大会プログラム - 人類働態学会

人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
第50回人類働態学会全国大会のご案内
下記の通り,第50回人類働態学会全国大会を開催いたします。多くの会員および、関係の皆さまのご参加をお
願い申し上げます。
期日:2015 年 6 月 20 日(土),21 日(日)
・氏名、所属、連絡先(電子メールアドレス、電話番号)
会場:大阪市立大学 杉本キャンパス
・一般/学生の別
学術情報総合センター10 階(次ページ参照)
・懇親会の参加/不参加
〒558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138
・弁当注文の有無
大会長:岡田明
★参加費等の支払いは大会当日のみとなります。
大阪市立大学大学院 生活科学研究科
★お弁当の事前予約を申し込まれた方には、1 日目、
事務局・連絡先:永井正太郎
2 日目の昼食時に受付でお渡しいたします。その他
大阪市立大学大学院 生活科学研究科
の方はキャンパス周辺のコンビニ等をご活用くださ
Tel/Fax:06-6605-2823
い。
E-mail:[email protected]
★会場にクロークを開設する予定です。
会費(当日支払のみ):
大会参加費
4,000 円(学生 2,000 円)
懇親会費
3,000 円(学生 1,000 円)
3.発表について
★英文抄録について
大会当日までに英文抄録(200word 程度、JHE 掲載
1.学会スケジュール概要
用)を大会事務局へご提出ください。書式は英文
6 月 20 日(土) 第 50 回大会 1 日目
abstract 用のテンプレートファイルにしたがってくださ
い。
9:30 受付開始
提出ファイルは、大会当日までに E-mail でお送りい
9:55 開会,口頭発表
12:20 昼食 (理事会)
ただくか、大会当日に受付まで USB メモリでご持参くだ
13:30 ポスターセッション
さい。
14:45 特別企画
『追悼集会:香原志勢先生が遺されたもの』
★ポスター発表について
・ポスターセッションは 6/20(土)13:30~14:30。
16:00 企画ワークショップ
『人類働態学再考:みんなで作る人類働態学!』
・ポスター発表時間は、発表 3 分、その後質疑応答の
18:00 懇親会
(学術情報総合センター1階「野のはなハウス」)
・ポスター用ボードのサイズは、高さ 164cm、幅 113cm
時間となります。
です。このサイズに収まるように作成してください。画
6 月 21 日(日) 第 50 回大会 2 日目
鋲は大会側で用意いたします。
9:30 口頭発表
・机も各 1 台用意いたしますので、ポスター以外に資料
10:15 公開シンポジウム
『新しい自転車利用社会構築に向けて』
の提示、ノートパソコンでの説明等も可能です。
・ポスターは 6/20(土)10:00~12:00 の間に、会場内の
12:15 総会
指定されたボードに掲示してください。
13:15 口頭発表
・座長の指示に従って発表してください。
15:45 表彰式,閉会
・セッション終了時間までは個別の質疑応答の時間とし
2.参加予定の方へ
ます。各自のポスター前で待機し、参加者からの質
★大会参加は当日登録も歓迎いたします。しかし、懇
問等にご対応ください。
親会などの利用参加人数を把握する必要がありま
・セッション終了後、原則として 2 日目 13:00 まではその
すので、参加ご予定の方は以下の事項について、
まま掲示してください。それ以降に剥がし、必ずお
できるだけ事前の早い時期にご連絡(メール)をくだ
持ち帰りください。
さいますようお願いいたします。
★口頭発表について
・口頭発表時間は 1 演題 12 分間(発表 8 分、質疑 3
メール連絡先:[email protected]
<登録事項>
分、交代 1 分)です。
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
・発表形式は PC のみとさせていただきますので、原則
4.アクセスについて
としてプレゼンテーション用ファイルを保存した USB
◆新大阪駅から
ファイルをご持参ください。
新大阪―(JR 京都線)―大阪―(JR 環状線)-天王寺
※パソコンは Windows7 版、ソフトは PowerPoint2010
―(JR阪和線・普通)― 杉本町 <所要時間約 60 分
をご用意いたします。
>
※演台上にはレーザーポインタのみ用意します。
新大阪―(地下鉄御堂筋線)―天王寺
※会場設置のプロジェクターの接続端子は、ミニ
―(JR阪和線・普通)― 杉本町 <所要時間約 45 分
D-Sub15pin(オス)です。
>
※Mac など異種端子の PC をお持ちの方は、必ず接
◆関西空港から
続アダプターをご持参ください。
関西空港―(JR関空快速)―三国ヶ丘 or 堺市―
※Mac のパソコン、その他のソフト使用のご希望があ
(JR阪和線・普通)― 杉本町 <所要時間約 50 分>
る場合は各自ご用意いただくとともに、発表セッシ
ョン前までに受付にお申し出ください。
◆大阪(伊丹)空港から
・発表手順
大阪空港―(リムジンバス)―天王寺―
①各セッションの開始前までに、USB ファイルに入
(JR阪和線・普通)― 杉本町 <所要時間約 50 分>
れた発表用ファイルをパソコンにお入れください。
会場は、JR阪和線杉本町(大阪市立大学前)駅より東
②前演題の発表時には、会場前方の次演者席に
へ徒歩約 5 分です。
着席してください。
※円滑な進行にご協力をお願いいたします。
至 天王寺
この入口は土日閉鎖のため
左側の道路をお進みください
どちらのルート
もほぼ同じ距離
ローソン
生活科学部
けやき並木
さくら通り
杉本町駅
東出口
×
理学部
10階建の
アルミ色のビル
工学部
【会場】
学術情報総合センター
(杉本町駅から約5分)
至 堺市
↓
法学部・文学部・商学部・経済学部
大会会場までの案内図
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
第50回人類働態学会全国大会 プログラム
全体構成
6 月 20 日
(土)
6 月 21 日
(日)
午前
受付 9:30開会 9:55セッション 1 10:00-11:00
セッション 2 11:10-12:10
セッション 3
9:30-10:05
シンポジウム 10:15-12:15
理事会
12:20-13:20
総会
12:15-13:00
午後
ポスターセッション
13:30-14:30
特別企画
14:45-15:45
ワークショップ 16:00-17:30
セッション 4 13:15-14:15
セッション 5 14:25-15:25
表彰式・閉会 15:45-
夜
懇親会
18:00-19:30
全国大会 1 日目 6月20日(土)
大阪市立大学 杉本キャンパス学術情報総合センター10 階
9:30- 受付開始
3) /1)帝京平成大院,2)防衛医大,3)筑波大
2-5.立位姿勢維持に影響を及ぼす身体各部の運動
軸の時系列変化
○高橋雄三 /広島市立大院
9:55-10:00 ■開会 大会長 岡田明
10:00-11:00 ■セッション 1
座長:下田政博/東京農工大
1-1.住民主体のまち興しの実現に向けて-地域イベ
ントにおける着地型観光に関する調査-
○岩浅巧,庄司直人,水野基樹 /順天堂大院
12:20-13:20 ■理事会・昼食
13:30-14:30 ■ポスターセッション
座長:加藤麻樹/早稲田大院
1-2.障がい者スノーボーダーの操作性向上の為の用
具調整
○湯川治敏,中島史朗 /愛知大
P-1.京都市における自歩道整備に関する調査-歩
行者行動をふまえて-
○今井駿・岡田明 /大阪市立大院
1-3.高齢者の加齢による自転車事故
○谷田貝一男 /(一財)日本自転車普及協会
P-2.立位を取り入れたオフィスワークの心身への効果
宮田勇優・○岡田明 1),山下久仁子 2) /1)大阪市
1-4.無信号交差点における自転車の通行路
○谷田貝一男 /(一財)日本自転車普及協会
立大院,2)大阪市立大
P-3.香りがヒトに及ぼす覚醒作用に関する研究-ク
ルマ用芳香製品への応用-
○吉井寛 1),岡田明 2),山下久仁子 3) /1)ソフト 99
1-5.平成 24~26 年度科研基盤研究 B の分担研究活
動報告
○橋本修左 1),谷田貝一男 2) /1)武蔵野大,2)(一
コーポレーション,2)大阪市立大院,3)大阪市立大
財)日本自転車普及協会
P-4.行動センサ技術を用いた電子バッジによる社会
的シグナルに関する研究-看護組織におけるコミュ
ニケーション経路の視点から-
○水野基樹・山田泰行 1),芳地泰幸 2),本多里也
子 3),高橋季子・庄司直人 1),曾田秀子 4),岡田綾
5),水野有希 6) /1)順天堂大院,2)聖カタリナ大,
11:10-12:10 ■セッション 2
座長:城憲秀/中部大
2-1.自立歩行可能な高齢男性の下肢筋プロポーショ
ンと歩行動作との関係性
○中島弘貴 1),Irma Nur Afiah・Loh Ping Yeap2),福
元清剛 3),福田修 4),村木里志 2) /1)九州大,2)九
3)(株)ビジネスコンサルタント,4)順天堂大附順天堂越谷
病院,5)順天堂大附練馬病院,6)東洋学園大
州大院,3)静岡大,4)佐賀大
P-5.フィットネスクラブを対象としたレジリエンス向上
を目指すガイドラインによる介入-クラスターランダ
ム化比較試験のリサーチデザイン-
○庄司直人 1),森口博充 2),河野洋・岩浅巧・高橋
季子 1),水野基樹 1)2) /1)順天堂大院,2)順天堂大
2-2.Relationship between wrist-finger posture and
the deformation of median nerve
○ Loh Ping Yeap , Hiroki NAKASHIMA , Satoshi
MURAKI /九州大院
2-3.ニホンザルの足の働態(予報)
○小島龍平 /埼玉医科大
P-6.看護師の多重役割と精神的健康度の関連-多
重役割マップ(質問票版)を用いた横断調査の展開
○山田泰行 1),榎原毅 2),水野基樹 1) /1)順天堂
2-4.異なる荷重姿勢が足の測度に及ぼす影響-外
反母趾角・足長・足幅-
○梅原彰宏・竹内京子 1),松村秋芳 2),岡田守彦
大院,2)名古屋市立大院
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
十字北海道看護大,4)帝京大院,5)(独)労働安全衛生総
合研究所
P-7.ヒトの一側優位性:質問紙法を用いた運動行動
研究における誤差の検討
○松村秋芳・中村好宏 1),竹内京子 2),真家和生 3),
樋口桂 4),岡田守彦 5) /1)防衛医大,2)平成帝京
大,3)大妻女子大,4)文京学院大,5)筑波大
14:45-15:45 ■特別企画
追悼集会「香原志勢先生が遺されたもの」
岡田守彦 1),小木和孝 2),岸田孝弥 3),堀野定雄
4),真家和生 5),松村秋芳 6) /1)筑波大,2)(公財)
P-8.通信教育大学生の疲労パターンにおける休憩
効果の検討
○松田文子 1)2),宇賀神博 2) /1)(公財)労研,2)武
労研,3) 高崎経済大,4)神奈川大,5)大妻女子大,6)防
衛医大
蔵野大
P-9.雇用創出に向けた作業改善および健康管理シ
ステムの構築
○水野有希 1),芳地泰幸 2),茂木伸之 3) /1)東洋
16:00-17:30 ■企画ワークショップ
人類働態学再考:みんなで作る人類働態学!
榎原毅 1),松田文子 2),水野基樹 3) /1)名古屋市
学園大,2)聖カタリナ大,3)(公財)労研
立大,2)(公財)労研,3)順天堂大院
P-10.メンタルヘルスに役立つ『職場ドック』の実践
○竹内由利子・酒井一博・小木和孝・池上徹・松田
文子 1),吉川悦子 2),武澤千尋 3),佐野友美 4),吉
川徹 5) /1)(公財)労研,2)東京有明医療大,3)日本赤
18:00-19:30 ■懇親会
学術情報センター1階「野のはなハウス」
全国大会2日目 6月21日(日)
大阪市立大 杉本キャンパス学術情報総合センター10 階
9:30-10:05 ■セッション 3
座長:山岡俊樹/京都女子大
3-1.個人経営農家を対象とする作業分析による定植
作業の負担軽減
○下平佳江 1),加藤麻樹 2)/1)長野県短大,2)早稲田大
4-4.ユーザー中心発想による潜在ニーズ理解を起点
とした製品・サービス発想のアプローチについて
○井登友一 /(株)インフォバーン
3-2.介護施設における高齢者の見守りシステムと健
康評価システムの研究
○坂本和義 1),苗鉄軍 2),尾崎研三 3)/1)電気通信大,
4-5.マーカーレス三次元動作計測システムの開発と
応用
○石本明生・本多信夫 1),足立和隆 2) /1)(株)HAL
デザイン研究所,2)筑波大
14:25-15:25 ■セッション 5
2)TAOS 研究所,3)ワイヤレスコミュニケーション研究所
3-3.福祉と人間工学の融合:公共施設,神社仏閣の
参加型ユニバーサルデザイン評価と改善
○堀野定雄 1),小木和孝 2),橋本宏子・石川孝之・
小川泰子 1) /1)神奈川大,2)(公財)労研
座長:大箸純也/近畿大
5-1.長時間の連続した視覚探索は視覚探索機能お
よび視空間ワーキングメモリ機能を低下させる
○沖和磨・森昭雄・越澤亮・高寄正樹・小山裕三・重
城哲・森長正樹・髙橋亮輔 /日本大
10:15-12:15 ■公開シンポジウム
5-2.スタティック・ストレッチング実施時における筋伸
張部位と主観的筋伸張度について
○高橋亮輔・小山裕三・重城哲・森長正樹・沖和磨
新しい自転車利用社会構築に向けて
進行:植竹照雄 /東京農工大
/日本大
12:15-13:00 ■総会・昼食
5-3.主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析およ
び提案(1)
○加藤里佳・武地美穂・難波咲子・山岡俊樹 /京
13:15-14:15 ■セッション 4
都女子大
座長:河原雅典/富山大
4-1.製品・デザイン開発における制約条件と論理思
考の役割
○山岡俊樹 /京都女子大
5-4.主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析及
び提案(2)
○難波咲子・加藤里佳・武地美穂・山岡俊樹 /京
4-2.コンビニにおいて,顧客行動の把握及び照明の
顧客に与える影響
○千田有佳里・松浪衣摘・藤田結・西野紗織・山岡
俊樹 /京都女子大
5-5.主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析及
び提案(3)
○武地美穂・難波咲子・加藤里佳・山岡俊樹 /京
4-3.商品の比較・評価による主観データの解析
○西野紗織・藤田結・山岡俊樹 /京都女子大
15:45- ■表彰式・閉会 大会長 岡田明
都女子大
都女子大
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2015 年度人類働態学会夏季研究会のご案内
この度、人類働態学会は 2015 年人類働態学会夏季研究会を下記の通り開催いたします。参加
希望の方は本申込書に必要情報をご記入の上、6 月 30 日(火)までに e-mail または FAX で夏
季研究会担当(山田)までご提出ください。大学教員の先生は研究室の学生参加者人数をとりま
とめていただき、別紙の学生参加者名簿を併せて送付ください。皆様のご参加をお待ちしており
ます。
記
テーマ:JAXA 施設見学を通じた特殊環境化での人類働態研究
日 程:8/27(木):集合(10:00)※集合場所は JAXA スペースドーム前
JAXA 筑波宇宙センター見学(宇宙飛行士コース)
講演会後,筑波研修センターに宿泊
8/28(金):筑波研修センターにて終日研究会
解散(16:00)
概 要:JAXA 筑波宇宙センターでは施設見学とともに特殊空間での人間の活動、労働について、有
人宇宙開発に関わる方々とディスカッションする予定です。
筑波研修センターではテーマを決めて参加者による意見交換等を行います。
参加費:学生 15,000 円、一般 25,000 円
※参加費には宿泊費と食費 3 回分が含まれています(8/27 夕食、8/28 朝食・昼食)。
8/27 の昼食は含まれませんのでご持参ください。
以上
申込書
【記入欄】□枠には、黒の塗りつぶしまたはレ印で該当するものを選択してください。
ふりがな
氏名
性別:
□ 男
区分:
□ 一般会員
□ 一般非会員
□ 学生会員
□ 学生非会員
所属
電話番号
職位
e-mail
参加学生数(
)名
男性(
)名
女性(
□ 女
)名
※別紙の名簿にお名前をご記入ください.
備考
申込み先(人類働態学会事務局・夏季研究会担当:山田)
e-mail はコチラ⇒ [email protected]
FAX はコチラ⇒
0476-98-1011
申込期限
⇒
6 月 30 日(火)必着
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
学生参加者名簿
指導教員名(
)
研究室名(
)
※学生参加者の氏名をご記入の上、e-mail または FAX で送付して下さい。
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
□男
□女
□男
□女
□学部生
□院生
□学部生
□院生
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
第50回人類働態学会全国大会 発表抄録
特別企画: 追悼集会「香原志勢先生が遺されたもの」
企画ワークショップ: 人類働態学再考:みんなで作る人類働態学!
