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0 倫理では何を学ぶか?
What should I do ?
※ギャングエイジ
:かつては、児童期 の子どもたちが独自の集団を作っていた
[003] 文化的現象としての青年期の発生
私は何をなすべきか?
小さな人
1 I am a youth ──「私」は「青年」である(発達[青年]心理学)
こども
こども から 大人 への 過渡期
……「こどな」「境界人(周辺人)」(レヴィン)
⇒特有の心理的特徴と文化(若者文化)を持つ
※発達段階の区分と学校制度
乳児期
幼児期
児童期
幼稚園
青年期
前期 中期 後期
小学校 中学校 高校 大学
成人期 壮年期 老年期
特徴
第一反抗期
ギャングエイジ
第二反抗期
発達課題
基本的信頼感
自律性(基本的生活習慣)
自主性
生産・勤勉性
アイデンティティの確立
親密さ
世代性
自我の完全性
こども
失敗の状態
不信
恥・疑惑
罪悪感
劣等感
アイデンテイティ拡散
孤立
停滞
絶望
(成年式 )
→
大人
↓ 資本主義の発達などによる社会の複雑化
身体的成熟以外の大人の条件
が増え、すぐに 大人 になれなくなった。)
[002] ライフサイクル(Life Cyle)
アメリカ の心理学者、 エリクソン
の用語。人生周期。人生は8段階に分かれ,
人はそれぞれの発達課題を解決しながら段階的に自己実現する。
発達段階
乳児期
幼児期
児童期
学童期
青年期
成人期
壮年期
老年期
→
という考え方は、中世にはなかった。
~アリエス
『 子供の誕生
』
成年式:通過儀礼(イニシエーション,initiation 人生の節目に行われる儀礼 ex
結婚式・葬式)の一つ。日本では七五三・成人式が現在行われている。この儀礼を
経た者を、 大人
として社会が認める。~ バンジージャンプ
cf この段階にある社会では、思春期の葛藤など青年期特有の現象はなかった。
ゆえに青年期は生物学的現象ではなく、文化的現象。
~マーガレット・ミード『サモアの思春期』 ←批判あり
[001] 「青年」とは何か?
は
大人(生産活動可能)
cf 「こども」= 保護の対象
人生の
発達段階
は、通常、 児童期
→ 青年期
→ 成人期
等に分けられる。 青年期 は、近代社会の成立とともに文化的現象として現れた。
青年期
→
→
若者(青年) →
[004] 現代の青年期の傾向
① 早く青年になる
② 遅く成人になる
※青年期の延長
7
10
大人
理由 生活の向上
理由 社会の複雑化
14
17
22
30
17-18C
こども
おとな
initiation
20C初
こども
青年
こども
青年
おとな
20C中
おとな
現 在
こども
1 2
児童
プレ青年期
青年
プレ成人期
おとな
Systema Ethicae Tainaka (ver. 2015)
2
[007] 青年期の心理的特徴
青年期の特徴
青年期は、第二次性徴
の発現からはじまり、アイデンティティの確立 で終わる。その
間、青年は、 自我 を発見し、第二反抗期 を経験しモラトリアム期間を過ごす。
自我( エゴ
)
他人から区別された自分 。
①自我のめばえ ( 幼児期
)。母親と自分との違いを
↓
理解する。「第一反抗期」
②自我の分化
( 青年前期 )
↓
「自分だけの自己」から
「他人に見られる自己」を意識するようになる。
③自我の確立
アイデンティテイ が確立し、自己に対する
揺れや不安がなくなる。
[005] 青年期についての形容
第二の誕生
ルソー
の『エミール
』による。
・第一の誕生:生物としての誕生
・第二の誕生:(性差などの)自我の芽生えによる精神的誕生
マージナルマン アメリカの心理学者(ドイツ人)の レヴィン
の用語。
( 境界人
) 青年は、こどもの集団にも属さず、おとなの集団にも属さない中間
( 周辺人
) の存在だから。
しつぷう ど とう
疾風怒濤
Sturm und Drang(独)。嵐のように激しく揺れ動く青年期の状態
(シュトルムウン を表す。18 世紀ドイツで使われた用語。ex ゲーテ・シラーの作品
トドランク)
第二反抗期
自我の確立 の前に、親や教師など自分の周囲に対して反抗的
になる時期。 心理的離乳
に相当(ホリングワースの用語)。
~最近では、① 陰性化
② 消滅
の問題
モラトリアム
執行猶予・支払猶予。本来は、経済用語。 エリクソン が青
年期の心理を「 心理的モラトリアム
」と呼んだ。
定義= 青年が社会に入る前の心理的・社会的猶予
特徴=①帰属意識
に乏しい。 ② 自己中心 的
③自己定義の回避・延期
④一時的な社会的関係
⑤あれもこれも
⑥中立的 評論的
~現代は、 アイデンティテイ拡散の危険あり
※第二の誕生
(ルソー『エミール』中巻)
Nous naissons, pour ainsi dire, en deux fois : l'une pour exister, et
l'autre pour vivre ; l'une pour l'espèce, et l'autre pour le sexe.
