JIS B 1051

【分科会報告】
JIS B 1051(炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-
強度区分を規定したボルト、小ねじ及び植込みボルト-
並目ねじ及び細目ねじ)の改正案について*
築 山 勝 浩
**
TSUKIYAMA Katsuhiro
1
今回までの改正の経緯
この規格は,1972 年(昭和 47 年)に制定され,1976 年,1985 年,1991 年,2000 年の改正を
経て,今回(2012 年)の改正に至っている。これらの制定,改正の要点を解説表 1 に示す。
解説表 1-制定・改正の要点
経緯
1972 年
制定
制定・改正の要点
ねじ部品の機械的性質は,従来それぞれの部品規格の中で規定していたが,国際規格との整合化及
び製品の高度化・多様化への対応を図るため,ISO 規格にならって,
“ねじ部品共通規格”の形式に改
め,次の ISO 推薦規格に整合する“JIS B 1051(ボルト・小ねじの機械的性質)
”を制定した。
ISO R 898/Ⅰ:1968 Mechanical properties of fasteners. Part 1 : Bolts, screws and studs
ISO R 898/Ⅲ:1969 Mechanical properties of fasteners. Part 3 :Marking of bolts, screws, studs and nuts
この JIS B 1051 は,下表のように ISO R 898/Ⅰで規定する機械的性質の強度区分をⅠ欄とし,制定
以前から用いていた T 付きの強度区分をⅡ欄として規定した。ISO R 898/Ⅰは,従来の JIS にはなかっ
たボルトの保証荷重応力値を,各強度区分に対して規定したのが特徴である。
(下表を参照)
この規格の附属書に ISO R 898/Ⅲ(強度区分及び製造業者識別の表示)を導入するとともに,強度
区分Ⅱ欄のものに対して,刻印表示記号“4,5,6,7”を規定した。
1976 年
改正
ISO が用いている国際単位(SI 単位)を導入した。このため,従来用いていた重力単位の“kgf”の
値を SI 単位に換算し,その値に{ }括弧を付け“参考値”として併記した。
規定の実体については,制定時のものとまったく変わっていない。
1985 年
改正
ISO は,これまでの推薦国際規格 ISO R 898/Ⅰ:1968 及び ISO R 898/Ⅲ:1969 を大幅に改正し,1978
年に正規の規格として ISO 898-1:1978 を発行した。このため,この改訂版に整合させる JIS の改正が行
われた。主な改正点は,次のとおりである。
(1) 規格名称を“鋼製ボルト・小ねじの機械的性質”に改めた。
(2) ISO 898-1:1978 に整合させた部分を規格の本体とした。従来のT付き強度区分のものは,我が国独
自の規格であるため,附属書として規定し,将来廃止することを付記した。
(3) 強度区分の 14.9 を廃止した。
(4) 引張強さは,最大値を廃止し,最小値だけとした。
* 原稿受付:平成 26(2014)年 4 月 10 日
** 株式会社 佐賀鉄工所
日本ねじ研究協会誌 44 巻
号 (2013)
―1―
(5) 国際単位(N/mm2)による値を正規とし,重力単位(kgf/mm2)による値を副の規定とした。
(6) N//mm2 の値に ISO 898-1:1978 を採用したので,引張強さ,降伏点又は耐力及び保証荷重の最小値
が僅かに変わった。
(7) 引張強さ,降伏点(又は耐力)に,
“呼び”の値を便宜上決めた。
(8) 硬さに,ビッカース硬さを加え,測定値に疑義が生じた場合はこれによることとした。
(9) 表面硬さの規定を追加した。
(10) 材料の規定に,鋼の化学成分 C, P, S の含有量及び焼戻し温度(最小値)を追加した。
(11) 脱炭層試験に,顕微鏡による方法と硬さによる方法とを詳しく規定した。
(12) 再焼戻し試験の規定を追加した。
(13) 前 JIS 附属書の表示関係の規定を本体に吸収し,附属書は,T 付き強度区分の機械的性質に関す
る規定だけに変更した。
1991 年
改正
ISO 898-1:1978を発行してから約10 年が経過したので,
この間の経験を基礎にした修正が行われ ISO
898-1:1988 が発行された。ただし,技術的基本事項についてはほとんど変えていない。
