セグメント細菌(SFB)による Th17 細胞誘導機構の解明

セグメント細菌(SFB)による Th17 細胞誘導機構の解明
理研横浜研究所統合生命医科学研究センター消化管恒常性研究チーム チームリーダー 本田 賢也
【目的、背景】消化管にはユニークな免疫細胞が多数存在している。中でもインターロイキン
17 を高産生する T 細胞(Th17 細胞)は消化管特異的に多数存在している。Th17 細胞は、細菌・
真菌に対する感染防御に重要な役割を果たすと同時に、自己免疫・アレルギー・慢性炎症の原
因となる。したがって Th17 細胞の分化を人為的に増加させることができれば、感染症制御に
繋がり、逆に減少させることが出来れば、自己免疫疾患・アレルギー・慢性炎症治療に繋がる
と考えられる。私たちは、無菌マウスをベースとするノトバイオート技術を応用することで、
Th17 細胞が腸内常在細菌によって分化誘導されることを見出した。なかでもセグメント細菌
(segmented filamentous bacteria、以下 SFB と略す)が強力に Th17 細胞を誘導することを
見出した(Cell, 139:485-98, 2009)。SFB はマウス小腸に生息し、その上皮に強力に接着す
る細菌である。SFB は、マウスだけではなく、ラットの消化管にも生息している。ラットに生
息する SFB は、マウスの SFB と形態もゲノム配列も類似しているが、マウス SFB とは別の種に
属する。そこで本研究では、マウス SFB とラット SFB を比較することで、マウス SFB による Th17
細胞誘導における、責任分子・メカニズムを解析・同定することを目的として研究を推進した。
結果)まずマウス SFB とラット SFB を、それぞれ無菌マウスに投与した。ラット SFB はマウス
消化管内で増殖したものの、マウス SFB のような小腸上皮への接着は見られなかった。さらに
マウス SFB が強力に Th17 細胞を誘導したのに対し、ラット SFB は Th17 細胞を全く誘導しなか
った。小腸上皮細胞を採取して、mRNA 発現を RNA シーケンスによって検討したところ、SFB が
接着したときに Serum amyloyd A1(SAA1)や RegIIIg の高発現が見られた。次に、無菌ラットに
マウス SFB とラット SFB を投与したところ、ラット SFB が上皮に接着し Th17 細胞を誘導した
のに対し、マウス SFB はラット上皮に接着せず、Th17 細胞も誘導できなかった。従って、SFB
の上皮への接着は、宿主特異性があり、接着できない場合、Th17 細胞が誘導できないことが分
かった。接着によって上皮に誘導される SAA1 等が Th17 細胞誘導に関与する可能性が示唆され
た。
同じような現象は、病原性細菌である Citrobacter rodentium でも見られた。即ち、野生型
C. rodentium はマウス上皮細胞に接着し、Th17 細胞をしたが、上皮への接着に障害がある Deae
ミュータントは、マウス消化管管腔では増殖するものの上皮には接着せず、Th17 細胞の誘導に
も障害が見られた。
最後にマウス SFB とラット SFB を同時に無菌マウスに投与したところ、接着するマウス SFB
が有意に増殖し、ラット SFB は排除されることが分かった。即ち上皮への接着は、細菌に宿主
への生着に優位に働くと言うことが分かった。
考察)現在までのところ、SFB そのものはヒト腸管では見つかっていない。しかし同じ特性を
持つ腸管常在菌は存在すると考えられる。上皮への接着を指標としてスクリーニングすれば、
SFB と同等の機能を持つ細菌を同定・単離する事が出来るかもしれない。また、上皮に接着す
ることがなぜ Th17 細胞誘導につながるのか、その詳細な分子メカニズムを明らかにすること
は出来ていない。SAA1 等の関与が考えられるので、今後 SAA1 欠損マウスを作製して、その関
与を検討する必要がある。