第1章 総論 「判断」場面に着目した教科横断的な学習指導研究の意義と

第1章 総論
「判断」場面に着目した教科横断的な学習指導研究の意義と展望
-思考ツールなどを活用し,問題解決・課題解決の力を
主体的に育むゆさぶりのある授業改善-
太田 聡
本論の要旨
本稿は,国立教育政策研究所より「平成年度教育課程研究指定校事業」(中学校・論理的思考)の
2年間の研究指定を受けて,本校が1年次として実施した研究内容とその意義,今後にむけての展望に
ついて報告するものである。
本研究では,生徒自身に問題解決・課題解決の場面を教科横断的に経験させ,主体的な論理的思考活
動を引き出すための学習課題設定の強化/思考の発想・拡散・集約段階での思考ツールやICTなどの活用
/生徒の思考や判断をゆさぶる教師の直接的指導場面の意識化/自分の考えを論理的に発表させる機会
の確保,の4点の工夫を施す試みを行った。また,各教科の指導改善の工夫だけでなく,本校が31年以
上継続してきた「総合的な学習の時間」の学習においても並行して,「ものの見方や考え方」を論理的
に行う学習内容を強化し,展開した。この際,各教科が独立して学習指導研究を進めるだけではなく,
全教職員が教科横断的に,他教科での思考ツールの具体的な活用事例や,他教科での指導上の特性を共
有し,生徒の「判断」場面における指導の在り方を検討した。 これらの研究成果の一端として,効果的な思考ツール活用による思考の外化の促進や,記述問題への
無回答率の減少などの学習効果が得られた。
キーワード 思考・判断・表現,問題解決・課題解決,ゆさぶり,教科横断,思考ツール
次に,本校が本年度新たに,どのような改善を進
はじめに
本校は本年度,文部科学省国立教育政策研究所の
めてきたのかを述べる。最後に,これらの研究から
「平成 年度教育課程研究指定校事業」中学校・
得られた成果,全国の中学校で今後目指されるべき
論理的思考の2年間の研究指定を受け,「思考と表
方向性について記したい。
現をつなぐ『判断』のありように着目した学習指導
なお,「総合的な学習の時間」の中に位置づけて
研究 ~論理的思考の,思考ツールなどを活用した教
いる「BIWAKO TIME」以下,略して「BT」と示す
科横断的指導を通して~」という研究主題のもと,
「COMMUNICATION TIME」以下略して「CT」「情
実践開発1年次を進めてきた。
報の時間」のそれぞれに関する本年度の運用の実際
本稿では,本校が取り組んできた各教科・総合的
の詳述,またその成果と課題についての考察は,本
な学習の時間などに見られる指導上の課題をまず述
研究紀要に所収の各論考に譲ることとする。
べる。
1.問題の所在
(1)「判断」に着目した理由
教科による違いはあるものの,各教科指導に関し
て,教科目標や身に付けさせるべき教科内容が明確
であるがゆえに,教科内容の知識伝達を中心とした
授業に陥りやすく,生徒自身に「なぜこの学習課題
に取り組むのか?」という目的意識や課題意識の高
まりを感じさせないまま,指導者は学習者である生
徒に,思考・判断・表現を求めてきた可能性がある。
そこで,本校では,授業における「判断」場面が,
思考と表現とをつなぐ重要な役割を担っていると捉
図1本校が捉える「判断」
え(図1,各教科の全教員が,授業における生徒の
総論
— 2 —
を受け,探究的な学習活動の中に,これまで活用し
総
「判断」場面に,改めて着目することにした(図2。
てきた思考ツールとともに,ピラミッドストラクチ
ャーなどの新たな思考ツールを適用してきた。
よる問いかけや面談を効果的に行ったりする一連の
学習指導の中で,生徒の思考・判断・表現のうち,
特に「判断」の場面に,積極的な働きかけをして,
探究的な学習を深めさせていこうとした。
本年度から来年度はさらに,これまでの本校の研
究成果を活かし,総合的な学習の時間内に限らず,
各教科の学習指導の中での生徒の「判断」場面へ再
び視野を広げることと,教科横断的に思考ツールな
