第9章 条件・期限・期間

第9章 条件・期限・期間
合格へのアプローチ
傾向と対策
1 出題実績と内容
平成14年以前は平成2年に出題されている。平成14年は出題形式が対話型で穴埋め問題
という特徴的なものであった。平成17年は条件についての穴埋め問題が出題されている。
過去10年の出題実績表
内 容
判例の趣旨
推論
備考
平23
平22
平21 条件・期限
○
対話型
平20
平19
平18
平17 条件
穴埋め
平16
平15
平14 条件と期限
対話型
2 合格へ向けての対策
出題実績は少ない。推論型問題での出題可能性は低いので、効率良く条文の知識の習得
を図っておく。期限に関しては、履行遅滞の時期と消滅時効の起算点との比較という形で
出題される可能性もある。
− 99 −
〈MEMO〉
第1節 総説
法律行為(契約)自由の原則というのは、単にその内容についての自由だ
けでなく、その効力の発生・消滅について制限を加えることも自由であるこ
とを意味する。したがって、法律行為が一般に無制限に効力を生じるのに対
し、その効力の発生・消滅につき特殊な制限を加えた約款(条項)も有効で
あり、これを法律行為の付款という。
法律行為の付款には、条件と期限がある。
− 100 −
〈MEMO〉
第2節 条件
1 条件とはなにか
条件とは、法律行為の効力の発生または消滅を「将来の不確定な事実」の
成否にかからしめた法律行為の付款である。
過去の事実は当事者には判っていなくても条件とはならず、また、将来発
生する事実でその到来の時期が不確定であっても、到来することが確実なも
の(たとえば、
特定の人の死亡は「不確定期限」という)も条件とはならない。
条件の内容をなす事実(条件事実)が実現することを条件の成就、実現し
ないことに確定することを条件の不成就という。条件が成就したか否かは社
会通念によって決せられる。
《出世払い》
【過去問】
たとえば、甲が乙に対して貸金債務を負っている場合において、「甲
平21-4
が立身出世(事業の成功)の上返済する」旨の約定をした場合、もし甲
が出世しなかったならば弁済をしなくてもよいのか(すなわち、上記を
条件とみて条件が成就しなかったのであるから弁済は不要であるとする
か)
、という問題がある。
判例のなかには、当事者の意思の解釈として、かかる付款は「成功(出
世)の時または成功不能が確定した時」に支払うことを約したものとみ
て、これを不確定期限であるとしているものがある(大判大4.3.24)。
2 条件の種類
【過去問】
平14-3
1 停止条件
停止条件とは、法律行為の効力の「発生」を将来の不確定な事実の成否
にかからしめる法律行為の付款である。
たとえば、甲が債務を負っている場合に、債務不履行があったならば、
甲所有の土地で代物弁済する旨の「条件付代物弁済契約」などがある。
2 解除条件
解除条件とは、法律行為の効力の「消滅」を将来の不確定な事実の成否
− 101 −
〈MEMO〉
にかからしめる法律行為の付款である。
たとえば、入学祝いを贈るに際し、受贈者が落第したならば贈与の効力
を失わせる旨の付款を付ける「解除条件付贈与契約」などがある。
3 条件成就の効果
【過去問】
平2-16、平17-6
1 停止条件付法律行為
停止条件付法律行為は、条件が成就するまでは効力が発生せず、条件が
成就したときは、原則として、その時から法律行為の効力が発生する(将
来効・民127条1項)。
ただし、当事者の意思によって効力の発生について遡及させることもで
きる(民127条3項)。いつまで遡及させるかは、当事者の定めによる。
停止条件付法律行為の条件が不成就に確定すれば、当該法律行為は無効
となる。
2 解除条件付法律行為
【過去問】
平17-6、平21-4
解除条件付法律行為は、条件が成就するまでは有効に存続し、条件が成
就すると、その時から効力が消滅する(将来効・民127条2項)。当事者の
意思によって遡及させることができるのは停止条件付法律行為と同様であ
る(民127条3項)。
解除条件付法律行為の条件が不成就に確定すれば、当該行為の効力は消
滅しないことに確定する。
4 条件付権利
1 条件付権利とはなにか
条件付権利とは、将来条件が成就すれば権利を取得することのあるべき
現在の法律上の地位または期待をいい、期待権の一種である。
たとえば、①停止条件付贈与契約であれば、受贈者は条件が成就すれば
目的物を取得できるという期待を、②解除条件付贈与契約であれば、贈与
者は条件が成就すれば目的物を返還してもらえるという期待をもってお
り、このような期待を一種の権利として保護するのである。
− 102 −
乙
(無権代理人)
丙 相手方
〈MEMO〉
2 条件付権利の不可侵
条件付法律行為の当事者は条件の成否未定の間は相手方の条件付権利を