我々は、いわば二度生まれる:一度目は存在するため、次は生きるために;一度目は(ヒト
という)種として、次は性別を持ったものとして。
[006] 性徴
第一次性徴
胎児 期に発生。男女の 生殖器
の形態上の違い。
第二次性徴
青年前期に発現。 生殖器 以外の身体 各部に生じる性差。
※若者文化(youth cluture , youth subculture)
=サブカルチャーとして青少年層(男女は問わず)に支持されている文化的形態や活動。
・1920 年代
モボ・モガ(大正末期-昭和初期頃のムーブメント)
・1960 年代
アイビー
・1970 年代
ヒッピー
・1970-90 年代 アニメ 70 年代『宇宙戦艦ヤマト』,80 年代『ドラゴンボール』,90 年代『美少女戦士セーラームーン』
・2000 年代
3 4
ニート
not in education, employment or training
Systema Ethicae Tainaka (ver. 2015)
[009] 欲求不満と葛藤
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欲求と適応
欲求不満
frustration
青年期には、心理上の揺れから、欲求
が十分に満たされない 欲求不満状態に
しばしば陥る。欲求不満や葛藤などによる緊張を減退させる手段として人間が無意識
に行うものに防衛機制(自我防衛反応・適応機制 )がある。こうした試みの繰り
返しの中で人間のパーソナリティが形成されていく。
[008] 欲求
人はなぜ行動するか?
心 : 欲求(食事をしたい)
↓
※欲求=動因(行動の原因)
身心: 適応(パンを買いに行く)
一次的欲求
(生理的)
個体保存(呼吸、排泄)・種族保存(性欲、母性)
二次的欲求
(心理・社会的)
安全・所属(集団帰属)と愛情・ 承認 ・自己実現
欲求
葛藤
conflict
が満たされない状態。
ex 彼女が出来ない
矛盾する欲求
が同時に生じた状態。ex 二人から告白
① ++ 接近・接近 :ex カレーもラーメンも食べたい
② -- 回避・回避 :ex 掃除したくない・叱られたくない
③ +- 接近・回避 :ex ケーキ食べたい・太りたくない
[010] 適応
ex 好きな女子に告白したら、「嫌いよ」と言われた。
合理的解決
他の子を探す……代理の目標設定・+浄化・建設的行動
攻撃・近道反応
ストーカーになる……反抗・復讐・非行・乱暴
防衛機制(適応機制)
失敗反応
自我防衛機制
。無意識のうちに不満・葛藤に反応
引きこもる・自殺する……適応できない状態
※マズロー(米)の欲求階層説
自己実
現欲求
成長
欲求
[011] 防衛機制(適応機制)
抑圧
承認欲求
合理化
同一視
投射
反動形成
逃避
二次的欲求
所属と愛情欲求
安全欲求
一次的欲求
生理的欲求1
欠乏
欲求
退行
置換 代償
昇華
5 6
欲求不満に対する緊張を起こさないために 意識から遠ざける
ex 記憶喪失・多重人格
欲求行動に失敗したとき 、それを 理屈付けようとする
同一化・自分にないものを他者に見つけることで欲求を満足する
抑圧した欲求に対して、同じ欲求をもつ他人を攻撃して非難する
欲求不満に対して、 表面上欲求と反対の行動をとる
適応できない状況を逃げること
①現実への逃避 ②空想への逃避
③病気への逃避
現実の課題から逃れるために 以前の発達段階に戻る
充足しない欲求を 別のもので代用する
充足しない欲求を 社会的に価値の高いもので代用する
Systema Ethicae Tainaka (ver. 2015)
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[015] 性格の類型1 ◆ユング
の類型
思考・感情・感覚・直観の四分野での関心の類型。
パーソナリティ
人間のパーソナリティ は、気質
・能力
・ 性格
から成り、 遺伝 だ
けではなく、環境
の影響など後天的に形成される部分が多い。パーソナリティ
の分類には ユング
や シュプランガー のものがある。青年期はパーソナリティ形
成期である。