ISO 規格の改正部分及び他の JIS との整合化を図るための改正を行った。
(1) 適用範囲の項で,この規格が規定する機械的性質の値は,
“常温”で試験をしたときの値であると
規定し,一方,備考では,この規格の規定を満足する製品は 300℃までの温度環境で使用できるとした。
このため,
“常温”を超えた場合の下降伏点又は耐力がどのように低下するかのデータを,参考付表 1
として示した。このデータは,ISO 898-1:1988 の Annex(Properties at elevated temperature)を,そのま
ま掲載したものである。
(2) 製品の引張破断荷重が 500kN(約 50 トン)以下のものは,必ず,製品状態で引張試験,くさび引
張試験,保証荷重試験を行うように,規定が強化された。
(3) 強度区分 12.9 のものは,遅れ破壊を起こす危険があるので,表 4 の注(23)で,引張応力が働く
表面に光学顕微鏡で確認できる白色のりん濃化層があってはならないことを規定した。
2000 年
改正
ISO 898-1:1999 改訂第 3 版を基にして,国際一致規格の形式に改正した。JIS 独自の規格であった附
属書(強度区分 4T~7T)を廃止した。その他の改正点は,次のとおりである。
(1) 規格名称を ISO898 シリーズのメインタイトルとして“炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性
質”を統一して用いることにした。
(2) 検査の項を廃止した。
(3) 重力単位を削除して,国際単位だけとした。
(4) 新たに追加された,ねじり強さ,絞り,表面欠陥を規定した。
(5) 試験の環境温度を 10~35℃に改めた。
(6) 材料の化学成分を変更した。
全強度区分のボロン(B)最大値 0.003%及び注(2)を追加。
強度区分 5.6 の炭素(C)最小値 0.15%→0.13%
強度区分 12.9 の炭素(C)最小値 0.20%→0.28%
強度区分 12.9 の焼戻し温度 380℃
(7) 強度区分 3.6~5.8 の硬さの最大値を変更した。
(8) 絞り試験,ねじり試験を追加した。
(9) 硬さの測定点を頭部又は円筒部でよいことに改めた。
(10) 保証荷重試験の遊びねじ部の長さを 6P から 1d に改めた。
(11) 表面欠陥試験を追加した。
(12) すりわり付き及び十字穴付き小ねじは,一般には製品表示をしないことに改めた。
ISO 898-1:2009 改訂第 4 版及び第 5 版を基にして,国際一致規格として改正した。改正の詳細は,次
ページ以降に示す。
2014 年
改正
―2―
J.Japan Res.Inst.for Screw Threads & Fasteners. Vol.44, No.
(2013)
強度
区分
引張
強さ
kgf/
mm2
Ⅰ欄
3.6
4.6
4.8
5.6
5.8
6.6
6.8
6.9
8.8
10.9
12.9
-
-
-
-
Ⅱ欄
最小値
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
4T
34
40
50
60
80
100
120
140
4
0
5T
50
6T
60
7T
70
最大値
49
50
70
80
10
0
120
140
160
引張強さ以外に
規定された機械
的性質
2
14.9
硬さ,降伏点又は耐力,保証荷重応力,破断後の伸び,くさび引張強
さ,衝撃強さ,頭部打撃強さ,ねじ部の脱炭
硬さ,降伏点,破断
後の伸び,くさび引
張強さ
今回の改正の趣旨
おねじ部品の機械的性質は,
ISO 898-1:1999に技術的内容を整合させていたが,
2009年及び2013
年に対応する ISO 898-1:2009 Mechanical properties of fasteners made of carbon steel and alloy steel Part 1 : Bolts, screws and studs with specified property classes – Coarse thread and fine pitch thread が改正
されたので,この国際規格と整合を図るために改正した。ねじ部品の共通規格を国際規格に一致
させることにより,国際貿易の円滑化が期待できる。