シンポジウム: 新しい自転車利用社会構築に向けて
一般演題: 口頭発表22題、ポスター発表10題
(口頭発表数は 23 題。内 3-3 は未掲載)
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
特別企画
追悼集会「香原志勢先生が遺されたもの」
岡田守彦 1)、小木和孝 2)、岸田孝弥 3)、堀野定雄 4)、真家和生 5)、松村秋芳 6)
1)筑波大学, 2)労働科学研究所, 3)高崎経済大学, 4)神奈川大学, 5)大妻女子大学, 6)防衛医科大学校
香原志勢会員には予てご療養中のところ、昨年 11
プログラム
月 16 日に逝去された。われわれ一同、香原先生のご
逝去を衷心よりお悔やみ申し上げます。
香原先生は人類働態学会の前身、人類働態学研究
会(働態研)がヒューマン・エルゴロジー研究会と呼ば
れていた時代に入会され、後に働態研の代表幹事、さ
らに研究会から学会になって初代の会長を務められた。
自然人類学を本籍とする香原先生は、表情運動やケ
1)“好奇心の巨人”に触発されたもの―
趣旨説明をかねて
岡田守彦
2)香原志勢「人類働態学」にみる
未来志向の生活行為研究
小木和孝
3)香原志勢先生の知の世界:
SL の世界・ぬかり田の世界
岸田孝弥
まで、働態の原点ともいえる様々な身体の使い方に着
4)伊勢志摩海女潜水漁法や琉球島民
頭上運搬のフィールドワークで共有した
香原先生の働態視点と方法
堀野定雄
目し、社会生態学的文脈の中におけるその変異や適
5)香原人類働態学からみた海女の生活力
イタイの拇指操作から荷重運搬や潜水漁撈などに至る
応のあり様に照らして働態学的意味を読み解くことに
真家和生
注力された。
6)香原志勢先生の人類働態学研究:
構想半ばのいくつかの未実施テーマについて
松村秋芳
さらに、それらのアイデアを働態研/働態学会の場で
発信しつづけることにより、ご自分より若い世代の会員
(当時のわれわれなど)に多くの影響を与えられた(香
原先生が働態研会報や学会で発表されたアイデアや
コメント
早弓 惇、小島龍平ほか
展望については、同会報 No. 100 に酒井一博会員が
まとめたリストが、またご自身の研究遍歴については同
総合討論
会報 Nos. 94/95 にインタビュー形式での詳しい紹介が
掲載されている)。
この集会では香原先生を偲ぶなかで、香原先生にイ
ンスパイアされた、われわれの内なる香原働態学を通
じて、働態学の原点や今後の展望等について考える
機会となれば幸いである。
------------
<< 連絡先 >>
------------
岡田守彦
筑波大学 名誉教授
〒305-0032 つくば市竹園 1-8-14, 906-110
電話 029-851-2876
FAX 029-851-2876
E-mail: [email protected]
香原志勢先生(2011 年)
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
企画ワークショップ「人類働態学再考:みんなで作る人類働態学!」
○榎原毅 1)、松田文子 2)、水野基樹 3)
1)名古屋市立大学大学院医学研究科, 2)(公財)労働科学研究所, 3) 順天堂大学スポーツ健康科学部
か発掘屋になってしまった。そのような学問体系や方
1.本企画ワークショップの趣旨
法論に疑問を持ち、新生人類学の開拓を目指す路線
「人類働態学って何?」第三者に話す際、誰しもこ
として、エルゴロジーが提唱された。人類学者・解剖学
の問いを投げかけられるのではないでしょうか。
者であった故長谷部言人先生(はせべことんど、1882
人類働態学会将来計画ワーキンググループでは、
年 6 月 10 日~1969 年 12 月 3 日)が人類働態学と命
一般の方や若手人材、企業人材に人類働態学を知っ
名し、その内容は、生活人としての人類の生体原則を
てもらうこと、興味・関心を持って頂くことが重要と考え
発見、その意義を把握することだと理解する”といった
ています。しかし「人類働態学」をどのように説明すれ
内容を紹介しています。まさに、生きている人の生活
ば良いのか、学際性を有し多様性に富む特徴を理解
行為や「働き」において、それら人間の意図的な行為と
頂くのはなかなか困難が伴います。
環境との相互作用の関係性を追究しようという着眼の
そこで、このワークショップの目的はズバリッ、「人類
ようです。
働態学の定義をみんなで作ろう!」というモノです。学
また、「人類生態学と働態学」の異同をめぐったパネ
会が 1969 年に設立されてから 45 年が経ちますが、設
ル討論(1970 年 11 月、第 24 回民族学会人類学会連
立当時、どのように人類働態学を位置づけ、どのように
合大会、於:久留米)、「Ergonomics と Ergology の違い」
社会からの負託に応えるべく諸先輩方が尽力されてき
の懇談会討論(1971 年 8 月、日本人間工学会第 12 回
たのか、若手・中堅世代はほとんど知りません。一方、
大会、於:札幌)のほか、会報 21 号(1976 年 2 月)では、
黎明期を築いてこられた諸先輩方もおそらく、若手・中
当時の編集委員会が「長谷部言人論文に見る働態学
堅世代が今どのように人類働態学を考え、とらえている
(Ergology)」と題して、4 ページにもわたり民俗学研究誌
のかはあまりご存じないのではないでしょうか。
に掲載された「人類の時流化 Modernization」という論
これまでの礎を築かれた諸先輩方と若手・中堅世代
文を取り上げ、働態学の必要性を説いていることを紹
が共に次世代の人類働態学を考えるような取り組みの
介しています。また会報 30 号(1979 年 3 月)では、「会
第一歩として、「人に説明しやすい人類働態学の定
報 30 号に想う」と題して多くの学会員が寄稿を寄せて
義」を皆で一緒に作りましょう、という企画です。あまり
おり、「働態学をどのように考えるのか」について多くの
肩肘張らずに、皆様のご参加を期待しています。
諸先輩方が考えを述べられています。しかしこの頃か
2.温故知新:人類働態学の源流を会報から探る
ら、「以来 13 年近く、“働態学とは”という議論が会報誌
人類働態学会の前身である「人類働態学研究会」の
上で連綿と続いている。あまりにも長く言い過ぎている
時代から会報は発行されています(第 1 号は 1970 年 9
のではないか。」という批判も出てきているようです(そ
月発行)。その後 45 年に渡り脈々と引き継がれてきて
ういう声も隠さず紹介するところが働態学会らしいと思
いるアーカイブをめくると、働態学の源流と変遷を垣間
います)。会報 41 号では、会報編集委員が第 17 回大
見ることができます。第 1 号では、「働態研究の立場」と
会(1982 年 6 月、仙台)の懇親会場にて歓談する会員
題した原稿にて、小木和孝先生が Ergology の出所に
にマイクを向けて「働態学とは?」と質問をした際の会
ついて紹介されています。それによれば、かなり以前
員が語った内容が紹介されており、率直な意見が修飾
から人類学者のあいだで人間の意識的な生活行動を
されずに生の声で掲載されています。そして、第 53 号
対象とする分野をエルゴロジーの名で呼んでいたよう
にて「学会発足 2 年目をむかえて」と題した巻頭言で
で、Ergology の出所はおそらくドイツの生物学者・思想
香原志勢先生が書かれている内容が興味深く感じま
家であった E. Haeckel(1904)であろうと述べています。
す。「人類働態学とは何か、と訊かれて、答えに窮する
また、同号冒頭にて「ヒューマン・エルゴロジー研究会
人が多い。私自身もその一人である。しかし、にもかか
発足にあたって」と出した巻頭言で篠崎信男先生(初
わらず、多くの人は何かもやもやした形でそれを把え
代の代表幹事、人口問題研究所)が述べていることを
ている。ただ、それを明快に言葉にできないのだともい
要約すると、 “人類学の創始者であった故坪井正五
えよう」と述べています。そして、「その学問のなんたる
郎先生が現代人類学の発展を進めたが、いつのまに
かを知るためには「・・・学的方法」とは何かを考えれば
-9-
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
良い」との視座も与えてくださっています。
ストーリーを書いてみてください(最大で 300 字程度)。
その後、会報 65 号(1992 年 5 月)では、「若手研究者
一例を下記に書いてみます。
の考える人類働態学」と題して記事をまとめていくこと
が紹介されているほか、第 28 回大会(1993 年 6 月)の
【ストーリーテリングの例】
自由集会「人類働態学会に期待するもの」に参加した
① 「全ての道はローマに通ず」ということわざがありま
感想の記事などが紹介されているように、これまで学
す。手段は異なっても目的は同じであることのたと
会では「人類働態学とは何ぞや」というテーマについて
えです。
脈々と議論を積み重ねてきていることが分かります。
② 例えば、あなたはある目的地に行きたいとします。
目的地まで確実かつ安全にあなたを導けるように
3.本ワークショップの進め方
カーナビを設計するのが人間工学的方法です。
最初に、これまでに諸先輩方が議論を重ねてきた
一方で、カーナビを長期間使っていると地理・道
「人類働態学とは何ぞや」について会報を紐解き 15 分
順を覚えなくなるという経験もお持ちでしょう?モノ
程度で概観します。次に、香原先生の御指南、すなわ
をつかうことで人間の認知や行動にどのような変
ち「“・・・学的方法とは何か”を考えれば良い」との視点
化を及ぼすのか、といったような「人間の適応の経
に立ち、働態学研究で用いられている方法論を概説し
過」を色々な学問の観点から明らかにするのが働
ます。人類働態学会では学会創立 40 周年の機会に
学会員諸氏が分担執筆をした書籍「働態研究の方法」
を発刊しています。この書籍にて扱われている“方法”
態学的方法です。
③ 人間工学はローマを目指すことに関心があり、働
態学はどのように道が通ずるのか、その経過に関
の概略を 15 分程度で山田泰行事務局長に紹介しても
心があるわけです。 (294 文字)
らう予定です。
その後、後半では小グループに分かれて「人類働態
学の定義をみんなで作る」ワークショップを行います。
ここで検討頂く「定義」とは、各専門領域を最大公約数
的に網羅できるような、いわゆる学術的な定義ではあり
ません。抽象的な概念の集合体である働態学を言語
的に明示化して定義できないことは、諸先輩方の議論
でも明らかです。ここでは、科学を一般の人に分かりや
すく伝えるための「サイエンス・コミュニケーション」のテ
クニックのひとつである、「ストーリーテリング
(storytelling)」を応用します。ストーリーテリングとは、広
義には「語り手が物語を覚えて聞き手に語ること」です
が、語り手が自分の言葉に直して語るところ、自分なり
のストーリー性を織り交ぜて語るところにその特徴があ
ります。このノウハウを使って、以下のようなひな形を使
って皆さんの考える働態学や働態研究の実践につい
あまり上手な例示とは思えませんが、できるだけシン
プルに分かりやすい表現をグループで討論してくださ
い。言語だけで説明するのではなく、イラストや図解を
用いてもかまいません。最後に各グループが作成した
ストーリーテリングを発表してもらいます。もちろん、何
が正解ということはありません。わいわい、がやがやと
議論をする中で、学問を追究することの楽しさやワクワ
クを一緒に共有したいと思います。そういうプロセスを
大事にしたいと言うのが本企画のポイントです。 「働
態学とは何か?」という学術的な定義ではなく、みなさ
んに作ってもらったストーリーテリングの集合体こそ、働
態学を社会に伝えるコミュニケーション・ツールになる
ことを期待しています。多くの皆様の参加と協力を賜り
ますよう、よろしくお願いいたします。
て、紹介してもらいたいと思います。
ちなみに、標準的なローマ街道の道幅は 4m。人の
往来から馬車の利用が多くなるにつれ、2 台の馬車が
【ストーリーテリングの構成】
① 導入:話そうとする内容に関する質問、あるいは関
係する格言などをまず書く:「○○とᇞᇞは何が違うの
か、ご存じですか?」など。
② 体験に基づくストーリー:関連する成功体験・失敗
体験などのプロセスや、たとえ話、対比、メタファを
活用した紹介。実際の調査経験など。
③ 結論・オチ:あなたのセンス次第!?
の3段構成です。できるだけシンプルに、分かりやすい
行き違えるように車道幅が作られていったそうです。
人々の働きざまがどのように環境を変えてきたのか、こ
れもまさに働態学的考察といえるでしょう。
------------
<< 連絡先 >>
------------
榎原 毅
名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1
電話 052-853-8171
FAX 052-859-1228
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
シンポジウム
新しい自転車利用社会構築に向けて
研究推進担当理事:植竹照雄、加藤麻樹、申 紅仙、真家和生
1.はじめに
・自転車とインフラ(交差点、専用自転車道・レーン)
平成24年度に採択された科研費基盤研究(B)「安
・自転車に関する交通ルール
全な自転車利用促進を目指す循環型社会の新しい交
・自転車利用促進システム
通システム構築のための基盤研究」(以下、自転車科
・自転車事故削減
研)は3年の研究期間が終了し、本年三月には期間中
③研究推進に関するフリーディスカッション(WS)
における成果を取りまとめた報告書が発刊された。
・課題別グループ編成
報告書の最後に列挙されている、さまざまな自転車
・グループ毎のフリーディスカッション
交通関係者に対する新たな提言はどれをとっても重要
なものであり、しかもより具体的で明示的なものである。
・研究推進する上での課題別アイデア発掘
④各グループから出されたアイデアの取りまとめと利用
その意味では「基盤研究」として実施された当該研究
・学会全体としての取り組み(科研費申請など)
の当初の目的は、ほぼ達成されたものと評価されよう。
・会員個人の利用促進
しかしながら、日本社会そのものが急激に変化して
いることもあり、新たな課題が絶えず惹起している。欧
3.参考となる自転車に関わるいくつかの話題
「通園自転車」
米の自転車先進国と比較すると、「安全な自転車利用
「電動アシスト自転車」
促進を目指す循環型社会の新しい交通システム構築」
・三輪電アス、荷物電アス、宅配用自転車
は緒についたばかりで道半ばである。すなわち、日本
「安価な使い捨て自転車」
における真の自転車利用社会構築に向けて、もう一段
・自転車の強度、放置自転車の急増
の取り組みが必要である。
「春の三大リスク」
一方、近年における新しい自転車政策の展開に伴
「自転車とコンビニ」、「自転車の駅」
い、ある地域では自転車利用に関するインフラや利用
・安全・安心の確保
システムが徐々に整備されつつある。しかし、残念なこ
「各自治体の自転車走行路整備計画状況」
とに、それらは点として存在するのみで面としての展開
「バスと自転車のレーン共用」
がなされていない。面としての展開が伴えば「真の自
「ナンバー登録制とデポジット制」
転車利用社会構築」は加速度的に前進するものと思
「各自治体の自転車に関する条例」
われる。同様なことが自転車利用者自身の行動にも見
・放置自転車対策から安全、環境、健康へ
られ、現段階では自転車に関する自転車利用者自身
「広がらない自転車シェア」
の意識もモザイク状である。
・シェアサイクル、行政の不連続
人類働態学会として、前年度に終了した自転車に
「死亡事故の多くは生活道路」
関する共同研究の成果と課題を踏まえたうえで、人類
「減らない自転車事故」
働態学の視点から捉えた自転車に関わる諸問題につ
「自転車事故は歩道上>車道上」
いて、次年度以降においても共同研究テーマとして取
「自転車AORセンターの設置」
り組む意義は甚だ大きいものと思われる。そこで、それ
ら諸問題解決に向け、学会としての知的アイデア集積
4.おわりに
以上の話題は、いずれも人類働態学の視点で学会
を図るため、「新しい自転車利用社会構築に向けて」と
として共同研究に取り組む貴重なてがかりとなるもので
題するシンポジウムを企画した。
ある。首尾よく共同研究が実施され、その成果を公表
2.シンポジウムの流れ
①前年度に終了した自転車科研の概説
できれば学会の活性化につながるとともに学会の持つ
社会的責任を果たすことにもなる。多くの会員の参加
・成果の公表
を得て有意義なシンポジウムとなることを期待する。
・提言について
②自転車に関する次期科研費申請のための課題中心
・自転車本体
・自転車利用者
-----------植竹照雄
<< 連絡先 >>
------------
東京農工大学大学院 農学研究院
〒183-5809 府中市幸町 3-5-8
電話とFAX 042-367-5644 E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
1-1
住民主体のまち興しの実現に向けて
―地域イベントにおける着地型観光に関する調査―
○岩浅 巧 1)、庄司 直人 1)、水野 基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
1.はじめに
次に、回答者が各質問項目で印をつけた箇所の平均
急激な高齢化による経済の衰退が進む地方自治体
値が「50」となるように偏差値化し、それをすべての回
が増え、地域資源を活用した住民主体のまち興し活動
答者で算出した。そして、その偏差値化した価値意識
が全国的に広がりつつある。本研究の調査対象の Y
について、男女差の検討として t 検定を、年齢階級間
市は、日本全国の高齢化率と比べ低い水準であるが、
差の検討として一元配置分散分析を行った。
平成2年に7%を超えて以来、全国の約2倍の速さで
表1. 予備調査で得たまち興し施策案
高齢化が進行している。このような事態に直面する同
カテゴリー
施策案
カテゴリー
川釣り⼤会
市は、地域特性を活かした魅力的な商品、サービス、
河川
イベント等を開発し観光客を集客する、いわゆる着地
型観光を通じたまち興しによる地域の活性化を目指し
⾃然活⽤
ている。
花⽕⼤会
飲⾷
川下り⼤会
催し
には住民の考え方や意向を把握することが重要である。
そこで、経営学を専門とする大学教員、大学院生と学
観光
部生、商工会議所関係者の協力のもと、同市の魅力
地酒づくり
バラのジュースづくり
バラ
酪農体験
梨
住民の価値意識を明らかにすることを本調査の目的と
キャラクター
して、同市内でフィールド調査を実施した。そして、
バラの⼊浴剤開発
バラの化粧品開発
BBQ⼤会
マラソン⼤会
街コン企画
スポーツ⼤会
スポーツ
フリーマーケット
サイクリング⼤会
利き酒⼤会
ウォーキング⼤会
街めぐりツアー
デートスポットづくり
施設整備
お花⾒ツアー
⼋福神ツアー
梨の漬物づくり
予備調査で立案した 40 のまち興し施策案に対して、
野菜のスイーツづくり
農業体験
交通利⽤
⾃然体験ツアー
や観光資源に関する質的データを統合・構造化した
ソフトクリームづくり
カヌー⼤会
野菜マルシェ
着地型観光には住民参加が欠かせない。そのため
施策案
おにぎりづくり
梨のジュースづくり
制度づくり
レンタサイクル
空港利⽤者誘致企画
TDR利⽤者誘致企画
ふるさと納税拡充
外国⼈客誘致企画
梨のスイーツづくり
花を使った街づくり
梨のジャムづくり
メディア活⽤
街の歌づくり
キャラクターづくり
学校連携
地元学校連携企画
(1)回答者全体、(2)男女別、(3)年齢階級別に価値
3.結果
意識を分析し、同市における今後のまち興しを考える
(1)回答者全体の結果
花の街づくり
回答者全体を分析した結果、もっとも価値意識が高
うえでの基本的な視点を導き出すことを試みた。
かったものは、「花火大会(64.22)」、次いで「ソフトクリ
2.方法
ームづくり(63.26)」、「梨のスイーツづくり(60.58)」、
2-1.調査および分析対象
平成 26 年 10 月~12 月に Y 市で開催された3つの
イベント(地域産業イベント、地域祭り、地域スポーツ大
会)の来場者で現地にて調査協力を得た男女 1,423
名のうち、本調査では成人男女 1,330 名(男性 568 名、
女性 762 名、M=49.03 歳、SD=14.4、range=20-79 歳)
を分析対象とした。
「 梨 の ジ ュ ー ス づ く り ( 59.37 ) 」 、 「 お に ぎ り づ く り
(59.16)」と続いた。一方、もっとも低かったものは、「街
コンの企画(40.96)」、次いで「川釣り大会(43.01)」、
「街の歌づくり(44.93)」、「デートスポットづくり(47.02)」、
「カヌー大会(48.18)」であった。
(2)男女別の結果
男性の価値意識の第 1 位は「花火大会(63.77)」、
2-2.調査および分析方法
次いで「ソフトクリームづくり(60.74)」、「梨のスイーツづ
以下の項目から構成される質問票を使用した。
くり(58.55)」と続き、女性では第1位が「ソフトクリーム
①フェイスシート(性別、年齢、住まい等)
づくり(65.20)」、次いで「花火大会(64.73)」、「梨のス
②まち興し施策に対する価値意識の程度(表1参照)
②は視覚的評価スケール(VAS: Visual Analogue
Scale)を採用した。②の分析では、まず、目盛りを打た
ない横直線を用意し、左端を「まったく興味がない」、
右端を「とても興味がある」として、回答者の価値意識
の程度が横直線上のどの位置にあるか、印を付けても
らい、その個所を最小点から何㎜の位置かを測定した。
イーツづくり(62.41)」と続いた。
次に、男女間の価値意識の差の検討(t 検定)を行
った。「川釣り大会」、「利き酒大会」では男性が有意に
高かった(p<.001)。一方、「野菜マルシェ」、「梨のスイ
ーツづくり」、「梨のジャムづくり」、「おにぎりづくり」、「ソ
フトクリームづくり」、「野菜のスイーツづくり」、「バラの
入浴剤開発」、「バラの化粧品開発」、「花の街づくり」
- 12 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
表2.男女間の比較
4.考察
男性
⼥性
男⼥間⽐較
(n=568)
(n=762)
⼥<男 男<⼥
川釣り⼤会
45.23 ± 18.097
41.31 ± 18.618
酪農体験
55.22 ± 17.097
58.20 ± 17.856
**
野菜マルシェ
57.50 ± 16.902
61.34 ± 17.489
***
施策案
BBQ⼤会
56.39 ± 18.340
54.21 ± 18.874
*
42.90 ± 18.699
39.71 ± 18.827
**
利き酒⼤会
54.34 ± 18.482
49.57 ± 19.483
***
梨の漬物づくり
54.86 ± 17.550
56.82 ± 18.060
*
57.87 ± 17.436
60.67 ± 16.666
**
梨のスイーツづくり
58.55 ± 17.456
62.41 ± 16.442
***
梨のジャムづくり
56.14 ± 17.252
60.53 ± 17.026
***
おにぎりづくり
57.64 ± 16.838
60.62 ± 16.187
***
ソフトクリームづくり
60.74 ± 16.943
65.20 ± 16.261
***
野菜のスイーツづくり
56.15 ± 17.462
61.14 ± 17.429
***
57.13 ± 18.376
54.15 ± 19.869
50.32 ± 17.505
55.63 ± 18.266
バラの化粧品開発
44.64 ± 17.125
53.47 ± 18.670
サイクリング⼤会
56.62 ± 18.523
54.07 ± 18.636
花の街づくり
54.75 ± 17.287
58.45 ± 17.569
た、全体的に女性のポイントが高かった。一方、年齢
階級別では、若い世代ほど「自然」、「催し」、「体験型」
が支持され、高齢世代は、「市内観光」、「花の街づく
梨のジュースづくり
地酒づくり
「自然」、「食」、「美」に関連する施策が支持された。ま
***
街コン企画
バラの⼊浴剤開発
男女別の結果を概観すると、男性は「催し」、女性は
り」、「街の歌づくり」などの「街」に関する施策が支持さ
れた。また、全体的に高齢世代のポイントが低かった。
以上のことから、女性と高齢世代に注目することがま
ち興しの鍵になると考えられる。たとえば、高齢世代の
支持される施策を、若い世代と女性で支持された「自
**
***
然活用」、「催し」、「食」、「美」等の視点から再考するこ
***
とで、有効な施策が導き出される可能性がある。
*
***
平均値±標準偏差 *:p<0.05, **:p<0.01, ***p<0.001(t検定)
5.まとめ
表3.年齢階級間の比較
着地型観光は「旅を企画し実際に運
若者が好む⇔⾼齢者が好む
20-39歳
40-59歳
60-79歳
(n=372)
(n=567)
(n=391)
川釣り⼤会
42.45 ± 18.029
44.66 ± 18.289
41.06 ± 18.929
花⽕⼤会
65.42 ± 17.400
66.11 ± 15.211
60.87 ± 20.092
川下り⼤会
50.74 ± 19.093
51.26 ± 17.880
47.54 ± 20.278
**
カヌー⼤会
48.62 ± 18.863
49.70 ± 18.054
46.06 ± 19.854
**
農業体験
57.20 ± 17.395
57.44 ± 15.887
51.55 ± 19.282
***
***
酪農体験
60.33 ± 16.387
58.51 ± 15.982
51.38 ± 19.417
***
***
BBQ⼤会
59.23 ± 17.750
56.37 ± 17.552
49.49 ± 19.659
*
***
***
街コン企画
43.32 ± 19.943
39.77 ± 17.694
40.97 ± 19.156
*
施策案
**
**
***
たまち興しの根底には、住民主体による
住民間の協働がある。従来型の行政主
***
導ではうまくいかないことは前例が示す
利き酒⼤会
50.11 ± 19.017
54.23 ± 18.248
49.13 ± 20.124
49.00 ± 17.133
52.99 ± 15.568
55.55 ± 19.121
お花⾒ツアー
54.12 ± 17.137
56.02 ± 16.176
57.25 ± 18.844
*
⼋福神ツアー
49.77 ± 17.884
52.17 ± 16.922
57.22 ± 18.677
***
梨のジュースづくり
60.28 ± 16.139
60.72 ± 15.753
57.13 ± 19.224
*
**
梨のスイーツづくり
61.75 ± 16.476
62.24 ± 15.083
57.93 ± 19.414
**
***
梨のジャムづくり
59.49 ± 16.397
59.73 ± 15.803
56.56 ± 19.527
59.59 ± 16.167
60.51 ± 14.803
57.35 ± 18.746
59.43 ± 17.115
60.72 ± 15.977
56.10 ± 19.776
*
***
**
***
地酒づくり
55.56 ± 19.006
58.35 ± 17.834
51.00 ± 20.651
50.96 ± 18.097
54.08 ± 17.361
52.11 ± 18.849
バラの⼊浴剤開発
53.80 ± 17.821
54.85 ± 17.408
50.72 ± 19.095
*
***
バラの化粧品開発
50.20 ± 18.516
51.20 ± 17.991
46.79 ± 18.908
*
***
**
**
58.23 ± 18.770
57.77 ± 18.355
53.77 ± 19.831
56.72 ± 17.907
53.26 ± 19.704
通りである。協働を促進するには、性別
***
本調査によって、住民の価値意識の把
握に資する基礎情報が得られた。
*
ところで近年、企業経営において、多
**
様な人びとによる職場での協働が、組織
デートスポットづくり
48.89 ± 17.870
47.38 ± 17.143
45.63 ± 18.660
花の街づくり
54.59 ± 17.671
56.71 ± 16.149
58.84 ± 18.981
*
**
街の歌づくり
42.94 ± 16.697
44.43 ± 16.501
48.10 ± 18.620
***
**
平均値±標準偏差 *:p<0.05, **:p<0.01, ***p<0.001(⼀元配置分散分析後の多重⽐較)
では女性が有意に高かった(p<.001)(表2)。
や世代を超えた住民のまち興しに対する
コミットメントと共通目的が不可欠である。
*
バラのジュースづくり
54.68 ± 18.312
***
*
おにぎりづくり
マラソン⼤会
**
***
野菜のスイーツづくり
旅人を受け入れる地域(着地)に移管す
る」観光と定義される。着地型観光を通じ
街めぐりツアー
サイクリング⼤会
営する主体を、旅の出発地(発地)から、
年齢階級間⽐較
40<20 60<20 60<40 20<40 20<60 40<60
の創造性に寄与することが明らかにされつ
つある。本調査を行った Y 市、そして、全
国の地方都市における今後のまち興しにおいて、多様な
(3)年齢階級別の結果
住民が関わり合いを持ち、共感できる施策の実施こそが、
「20~39 歳」では第 1 位が「花火大会(65.42)」、次
まち興しの実現に繋がる可能性が示唆されたと言える。
いで「ソフトクリームづくり(64.09)」、「梨のスイーツづく
り(61.75)」と続いた。「40 歳~59 歳」では第 1 位が「花
6.参考文献
火大会(66.11)」、次いで「ソフトクリームづくり(63.59)」、
森重昌之(2009)「地域主導の観光を通じた「より開か
「梨のスイーツづくり(62.24)」と続いた。「60 歳~79 歳」
れた共同体」の形成」,北海道大学大学院国際広
では第 1 位が「ソフトクリームづくり(62.00)」、「花火大
報メディア・観光学院,『国際広報メディア・観光学
会(60.87)」、「野菜マルシェ(59.46)」と続いた。
ジャーナル』,第 8 号,49-65.
