼントをもらった。しか し、子どもたちにとって亀仙人のプレゼントもだが、もっと大きな収穫があったことは言うまで もない。 ○よるの散歩 亀仙人の秘密基地にはプレゼントとは別に、夜の招待状も置かれてあった。その招待状の通り、 よるの散歩に出かけた。 暗闇の中、班の友だちがばらばらにならないように工夫した「きんとうんロープ」を握りしめ て、ホタルの乱舞をはじめ、様々な発見を楽しみながら、ランタンの灯を頼りに蛍公園をめざし た。 「きんとうんロープ」を持つことは、亀仙人からの約束だっ た。ロープをもてないリーダーにも子どもから「ここを持って いいよ」とまで声がかかった。 蛍公園では亀仙人からあたたかい歌の歓迎を受けた。子ども たちの前に初めて現れた亀仙人に歓喜の声を上げたことは言う までもない。 ♪そにっとキャンプだよ 楽しいキャンプだよ 良く そにっとキャンプだよ♪ 2日目 ○野外炊飯(山菜御飯・豚汁づくり) みんなで仲 あいにくの雨天で活動場所が変更になったが、子どもたちは山菜御飯づくり・豚汁づくり・カ マド準備にわかれ、作業に入った。子どもたちがそれぞれの役割を話し合いで決めた。自分の希 望がかなわない子どもももちろんいたが、リーダーに支援されながらやりきることができた。も ちろん作り終えたあと、みんなで舌鼓を打ちながら互いの活動を認め合えた。 しかし、子どもたちがなにより瞳を輝かせたのは、作った山菜御飯と豚汁を亀仙人にお礼とし て持って行くときだった。 「亀仙人さん、どうぞ。頑張って作ったからね」 「ありがとう、みんな。おいしく頂くからね」 ○交流タイム(名刺交換) むすびの式の前に、交流タイムとして名刺交換を行った。各々 がプレキャンプでできたことをかみしめながら、キャンプネーム などをしたためてメインキャンプでの再会を誓って交換しあっ た。 予定を大幅にオーバーするほど、子どもたちはこの時間を楽し んだ。用意した名刺が足りなくなるぐらい、次の再会を多くの友 だちと約束しあった。 メインキャンプ 1日目 ○野外炊飯(ちゃんこ鍋づくり) メインキャンプでは、ちゃんこ鍋づくりに挑戦。プレキャンプで の炊飯の経験を活かし、子どもたちは大変意欲的に活動することが できた。まき割りや野菜を切ることなど、慣れた手つきで作業を進 めることができていた。また、お互いの役割を譲り合いながら進め ていたことが子どもたちの成長を感じた瞬間であった。 出来上がったちゃんこ鍋を囲んで、保護者とともに和気藹々とし た雰囲気の中で楽しく食事ができた。子どもたちは、自分たちが作った料理を家族に食べてもら う喜びを感じているようであった。 ○ 冒険の準備 夜には、翌日の沢登りの準備として、ウェットスーツやライフ ジャケット、沢登り靴の着用の仕方を練習した。ウエットスーツ・ ライフジャケット・沢登り靴・ヘルメットというように、ひとつ ひとつ着実に着用の仕方を覚えていった。一通り着用できたら、 リーダーの最終チェック。はにかみながら嬉しそうにチェックを 受けている様子が印象的であった。子どもたちは、翌日の冒険に 向けて、わくわくしながら熱心に取り組んでいた。 ○ 星座観察・アダルトファイアー(親プログラム) 出会った1日目は、互いに人間関係を深めるために、楽しく交 流できる時間を設けた。人間関係づくりのゲームで楽しんだ後は、 星を眺めるたり、大人だけでファイアーを囲み少しリッチな時間 を共有した。初めて出会った保護者同士ではあったが、肩の力を 抜きホッとできる一時を楽しんだ。 ○ 親ミーティング(親プログラム) なかまづくりゲームですっかり保護者間の絆を深めた後、子ども たちのプログラムに能動的に関わっていく手だてとして、キャンプ ファイアーのスタンツ計画を練った。まず何を子どもたちに披露す るのかを、なかまづくりゲームの中で作った2つのグループに分か れて検討した。もちろん、初めての企画にとまどいはあったが、自 分たちの経験をもとにしながらテーマを決定した。 もっとも大切にしたのは、子どもたちに注意することなくどのようにスタンツを披露し、楽し ませるかであった。「子どもたちはこうなるかも?」「じゃあ、こうしよう!」というように、 子どもたちの行動特性を共通理解し、スタンツの展開を検討した。2日目のキャンプファイアー の後、一人のお父さんは「自分の子どもに言うことを聞かせるのに、怒鳴る必要なんかなかった んや」と、語った。子どもへの支援のあり方に一歩近づいた一瞬だった。 2日目 ○ 沢登り 子どもたちが待ちに待った沢登り。曽爾川上流の桃俣の渓谷をウ ェットスーツやライフジャケット、ヘルメットなどを着用して登っ て行った。