改正案は,財団法人日本規格協会の協力を得て日本ねじ研究協会が,2010 年(平成 22 年)及
び 2013 年(平成 25 年)に設置した JIS B 1051 改正原案作成委員会[委員長 田中 誠之助(田
中熱工株式会社)
,幹事 築山 勝浩(佐賀鉄工所)
]で審議作成した。
3
審議中に特に問題となった事項
審議中,以下の内容が特に問題となった。
(1) 材料成分のりん(P)と硫黄(S)の含有量を下げた理由や強度区分 8.8 までも下げたのは何故か,
また,12.9 の追加理由は何かなど変更した根拠が分からない。
材料成分の P と S の最大値が強度区分 8.8 以上ではそれぞれ 0.025%と改正されているが,現行
鉄鋼材料規格の冷間加工用規格 JIS G 3508-1 の炭素鋼では 0.030%及び 0.035%であり JIS と整合し
ない。ボロン鋼及び合金鋼の場合も JIS では最大値はそれぞれ 0.03%であり表 2 の取り扱いが問
題である。また,0.025%は実質的にはほとんど問題ないが,製品認証などでは規格の整合性が問
題である。
(2) 追加されたフルサイズおねじ部品という用語の意味がわかり難い。
(3) 表 2 の注 f)及び 9.9.5 に,90%マルテンサイトの確認方法の記載がないのは不適切である。
表 2 の注 f)で前回までは焼入れの際,強度区分 10.9 以上では中心部分で 90%以上のマルテンサ
イトになることが望ましいとされていたが,今回の改正では,強度区分 8.8 以上とされた。炭素
鋼で M16 を超えて,中心部分が 90%マルテンサイトを保証することはほとんど不可能である。
しかも現行では“望ましい”の規定であるが,今回は“十分な焼入れ性があること”と要求事項
日本ねじ研究協会誌 44 巻
号 (2013)
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になっている。箇条 8、箇条 9 での製品の試験は“受取った状態”が基本であるので,工程中に
対する要求事項をどのような手段で確認するかが不明である。製品試験では、衝撃試験での確認
が可能であるが 9.14 では製品規格で要求されている場合だけの要求である。
(4) 9.3.5 曲線のスケールは,直線の勾配が試験力軸に対して 30°と 45°の間になるようにセ
ットするとあるが,実際上困難である。
X-Y レコーダのような記録紙に書き定規を用いて作図するのに利便性を考慮したものと思われ
るが,技術的には意味がない事項である。厳密に要求されればスケーリングのために予備試験が
必要になる。
(5) Fasteners の解釈を“ボルト及び小ねじ”
,
“おねじ部品”又は“締結用部品”とするか,Screws
を“ねじ”とするか“小ねじ”又は“おねじ”とするか,文脈によって使い分けるのは翻訳上で
問題である。
(6) 9.9 硬さ試験では,ボルト先端部より 1d カットした 1/4d 以内の硬さを“内部の硬さ”試験と
定義されるが,日常の検査には表面で測定する硬さ試験を用いる。
(7) 表 3 において,強度区分 4.8,5.8 及び 6.8 は冷間加工で製造するので加工硬化層を削る試験
片を用いる試験を削除したが,強度区分 4.6、5.6 は冷間加工を許容しながら,削り出し試験片の
試験を要求するなど試験に一貫性が見られない。
(8) 全文を通して determine の訳が分かり難いという意見があり,文脈に合うように変更した。
4
適用範囲
この規格は,炭素鋼製及び合金鋼製のボルト,小ねじ及び植込みボルトを,10~35℃の環境温
度範囲内で試験したときの機械的性質について規定する。
5
主な改正点
(1)試験温度と使用温度範囲を明確化する。
(2)強度区分 8.8 以上のりんと硫黄の最大含有量を下げる。
(3)焼戻し温度の低い 10.9 を削除したが,焼戻し温度の低い 12.9 を追加する。
(4)製品サイズ・形状による試験プログラムを修正する。
(5)製品による引張試験で耐力の試験方法を追加する。
なお,詳細な改正事項は解説箇条 6 で説明する。
6
各項目における改正の内容
まえがき 規格の利用者に改正内容を周知する期間として,
平成 27 年 3 月 31 日までは新旧 JIS
が併存することを明示した。
―4―
J.Japan Res.Inst.for Screw Threads & Fasteners. Vol.44, No.
