子宮動脈塞栓術 - 日本IVR学会

2005 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」:岩元香保里, 他
連載 1
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2005 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
子宮動脈塞栓術
杏林大学医学部 放射線医学教室
岩元香保里, 似鳥俊明
はじめに
子宮筋腫
(以下筋腫)に対する Uterine Artery Embolization(以下 UAE)では通常両側子宮動脈を塞栓するこ
とで手技は終了する。しかしながら, 症例の蓄積にした
がい, 手技に難渋したり, 単純な UAE では終了しない
症例に遭遇する。その背景には, 子宮動脈を含めて骨盤
部に分布する動脈, すなわち臓器枝や体壁枝の多くが内
腸骨動脈の比較的近位から分岐しその走行が類似して
いること, その分岐変異が多く存在する領域であること
が挙げられる。加えて骨盤臓器は必ず左右両側からの
栄養を受けており, 複雑な吻合が存在していることも,
時に手技を難しくする要因の一つと考えられる。そこ
で, 本稿では UAE における Ⅰ. 子宮動脈同定困難例/1.
子宮動脈分離不能例, 2. 子宮動脈同定不能例(無形成・
低形成・その他), Ⅱ. 卵巣アーケード(子宮動脈−卵巣
動脈吻合)描出例, Ⅲ. 子宮動脈以外の栄養枝の存在例
の 3 項目を難渋, 非定型的 UAE として取り上げ, 著者ら
の経験と多少の文献的考察を加えて解説する。
Ⅰ. 子宮動脈同定困難例
1. 子宮動脈分離不能例
子宮動脈の分離不能は正面の骨盤動脈造影や内腸骨
動脈造影において, 子宮動脈の同定を試みる場合に最も
多く経験するものである(図 1)。分離が困難な理由は
子宮動脈が膀胱動脈, 閉鎖動脈, 内陰部動脈など他の動
脈枝と起始部が隣接したり共通幹として同時分岐し, か
つ正面像では類似した走行を示すためである。これを
解消する方法として, 正面から斜位にする手段がある。
この領域では UAE 以外の目的では以前より行われてい
た方法であり, 特に新しいものではない。斜位の利点
は, 動脈が索走している骨盤部にあって, 子宮動脈起始
部を明瞭に描出することができることに加え, 一度下行
した後再び上行する拡張した子宮動脈の全容を確認す
ることも可能にする点である(図 2)。子宮動脈を分離
する至適角度や方向については必ずしも一定したもの
はないが, 右内腸骨動脈造影では左前斜位像, 左内腸骨
動脈造影では右前斜位像でおよそ 25 ∼ 40 °
の角度をつ
けると子宮動脈の起始部が分離しやすくなる。現在, わ
れわれの施設では正面撮影は省き, 最初から斜位内腸骨
動脈造影を行っている。なお, 360 °回転 DSA 装置では
1 回の撮影で筋腫の評価と左右の子宮動脈を他の動脈枝
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と分離する至適角度を評価できるため, その有用性は高
いといえる。
2. 子宮動脈同定不能例(低形成・無形成・その他)
通常, 筋腫を有する子宮動脈は少なからず拡張してお
り, 全く同定できないことはほとんどない。しかしなが
ら, ごくまれに子宮動脈を同定できない症例に遭遇す
る。実際の症例を提示して解説する。症例は 30 代前半,
未産婦。左内腸骨動脈造影では拡張した左子宮動脈及
び筋腫の濃染が認められており, 通常通りの塞栓術を施
行している。続いて行った右内腸骨動脈造影では, 左側
のような拡張・蛇行した子宮動脈は同定できない(図
3a)。よく見ると一見子宮動脈にも見える動脈が認めら
れるが(図 3b), 非常に細くかつその起始部は判然とし
ない。また子宮動脈以外の動脈枝の可能性もあるため,
右側は塞栓を施行せず, 左側の塞栓術のみで終了してい
る。これについては半年後に施行された MRI で筋腫の
縮小が得られており, 推測の域を出ないが左子宮動脈の
みが筋腫の栄養に関与し, 右はもともと子宮動脈が存在
しない無形成であった可能性が考えられる。しかしな
がら, このような症例でも経過観察の中で塞栓された筋
腫の再増大を認めた場合, その原因の一つに右子宮動脈
の発達を念頭におく必要があると考えられる。
(子宮動脈−卵巣動脈吻合枝)
Ⅱ. 卵巣アーケード
描出例
実際の手技過程のなかで, 卵巣アーケードから卵巣が