性格
統一
個人
人格
を 他の人
倫理的な意味を含む
と区別する特徴
パーソナリティ
[013] パーソナリティの三要素
パ
気 質
ー
temperament
ソリ
ナテ
能力
ィ
abilty
性 格
character
[014]
外向型
心のエネルギー(リビドー)が自分の 外部 に向かう
[016] 性格の類型2 ◆ シュプランガー の類型
理論型
経済型
審美型
的・ 全体的 的な 個人の特徴
パーソナリティの意志的側面(=行動 ・ 考え方)の特徴的な型
ex 金にこだわる
個性
心のエネルギー(リビドー)が自分の 内面 に向かう
ドイツの哲学者シュプランガーの分類。何に 価値
[012] パーソナリティと類似語
パーソナリティ
内向型
宗教型
権力型
社会型
最高・完全の善に価値
他人の支配に価値
他人との協調に価値
[017] 性格類型に関する用語
◆他人指向 :リースマン『孤独な群衆』現代大衆社会における孤独と不安から,他者
ゆだ
による承認を強く求め,その評価基準に身を委ねて他者に従う性格
◆やまあらしのジレンマ :他者と距離が遠すぎると孤独,近すぎても摩擦
[018] 心理学の二大巨人── 無意識の世界を発見したのは誰か?
感情の傾向。 先天的。
フロイト (1856-1939)
知的はたらき。
知能+技能
細長(やせ)型
非社交的、無口、敏感と鈍感の二面性
粘着気質
闘士(筋骨)型
きちょうめん、きれい好き、義理堅い
循環気質
肥満型
社交的、融通が利く、ものにこだわらない
人。『精神分析学入門 』
人間を行動に駆り立てる根本のもの。性衝動
を
起こさせる。
意識と無意識
人間の心 ① エス(イド) :本能的(性)欲求
② 自我
:欲求と良心を調整
③ 超自我
:社会規範が心理化→良心
→三つの調和がとれないと 精神的不適応 が起きる
エディプスコンプレックス
無意識下の父親への対抗意識(母を独占するため)
ユング
(1875-1961)
スイス
人。『自我と無意識の関係』
の気質類型
分裂気質
オーストリア
リビドー
意志の傾向。気質・能力
が具体的行動に現れる
◆ クレッチマー
客観性に価値
金銭的利益に価値
美に価値
を置くかで分類。
個人的無意識 と普
個人的無意識: 自我 に基づき意識可能。
遍的(集合的)無意識 普遍的無意識:意識されず 神話・伝説に現れる元型
7 8
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[021] アイデンティティ拡散と現代青年の病理
社会化とアイデンティティの形成
パーソナリティ
が円満に形成された青年は、やがて 社会化
し、最終的にアイデン
ティテー を確立することで、成人期に移行する。自己確立の欲求が充足されるこ
とが 自己実現
である。
[019] 社会化と成人の条件
◆社会化と個性化
モラトリアム人間
青年期の延長傾向を受けて、自己決定を引き延ばす
◆若者文化の社会的承認 ◆大人社会の魅力喪失
◆モアトリアムの快適さ
ピーターパンシンドローム
自立忌避
。
成人になることを拒否する男性。
思考の魔術(そのうち何とかなる)。
母親へのとらわれ。父親へのこだわり。
~最近では ひきこもり という現象が問題化。
パラサイト・シングル
パラサイト=寄生。シングル=未婚者。
成人後も親に生活を寄生している未婚者のこと。
ニート
非労働力人口の中から学生と専業主婦を除き、求職活
動に至っていない者(厚生労働省)
個性化(Personalization) 自分独自の行動様式を身につけること
社会化(Socalization)
社会の一員としての行動様式を身につけること
◆成熟した人格の特徴(オールポート=米の心理学者)
①自己意識の拡大
②他者との共感的な関係 ③安定した情緒による自己受容
④現実に接する能力 ⑤自己の客観視
⑥人生哲学の確立と精神の余裕(ユーモア)
not in education, employment or training
◆ハヴィガーストの発達課題
①身体成熟
②社会の文化圧力
"Bridging the Gap",1999(イギリス社会的排除防止局による調査報告書)初出
