環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う 関係法律の整備

環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う
関係法律の整備に関する法律案の概要
平成28年3月
内閣官房
環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
・ TPP協定の締結に当たっては、協定の国会承認だけでなく、国内実施法の成立が
必要である。
・ TPP協定の締結に伴い、同協定を的確に実施するため、関連する国内法の規定
の整備を総合的・一体的に行うこととする。
1.法案の概要
1.原産地手続、セーフガードに関する手続等の規定の整備を行う。(関税暫定措置法
及び経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定に基づく申告原産品に係る情報
の提供等に関する法律)
2.知的財産について、以下の規定の整備を行う。
(1)著作権等の存続期間の延長、著作権等を侵害する罪のうち一定の要件に該当
するものについて告訴がなくても公訴を提起できることとする等の規定の整備を
行う。(著作権法)
(2)発明の新規性喪失の例外期間の延長、特許権の存続期間の延長制度の規定
の整備を行う。(特許法)
(3)商標の不正使用についての損害賠償に関する規定の整備を行う。(商標法)
3.外国にある事業所において管理医療機器等の基準適合性認証の業務を行う認
証機関の登録、監督等の規定の整備を行う。(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び
安全性の確保等に関する法律)
4.独占禁止法違反の疑いについて、公正取引委員会と違反の疑いがある者との
間の合意により自主的に解決する制度の規定の整備を行う。(私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する法律)
5.肉用牛及び肉豚についての交付金の交付並びに輸入加糖調製品の砂糖との価
格調整に関する措置等の規定の整備を行う。(畜産物の価格安定に関する法律、砂糖
及びでん粉の価格調整に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法)
6.国際約束により相互に農林水産物等の名称を保護することとした外国の当該名
称を保護できることとする等の規定の整備を行う。(特定農林水産物等の名称の保護に
関する法律)
2.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日(別段の定めがある場
合を除く)。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(関税暫定措置法、経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定に基づく
申告原産品に係る情報の提供等に関する法律関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、原産地手続、セーフガードに関する手続等の規定の
整備を行う必要がある。
2.改正の概要
A.原産地手続(関税暫定措置法及びEPA申告原産品法の改正)
以下に係る手続等の規定を整備。
・ 我が国に輸入される貨物の原産性等を確認するために税関が行う調査
・ 我が国から輸出された貨物の原産性に関する輸出先税関への協力
B.セーフガード関係等(関税暫定措置法の改正)
①TPP協定締約国からの輸入が急増した場合、②TPP協定締約国が協定に
違反した場合、③TPP協定締約国からの牛肉、豚肉などの特定品目の輸入数量
が一定の水準を超えた場合等に、それぞれ関税率を引き上げる手続規定を整備。
C.その他整備が必要となる規定(関税暫定措置法等の改正)
・ TPP協定締約国から輸入される麦について、税関長の承認を受けた工場に
おいて飼料を製造する場合に限り、関税を撤廃する規定(日豪EPAに伴い導入
された規定の対象にTPP協定を追加)。
・ 修繕・加工のためにTPP協定締約国に一時的に輸出された後に再び輸入さ
れる貨物の関税を免除するための規定。
・ 農林水産省所管法律の改正等に伴う規定整備。
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(著作権法関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、著作権等の存続期間を50年から70年に延長するほか、著
作権等を侵害する罪のうち一定の要件に該当するものについて告訴がなくても公訴を
提起できることとする等の規定の整備を行う必要がある。
2.改正の概要
A.著作物等の保護期間の延長
種類
現行法
改正案
著作者の死後50年
著作者の死後70年
無名・変名
公表後50年
公表後70年
団体名義
公表後50年
公表後70年
映画
公表後70年(※)
公表後70年(※)
実演
実演が行われた後50年
実演が行われた後70年
レコード
レコードの発行後50年
レコードの発行後70年
著作物
原則
(※)映画の著作物の保護期間については、すでに協定上の義務を満たしている。
B.著作権等侵害罪の一部非親告罪化
現在親告罪とされている著作権等侵害罪について、以下のすべての要件を満たす場合
に限り、非親告罪の対象とする。
①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
②有償著作物等(※ ) について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、不当に害されること
(※)有償で公衆に提供又は提示されている著作物等
非親告罪となる侵害行為の例
親告罪のままとなる行為の例
販売中の漫画や小説本の海賊版を販売する行為
漫画等の同人誌をコミケで販売する行為
映画の海賊版をネット配信する行為
漫画のパロディをブログに投稿する行為
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C.アクセスコントロールの回避等に関する措置
著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(いわゆる「アクセスコントロール」)等
