物理学I 運動の法則 運動の法則以前の自然観 アリストテレスの『自然学』 「物体が運動しているなら,そこには力が働いている」 直感的には正しそうな気がするが,これは間違い アリストテレス (BC384-BC322) wikipediaより 反論その1 手でボールに力を加えると,確かにボールは動きはじめるが,ボールを 投げてしまったあとは,ボールは手から離れているのに,飛び続ける。 このように,力を加えなくても運動を続ける場合は多々ある。 反論その2 重力は地上に暮らす我々にとって身近な力であるが,重力に引かれて斜 面を転がるビー玉に注目すると,力を加え続けることによって加速して いる(一定の力で一定の運動が維持されているわけではない) 色々考えてみると,アリストテレス式の運動のとらえ方には矛盾がある 運動の法則 第1法則(慣性の法則) ニュートン (1642-1727) wikipediaより 力が作用しない場合,物体は静止あるいは等速直線運動を続けよう とする。 第2法則(運動方程式) 物体に作用する力は,物体の質量と力によって生じる加速度の積に等 しい。 第3法則(作用反作用の法則) 力は相互作用である。 運動を扱う際の基本法則。 運動に関わるほぼ全ての法則は,この3つの法則から導き出される。 慣性の法則 ガリレイ 自然の本質は,それまで続けてきた運動状態の維持にある! (1564-1642) wikipediaより 静止状態にあるものは,「力」を加えない限り,静止を続ける ある速度で動いていたものは,「力」を加えない限り,その速度 を維持しようとする(止めるためには力を加えなければならない) 慣性の法則を実感できる例 動いている電車の中でものを落とすと… 自分の足元に落ちる これは,電車と同じスピードで動いていた「もの」 が,その動きを維持しようとするため 同様に, 電車が急に動き出したときつんのめりそうになるのも,慣性の法則による 慣性の法則 この法則は,「力」を考えるための舞台を用意してくれる。 力が働かない場合には何が起きるかを宣言した法則 慣性の法則が成立しているような座標系を慣性系という。 以下の議論は,全てある(近似的な)慣性系を舞台とした話である。 我々の周りに真の慣性系はない。 運動方程式 物体に作用する力は,物体の質量と力によって生じる加速度の積に等しい。 この法則によって,「力」という物理量が定義される。 第2法則の内容を式で表すと, F = ma あるいは d2 r(t) F =m dt2 運動方程式 なぜ「方程式」とい う名前なのかは後述 力の単位: 力の単位=質量の単位[kg] 加速度の単位[m/s2] 2 kg·m/sこれにはN(ニュートン)という別名がついている 1 kg·m/s2 = 1N 1kgの物体に1m/s2の加速度を生じさせる力の大きさが1N 1次元の例 1次元の運動を考える。 x軸上を動く,質量mの物体の運動を調べたところ,時刻tにおけるこの 物体の位置が,次のようになった(ただし,bは定数)。 bt3 x(t) = 6 この物体に作用している力を求めよ。 1次元の例 1次元の運動を考える。 x軸上を動く,質量mの物体の運動を調べたところ,時刻tにおけるこの 物体の位置が,次のようになった(ただし,bは定数)。 bt3 x(t) = 6 この物体に作用している力を求めよ。 まずは,物体の加速度を求める。 x(t)をtで微分すると速度が,速度をさらにtで微分すると加速度が求まる。 dx(t) bt2 v(t) = = dt 2 dv(t) a(t) = = bt dt ゆえに,この運動をひきおこしている力は, F = ma = mbt となる。 1次元の例 1次元の運動を考える。 x軸上を動く,質量mの物体の運動を調べたところ,時刻tにおけるこの 物体の位置が,次のようになった(ただし,bは定数)。 bt3 x(t) = 6 この物体に作用している力を求めよ。 まずは,物体の加速度を求める。 x(t)をtで微分すると速度が,速度をさらにtで微分すると加速度が求まる。 dx(t) bt2 v(t) = = dt 2 dv(t) a(t) = = bt dt ゆえに,この運動をひきおこしている力は, F = ma = mbt となる。 1次元の例 1次元の運動を考える。 x軸上を動く,質量mの物体の運動を調べたところ,時刻tにおけるこの 物体の位置が,次のようになった(ただし,bは定数)。 bt3 x(t) = 6 この物体に作用している力を求めよ。 まずは,物体の加速度を求める。 x(t)をtで微分すると速度が,速度をさらにtで微分すると加速度が求まる。 dx(t) bt2 v(t) = = dt 2 dv(t) a(t) = = bt dt ゆえに,この運動をひきおこしている力は, F = ma = mbt となる。 1次元の例 1次元の運動を考える。 x軸上を動く,質量mの物体の運動を調べたところ,時刻tにおけるこの 物体の位置が,次のようになった(ただし,bは定数)。 