本人 甲
侵害してはならない(民128)。
取消し
たとえば、条件の成就によって相手方に交付すべき物がある場合には、
その物を滅失損傷したり、処分してはならない。もし、これらの行為をし
た場合には、
条件付権利の侵害として損害賠償責任(不法行為責任(通説)
)
取消し
を負わなければならない。
乙
(無権代理人)
丙(善意)相手方
ただし、条件付権利侵害の効果も条件付きに生じるとされる。すなわち、
条件付権利侵害に対する損害賠償請求権も条件の成就によって発生する。
したがって、条件成就前においては損害賠償を請求することはできない。
③損害賠償
②滅失
甲 乙
①停止条件付贈与契約
③停止条件が成就してはじめて
損害賠償請求可
物
3 条件付権利の効力
条件付権利ならびにこれに対応する相手方の義務(条件付義務)も、通
常の権利義務と同様に、処分・相続・保存または担保することができる(民
129条)
。すなわち、条件付権利は「譲渡」し、これに「担保物権を設定」
でき(処分)
、
「登記」や第三者の取得時効を中断し(保存)、相続の対象
となる。また、条件付権利のために条件付義務に保証人をたてることもで
きる(担保)
。
当事者間で登記すべき物権変動はまだ生じていないが、その物権変動が
停止条件付又は始期付である場合には、その条件付の権利を保全するため
不登法・仮登記
に仮登記をすることができる(不登105条2号)。たとえば、不動産の売買
契約において、売買代金が完済されたときに所有権が移転する旨の定めが
ある場合には、登記原因を「年月日売買(条件 売買代金完済)」として、
条件付の所有権移転仮登記をすることができる。
4 条件成就の妨害
条件の成就によって不利益を受ける当事者が、故意にその条件の成就を
− 103 −
【過去問】
平2-16
〈MEMO〉
妨げた場合には、相手方はその条件を成就したものとみなすことができる
(民130条)。
民法130条の要件と効果は次のとおりである。
⑴ 要件
① 条件成就を妨害した者が、条件成就によって「不利益を受ける当事
者」であること
② 「故意」に条件成就を妨害したこと
故意とは、条件成就の妨害となることの認識で足り、害意や不利益
免脱の意思は不要である。
③ 妨害によって不成就となったこと
④ 妨害したことが信義則に反すること
妨害行為について相手方が同意を与えたような場合は、条件成就を
擬制する権利を取得しない。
⑵ 効果
相手方は、条件を成就したものとみなす権利を取得する。この権利は
形成権であり、妨害者に対して、条件が成就したものとみなす旨の意思
表示をすることによって、条件成就が成立する。
なお、条件成就の妨害行為は、同時に条件付権利の侵害であるが、民
法130条によって「条件成就とみなす」か、民法128条によって「損害賠
償請求をする」かは、相手方が選択できる。
【過去問】
平21-4
条件成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させた場合
には、民法130条の類推適用により、相手方は条件が成就していないも
のとみなすことができる(最判平6.5.31)。
【過去問】
平2-16、平17-6
5 特殊な条件
1 既成条件(民131条)
⑴ 既成条件とはなにか
既成条件とは、法律行為の成立当時、すでに成否が客観的に確定して
いる事実を条件としている場合をいう。
− 104 −
〈MEMO〉
⑵ 既成条件付法律行為の効果
① 既成条件がすでに「成就」しているとき
ア 停止条件付法律行為 …………………… 当初から無条件に「有効」
イ 解除条件付法律行為 …………………… 当初から「無効」
② 既成条件がすでに「不成就」に確定しているとき
ア 停止条件付法律行為 …………………… 当初から「無効」
イ 解除条件付法律行為 …………………… 無条件に「有効」
2 不法条件(民132条)
【過去問】
⑴ 不法な条件とはなにか
不法な条件とは、条件事実が不法であるために、または当然なすべき
でない不法な行為を特にしないことを条件としたために、法律行為全体
が不法性、反社会性を帯びる場合をいう。
注意すべきは、条件だけを切り離して不法かどうかを判断するのでは
なく、法律行為全体が不法性、反社会性を帯びるかを判断しなければな
らない。
例① 「妾関係を持続するならば、一定の財産を贈与する。」
(条件)↓
妾関係の持続は不法である
↓
不法を条件としている
↓
法律行為全体が不法性、反社会性を帯びる
② 「窃盗を犯さないならば、一定の金員を交付する。」
(条件)↓
窃盗を犯さないことは不法な行為をしないことである
↓
不法な行為をしないことを条件とする
↓
法律行為全体が不法性、反社会性を帯びる