③個人的な動機や価値意識
ステューデント・アパシー
[020] アイデンティティの確立
◆ アイデンティティ ( 自我同一性
)
エリクソン
の用語。identity。主体性。
「 自分は何者か 」「 自分は社会でどんな役割を果たすか」に答えること
=自分が自分であることの「確信」。自尊感情と関係。
~アイデンティティ確立に必要な自己意識
実存的感覚 :過去の自分と現在の自分を同一のものとして受け入
れ、かつ、未来に向かって生きているという実感
社会的同一性:自分が社会の中に受け入れられていて、自分も社会
の役に立っているという意識
学生の無気力・無関心現象。五月病。
[022] 自己実現と人生
フランクル
オーストリアの精神科医
『夜と霧』
ナチスによる強制収容の体験をもとに,
人間の尊厳に満ちた生き方を追求した。
神谷(かみや)美恵子
日本の精神科医
『生きがいについて』
ハンセン病患者との出会いの中で,人間の生きがいを
追求。「もっとも生きた人は,もっとも長く生きた人ではなく,生
9 10
きていることをもっとも多く感じた人である」(『エミール』)
Systema Ethicae Tainaka (ver. 2015)
6 I am a Human ──「私」は「人間」である(文化人類学・自然人類学)
リンネ によって ホモ・サピエンス と名付けられて以来、 人間 を 定義
する様々な試みがなされてきた。
※動物に理性はあるか
ケーラーの実験= チンパンジーも洞察学
習をする。
・ケーラー『類人猿の知恵試験』岩波書店
[023]「人間」とは何か?
ア 動物と「人間」を区別するもの
ホモ・サピエンス
↓「汝自身を知る」
リンネ
知性(=理性)あるヒト
※「狼に育てられた子」の虚構?
狼に育てられると人間らしさが育たない。
→捨てられた自閉症児?
・A.ゲゼル『狼にそだてられた子』家政教育社
・鈴木光太郎『オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険』新曜社
イ 文化から見た「人間」の定義──人間としての特徴は何か
※社会的動物
(アリストテレス『政治学』[1253 α] )
ὁ ἄνθρωπος φύσει πολιτικὸν ζῷον (ho anthropos fusei phlitokon zoon)
ホモ・ファーベル
ベルクソン
工作人。道具を作る。
ホモ・ルーデンス
ホイジンガ
遊戯人。遊びが人間活動の本質
ホモ・レリギオ-スス
エリアーデなど
宗教人
ホモ・エコノミクス
アダム・スミスなど 経済人
社会(ポリス)的動物
アリストテレス
社会(ポリス)に生きる
シンボル的動物
カッシーラー
シンボル(象徴)→言語・記号を操る
考える葦
パスカル
葦=弱いがしたたか
cf「疾風に勁草を知る」
中間者
パスカル
天使と獣,偉大と悲惨
非合理的存在
ドストエフスキー
『罪と罰』
ἄνθρωπος: 人間 πολιτικὸν:ポリスの ζῷον:動物
ヒトは本性上ポリス的動物である。(男女→家族→村→ポリス と関
係を拡大するから)
※考える葦
(パスカル『パンセ』)
L'homme n'est qu'un roseau, le plus faible de la nature; mais c'est un
roseau pensant.
homme:人間 roseau:葦 faible:弱い pensant:adj. 考える
人間は葦にすぎない、自然中で最も弱い;しかし、それは考える葦である。
※カントの四つの問い
(1) 私は何を知りうるか?
(2) 私は何をすべきか?
(3) 私は何を望みうるか?
(カント『論理学』Ⅸ-25)
Was kann ich wissen?
Was soll ich tun?
Was darf ich hoffen?
形而上学
道徳
宗教
Was ist der Mensch?
人間学
↓
(4) 人間とは何か?
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Systema Ethicae Tainaka (ver. 2015)