描出される症例は少なからず存在し, 時に手技の中断を
余儀なくされる。ここでは卵巣アーケード, 卵巣さらに
卵巣動脈の描出を, 1. 塞栓前の子宮動脈造影時に認めら
れるもの, 2. 塞栓時に認められるものにそれぞれ分けて
解説する。
1. 塞栓前子宮動脈造影時の描出例
まず症例を提示する。40 代前半, 経産婦。左内腸骨
動脈造影では発達した子宮動脈のみが描出され, 卵巣ア
ーケードや卵巣の明らかな描出はなかった(図 4)。と
ころが, 左子宮動脈造影を行うと, 子宮動脈上行枝の途
中より卵巣アーケードから卵巣の描出が認められてい
る(図 5)。この症例では, 手技的に卵巣への塞栓物質
の流入を回避した塞栓術は不可能であった。従って, 万
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図 1 内腸骨動脈造影 正面像
子宮動脈起始部は他の内腸骨動脈枝の起始部と重な
り分離困難である。
図 2 内腸骨動脈造影 斜位像(RAO 45 °
)
子宮動脈起始部の同定が可能となり(矢印), 子宮動
脈の全容も確認できる。
図 3a 内腸骨動脈造影
図 3b 内腸骨動脈造影(拡大)
子宮筋腫を栄養するような拡張・蛇行した子宮動脈
一見子宮動脈にも見える動脈が認められるが(矢
は同定できない。
印), 細くかつ起始部は判然としない。
が一生じうる卵巣機能不全の可能性を患者に話し, その
後の手技について了解を得たうえで, 3a 程度のやや大
きめの GS 細片を用いて弱めの塞栓術を行った。その後
の経過で卵巣機能不全の発症は認めていない。
次の症例を提示する。30 代後半, 未産婦。挙児希望。
右子宮動脈造影にて卵巣アーケードから卵巣の描出を
認めた。この症例では, 比較的容易にマイクロカテーテ
ルが卵巣アーケードより末梢まで進んだため, 逆流に注
意しながらゆっくりと GS 細片を注入した(図 6)。その
後の経過で卵巣機能不全の発症は認めていない。この
ように, 卵巣への塞栓物質の流入を回避できれば, 効果
的な塞栓効果が期待できる。
2. 子宮動脈塞栓時の描出例
まず症例を提示する。症例は 40 代前半, 経産婦。塞
栓前の内腸骨動脈造影, 子宮動脈造影時には明らかな卵
巣アーケードから卵巣の描出は認めていない(図 7)。
そのため通常通り塞栓を開始したが, その途中経過のな
かで上行する左卵巣動脈が描出されはじめた(図 8)。
そこで直ちに塞栓を中断し, 筋腫の塞栓の程度を把握す
るための確認造影を行った。筋腫は良好に塞栓されて
いたため, その時点で手技を終了した。その後の経過で
卵巣機能不全の発症は認めていない。この症例の場合
の血行動態は, 当初卵巣はある程度順行性の卵巣動脈血
流に支配されていたが, 筋腫が塞栓されたために, 用手
的圧入下では行き場の失った血流が順行性の卵巣動脈
血流を逆行性に変化させつつ描出されてきたものと考
える。この所見からも子宮動脈と卵巣動脈との間に吻
合するアーケードが存在していることは確実であり, 卵
巣動脈も時に筋腫の栄養動脈となりうると推測される。
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図 4 内腸骨動脈造影
発達した子宮動脈のみが描出され, 卵巣アーケード
や卵巣の明らかな描出はない。
図 5 子宮動脈造影
子宮動脈上行枝の途中より卵巣アーケード, 卵巣の
描出が認められる。
図 6 子宮動脈造影
マイクロカテーテルの先端(矢頭)は卵巣アーケード
(矢印)より末梢まで進んでいる。
図 7 子宮動脈造影
図 8 子宮動脈造影(塞栓時)
筋腫のみの描出であり, 卵巣アーケードや卵巣は描
子宮動脈途中より卵巣動脈の描出が認められる。
出されていない。
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表 1 子宮動脈−卵巣動脈吻合の分類
Type 1 :卵巣動脈は子宮壁内にて子宮動脈と吻合し、筋腫を栄養する。
Subtype 1a : 子宮動脈撮影にて卵巣動脈への逆流が見られない。
Subtype 1b : 子宮動脈撮影にて卵巣動脈への逆流が見られる。
Type 2 : 卵巣動脈は子宮動脈と吻合することなく直接子宮筋腫を栄養している。
Type 3 : 卵巣動脈への血流が筋腫を栄養している子宮動脈の一部からも直接みられている。
以上より, 子宮動脈塞栓前あるいは塞栓時に卵巣アー
ケードから卵巣の描出を認めた場合のその後の治療方
針として, 以下の選択肢があるといえよう。①卵巣アー
