事例 大日本印刷株式会社(DNP): 新しいビジネス•オポチュニティと技術基盤の構築 エスノグラフィ 「PARCとプロジェクトをした結果、今後DNPが行おうとしている情報通信の事業展開を革新的 なものにする技術が生まれた。PARCは競争力を高めるための独特な強みを持っている。 エスノグ ラフィを使ったアプローチは非常に重要だった。 また、(PARCには)様々な分野においていろいろな 研究者がいる。彼らは、独創的な解決法を考えだし、競合相手の能力を超えるプロトタイプ•システ ムを開発することができる。」 DNP 部長 斉藤二三夫氏 概要 背景 大日本印刷株式会社(DNP) は、 日本で100年以 上の歴史を持つ世界屈指の商業印刷会社です。 その事業領域は、 出版印刷、ICカード、 パッケー ジング、電子部品など多岐にわたります。 同社は、 長年の間紙を媒体として情報を提供してきました が、 デジタルフォーマットで情報を提供するという 最近の動向に則った業務展開を考えていました。 そこで、携帯デバイスを使って情報を提供するこ とで、 市場での主導的立場を維持しながら、 同時に 「ユビキタスネットワーク」化している日本の社会 に適応しようとしたのです。 インサイト PARCのエスノグラファーたちは、対象となるユ ーザを体系的に観察し、 その観察から得たものを 新しい技術のトレンドと結びつけるという作業を 何度も行ってきました。DNPは、PARCの研究者 と協同で、 デジタルメディアを使ってどのように情 報を提供するかについて意見交換し、 出されたア イデアをふるいにかけ、最適なビジネスコンセプ トを選ぶという作業を行いました。両社がこの一 連の協同作業を進める中で気づいたのは、DNP が持っている膨大な量のコンテンツと技術力を 活用できるということでした。 さらには、 それらを PARCが持っているコンテクスト及び行動を意識 したコンピュータ技術に関する専門知識と融合す ることで、新しいビジネスのためのユニークな技 術基盤を構築することができるということでした。 アイデアとして出されたのは、 ユーザの現在地、 嗜好、 そして時刻を取り入れたローカルレジャー 情報を紹介し、 同時に条件のマッチした近辺の広 告主を引き寄せるということでした。 このアイデア は、情報の収集やウェブの閲覧、 またコンテンツの ダウンロードに携帯を使う若者が増えているとい う文化にうまく対応していると言えます。 過程と方法 このプロジェクトは次の3つの段階から構成されて おり、24ヶ月という期間の間に集中的に行われまし た。第1の段階は市場機会の分析(オポチュニティ• アセスメント、opportunity assessment)、第2の 段階はフィージビリティ試験(実現可能性試験) を 伴う技術基盤のデザイン、 そして第3の段階はプラッ トフォーム•エンジニアリングと技術移管という内容 でした。PARCのエスノグラファーが協力したのは 初期の市場機会発掘の段階で、具体的には、新しい 技術基盤のコンセプトを決めること、 それをもとに概 念上のプロトタイプを構築すること、 そして日本市場 において対象となるユーザにその機能を説明し評価 してもらうというプロセスが含まれていました。 次に、PARCのエスノグラファーは、実用レベルのプ ロトタイプを開発するため、技術者と協力しながら 作業を進めていきました。 つまり、 コンテクストモデ リング、嗜好モデリング、 レコメンダシステム、 ロケー ションセンシング、 アクティビティ検出、携帯用ユー ザインターフェース、 そしてテキストマイニングの分 野において、PARCの技術者が持っている能力を活 用したのです。PARCの科学者は、DNPのR&Dグル ープと協力し、必要な機能が搭載されたプロトタイ プをスケーラブルなサーバに作製しました。 そして、 このシステムに必要なベース•アーキテクチャを短 時間で設計し、骨格となるプラットフォームを構築 しました。 さらに、 そのプラットフォーム上に、徐々に 複雑化する機能やシステム•インテリジェンスを築 いていきました。 この作業と並行して、DNPはシステ ムの改良に取り組みました。一方、 エスノグラファー は、 日本でフィールドワークを行いました。 ユーザエ クスペリエンスに関する仮説を試し、 システムの要 件を集めながら、作られる製品がターゲットとなる ユーザにとって必ず魅力的なものになるよう努力し たのです。 成果 出版業界におけるDNPの強みを最大限に生かすこ とを目的として開発されたシステム (『Magitti(マジ ッティ)』) は、 ユーザの現在地、嗜好、時刻、過去の 行動、 またユーザのメッセージの内容から抽出した 手がかりなどをもとに、近辺のレジャー情報を紹介 するシステムです。 このシステムは、行動を検知し、学 習機能をもとに嗜好を予測することもできるため、 ス マートフォンの場合、 モバイル検索をしなくても、 片 手で触れるだけでタイムリーで関連性の高い情報を 入手することができます。 DNPは、 日本の小売店やコンテンツの配給業者、 そ して携帯電話会社との関係を築きながら、PARCの システムをもとにプラットフォームの開発をさらに 進めています。 同社は、今までユーザを対象としたト ライアル調査を何度か行っており、最近では、東京 の銀座と有楽町において、iPhone(アイフォーン) か らダウンロードが可能な 『マチレコ』 (「町」 と 「レコメ ンデーション」 を合わせた言葉) と呼ばれるアプリ ケーションを使ってユーザ調査を行いました。 同社 は、2010年にこのサービスをすべてのスマートフォ ンにおいて提供する予定です。 DNPは、PARCとプロジェクトを行うことで、新しい デジタルメディア事業のための技術基盤、技術的な 専門知識、 そしてその中核となる知的財産を得るば かりでなく、 同様のイノベーションを自ら起こすため のノウハウも学んだのです。 連絡先 ビジネスデベロップメント [email protected] PARC(パロアルト研究所、 ゼロックスのグループ企業) は、 「Business of Breakthroughs®」 を理念に掲げ、 オープンイノベーションを実践しています。 フォーチュン500の国際企業からベンチャー企業や政府機関にいたる まで、様々なパートナーにR&Dのサービスやテクノロジー、知的財産や専門知識などを提供しています。 お客様のために、 ビジネスの新たな選択肢を創出し、市場投入までの期間を短縮、 またリスクを削減し、企業全体 の競争力を高めます。 PARC, 3333 Coyote Hill Road, Palo Alto, California 94304 USA +1 650 812 4000 | [email protected] | www.parc.com/jp © Palo Alto Research Center Incorporated CS.DNP.100000005022012
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