（いまいずみ まさお） 1973（昭和 日立 産 機シ ス テ ム 誇りのマエストロ 2 09 VoltAge21 今 泉 正 夫 フライス盤 工〈 多 賀 事 業 所 〉 48）年に技能五輪全国大会「精 密機器組立」職種で優勝し、技能 五輪国際大会（ドイツ・ミュンヘンに て開催）にて同職種2位を獲得。 その後も、 高度熟練技能者表彰、 文部科学大臣表彰などを受け、 2015（平成27）年に卓越した技 能者が選ばれる厚生労働大臣表 彰を受けて「現代の名工」 となる。 精密さを追求すればするほど、 重要となる人の技。 NCフライス盤で加工された部品。 技 能五 輪への挑戦で 身につけた技 術が すべてのベース ます。ひとつの技を磨くだけでは戦えま で生産する家電製品の試作を担当。二 せん。平面や溝などを工作機械で仕上 次元の図面に描かれた複雑な形状を げて精密加工をする技能や、手作業で 理解し、形にしていきます。薄かったり 精度を上げる技能など、いくつもの技 細 い 形 状 の 部 品は、加 工によっては 後輩たちから「決して『できない』と 能の修得と総合力が求められるのです。 肉眼ではわからない程度に表面が波打 つことがあり、それを克服する技と知 言わない」 「神業に近い」と、仕事への 真摯な姿勢や抜きんでた高い技術力 で尊敬を集めている今泉正夫。その根 底にあるのは、20歳のときにチャレンジ 試作品の製作や 大量生産のための 金型製 作で実力を発揮 識も会得しました。その後、家電製品の プレス 金 型 製 造を担 当。研ぎ 澄まさ れ た今泉の感覚は、同じ1枚の薄板や 鋼板でも場所によって柔らかみに微妙 した技能五輪国際大会でした。 技能五輪は青年技能者の技能レベ 1968（昭和43）年に中学を卒業し な 違 いがあることを触って 読み 取り ル向上を目的としており、今泉がエント て多賀工場に入社した今泉は、高等職 ます。その違いに応じた加工で、厳しい リーした「精密機器組立」は、機械加工 業訓練校の同期100人ほどの中から 要求に応えて大量生産に耐えうる金型 （ 工 作 物を回 転させて 切 削 加 工 する 選抜されて、５年間にわたる厳しい訓 の数々を生み出し、モノづくりを支えて 旋盤加工・フライス盤と呼ぶ可動式の 練を受け、まず国内大会に臨みました。 きました。 テーブル上に工作物を固定して回転工 要求精度は１マイクロメートル（＝千分 具で切削するフライス加工・工作物の の1ミリ）単位という驚異的な加工精度 平面を砥石車で加工する平面研削盤 を、わがものとした今泉。みごと日本一 加工）と手作業（ヤスリでの仕上げ）と となり、 その後の国際大会では銀メダル によって部品を加工・調節し、組み立て を獲得しました。 る職種です。今泉はこれを「陸上競技 大会後は世界レベルの技術力が評価 でいえば十種競技のようなもの」と例え され、洗濯機や掃除機など、多賀工場 VoltAge21 10 加工用途によって、NCフライス盤と汎用施盤を使い分ける。 丁寧に研磨されたボーリングバイト（刃物）。 （上） 重い物を安全に持ち上げるための歯車。 刃物の選定も熟練の腕が必要。 （下） 製 造 現 場で なくてはならない ホイスト製 造に携わる ものをつるすためのワイヤロープが巻 ができるホ イストを製 造して います。 きつくドラムをモータで回転させ、回転 重量物を持ち上げるだけに、高い安全 スピードは減速機で調整します。複数 性・信頼性が重要で、つり上げ荷重3t の歯車が組み合わさる減速機は、最も 以上のものは、クルマの車検のように、 優れた技能と長年にわたる経験の積 精度が求められる部分。一つひとつの 2年ごとに労働基準監督署の性能検 み重ねによって、フライス盤加工の技 歯車の加工に、今泉の “匠の技” が活か 査を受けることが義 務 づけられてい 能はもとより生産技術全般に精通して されています。 ます。 「検査官の方に、 『日立のホイスト は安心して使えますね』 と言われた」と いる今泉。彼がその高レベルで広範な 技 術 力を発 揮して現 在 携わっている のは、日立産機システムの主力製品の ひとつである「ホイスト」と「モートル 「さすが日立 」といわれる 安全性・信頼性を実現した ホイストをつくり続ける のお客さまの声を聞くとうれしくなり ますね」と、今泉に笑顔が浮かびます。 しかし、 すぐ表情を引き締めて「新製品 が 誕 生 するた びに 、覚えること解 決 ブロック」の製造です。 ホイストとは、モノづくり現場で必ず 人 間 の 力 で は 太 刀 打 ち できな い すべきことが次々と出てきます。