を権限無く回避する行為について、著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き、著
作権等を侵害する行為とみなす(※) とともに、当該回避を行う装置の販売等の行為につ
いて刑事罰の対象とする。
(※)刑事罰の対象とはしない。
【回避行為の例】
アクセスコントロール
視聴可能
アクセスコントロールの
回避装置
不正視聴
カ ード
暗号化等が施され、
契約者以外視聴不可
アクセスコントロールを
回避して不正視聴
D.配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与
放送事業者等がCD等の商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行う際に、実演家
及びレコード製作者に認められている使用料請求権について、対象を拡大し、配信音源
(※) を用いて放送又は有線放送を行う場合についても、使用料請求権を付与する。
(※)CD等の商業用レコードを介さずインターネット等から直接配信される音源
実演家
レコード
製作者
二次使用料請求権
配信音源から利
用曲を取得
配信音源に固定
放送・有線放送で
音楽を使用
放送事業者
有線放送事業者
配信音源
E.損害賠償に関する規定の見直し
侵害された著作権等が著作権等管理事業者により管理されている場合は、著作権者等
は、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額(複数ある場合は最も高
い額)を損害額として賠償を請求することができる。
【現行の損害額に関する規定】
・侵害物の数量×正規品の利益額
・侵害者利益
・使用料相当額
【改正案の規定】
使用料規程により算出した額を請求することができる
(例)カラオケ施設が、使用料規程において1曲1回あたり
120円が使用料とされている演奏を無断で1日30曲、
1,000営業日行った場合
120円/回×30回/日×1,000日= 360万円を請求可
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(特許法関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、発明の新規性喪失の例外期間の延長、特許権の存続期間の延長制
度の規定の整備を行う必要がある。
2.改正の概要
A.発明の新規性喪失の例外期間の延長
・ 特許法では、特許出願前に既に公表されている発明は、新規性がないものとして権利が認めら
れないのが原則であるところ、公表から6月以内に出願したものについて、例外として救済する
措置を規定。
・ TPP協定の要請を受け、この例外期間を現行の6月から1年に延長し、多様な発明をより適切
に保護する。
1年(現行6月)
公表内容を出願
学会等での公表
学会等での公表により、
新規性が否定されない
B.特許権の存続期間の延長制度の整備
・ 特許権の存続期間は、原則、出願から20年で満了するため、審査等に時間がかかった場合、
その分の権利期間が短くなる。
・ 特許出願の日から5年を経過した日又は出願審査の請求があった日から3年を経過した日の
いずれか遅い日以後に特許権の設定の登録があった場合に、特許権の存続期間の延長ができ
る制度を設け、適切な権利期間を確保する。
3年
出願
審査請求
特許権の設定の登録
いずれか
遅い日
出願から20年
A
B
5年
※延長される期間【B】は、期間【A】から、出願人の責めに帰する期間、審判・裁判に関する期間等を除外して算出。
※我が国では、出願から審査請求までの期間は平均2年、審査請求から特許権の設定の登録までの期間(標準審査期
間)は平均18.8月となっている。
TPP域内における制度調和を進め、知的財産権の保護と利用のレベルが必ずしも高いとは言え
ないTPP域内の新興国において、多様な発明についての特許権の取得と適切な権利期間を確保
する制度が整備されることにより、我が国企業等の特許権をより一層活かした事業展開を可能と
し、更なる海外事業展開を促進する。
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(商標法関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、商標の不正使用についての損害賠償に関する規定の整備を行う必要
がある。
2.改正の概要
・ 商標の不正使用に対する法定の損害賠償制度に関し、「生じた損害を賠償する」という
民法の原則を踏まえた上で、所要の措置を講ずる。
・ 具体的には、商標の不正使用による損害の賠償を請求する場合において、当該登録
商標の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害額として請求できるものと
する。
TPP域内における制度調和を進め、知的財産権の保護と利用のレベルが必ずしも高いとは言え
ないTPP域内の新興国において、権利者が賠償を得られやすい制度が整備されることにより、我
が国企業等のより効果的かつ効率的な侵害対策を可能とし、更なる海外事業展開を促進する。
商標の不正使用について
・ 「商標の不正使用」とは、登録商標と社会通念上同一の商標の使用による侵害を指す。
登録商標
<具体例>
全く同一の商標のみならず、書体違い等も不正使用。
損害額について
・ 現行法において、権利者は、所定の額を損害額とできる規定を選択してその賠償を請求する
ことができる。
<現行規定>
商標法第38条第1項:損害額の計算式
第2項:侵害者利益を損害額
第3項:ライセンス料を損害額
・ 改正後は、現行規定に加え、商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を損害
額(最低額)として請求することも選択可能となる。
<新規定案>
出願料 3,400円 + (8,600円 × 商品の種類数)
登録料 28,200円 × 商品の種類の数
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、登録認証機関(医薬品医療機器法に基づき、管理医療
機器、体外診断用医薬品等の認証を行うことができる民間の第三者機関)に関す
る規定の整備を行う必要がある。
2.改正の概要
・ 登録認証機関になることができる者は、日本又はTPP協定締約国で認証を
行う者とし、そのための規定を整備する。
・ 厚生労働大臣は、外国の登録認証機関による規定違反等を認めたときは、改