ケードを回避した部位にマイクロカテーテルを挿入し
塞栓を行う。②卵巣アーケードへマイクロカテーテルを
選択挿入し, コイル塞栓術を行ったうえで通常の UAE
を行う。③上記①, ②が困難である場合, 患者の同意を
得たうえで, 3 a 角細片など大きめの GS で弱めの塞栓
を行う。④その時点で卵巣アーケードを認めた側の塞
栓は断念し, 片側の UAE とする。どの手法を選択する
かは, マイクロカテーテルがどこまでの挿入可能である
かによる。
なお, 卵巣アーケードを含めた子宮動脈−卵巣動脈間
の血流分布形式のパターン分類はすでに報告されてお
1)
り , その概略を表 1 に示す。Type 1b, Type 3 では
UAE において卵巣アーケードから卵巣への塞栓物質の
流入を回避する必要があるため, ①や②の手法による
UAE が望まれる。
Ⅲ. 子宮動脈以外の栄養枝存在例
大部分の筋腫は子宮動脈からの栄養であるため, 通常
は UAE を行った段階で IVR による治療は終了する。筋
腫の血流は変性の程度や局在により多少なりとも異な
り, 子宮動脈造影における個々の筋腫の濃染の程度も決
して一律とは言えない。しかしながら, 子宮動脈造影の
際に, 既知の筋腫に相当する濃染像の一部が明らかに確
認できない場合には, 乏血性の筋腫の可能性以外に子宮
動脈以外の動脈から栄養を受けている可能性を考えて
おく必要がある。実際には卵巣動脈が関与する例が多
く見受けられるが 2, 3), それ以外にも内腸骨動脈の分枝
である膀胱動脈や内陰部動脈, さらに外腸骨動脈の分枝
である下腹壁動脈が筋腫の栄養に関与し, 塞栓術を行っ
4)
たとする報告もある 。これら以外にも腰動脈, 閉鎖動
脈, 下臀動脈などが関与しうるとする報告がみられ注意
を要する。このように子宮動脈以外の寄生動脈が関与
する頻度は決して高くはないが, その存在を知っておく
必要がある。従って, UAE 前の画像所見と血管造影所
見に明らかな解離を認める場合には, UAE の最後に骨
盤動脈造影を行い, 残存筋腫濃染の有無を確認すること
が必要であろう。また, 経過の中で超音波や造影 MRI
検査で血流を有する筋腫や再増大する筋腫を認めた場
合にも本病態を考慮して, 必要に応じて再度の筋腫に対
する塞栓術を施行する必要があると考えられる。
以上, 自験例を中心に UAE における難渋, 非定型
UAE 症例について, その概要を解説した。
【文献】
1)Mahmood K Razavi, Kristen A Wolanske, Gloria L
Hwang, et al : Angiographic Classification of Ovarian
Artery-to-Uterine Artery Anastomoses. Initial Observations in Uterine Fibroid Embolization. Radiology
224 : 707 - 712, 2002.
2)Robert T Andrews, Reter J Bromley, Michael E Pfister : Successful Embolization of Collaterals from the
Ovarian Artery during Uterine Artery Embolization
for Fibroids : A Case Report. J Vasc Interv Radiol 11 :
607 - 610, 2000.
3)Pelage JP, Le Dref O, Soyer P, et al : Arterial anatomy of the female genital tract : variations and relevance to transcatheter embolization of the uterus.
AJR Am J Roentgenol 172 : 989 - 994, 1999.
4)Hajime Kato, Masatoki Ozaki : One case of Uterine
Fibroids Supplied from the Inferior Epigastric Artery
Collateral during Uterine Artery Embolization. Jpn J
Intervent Radiol 18 : 171 - 174, 2003.
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