次に、年齢階級間の差の検討を(一元配置分散分
大社充(2008)『体験交流型ツーリズムの手法―地域
資源を活かす着地型観光』,学芸出版.
析)を行った。「花火大会」、「農業体験」、「酪農体験」、
「BBQ 大会」、「街めぐりツアー」、「八福神ツアー」、「梨
のスイーツづくり」、「野菜のスイーツづくり」、「地酒づく
り」、「バラの入浴剤開発」、「バラの化粧品開発」、「街
の歌づくり」で、年齢階級間の差が有意に大きかった
(p<.001)(表3)。
--------- << 連絡先 >> --------岩浅 巧
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話:0476-98-1001 FAX:0476-98-1011
E-mail: [email protected]
- 13 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
1-2
障がい者スノーボーダーの操作性向上の為の用具調整
○湯川治敏 1)、中島史朗 2)
1)愛知大学地域政策学部, 2)愛知大学地域政策学センター
1.はじめに
近年,パラリンピックの認知度向上やアダプテッドス
ポーツの普及により障がい者がスポーツをする機会が
増えてきている.陸上競技やバスケットボール,スキー
などはパラリンピックの競技として実施されており,ウィ
ンタースポーツの中で特にスキーは視覚障害や滑走
動作の研究等がこれまでも数多く行われている.一方,
スノーボードもスキーと同様,自然の中でしか味わうこ
との出来ない爽快感や開放感を得ることができ,また,
重力を主な移動動力としながら相対的に小さな力でコ
ントロール可能であることから身体機能のトレーニング
としても有効であると考えられるが,これまで障がい者
こで,踵部分が約 20 mm 挙上される市販のカント/リフ
トプレートを用いてその効果を確認した.
3.結果
図1にカント/リフトプレートを左バインディング下部に
装着し,左右に荷重移動した場合の左右それぞれの
鉛直方向荷重を示す.図に示すように左右のピークが
均等に現れ,麻痺側である左足での荷重も右側と同
様の値を示していると共に,切り替えの時間の平均が
1.36 秒であった.これに対し,カント/リフトがない試技
では切り替え時間の平均は 2.15 秒と長くなり,かつ滑
らかな荷重移動が出来ていないことが判明した.
800
のスノーボードに関する研究は皆無に等しい.これは
Right foot
Left foot
スノーボードは座位での滑走ができないこと,また雪上
Vertical force (N)
で立位の状態でバランスを保つことも容易であるとは
言えないこと等が要因としてあげられる.しかしながら,
スノーボードは動的なバランス感覚のトレーニング効果
が高いと考えられ,また,自らがコントロールして斜面
を滑走することで非常に大きな達成感を感じることがで
600
400
200
きることはスキーと比較しても勝るとも劣らない.そこで,
0
0
本研究ではより多くの障がい者がスノーボードを楽しめ
るよう,スノーボードの用具を調整することによってどの
10
Time (sec)
20
Fig.1 Vertical load of each foot during lateral swing motion
ように操作性が向上するかどうかを検討した.
2.方法
2-1.被験者について
本研究における被験者は脳性小児麻痺,四肢機能
障害第一種第二級と診断されており,上肢・下肢不自
由,音声機能障害で,左半身に麻痺がある.
2-2.実験について
実験としては室内において 3D モーションキャプチャ
およびフォースプレートを用いた疑似滑走状態におけ
4.考察
カント/リフトプレートを装着することにより左右への滑ら
かで素早い荷重移動が可能となるだけでなく,前後方向
に関しても同様の結果が得られた為,スノーボードの操
作性の向上が期待できる.また,実際に雪上にてカント/
リフトプレートを装着して滑走したところ,装着無しと比較
し,操作性の向上が体感できたと報告を受けている.
る用具調整による操作性向上を確認する実験と実際
5.結論
障がい者の身体状況に合わせた用具を用いることで
の雪上における実験を行った.本報告では主に実験
スノーボードにおける操作性の向上を確認出来た.今
室における疑似滑走実験の結果を示す.
2-3.用具調整について
スノーボードはスキーと同じく滑走面を有する板とブ
後はさらにスタンス巾やバインディングの角度,カント
角度等も調整を行うことで如何に操作性を向上させる
ことが出来るかを検討していく.
ーツをバインディングによって固定するが,滑走方向
に対して左右非対称のため,スタンス巾,足先の角度
等様々なバインディングの調整が可能となっている.
本研究での被験者は左半身の麻痺により立位時にも
左踵が接地できず左足に荷重しにくい状況である.そ
------------
<< 連絡先 >>
湯川治敏
愛知大学 地域政策学部
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町 1-1
電話 0532-48-0111(内線 7050) FAX
E-mail: [email protected]
- 14 -
------------
0532-47-4534
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
1-3
高齢者の加齢による自転車事故
谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
齢者(60歳以上)の死傷者数は平成16年から減少を
守らないことが多い」6名である。
3-2.事故体験
事故体験者は97名(男性75名・女性22名、60歳代
続け、26年は16年に対して発生件数は0.58倍、高齢
前半10名・60歳代後半34名・70歳代前半32名・70
者の死傷者数は0.59倍であった。しかし、26年の全
歳代後半25名・80歳代6名)である。
1.はじめに
自転車乗車中における交通事故発生件数並びに高
事故内容(複数回答)は自動車・バイクとの衝突・接
死傷者数に対する高齢者の死傷者数が占める割合は
触事故29名(男性21名・女性8名、60歳代前半2名・
全年代を通じて最も高く、25年より増加している1)。
演者は平成22年度から高齢者が仕事として、勤務
60歳代後半12名・70歳代前半5名・70歳代後半10
中並びに通勤途上で発生した自転車事故データを集
名・80歳代2名)、自転車との衝突・接触事故32名(男
めて分析している。その結果、事故原因を交通ルール
性24名・女性8名、60歳代前半4名・60歳代後半13
違反による事故と運転操作ミス等による事故に分けた
名・70歳代前半9名・70歳代後半6名・80歳代0名)、
ときの割合は2:3で、他の年代と比較して運転操作ミス
歩行者との衝突・接触事故7名(男性6名・女性1名、6
等による事故の割合が大きいことがわかり、昨年の全
0歳代後半1名・70歳代前半2名・70歳代後半2名・8
国大会でもアンケート調査と実技調査結果の一部を報
0歳代2名)、自らの転倒事故51名(男性34名・女性1
7名、60歳代前半4名・60歳代後半15名・70歳代前
2)
告した。 。
今回は高齢者の事故体験と運転技術・体力の低下と
の関係を求めるために、アンケート項目と実技調査項
目を増やした。その結果から今後の高齢者の事故防
半18名・70歳代後半10名・80歳代4名)である。
3-3.自己の運転技術・体力低下意識
自転車の運転技術・体力低下が「50歳代の頃と比べ
て変わらないと思う」113名(男性96名・女性17名、6
止のための有効な対策について検討を行った。
0歳代前半16名・60歳代後半36名・70歳代前半38
2.調査方法
2-1.アンケート調査
男性308名・女性67名の計375名(60歳代前半32
名・60歳代後半83名・70歳代前半141名・70歳代後
半89名・80歳代30名)から結果を得た。
2-2.実技調査
用意した自転車は車輪径26インチ(重さ20㎏)と24
インチ(重さ15㎏)のシティサイクル型で、参加者がい
名・70歳代後半19名・80歳代4名)、「低下していると
思う」262名(男性212名・女性50名、60歳代前半16
名・60歳代後半47名・70歳代前半103名・70歳代後
半70名・80歳代26名)である。
3-4.運転技術・体力低下を示す状況
自己の運転技術・体力が「50歳代の頃と比べて低下
した」と実感する状況時をまとめたものを表1に示す。
表1 運転技術・体力低下を実感する項目
ずれかを選択した。コースは長さ8m・幅30㎝の直線コ
60 歳 60 歳 70 歳 70 歳 80
性 代前 代後 代前 代後 歳
半 半 半 半 代
ースを設定し、時速6km で通行した際の運転状況を調
査した。
また、時速10km 程度で直線コースを通り、前方から
歩行者が近づいてきたとき、どのようにして歩行者とす
れ違うか並びに左折時の通行状況を調査した。参加
者103名(60歳代32名・70歳代58名・80歳代6名、
対比のために20~30歳代7名)から結果を得た。
3.結果
3-1.利用頻度と交通ルール遵守姿勢
利用頻度は「ほぼ毎日」230名・「2~3日に1回」70
名・「1週間に1~2回」75名である。
交通ルールに対する遵守姿勢は「ほぼ守っている」
前から来る歩行者や自
転車を避けようとしたとき
にフラつくことがある
走りだすときにフラつくこ
とがある
男
5
11
35
23 8 82
女
男
女
ペダルを踏み外したこと 男
がある
女
乗りながらまわりの歩行者 男
や自転車の動きを確認す
るのが難しくなったと思う 女
止まるときにフラつくこと 男
がある
女
交差点を曲るときにフラ 男
つくことがある
女
とっさにブレーキが掛け 男
られない
女
1
3
2
2
2
6
15
8
5
0
10
32
6
19
3
6
21
5
17
1
6
4
19
12
1
1
1
1
0
2
1
1
3
1
1
2
2
1
7
14
2
6
3
3
0
2
7
0
4
3
4
0
259名・「違反したなと思うこともたまにある」109名・「
- 15 -
計
28.3
106
%
24
80
27.2
102
%
22
51
15.2
57
%
6
45
4
15.2
57
%
1 12
4 29
33 8.8%
0 4
6 18
26 6.9%
0 8
2 13
15 4.0%
0 2
1
9
1
8
0
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
3-5.出発時のペダル位置
実技調査で、出発時にペダルを踏み込む際のペダ
倒事故体験率と車両・自転車・歩行者との接触・衝突
ルの位置を確認した。その結果は「足でペダルを75°
との接触・衝突事故率は年齢の上昇ともに減少し、転
以上の高さに持ち上げた」28名(60歳代8名・70歳代
倒事故率も70歳代では減少しているが80歳代で上昇
14名・80歳代2名・20~30歳代4名)・「足でペダルを
している。女性は70歳代における割合との比較は回
持ち上げたが水平の高さ」40名(60歳代16名・70歳
答者数が男性と比較して少ないので傾向は言及でき
代19名・80歳代3名・20~30歳代2名)・「またいだと
ない。
事故体験率が最も高い。男性は車両・自転車・歩行者
きのペダルの位置」32名(60歳代8名・70歳代22名・
車両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体験者を
80歳代1名・20~30歳代1名)・「ハンドルを持って押
転倒事故を体験している人と体験していない人に細分
しながら乗車」3名(70歳代3名)である。
3-6.直線コースでの運転状況
「ふらつかずにまっすぐに進めた」16名(60歳代6
し、年齢層別・男女別に検討したが、同一人による転
倒事故と車両・自転車・歩行者との接触・衝突事故の
起こす相互の関係は男女とも認められなかった。
名・70歳代4名・80歳代0名・20~30歳代6名)・「ふ
らつきはあったがコースからはみ出さないで進めた」3
6名(60歳代14名・70歳代20名・80歳代1名・20~3
0歳代1名)・「コースをはみ出しながら進んだ」41名(6
0歳代10名・70歳代27名・80歳代4名・20~30歳代
0名)・「途中で地面に足が着いた」17名(60歳代5名・
また自己の自転車運転技術・体力について「50歳代
の頃より低下していると思う」と回答した人は、全体で
は男性68.8%、女性74.6%である。これを性別・年齢
層別に示したのが図 1 と2で、これより男性は年代の上
昇とともに回答する割合が上昇するのに対して、女性
は年代に関係なく回答する割合が高いことがわかる。
70歳代10名・80歳代2名・20~30歳代0名)(複数該
当あり)である。
3-7.歩行者とすれ違うときの運転状況
歩行者と対面ですれ違うとき、自転車を停止させて
歩行者がすれ違うのを待ったのは2人しかいなかった。
乗車して通行しながらすれ違った際の状況について
「ふらつかずにすれ違った」45名(60歳代16名・70歳
図1 男性の年齢層別自己運転技術・体力評価
代20名・80歳代2名・20~30歳代7名)・「ふらつきな
がらすれ違った」51名(60歳代15名・70歳代34名・8
0歳代2名・20~30歳代0名)・「すれ違う際に足が地
面に着いた」3名(70歳代3名)である。
3-8.左折するときの運転状況
「一時停止して左右を確認」28名・「徐行」16名・「徐
行・停止なしで左折」52名である。
図2 女性の年齢層別自己運転技術・体力評価
4.考察
これを事故体験者に限定して低下していると回答し
アンケート調査結果から、60歳以上の高齢者の自転
た割合は、転倒事故体験者が男性82.6%、女性92.
車利用時における事故体験状況を事故体験率として、
3%、車両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体験者
事故体験者数を性別並びに年齢層別にそれぞれ該
が男性56.2%、女性33.3%である。性別に関係なく
当する全人数に対する割合として求めた。男女別では、
車両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体験者は自
女性について男性と比較すると全体の事故は1.3倍、
己の自転車運転技術・体力の低下を認めていない人
転倒事故は2.3倍、車両・自転車・歩行者との接触・衝
が多いことになる。特に男性は図3と4より60歳代前半
突事故は1.4倍である。さらに転倒事故体験率を車
と60歳代後半で、認めていない人が多いことになる。
両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体験率と比較
すると、女性は1.1倍に対して男性は0.7倍である。す
なわち女性の転倒事故率は車両・自転車・歩行者との
接触・衝突事故率よりも高く、また男性の転倒率よりも
高く、これが女性の事故体験率を高くしている。
年代別では、男性・女性いずれも60歳代後半で転
- 16 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
図3 車両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体
②車輪径の小さい自転車の利用促進を行う
演者の報告2)より、車輪径の小さい自転車の方が低速
験した男性の年齢層別自己運転技術・体力評価
でもフラつきが少なく安定走行が可能で、足着きも容
易であることから転倒事故の防止にもつながる。
アンケート調査で26・27インチ利用者は男性120
名・女性16名に対して、24・22インチ利用者は男性4
5名・女性23名で24・22インチの利用率は女性が男
性の2.2倍59.0%であることは、女性の方が転倒事故
の多いことの結果でもあるといえる。
図4 転倒事故体験した男性の年齢層別自己運転
この他、表2・3は交通ルール遵守度と自転車利用状
技術・体力評価
そこで男性の60歳代前半と後半における車両・自転
況の関係を自転車事故体験の有無別、男女別に各項
車・歩行者との接触・衝突事故体験と自転車運転技
目に該当する人数の男女別全人数に対する割合とし
術・体力の低下していない意識との関係についてクラ
て示したものである。
メール連関係数を使って求めた。その値は60歳代前
表2 交通ルールをほぼ
守っている人の割合
半0.27、60歳代後半0.20である。これらの結果から、
男性
女性
全体
事故経験者
62.2%
59.4%
61.3%
無事故利用者
71.5%
72.2%
71.6%
自転車運転技術・体力の低下を意識していないと車
両・自転車・歩行者との接触・衝突事故体験が高くなる
可能性を無視することができないと推察できる。
表3 自転車をほぼ毎日
利用している人の割合
男性
女性
全体
事故経験者
64.0%
67.7%
65.1%
無事故利用者
61.3%
60.0%
61.2%
これによると事故経験者は無事故利用者に対して、
5.今後の高齢者にする安全運転指導方法
利用頻度(ほぼ毎日利用している人の割合)の差は3.
