超高濃度ボロンドープダイヤモンドの超伝導 早稲田大学理工学部 川原田

超高濃度ボロンドープダイヤモンドの超伝導
早稲田大学理工学部 川原田
洋
物質・材料研究機構 高野 義彦
1.ボロンとダイヤモンド
軽元素系の超伝導体が、MgB2 の発見に刺激され、近年注目されている。ここでは、ボロン(ホ
ウ素、B)を多量に含むダイヤモンド(C)での超伝導現象の最近の結果をのべる。ダイヤモンド
の一般の認識は、バンドギャップ 5.5eV を有する絶縁体である。しかし、ボロンが、ダイヤモン
ド構造で格子位置をとると、アクセプターとなる。基底状態のアクセプター準位は 0.37eV と非
常に高く、有効質量近似からの算出値の 2 倍、シリコンやゲルマニウムの結晶中のボロンに比べ
1 桁程度高い。ボロン濃度 1017cm‐3 以下では、0.37eV に相当するキャリア密度の温度依存性が
支配的であるが、1018cm‐3 以上のボロン濃度において、温度依存性が 0.1eV 以下に減少する。し
たがって、基底状態以外の準位を考慮する必要がある。伝導度はボロン濃度上昇により増加し、
3×1020cm‐3 以上で、金属―絶縁体転移が生じる。ボロン濃度 1×1021cm‐3 で、比抵抗は 10‐3Ωcm
まで減少する。一般に、この金属―絶縁体転移を境に格子の伸びが大きくなる。ボロンの共有結
合半径は 0.088nm で炭素の 0.077nm よりも大きいことがその理由である。8×1020cm‐3 での格子
の伸びは 0.15%に達し、状態密度に少なからぬ影響を与えている。
2.ダイヤモンド超伝導
ダイヤモンドの超伝導現象は、ロシアの研究者 E.A.Ekimov により昨年報告された 1)。特殊な
高圧合成方法で形成した炭素(グラファイト)と B4C の境界に生じた高濃度ボロンドープ領域(5
×1021cm‐3)のダイヤモンドが超伝導を示した 1)。Tc オンセット(以下 Tc on)が4K、Tc オフ
セット(以下 Tc off)が 2.3K の超伝導転移温度が得られている。この試料は粒径数十μm の多
結晶のダイヤモンドである。高温高圧条件を使用せず、気相合成により形成したダイヤモンドで、
我々は超伝導現象を観測した。気相成長はメタン、水素の混合ガスで行われ、プラズマ状態で炭
化水素や水素分子を分解し、ダイヤモンドが合成される。ボロンはトリメチルボロン(B(CH3)3)
にて導入した。ダイヤモンド以外の基板上に多結晶ダイヤモンド、ダイヤモンド単結晶基板上に
ホモエピタキシャル成長させ単結晶相が形成される。
ボロン濃度の超伝導転移温度(Tc on、Tc off)をこれまでに報告されていると結果 1-4)と共に
まとめたのが図 1 である 4)。一般にボロン濃度の上昇に相まって、Tc on、Tc off ともに上昇し
ている。また、(111)面に成長したボロン濃度 8.5×1021cm‐3 のホモエピタキシャルダイヤモンド
において、 Tc on=11.4K、Tc off=7.1K が観測され、現在のところダイヤモンドでの最高の超
伝導転移温度である。しかし、ほぼ同一のボロン濃度の(100)成長層では Tc on=6.3K、Tc off=
3.0K と約 2 倍の転移温度の差が観測された。また、
正孔濃度は(111)成長層が 1.3×1022cm‐3、(100)
成長層が 9.5×1021cm‐3 となり、ダイヤモンド格子密度の 5−10%のキャリアが存在している。
一般に(111)面と(100)面で成長したダイヤモンドで同程度ボロン濃度において、転移温度に大き
な違いが得られている。
3.ダイヤモンド超伝導機構
12
Tc on/Tc off
(111) Ref[4]
Tc on/Tc off
(100) Ref[4]
超伝導が生じるキャリア濃度の
子帯中(σバンド中)に形成され
る。X 線の吸収スペクトルにて、価
電子帯上部に空の状態密度が存在
し、フェルミ準位が価電子帯端か
ら 1.0eV 付近に存在していること
が報告
5)
されている。このあたり
超伝導転移温度T c [K]
1021cm‐3 では、フェルミ準位は価電
Tc off Poly
Ref [2]
8
Tc on/Tc off
Poly Ref [1]
Tc off (100) Ref [3]
Poly
文献 [2]
4
は、同様なσバンドの価電子帯頂
0
ており、類似の議論がいくつかあ
(100)
文献[4]
Poly
文献 [1]
(100)
文献[3]
上から 0.5−1.0eV 下方にフェルミ
準位が存在する MgB2 の場合と似
(111)
文献[4]
3
1
10
30
ボロンの体積密度[x1021/cm 3]
6)
る 。
図1報告されているダイヤモンド超伝導転移温度と
ボロン体積密度の関係。
正孔濃度上昇における電子構造やフォノンの分散関係の計算からは、光学フォノンのソフト
ニング(振動数の低下)がゾーンセンターで生じ、正孔濃度が格子密度の3%−10%となるとフ
ォノンの振動数は 0.7−0.8 倍に低下する 6)。その結果、電子格子相互作用が上昇し、超伝導が
発現する。ダイヤモンドは 3 次元構造であり、状態密度分布が穏やかで、2 次元構造をとる MgB2
のような急峻な分布とならず、電子格子相互作用がそれほど高くなく、Tc が MgB2 ほど高くない
とされる。我々は、格子の伸張となるボロン−ボロン対形成の異方性により、(111)面に平行な
格子の伸張と[111]方向での収縮という擬 2 次元的な構造を考え、(111)面に平行に高い状態密
度分布が形成されると考えた。(111)成長面では、ボロン対形成の異方性のない(100)面成長層
より高い電子格子相互作用が存在し、(111)成長面での高い超伝導転移温度(図1)が得られる
と推測している。
1)E. A.Ekimov, V. A. Sidorov, E. D. Bauer, N. N. Melnik, N. J. Curro, J. D. Thompson, S. M. Stishov, Nature 428,
542 (2004).
2)Y. Takano, M. Nagao, I. Sakaguchi, M. Tachiki, T. Hatano, K. Kobayashi, H. Umezawa, H. Kawarada, Appl. Phys.
Lett. 85, 2851 (2004).
3) E. Bustarret, J. Kacmarcik, C. Marcenat, E. Gheeraert, C. Cytermann, J. Marcus, T. Klein, Phys. Rev. Lett. 93,
237005 (2004).
4) H. Umezawa, T. Takenouchi, Y. Takano, K. Kobayashi, M. Nagao, I. Sakaguchi, M. Tachiki, T. Hatano, G. Zhong,
M. Tachiki and H. Kawarada, cond-mat 0503303 (2005).
5) J. Nakamura, cond-mat 0410144v3 (2004).
6) L. Boeri, J. Kortus, O. K. Andersen, Phys. Rev. Lett. 93, 237002 (2004).