天候にも恵まれ、すがすがしい気候の中、子どもたちは お互いに助け合いながら上流をめざした。途中、深みのある所では、 水遊びをしたり飛び込んだりしながら、体いっぱいに渓流の水を感 じ、沢登りを楽しむことができた。ゴール付近では、保護者が見学 に駆けつけ、子どもたちにとっては大いに励みになった。ゴールした時の子どもたちの表情は満 面の笑顔だった。それは、みんなで協力して冒険を成し遂げた達成感の現れであることを感じた。 ○ そにクルージング(親プログラム) 親ミーティングを行いつつ、子どもたちの沢への冒険に、ゴールでの サプライズにメッセージボールを持ってのぞきに行った。保護者達は、 子どもの生き生きとした横顔に目を輝かせていた。 また、曽爾三山の中でも風光明媚な屏風岩や清らかなせせらぎの済浄 の滝にも足をのばした。保護者にとって、すばらしい時間を過ごすこと ができた。 ○ CPF 夜は、みんなが楽しみにしていたキャンプファイアー。保護 者から2日間練習を重ねてきたスタンツが披露された。 お父さんお母さんの熱心な姿を子どもたちは、目を輝かせなが ら見ていたのが印象的であった。キャンプファイアーが盛り上 がってきた頃にプレキャンプに引き続き、亀仙人が登場。保護 者、子ども達とともに「そにっとキャンプの歌」を大合唱したことで、キャンプファイヤーも最 高潮に達した。一つの火を囲んでともに過ごしたことで、今まで以上にみんなの気持ちが一つに なった夜であった。 3日目 ○ クラフト(寄せ書き焼板) 最終日は、思い出のおみやげ、焼板を作製した。なたを使って まきを割ることや火を熾すことは、もうお手のもの。今までの野 外炊飯の経験を活かしてお互い協力しながら進めることができた。 焼板には、初日にみんなで相談して決めた班の大切なシンボル マークを描いた。思い出がいっぱい詰まったシンボルマークの周 りに、メッセージを書き合った。「ありがとう」「楽しかったよ」 など、心温まるメッセージが焼板いっぱいに広がっていた。仲間が書いてくれたメッセージを嬉 しそうに見つめる子どもたち。この3日間の思い出がたくさん詰まった、かけがえのない宝物に なった。 ○野外炊飯(親プログラム) 1日目の子どもたちのちゃんこ鍋のお返しに、お好み焼きと 焼そばを振る舞うことになった。事前にスタッフで決めておい た役割をどがえしし、2日間のプログラムで醸成した人間関係 の集大成のように自分たちのプログラムとして炊飯に取り組ん でいた。まるで、息のあったチームのようだった。 食事の後、子どもたちと片付けをすませて保護者だけでふり かえりをし、語り合った。涙を流しながら思いを語るお母さんや、子どもの成長に感動するお父 さん、ここで出会えたことの喜びや3日間の思いを共有した。 ○思い出アルバム発表会 子どもたちは、3日間の活動の中で一番お気に入りの写真を選 んだ。その写真をバックにして、一人ひとりが楽しかった感想や 思いを語ることができた。最初に保護者側から発表するようにし たので、子どもたちの緊張もほぐれ、温かい雰囲気の中で発表会 を開催することができた。子どもたちの表情には、友だちと共に過ごした日々の充実感が表れて いた。 7.アンケート自由回答より(抜粋) ○プレキャンプ ・参加して友達がふえた。 ・ご飯が楽しかった。 ・山菜御飯がうまくつくれた。 ・参加していろんな事がしれておもしろかった。 ・友達とのコミュニケーションのやり方を知った。 ・楽しかった。 ・ご飯を作るのにめちゃくちゃ頑張った。楽しかった。 ○メインキャンプ 子ども ・いろいろなことをして楽しかった。 ・リーダーさんが優しくてともだちがつくりやすかった。 ・沢登りが楽しかった。 保護者 ・他にはできない経験ができた。 ・内容も参加費用もとてもよかった。 ・考えられた意義のあるプログラムだった。 ・参加人数が限られているので、もう少し人数を多くしていただければありがたい。 ・このようなチャンスに恵まれたことが、とてもラッキーでした。デイキャンプやクラフト作りのみなど、 時間が短くてとても良かったので、また参加したい。中学生・高校生のキャンプがあれば、ぜひ参 加したい。 ・助言のやり方は、とても勉強になった。 ・親と子、両方が成長できるキャンプでした。また是非参加したい。 ・子どもたちの成長を目で見ることができて有り難かった。 ・ハードスケジュールで大変疲れましたが、とても満足した。 ・3 日間、本当にありがとうございました。最高の思い出をいただきました。 ・親へのプログラムや子どもへの対応、今までどこにもない楽しい事業でした。ありがとうございまし た。 8.成果 ○プレキャンプ ・子どもたちに身につけさせたい対人行動に対し、トークン(シール)を与えることで、その行 動の強化・増大を図るトークンエコノミーは有効である。