論 文 内 容 の 要 旨 論文提出者氏名 中島 慎吾 論 文 題 目 Anti

論
文
内
容
の
要
旨
論文提出者氏名
論
文
題
中島
慎吾
目
Anti-Phosphohistone H3 as an Independent Prognostic Factor in Human
Esophageal Squamous Cell Carcinoma
論文内容の要旨
[はじめに] ヒストン H3 はヒストン八量体を形成する蛋白の一つであ
り、その周囲を DNA が巻き付き、ネクレオソームを形成する。そのヒス
トン H3 のセリン 10 のリン酸化がクロマチン凝集と関連し、細胞周期の
late G2 期から M 期終了までの間生じるため、anti phosphohistone H3
(PHH3) は mitosis の specific marker として用いられうるということが、
近年報告された。今までに髄膜腫、悪性黒色腫、卵巣癌、胃癌など様々
な癌腫との関連が報告されているが、食道扁平上皮癌との関連を示した
報告例は認めていない。また、PHH3 と proliferation marker の Ki-67 との
関連を示した報告は認めるが、一定の見解に至っていない。さらに、
cyclin-dependent kinase inhibitor の p21 と PHH3 との関連を示した報告は
存在しない。今回、食道扁平上皮癌における PHH3 の発現・予後との関連
および臨床病理学的因子・Ki-67・p21 との関係について検討を行った。[方
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法] 当院における 2000 年から 2008 年までの食道扁平上皮癌根治切除 50
例の標本を用い、PHH3 の発現を免疫組織染色で解析した(核陽性数/10
consecutive high-power field(×400 倍) in the areas with highest mitotic
activity)。[結果] PHH3 陽性細胞の核ははっきりと茶色に染色され、食道
非癌部上皮の傍基底層において、PHH3 陽性細胞が散見された。食道扁平
上皮癌 50 例すべての症例で PHH3 の発現を認め、PHH3 MI は 1 から 72 で、
中央値が 15.5、平均が 18.2 であった。PHH3 MI と種々の臨床病理学的因
子(年齢、性別、深達度、リンパ節転移、病期、組織型、リンパ管侵襲、
脈管侵襲)を比較したところ、高分化型扁平上皮癌で PHH3 MI=15.4、低
分化型扁平上皮癌で PHH3 MI=23.8 と分化度が低くなるほど、index が増
加傾向にあったが、有意差は認めず、その他の因子とも関連を認めなか
った。また、Ki67,p21 との関連も調べたが、相関を認めなかった。つい
で、生存に関する単変量解析を行ったところ、PHH3 MI=10 を cut off 値
とすることで、5年生存率、高発現群 47.1%、低発現群 88.9%で、有意に
低発現群が予後良好という結果になった(Log Rank=0.015)。その cut off
値 10 で二群にわけて、種々の臨床病理学的因子と比較したところ、組織
型において、高分化型が低発現群にて多くなり(高発現群:59.4%、低発
現群:94.4%)、有意な相関関係を認めた(P=0.009)。その他因子との相関
は認めなかった。そして、単変量解析で有意差を認めた年齢、T 因子、N
因子、リンパ管侵襲と PHH3 MI で多変量解析を行ったところ、N 因子と
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PHH3 MI が独立した予後因子として描出された(PHH3 高発現:Hazard ratio
3.846、95%CI、1.031-25.03833、p=0.044)。[考察] 我々の研究結果におい
て、PHH3 MI は組織型と相関を認めたが、その他の臨床病理学的因子とは
相関しなかった。様々な癌腫において、PHH3 MI と臨床病理学的因子との
関連を示した報告を認めるが、一定の見解には至っていない。食道腺癌
は高度異型性と比較し、有意に発現が高いという報告、漿液性卵巣癌は
非漿液性卵巣癌と比して、有意に高発現であるという報告、胃癌におい
ては intestinal type が diffuse type よりも有意に発現が高いという報告な
どを認め、これらの報告と我々の研究結果から PHH3 は癌細胞の分化に関
連していることが示唆された。PHH3 MI は今までの報告において、測定方
法や cut off 値が様々であり、一定の見解に至っていない。今回、食道扁
平上皮癌においては、最も多く用いられている測定方法(最も発現の高
い部位での high power field 400 倍・連続 10 視野における核陽性数)を用
いて、cut off 値を 10 にすることで、予後を反映し、組織型とも相関する
ことが判明した。また、様々な癌腫において、PHH3 と Ki-67 の関係につ
いて示した報告を認めるが、両者が相関しているという報告と相関して
いないという報告どちらも認め、一定の見解には至っていない。今回、
我々の研究結果において両者は相関しなかった。Ki-67 は細胞周期のすべ
ての過程で発現しているが、PHH3 は分裂期のみで発現しており、それぞ
れの細胞において、細胞周期の進行速度が異なるのが原因ではないかと
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考えられた。PHH3 MI の測定は Ki-67 LI の測定と比べて簡便であり、PHH3
は す で に 実 臨 床 で 使 用 さ れ て い る Ki-67 よ り も よ り 臨 床 に 即 し た
proliferation marker であると思われた。PHH3 と p21 の関係について、相
関しなかったのはそれぞれの細胞周期における役割が異なるためと考え
られた。[結語] PHH3 MI は組織型と相関し、食道扁平上皮癌における独
立した予後規定因子となることが示唆された。
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