どを活用させ,生徒自身の問題解決・課題解決の力
図2「判断」に焦点を当てる
を,論理的思考の考えをもとに,育成することとを
目指した。ここでは,各教科での「論理的思考」に
具体的には,思考ツールなどを活用した課題解決
学習の指導手法を教科横断的に組み入れ,「なぜ?」
関して,「判断」「ゆさぶり」「思考ツールなどの
活用」をキーワードに掲げ,校内研究を進めた。
「本当にそう言えるか?」などの,指導者による「判
断」をゆさぶる問いかけを行うことで,論理的思考
に基づく授業改善や教材開発,評価方法の改善をね
(3)本校の研究仮説と論理的思考
各生徒の「判断」のありように着目して,授業改
らった。
善を行うことで,本校が課題とする点は,本校のみ
また,今後の実生活で,生徒自身に求められてい
ならず我が国の今後の学校教育全体の授業改善への
くと予想される,汎用的学力の向上に寄与できると
課題とも言えそうである。本校がこれらへの対策を
考え,本研究主題を設定した。
提案できれば,全国の各学校現場でも役立つ授業改
善への新たな視点となるはずである。そこで,本校
(2)本校研究の経緯と現状から
本校では異学年混成4~8人グループで調査研
究を行う総合学習の BT開始時は「びわ湖学習」
の研究仮説を,「各教科の授業においても自ら「判
断」させる場面を設け,繰り返すことで論理的思考
力がさらに向上するであろう。」とした(図3)。
を今年で 年継続して実践してきたが,インターネ
ットの普及に伴い,生徒が深く考えずに web の情報
を丸写しする傾向が目立ってきた。これに対し,本
校では当時から情報教育にも取り組んでおり,発表
会で話題提示や BGM などを工夫し「豊かに表現す
る」点では効果を上げていたものの,「深く思考す
る・的確に判断する・適切に表現する」点では不十
分であった。
そこで,平成 ~ 年度に文部科学省研究開発学
校指定を受け「情報の時間」を特設し,情報の見方
や,情報社会における私たちの望ましい暮らし方,
図3本校がとらえる論理的思考の概念図
またその背景として必要な情報技術に関する知識と
操作を系統的に学べる学習指導要領試案や,教科書
などを作成した。
また,本校では,これらの研究とあわせて思考ツ
2.研究の構想
(1)基本方針
グローバル社会や高度情報化社会などで活用され
ールの活用について,総合的な学習の時間内だけで
る教科横断的な論理的思考や,的確な判断をくだし,
なく,各教科の授業においても,教科独自に研究を
それらを表現する力の育成を図るため,学校全体と
進めてきたという経緯がある。
して,特に,生徒の「判断」場面に着目し,各教科
平成 年度には,国立教育政策研究所教育課程研
究指定校事業中学校・総合的な学習の単年度指定
などにおける学習指導研究の連携や指導方法などの
工夫改善に関する実践研究を行う。
—
3 —
総論
論
指導場面での思考の可視化を促したり,指導者に
(2)研究体制の確保
本校が本年度とった研究体制について,工夫点を
以下に列挙しておく。
・校務分掌を「教務部・生活指導部・研究部」の3
事業部に整理することで,小規模校において校内
3.研究実践に関する4本の柱
各教科における「判断」場面のありようを検討し,
ゆさぶりのある授業づくりのために,図4に挙げる
4つの授業改善策を,全教科で実施することを通し
て,校内研究を推進することとした。
研究に携われる職員を5名確保し,チームで臨機
応変に議論しつつ推進した。
・研究部内に BT・「情報の時間」・CT などの各担
当者を置き,授業のポイントを各職員に発信し,
指導記録や指導上の課題を各教科主任や各職員か
ら集約して,研究推進の円滑化を図った。
・毎月2回校内研究会を行い,校内研究の起案,議
論,企画,運営,省察を年間通じて連続的に行い,
学外から講師を招き,研究に助言をいただいた。
また,研究部会は校内研究会の前後で開催するこ
とを増やし,職員全員の議論への参加感を高め,
生徒の実態に即した教員研修の企画立案をするよ
う努めた。
