企業金融のイノベーション 2015 4/24 13ba447j 長田将輝

企業金融のイノベーション
2015
4/24
13ba447j
長田将輝
この章の概要
1 節では企業金融の本質や資本構成の重要性について述べて
2 節・3 節では企業金融が劇的な米国経済の発展にどのように貢献してきたのかに言及している
企業金融とは
企業金融とは企業の経営活動において必要な資本を調達することである。企業が成長していくためには、
様々なタイプの短期・長期の負債と株式の組み合わせ、いわゆる資本構成が非常に重要な役目となる。通
常、事業投資をする際はほとんど内部キャッシュフローでまかなわれているが将来の業績の拡大や大きな
成長を見込む場合には、内部キャッシュフローだけでは必要な資本をすべてまかなうことができない。そ
のためには株式や社債など外部資金を調達する能力が企業の成長に欠かせないものとなっている。
<資本とは?>
資産
借入金や社債
負債(他人資本)
<レバレッジ(負債)比率>
レバレッジ(負債)比率とは企業の自己資本に対
する他人資本の割合のこと。返済義務のある他人
資本が返済義務のない自己資本にどれだけカバ
純資産(自己資本)
ーされているのかを示している。
株式など
計算式
レバレッジ(負債)比率=他人資本÷自己資本
資本構成におけるレバレッジ比率は産業によって大きく異なり、石油、電力、化学などは外部資金調達に大
きく依存しているのでレバレッジ(負債)比率が高い。一方医療業界は負債を超える当座資金がありレバレ
ッジ(負債)比率は低くなっている。このように産業によってレバレッジ(負債)比率は大きく異なってい
るため、産業ごとに最適かつ柔軟なレバレッジ(負債)比率をとることが重要である。
<経済危機とイノベーション>
1970 年代のアメリカでは、ニクソンショックや石油危機などが起き、深刻なインフレ状態となり株式市場
や社債市場への入り口が閉ざされ、資本を調達することが困難な状況にあった。そのような背景の中、金利
デリバティブが編み出され、現在金利デリバティブ市場は世界で一番大きな市場となり 60 兆ドルを超える
言われている。1970 年代には高利回り社債も資金調達として使われるようになった。このように経済危機
の時にこそ、企業金融のイノベーションが生み出された。
米国企業金融の誕生と急速なイノベーションの幕開け
<宝くじ>
米国の揺籃期は宝くじで資金調達をすることが多く見られた。ある研究によると 1744 年から 1774 年の間
<独立時の財政難>
に宝くじを 158 回発行されたとの記録がある。独立戦争や大学の建設も宝くじからの支援を受けた。
独立戦争後、新しくできた国家は独立時のアメリカ連合政府から引き
継いだ 5400 万ドルの借金に苦しんでいた!
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旧債務の借り換え
州政府の肩代わり
価格が下落していた古い債券に代わる新しい債券を発行。
連邦政府は各州を連邦にとどめておく
新たに発行された債権の 3 分の 2 は 1791 年から 6%の金利を
ために州政府の負債の返済を国が肩代
支払う。
わりするという勧告をした。
残りの 3 分の 1 は 1800 年以後利息を支払う割引債にした。
<合衆国銀行の創設>
独立戦争後、主要都市に相次いで銀行が設立されたが、いずれも州を活動領域とする銀行であった。その
ため中央銀行の設立が必要になった。また財政的見地からも中央銀行の設立が必要とされ、第一合衆国銀
行が誕生し、1791 年から 1811 年まで存続した。その後、第一合衆国銀行に次いで第二合衆国銀行が設立
された。第二合衆国の営業期間満期を迎えようとした頃、第二合衆国の再設立許可の議論が起きたが、再
設立は許可されなかった。そのため 19 世紀の米国では中央銀行が存在せず、銀行制度は細分化されてい
た。銀行制度が細分化され有力な金融機関が欠如したため金融市場の役割が強化された!
企業金融のイノベーションが多く生まれた!