これらの結果より、自己の自転車運転技術・体力の
9ポイントに対して交通ルール遵守度(ほぼ守っている
低下をカバーする運転方法の習得が運転操作ミス等
人の割合)の差は10.3ポイントである。このことは事故
の原因による事故防止につながるだけでなく、低下を
発生の可能性が利用頻度より、交通ルール遵守の低
自覚させることも車両・自転車・歩行者との接触・衝突
さによることを示しており、交通ルールの遵守が事故防
事故防止につながることがわかる。
止につながるデータとして強調することができる。
自転車の運転技術・体力の低下を感じる原因がアン
今後の課題として、自己の運転状況と加齢による運
ケート調査結果によると、男女とも「前から来る歩行者
転技術の低下が把握しやすい実技体験として次のよう
や自転車をさけようとしたときにフラつくことがある」「走
な検証も必要と考えられる。
り出すときにフラつくことがある」が最も多く、いずれも
①加速度計を身体・車体に設置し、直線・回転時の加
性別に関係なく年齢の上昇と共に回答率が高くなって
速度変化測定から身体・車体のゆれ状況を把握する。
いる。実技調査で時速6km 通行したとき、60歳代で4
②ビデオカメラで進行方向縦・横2方向から撮影し、ハ
0.0%がフラつきを発生させ、70歳代以降になるとハ
ンドル操作・フラつき・ペダル操作等の走行状況から運
ンドル操作が低下し、コースを外してしまう割合が上昇
転技術を確認する。
している。また歩行者とのすれ違い時で停止しない人
③アイカメラを身体に設置し、視覚情報から正しい運
の58.7%がフラつきながらすれ違っており、交差点で
転を行っているかを把握する。
は54.2%が一時停止・徐行しなかった。停止した後、
走り出すときにフラつくから停止したくないという心理状
況もあると考えられるので、高齢者に対して「走りだす
参考文献
1)「平成26年中の交通事故の発生状況」 警察庁 2
015年
ときのフラつき」「前から来る歩行者や自転車を避ける
ときのフラつき」という2行為に対する安全運転指導が
2)谷田貝一男 「高齢者の自転車運転技能」 人類働
態学会第49回全国大会 2014年
必要となり、このために次の方法が考えられる。
①走り出すときのペダル位置の確認をさせる
ペダルの位置を75°以上にする人が25%にしか過ぎ
ないので、これを指導することで走り出すときのフラつ
きを低下させるだけでなく、交差点並びに車両・自転
車・歩行者との交差時の一時停止の促進につながる。
------------ << 連絡先 >> -----------谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
〒141-0021 品川区上大崎 3-3-1
電話 03-4334-7953
FAX 03-4334-7958
E-mail: [email protected]
- 17 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
1-4
無信号交差点における自転車の通行路
谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
10箇所の交差点をさらに通行路別に分けたときの通
1.はじめに
平成26年の東京都内における自転車事故発生件数
行方向と通行台数は表2の通りである。
は12666件、交通事故全体の34.1%にあたり、その
表2 通行路別の自転車通行方向と通行台数
発生場所は交差点及び交差点付近が73.4%である。
交差点
この交差点及び交差点付近での事故発生原因として、
世田谷区下
馬6-19
出会頭が54.8%で、これに左折時・右折時を加えると
目黒区碑文
谷6-5
84.8%になり、自転車事故全体の62.2%を占める1)。
したがって自転車事故防止対策として特に交差点で
調布市小島
町6-8
の発生を減少させる必要があり、そのためには交差点
での通行状況を把握する必要がある。信号機が設置
志木市柏町
5-1
してある交差点では、赤信号による停止を避けるため
の通行路が選択される傾向にある 2)。しかし信号機が
中野区鷺宮
1-18
設置してない交差点での通行路に関する調査研究は
中野区鷺宮
3-42
これまでない。
このため、演者は信号機が設置してない交差点での
中野区鷺宮
3-38
自転車及び車両・歩行者の通行方向・通行量から、自
武蔵野市吉
祥寺東町2
-23
転車利用者の通行路選択に影響を及ぼす要因を探っ
た。
板橋区成増
1-8
2.調査方法
調査した信号機が設置してない交差点は10箇所で、
豊島区池袋
2-56
その位置は商店街・商店と住宅の混在地・住宅地から
左側通行
0
0
0
0
0
1
100.0%
ー
100.0%
100.0%
100.0%
95.5%
11
4
6
20
8
4
2
5
10
4
12
8
6
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
3
0
13
3
0
2
15(12)
2
0
1
0
0
0
0
60.0%
ー
92.9%
100.0%
ー
100.0%
100.0%
41
4
2
3
19
6
3
6(4)
0
0
1
0
0
0
0(1)
0(1)
100.0%
100.0%
66.7%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%(0.0%)
100.0%(80%)
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
4
1
8
0
4
0
0
0
10
0
0
2
0
35
0
3
1
3
7
1(0)
5(1)
1(0)
0(4)
右折
右側通行 左側通行率 左側通行
3
5
0
8
10
14
2
24
8
8
3
5
1
15
3
4
19
6
0.0%
0.0%
ー
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
11.1%
0.0%
44.4%
50.0%
30.4%
0.0%
50.0%
0.0%
0.0%
5
9
1
5
14
24
24
3
11
20
19
22
21
12
28
43
194
38
1
1
0.0%
0
9
52.6%
3
0.0%
3
0
ー
4
5
28.6%
9
0
ー
3
16
68.6%
23(8)
1
0.0%
25(9)
0
100.0%
59
2
33.3%
43
1
75.0%
3
33
17.5%
7
2(0) 33.3%(-) 46(0)
26.3%(100%)
14(0)
28(0)
10(1) 9.1%(0%) 38(4)
1(6) 0.0%(40%) 23(2)
直進
右側通行 左側通行率
3
0
1
2
4
62.5%
100.0%
50.0%
71.4%
77.8%
2
92.3%
7
77.4%
1
75.0%
3
78.6%
1
95.2%
0
100.0%
3
88.0%
0
100.0%
0
100.0%
1
96.6%
3
93.5%
14
93.7%
6
86.4%
0
100.0%
0
ー
0
100.0%
2
66.7%
1
90.0%
1
75.0%
1(2) 95.8%(80.0%)
100.0%(64.3%)
0(5)
2
96.7%
10
81.1%
0
100.0%
0
100.0%
5(0) 90.2%(-)
2(0) 93.3%(-)
10(5) 79.2%(44.4%)
0(8) 100.0%(20%)
( )内は歩道通行
抽出した。形状は十字路7箇所(歩道あり1箇所・歩道
なし6箇所)、丁字路3箇所(歩道あり1箇所・歩道なし
左折
右側通行 左側通行率 左側通行
6
0
1
1
2
21
日、平日・休日)・調査時間帯(朝・午前・昼・午後・夕
4.考察
4-1.直進時
総台数936台のうち、左右いずれ側の通行も認めら
方)は交差点により異なるが、調査時間はいずれも1時
れている歩道通行を除いた左側通行率は90.5%であ
間で天候はすべて晴である。
る。交差点別で90%を下回った5箇所のうち、4箇所
2箇所)である。調査日(平成27年9月9日~10月24
3.調査結果
10箇所の交差点の位置・調査時間・交差点の形状・
は1時間当たりの通行台数が100台未満であり、このと
きの右側通行は左側右側の意識なしでの通行と考え
られる。
自転車の通行方向と通行台数は表1の通りである。
通行路別に右側通行が5台以上あるのは4交差点6
表1 交差点別自転車の通行方向と通行台数
調査日
9月9日(火)
9月9日(火)
9月12日(金)
9月14日(日)
9月19日(金)
9月19日(金)
9月19日(金)
9月19日(金)
自転車
交差点
調査時間
調査地点
通行台
形状
数
7:35~8:35 世田谷区下馬6-19 十字路 50
8:55~9:55 目黒区碑文谷6-5 丁字路 93
10:25~11:25 調布市小島町6-8 十字路 154
13:20~14:20 志木市柏町5-1
十字路 133
8:00~9:00 中野区鷺宮1-18
十字路 397
9:15~10:15 中野区鷺宮3-42
丁字路 32
9:15~10:15 中野区鷺宮3-38
十字路 50
武蔵野市吉祥寺東町
11:20~12:20
丁字路 154
2-23
10月3日(金) 16:20~17:20 板橋区成増1-8
10月24日(金) 9:45~10:45 豊島区池袋2-56
計
通行路であるが、このうち4通行路は駅方向である。特
左折
右折
直進
車輛 歩行者
通行 通行人 左側 右側 左側 右側 左側 右側
台数 数 通行 通行 通行 通行 通行 通行
26
31
49
125
102
8
11
194
177
70
68
415
8
18
8
0
24
1
41
0
19
0
34
0
9
2
16
1
17
25
80
0
(12)
十字路 225 80
248 50
1
34 0
十字路 257 166
-
(4) (2)
242 5
1545 623 1278
(16) (2)
0
0
1
13
4
10
2
16
24
42
24
32
10
8
35
17
14 36
7
27
(5) (7)
86 236
(5) (7)
20
38
58
74
303
1
19
48
(17)
112
135
(6)
808
(23)
6
6
12
3
24
0
4
1
(7)
12
17
(13)
85
(20)
( )内は歩道通行
に右側通行台数が14台で最も多かった通行路は幅員
5mに左側通行が194台、駅方向で調査時間が午前8
時から9時までであったことから、急いでいることと左側
を通行したくても通行しにくい状況であったといえる。
4-2.左折時
総台数275台のうち、左右いずれ側の通行も認めら
れている歩道通行を除いた左側通行率は98.1%であ
る。右側通行は4交差点の計5台であり、そのうちの3
交差点は1時間当たりの通行台数が100台未満である
- 18 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
ことから、右側通行は左側右側の意識なしでの通行と
駅
10
考えられる。
4-3.右折時
総台数334台のうち、左右いずれ側の通行も認めら
車道
6
58
歩道
れている歩道通行を除いた左側通行率は26.7%であ
13
る。交差点別で50%以上は2箇所で、いずれも丁字
15
路である。通行路別では100%1箇所、50%以上5箇
所、50%未満9箇所、0%16箇所である。
59
歩行者の進行方向
右折自転車
自転車の進行方向
車両の通行方向
右方向左側通行(車道・歩道)する自転車・車両・歩行
この結果から、右折は通行が短距離となる右側通行
者の直進・左折台数・人数127に対して、左方向右側
が基本となっていると仮定した上で、左側通行という選
通行(歩道)する自転車・歩行者の直進・右折台数・人
択に影響を及ぼす要因を探ってみた。
数19にすぎない。右方向左側通行する自転車・車両・
右折時の左側通行率に影響を与える要因として、右
歩行者の直進・左折の増加が右折時の左側通行率を
方向左側通行する自転車・車両・歩行者の直進・左折、
増加させていると考えられる。
正面左側通行する自転車・車両の直進・右折、左方向
②丁字路 左側通行率52.6% 中野区鷺宮3-42
左側通行する自転車・車両の直進を設定した。
調査時間9:15~10:15 (金)
最初に10箇所の交差点別左側通行率と、前記要因
左側通行自転車10台 右側通行自転車9台
を自転車・車両・歩行者及び通行方向を組み合わせ
1
た通行量とで相関を求めたが、有効な数値は得られな
0
3
幅員3m
かった。このため、左側通行率が0%以外の十字路交
7
差点5箇所に絞って交差点ごとに通行路別左側通行
駅
3
率と前記数値とで相関を求めた結果を表3に、丁字路
交差点3箇所の通行路別左側通行率と前記数値とで
相関を求めた結果を表4に示す。
右方向左側通行する自転車・車両・歩行者の直進・左
表3 十字路交差点通行路別相関
自動車
右から左折
自
動
車
の
通
行
方
向
右から直進+右から左折
右から左折+正面から右折
右から直進+右から左折+正面
から右折
右から直進+右から左折+正面
から直進+正面から右折自動車
右から左折
自
転
車
の
通
行
方
向
右から直進+右から左折
右から左折+正面から右折
右から直進+右から左折+正面
から右折自転車
右から直進+右から左折+正面
から直進+正面から右折自転車
板橋区成増1
-8
0.55
0.61
0.62
0.76
0.84
-0.70
-0.59
-0.99
-0.80
-0.97
調布市小島町 志木市柏町5
6-8
-1
0.92
0.91
0.99
0.81
0.91
0.07
0.44
-0.34
0.35
0.06
幅員4m
折台数・人数13で、右折時の右側通行を減少させる
中野区鷺宮1
-18
豊島区池袋2
-56
0.83
0.20
0.93
0.29
0.08
-0.10
-0.31
-0.20
-0.31
-0.61
0.75
0.58
0.76
0.50
0.82
0.43
0.87
0.07
0.81
0.92
0.08
0.35
0.46
0.42
0.40
0.43
-0.19
0.46
-0.04
-0.60
要因にはなりにくい。右側通行9台中7台は幅員4m道
路の中央を通行しながら、右折後は左側通行している。
交差点全体の総通行量は調査した10交差点で最小
であるから、左側通行による右折遵守はあるが、中央
を通行した方が安全という意識があったと考えられる。
③十字路 左側通行率34.8% 志木市柏町
調査時間13:20~14:20 (日)
表4 丁字路交差点通行路別相関
右から左折
右から直進+左折
左から直進
自動車
自転車
0.81
0.86
-0.99
0.92
0.01
-0.91
左側通行自転車8台 右側通行自転車15台
7
22
35
十字路・丁字路いずれの交差点も左側通行率は右
22
方向及び正面からの車両台数と関係があるようだが、
52
5
自転車との関係も含めて交差点ごとに数値の大きさに
住宅地
27
17 0駅
開きがある。このため、交差点の通行路別に通行量の
右折時右側通行台数に対する右方向左側通行する
多い7箇所について、右折時右側通行台数に対する
自転車・車両の直進・左折台数割合は0.19(歩行者を
右方向左側通行及び正面左側通行する自転車・車
含めると0.15)で①の丁字路の0.24(歩行者を含める
両・歩行者の直進・左折・右折台数割合も求めて、併
と0.13)より小さく、右方向左側通行する自転車・車両
せて検証してみた。
台数が左側通行率を増加させていると考えられる。
①丁字路 左側通行率68.6% 武蔵野市吉祥寺東町
④十字路 左側通行率26.3% 豊島区池袋
調査時間11:20~12:20 (金)
調査時間9:45~10:45 (金)
左側通行自転車35台 右側通行自転車16台
左側通行自転車5台 右側通行自転車14台
- 19 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
32
行を促していると考えられる。
⑦十字路 左側通行率0.0% 調布市小島町
46
19
30
左側通行自転車0台 右側通行自転車24台
歩道
8
周辺全体が商業地
25
4
駅
歩道
車道
調査時間10:25~11:25 (金)
車道
28
歩道
右折時右側通行台数に対する右方向左側通行(車
24
15
道・歩道)する自転車・車両の直進・左折台数割合は0.
51
8
周辺全体が住宅地
47
30である。右折前の歩道を除いた幅員4m道路の通
行台数は自転車・車両合計台数が左側96台、右側1
02台で幅員に対する通行台数率は2番目に高い。
駅
3 1
右折時右側通行台数に対する右方向左側通行する
右側通行・左側通行いずれも右折後の通行路に関
自転車・車両の直進・左折台数及び歩行者を含めたと
して違反はない。このため、右側通行による右折は、
きの割合0.45、0.42は最大で、右方向左側通行する
狭い幅員での通行台数と右方向からの通行台数の少
自転車・車両台数が右折時左側通行率を低下させて
なさが要因と考えられる。
いる可能性が高い。さらに右折前の通行路から右方向
⑤十字路 左側通行率17.5% 板橋区成増
の自転車・車両等の通行状況がフェンス越に見えるこ
調査時間16:20~17:20 (金)
とも右折時右側通行を促進していると考えられる。
左側通行自転車7台 右側通行自転車33台
30
5.無信号交差点における事故防止対策
信号機が設置してない交差点の通行路別通行状況
6
より、右折時の左側通行率は右折前通行路の通行台
43
8
数及び自転車の左側通行率、右折後通行路から来る
0
2
駅
左側通行自転車・車両台数(歩行者を含む交差点もあ
81
る)に影響され、右折前通行路正面からの自転車・車
10 0
右折時右側通行台数に対する右方向左側通行する
自転車台数及び歩行者を含めたときの割合は0.41、
0.30でいずれも①③④より大きく、右折時の左側通行
減少要因と考えられる。しかし、右折前の通行路での
直進自転車通行率100%が、右折時左側通行率を1
7.5%まで引き上げているとも考えられる。
また、すべての交差点を合わせると自転車の直進
時・左折時も含めた通行違反率は22.7%だが、1時間
の自転車総通行台数100台未満のすべての交差点
は28.0%以上であるのは、自分の意思で通行空間を
信号機が設置してない交差点での自転車事故防止
調査時間8:00~9:00 (金)
対策として、右折時の左側通行率上昇も含め、いずれ
左側通行自転車0台 右側通行自転車19台
24
向の通行状況が見えるという道路環境も影響する。
選択することができるという要因が考えられる。
⑥十字路 左側通行率0.0% 中野区鷺宮1-18
駅
両台数との関係性は小さい。この他、交差点の左右方
の方向も左側通行を促進させことが有効と考えられる。
38
このためには交差点進入前の停止線の他、直進時、
28
右折時の進路を示す路面表示を活用することである。
15
住宅地
3
51
47
参考文献
1)「警視庁自転車事故分析資料」 警視庁 2015年
2)元田良孝他 「進行方向・赤信号に関する自転車の
194 14
交通違反の原因に関する研究」 2010年
右折時右側通行台数に対する右方向左側通行する
自転車・車両の直進・左折台数及び歩行者を含めたと
きの割合0.19、0.13は最小で、右方向からの自転車・
車両台数を考えると右折時左側通行率は上がるだろう。
しかし、右折前道路の幅員4mに左側通行自転車が2
06台(左側通行率86.2%)であるため、この車列の中
から右折することが難しいという状況が右折時右側通
------------ << 連絡先 >> -----------谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
〒141-0021 品川区上大崎 3-3-1
電話 03-4334-7953
FAX 03-4334-7958
E-mail: [email protected]
- 20 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
1-5
平成 24~26 年度科研基盤研究 B の分担研究活動報告
○橋本修左 1)、谷田貝一男 2)
1)武蔵野大学人間科学研究所,
2) 日本自転車普及協会自転車文化センター
1.はじめに
平成 24~26 年度の科研基盤研究 B「安全な自転
案することを目標とした分担研究グループとして
車利用促進を目指す循環型社会の新しい交通シス
きた 1)・3~8)。今回、この分担研究を終えるにあたっ
テム構築のための基盤研究」(7 大学の人類働態学
てその総括を行うと共に現在考えている今後の展
会員等による共同研究、研究代表者 大妻女子大学
開方向について報告する。
活動し、それらの結果を随時本学会大会に報告して
の真家和生教授)が今年 3 月に終了した。筆者らは
下表-1 は本研究開始に先立つ準備の平成 23 年 4
当研究テーマにおいて「地域住民参加型交通安全教
月から本科研研究が終了に至る平成 27 年 3 月末ま
育の新しい展開」としての交通教育プログラムを提
での活動概要を各年度別に示したものである。
表-1
実
各年度における実施内容
施 年
平成 23 年度
(準備期間)
実
施 概 要
(1) 自転車に関する武蔵野大学学生の意識調査アンケート調査を 6 月に実施(169 名)
(2) 自転車の道路インフラが異なる国立、笹塚、東伏見の各地域における自転車利用
状況の実態調査を 9 月に実施
(1) 7~8 月に武蔵野大学三鷹サテライト教室にて教育プログラムの開発・調査のた
めの GW を武蔵野大学生に対して実施
(2) 三鷹、吉祥寺、小平地区の自転車実態調査を 8 月に実施
平成 24 年度
(科研初年度)
(3) 武蔵野大学前の 7 差路交差点における観察調査と VTR 記録を 11 月に実施
(4) 武蔵野大学に対して 12 月に以下のことを実施した。
・大学生の自転車安全教育実施の提言
・大学前 7 差路交差点の改善案の提案
・大学教職員に対して大学前 7 差路交差点の観察調査結果の報告
(5) 武蔵野地区 NPO(市民まちづくり会議むさしの)へのヒアリング調査を 12 月に実施
(1) 武蔵野市交通対策課自転車対策係へのヒアリングを 2 月に実施
平成 25 年度
(科研 2 年目)
(2) GW による教育プログラムの開発・検証
武蔵野大学三鷹サテライト教室において NPO 協力の下に、武蔵野大学生、及び三
鷹・吉祥寺地区住民に対する GW を 5~8 月にかけて全 3 回実施
(3) オランダ、ドイツにおける自転車実態調査を 11 月に実施
(4) 教育プログラムの検証として三鷹・吉祥寺地区の自転車実態調査を 11 月に実施
(1) 中野区鷺宮地区における自転車実態調査を 5 月に実施した後、鷺宮区民活動セン
ターにおいて GW を実施
平成 26 年度
(科研最終年)
(2) 武蔵野市役所に対するヒアリングを 5 月に実施
(3) 関前地区の自転車実態調査を9月に実施したのち、関前コミセンにおいて西東京
市関前地区住民による GW を実施
(4) 12~2 月に教育プログラム実施マニュアルを作成
- 21 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2.平成 23 年度調査(予備調査)
自転車利用状況と交通法規の理解度を把握する
ためのアンケート調査を武蔵野大学生に対して実
施した。その結果、一般的な自転車安全利用五則な
どは認知しているものの、その詳細については必ず
しも十分に理解されていないところも見られ、講習
会などによる認知の一層の促進が必要であること
が判明した。また、交通法規をある程度理解してい
てもそれらは必ずしも実際には遵守されておらず、
その理由を明らかにする必要性が認められた。
また、自転車走行する道路事情が異なった都内 3
地区を対象地区として取り上げて自転車走行の実
態を観察調査した。その結果、自転車専用道路の設
置は勿論理想的であるとはいえ、国内道路の圧倒的
多くは路幅も狭く、早急な拡幅対策等を実施するこ
とが困難であることから、より現実的な対策を考え
ることが必要であると思われた。
3.平成 24 年度調査
前年度のアンケート調査結果を通じて、自転車関
連法規の遵守度が低い理由として、安全問題を自ら
のこととして捉えていないからではないかと考え
られた。従来より各地で実施されている交通法規一
般の解説を中心とした受動的な講習会形式だけで
なく、参加者がより身近な問題として主体的に考え、
また、属性の異なる他の参加者の考え方や立場を知
ることができるような GW (グループワーク、一グ
ループ 7~8 名程度)形式による講習プログラムが
有効であると考えた。GW では参加者全員で歩行者
と自転車利用者の両視点から危険と思われる場所を
拡大した居住地域地図上に自由にマークして頂くこと
により「自転車危険度マップ」を作成する。そしてそれ
らのマークが集中している場所から順次、Google
Street View による問題箇所の投影やレゴブロック模型
などを利用しながら、具体的に「何が危険か」、「どうす
れば安全になるか」などを参加者に自由討議して頂き、
最後にグループ内でまとめて発表して頂くというもので
ある。このような安全教育プログラムを策定して大学生
による GW 講習会において検証してその有効性を確
認した。
また、具体的な自転車走行の検討事例として、走
行マナーが必ずしも良くない武蔵野大学生の朝・昼
の混雑する時間帯における大学正門前の 7 差路交
差点を取り上げ、自転車走行実態の観察記録調査を
実施した。その結果、厳しく見た場合の交通違反率
は実に約 8 割を超え、ある程度の強制力を伴った自
転車安全教育の必要性と共に、結果的に交通違反へ
と導いてしまう7差路交差点の現在の交通システ
ムと交通インフラ自体の改善が必要であると思わ
れた。これら調査結果をまとめて「改善のための提
案書」として大学へ提出し、安全教育受講を前提と
した学生の自転車登校許可証発行や、自転車保険と
定期整備の TS マークへの加入、スクランブル交差
点化等を提案した。
4.平成 25 年度調査
前年度に策定した GW 形式による講習会を西東京
市、武蔵野市・吉祥寺地区等を中心とした住民を対
象として実施し、GW による講習の方法とその効果に
ついて検証した。
また、人類働態学会理事らを中心に実施された自
転車先進国といわれるオランダ、ドイツにおける自
転車実態調査にも参加し、生活道路の自転車利用
実態を中心とする独自の調査を実施した。その結果、
自転車専用道路網や自転車関連法規の整備など学
ぶべきことが多々あった。しかしながら、高齢の自
転車利用者や子供同乗者などは云わば「自転車利用
弱者」として幹線道路や自転車専用道路網ではなく
生活道路を主に利用しているという実態も判明し
た。
5.平成 26 年度調査
前年度までの調査結果を踏まえて GW による講習
方法に一部改良を加えた上で、中野区鷺宮地区住民
による GW 講習を実施した。また、GW の参加対象者
が居住する地区の規模が広くなるほど普段自転車
走行しない地域道路の危険性などについての情報
を知りたいという強い要望もあることが判明した。
そのため、GW 参加者の居住対象地域をより小さい、
「町」や「コミュニティセンター(通称コミセン)」
などのより小規模地域に限定した場合についての
効果を検証する必要があると思われた。そこで対象
地域がほぼ1~2km2 程度の広さである武蔵野市
「関町 1~5 町目」地域を調査対象地域として取り
上げ、それらの対象地域住民による GW を実施した。
その結果、このような対象地域規模における調査が
GW として最も効果的であることが明らかになった。
また、三鷹駅周辺では最近まで横行していた違法
駐輪が武蔵野市による駅周辺への多数の公営・私営
駐輪場設置により一掃されている。そのため鉄道を利
用する通勤・通学する自転車利用者は、交通量が多く
狭隘な車道と歩行者で混雑する歩道の幹線道路はで
きるだけ迂回して、並行する裏道の生活道路を走行し、
駅周辺に設置されているこれらの駐輪場を使用してい
る実態が明らかになった。しかし、生活道路は幹線道
路よりもさらに狭隘かつ見通しの悪いのが一般的であ
り、とりわけ商店街付近の路上を通行する歩行者数も
多く、商店関連の業務車両とも競合するなど自転車走
- 22 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
り方に関する研究 -その1 中野区鷺宮地区
における調査-」 人類働態学会第 43 回東日本
地方会 2014.12
行上の様々な問題が見られる。このように迂回路として
利用する生活道路などは市道であり、国道や都道など
に比して地方自治体の裁量による対策実施の可能性
が高いと考えられる。従って、これら生活道路における
自転車安全走行のために、GW によって得られる住民
の意見を取り入れることがきめ細かな取り組みとして重
要であると思われる。
7) 橋本修左、谷田貝一男、高柳京征、今田 和
貴:「自転車安全教育プログラムの検討 - その
3. 関前コミセンにおける GW -」人類働態学会
第 43 回東日本地方会 2014.12
8) 高柳京征、今田和貴、谷田貝一男、橋本修左:
「自転車安全教育プログラムの検討 –その 2.