(2013)
規格名称 ISO 規格に従って“強度区分を規定した”という文言を追加した。また,英文 screws
を“ねじ”と訳していたが、これを“小ねじ”に改めた。
箇条1 適用範囲 試験温度範囲と使用温度範囲を明確にするため,
注記1の説明を追加した。
ボルト、小ねじ及び植込みボルトを総称して呼ぶ場合は,
“おねじ部品”と表記することにした。
箇条 2 引用規格 2000 年版以降に制定・改正された JIS を追加した。また,JIS に対応する国
際規格の年号を明記した。
箇条 3 用語及び定義 この規格で用いる用語及び定義を追加した。フルサイズおねじ部品の
定義で,有効径(d2)が円筒部の径(ds)より小さいか等しい場合と,円筒部がないおねじ部品
の場合となっているが,円筒部の径(ds)ではなく外径(d)の間違いではないかとの指摘があ
り,ISO/TC2 の参加国メンバーに確認したところ間違いないとの回答であった。フルサイズおね
じ部品の 0.0048d は,0.2%耐力に相当する遊びねじ部の長さとしている。
箇条 4 記号及び意味 この規格で用いる記号及び意味を追加した。荷重を力の表現に変えた。
箇条 5 強度区分の表し方 降伏応力比の説明を加え,強度区分体系の座標表示を引張強さと
破断伸びとの関係に改め,附属書 A(参考)に移した。また,形状的要因によって負荷能力が低
い場合の記号は,強度区分の表示記号の前に“0”を加えて,
“08.8”とする規定を追加した。
箇条 6 材料 鋼材の化学成分は,材料規格によることを明確にした。これまでの化学成分は
製品のチェック分析によっていたが,溶鋼分析値(鋼材のミルシート)によることに変更した。
強度区分 8.8 以上のりん(P)と硫黄(S)の値を 0.035%から 0.025%に変更した。12.9 の焼戻し温度を
380℃から 425℃に変更し,焼戻し温度の低い 12.9 を追加した。
箇条 7 機械的及び物理的性質 大きな要求事項の変更はないが,フルサイズおねじ部品の破
断伸びが追加された。衝撃試験は,その試験片が U ノッチから V ノッチに変更され,しかも試験
の温度が室温から-20℃に変更された。しかし,衝撃値に関するデータはないため,条件の大きな
改正にもかかわらず特に議論されなかった。ここで,衝撃試験は,製品規格で要求されている場
合又は製造業者と購入者との間で合意された場合だけに適用し,通常は行わない試験である。
箇条 8 試験方法 finished fastener を“完成したおねじ部品”から“おねじ部品”に変更した。
機械加工試験片で行う試験プログラムAと,
製品で行う試験プログラムBという規定を変えて,
製品の試験に適用する FF グループと,材料特性の試験に適用する MP グループとに大別した。
FF グループは,FF1 が一般的なおねじ部品に適用され,FF2 が植込みボルトに適用され,FF3 が
頭部の形状的要因によって負荷能力が低いおねじ部品に適用され,FF4 がその他の要因で負荷能
力が低いおねじ部品に適用される。MP グループは,MP1 が材料特性を機械加工試験片で試験す
る場合に適用され,MP2 がフルサイズおねじ部品の材料特性を試験する場合に適用される。
製品のままの耐力測定は,強度区分 4.8、5.8.6.8 だけである。
強度区分 4.6,5.6 の耐力又は下降伏点は,削り出し試験片を用いなければならないので注意を
要する。
箇条 9 試験方法(詳細) それぞれの試験項目ごとに,試験方法の詳細な手順を決めた。硬さ
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試験は,軸直角断面における硬さと表面硬さとを明確にした。脱炭試験を顕微鏡による方法と硬
さによる方法とに分けた。浸炭試験をねじ山軸断面による方法と頭部又はねじ先端の表面硬さに
よる方法とに分けて規定した。ねじ先端表面硬さは,1d 切断した 1/4d 以内の内部硬さとの差が
HV 硬さで 30 ポイントであるので,先に述べたように M20 以上であれば内部の硬さと浸炭との
区別が難しいので注意が必要である。
差が大きい場合は,表 2 の注 f) に関連して「マルテンサイトの含有 90%の要求が達成されてい
るかどうか調べること。
」とした。
また,疑義を生じた場合はねじ部断面を判定試験としているが,ねじ山での表面からの距離が
0.12 と小さいのに,表面皮膜は剥離しないで測定可と規定されているが,できれば剥離して測定
することが望ましい。脱炭試験は剥離する事が要求されている。
箇条 10 表示 従来の表示に加え,負荷能力が低いおねじ部品の表示を追加した。
7
懸案事項
解説箇条 3 に示した材料成分の問題をはじめ技術的に納得しにくい内容があるが,これらにつ
いては,次回の ISO/TC2 国際会議にて問題提起し,議論していくこととした。
―6―
J.Japan Res.Inst.for Screw Threads & Fasteners. Vol.44, No.
(2013)