(3)研究計画1年間の主な取り組み
総合的な学習70時間のうち
通年
全学年 24時間「BT」
5~月,週1回2時間ペース
全学年 20時間「情報の時間」
全学年 26時間「CT」 集中実施
図4全教科で実施する4つの授業改善策と
期待される学習効果
1「思わず○○したくなる学習課題」の設定
これまでの各教科の授業を振り返ると,学習目標
や学習内容が明確であるがゆえに,知識伝達型の授
~月
各教科における実践内容を構想,議論
特に判断のゆさぶり
BT・情報の時間などで実践内容を議論
に授業に臨むことのできるような学習課題の練り直
特に判断力向上の方策
しを各教科で目指した。
~月
各教科における実践期間①
業に陥ることが,多く見られた。
そこで,生徒自身が学習課題に問いかけ,主体的
具体的には,これまで本校で 年以上継続してい
BT・情報の時間などでの実践期間①
る BT のように,探究的な学習の視点を各教科の授
各教科などで判断力向上に関するツー
業においても採り入れ,各教科独自の特性を活かし
ル活用事例の開発と収集,検討,執筆
つつも,問題解決・課題解決の場面を組み入れた学
月
本校「研究協議会」における中間報告
習課題の設定について工夫することで,研究を推進
と議論①成果発表,本校編集書籍出
する。生徒が主体的に思わず探究したくなるような
版担当官招聘・授業視察,研究内容に
学習課題の設定に関して,全教員が教科横断的な授
関する研修,研究内容への指導
業改善を意識する。
~月 各教科における実践期間②
2論理的思考に基づいた「判断」をゆさぶる指導
BT・情報の時間などでの実践期間②
個々の生徒のくだす「判断結論」に関して,思
~月 研究成果のまとめ,報告書執筆検討
考ツールなどを用いて,学習課題に対する視点を焦
各教科などでの判断力向上に関するツ
点化させたり,俯瞰させたり,既存の知識や他者の
ール活用事例の検討,研究報告書提出
視点と比較させたりする。また,生徒自身が持つ,
月 国立教育政策研究所教育課程研究セン
ター関係指定事業研究協議会への出席
月
報告書,本校研究紀要に成果掲載
月末
本校研究紀要を本学学術情報リポジト
リで無償公開
既存の知識や概念に基づいた判断を,指導者により
ゆさぶる場面を意図的に設け,事実や根拠に基づい
た論理的な説明を,生徒自身にさせる機会を確保す
る。これらの工夫を通して,生徒を論理的思考に導
く指導を授業に採り入れる。
—
4 —
総論
総
3論理的思考の観点から,教科横断的に活用でき
る思考ツールなどの収集と開発
汎用的な思考ツールや,教科特性に応じた思考ツ
論
ールなどを授業実践に基づいて整理し,新たな活用
手法を校内授業研究会および研究協議会に向けて議
論のうえ開発し,教科を越えた活用提案を行う。
また,全指導者の研究成果を冊子にまとめ,「こ
うすれば考える力がつく!中学校思考ツール」小
学館および,本校研究紀要として出版する。
4総合的な学習の時間での,ものの見方や考え方
図5 教科横断的な方策を指導案に明示
を論理的に行う指導内容を強化
総合的な学習の時間における,論理的思考に関わ
(2)多面的な見方や考え方を促す「判断」の
る指導内容を,各教科においても連携し,充実させ
ゆさぶりと,焦点化した「視点」の明確化
るとともに,「情報の時間」の「論理的に理解しよ
各教科の授業で設定した学習課題に関して,授業
う」の単元で,「BT」との関連性を従来より深め,
の各段階で,自分自身の意見を外化させる工夫を行
論理的思考を活用する学習内容や,場面を探究的な
った。これらの必要性を図6に示した。
学習活動の中で展開する。
具体的には,話合い活動の形態の工夫,思考ツー
ルなどを活用した他者との意見の交流,多様な意見
4.研究実践の4つの柱に対する研究で,明らかに
や事実を整理・分析する学習活動などを通して,論
なってきたこと
理的思考に基づいた学習活動への工夫を行った。
論理的思考の指導事例を,各教科の授業で指導者
が日常的に収集・整理するとともに,校内研究会に