新しい安全教育の実施方法についての検討-」人
類働態学会第 43 回東日本地方会 2014.12
6.今後の取り組み
以上のように、今まで策定、検討を進めてきた
GW 形式の自転車安全教育プログラムの内容は、平
成 27 年春に公表された全国交通安全運動推進要綱
に明記されている住民提案型の自転車安全対策に
9) 橋本修左、谷田貝一男:自転車安全教育プ ログ
ラム実施の手引き
も沿ったものでもある。そこで筆者らは策定検討し
てきたこの自転車安全教育プログラムをまとめて
「自転車安全教育プログラム実施マニュアル(案)」
を作成し、科研基盤研究 B における分担グループの
活動成果の具体例として報告している。 この自転
車安全教育プログラムが今後様々な団体によって
実施されている自転車安全講習などにおいて広く
活用されることを期待している。そのため人類働態
学会等を通じてパンフレットとして出版、配布する
取組を計画している。また、当学会における次期科
研研究テーマとして今までの取組が継承されてゆ
くことを期待している。
<参考文献>
1) 宇和川知里、小澤彰、原田拓実、橋本修左:「自
転車利用に関するアンケート調査及び実態調査
報 告 」 人 類 働 態 学 会 第 40 回 東 日 本 地 方 会
2011.11
2) 橋本修左:「武蔵野大学本校前の自転車安全問題
に関する提案書」2012
3) 中島星司、櫻井健有、谷田貝一男、橋本修左
et.al.: 「自転車利用者に対する安全教育の在
り方に関する研究
武蔵野市を対象地域とし
------------
て−」、第 42 回人類働態学会東日本地方会
2-12013.11
4) 櫻井健有、中島星司、谷田貝一男、橋本修左
et.al.: 自転車の安全通行問題と道路環境に関
する研究 –武蔵野市を対象地域として−、第 42
回人類働態学会東日本地方会 2-2 2013.11
5) 橋本修左、谷田貝一男: 「武蔵野市における自
転車走行実態の調査」人類働態学会第 49 回全国
大会 2014.6
6) 谷田貝一男、橋本修左:「自転車の安全教育の在
<< 連絡先 >>
------------
橋本修左
武蔵野大学人間科学研究所
〒135-8181 東京都江東区有明 3-3-3
電話 03-5530-7454
FAX 03-5530-3822 (共用)
E-mail: [email protected]
谷田貝一男
日本自転車普及協会自転車文化センター
〒141-0021 東京都品川区上大崎 3-3-1 自転車総合ビル
電話 03-4334-7953
FAX 03-4334-7958
E-mail: [email protected]
- 23 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2-1
自立歩行可能な高齢男性の下肢筋プロポーションと歩行動作との関係性
○中島弘貴 1)、Irma Nur Afiah 1)、Loh Ping Yeap 1)、福元清剛 2)、福田修 3)、村木里志 4)
1)九州大学大学院 芸術工学府, 2)静岡大学 工学部,
3)佐賀大学 理工学部, 4)九州大学大学院 芸術工学研究院
1.背景
筋群、背屈筋群、底屈筋群とする)。尚、被験者間の
日本は超高齢社会に突入し、高齢問題の解決が急
体格差を考慮し筋横断面積は比体重を用いて補正し
務となっている。高齢問題の一つである寝たきりは加
た。そして 6 つ筋群間の筋横断面積を元に下肢筋プロ
齢による歩行能力の低下やそれに伴う転倒リスクの増
ポーションを算出した。算出した下肢筋プロポーション
加によって引き起こされることが多い。この歩行能力の
の名称と算出方法を Table 1 に示す。これらの下肢筋
低下は、ロコモーターの原動力である下肢筋肉の減弱
プロポーション値をもとに高齢者のグループ分けを行
が原因の一つだと考えられている。これは加齢による
い、グループ間の歩行動作の比較を行った。
下肢筋量の減少が強く関係している。
Table 1 下肢筋プロポーションの定義について
一方で歩行動作は複数の下肢筋の活動で成立して
いる。踵接地の時には下腿部の足関節背屈筋群、遊
下肢筋プロポーション
算出方法
脚期での下腿のスイングには大腿部の膝関節伸展筋
下肢総筋(cm/s )
大腿総筋+下腿総筋
群が活動するなど、動作の役割に応じて複数の筋が
個々筋率(%)
各筋群/下肢総筋
並列的に活動する。そのため歩行動作においては複
大腿下腿比(%)
大腿総筋/下腿総筋(%)
数の下肢筋量が相互に干渉することが考えられる。つ
屈伸比(%)
屈曲筋群/伸展筋群(%)
まり 1 つの下肢筋群単体での筋量はもちろん、下肢筋
背底比(%)
背屈筋群/底屈筋群(%)
2
プロポーション(複数の下肢の筋群間の相互関係)も
歩行の決定要因であると推測される。
2-4.歩行動作
そこで本研究では、筋群間の比率や総量を下肢筋
カメラ 10 台、赤外線反射マーカー31 個を用いた 3
プロポーションと位置づけ、高齢者の下肢筋プロポー
次元動作解析を行った。対象動作は自由歩行(普段
ションと歩行動作との関係性を明らかにすることを目的
通りの歩く速さでの歩行)とし、約 10m の木板で作られ
とした。
た歩行路にて複数回の計測を行った。解析には3試行
分の歩行データを加算平均して用いた。解析区間は
2.方法
歩行動作が安定した時の踵接地から同脚踵接地まで
2-1.被験者
被験者は健康で自立歩行が可能な高齢男性 51名
(65~81 歳 平均年齢 72.5±4.2 歳)とした。身体特徴
は身長(164.4±5.6cm)、体重(62.0±7.4kg)、比体重
(37.7±4.0kg/cm)である。尚、被験者の利き脚は全て
右脚である。
の 1 歩行周期間とした。1 歩行周期での歩行速度
(cm/s)、歩調(steps/min)、歩幅(m)、立脚期、遊脚期、
両足支持期、単脚支持期の時間(s)と各相が 1 歩行周
期を占める割合(%)をそれぞれ算出した。また下肢関節
の運動指標として、矢状面での足関節、膝関節、股関
節の可動域と経時変化のピーク分析(角度(deg)、角速
2-2.超音波計測
下肢筋横断面積の計測には Fukumoto らが開発し
た超音波筋計測システムを用いた。これは、被験筋の
周囲に沿って連続的に筋厚を撮影し合成することで、
筋肉の横断面画像を取得するシステムである。仰臥位
での大腿部、下腿部の撮影から得た筋横断面画像を
元に下肢筋横断面積(cm/s2)を算出した。各筋横断画
度(deg/s)、角加速度(deg/s2))を行った。
2-3.統計処理
下肢筋プロポーションの特徴に基づき、被験者群の
分類を行った。その群間の歩行動作の比較には、対
応のない両側検定の T 検定を用いた。尚、全ての検定
において、有意水準5%未満を有意とした。
像からは測定部の全筋量を示す大腿総筋、下腿総筋
3.結果
を算出した。また、大腿部からは膝関節の伸展筋群、
3-1.下肢筋プロポーションによる被験者群の分類
屈曲筋群、下腿部からは足関節の背屈筋群、底屈筋
屈伸比(屈曲筋群に対する伸展筋群の比率)にお
群の計 4 つの筋群を算出した(以下 伸展筋群、屈曲
いて特徴的な個人差が見られた。この個人差を基準と
- 24 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
し、伸展筋群が屈曲群よりも大きい高齢者(29 人: 以
4.考察
下、伸展筋優位群)と伸展筋群よりも屈曲筋群が大き
伸展筋群は主に立脚期にて活動し、踵接地時の衝
い高齢者(22 人: 以下、屈曲筋優位群)に被験者の
撃緩衝、立脚期中期での屈曲抑制として働く。また屈
分類を行った。尚、これらの 2 群間に年齢の差はなか
曲筋群の役割は遊脚期中期からの膝関節の伸展の制
った(伸展筋優位群:平均 72.6+3.8 歳 屈曲筋有意
御、接地時の衝撃緩衝、遊脚期での足部挙上である。
群:平均 72.5+4.6 歳)。
屈曲筋優位群に対し伸展筋優位群は歩調が有意
3-2.異なる筋プロポーションでの歩行動作の比較
に遅く、立脚時間が長かった。立脚期時間は脚で身体
屈曲筋優位群と伸展筋優位群との歩行動作の比較
を支える期間であり安定性が求められる。この立脚期
を行った。その結果、屈曲筋優位群は伸展筋優位群
の安定性には立脚期中期などの伸展筋群の活動が貢
に比べ、有意に歩調が大きく、歩行速度が速い傾向が
献しており、伸展筋が優位であればより高い安定性が
あった。また立脚期率(%)では有意差はなかったが、立
獲得されると示唆される。つまり 2 群間において、立脚
脚期の時間(s)が有意に短かった(Figure 1)。
期での安定性に差があることが示唆され、それに伴い
一方で下肢関節運動については、主に各指標の経
立脚期時間、歩調の差が生じたと考えられる。
時変化のピーク値が出現する時期に差異が現れた。
また膝関節のピーク出現にも 2 群間の差が見られた。
伸展筋群、屈曲筋群が活動する膝関節運動について
これは群間の立脚期率に差がなかったことを踏まえる
は、屈曲筋優位群は伸展筋優位群に対し立脚期中期
と、膝関節運動自体の位相変化であるといえる。
での伸展角度のピーク値出現と遊脚期初期での屈曲
角度のピーク値出現が有意に遅かった(Figure 2)。
屈曲筋優位群に対し、伸展筋優位群は立脚期中期
での膝関節の伸展ピークの出現が有意に遅かった。こ
のピークに至るまでの伸展運動は、伸展筋群の活動に
よって成立し、屈曲方向の外力に対抗して膝を安定さ
*
0.8
立脚期時間(s)
歩調(steps/min)
*
130
115
せる。この運動は立脚期中の安定性に寄与するので、
伸展筋群の優位性は、結果として立脚期での高い安
定性を意味すると考えられる。以上から伸展筋優位群
0.6
は立脚期中期での安定性が高く、長い時間での伸展
位の保持が可能となる。その結果として、ピーク出現が
0.4
100
伸展筋 屈曲筋
優位
優位
伸展筋 屈曲筋
優位
優位
遅延すると考えられる。
一方で、伸展筋優位群に対し屈曲筋優位群は遊脚
Figure 1 伸展筋優位群と屈曲筋優位群の歩行指標の比較
期初期での膝関節角度のピーク出現が有意に早かっ
(伸展筋優位群 n=29, 屈曲筋優位群 n=22, *p<0.05)
た。この膝関節の屈曲の 2 回目ピークは遊脚期中期付
近で迎える。この屈曲筋群の活動による屈曲は蹴りだ
し動作で得た反力と共に下腿を挙上させる役割を持
50
*
ピーク出現時期(%)
ピーク出現時期(%)
第1伸展ピーク時期
(立脚期中期)
40
30
伸展筋 屈曲筋
優位
優位
第2屈曲ピーク時期
(遊脚期初期)
76
*
つ。つまり伸展筋優位群に対し屈曲筋優位群は、この
筋活動の優位性によって振り上げの作用が大きいた
め、より早い時期での屈曲が可能だったと考えられる。
以上から高齢者において、下肢筋プロポーションと
歩行動作との関係性が示された。
73
5.謝辞
本 研 究 の 一 部 は 科 学 研 究 費 ( No.23300255 、
70
伸展筋 屈曲筋
優位
優位
No.26282194)の助成を受けたものである。
6.連絡先
Figure 2 伸筋群優位群と屈曲筋群優位群の
膝関節関節角度のピーク時期の比較
(伸展筋優位群 n=29, 屈曲筋優位群 n=22, *p<0.05)
中島弘貴
九州大学大学院 芸術工学府
〒815-8540 福岡県福岡市南区塩原 4-9-1
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2-2
Relationship between Wrist-Finger Postures and the Deformation of Median
Nerve
○Ping Yeap LOH 1), Hiroki NAKASHIMA 1), Satoshi MURAKI 2)
1) Graduate School of Design, Kyushu University, 2) Faculty of Design, Kyushu University
1. Introduction
The wrist joint able to moves in flexion-extension
and radial-ulnar deviation direction as the wrist
articulates by the radio-carpal and mid-carpal joints.
Carpal tunnel is located at volar wrist and formed by
the carpal bones and transverse carpal ligament.
Carpal tunnel is a confined space with a total of nine
finger flexor tendons and a median nerve pass
through at wrist region (Fig 1).
Figure 1 Cross-section of the carpal tunnel.
Carpal tunnel syndrome (CTS) is one of the most
common reported upper limb peripheral neuropathies.
Chronic compression of the median nerve by
awkward wrist posture is one of the risk factor that
lead to CTS. The median nerve of CTS patients
showed lesser excursion and higher compression
compared to healthy participants.[1]
Wrist movements causes the deformation of the
median nerve within the carpal tunnel. Wrist
flexion-extension causes the median nerve
cross-sectional area (MNCSA) decreases.[2,3,4]
However, Loh and Muraki (2014) reported wrist
radial-ulnar deviation do not have significant
influence on the MNCSA. The synchronization of
the wrist and finger joints movements are in need to
perform daily activities and work such as keyboard
typing and tip pinching. The wrist and fingers
movements cause the finger flexor tendons to glide
and displace transversely within the carpal tunnel.
Therefore, the finger movements may cause
compression stress to the median nerve.
However, the effects of different wrist and finger
postures on the median nerve compression are not
clearly understood in previous studies. Therefore, the
objective of this study was to investigate the effect of
different finger and wrist postures on the deformation
of median nerve.
2. Methods
Ten healthy right-handed male adults (age = 24.0 ±
1.0 years; height = 170.8 ± 4.9 cm; weight = 63.1 ±
7.2 kg; BMI = 21.7 ± 2.7 kg/m2) were recruited.
Ultrasound examination was performed using a
GE Healthcare Ultrasound System (LOGIQ e) with a
5-13 MHz transducer (Model 12L-RS). The median
nerve of the dominant wrist was examined at the
proximal carpal tunnel level by using pisiform as
bonymark. Combination of three wrist postures and
three finger postures were examined, namely wrist
30° flexion, wrist neutral (0°) and wrist 30°
extension (Fig 2a – c), and finger relax, finger
straight and full fist (Fig 2d – f). The MNCSA was
measured with ImageJ.
Two-way repeated (3 × 3 factorial) ANOVA with
post-hoc Bonferroni comparison was used to
analyze the MNCSA at different finger and wrist
positions.
Figure 2 Wrist and finger postures.
3. Results
No significant interaction between wrist angle ×
finger posture in the MNCSA changes (F [1.0, 9.0] =
- 26 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
3.58, p = 0.091). However, both finger posture and
wrist angle have significant effect on the MNCSA.
The MNCSA became significant smaller (p < 0.01)
as the finger posture change from relax to finger
straight and full fist. At each finger posture, the
MNCSA at wrist neutral (0°) is significantly larger (p
< 0.01) compared to wrist 30° flexion and extension
(Fig 3).
longitudinally as the fingers are actively
straighten.[6] The stretch and elongation could
causes the decreased in MNCSA. Subsequently, the
tendons within the carpal tunnel are gliding in
disto-proximal direction to achieve full fist posture.
The incursion of lumbrical muscles into the distal
carpal tunnel may causes the increase of carpal
tunnel pressure and lead to the deformation of
median nerve at wrist-finger flexion positions.[2,7]
The finding from this study suggests that the
changes in the wrist, finger and wrist-finger postures
cause the deformation of MNCSA.
5. References
Figure 3 MNCSA at different wrist and finger
postures.
4. Discussion
The MNCSA are largest at wrist neutral position at
each finger posture and the MNCSA becomes
smaller as the wrist changes to flexion and extension
(Fig 3). The decreases of carpal tunnel volume as the
wrist posture changes from neutral to flexion or
extension may lead to the compression of the median
nerve.[2,3,5] The findings suggested that wrist
posture is one of main factor causes the median
nerve compression at wrist region as described by
Loh and Muraki (2015).
The MNCSA at finger relax posture is the largest
and decreases when the finger change to straight and
full fist, regardless to the wrist postures (Fig 3). At
the finger relax posture, the arrangement of tendons
are loose within the carpal tunnel and least
compression stress on the median nerve. On the other
hand, the median nerve was elongated and stretch
1. Lopes MM, et al. Tendon and nerve excursion in
the carpal tunnel in healthy and CTD wrists. Clin
Biomech (Bristol, Avon), Vol. 26, No. 9, pp.
930-936, 2011.
2. Loh PY, Muraki S. (2015) Effect of Wrist Angle
on Median Nerve Appearance at the Proximal
Carpal Tunnel. PLoS ONE Vol. 10, No. 2,
e0117930.
3. Loh PY, Nakashima H, Muraki S. (2015) Median
nerve behavior at different wrist positions among
older males. PeerJ 3:e928.
4. Loh PY, Muraki S. (2014). Effect of Wrist
Deviation on Median Nerve Cross-Sectional Area
at Proximal Carpal Tunnel Level. Iranian Journal
of Public Health, 43(3), 180-185.
5. Mogk JPM, Keir PJ (2009). The effect of
landmarks and bone motion on posture-related
changes in carpal tunnel volume. Clinical
Biomechanics, 24(9), 708-715.
6. Coppieters MW, Hough AD, Dilley A. (2009).
Different nerve-gliding exercises induce different
magnitudes of median nerve longitudinal
excursion: An in vivo study using dynamic
ultrasound imaging. The Journal of Orthopaedic
and Sports Physical Therapy, 39(3), 164-171.
7. Keir PJ, Rempel DM (2005) Pathomechanics of
peripheral nerve loading: Evidence in carpal
tunnel syndrome. Journal of Hand Therapy, 18:
259–269.
