開発項目 「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術 次世代型 高性能電解加工機の研究開発」 「平成26年度 委託先名 ~ 平成27年度のうち平成26年度分中間年報」より抜粋 東京大学 1. 研究開発の内容及び成果等 (1) 電 解 加 工 間 隙 の 観 察 筆者らは、透明で導電性を有する半導体であ る SiC ウ ェ ハ を 電 極 に 用 い る こ と で 電 解 加 工 中 の 極 間 を 直 接 観 察 す る こ と に 成 功 し て い る 。電 圧 を 印加すると極間は一瞬で小さな気泡で埋め尽く され、その後気泡が合体し、徐々に大きくなり、 極間はほぼ気体で満たされることを明らかにし た 。ま た 、極 間 に お け る 気 泡 の 割 合 が 増 加 す る の に 伴 い 、極 間 を 流 れ る 電 流 が 減 少 し 、加 工 の 進 展 の妨げとなっていることを確認した。そのため、 高 精 度 に 加 工 す る た め に は 気 泡 や ス ラ ッ ジ の 排 出 が 必 要 で あ る 。そ こ で 、電 極 の 回 転 が 気 泡 挙動に与える影響と、それによる加工形状を調査した。 図 1 に 観 察 方 法 を 示 す 。 陰 極 に は SiC 単 結 晶 ウ ェ ハ (新 日 鉄 住 金 マ テ リ ア ル ズ 製 , 板 厚 0.38mm) を 用 い 、 陽 極 に は 直 径 6mm の 円 柱 状 の S45C を 用 い 3000rpm で 回 転 さ せ た 。 加 工 電 流 は 4A, パ ル ス 幅 は 50ms, デ ュ ー テ ィ は 50%で あ る 。そ の 結 果 、図 2 に 示 す よ う に 、3 パ ル ス の 間 に 気 泡 が 中 心 に 集 ま り 、合 一 に よ っ て 大 き な 気 泡 が 中 心 に 滞 留 す る 様 子 が 観 察 で き た 。 そ れ に と も な い 、 600 パ ル ス の 印 加 後 に 、 陽 極 の 端 面 の 形 状 が 平 坦 で は な く 図 3 の よ う に 凸 状 に 加 工 さ れ た 。回 転 を し な い 場 合 の 方 が む し ろ 均 一 に 加 工 さ れ て い る こ と が 分 か る 。こ 加工開始後15ms 1パルス目印加後15ms 加工開始後215ms 3パルス目印加後15ms 図2 遠心力により回転中心で合一した気泡の高速度ビデオ観察結果 れは、遠心力により気泡が中心に集まり、中心部で電流が流れにくくなることに起因する。 従って、電極の回転が加工精度の低下をもたらす場合があることが明らかとなった。 (2) 電 解 液 ジ ェ ッ ト 加 工 に よ る 表 面 仕 上 げ ノズルより噴流させた電解液のジェットを通 し て 電 流 を 流 し 、陽 極 で あ る 工 作 物 を ジ ェ ッ ト 直 下 に 限 っ て 局 所 的 に 除 去 で き る 。よ っ て 、ジ ェ ッ トの走査により任意パターンをマスクレスで電 解 加 工 で き る 。一 方 、電 解 加 工 で は 電 流 密 度 が 高 い 場 合 は 鏡 面 加 工 が 可 能 で あ る が 、低 い 場 合 は 粗 面 と な る こ と が 知 ら れ て い る 。従 っ て 、ジ ェ ッ ト の 直 下 で は 電 流 密 度 が 高 い が 、外 周 部 に 電 流 密 度 の 低 い 領 域 が 存 在 す る た め 、ジ ェ ッ ト を 走 査 し た 場 合 は 必 ず 低 電 流 領 域 を 通 過 す る の で 、走 査加工による鏡面のパターン加工は困難であった。 そ の 解 決 法 と し て 、走 査 速 度 が 仕 上 面 粗 さ に 及 ぼ す 影 響 を 調 べ 、走 査 速 度 が 大 き い ほ ど 仕 上 面 粗 さ が 良 く な る こ と を 明 ら か に し た( 図 4 )。こ れ は 、低 電 流 密 度 領 域 と 高 電 流 密 度 領 域 で の 加 工 速 度 の 違 い に 基 づ き 、ジ ェ ッ ト 直 下 の 高 電 流 密 度 下 で 生 成 さ れ た 鏡 面 が 低 電 流 密 度下で低下する前に低電流密度領域を通過できるからである。 し か し 、直 流 電 流 で は 走 査 速 度 が 十 分 に 大 き く な け れ ば 鏡 面 が 得 ら れ な い 。こ の 場 合 、複 雑 パ タ ー ン に 沿 っ て ノ ズ ル を 走 査 さ せ る 制 御 に お い て 困 難 が 生 じ る 。そ こ で 、電 極 面 上 の 電 気 二 重 層 が 形 成 さ れ て か ら 遅 れ て 溶 出 が 開 始 す る 電 気 化 学 現 象 に 着 目 し 、電 流 を パ ル ス 化 し 、低 電 流 密 度 領 域 で の 溶 出 が 始 ま る 前 に パ ル ス を オ フ に す る 。