塩害劣化パラメータ解析による PCT 桁の耐力推定 氏原 安美 1.研究の

塩害劣化パラメータ解析による PCT 桁の耐力推定
氏原 安美
1.研究の目的
本研究の目的は、塩害により劣化した PCT 桁を対象として、塩
害劣化を再現したパラメータ解析を行うことにより劣化状態の
耐力低下への影響度を明らかにすることである.北陸自動車道、
東海北陸自動車道ではコンクリート橋の桁端部で塩害劣化が報
告されており、塩害の発生数は全数の 7 割以上である 1).これよ
り、北陸自動車道で供用されていた PCT 桁を対象に、塩害による
劣化の耐力低下への影響度を解析的に評価する手法を検討した.
2.解析モデル
本研究では、3 次元非線形有限要素解析ソフト「COM3D」(東京
大学開発)を用いて、モデルの構築、解析を行った.対象とする構
造形式は、北陸自動車道で供用されていた「大川橋」のポストテ
ンション単純 T 桁とした.図-1 に PCT 桁モデルの全景図および
断面図を示す.モデルの材料特性については表-1 に示す.鉄筋は
ソリッド要素に鉄筋比を与え、PC 鋼材は線要素で表現した.静的
載荷試験と同様の条件で静的解析を行うため 2 点支持 2 点載荷と
桁中央部
桁端部
図-1 PCT 桁モデルの全景図および断面図
表-1 モデルの材料特性
コンクリート
鉄筋(D13)
PC鋼材(12φ7mm)
強度(N/mm2 )
降伏強度(N/mm2 )
35
300
1650
した.拘束条件は単純支持とし、モデル両端から 510mm の位置の
節点(C、D)を拘束し、C 点は XYZ 方向、D 点は XZ 方向を拘束し
た.荷重載荷位置(A、B)に載荷板を配置した.
3.健全モデルでの静的解析
健全状態での PCT 桁モデルを用いた静的解析により変形挙動、
破壊形態の確認を行った.荷重条件は、変位制御で 50 秒ごとに
1mm ずつ、計 500mm 鉛直変位を与えた.解析結果を図-2、図-3
に示す.図-2 より変位 12mm 時、30mm 時に剛性が低下した.最
図-2 耐荷力-変位関係
(a)変位 12mm
(b)変位 30mm
(c)変位 60mm
(d)変位 1600mm
大耐荷力に達した変位 160mm 以降、耐荷力の急激な低下が見ら
れなかったことから、スターラップまたは PC 鋼材が耐荷性能を
保っていると推察される.図-3 より PCT 桁モデルの破壊形態は、
曲げひび割れ発生後、せん断ひび割れが発生したと考えられた.
4.劣化パラメータ解析
図-3 主ひずみ分布および変形図(倍率 10 倍)
4.1 劣化パラメータの設定
本研究の対象としている大川橋について現地調査を行った.撤
去された大川橋 PCT 桁の劣化状態を図-4 に示す. 図-4 より、下
フランジ(a)では全体的にかぶりの剥落や鉄筋の露出、ウェブ(b)
では数箇所で鉄筋の露出が確認できた.現地調査、現場の意見、
既存コンクリート構造物の性能評価指針
ニュアル
2)、NEXCO
中日本のマ
3)を参考に再現する劣化パラメータを設定した.鉄筋の
劣化を 7 パターン、PC 鋼材の劣化を 8 パターン設定し耐荷力の
図-4 大川橋 PCT 桁の劣化状態
比較を行った.各劣化の耐力低下への影響度を表す図を図-5 に示
す.全パターンのなかで耐力低下に影響を及ぼすのは、R5~R7 の
スターラップの腐食と P1~P3 の PC 鋼材の破断であることがわか
ったため、スターラップの腐食と PC 鋼材の破断に着目し、さらに
図-5 劣化別耐力低下への影響度
分析を行った.パラメータの損傷状態、再現方法を表-2 に示す.
表-2 劣化パラメータ
4.2 スターラップの腐食についての検討
R5~R7 の解析結果を図-6 と図-7 に示す.図-6 より、R5 と R6
は耐荷力に差がほとんど見られなかった.これより、下フランジ
部分のスターラップの腐食は、ウェブ部分のスターラップの腐食
に比べて耐力低下への影響度は小さいと考えられる.また、図-7
より、健全時においてせん断位置でひずみの集中が確認できた変
位 30mm に着目すると、健全時に比べて R5 ではせん断位置での
ひずみの領域は広がり、値が大きくなっていることがわかった.
このことからもウェブ部分のスターラップが腐食した場合、せん
断耐力は低下すると考えられる.
4.3 PC 鋼材の破断についての検討
P1~P6 の解析結果を図-8 と図-9 に示す.このとき P4~P6 は
PC 鋼材を 3 本破断させた場合である.P1~P3 の PC 鋼材を 1 本破
断させた場合と P4~P6 の 3 本破断させた場合において、PC 鋼材
図-6 R5~R7 耐荷力-変位関係
の端部の破断に比べて中央部の破断が耐力低下への影響度は大き
健全時
R5
CL
く、中央部で応力を負担する傾向にあることが図-8 より推察され
る.図-9(a)より、PC 鋼材の端部を破断させた P1 では、せん断ひ
ずみの顕在化が早まり、健全時とは破壊形態に違いが生じた.ま
図-7 変位 30mm 時 健全時と R5 の主ひずみ分布
た(b)より強制変位 20mm 時では、P1 は P2 に比べてせん断位置で
および変形図(倍率 10 倍)
のひずみの集中が顕著となった.これより、PC 鋼材の端部は一定
のせん断力を負担していることが確認された.
5.結論
(1) 健全状態での静的解析において、既往の研究および静的載荷
試験で得られている破壊形態を確認した.
(2) 劣化パラメータ解析の結果より、各劣化の耐力低下への影響
度を示す図を作成した.
図-8 P1~P6 耐荷力-変位関係
(3) 劣化パラメータ解析において、スターラップの腐食および PC
変位 20mm
CL
鋼材の破断が耐力低下への影響度が大きい.
変位 30mm
(4) スターラップを腐食させた解析において、下フランジでの腐
食はウェブでの腐食に比べて耐力低下への影響度は小さい.
(5) PC 鋼材を破断させた解析において、PC 鋼材の中央部が主に
P1
CL
(a)P1 変位 20mm、変位 30mm
P2
応力を負担している.また、端部を破断させた場合ではせん断
ひずみの顕在化が早まる.
参考文献
(b)変位 20mm 時の P1、P2
図-9 主ひずみ分布および変形図(倍率 10 倍)
1)
鈴木ら:北陸道における凍結防止剤による塩害を受けた橋梁桁端部の調査・設計・施工の要点、北陸橋梁保全会議、2013
2)
日本コンクリート工学会:既存コンクリート構造物の性能評価指針、2014
3)
中日本高速道路株式会社:橋梁けた端部のコンクリート部材における調査・補修マニュアル、2014