------------
<< 連絡先 >>
------------
Ping Yeap LOH
九州大学 芸術工学府 デザイン人間科学
〒815-8540 福岡市南区塩原 4-9-1
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2-3
ニホンザルの足の働態(予報)
小島龍平
埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科
1.はじめに
節、PIP 関節、DIP 関節を含めた足指全体の屈曲に多
ニホンザルの足指の運動に関与する筋について形
くの筋力、筋パワーが動員され、PIP 関節の選択的屈
態学的な解析を行うとともに、飼育下での種々の行動
曲に動員される筋力、筋パワーは比較的少ないと考え
場面での足の使い方について予備的な行動観察を行
られる。4)母指から第Ⅴ指までの各指に停止する屈筋
い、ニホンザルの足の働態学的な考察を試みた。
群の重量をみると、母指>第Ⅲ指=第Ⅳ指>第Ⅴ指
>第Ⅱ指の順であった。
2.方法
3-3.筋線維タイプ構成
2-1.形態学的解析
標本として 10%ホルマリンにより固定され同液中に保
存されたニホンザル Macaca fuscata fuscata 1 頭(雌、3
歳 3 ヶ月、体重 5.8kg)を用いた。右側の下腿および足
部を肉眼的に解剖し筋構成を観察した後、全ての足
筋および足指の運動に関与する下腿筋について筋湿
重量および筋線維タイプ構成を検索した。筋線維タイ
プの判別は間接蛍光抗体法を用いた免疫組織化学
的手法により行い、筋線維タイプ構成は遅筋線維の数
比(%ST)として算出した。
1)足筋群の多くの筋の%ST の値は 30%以下であり、
速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。2)特に
足底方形筋(3.8%)、第Ⅳ指に停止する短指伸筋
(6.2%)、小指外転筋(6.9%)は著しく速筋優位の筋
線維タイプ構成を示した。3)下腿から起こる足指の運
動に関与する筋群の%ST は、伸筋群では 11.7%から
30.0%、屈筋群では 15.6%から 24.1%で、いずれも比
較的速筋線維優位の筋線維タイプ構成を示した。
筋重量および筋線維タイプ構成の結果から、足指の
運動の筋力、筋パワーの多くは下腿筋群が分担し、こ
2-2.行動観察
動物園で飼育下のニホンザル(ヤクザル Macaca
fuscata yakui )の行動観察を行った。直径あるいは幅
20cm 前後の丸太および角材で組まれた立体的な遊
動施設および地面での行動をヴィデオカメラで撮影し
た。その映像を再生して観察および記載した。
れらは足指全体の運動に関与する。足筋は、より選択
的な関節肢位の調節に関与する。足指の運動に関与
する筋群は下腿筋群も足筋群も比較的速筋線維優位
の筋線維タイプ構成を示した。これらの中で虫様筋は
比較的遅筋線維の割合が高く、特に第 1 虫様筋の%ST
は 46.2%と足筋の中では最も高い値を示した。筋重量
3.結果および考察
は 0.03g と著しく小さく、また定量的な解析をしていな
3-1.筋構成
いが筋紡錘が多く観察され、特異な形態を示した。
1)長指伸筋の筋腹は各指ごとに独立しており、足指
3-4.行動観察
の伸展は各指の独立性が高いと考えられる。2)内側
足幅の 3〜4 倍程度の直径の丸太上での歩行では、
指屈筋は母指、第Ⅱ指、第Ⅴ指に停止し、外側指屈
母指を外転して他の 4 指との間で丸太を軽くはさむよう
筋は母指、第Ⅲ指、第Ⅳ指に停止していたが、各指に
にしていた。地面での歩行においても多くの場合母指
いく筋腹は独立しておらず一塊であった。足指の屈曲
を外転していた。また、足で物体を操作する場面が観
は各指の独立性があまり高くないと考えられる。
察された。より多くの動作のレパートリーの収集と、より
3-2.筋重量
定量的な研究が必要と考える。
1)下腿筋と足筋を含めた足指に作用する筋重量は
伸筋群に比べ屈筋群が大きかった。このことから、足
本研究の一部は 2014 年度京都大学霊長類研究所
共同利用・共同研究として実施した。
指の屈曲により多くの筋力、筋パワーが動員されると
考えられる。2)屈筋の重量では足筋群に比べて下腿
筋群の重量が大きかった。このことから、足指を屈曲す
る筋力、筋パワーの多くは下腿筋群によりまかなわれ
ると考えられる。3)屈筋群について基節骨、中節骨、
末節骨の各指へ停止する筋の重量をみると、末節骨
>基節骨>中節骨の順であった。このことから、MP 関
------------
<< 連絡先 >>
------------
小島龍平
埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科
〒350-0496 埼玉県入間郡毛呂山町川角 981
電話 049-295-8257
FAX 049-295-5104(学科事務室)
E-mail: [email protected]
- 28 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2-4
異なる荷重姿勢が足の測度に及ぼす影響
‐外反母趾角・足長・足幅‐
○梅原彰宏 1)、竹内京子 1)、松村秋芳 2)、岡田守彦 3)
1)帝京平成大学・院・健康科学研究科, 2)防衛医科大学校・生物学講座,
1.はじめに
3)筑波大学
2-3. 計測方法
1)
足型輪郭図を市販の足型複写器(フ ット プリント、
では第 1 中足骨と基節骨の長軸が為す角度を計測す
BAUERFEIND 社、独;Fig.2 左)にて、先行研究 4)に
るが、足型複写法2)では外周の形状から計測する。い
準じ足型輪郭および計測点の複写図を得る(Fig.2
ずれも、荷重負荷の違いが、骨同士の位置関係(角
右)。東大式角度計(堤製作所、千葉)およびマルチン
度)に影響を及ぼすので、足趾の角度計測では姿勢
式滑動計(竹井機器工業、東京)にて、外反母趾角度
外反母趾(Hallux Valgus)の評価は、X線写真法
3)
や荷重負荷に注意が必要である 。
を1°単位で読みとった。一枚の複写図に対して 3 回
梅原らは、人類動態学会(2014)で立位前後開脚
計測を行い、其々平均値を採用する。
姿勢では荷重の違いは、足弓の形状には影響を及ぼ
したが、反母趾角に影響を及ぼさないことを報告した。
本研究では、立位肩幅開脚姿勢において、異なる
荷重負荷が外反母趾角度および足幅(Foot breadth,
diagonal; 全履協)・足長(Foot length;全履協)に及
ぼす影響観察を目的とする。
2.方法
2-1.資料
資料は前回と同一の被験者、成人男子 20 名のうち
Fig.2 簡易型足型複写器と足型計測点
14 名から得た足型複写図である。全員ボールを蹴る
足型輪郭を得た後、第1中足骨頭、第1基節骨底、
脚(利き足)は右、体重支持側(支持足)は左である。
第 5 中輪足骨頭、踵骨点、指尖点、内果後方に点を付
2-1.立位肩幅開脚姿勢と3種の荷重負荷
し、外反母趾角(第1中足骨頭と内果後方を結ぶ線と
立位肩幅・腕下垂・開眼姿勢で荷重計の上に乗る。
第1中足骨頭と第1基節骨を結ぶ線のなす角度)およ
足の位置に合わせて下肢荷重計(ジャイロメディメータ、ジ
び足幅(全履協)、足長(全履協)を計測する。
ャイロテクノロジー社、埼玉)を設置する。荷重のかかり具合
をモニターで確認しながら荷重計にのり、異なる荷重3
3.結果
姿勢(全荷重、 均等荷重/半荷重、無荷重/対側全荷
3-1.異なる荷重による外反母趾角度の変化
異なる荷重負荷条件の下で採取された左右の外反
重)での足型を得た。(Fig.1)
母趾角度の範囲は 2°から 17°の間であった。平均
全荷重
半荷重
無荷重
値は、右足は全荷重 9.9±4.3°、半荷重 9.5±4.0°、
無荷重で 9.3±4.5°であり、左足は全荷重 12.2±
3.9°、半荷重 12.6±4.3°、無荷重 11.4±4.8°であ
った。(Fig.3)
3-2. 異なる荷重によると足幅・足長の変化
1)足長の変化
異なる荷重負荷条件の下で採用された左右の足長の
Fig.1 立位肩幅開脚3姿勢(左側計測の場合)
下肢荷重計の上に高さ調整用に厚さ1cmの鉄板
(右側)を置く。フットプリント(左足、矢印)の上に
計測足をのせる。
右 足 は 全 荷 重 254.6 ± 11.7mm 、 半 荷 重 253.3 ±
12.5mm、無荷重 250±11.4mm であり、左足は全荷重
253.9±10.6mm、半荷重 254.2±11.0mm、無荷重 251
±11.9mm であった。(Fig。4)
2)足幅の変化
- 29 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
異なる荷重負荷条件の下で採取された足幅は右足
が、全荷重 105.0±5.9mm、半荷重 104.3±5.3mm、
4. 考察
4-1.異なる荷重による外反母趾角の変化
無荷重 100.9±4.8mm であった。左足は全荷重 106.3
異なる荷重による外反母趾角の平均値は、どの荷
±5.8mm、半荷重 105.3±4.9mm、無荷重 101.0±
重負荷レベルにおいても左>右であった。本研究で
5.9mm であった。(Fig.5)
は被験者 14 名が全員ボールを蹴る足が右であり、反
対足は軸足として機能していた。軸足となっている左
足は日々の生活様式の中で右足よりも荷重負荷が大
であると考えられる。外反母趾はハイヒールなどの靴に
よる前足部に荷重がかかることで変形が増悪されると
の報告がある(5 が、今回の被験者は全員が男性である
ためその可能性は少ない。しかし、慢性的な荷重が外
反母趾角に影響する可能性は否定できない。
4-2.異なる荷重による足長・足幅の変化
今回の結果から、足長と足幅は荷重により増加する
ことが示唆された。この結果は同一人物における前回
(2014年)の人類動態学会で報告した前後開脚姿勢
と同じで傾向であった。
Fig.3
外反母趾角の平均値
全:全荷重 半:半荷重 無:対側に全荷重
参考文献
1) Daniel MC Janssen,2014,A comparison of hallux
valgus angles assessed with computerized plantar
pressure measurements、clinical examination and
radiography in patients with diabetes, journal of
Foot and Ankle Research 7:33
2) Mahdi,S.Al-Jibbory, 2006, FOOT PRINTS Comparison between Uran and Rural Young Females
journal of Kirkuk University-Scientific Studies
vol.1,No.1;p1-6
3) 竹山 昭徳,2005,足部立位 X 線の前足部測定値
の荷重位置による変化について,整形外科と災害
Fig.4
外科54:(2);286~288
足長の平均値
全:全荷重 半:半荷重 無:対側に全荷重
4) 清水 新悟・前田 健博,2010,フットプリント上での
外反母趾角と内反小趾角の評価検討,日足外会誌
31,(2):35-39
5) Bertrand Mafart, Hallux valgus in historical French
population: Paleopathological study of 605 first
metatarsal bones, Joint Bone Spine,74,166-170
------------
Fig.5
足幅の平均値
全:全荷重 半:半荷重 無:対側に全荷重
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------------
梅原彰宏
帝京平成大学 ヒューマンケア学部 柔道整復学科
(兼務 大学院健康科学研究科) 竹内京子 気付
〒170-8445 豊島区東池袋 2-51-4
電話&FAX 03-4853-4866(学科教員室)
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
2-5
立位姿勢維持に影響を及ぼす身体各部の運動軸の時系列変化
○髙橋雄三
広島市立大学大学院情報科学研究科
市立大学の規定に基づいた被験者謝金を支払った.
1.はじめに
生産システムのセル化に伴い,微細部品の組み付け
2-2.実験条件
作業などを立位姿勢で行う必要性が急増している.立
実験では被験者の眼前 120 cm に 19 インチ液晶ディ
位で組み付け作業を行う場合,姿勢維持や下肢への
スプレイ(19 LE1, iiyama;リフレッシュレートは 75 Hz)を
重力負荷に対する筋負担が強く,高い作業精度を数
設置した.画面の白色背景の輝度は 150 cd/m2,黒色
分間維持することは難しい.一般に,このような場面で
円の輝度は 0.5 cd/m2 とした.設置高は被験者ごとに
は椅子の使用が想定されるものの,補助椅子などを導
調整した.眼前水平面照度は 650 lx,画面の鉛直面照
入している現場は少ない.
度は 110 lx,水平面照度は 410 lx に設定した.
補助椅子が利用されない理由の1つに,立位姿勢
実験条件は 10 分間の静立位中に画面に提示され
を補助する機器のユーザビリティが低いことが考えられ
る白色背景のみを注視する条件(背景条件),背景上
る.一般的な椅子では,座面で下肢への重力負荷を
に提示される直径 2 cm の黒色円を注視する条件(注
軽減し,背もたれで姿勢維持のための反力を生み出し
視条件),眼を閉じる条件(閉眼条件)の 3 条件とした.
ている.しかし,腰背部で生み出した余分な力の外部
2-3.測定項目
[1]
への伝搬 や,姿勢を保持するための反力を供するた
床面 2 次元平面に射影した身体重心位置の運動は
めの座面や背もたれが円滑な作業動作の遂行に妨害
4 点支持式フォースプレート S510-U(サカモト)を用い
的に働いてしまう可能性が考えられる.著者らは,作業
て計測した.また,身体各部の運動は 3 軸加速度セン
を伴わない立位姿勢を維持する場面でヒトは下肢への
サ MA3-04AC(MicroStone)を用いて計測した.両デ
筋負担の蓄積を防ぐために起立開始 3~4 分程度で
ータとも Sampling Rate は 100 Hz とした.加速度センサ
起立姿勢の制御モードを変化させる適応行動が現れ
は頭頂部,胸椎 T1 部,胸椎 T8 部,腰椎 L1 部,左右
[2]
ることが示唆した .また,制御モードの転換と前後し
の肩峰部,左右の腸骨稜部の計 8 か所に設置した.
て,頭部の運動方向と腰部の運動方向との間の乖離
2-4.評価指標
[2]
が大きくなる可能性も示唆した .加えて,安定した立
解析データは,血管動態や体動を除去するために
位姿勢を維持するためには腰部は上体や下肢部とは
0.5 Hz のローパス・フィルタ(Butterworth)処理を施し
[3]
独立した数度程度の回転運動が必要であり ,回転範
たフォースプレートの 4 個の荷重値と加速度センサの 3
囲は脊柱軸を中心に概ね 5~8 度程度である可能性
軸の加速度とした.身体重心位置の運動軸は,フォー
[4]
も提起した .
スプレートより得られた 4 個の荷重値から床面上の身
上体で生み出される種々の力を分散させつつ,姿
体重心位置を算出し,その加速度成分の時系列デー
勢維持に必要な反力を腰部の回転運動を妨害しない
タから 5 秒ごとの身体重心位置の運動軸(最大の往復
形で供することができる支援機器を開発するためには,
運動が観察された軸の角度)を算出した.また,身体
姿勢制御の制御目標である頭部の安定定位との関連
各部の運動軸は,センサから得られる加速度データを
が強い身体重心位置の運動軸と身体各部の運動軸の
用いて 5 秒ごとの身体各部の運動軸を算出した.
時系列変化を定量的に把握する必要がある.以上より,
2-5.データ解析
本研究では,床面 2 次元平面上に射影した重心位置
身体各部の運動軸上の加速度成分の二乗和と身体
と身体各部の運動軸の時系列変化について定量的に
重心位置の運動軸上の加速度成分の二乗和の時系
検討することを目的とする.
列データに対して,実験条件ごとに相関分析を行った.
解析区間は前半(0-4 分),中盤(4-7 分),後半(7-10
2.方法
分)とし,各区間での決定係数に対して Kruskal Wallis
2-1.被験者
被験者は 19-22 歳の健康な男子大学生 8 名とした.
実験前に,実験内容を十分に説明した上で書面で実
験への参加の同意を得るとともに,実験終了後,広島
検定を行った.次に,身体各部の運動軸と身体重心
位置の運動軸の回転差である誤差(5 秒間の回転差
の標準偏差)を算出した.身体重心位置の運動軸と身
体各部の運動軸との間の誤差量を評価するため,実
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
験条件を要因とする一元配置分散分析を行った.
0.4
いずれの統計検定も有意水準は 5%とした.
実験条件ごとにみた各解析区間での決定係数を図 1
に示す.Kruskal Wallis 検定の結果,決定係数は開眼
決定係数
0.3
3.結果
0.2
条件で有意差が認められ(χ 2 (2)=8.65),他区間に
背景
閉眼
開眼
0.1
比較して後半での決定係数は有意に低下していた.
一方,中盤では開眼条件に比較して閉眼条件と背景
0.0
条件での決定係数は小さくなる傾向が観察された.
前半
身体各部の運動軸方向と重心位置の運動軸方向と
の間の誤差を図 2(身体脊柱軸周り:頭頂,胸椎 T1,
中盤
時期
後半
図 1:重心位置の運動と身体の運動の協調関係
胸椎 T8,腰椎 L1)と図 3(身体外縁部:左右の肩峰部,
100
頭頂
胸椎T1
胸椎T8
腰椎L1
左右の腸骨稜部)に示す.一元配置分散分析の結果,
80
認められ(胸椎 T8:F (2,14)=4.81,左肩峰部:F (2,14)=
9.84, 右肩峰部:F (2,14)=4.02),事後検定の結果,他
誤差
胸椎 T8(図 2)と左右の肩峰部(図 3)で有意の効果が
60
40
の条件に比較して閉眼条件では重心位置の運動軸方
向との間の誤差は有意に大きくなっていた.
20
4.まとめ
0
背景
図 1 より,背景条件と閉眼条件では起立開始後 3~
4 分で身体重心位置の運動と身体運動との間に乖離
閉眼
条件
開眼
図 2:重心位置の運動と身体脊柱軸周りの運動軸の誤差
が生じ始める可能性が示唆された.図 2 と図 3 より,胸
100
椎 T8 の誤差は他のいずれの条件よりも顕著に大きい
傾向が観察され,特に閉眼条件では有意に誤差が増
左肩峰
右肩峰
左腸骨稜
右腸骨稜
80
股関節の関節回転運動に関連した運動軸を示してい
るのに対して,胸椎 T8 は体幹部の運動に反映した運
誤差
加していた(図 2).胸椎 T1 は頸部,腰椎 L1 は腰部・
60
40
動軸を示しており,閉眼時,背部は姿勢維持制御の対
象から除外されていた可能性が考えられる.したがっ
20
て,背部は姿勢制御の制御目標である頭部の安定定
0
位との関連が比較的弱い可能性が示唆された.しかし,
本研究では腕部の運動との間の関連性については検
討していないことから,次のステップとして,腕部の動
背景
閉眼
条件
開眼
図 3:重心位置の運動と身体外縁部との間の運動軸の誤差
作を伴う作業中の背部の運動軸と身体重心位置の運
ぼす頭部と腰部の運動乖離,産業保健人間工学研
動軸との間の関連性について検討する必要がある.
究,Vol.8(特別号), pp.56-59(2006)
[3] 中田真梨子 他:立位姿勢による微細部品組み付
謝辞
け作業時の身体動作の定量的検討,日本経営工学
本研究の一部は,JSPS 科研費 25350025(「腰部の
会平成 23 年度春季大会予稿集,pp.230-231(2011)
回転運動を抑制しない立位作業補助椅子開発のため
[4] 石原成治郎 他:3 次元動作解析を用いた身体各
の基礎的検討」)の助成を受けて実施した.
部のひねり動作の定量化,2014 年度日本人間工学
引用文献
会関東支部第 44 回大会 講演集,pp.42-43(2014).