<鉄道勃興期の急速なイノベーション>
米国では南北戦争が終わると、北米大陸の縦横に伸びる鉄道建設という事業が表れる。鉄道事業はとて
も大きな事業のため、大量の資本が必要となった。そのため、この時期は企業金融のイノベーションが
急速に発展することとなった。
1843 年~50 年に優先株は鉄道会社の資本調達に頻繁に利用されるようになった。インカム社債も
19 世紀末鉄道会社に利用されるようになる。また転換社債もこの鉄道勃興期に考案され、1914 年~
29 年に発行された債券の 13%を占めるようになった。このように鉄道勃興期には大量の資本が必要
となったために数々の企業金融イノベーションが生み出されることとなったのである。
参考文献
・小阿瀬達彦(2015)「シリコンバレー流、日本上陸議決権種類株式を用いた IPO」大和総研
・大崎貞和(2014)「議決権種類株式の存在意義」野村総合研究所
・菊川真(2015)「2014 年 IPO 市場の動向」プライムジャパン株式会社
・吉井一浩(2014)「議決権種類株式上場の活用について」野村総合研究所
・新日本有限責任監査法人(2015)「IFRS を巡る世界と日本の動向」
論点
新規公開株(IPO)について
新規公開株(IPO)とは、未上場企業が新たに株式を証券取引所に上場し投資家に株式を取得させることを
いう。企業は IPO を実施することで市場から多額の資金を調達することができるようになったり、知名度や
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図表1 国内の新規上場企業数の推移
図表2 日経平均株価の推移
図表3
市場別新規上場会社数
アベノミクスによる円安や株高などを背
景として新規上場会社数は 5 年連続で
増加し、2014 年は前年比約 43%増の
77 社となった。2015 年には IPO 件数
が 100 社にのぼると予測される。
<IPO によるメリット・デメリット>
メリット
デメリット
・資金調達機会(規模・手段)の拡充
・企業経営に影響がでる
・知名度・信用度の上昇
・敵対的 M&A に晒されるリスク
・創業者利潤の獲得
・情報開示によるコスト増大
・インセンティブ・プランを通じた人材活用の仕組み拡充
図表4
IPO の目的のアンケート
IPO の意向があると答えた
企業約 400 社のうち、IPO
の目的で重要視している
点は「知名度や信頼性の向
上」で 300 社とトップだっ
た。次いで「人材の確保」
が二番目に多く 207 社で、
3 番目に多かったのは「資
金調達力の向上」で 192 社
IPO のスキームの多様化
だった。
近年、議決権種類株式を用いて上場を行ったり、IFRS を適用して上場を行う案件が出てきており、IPO のスキー
ムの多様化がみられる。以下では多様化した IPO のスキームをそれぞれ見ていく。
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<議決権種類株式を用いた IPO>
2014 年の国内市場における IPO は 77 社であったが、この 77 社の中でも特に注目を集めたのが世界最先端の
ロボットスーツの製造・販売を手掛けるベンチャー企業のサイバーダイン社であった。というのもサイバーダイン社が
日本で初めて、議決権種類株式を用いて上場したからであった。
図の普通株式に対して B 種種類株式は
10 倍の議決権を有する。B 種種類株式の
大半はサイバーダイン社の創業者の山海
嘉之氏が保有している。同氏の上場時の
サイバーダイン社の株式の所有比率は株
式数全体で 43%(B 種種類株 42%、普通
株1%)だが、議決権割合は 88%もあるこ
とになる。このように議決権種類株式を
用いることで、株主から経営に干渉され
ることがなくなり安定した経営をとること
図表 5
サイバーダイン社の上場時の株式構成
ができる。
米国の議決権種類株式を用いた IPO を業
種別でみると、インターネットやソフトウェア
などが多い。これらは技術開発力が強みで
あるテック系ベンチャーであり、テック系ベ
ンチャーは創業者が継続して経営活動をす
ることが企業価値の向上につながる可能
性が高いので、種類株式を用いて IPO をす
る企業が多い。
<IFRS を用いた IPO>
図表6 <業種別>米国の種類株式を用いた IPO 件数
<IFRS を用いた IPO のメリット・デメリット>
2013 年 10 月に国際会計基準(IFRS)の任意適用緩和のた
メリット
めの連結財務諸表等規則の改正が行われた。改正前は IFRS
・上場当初から海外投資家による投資や資金調達
を適用できる企業は上場していることや国際的な財務活動ま
方法の多様化が期待できる
たは事業活動を行っていることが適用条件としてあったが、改
・IFRS 適用時の負担が少なくなる可能性がある
正後にこれらの適用条件がなくなったために未上場企業が
デメリット
IFRS を用いて IPO をすることが可能となった。これにより株式
上場準備のコストに加えて IFRS 導入コストの負担も
会社すかいらーくやテクノプロ・ホールディングス株式会社が
生じてくる。
IFRS を用いた新規上場を行った。
総括
アベノミクスによる株高の影響や議決権種類株式や IFRS を用いた IPO のスキームの多様化によ
り今後も IPO の件数は増加していくことが考えられる。
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