学生相談室だより No.30

2013 年 4 月 1 日
学生相談室だより No.30
東京富士大学・大学院/東京富士大学短期大学部
学生相談室カウンセラー
松田美登子
「学生相談室だより」では、現代の若者に多い問題や悩みをテーマとして取り上げ、わかりやすくお伝えしています。ぜひ、自
分の問題解決やこころの発達に役立てていただきたいと思います。今回から 3 回に渡って「メンタルヘルス」を取り上げます。
メンタルヘルスを考える①
―ストレスと病気との関連性について―
メンタルヘルスの問題は、大人だけでなく子ども世代でも大きくクローズアップされてきています。ストレスに起因する「心の不健康」として、
神経症やうつ病、心身症のほか、睡眠障害、アルコール依存症、摂食障害、不登校などが挙げられます。さらに、ストレスは「心の不健康」だけ
でなく、いろいろな病気の引き金になったり免疫機能に影響を与えることがわかってきています。免疫とは、人間が持っている自然治癒力の
一つで、体に異物が侵入すると、それを識別して抗体を作って攻撃する働きのことです。ガン細胞を攻撃する NK(ナチュラル・キラー)細胞と
ストレスの関係に関する研究も行われています(星,1993)。これらの研究結果から、ストレス反応によって免疫系の働きが抑制され病気に対す
る抵抗力が低下することが明らかにされるなど、病気との関連性に関する研究が進んできています。
ステプトーとワーデル(Steptoe,A.&Wardle,J.,1994)は、ラザルスとフォルクマンのストレスと病気とのメカニズムを応用して、図に示すような
「ストレスと病気とをつなぐ病気罹患性モデル」を提唱しています。ストレッサー(ストレスの原因)の大小が病気の直接の原因ではなく、個人
のコーピング資源がストレス反応に大きく影響します。すなわち、個人のこれまでの経験やパーソナリティ(性格)、支援者の有無、「自分で
問題解決できる」と考えるセルフ・コントロール感などによってストレスの感じ方が異なるということです。さらに、これらのストレス反応は一直線に
向かうのではなく、①生理学的経路と②認知-行動的経路の 2 つのルートを介して、最終的に健康-病気の結果を決定すると仮定したの
です。 どちらのルートが選択されるかは、その時々のケースによって異なると考えられます。
私たちのメンタルヘルスの向上のためには、これらのストレス研究を基に、ストレスと上手に付き合うスキルの開発と実践に向けた研究がさら
に望まれます。次回は、「ストレスへの対処法(仮称)」をテーマとします。
(疾病罹患性素因)
コーピング資源
・先行経験
・コントロール感
・パーソナリティ
・ソーシャルサポート
心
理
生
物
ス
ト
レ
ス
反
応
①
生
理
学
的
経
ストレス反応活性化
(病気回復の遅れ)
免疫機能低下
(病気の罹患性UP)
基礎疾患の変調
路
②
認
知
・
行
動
経
路
情動表出行動
(怒りは冠動脈性心疾患リスクUP)
健康リスク行動
(喫煙・飲酒・過食)
自覚症状のバイアス
引用文献
星恵子(1993)「ストレスと免疫-“ストレス病”
はなぜ起こる、どう防ぐ」講談社
Steptoe,A.,&Wardele,J.(1994) 「 Psychosocial
(受診の遅れ・ドクターショッピング)
process and health」.Cambridge:Combridge
 ストレッサーに対する個人のコーピング資源がストレス反応に重大な影響を及ぼす。
 さらに、①生理学的経路と②認知・行動的経路の2つのルートを介して、
 最終的に健康-病気の結果を決定する。
図 ストレスと病気とをつなぐ病気罹患性モデル
(Steptoe,A.&Wardle,J.,1994を修正)
University Press.