こ れ に よ り 、低 電 流 密 度 領 域 と 高 電 流 密 度 領 域 で の 加 工 速 度 の 違 い が さ ら に 大 き く な り 、図 4 に 示 す よ う に 小 さ な 走 査 速 度 で あ っ て も 鏡 面 が 得 ら れ た 。し か し 、デ ュ ー テ ィ が 低 い と 加 工 速 度 が 小 さ く な る 。そ こ で 、休 止 時 間 中 に 極 性 を 反 転 し 、電 気 二 重 層 の 放 電 を 促 進 さ せ る こ と に よ り 、高 い デ ュ ー テ ィ 比の下でも鏡面が得られることを見出した(図5)。これにより、ジェットの走査により、 1 1 Surface roughness Rz[µm] Surface roughness Rz [µm] 高い効率で任意パターンの鏡面加工が可能であることが明らかとなった。 0.8 0.6 DC Duty 10% 0.4 0.2 0 0.01 Duty 1% 0.1 1 10 Translating speed [mm/s] 100 図4 仕上面粗さに及ぼす走査速度とデュー ティの影響(パルス幅100ms) 0.8 DC 0.6 Duty 77% 0.4 Duty 67% 0.2 Duty 59% 0 0.1 1 10 Tranlating speed [mm/s] 100 図5 両極性パルスの使用による加工効率の 向上 (3) 電 解 液 ジ ェ ッ ト タ ー ニ ン グ 加 工 図 6 に 示 す よ う に 、フ ラ ッ ト な 電 解 液 ジ ェ ッ ト を 用 い て 、超 硬 合 金 の タ ー ニ ン グ 加 工 を 試 み た 。NaOH を 混 入 し な い 限 り 、NaCl 水 溶 液 や NaNO 3 水 溶 液 だ け で は 超 硬 合 金 の 直 流 電 流 を 用 い た 電 解 加 工 は 困 難 で あ る が 、両 極 性 パ ル ス 電 流 を 用 い る こ と に よ り 加 工 が 可 能 で あ る こ と が 知 ら れ て い る 。そ こ で 、超 硬 合 金 軸 が 陽 極 お よ び 陰 極 の 時 間 が 各 々 10ms で あ る 両 極 性 パ ル ス を 用 い て 超 硬 合 金 軸 の 微 細 加 工 を 行 っ た 。電 解 加 工 で は 、電 流 密 度 が 高 い ほ ど 仕 上 面 粗 さ が 良 い の で 、仕 上 げ 加 工 で は む し ろ 荒 加 工 よ り 電 流 値 を 上 げ 、そ の 代 わ り に 仕 上 代 を 小 さ く す る た め に 走 査 速 度 を 十 倍 に し た 。仕 上 げ 加 工 に お い て 走 査 回 数 を 徐 々 に 増 や し て い き 、得 ら れ る 最 小 の 軸 径 を 求 め た と こ ろ 、 本 年 度 の 加 工 条 件 下 で は 図 7 に 示 す 36mm が 最 小 の 径 で あった。 送り 超硬合金G4 粒子径2-4μm 10 50 1.0 工作物 パルス幅ta [ms] デューティ比 [%] 加工範囲 [mm] スリットノズル フラットジェット 超硬合金軸 電流値 走査速度 電気量 [mA] [μm/s] [C] 走査回数 荒加工 50 10 2.5 1 仕上げ加工 100 100 0.5 1-10 図6 超硬合金の電解液ジェットターニング加工条件 100μm 100μm 荒加工後 φ210μm 仕上げ加工後 φ36μm 図7 超硬合金軸の微細加工 (4) 静 電 誘 導 給 電 法 に よ る 微 細 電 解 加 工 図 8 に 示 す よ う に パ ル ス 電 圧 を 給 電 容 量 C1 を 介 し て 容 量 結 合 す る こ と に よ り 、 パ ル ス の 立 上 り 、 立 下 り の 瞬 間 だ け 電 流 が 流 れ る の で 、 簡 単 に 数 十 ns の パ ル ス 幅 の 超 短 パ ル ス の 電 解 加 工 が 行 え る 。ま た 、図 8 に よ う に ダ イ オ ー ド を 挿 入 す る こ と に よ り 、単 極 性 パ ル ス が 得 給電容量 C1 パルス 電源 陽極 E(t) 0V 100V ダイオード 136mA 0A 陰極 Pulse voltage 1μs Gapcurrent 42.4V Gapvoltage 0V 図8 静電誘導給電法による微細電解加工の原理 ら れ る の で 工 具 電 極 の 消 耗 を 防 ぐ こ と が で き る 。図 9 は ス テ ン レ ス 鋼 の 細 軸 を 加 工 し た 例 で あ る 。側 面 ギ ャ ッ プ で の 浮 遊 電 流 に よ り 、テ ー パ 状 に 加 工 さ れ て い る 。し か し 、側 面 の 仕 上 面 粗 さ は 良 好 で あ り 電 解 加 工 の 特 長 が 示 さ れ て い る 。た だ し 、端 面 の エ ッ ジ 部 に 孔 蝕 が 生 じ ており、発生の防止が今後の課題である。 