私も と言っていいほど見かける、天井クレー 重 量 物を持ち上げて 運 ぶ のに、ホイ ホイストの生産に携わって10数年。い ンの巻上装置。モータ、電磁ブレーキ、 ストやモートルブロックは欠かすこと つの 時 代も信 頼されるホイストをつ 減速ギヤ、 ドラム、ワイヤロープ、フック ができません。日立産機システムでは、 くり続けていきます」とプロらしい表情 ブロックなどから成り立って います 。 最大50tもの重量物をつり上げること を見せてくれました。 「試作機の部品加工をお願いするだけではなく、設計のアドバイスをもらうことも」と全幅の信頼を寄せる。 設計部を支える職人の技 事業統括本部 省力システム事業部 ホイスト設計部 ホイスト設計グループ 技師 立石隆 設計部のスタッフである私は、新製品開発時におけ る試作部品を、図面通りに製作することが簡単では ないと分かっていながら、今泉さんにお願いするこ とが頻繁にあります。 「今泉さんならやってくれる」と いう絶対的な信頼感があるからです。何しろ、今泉 さんから「難しくてできない」との言葉を聞いたこと がありません。今泉さんは、まさに我々の師匠。決し て妥協を許さない姿勢を学び取っていきたいです。 11 VoltAge21 未来のマエストロたち 事業統括本部 省力システム事業部 製造部 ホイスト製作課 製作係 機動組 組長 吉田浩二（写真左） 機動組 吉田英之（写真左より2番目） 機械組 組長 鈴木貴（写真右より2番目） 今泉さんの機械加工技術は超一流。ひとつでも多 くの技を盗みたいですね。自分のつくるモノには非 常に厳しい今泉さんは、周囲の人間に対してはと ても優しく穏やか。私たちも若手に教える立場とな り、国家検定に向けての指導などでは、つい強い 口調になりがちですが、今泉さんのようにほめて伸 ばす人づくりを身につけていきたいです。 「加工技術だけじゃなく、人に教える腕もピカイチです。」と、後輩たち。 原因になります。そこで今泉は、従来の 企業の設備投資意欲が高まる中、受注 〈歯の切削→焼き入れ→歯の研磨〉と が増加しています。今泉をはじめとする いう工法から、焼き入れし硬化した歯 スタッフたちは、増産体制を構築すべく 車を超硬の歯を切る刃物でカットして 日々、改善の努力を重ねています。 しかし、 例えば、ホイストはお客さまの工場 仕上げる〈ハードホビング加工〉への 決して忘れないのは品質。今泉は「一つ 建屋に合わせてワイヤロープの長さを 変更を提案。これによって焼き入れに ひとつの部品が正しくつくられ、正しく 8メートルから10メートルにすると、巻き よる変形や研磨の手間を省くこができ 組み立てられていないと安全を確保でき 取るドラムの長さが変わり、それに関連 ました。加工にも鉄にも詳しい今泉なら ないから、どのプロセスも大変重要で してすべての部品も変わって、それら ではの気づきによって、高精度で効率 す」と語ります。また、 「後進の指導育成 の安全確認が求められます。 したがって 化・低コストを実現できた好例です。 を含め信頼されるモノづくりのできる 安 全に、堅 牢に、そして 生 産効 率にも貢献する 経 験と技 術 人づくりも私の使命だと思っております」 新製品や特注品の設計や開発には多く の手間や時間がかかります。また、複数 の部品を組み合わせてつくるため、歯 モノづくりにも人づくりにも 注がれ続ける匠の情熱 日本全国各地の協力会社への指導にも 積極的に取り組む今泉。そうした今泉 車ひとつの加工精度がほんの少し落ち だだけでスムーズに回転できなくなり、 多賀事業所では現在、月に500∼600 異常音が発生したり、強度が落ちたり、 台のホイスト、1,000台以上のモートル 早く摩耗して破損するなどの不具合の ブロックが生産・出荷されていますが、 ホイスト、 モートルブロック とも。高校を卒業したばかりの新人や、 日立産機システム の後ろ姿を見てきた後輩社員たちには、 とも呼ぶべき何かが、しっ “匠のDNA” かりと引き継がれていました。 多賀事業所 1927（昭和2）年に日本国初のロープホイストを開発した日立製作所の技術と設計思想を受け継ぐ 多賀工場。1939（昭和14）年に日立製作所多賀工場として誕生し、1975（昭和50）年にはインク ジェットプリンタ事業を開始。2005（平成17）年に日立産機システム多賀事業所として新スタート を切り、世界に誇れるホイスト、インクジェットプリンタなどの開発・設計・製造に取り組んでいます。 所 在 地 茨期県日立市 東多賀町1-1-1 主な製品 ホイスト、 モートルブロック、 産業用インクジェット プリンタ など VoltAge21 12
© Copyright 2024 ExpyDoc