トークンエコノミーは、 「しっかりとお 話をきこう!」 、 「お友だちとなかよくしよう!」、 「自分の事は、自分でしよう!」というキャン プ全体としての約束と、主になる活動毎の約束とに分かれている。しおりに書かれた日程表とは 異なり、トークンエコノミーには、 「次に何をしたらよいのか」、「どんなふうにしたらよいのか」 が示唆されている。また、手順カードを活用し、キャンプの約束をあらかじめ行うことは、キャ ンプでの活動に「見通し」と「目標」をもたせ、意欲的な態度の向上につながり、キャンプを楽 しむためのお得な情報として最良の道先案内書になりえた。 ・「亀仙人」を軸としてプログラムを構成したことで、子どもたちのモチベーションを維持する 事ができた。プログラム前に「亀仙人からの招待状」等、次のプログラムへの動議付けを行うこ とができた。 ・野外炊飯において役割を設定し、子どもたちがその役割を分担して取り組むことで、 「こんな事 ができるようになった」 「やればできるんや」など、自らに自信を持つ機会を作ることができた。 ・ 「そにっとキャンプ調査書」や「社会性チェック」に記されたアセスメントをリーダーやスタッ フが共有することにより、子どもたちに対してよりよい対応の準備を整えた。 ・プログラムの流れを共通認識するとともに、キャンプにおける組織図を作成し、スタッフや リーダーの役割を明確化させた事で、スムーズなキャンプの展開が実現できた。 ・プログラム全般に曽爾高原周辺の自然環境を生かすことができた。 ・野外炊飯やそにっとウォークラリーを通して、子ども同士の関わり、コミュニケーション の機会を多くとることができた。プログラムの中でそれぞれの個性が現れ、自分たちの考え 工夫を表現することや、考えの違いを話し合う機会となるなど、社会性を養うことができた 。 ○メインキャンプ ・プレキャンプでの子どものアセスメントをリーダーとともに共有し、メインキャンプに向 け、より子どもの特性に配慮したキャンプの約束づくりを行った。キャンプの約束づくりに 講師とともに職員とリーダーが関わったことで、作成するノウハウを学ぶことができた。 ・沢登りでは、自然を体験するとともに、困難を克服することで、子どもたちは自信をもち 、自己肯定感を高めることができた。また、班のなかまを待つことやお互いに協力するとい う経験を通して相手を思いやる気持ちを養うことができた。 ・子どもたちに視覚的な活動支援としての手順カードを作成することができた。 ・親プログラムの中で子どもたちへのスタンツ練習を通して、子どもたちに起こりうる様々 な状況を考察し子どもたちが楽しめるスタンツを完成させることで、子どもへの適切な支援 の在り方についての新たな自信につなげることができた。 ・親プログラムを通して、保護者間の信頼関係を構築することができた。この関係は3日間のキ ャンプだけでなく、参加された保護者にとってネットワークという今後の大きな財産となった。 9.今後の課題 ○プレキャンプ ・トークンエコノミーの項目について、プログラム内容の確認も含めてスタッフによる綿密な 打合せが必要である。トークンが魅力あるものになるかどうかは、子どもの特性にそったひと つひとつのキャンプの約束によるものが大きい。プレキャンプの様子をもとにして、メインキ ャンプに向けた個に応じた約束づくりも大きな価値を持つ。 ・キャンプ全般を通して「亀仙人」の存在や、トークンとともに子どもたちのモチベーション を高く維持することができた。キャンプのデザインについて個々のプログラムを通じた共通の テーマを持たせることで、流れのあるキャンプを展開すること重要である。 ○メインキャンプ ・時間的に余裕を持ったプログラムを行ったことで、時間に焦ることがなくひとつひとつの活 動を成し遂げることができ、達成感を味わうとともに、自己肯定感を高めることができた。今 後も、たくさんのプログラムを欲張るのではなく、時間に余裕を持ったプログラムが有効であ ると考える。 ・沢登り用のウェットスーツを着用したことは、子どもたちの安全確保や健康管理という点か ら大変役立った。今後、子どもたちの体に合わせて、様々なサイズを準備することで充実した プログラムを実施することができると考える。 ・教員の参加について、関係機関・団体への呼びかけを行ったが、本事業において参加を得る ことができなかった。そにっとキャンプの学校現場への認知とともに、教員の参加については 事業の実施時期を含め検討を要する。
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