陽極: SUS304 回転 送り 切込み 正面ギャップ 陰極: タングステン 側面ギャップ 100μm 図9 静電誘導給電法による微細軸加工(切込み40mm, パルス電圧110V, パルス幅40ns, 給電容量47pF, 回転数3000rpm, 送り速度0.1mm/s) 2. 成果(当該年度分についてのみ記載) (1) 研究発表・講演(口頭発表も含む) 発表年月日 2014.12.4 2014.12.4 発表媒体 発表タイトル 発表者 電気加工学会全国大会(2 透明体電極を用いた電解液の流れ 島崎奉文、北村朋 014)講演論文集、17-20 場が電解加工現象へ及ぼす影響の 生、国枝正典、阿 観察 部耕三 電気加工学会全国大会(2 Research about machining character W. Han, M. Kuni 014)講演論文集、21-24 istics for different working gap wi eda dths un electrochemical machining using electrostatic induction feedin g method 2014.12.4 電気加工学会全国大会(2 電解液ジェットターニング加工を 三好晃太郎、国枝 014)講演論文集、29-32 用いた超硬合金微細軸成形に関す 正典 る研究 2014.11.13 Proc. of the 10th Inter Servo Feeding Control System W. Han, M. Ku national Symposium on used in Micro Electrochemical nieda ElectroChemical Mach Machining with Electrostatic I ining Technology (INSE nduction Feeding Method CT 2014) in Saarbrück en, 87-95 2014.11.13 Proc. of the 10th Inter Electrolyte Jet Machining for S J. Mitchell-Smit national Symposium on urface Texturing of Inconel 718 h, J. W. Murray ElectroChemical Mach , M. Kunieda, A ining Technology (INSE . T. Clare CT 2014) in Saarbrück en, 111-118 2014.11.14 Proc. of the 10th Inter Fundamental Study of ECM G T. Shimasaki, T. national Symposium on ap henomena Using Transpare Kitamura, M. ElectroChemical Mach nt Electrode Kunieda ining Technology (INSE CT 2014) in Saarbrück en, 135-143 2015.3.17 2015.3.17 2015年度精密工学会春季 電解液ジェット加工による任意形 川中拓磨、国枝正 大会講演論文集、59-60 典 状鏡面仕上げ 2015年度精密工学会春季 超硬合金微細軸の電解液ジェット 三好晃太郎、国枝 大会講演論文集、65-66 正典 ターニング加工の加工特性に関す る研究 2015.3.18 2015年度精密工学会春季 Fabrication of micro-electroche 大会講演論文集、75-76 W. Han, M. Ku mical machining with the elect nieda rostatic induction feeding meth od 2015.3.18 2015.3.18 2015年度精密工学会春季 電極内の温度測定による電解加工 初福晨、島崎奉文 大会講演論文集、87-88 、国枝正典 中の極間温度の推定 2015年度精密工学会春季 透明体電極を用いた電解加工の除 島崎奉文、北村朋 大会講演論文集、89-90 生、国枝正典、阿 去過程の考察 部耕三 (2) 受賞実績 ① 平成 26 年 11 月 13 日 T. Shimasaki, T. Kitamura, M. Kunieda, Fundamental Study of ECM Gap Phenomena Using Transparent Electrode, 10 th International Symposium on Electrochemical Machining Technology, Best Paper Award ② 平成 26 年 12 月 5 日、島崎奉文、北村朋生、国枝正典、阿部耕三、「透明体電極を用いた電解液 の流れ場が電解加工現象へ及ぼす影響の観察」、電気加工学会全国大会賞,(社)電気加工学会
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