------------
[1] 宮﨑のぞみ 他:作業面高に起因する姿勢拘束が
手先関節トルクの伝達経路に及ぼす影響,人類働
態学会 会報,第 99 号,pp.45-46(2014)
[2] 高橋雄三,神代雅晴:起立姿勢制御に影響を及
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------------
髙橋雄三
広島市立大学大学院情報科学研究科
〒731-3194 広島市安佐南区大塚東 3-4-1
電話 082-830-1817
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
3-1
個人経営農家を対象とする作業分析による定植作業の負担軽減
○下平佳江 1)、加藤麻樹 2)
1)長野県短期大学(生活科学科), 2)早稲田大学(人間科学学術院)
1.はじめに
農業人口の高齢化に伴って中山間地域では継続
B:椅子使用の作業に該当する。
困難による耕作放棄が問題となっている。地域の特徴
表 1. 作業条件
として経営規模が小さく、地形的に機械化が困難な農
作業条件
家では、手作業による農作業が中心であり、玉葱の苗
A
B
C
D
V
の定植作業も手作業で行われるため、作業の効率化
や省力化が求められる。長野市のある専業農家では、
例年 8000 本の苗を手作業で定植するが、夫妻2名で
作業した場合は3日間を要する。2014 年度は区長就
器具不使用
椅子
ポール
椅子,ポール
ベテラン
任により従来通りの農業就労時間の確保が困難という
理由で各種野菜の作付け面積を縮小し、玉ねぎも
4000 本に減らしている。
ビギナー2 名とベテランを分析対象としてビデオで
撮影し、上記の手順による作業を、つかみ動作、穴あ
本研究では小規模の農業従事者の作業負担軽減
け動作、投入動作、土寄せ動作にわけ、それぞれデシ
および、人手不足を補うための非就農者による人的支
マル計で所要時間を測定し、手順間の差に対して分
援の有効性について検討することを目的とする。
散分析と多重比較を行った。また穴あけ動作について
2.方法
長野市中条地区の農家にて、2014 年 11 月初旬に
は、器具を用いた場合と指で行った場合との間で所要
玉葱の定植作業を実施した。作業者は女性初心者 5
時間の平均値の差を t 検定により比較した。
名とベテラン男性 1 名である。ビギナーは最初に作業
3.結果
A 法による個人別の所要時間の平均値を表 2 に、方
手順の説明を受け、30 分ほど練習を行ってから、定植
法別の所要時間の平均値を表 3 に示す。
作業を行った。図1に示すように、2 名の作業者が穴あ
き黒マルチシートの両側に分かれ、手前から手の届く
表 2. 個人別の所要時間
2~3 列目までを各自の定植の分担とした。
掴む
V
B1
B2
2.55
3.95
5.43
穴開
投入
1.69
3.45
6.88
(DM)
土寄
1.71
2.93
2.85
3.83
8.55
9.15
表 3. 方法別の所要時間
V
B1
B2
図 1. 定植作業
ビギナーによる定植方法は、 通常の作業手順、椅
子を使用した作業、 器具で先に穴を一斉に開けてか
ら定植する手順、器具で先に穴を一斉に開けてから定
植時に椅子を利用する手順の 4 種類である。穴あけに
用いた器具は、ポール(長さ 1,170mm、直径 17mm)で
ある。一方、ベテランは本人の普段の作業手順で行う
こととする。表 1 に作業手順を示す。例えば図 1 の左側
の作業者は表 1 中の A:器具不使用、右側の作業者は
計
9.79
19.25
24.30
(DM)
A
B
C
D
9.79
19.25
24.30
-
-
26.56
-
15.78
20.59
-
14.45
17.60
表 1 の 5 種類の作業手順について、一回の作業の
所要時間、4 種類の要素動作ごとの所要時間を測
定し、項目ごとに一元配置の分散分析で比較した
結果、表 4 に示すように全て有意差が認められた。
そこで各項目に対して多重比較を行った結果、項
目ごとに有意差が認められる組み合わせが多く認
められたが、椅子とポールを使用した D の条件とベ
- 33 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
テランによる V の条件との間では 5 項目のいずれの
場合も有意差が認められなかった。
る、③苗の投入しやすさは、根の生長具合による、④
土寄せは、穴の周囲にある土の量が少ない場合は、マ
ルチの外側から土を移動する時間などが含まれる。
表 4. 項目別分散分析の結果
ベテランによる作業は個々の動作所要時間が短い
項目
F(df)
有意差
ことと、両手を使用することで連続する 2 種類の動作の
総計
掴む
穴あけ
投入
土寄せ
64.9(4,99)
25.3(4,99)
49.3(2,61)
34.9(4,99)
18.3(4,99)
<0.01
<0.01
<0.01
<0.01
<0.01
重なりによって更に短縮させていると言える。(掴んで
移動している間に穴あけを開始など)
4-2.器具を用いる効果
分散分析の結果,
ビギナーの A =B > C > D = ベテラン V
という順序で作業時間に差があり、椅子の使用による
また表5と図 2 に被験者別および穴開け方法別の作
作業時間への影響は小さいが、ポールを組み合わせ
ることで時間が短縮されることがわかった。これは道具
業時間比較を示す。
の使用がビギナーの作業時間に影響を及ぼすことを
示すと考えられる。
表 5. 穴あけ作業の所要時間の平均と SD(DM)
V
B1
B2
指
1.69(0.84)
3.45(1.89)
6.88(2.22)
一方、穴あけ動作について、器具を用いるのと指で
ポール
-
4.20(0.96)
4.12(0.70)
開けるのとでは、所要時間の有意差は認められなかっ
た。しかし、器具を用いることにより指の痛みや、立位
によって腰や膝の痛みの発生が抑えられ、長時間の
作業を可能にする。また、器具により一定の太さの穴
が開けられるため、根の長い苗の投入が容易になるな
どの効果が認められる。時間による評価以上に主観的
な評価から有効性が認められると考えられる。
要素作業別の差として、椅子を用いることで穴あけ
の所要時間に有意差が認められるのは、手前から 3 列
目の穴に手が届きやすく地面に垂直に開けやすいこと
が考えられる。一方、穴あけ動作以外では、ベテランと
ビギナーの所要時間に有意差が認められなかったの
は、ビギナーの作業時間の分散が大きいことが理由と
考えられる。これらの結果からビギナーが椅子とポー
ルを用いると、ベテランとほぼ同等の時間で作業できる
図 2.被験者別,穴あけ方法別の作業時間比較
ことがわかった。
指を使った場合とポールを使用した場合との間で
t 検定を行った結果、有意差は認められなかった。
そこでベテランとの差が
生じやすい穴あけ作業に
ついては、あらかじめ開けて
おくことで、ビギナーの作業
4.考察
4-1.作業者による違い
作業補助としてビギナーを導入する場合、作業の効
率化と品質維持のために,最初の手順説明および練
習の必要性が認められた。積雪地域においては苗を
「深めに植える」指示があったが、「深め」のとらえ方は
約 4.5cm~7cm と個人差が見られたからである。
同一作業者での動作時間のバラつきの発生原因は
以下のようなことが考えられる。すなわちビギナーの作
業では①苗を 1 本つかむ時に、根が長いと絡まりやす
い、②指による穴あけ作業は地面の固さに影響を受け
15cm
効率が高まると考えられる。
例えばマルチシートの穴に
適合する器具の考案(図3)
により、作業の効率化が期
図 3.考案器具
待できる。
------------
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下平 佳江
長野県短期大学 生活科学科 人間工学研究室
〒380-8525 長野市三輪 8-49-7
電話 026-234-1222(内線 903)
Fax 026-235-0026(大学代表)
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
3-2
介護施設における高齢者の見守りシステムと健康評価システムの研究
○坂本和義 1)、苗鉄軍 2)、尾崎研三 3)
1)電気通信大学 産学官連携センター, 2)TOAS 研究所,
3)ワイヤレスコミュニケーション研究所
1.はじめに
装置
日本では 2007 年以降高齢者(65歳以上)の人口が
全人口の21%以上となり、超高齢社会となっている。
今後も高齢者の増加が予測されており、介護施設へ
の入所者の増加が見込まれている。
介護施設の高齢者について睡眠の質を中心に調査
加速度センサ
した。加速度センサーを用いて生体情報(脈拍、呼吸、
睡眠)を検出し、見守りシステムを構成した。睡眠の健
康度を評価した。これらの生体情報は施設から外部の
情報集積施設に集約するシステムも構築した。
図 1. 加速度センサーと装置(解析・送信装置):
2.方法
ベット上において被験者の背中上部に加速度セン
2-1 計測場所と被験者:
サーを設置
介護老人保健施設 Y に入所している高齢者を介
護施設高齢者とした。その測定対象人数は、21名(男
体動信号
性5名、女性11名)であった。年齢は65歳から80歳。
平均年齢は69.5歳±5.0 歳であった。認知症でない
被験者を対象とした。入所していない高齢者は健常高
脈波(RR 間隔)
齢者とし、公表されたデータを用いた。
呼吸波形
2-2 計測方法:
ベット上の被験者の背中にフィルム状のセンサー(加
速度型)を設置して体動振動を検出した(図1)。装置
カオス解析
HRV 解析
は TAOS 研究所製であった。
(睡眠段階)
(LF/HF)
主観的評価は、寝つき、眠りの深さ、中途覚醒回数
DFA 解析
を記入してもらった。
(睡眠健康度)
生体評価は、装置(睡眠監視装置)内蔵の解析ソフト
図 2. 体動信号から呼吸、心拍、睡眠を評価するフロ
により評価した(2図)。
ーチャート
体動信号から最初に呼吸成分を抽出した。呼吸か
らは異常(無呼吸)を監視した。脈波から心拍成分を抽
出して心拍の異常(心拍異常)を監視した。そして、心
拍変動(HRV)から自律神経機能評価量である LF/HF
3.結果
3-1.介護施設高齢者と健常高齢者の睡眠の比較
を算出した。更に、脈波成分をカオス解析することによ
り、レム睡眠(体を休める睡眠)、ノンレム睡眠(浅い睡
眠と深い睡眠;脳を休める睡眠)、覚醒(中途覚醒)、
離床の5段階を評価した。更に、脈波データの DFA 解
析(Detrended Fluctuation Analysis)[1] により睡眠健
康度を評価した。
階)は、寝つき感が3.5段階、眠りの深さ感が3.6段階
であった。いずれも 90%程度の睡眠感を示していた。
中途覚醒は平均2.3回と回答しており、健常高齢者と
同程度であった。一方、生体情報の結果は、寝つき時
間は、介護施設の高齢者と健常高齢者との差異は見
睡眠時間から目覚めている時間と離床時間を引い
た時間を実質睡眠時間とした。実質睡眠時間を睡眠
時間で除し100倍した値を睡眠効率(%)とした。
介護施設高齢者の被験者の主観的評価(0から4段
られなかった。離床回数は5.8回と多く、主観的評価
値(2.3回)とは異なっていた。介護施設の高齢者の睡
眠効率は85.4(%)であり、健常高齢者の値(95.0%)
- 35 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
より低かった。睡眠時間については、介護施設高齢者
は健常高齢者の平均睡眠時間(8時間)よりも50%多く
寝ていた(図3)。介護施設高齢者の睡眠時間は、個人
差が大きい。最少睡眠時間は6.3時間であり、最長睡
眠時間は17.9時間であった。睡眠効率については、
介護施設高齢者は85.4%であった。健常高齢者の値
は95.0%であるので、睡眠効率10%程度低かった。
3-2.介護施設の高齢者と健常高齢者の睡眠の質
の比較:
目覚め(中途覚醒)、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠
の4種について介護施設高齢者と健常高齢者の結果
を図4に示す。
図3.介護施設高齢者と健康高齢者の睡眠時間比較
(1) 目覚め(中途覚醒)の時間は、介護施設高齢者
が健常高齢者より3倍以上多かった。
出現率(%)
(2) レム睡眠(体を休める睡眠)の割合は、介護施設
高齢者が健常高齢者より約2倍多かった。
(3)
浅い睡眠の割合は、介護施設高齢者と健常高
齢者と同程度であった。
(4)
深い睡眠(脳を休める睡眠)の割合は、介護施
設高齢者が極端に少なかった。
介護施設高齢者の睡眠は、「目覚めが多く、体を休
める睡眠(レム睡眠)が多く、脳を休める睡眠(深い睡
眠)が非常に少ないこと」 が特徴であった。
4.考察
介護施設高齢者の平均睡眠時間は健常高齢者のそ
図4.介護施設高齢者と健康高齢者の睡眠比較
れより50%長かった。睡眠時間が長いことは、睡眠の
リズムを乱し、睡眠の健康状態を低下させる原因となる。
いために、睡眠リズムが乱れたことにより発生したと考
健常高齢者の8時間程度に改める必要がある事を示し
えられた。
ていた。
介護施設の高齢者の離床回数が平均5.8回であり、
健常高齢者と比較して2倍ほど多かった。この結果は、
文献:
[1] Penzel et al, IEEE Trans Biomed Eng,
Comparison of detrended fluctuation analysis and
睡眠時間が長い事に起因していた。
spectral analysis for heart rate variability in sleep
眠りの深さの主観的評価(最高段階値4)では、平均
and sleep apnea, 50, 1143-1151,2003
3.6段階であり90%程度の睡眠の深さと介護施設高
齢者は評価していた。 然し、客観的な評価では脳を
休める浅い睡眠は健常高齢者と同程度であったが、
深い睡眠は5%以下であり、健常高齢者の30%と比
較して極端に少ない。介護施設高齢者は主観的には
眠りが深いと感じているが、深い睡眠は殆ど取れてい
なかった。 つまり、睡眠の深さについては、主観的評
価と客観的評価に乖離が見られた。更に、介護施設
高齢者のレム睡眠の割合は健常高齢者の2倍以上で
あった。この原因も睡眠時間が健常高齢者より50%長
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坂本和義
電気通信大学 産学官連携センター
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1―5-1
電話 042-443-5725l
FAX 042-443-5726
E-mail: [email protected]
- 36 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
4-1
製品・デザイン開発における制約条件と論理思考の役割
○山岡俊樹 1)
1)京都女子大学家政学部生活造形学科
1.はじめに
通常,製品開発やデザイン開発の際,製品やデザイ
ンの目的を厳密に決めず,こういうものがほしいという
願望の下に開発していないだろうか?これらの発想自
体は悪くはないが,目的を明確に定めていないので,
様々な関連情報から発想自体がふらつき右往左往す
る可能性が高い.アイディアは多く出るのだが,目的と
いう方針が定まっていないので,最終的にどうしたら良
いのか分からなくなってしまう.本提案では,論理思考
と制約条件(constraint,制約理論ではない)の関係に
注目し,製品・デザイン開発における制約条件の役割
について言及する.
3.制約条件と発想を考える
地球は宇宙という制約条件の中で成立し,地球上の
我々は地球上の様々な制約条件の中で生活している
と言える.例えば,あるデパートに買い物に出かける際,
所定の歩道を歩き,電車に乗って行く手段という制約
条件を通常取る.芸術も同様で,俳句,交響曲,詩,
バレエなども形式という制約条件がある.また,思考も
その時代の思考の枠組みからはみ出ることができない.
はみ出ることができないので,歴史という試行錯誤を得
て現在の思考の枠組みを獲得したのである.
巷に制約条件を考えずにもの作りの発想をしろとよく
いわれている.一見すると合理的な指摘のようだが,よ
2.制約条件と論理思考
くよく考えて見ると制約条件無しでモノづくりは不可能
論理思考に係る論理的推論(logical reasoning)には
である.規定の概念にこだわらずに発想するという意
大別して演繹法(deduction)と帰納法(induction)がある.
味合いであるが,厳密に考察すると,制約条件をどの
これ以外のパースのアブダクション(abduction)は帰納
程度(範囲)にするかの問題である.
法に包含されているといわれているが,本報告では独
立させて,この 3 つのカテゴリーで検討する.論理的推
論をする際,下記の 3 条件を考える.
4.制約条件に基づく製品・デザイン開発
以上から製品・デザイン開発時の制約条件を製品・
デザイン開発でのプロセスの各ステップで制約を定め
ルール:世の中のものが形成される方法に関する考え
て絞り込んでいけば良い.最初の制約条件を大きく取
ケース:世の中に存在し,観察される事実
結 果:「ケース」に「ルール」を適用した場合に予測
される事象
これらの3条件を各推論に当てはめてみると以下のよ
うになる.
るならば,細分化して検討すれば,もれなく検討でき,
効率よくソリューションを導くことができる.つまり,製
品・デザイン開発プロセスにおいて,各ステップにてそ
の制約条件からソリューションを絞り込んでゆくことであ
る(図1).
演繹法:[ルール]→[ケース]→[結果]
アブダクション:[結果]→[ルール]→[ケース]
帰納法:[ケース]→[結果]→[ルール]
目的
この 3 つの論理的推論を製品やデザイン開発に当て
↓
はめてみると,先ず帰納法で売れる理由(ルール)を探
要求事項
り,その情報を元に演繹法により製品やデザイン開発
↓
を行う.例えば,ルール(こういう色だと売れる)→ケー
コンセプト
ス(新製品に当てはめてみる)→結果(売れる)という図
↓
式であるが,絶対ではない(ある程度蓋然性は高い).
可視化
一方,アブダクションにより,売れ筋商品をプランナー
↓
やデザイナーの持つ知識(ルール)から売れる原因を
評価
推測できる.
無限大∞
このような一連の考察から,[ルール][ケース][結果]と
いう制約条件から特定の結論を導き出すことが可能と
分かる.
図1 制約条件と製品・デザイン開発プロセス
- 37 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
著者の考える製品開発プロセス(汎用システムデザイ
れて可視化案が生まれる.通常,箇条書き程度の甘
ンプロセス[1])は,以下のとおりである.
いコンセプトに基づき,デザイナーはアブダクショ
(1) システムの概要
ンにより可視化案を仮説構築する.
①目的,目標の決定
アブダクションを行う際,適切な仮説構築を行う
②システム計画
には思考する人の知識量に依存する.このような曖
(2)システムの詳細
昧性を避けるために,思考する人の知識に相当する
①市場でのポジショニング
データベースが必要である.汎用システムデザイン
②ユーザ要求事項の抽出
プロセスでは,70 デザイン項目などがサポートさ
③ユーザとシステムの明確化
れている.
④構造化デザインコンセプト
甘いコンセプト
(4)評価
アウトプット
思考過程
コンセプト
(3)可視化
アブダクション
各ステップに関して,制約条件と論理思考がどう関
係しているのか述べる.
(1) システムの概要
このステップでは製品・デザイン開発の目的を決め,
システムの概要を定めることである.目的は 5W1H1F
(a)人間の知識に依存する方法
(機能)+期待の観点(制約条件)から絞り込まれる.
構造化コンセプト
目標は目的から定まる性能であり,評価基準でもある.
従って,目標は目的という制約条件から絞りこまれ,具
データ
ベース
体的レベルに落とし込まれる.更にシステム計画は更
に目標という制約条件から具体化される.
(2)システムの詳細
①市場でのポジショニング
(b)誰でも可視化が可能な方法
市場調査を行い,自社製品の市場での位置づけを
図2 可視化方法
明確にして,その情報を制約条件として,ビジネス
(4)評価
を行うゾーンを絞り込む作業である.
②ユーザ要求事項の抽出
評価[2]には検証(Verification)と有効性の確認
ユーザの特性(価値観,嗜好,要求事項外)を把握
(Validation)がある.可視化されたデザイン案に対し
するため,帰納法によりユーザの[ルール]を抽出する.
てコンセプト,設計書や仕様書通りできたのか調べ
つまり,タスク分析やインタビューにより,ユーザの要求
るのが検証で,コンセプトや設計書だけでは規定さ
事項を絞り込むことである.
れていない項目に関して,製品の目的に合うように
③ユーザとシステムの明確化
設計がなされているのか調べるのが有効性の確認
ターゲットユーザとシステムの仕様を制約条件に
である.検証は設計書や仕様書が制約条件で,演繹
より絞り込むことである.
法であり,有効性の確認は主にターゲットユーザの
④構造化デザインコンセプト
ユーザビリティが制約条件で帰納法でもある.
構造化デザインコンセプトは,最上位項目を決めて,
これが制約条件となり,下記の項目を分解(目的→手
段)してゆくトップダウン式がある.最上位項目は思い
つきで決めるのではなく,今まで積み上げてきた製品
像という文脈(制約条件)から決定される.一方,収集
参考文献
[1] 山岡俊樹,デザイン人間工学,pp177-184,共立
出版,2014
[2] 海保博之,田辺文也:ヒューマン・エラー,
p144-147,新曜社,1996
したユーザ要求事項を基に上位項目を積み上げてゆ
くボトムアップ式がある.この方法も要求事項という制
約条件から最上位項目を絞り込んでいるといえる.