おいて,専門とする教科の枠組みを越えた指導者同
士が,3.1~4に示した視点を柱に意見交流
し,効果的な授業展開について分析することで,論
理的思考の教科横断的な活用を図った。
1主体的な学習に向けての,学習課題の重要性
各教科授業の学習課題を設定する導入段階で,生
徒自身にとって主体的な思考・判断・表現に基づく
図6 多面的な見方・考え方の必要性
学習活動が促進され,論理的思考が行われるような
工夫が,指導案や授業に反映されているかどうかに
ついて授業研究会で検討を行った。
展開やまとめの段階では,生徒の学習課題に対す
例えば,これまで,各教科授業の導入段階で示さ
れがちであった学習課題,「○○は,どうなるだろ
う?」や「○○について,考えてみよう」などの曖
る問題意識と論理的思考の深化を目的に,指導者に
よる意図的な「判断」をゆさぶる指導を行った。
例えば,具体的操作期から抽象的操作期に移行し
昧な課題提示や発問を,各教科の全指導者で見直し,
つつある中学生の発達特性に配慮し,「思考・判断
学習を探究的に進められるような学習課題設定に関
・表現」の過程が見える思考ツールや直接手で操作
する改善を行った。また,指導案の学習内容につい
できる関連教具付箋・ホワイトボード・ICT など
て,「考える」という表記を全廃し,具体的に何を
の活用をはかるとともに,生徒の発言を促す「例え
「考え」させようとしているのかをより明確にする
ば?」や「つまり?」などの接続詞を利用した指導
ため,「比較する」「分類する」「分析する」など
者による,学習課題の焦点化への働きかけの工夫や,
の教科横断的な思考スキルを指導案に具体的に示
新たな視点を意図的に与える学習資料の提示などを
し,学習内容を焦点化した図5。
通して,生徒のくだそうとする「判断」をゆさぶり,
多面的・多角的に学習課題に迫らせる指導事例を,
指導上の留意点と併せて収集した。
—
5—
総論
(3)教科横断的な思考ツールとはどんなものか
全ての授業において,生徒自身が日常的かつ教科
横断的に思考ツールなどを活用することを目指し,
全指導者が思考ツールなどの活用を,意図的に盛り
込んだ授業設計の研究を行った。
思考ツールは,生徒自身の思考活動の足跡を,客
観的に振り返らせることができるだけでなく,協働
的に学習を進める他の生徒や指導者にも可視化でき
る道具である。つまり,思考ツールの活用によって
学習指導の分析と授業改善とが,焦点を絞って行え
る利点がある図7。
図8 「論理的に理解しよう」の指導改善
例えば,探究学習の中でよく見られる議論や説明
の内容が,「論理的といえるかどうか?」「本当に
そういえるか?」という,客観的な視点を持たせる
指導を行うとともに,「論理」と「論理的」との間
には,決定的な違いがあることを理解させた。
BT などの,未解決な学習課題の解決に向けて,
他者との合意形成は不可欠であり,協働的に学ぶこ
との意義に触れさせながら,探究学習に向かわせた。
図7 思考ツール活用から見えてきたもの
5.研究の成果と課題
例えば,生徒自身が「どんな場面で,どんな意図
(1)成果
を持ち論理的に思考・判断・表現をしていたか」と
思考・判断・表現の中でも,特に「判断」の場面
いう点について議論したり,指導者の立場として「思
に着目することで,思考ツールなどを活用し,生徒
考ツールなどをいかに効果的に活用させていたか」
どうしの学び合いを生かした指導を行えた。
の考察を行ったりして,他の指導改善策も含めて思
「判断」をくだした生徒の視点や判断基準につい
考ツールを活用していなかった場合と対比させ,何
て,指導者が意図的なゆさぶりを通して客観視させ,
が適切な指導であったかについての議論を行った。
多面的・多角的な見方や考え方に基づく思考の深化
そこから共通して見えてきたものは,授業の中に,
生徒自身が学習課題に迫っていきたいというしかけ
や,適切な表現を導くうえで有効であったことを,
授業実践事例の収集によって具体的に示せた。
が仕組まれていなかったり,指導者が生徒に何を学