※ 一定の金員の交付を欲しないのであれば、窃盗を犯してもよいとい
う心情に当事者を置くことになるという観点から、不法性、反社会性
があると言える。
− 105 −
平2-16、平17-6、
平21-4
〈MEMO〉
③ 「名誉を侵害したならば、損害賠償として一定の金額を支払う。」
(条件)↓
名誉を侵害することは、不法である。
↓
不法を条件としている。
↓
しかし、法律行為全体として不法性、反社会性はない。
⑵ 効果
不法な条件をつけた法律行為は無効である。しかし、たとえば前例①
において、妾契約を持続したため、一定の財産を贈与した場合には、そ
の返還を求めることはできない(不法原因給付:民708条)。
【過去問】
平17-6
3 不能条件(民133条)
⑴ 不能条件とはなにか
不能条件とは、将来において実現が不能である事実を条件とする場合
をいう。条件が不能であるかどうかの判断は、法律行為成立の時を基準
とし、法律行為成立当時は可能であったものが後に不能となった場合は、
条件不成就である。
また、不能は、単に物理的に不能である場合だけでなく、社会的・経
済的に不能である場合も含む。
⑵ 不能条件付法律行為の効果
不能の条件を付けた法律行為の効果は、停止条件と解除条件に分けて
次のとおりである。
① 停止条件付法律行為 …………………… 当初から「無効」
② 解除条件付法律行為 …………………… 無条件に「有効」
【過去問】
平17-6
4 純粋随意条件
⑴ 純粋随意条件とはなにか
純粋随意条件とは、当事者の一方が欲しさえすれば条件を成就させる
ことができる条件をいう。
⑵ 純粋随意条件付法律行為が無効とされる場合
民法は、「停止条件付法律行為」の条件が「単に債務者」の意思のみ
にかかる場合に限り無効としている(民134条)。ここで債務者とは、条
件の成就によって不利益を受ける者をいう。
− 106 −
滅失
目的物
〈MEMO〉
たとえば、贈与者甲、受贈者乙間の贈与契約において、「甲の気がむ
いたときに与える」という条件が付された場合には、この条件付贈与契
停止条件付贈与契約
甲 乙
約は無効である。このような行為に、当事者が法的拘束力を生じさせる
意思があるとは考えられないからである。
しかし、この事例において、「乙が欲したときには甲は与えなければ
損害賠償請求 条件が成就してはじめて請求できる
ならない」という条件は有効である。
また、
「解除条件付法律行為」の条件は、債務者の意思にかかるときも、
債権者の意思にかかるときも有効である。
贈与者 甲 乙受贈者
停止条件付贈与契約
「甲の気がむいたときに与える」 無効
「乙が欲したときは与える」 有効
賃貸人 甲 乙賃借人
解除条件付賃貸借契約
「甲が欲したときは返還請求できる」 有効
「乙が不用となったときは返還できる」 有効
− 107 −
〈MEMO〉
第3節 期限
1 期限とはなにか
期限とは、法律行為の効力の発生・消滅または債務の履行を将来到来する
ことが確実な事実の発生にかからしめる法律行為の付款である。条件との相
違は、その事実の到来が確実であるか否かによる。
2 始期と終期
1 始期
始期とは、法律行為の効力の発生または債務の履行に関する期限をいう。
消費貸借契約に際して「今年の8月1日になったら弁済する」と約した
ような場合、法律行為の効力すなわち債務はすでに生じているが、債務の
履行の時期を猶予していることになる。民法135条1項はこの場合における
始期に関する規定である。
2 終期
終期とは、法律行為の効力の消滅に関する期限である。たとえば、「来
年の3月末日までは賃貸する」と約したような場合であり、解除条件に対
応する。
【過去問】
平14-3
3 確定期限と不確定期限
1 確定期限
確定期限とは、到来する時期も確定している期限である。たとえば、
「今
年の9月30日に」とか、「3か月後に」といった場合である。
2 不確定期限
不確定期限とは、到来することは確実だが、その時期がいつなのか不明
である期限をいう。たとえば、
「甲が死亡したときに」といった場合である。
− 108 −
〈MEMO〉
4 期限付法律行為の効力
1 債務の履行に付けた始期の到来
債務の履行に付した始期は、期限が到来するまでは履行を請求すること
ができない(民135条1項)。したがって、期限が到来すれば債権者は履行
を請求できるようになる。
2 法律行為の発生に付けた始期
法律行為の発生に始期を付した場合には、その始期が到来することによ
って法律行為の効力が発生する。
3 法律行為に付けた終期
法律行為に付した終期は、その期限が到来した時に法律行為の効力を消
滅させる(民135条2項)。
5 期限の利益
1 期限の利益とはなにか
期限の利益とは、期限が到来しないことによって当事者が受ける利益、
