Japanese Psychological Review 2014,Vol. 57, No. 3, 337 - 349 真の自己としての表面的な自己 河 野 哲 也 立教大学 Superficial Self as True Self Tetsuya KONO Rikkyo University The purpose of this study is to show that fashion is essential for the self of human beings living in a modern society. Fashion, in essence, is consist of change for changeʼs sake, and is a diversion to get away from the existing world. Fashion is a pure form of play that does not have any value or purpose behind it. Wearing fashionable clothes or making up is a metamorphosis. Fashion suggests the groundlessness of the world itself. Modern people are those who are aware of the groundlessness of the world. However, fashion tempts at the same time ; it must be seen by others. By being seen by others in our own fashion, we return from our diversion out of the world to the inside of the world. Those newly created are the groundless existents. Fashion diffuses groundless objects throughout the world and fixes them in the world by showing them to people. The people wearing fashionable clothes, therefore, are those who are living repeatedly through the cycle of birth and growth. Keywords : body, self, fashion, makeup, clothing キーワード:身体,自己,ファッション,化粧,衣服 ゴードン・オールポートは,『パーソナリティ』 の」が本当の自分だというのである。内側とか底 という著作のなかで「ある化粧品の広告は,ある といった表現は,変化を受けやすい接触面に対し 口紅が,使う人に「パーソナリティ」を与えると主 て,外部から距離のある変わりにくい部分という 張したりする。この例ではパーソナリティは,皮膚 含意がある。「変化しないものこそ自己だ,そし の厚さもないものである」と述べている (Allport, て変化しないものこそ価値がある」,こうした同 1937, p. 34)。オールポートにとって化粧は,その 一性の希求は,西洋哲学史で言えば,プラトン− 人のパーソナリティとはほど遠いものである。 パルメニデスにさかのぼるが,この伝統を無自覚 パーソナリティを「真にその人であるもの」(同 のうちに心理学も引き継いでしまっているのでは 上 p. 40) と定義した彼にとって,自己が化粧の ないだろうか。 しかし,「皮膚の厚さもないもの」,すなわち, ような表面的なものによって与えられるという考 え方は軽薄にすぎないであろう。一般的に言えば, 化粧や衣服といった移り変わる表面は,本当に自 ファッションとしての化粧,服飾,髪型,装飾 己を与えることはないのだろうか。 「変化するもの 品・装身具,香水などは,自己の本質から真っ先 は自己にとってどうでもいい部分であり,そもそ に切り離されるべきものとして認識されているよ も変化すること自体が価値のないことだ」,こう うに思われる。 いった想定にどのような根拠があるのだろうか。 心理学に限らず,私たちは「真の自己」といっ オールポートの見解は,ジェンダーに関する無理 たものを,「内」「奥」「底」といった比喩で語る 解や差別を含んでいると批判できる以前に,人間 傾向がある。 「内面的なもの」や「根底にあるも にとっての表面のもつ根源的な意味をとらえ損 ― 337 ―
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