本研究成果の一部
ばせたいかという学習の中身を伴っていなかったり
は,「こうすれば考え
すると,思考ツールに記入させる活動だけにとどま
る力がつく!中学校
り,論理的思考や判断を促す思考ツールとして機能
思考ツール」小学館,
しないことも明らかになってきた。
年 月に執筆協
力し出版した図9。
(4)「論理」と「論理的」との違いを意識化
全国の他の中学校
総合的な学習である「BT」「情報の時間」「CT」
現場では,この書籍に
を,論理的思考実践の場として教育課程に位置づけ,
著された本校研究の
探究学習に向けての指導研究を継続した。
成果を受け,既に思考
従来からの改善点としては,「BT」でリーダーシ
ツールを学習指導に
ップを発揮することの多い3年生の研究の進め方に
活かし始めていると
焦点をあて,「情報の時間」の関連する単元「論理
いう声が届いている。
的に理解しよう」の指導内容を一部見直した図8。
—
6 —
総論
図9中学校思考ツール出版
獲得させた用語を,思考ツールなどの活用を通して
えた,「判断」場面の傾向や,他教科でも活用でき
結びつけさせる場として,文章記述や発表による指
る,汎用的な学習指導の留意点について,教科を越
導の機会を教科横断的に機能させ,新たな概念形成
えた実践事例の議論を通して整理できた。
を促す指導の充実が必要である。
論
さらに,論理的思考による汎用的学力向上の影響
を調査するため,各教科の学習内容と直接的な関連
③ 思考の視点や判断基準を明確にする
性が少なく,文章に限らず図や表を用いて解答する
思考ツールなどを活用する学習指導とは,さまざ
ことが可能な,本校独自の論理的思考を問う記述式
まな立場からの見方・判断基準に気づかせる場面に
調査問題を試験的に実施同一内容の問題を,無予告
多い。学習課題で設定した,「判断」基準が曖昧だ
で各学年 2 回実施した図 。
ったり,学習課題に対する基準や視点,前提などが
前後の調査で回答を調査したところ,学年が上が
変化したりすれば,結論が根本から覆される可能性
るにつれ,思考ツールや図などを活用した記述回答
が含まれる。探究的な学習課題設定と,その展開に
の割合が増え,無回答率が減少する傾向が見られた。
関して各教科で教材研究を行い,生徒の学びの幅を
広げる「判断のゆさぶり」を生じさせる発問の在り
(2)課題
方に関して,研究する必要がある。
本研究で浮かび上がってきた,指導上の課題と,
それに伴う,今後の指導上の力点の3つを次に示す。
総
このように,各教科固有の学習活動の特徴を踏ま
(3)研究2年目へ向けての取組
① 論理的思考の必要性を明確に示す
研究1年目の研究成果を活かしながら,各教科な
論理的思考の学習指導とは,生徒自身の考えを客
どの実践事例を蓄積するとともに,思考ツール活用
観的に意識させることでもある。自分とは異なる考
と ICT の連携をいっそう強化し,授業改善を図って
えをもつ他者を知る指導を通して,生徒自身の考え
いきたい。また,総合的な学習の時間と,教科など
を外化させるとともに,他者との共通点や相違点を
捉えさせ,論理的思考の必要性を実感させるよう,
との指導の関連性を高めたい。
例えば,場合分けや条件付けをしながら発言を促
各教科で探究的な学習に向かう課題設定の研究がさ
すことで,状況に応じて結論が変化する可能性があ
らに必要である。
る点を意識させる学習指導判断基準の吟味や,物
事の相関関係・前後関係をそのまま因果関係と誤解
② 用語の定義を正しく行う
させないなど,身の回りで起こりやすい「誤った論
新たな学術用語・学習用語・語彙などを獲得させ
理」に対し,違和感や誤りが含まれていることを気
る学習指導とは,新たな概念形成を促す指導ととも
づかせる指導論理的であるかの吟味を通して,論
に行われるものであるため,基礎・基本的な用語の
理的思考の指導の充実を図りたいと考えている。
意味を正しく理解させることは重要である。新たに
図 論理的思考を問う記述式調査結果の傾向
—総論
7—