すなわち、始期または履行期の到来するまで義務を負わず、または履行の
請求を受けず、あるいは終期の到来するまで権利を失わない利益である。
たとえば、
「7月1日に弁済する」のように金銭消費貸借の債務の履行
について弁済期が定められている場合には、その弁済期が到来するまで(7
月1日になるまで)は弁済しなくてもよい、というのが期限の利益である。
2 期限の利益は誰にあるか
法律行為の当事者のうち期限の利益を有する者が誰なのかは、事例によ
って異なる。
① 債権者のみが有する場合 …………………… 無償寄託
② 債務者のみが有する場合 …………………… 無利息消費貸借
しかし、一般には債務者が有する場合が普通であることから、民法136
条1項は、期限の利益は「債務者のため」にあるものと推定した。
− 109 −
〈MEMO〉
3 期限の利益の放棄
期限の利益は放棄することができる(民136条2項本文)。したがって、
期限の利益が当事者の一方のみに存するときは、その当事者はいつでも自
由に期限の利益を放棄することができる。たとえば、無利息消費貸借の債
務者はいつでも弁済をすることができる。
【過去問】
平21-4
期限の利益は放棄することができるが、相手方の利益を害することはで
きない(民136条2項ただし書)。したがって、当事者双方のために期限の
利益が存するような場合に期限の利益を放棄する場合には、その放棄がな
かったとすれば、相手方が受けたであろう利益を塡補しなければならない。
たとえば、定期預金について銀行が期限の利益を放棄して弁済をするには、
期限までの利息相当分を塡補する必要がある(大判昭9.9.15)。
4 期限の利益の喪失(民137条)
⑴ 期限の利益の喪失とはなにか
期限の利益の喪失とは、期限の利益を有する債務者に信用を失うよう
な事由が生じたときに、債務者が期限の利益を主張することができなく
なることである。
期限の利益を主張することができなくなるということは、当然に期限
到来の効果が生じるというのではなく、債権者が直ちに請求することが
債権総論・履行遅滞
の時期
できるようになるということである。したがって、債権者が請求するま
では債務者は履行遅滞とならない。
⑵ 期限の利益の喪失事由
① 債務者が破産手続開始の決定を受けた場合(民137条1号)
もっとも、破産法103条3項は、債務者の破産手続開始の時に期限付
債権の弁済期が到来したものとみなす規定を設けたので、この規定が
適用される余地はなくなっている。
② 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少した場合(民137
条2号)
③ 債務者が担保を供する義務を負う場合にこれを供しない場合(民
137条3号)
− 110 −
〈MEMO〉
第4節 期間
1 期間の計算方法
⑴ 期間の起算点
期間を定めるのに、日、週、月又は年をもって定めた場合には、初日
は原則として算入しない(初日不算入・民140条本文)。たとえば、5月
8日に「今日から4日間」といえば、5月9日(午前零時)から起算して、
12日(の24時)までである。
ただし、期間が午前零時から始まるときは、初日を算入する(民140
条ただし書)。たとえば、5月1日に「5月8日から4日間」といえば、
5月8日午前零時から期間が始まるので、この日から起算して、5月11
日(24時)までである。
⑵ 期間の満了点
日、週、月又は年をもって期間を定めた場合の満了点は、期間の末日
の終了の時である(民141条)。
⑶ 期間の延長
期間の末日が、日曜日や休日にあたるときは、その日に取引をしない
慣習がある場合に限り、期間はその翌日に満了する(民142条)。たとえば、
4月25日に「今日から10日間」といった場合、期間の満了日は5月5日(24
時)であるが、5月5日は国民の祝日である子供の日であり、祝日に取
引をしない慣習があるのであれば、期間の満了日は翌日5月6日(24時)
となる。
⑷ 週、月又は年をもって期間を定めた場合の計算方法
週、月又は年をもって期間を定めた場合には、暦にしたがって計算す
る(民143条1項)。暦にしたがって計算するとは、平成21年に2月1日
を起算日に1か月といえば2月28日が、3月1日に1か月といえば3月
31日がそれぞれ満了日になるということである(月によって日数が違
う)
。
月又は年をもって期間を定めた場合に、最後の月に応当日がないとき
はその月の末日をもって期間の満了日とする(民143条2項ただし書)。
たとえば、8月30日に今日から3か月といった場合、起算日は初日不算
入で8月31日であるから最後の月は11月となる。しかし、11月には31日
はないから、その末日、すなわち11月30日が満了日となる。
− 111 −