bt3 x(t) = 6 この物体に作用している力を求めよ。 まずは,物体の加速度を求める。 x(t)をtで微分すると速度が,速度をさらにtで微分すると加速度が求まる。 dx(t) bt2 v(t) = = dt 2 dv(t) a(t) = = bt dt ゆえに,この運動をひきおこしている力は, F = ma = mbt となる。 力の性質 静止あるいは等速直線運動でない場合には,何らかの力が必ず作用 している。 定義から分かるように,力は「ベクトル量」である。 大きさと方向が重要 力をあつかう際には,大きさと方向以外にも重要な要素がある 大きさ 方向 力の3要素 作用点(作用線) 何が何におよぼす力か 作用点 作用線 (作用点を通って力の 方向に平行な直線) 力のベクトルの描き方 ここに力が作用している こんな風に描いてはいけない 力の平行移動 力を作用線に沿って平行移動させても,その影響は変わらない 軽い棒を介して押す 直接手で押す 軽い糸を引っぱる 物体に与える影響はどの場合でも同じになる このように勝手に平行移動させると,影響が変 わってくる(同じ力とはみなせなくなる) 力の合成 ステヴィン (1548-1620) wikipediaより 2つの力の作用線が一点で交わる場合,これらの2力を足しあわせることが できる 作用点 F2 F1 F2 F1 F2 F1 F 交点の位置に始点をそろえる ベクトルとして足し算 F = F1 + F2 2つの力が同時に働いた場合と同等な働きをする1つの力が求まる 力の分解 合成と逆に,1つの力を複数の力に分けること 合成の場合と異なり,分け方のパターンは無数にある 問題が考えやすくなるように分解することが必要 F1 F2 F 力の分解 合成と逆に,1つの力を複数の力に分けること 合成の場合と異なり,分け方のパターンは無数にある 問題が考えやすくなるように分解することが必要 F2 F F1 力の分解 合成と逆に,1つの力を複数の力に分けること 合成の場合と異なり,分け方のパターンは無数にある 問題が考えやすくなるように分解することが必要 F2 よく出てくる例: F F1 重力 斜面に垂直な成分と 斜面に平行な成分 に分解 質量の役割 d2 r(t) 運動方程式 F = m dt2 加速度 d2 r(t) F = 2 dt m 分母に質量 質量が大きければ,生じる加速度の大きさが小さくなる 質量が大きいものほど,もともとの運動を維持しようとする性質(慣性) が強い 運動方程式に現れる質量は,正式には慣性質量という 一方,重さ(重力の強さ)の指標としての質量は重力質量という 実験で慣性質量と重力質量は109の精度で一致することが確かめられている (一致しなければならないという必然性はない) 以下では両者を単に「質量」とよぶことにする 一般相対性理論は慣性質量と重力質量が等価であることを原理として理論が組み立てられている 運動量と力積 d2 r(t) dv(t) d(mv(t)) F =m F =m = dt2 dt dt mv(t)は F の原始関数になっている t1 F dt = mv(t1 ) mv(t0 ) t0 質量と速度の積 p = mv を運動量という。 運動量の変化 力積 運動量の変化は力積に等しい 本質的には,力積とは力とその作用している時間の積 t=t1 t1 F dt = lim t0 例えば,金 1次元の場合 F t 0 F (t) t t=t0 で釘を打つような状況を考える。 この場合には,非常に強い力が短時間で作用す るが,そのような力(撃力)をあつかう際に,力 積を考えるのが便利である。 F t0 t1 t この面積分だけ 運動量が変化 t 作用・反作用の法則 2つの物体A,Bがあり,AからBに力が作用している場合には BからAにも力が作用している。これらの力は同一作用線上 にあり,互いに大きさが等しく,向きが逆である。 A B FBA FAB FBA = FAB 注意:作用を原因として反作用が生じるわけではなく,作用と反作 用(どちらを作用と呼ぶかは人間の勝手)は同時に発生している。 「物体AからBに作用という力がはたらくと,それが原因となって物体 BからAに反作用が返ってくる」とか「物体Aが原因となって物体Bに 力が働くとき,物体Bに働く力が作用で,Aに返ってくる力が反作用で ある」とかいうのは間違い。 相互作用 力は相互作用としてはたらく。 どこからともなく単独で作用してくるような力は存在しない。 相手がものすごく遠くにいる場合や,相手の質量が巨大な場合には, 相互作用に見えないことはある。 FBA = A FBA B m FAB M FBA aA = M Mが大きいと,力の影 響がほとんど見えない FAB FAB aB = m FBA A B FAB ここしか見ない場合 も相互作用には見え ない
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