日韓共同理工系学部留学生事業

専 門 日本語 教育 研究 第2号2000
情報最前線
「日韓共 同理 工系学 部留学 生事 業」 と専 門 日本語教 育
古城 紀雄
(大阪大 学留学 生セ ンター)
○ 「日韓共同理工系学部留学生事業」
今年度開始 された 「
日韓共同理工系学部留学生事業」
(以下、日韓プ ログラム)は 、金大 中大韓 民国大統領が
な規 程や予備教育体制な どを成案 し、留学生委員会お よ
び評議会の議 を経て、
すべての受 け入れ体制の整備 を完
了す るプ ロセスを採 ってい る。
一昨年10月 に 日本 を公式訪問 し
、故小渕首相 との会談
また、 当該 留学 生の 日本 での予備教 育期間(10月 ∼
の結果 合意 された 「
日韓共同宣言―21世 紀に向けた新
3月)の 所属先が規程上 「
留学生セ ンター」になってい
たな 日韓 パー トナー シップ―」に基づいてい る。具体的
ることもあ り、日本語教 育お よび生活支援等 を中心 に同
には、韓国の前途有為な高等学校卒業者(応 募時17∼
セ ンターでの積 極的な取 り組みが求 められている。
19歳 〉を、 日本 の25の 国立大学の理 工系学部 に、初年
度100人 、
以後5人 ずつ増 や して10年 後には250人(し
○本 プログラムの予備教育内容 と専門 日本語教育
たがって最終 的には学部1∼4年 生1000人)を 受 け入
受 け入れの大学では、すでに、理工系の専 門 日本語教
れ る計画である。これ らの学生の待遇 は、日本政府(文
育 内容 をも包含 したきめ細やかな 日本語予備 教 育、専門
部省)奨 学金学部留学生 と同様であ り、両国政府が同等
教 科教育、およびホス トファミリー との出会 いや ホーム
に経 費を負担す るもの とされてい る。
ル ーム活動等の生活支援 を行いなが ら、
本 プログラムの
本 プログラムは、学部4年 間 とそれ に先立って実施 さ
始動 に積極 約な役割を果た しつつ ある。
れる予備教 育期 間1年 間(前 半6ヶ 月は韓国 で、後半は
渡 日後6ヶ 月間で行 う 「
予備教育」は、日本語教育 と
原則受 け入 れ大学で実施)の 合計5年 間で行われ る。初
専 門教科教 育 とに分類 されている。もとよりこの教 育は
年度 である本 年は、開始がや や遅れ たものの、10月 下
渡 日前6ヶ 月 間の当該教 育 と連動 して行 われ るべ きで
旬に全国の留学生セ ンターを有す る国立大学へ配 置 さ
あ り、さらに重要な ことは、日本での 日本語お よび 専門
れた(来年か らは基本的 に10月 初旬までに来 日の予定)。
教 科の二つ の教 育が緊密 に連携 ・
調整す るべ きこ とであ
当該留学生は、
そ こでの半年間の 日本語お よび専門教科
る。すなわち、韓国において受 けた 日本語教 育がかな り
(数学、物理、化学)の 予 備教育を経 て、来年4月 に各
ハー ドであった としても学部 での講 義を十分理解 でき
学部へ入学する。このプログラムに より、新 たに韓国か
るまでには至っていない とい う判断 と、その到 達能力が
ら学部 レベル に 日本 国費奨学金留学生を派遣す る仕 組
教 科 に よっ てば らつ きがあ る とい う現実 の も とで 、
みが取 り入 れ られ ることになった。
一方
、日本の受け入 れ国立大学に とっては、東 京外国
(1)講 義 のよ り深 い理解を可能 ならしめる教育、と、
語大学お よび大阪外国語大学 を除き、学部入学 前の学生
れ 内容 をよ く突 き合 わせ相互 に認識 しつつ進 め られ る
をいかな る形 において も取 り扱 ったこ とがな く、規程の
こ とが肝 要であろ う。
(2)理 系教 科を中心 とした専門 日本語教 育が、それぞ
整備 な どを含 めて新 しい体制作 りが求 め られ る ことに
幸い、
大阪大学では本プ ログラムについて全 学の 留学
なった。例 えば大阪大学においては 「
留学生委員会」の
生委員会 で取 り組 む ことが実現 し、受け入れ部局で ある
もとに 「
日韓共 同理工系学部留学生受入方法検討 ワーキ
工学部、
基 礎工学部 および理学部の留学生委員会委員 と
ング」が設置 され 、同 ワーキングの検討 をもとに、新 た
合計7名 の留学生専 門教育教官講 師が、各専 門教科(数
学、物理、化学)の ア ドバ イザーあるいは コーデ ィネー
留学生である。したがって 日韓 プログラムは、従来か ら
ター を務め る体制 となっている。
日本の大学で行われ てい る、多様 な背景 をもつ 国費留学
なお、授業担当講師の配置 にも配慮 している。日本 語
教 育にあっては、
理系バ ックグラウン ドをもつ 日本語教
生 を対 象 とした予備教 育の場 合 とはかな り異な るもの
であると言 ってよいであろ う。
員や、高度 な韓国語能力 を有 し韓国文 化を深 く理解す る
繰 り返 しになるが、極 く初級段階 は別 として、留学生
日本語教 員の配置を行 っている。また、日本人講師のみ
に求め られ る日本語能力は、あくまで当人の専門分野 に
な らず、当該 大学に学ぶ韓国 人大学院生で ある留学生諸
おける勉学 ・
研 究に益するものでな くてはならない。そ
君 にも、
教 科教育の講師 を依頼するシステ ムをとってい
の意味 で、この 日韓プ ログラムの予備教 育も例外ではな
る。
く、この実施 を機 に、本研 究会が 中心的に役 割を果 た し
本プ ログラムは、スター トしてまだ 日が浅いため多 く
つつ、
専門 日本語教育に関する研究 を推 進 してい く必 要
を論 ずることはで きないが、専門 日本語教 育の体系化お
がある。日本 に留学する、多様 な履歴の学習者が専門分
よび教授法研究を発展 させ る1つ の重 要な領域 になる
野の講義を正確 に理 解 し、日本 語文献の読解を行い、か
であろ うと感ず る ところである。当該留学生達 は、母 語
つ、専門分野 に関する 日本語を用いたプ レゼンテー シ ョ
を共 有 し、また、在籍段階が学部 レベルであるた め年齢
ン、お よび レポー トや 論文の作成が行 えるよう、専 門 日
が低い。さらに、彼 らは 日韓両国で1年 間継続 して予備
本 語技能の育成 について、
教 授法 や教 材開発 な ども含 め
教育を受 ける、理 工系分野を専 攻す る学習者 である。こ
て
の よ うに、本プ ログラムの対象者は、予 備教育前 の レデ
ばな らない。
ィネスの多 くの点で均 一性 あるいは類 似性が見 られ る
討論 し、この分野の体系化を 目指 してゆかなけれ