住宅団地の再生を考える - 公益社団法人日本不動産学会

日本不動産学会秋季全国大会ワークショップ
住宅団地の再生を考える
代表者氏名:竹田智志(明治学院大学法学部兼任講師)
討論者
1.
松本恭治(元国立公衆衛生院住宅衛生室長・前高崎健康福祉大学大学院教授)
2.
小畑晴治 (日本開発構想研究所理事、前千葉大学大学院客員准教授)
3.
戸辺文博(NPO 法人 多摩 NT・まちづくり専門家会議理事長)
司会:竹田智志 (明治学院大学法学部兼任講師)
Ⅰ.ワークショップの概要
住宅団地1は昭和 30 年(1955 年)に登場し、それ以降マス供給時を経て、都市圏を中心とする郊外
を含んだ地域に賃貸住宅或は分譲住宅として普及、点在してきた。これらの中には、入居後すでに半
世紀に及ぶもの、近づきつつあるものが多数見当たり、何らかの再生2を待っている。
1.住宅団地とは、賃貸住宅のみでなく区分所有権を持つ、いわゆる団地型マンションを含む。
2.再生とは建替えを含み、さらにリノベーション(renovation)もその一環である。
Ⅱ.土地資産依存マンション建替えの終焉と人口減少社会の到来(40 分)
まず再生としての建替えの現状は如何様に展開しているのか。そして少子高齢化を前提に本格的
な人口減少社会が到来する事態に備え、住宅団地はどのような施策を用いることができるのか。既に
大量発生する空き家問題は大規模住宅団地へどのような示唆を与えているのか。先の問題点につき、
住宅供給戸数、地価、使用容積率の変遷そして個別のアンケート調査等を踏まえた、松本教授ならで
はの綿密なデータによる分析から得られた大胆な予測を伺い、国勢、住民基本台帳住民移動報告、
住宅土地統計等から浮上する住宅団地の全体像を踏まえ、今後をどう分析できるか報告いただく。
Ⅲ.西欧諸国の団地再生の取り組みの現状と示唆(20分)
・ドイツや英国、フランスの団地再生が報告されてきたが、その実情と実態について紹介する。
・日本の団地再生・都市再生で学ぶべき点が多いが、伝わっている情報が偏っている。
・日本の郊外団地・郊外住宅地の深刻さをしっかり見据える必要がある。
Ⅳ.住宅団地再生の現場(15分)
多摩 NT では、わが国最大の建替えプロジェクトである諏訪 2 丁目住宅団地(多摩市・71 年入居、
640 戸)における建替え実例が注目されるが、このプロジェクトに関わりながらも、その他多数の住宅団
地を抱える地域にあって日頃、多数の区分所有者、地域住民と接する同 NPO は今、どのような課題に
直面しているのだろうか。住宅団地再生を射程に現実の取り組み状況を肉声で語ってもらう。造る NT
から脱皮し使う NT を試みる。再生ではなく成熟・熟成する住宅団地の具体的取り組みとは何か。市井
における最前線の活動を視野に、その展開を披露する。
Ⅴ.司会による報告の要約及び法律問題(15 分)
先の報告から浮上してくるのは「減築」(demolition)というもう一つの選択肢ではなかろうか。この点で
現行法制度の射程を探ってみよう。
マンション建替えにあっては、高度なコンセンサスを必要とする為に、等価交換という手法が常に浮
上する傾向を示す。むしろ費用負担と合意形成には一体不可分の関係性が浮上してくるといえよう。
少し具体的に見てみよう。既存の集合住宅団地にエレベータを設置する、或いは勾配屋根を設け
ペントハウスを増築する、もしくは居室であった部分をテラスとしたり、コモンスペースとして活用したりす
る、いわゆる建物の増・減築を行う、さらには外断熱を施し建物全体の持続性・安全性を高めるなどとい
った欧米諸国に見られる大団地の再生をわが国にも導入すべきとした動きが活発化し、老朽化集合住
宅全般の再生と結び付けて考える傾向があるが、その住宅団地そのものが、「賃貸」なのか「分譲」なの
かといった点には余りにも触れられていない。
わが国における分譲マンションにおいては、EV の後付けの場合、特別多数決を要し、さらに費用負
担の面で合意を取り付けることは至難であるとされる。採用する工法によっては一棟全体での区分所
有者全員の合意を必要とする場合も想定される。また屋上部分の増築を例にとるとすると、規約の変更、
一棟全体の合意のほか公法上の確認、資金負担など複雑多岐で容易なことではないことが明らかで
ある。では減築にあってはどうか、屋上増築に加えてなお一層、複雑で厄介な法的側面をクリアしなけ
ればならないことが要請されてくる。一番容易と見える外断熱の施工をとってみても、築 30 年を超える
ストック住宅にあっては、専有面積が狭小で持続性と安全性の確保という点で魅力を生じても、導入に
ついての資金的なインセンティブを見出すことは既に困難であるといえる。
さらに、住宅団地(中層 5 階建て階段室型住宅)が、少子高齢化といった社会現象へ対応し、居住
者の個性的なニーズに対応するとき、リノベーション・リモデリングといった再生手法は、コミュニティを
温存したまま次世代へ継続させる点で非常に魅力的な反面、費用負担が区分所有者全体に重く圧し
掛かり計画修繕と同じにはいかない側面を持つ。とはいえ、建替えする、しないという選択肢に迫られ
ながら、建物の老朽化のメルクマールである築後 30 年を経て何らかの再生手法を取り入れる準備は、
区分所有者の団体に委ねられているのが現状である。さらに若干の立法論について紹介。