善請求等を行うことができるとともに、これに応じないときは、登録認証機関
に対し業務停止の請求を行い、又はその登録を取り消すことができる。
・ 厚生労働大臣は、外国の登録認証機関における検査を行おうとして拒まれる
等したときは、登録認証機関に対し業務停止の請求を行い、又はその登録を取り
消すことができる。
(医療機器に関する分類・規制)
小 ← リスク → 大
国際分類
具
体
例
クラスⅠ
クラスⅡ
クラスⅢ
体外診断用機器
MRI装置
透析器
鋼製小物
(メス・ピンセット等)
X線フィルム
歯科技工用用品
電子内視鏡
消化器用カテーテル
超音波診断装置
歯科用合金
人工骨
人工呼吸器
法の
分類
一般医療機器
規制
届出
管理医療機器
登録認証機関
による認証
クラスⅣ
ペースメーカ
人工心臓弁
ステントグラフト
高度管理医療機器
大臣承認
(PMDAで審査)
TPP協定締約国の認証機関も基準を満たして申請すれば登録認証機関になる。
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、独占禁止法の違反の疑いについて公正取引委員会と事業者
との合意により自主的に解決する制度の導入に関する規定を整備する必要がある。
2.改正の概要
・ 独占禁止法違反の疑いについて、公正取引委員会と事業者との間の合意により
解決する仕組み(確約手続)を導入する。
・ このような仕組みは、競争上の問題の早期是正、当局と事業者が協調的に事件
処理を行う領域の拡大に資するものである。
<新たに導入する仕組み(確約手続)の概要>
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(畜産物の価格安定に関する法律、砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律、
独立行政法人農畜産業振興機構法関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)として、
① 肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)及び養豚経営安定対策事業(豚マルキン)を法制化する
② 国産甘味資源作物の安定供給を図るため、加糖調製品を新たに糖価調整法に基づく調整金の対象とする
ための規定の整備を行う必要がある。
2.改正の概要
A.畜産物の価格安定に関する法律の改正
・ 肉用牛・肉豚の標準的な販売価格が標準的な生産費を下回った場合に、(独)農畜産業振興機構がその
差額を補塡するための交付金を交付。
併せて、旧来の買入れ・保管・売渡しによる市場介入・需給操作を行う牛肉・豚肉の価格安定制度を廃止
(近年発動実績が全くなし)。
交付金
標準的な
販売価格
物財費等
標準的な生産費
家族
労働費
※ 上記に合わせて、独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正し、機構の業務の規定を整備。
B.砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律の改正
・ 砂糖の価格調整に関する制度を拡充。機構が輸入加糖調製品(ココア調製品等)から調整金を徴収し、
これを財源として、国内産糖への支援に充当することなどを通じて、国内で生産される砂糖の競争力を強
化。
【現行】
国費
調整金
充当
国内産糖
コスト
国内産糖
への支援
国内価格
【改正後のイメージ】
新たな調整 金を財 源として、
既存の調整金を引下げ
追加
国費
調整金
充当
調整金
支援 財源 充当
調整金
調整金
輸入糖価格
【輸入糖】
【国内産糖】
【輸入加糖調製品】
【輸入糖】
【国内産糖】
※ 上記に合わせて、独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正し、機構の業務の規定を整備。
3.施行期日
環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要
(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律関係)
1.背 景
TPP協定の実施に伴い、攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)として、我が国の地理
的表示(GI)の海外での保護を通じた農林水産物の輸出促進を図るため、諸外国と相互に地理
的表示(GI)を保護できる規定の整備を行う必要がある。
2.改正の概要
【 地理的表示法】
* Geographical Indicationの略
現
行
・ 生産地と結びついた特色ある農林水産物等の名称(地理的表示 = GI*)
を生産地や品質等の基準とともに登録・保護。
・ あおもりカ シス(青森県)
・ 但馬牛(兵庫県)
・ 平成28年2月時点で計10産品を登録。
・ 神戸ビ ーフ(兵庫県)
ン (北海道)
・ 海外の産品についても、個別の申請を受付。他方、 ・・ 夕張メロ
八女伝統本玉露(福岡県)
・
江戸崎かぼち
ゃ(茨城県)
我が国の産品が海外でGI保護を受けるためには、
・ 鹿児島の壺造り黒酢(鹿児島県)
・くまもと県産い草(熊本県)
生産者自身による海外での申請が必要。
Cv
・くまもと県産い草畳表(熊本県)
・伊予生糸(愛媛県)
TPPによる変化
・ TPP協定において、諸外国と相互にGIを保護する場合の共通ルール*が確立
* ① 2国間・多国間の国際協定により、GIの相互保護が可能(個別の申請がなくても保護)
② 事前の異議申立手続の義務化、GI保護の拒絶事由の明確化 など
国際協定によるGIの相互保護の仕組みを導入
我が国と同等水準と認められるGI制度を有する外国とGIリストを交換し、
当該外国のGI産品について、所要の手続を行った上で、農林水産大臣が指定
改 正 後 の イ メ ー ジ
外国
日本
我が国で外国GIを保護
⇒ 模倣品の排除による
誤認・混同の防止
輸入された不正表示産品
の譲渡しを禁止
我が国生産者の
海外での申請負担の解消
外国で我が国GIを保護
⇒ 我が国GI産品の
ブランド化の促進
GI の海外での保護を通じた農林水産物・食品の輸出促進に資する
3.施行期日
公布の日から起算して2月を超えない範囲内において政令で定める日。
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