(3)可視化
構造化コンセプトという制約条件から導き出さ
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山岡俊樹
京都女子大学家政学部生活造形学科
〒605-8501 京都市東山区今熊野北日吉町 35
電話 075-531-7172
FAX 075-531-7172
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
4-2
コンビニにおいて、顧客行動の把握及び照明の顧客に与える影響
○千田有佳里、松浪衣摘、西野紗織、藤田結、山岡俊樹
京都女子大学生活造形学科
1.はじめに
表1.調査結果
コンビニ業界では,競争が激しくなり,店舗を魅力的
客数
にするため,様々な施策を打っている。今回、顧客の
セブン泉佐野高松東
セブン泉佐野西本町
ローソン泉佐野大西
セブン彦根城前
セブン彦根小泉町
ファミマ千里丘北口
セブン摂津千里丘 2 丁目
ローソン jr 茨城東口
ローソン瀬田駅前
セブン瀬田駅前
行動と店舗の状況(設備など)、レイアウトなどのとの関
係を明確にするため2つの調査を行った。
2.方法
2-1.調査1:店舗の状況と顧客数との関係
調査場所:同程度の地域にある、駅から 1km 圏内のコ
ンビニエンスストア 10 店舗
61
90
44
130
114
32
111
97
83
180
品揃
え
8
10
3
8
8
1
8
6
1
1
駅からの
距離(m)
450
850
600
700
260
140
300
250
68
100
照度 従業
(lx) 員数
629 2
798 4
1532 2
1260 3
985 4
1607 2
1607 3
1074 3
883 2
1097 5
の幅が広く取られており、立ち読み客も少なかったこと
調査時間:晴れの日の 12 時~13 時
調査項目:顧客数、照度、従業員数、駅からの距離、
から、客は動線に導かれるままに窓側を通過している
可能性が高い。カウンターの前を通過する人は、自然
品揃え
照度は全て 12 時に店内中央で床から 1m の高さを測
った。品揃えは、おにぎりやサンドイッチなど種類ごと
に品数を数え、平均以上の個数があった種類の数を
な動線に従ってないため、何らかの目的を持ってコン
ビニに来ている人が多いと言える。逆に、窓側を通過
する人はなんとなく買い物をするために来ている人が
多いのではないだろうか。3 分以上かかるというのも、
品揃えとした。
明確な目的を持ってコンビニへ来ているわけではない
2-2.調査 2:顧客動向調査
調査場所:①ローソン東大路馬町、②セブンイレブン摂
からであると考えると筋が通る。
手ぶらでコンビニへ来る人は、コンビニへ行くためだ
津千里丘 2 丁目、③セブンイレブン吹田新芦屋上店
けに家から出てきたということなので、目的を持ってい
調査時間:18 時~19 時
る。鞄を持っている人は、何かのついでに立ち寄った
調査項目:
という人が多いと考えられる。
・顧客数:調査時間に入店した顧客数をいう
つまり、「鞄を持ってきた客は、なんとなく、何かのつ
・顧客の性別
いでに立ち寄ったのであり、比較的長時間コンビニをう
・店内に入る時,カウンターの前を通る/窓側を通る
ろつく」と言えそうである。
・買い物カゴを持つ/持たない
(2)セブン摂津千里丘 2 丁目店+セブンイレブン吹田
・入店からカウンターに並ぶまで 3 分以内/3 分以上
新芦屋上店
・鞄を持って入店/財布をポケットに入れるなどして手
40 人の顧客数があり、数量化Ⅱ類で分析すると、買
ぶらで入店
い物カゴを持ち歩くコンビニ客には、レジに並ぶまでに
3.結果・考察
3 分以上かかる客が多いこと、女性客が多いことが分
3-1.調査1:店舗の状況と顧客数との関係
かった。買い物カゴを持って回るということは、沢山買
重回帰分析の結果、顧客数に影響を与えるのが従
い物をするということなので、3 分以上かかるということ
業員数のみであり、照度と品揃え、駅からの距離につ
には納得がいく。買いカゴを持ち歩く客に女性客が多
いては影響がないことが分かった。今回の調査では顧
いという結果については、家族の分まで買い物をする
客と照度については関係がなかったが、夜間の照度を
主婦などの女性が多く来たためではないだろうか。逆
調べるとまた違った結果になったかもしれない。
に男性客はそんなに沢山の買い物をしないと言えそう
3-2.調査 2:顧客動向調査、
である。
(1)ローソン 東大路馬町店
------------
32 人の顧客数があり, 数量化Ⅱ類で分析した結果、
窓側を通って入る顧客は、鞄を持っている客が多く、レ
ジに並ぶまでに 3 分以上かかる客が多いことが分かっ
た。馬町ローソンの場合は、窓側の壁と商品棚との間
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京都女子大学 家政学部 生活造形学科
〒605-8501 京都府京都市東山区今熊野北日吉町 35 番地
電話: 075-531-7172(山岡研)
E-mail: [email protected] (千田)
[email protected](松浪)
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
4-3
商品の比較・評価による主観データの解析
○西野紗織、藤田結、山岡俊樹
京都女子大学家政学部生活造形学科
1.はじめに
近年、スイーツは幅広い年代の人に愛されており、
専門店やコンビニエンスストアで多く扱われている。そ
の中で、コンビニエンスストア(以下、コンビニ)では比較
的手軽にスイーツを買うことができ、また種類も豊富で
ある。
①バームクーヘン 【左】セブンイレブン 【右】ローソン
本研究では、コンビニ売上高と店舗数の上位 2 店の
セブンイレブンとローソンにしぼった。両店のスイーツ
について、どのようなパッケージが購入の決め手にな
るのかを本大学の学生への2つのアンケートをもとに、
分析した。
②カステラ 【左】セブンイレブン 【右】ローソン
2.方法
下記の内容のアンケートを実施した。
①調査協力者 京都女子大学学生 23 名
(平均年齢 20 歳)
②調査素材
セブンイレブン、ローソン両店の「バームクーヘン」
「カステラ」「ロールケーキ」(図 1)
③ロールケーキ 【左】セブンイレブン 【右】ローソン
③調査方法
図1.3 種類のスイーツ
・アンケートⅠ
購入希望のアンケートを以下の 5 項目に関して、「セ
表1.バームクーヘンの結果
ブンイレブン」「ローソン」のどちらかを選択した。
A
(ア)おいしそう
(イ)より目につく
(ウ)イメージしやすい
(エ)高級そうに見える
(オ)購入したい
B
有意差
おいしそう
10
13
無
より目につく
11
12
無
イメージしやすい
9
14
無
高級そうに見える
13
10
無
購入したい
10
13
無
・アンケートⅡ
6商品のパッケージに対するイメージの 7 項目を、5
A:セブンイレブン
段階評価した。7 項目は以下の通り。
(ア) カジュアル
(イ) かわいい
(ウ) 軽い
B:ローソン
(1)バームクーヘン(表1)
①得た評価データはフィッシャーの直接確率検定
を行い,結果を表 1 に示す。全ての項目において、
(エ) 明るい
評価の差がほぼなかった。2 つの商品のパッケー
(オ) 目新しい
ジのデザインがよく似ていたことが原因だと考
(カ) 親しみやすい
(キ) 買いたい
えられる。
②数量化Ⅱ類による結果として,目的変数を「購入
3.結果・考察
したい」とした場合,「おいしそう」の項目が購
3-1.アンケートⅠの結果(協力者 23 名)
入の決め手となるのが分かった。
- 40 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
(2)カステラ(表2)
表 2.カステラの結果
①フィッシャーの直接確率検定の結果によると,パ
A
B
有意差
ッケージから商品の「イメージがしやすい」とい
おいしそう
20
3
有
う項目では、両者に差はなかったが、残りの項目
より目につく
20
3
有
ではセブンイレブンの方が評価が高かった。従っ
イメージしやすい
12
11
て、カステラを購入する際に「イメージしやすい」
高級そうに見える
22
1
有
購入したい
21
2
有
という点は、決め手にはならないと考えられる。
無
②数量化Ⅱ類による結果によると,目的変数を「購
入したい」とした場合,
「より目につく」
「高級そ
表 3.ロールケーキの結果
うに見える」
「おいしそう」の 3 項目が購入の決
A
め手になるのが分かった。
B
有意差
(3)ロールケーキ(表 3)
おいしそう
7
16
有
①フィッシャーの直接確率検定の結果によると,
より目につく
6
17
有
「おいしそう」
「より目につく」
「イメージしやす
イメージしやすい
6
17
有
い」の 3 項目でローソンの方が評価が高かった。
高級そうに見える
10
13
無
しかし、「購入したい」の項目では、有意差はな
購入したい
8
15
無
かったため、この 3 項目は購買意欲に直接結びつ
いている訳ではないと考えられる。
②数量化Ⅱ類による結果によると,目的変数を「購
入したい」とした場合,
「おいしそう」の項目が
購入の決め手になるのが分かった。
3-2.アンケートⅡの結果
(協力者 23 名 内有効回答 20 名)
コレスポンデンス分析の結果に対し,クラスター分析
を行ったところ、消費者が最も買いたいと思うデザイン
はセブンイレブンのカステラである(図 2)。また、「目新
しい」ということが購入の決め手になることが分かった。
また、カジュアルなデザインのパッケージは親しみ
やすいという印象を与えるのも分かった。
図 2.コレスポンデンス分析とクラスター分析の結果
4.デザイン分析
アンケートⅠ・Ⅱで最もよい評価であったセブンイレ
②書体は変化のある明朝体を使用する
→高級感を出す
ブンのカステラが望ましいデザインであると仮定し、コ
ンビニスイーツの望ましいパッケージデザインについて
③中身が見えない包装にする
→目につく様にするため
分析した。
セブンイレブンのカステラのパッケージと、他の商品
④イメージ写真を使用する
→商品をイメージしやすい
のパッケージで大きく見た目が異なる点は、素材であ
る。和紙のような包装は、「高級そうに見える」効果があ
⑤賞味期限をパッケージの表面に書く(消費者にとっ
り、中身が見えないことが消費者の興味を引くのだと考
て重要な情報を見やすい位置に表示する)
→商品情報をイメージしやすい
えられる。その結果、「より目につく」のだと思われる。ま
た、中身が見えない代わりに、イメージ写真などを用い
ることが「おいしそう」だと消費者が感じ、その結果「購
------------
入したい」に結びつくと考えられる。
これらの結果、以下の要求事項を取り入れたパッケ
ージデザインが望ましいと考えられる。
①和紙のような素材を用いて,質感を演出する
→高級感を出す、目新しい
<< 連絡先 >>
------------
西野紗織、藤田結
京都女子大学 家政学部 生活造形学科
〒605-0874 京都市東山区今熊野北日吉町 35
電話 075-531-7045
E-mail: k[email protected](西野)
[email protected](藤田)
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4-4
ユーザー中心発想による潜在ニーズ理解を起点とした
製品・サービス発想のアプローチについて
井登友一
株式会社インフォバーン
1.はじめに
しかしそのためには、ユーザーや生活者は自身のニ
本研究の意図と狙いとして、生活者を取り巻く経済環
ーズを明確化し、言語情報に置換し、表現するプロで
境が変化し、生活者が感じる価値が物質価値から経
はないという現実を再認識し、すでに顕在化されてい
験に、そしてさらにサービス体験全体に移行している
るユーザーニーズだけでなく、ユーザー自身が語る言
中、製品やサービスの設計者は、それらがもつ単体機
葉を見つけることすらできていない潜在期待や未充足
能や利便性、提供条件に偏向した視点から、ユーザ
ニーズを探索することを通じて、ユーザーを部外者で
ーが本質的に期待し欲している潜在レベルも含めたニ
なく、製品やサービスに求められることを発見するため
ーズ発見を起点とした人間中心設計を行うべきである、
の“協力者”と位置づける考え方が、今後より重要性を
という取り組みである。
増すと考えられる。
2.方法
徹底したフィールドリサーチを通した潜在期待や価
価値観、未充足要素の収集と、収集した要素のデ
ータ化と分析を通じた価値抽出と価値発見
重要な顧客像の情緒要素も含めた可視化
一連の製品・サービス体験を通じたユーザー経験の
分析と解決課題、および解決の糸口となる提供価
値の俯瞰的な可視化
2-1.具体的手法
・
コンテクスチュアルインクワイアリー
・
KA 法による価値抽出、価値統合
・
ペルソナデザイン
・
ユーザージャーニーマッピング
・
シナリオ法
3.結果
今回の研究発表では個別の具体プロジェクトの経緯
と結果を報告するものではないため、本アプローチに
おける総体的な価値の提言になるが、従来の仮説をも
とにした検証型アプローチに比べて、「何がわからない
か、が分からないことを知り、理解する」というデザインリ
サーチのプロセスを通じて、従来ユーザーや生活者が
自身の顕在期待として表現しえなかった潜在的な期待
や、「諦めながらも受け容れていたニーズ」について探
索していくことができる手応えと実績を得た。
4.考察
本アプローチで最も重要な点は、ビジネスの文脈に
沿った従来型の企業視点での製品開発のプロセスを、
本来あるべき「ユーザー視点の製品開発プロセス」に
シフトすることである。
------------
<< 連絡先 >>
------------
井登友一
株式会社インフォバーン 取締役 京都支社長
〒604-8101 京都市中京区柳馬場御池下る柳八幡 65
京都朝日ビル 10F
電話 075−256−8370
FAX 075−256−8371
E-mail: [email protected]
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4-5
マーカーレス三次元動作計測システムの開発と応用
○石本明生 1)、本多信夫 1)、足立和隆 2)
1) (株)HALデザイン研究所,
2) 筑波大学
は、同時にこの球体を自動認識し、その直径が 20cm と
1.はじめに
今日、主流となっているヒトの三次元動作計測シス
いうことから、自機の位置を割り出し、これをもとにパー
テムでは、身体の関節などの特徴点に赤外線反射素
ソナルコンピュータ内で 3 台の KinectTM の座標系を一
材の球をマーカーとして貼り付ける必要がある。この方
致させる。
式に対して、マーカーを用いず、より簡単なキャリブレ
ーション法により、精度に関しても遜色ない三次元動
作計測システム(Anakin System)を開発したのでご紹介
する。
3.計測手順
3-1. KinectTM の距離計測原理
KinectTM は、これから照射される無数の赤外光スポ
ットの位置の視差を利用し、三角測量の原理によって
2.Anakin System
対象物までの距離を計測する。照射される無数のスポ
2-1.システムの構成
ットの基準面(KinectTM から 5.263m 離れた面)における
本システムは、3 台の KinectTM、制御計算ソフトウェア
位置は、本体内に記録されており、これら各点の位置
の組み込まれたパーソナルコンピュータ(Windows ベ
がそこからどの程度ずれているかということによって、
ース)、そしてキャリブレーションに使用する直径 20cm
対象物までの距離を認識している。
の球体によって構成される。KinectTM は、対象に対して
3-2. 体表面点群データの計測
KinectTM では、対象物の KinectTM に面した側の立体
死角となる部分がなるべく出ないように、対象に向けて
形状が三次元座標の表面点群データとして計測され
3 方向からの位置に配する(図 1)。
る。しかし、対象物の裏側の形状は計測できない。そ
のため Anakin System では、対象物を取り囲むように 3
方向から対象物に向けて配置し、3 台の KinectTM で計
測された表面形状を合成することにより、対象物すな
わち今回の研究では人体の三次元形状が数値として
再現される。なお、KinectTM による計測レートは 30Hz
である。
4.関節位置の推定
4-1.ボリュームデータ
図2 Anakin System の構成
KinectTM によって計測された体表面データをもとに、
TM
2-2.Kinect
身体の各体節を円柱に置換したボリュームデータを作
KinectTM は、Microsoft 社が製造、販売しているテレ
製する。一般的に、計測時の対象は衣類を着用してい
ビゲーム機 Xbox360 用の動作入力用装置である。この
るため、KinectTM によって計測された人体の体表面は、
装置には、対象物までの距離を計測できる赤外線カメ
衣類の表面形状となる。しかし、この方が、裸体あるい
ラと通常のビデオカメラが内蔵されており、パーソナル
は肌に密着した衣類を着用したときよりも身体の各体
コンピュータでも使用できる。
節は円柱に近い形状になるため、次に述べる関節位
2-3.キャリブレーション
置の推定に関する精度は高くなるようである。ただし、
本システムの特徴として、キャリブレーションに時間
衣類に関して、ロングスカート(膝位置程度までならば
がかからないことが挙げられる。キャリブレーションの目
可)、和服の振り袖、袴などの、体節の輪郭とかけ離れ
的は、3 台の KinectTM の座標系を一致させることである。
た表面形状を示す衣類は適さない。
これには、直径 20cm の球体を用い、これを計測エリア
4-2.モデルの当てはめによる関節位置座標の推定
内でほぼ水平方向に半径約 1.2m(球体のスタンドの高
コンピュータ内には、人間生活工学研究センターや
さ)で、1周させるだけである。この際、厳密に水平面内
他の機関で計測した日本人の生体計測データをもと
を移動させなくてはならないとか、半径は 1.2m でなくて
に作製した、身長を 4 段階に分けた 4 通りの標準体型
はならないといった制約は、一切無い。3 台の KinectTM
モデルデータが設定されている。モデルデータは、円
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
柱形の体節が 25 カ所の関節点で連結した体型となっ
ている。KinectTM による計測中、対象の身長を推定し、
これをもとに、この 4 通りのモデルから最適なものを選
び、モデルをボリュームデータとマッチングさせることで、
モデルのもつ関節位置を対象物の関節位置として算
出する。
4-3.関節位置精度の向上のための工夫
実際には、選択されたモデルの身長は、KinectTM で
計測した対象の身長に一致させるようにやや拡大、あ
るいは縮小される。これに応じて、各体節の長さも変わ
り、関節位置も変わる。モデルは平均的な体型をもと
図2. Vicon および Anakin System で計測した通常歩行
における左股関節の三次元座標値を時系列的に示し
た左右方向(+が右方)のグラフ。前後方向、上下方向及
び膝関節、足関節のデータは、紙面の都合上割愛させ
て頂いた。横軸は時間(msec)、縦軸は位置(mm)。
にして作製されているために、ボディープロポーション
20
腕の振り角
ない。そこで、計測中のボリュームデータから得られる
15
left arm
体節間の屈伸点を考慮し、これをもとに関節位置を補
10
角度[deg]
が異なることによる関節位置の個人差が反映されてい
正する処理を行い、精度を向上させている。
5.マーカー式3三次元計測装置との比較
0
‐5
5-1.方法
関節、足関節の三次元位置座標値に関して比較検討
を行った。Vicon では、これらの関節位置の三次元座
標を求めるために、反射マーカーを身体の所定の位
置に取り付け、専用ソフトウェアによってこれらの座標
値を算出させた。
0
1000
時間 [ms]
2000
‐10
同じ対象に対して、同時にマーカー式三次元計測
装置(Vicon)と本システムで計測を行い、股関節、膝
right arm
5
図3. 歩行時の人の癖(縦軸の+は前、―は後)
で、決められた歩行路(5m 程度)を歩くだけで、歩行姿
勢パラメータの計測をワンタッチで行えるようなソフトウ
ェアを開発した。
6-2.歩行動作に見られる癖の例
人は左右の腕を前後に同じように振っているつもり
5-2.実験条件
被験者 1 名に関する歩行時の左右の股関節、膝関
節、足関節の三次元座標を求めた。歩行様式に関し
が、実は計測をすると違いがあることが分かった。これ
は過去の何らかの生活履歴に起因すると考えられる。
ては、通常歩行、速い歩行、遅い歩行、杖をついた歩
7.まとめと今後の予定
行、障害者を模した 10 通りの歩行で、合計 19 試行で
7-1.まとめ
従来のようなマーカーを使わずに、人の動作を3次
あった。
元計測できるシステムを開発し、計測精度に関しても、
5-3.各関節点三次元座標値の比較
Vicon と Anakin System で計測した各関節の座標値
マーカー式と比較してその差が10mm以内で実用上
のうち、一例として、左股関節の三次元座標位置の時
問題がないことが分かった。最後に、AnakinSystem の
間的変化を、横軸に時間軸、縦軸にそれぞれ左右方
特徴を生かす応用例として、普段の歩行姿勢を計測し
向(x)、進行方向(y)、上下方向(z)とした 3 つのグラフ
た。その結果、本人の意識に反して左右の腕の振り方
を図 2 に示した。この関節を含め、計測した 6 つの関節
等に差があることが分かり、本システムが有効な知見を
における両システムによる計測値の差は 10mm 未満で
与え得ると考えられた。
あった。
7-2.今後の予定
今後は、リハビリやフィットネスの効果確認に展開し
6.歩行姿勢の計測への応用
て行く予定である。
6-1.歩行姿勢に関するパラメータの計測
歩行姿勢に関するパラメータとして、歩行速度、歩
幅、歩調に加えて、身体の傾き(前傾、後傾)腰の左右
への回転、膝の角度、腕の前後への振り角度を取り上
げた。(図 3 参照)Anakin System を使用して、普段着
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石本明生
(株)HALデザイン研究所
〒305-0001 茨城県つくば市栗原 3453-4
電話:029-850-6446
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E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
5-1
長時間の連続した視覚探索は視覚探索機能および視空間ワーキングメモリ機能
を低下させる
○沖和磨 1)、森昭雄 2)、越澤亮 3)、高寄正樹 4)、小山裕三 5)、重城哲 1)、森長正樹 1)、髙橋亮輔 1)
1)日本大学理工学部, 2)日本大学文理学部, 3)日本大学商学部,
4)日本大学生産工学部, 5)日本大学総合科学研究所
1.緒言
するまでを課題遂行時間として誤反応の数とともに記
これまで我々は、長時間の連続した視覚探索が視覚
録した。ATMT Task R の試行数は 40 試行とした。
探索時の大脳皮質の活動に及ぼす影響について検
ATMT Task F の試行数は ATMT Task R の前後でそ
討を行い、連続した視覚探索が左右上前頭領域およ
れぞれ 10 試行とし、その際に脳波(EEG)を計測した。
び左右中前頭領域、または左右上頭頂領域において
EEG は 128ch 脳波計を用いて記録し、国際 10-20
視覚探索に関与しない活動を増加させ、その増加した
法に対応した 19 ヶ所の電極を解析対象とし、課題開
活動が視覚探索を妨害するため、視覚探索能力を低
始から 40 番の円を選択するまで EEG を解析した。記
下される可能性が示唆された。しかし、この結果が視
録された脳波は、フィルタ処理および FFT 処理を行い、
覚探索時に引き起こされる特有の現象であるのか、他
β波成分(13-30Hz)のパワー値(以下、βパワー)を
の課題時にも共通して引き起こされる現象であるのか
算出した。そして、ATMT Task F の課題遂行時間およ
は明らかではない。
び誤反応数、βパワーそれぞれの 10 試行の平均値を
そこで本研究では、長時間の連続した視覚探索が
大脳皮質の活動に及ぼす影響について、視覚探索お
よび視空間ワーキングメモリ機能を遂行に要する課題
を用いて検討した。
ATMT Task R の前後で対応のある t 検定で比較した。
3.結果
ATMT Task F の遂行時 間お よび誤 反応数 は、
ATMT Task R 前と比較して ATMT Task R 後で有意な
延長、増加が認められた。
2.方法
被験者は、視覚異常および神経疾患がない健常な
ATMT Task F 遂行時のβパワーは、F3 および T6 の
右利きの男性 11 名(20-24 歳、平均年齢 22.0±1.3
電極において ATMT Task R 前と比較して ATMT Task
歳)を対象とした。
R 後で有意な増加が認められた。
実験にはコンピュータディスプレイを用いた 2 つの課
題が用いられ、視覚探索課題である Advanced Trail
Making Test random task(以下、ATMT Task R)の前
後で、視覚探索および視空間ワーキングメモリ課題で
ある Advanced Trail Making Test fixed task(ATMT
Task F)を行わせた。両課題とも課題開始と同時に画
面に白抜きで 11 から 40 までの番号がついた黒色の円
がランダムに呈示され、コンピュータマウスを用いて 11
から番号順にクリックさせた。課題が開始し、被験者が
円をクリックするとその円が消え、代わりに消えた円の
番号に 30 を加算した番号の円がすばやく追加された。
その際、ATMT Task R ではすべての円がランダムに再
配置され、ATMT Task F ではクリックして消える円と新
たに出現する円以外の配置に変化はなかった。画面
上には常に 30 個の円が呈示された。正しい番号の円
を選択できたものを正反応、誤った番号の円もしくは
円以外の場所を選択したものを誤反応とし、正反応の
場合のみ課題が進行した、課題は 40 番の円を選択し
た時点で終了とした。課題開始から 40 番の円を選択
4.考察
ATMT Task R 遂行後にβパワーの増加がみられた
F3 は左上前頭領域および左中前頭領域、T6 は右後
側頭領域の活動を記録する。上前頭領域および中前
頭領域は視覚探索および視空間ワーキングメモリに重
要な役割を果たすことが報告されている。一方、後側
頭領域は視覚刺激の識別を補助していることが明らか
にされている。以上のことから、ATMT Task F の遂行
には活動の変化がみられた左上前頭領域および左中
前頭領域、右後側頭領域の活動が重要である。
これらの領域でβパワーが増加したことは、活動が増
加したことを示す。しかしながら、ATMT Task F の遂行
時間が ATMT Task R 後で延長しているため、ATMT
Task F の遂行に関与する活動が増加したとは考えら
れない。上前頭領域および中前頭領域は注意が低下
し、感情の抑制と注意の制御が要求される場合にも活
動する。また、視覚注意課題遂行時の中前頭領域に
おいて、課題のパフォーマンスを最適化するため課題
遂行に重要でない活動が抑制される。さらに、注意課
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
題遂行時に、その課題の遂行に関与する大脳皮質の
領域で、課題遂行に無関係な内的な情報処理や課題
の遂行を妨害する活動が抑制されることで不活性化が
起こる。以上のことから、注意が要求される課題を正確
かつ迅速に遂行するためには、その課題の遂行に重
要な領域で、遂行を妨害する活動や遂行に不要な活
動が抑制されることが重要であり、それらの領域でパフ
ォーマンス低下時に増加する活動は課題遂行に無関
係な活動や課題遂行を妨害する活動であると考えられ
る。したがって、長時間の連続した視覚探索は、左上
前頭領域および左中前頭領域、右後側頭領域で視覚
探索および視空間ワーキングメモリ機能に不要な活動
を増加させ、それらの機能を低下させる可能性が示唆
された。
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沖和磨
日本大学 理工学部
〒274-8501 千葉県船橋市習志野台 7-24-1
電話 047-469-5518(内線 5518)
FAX 047-469-5518
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5-2
スタティック・ストレッチング実施時における筋伸張部位と
主観的筋伸張度について
○髙橋亮輔 1)、小山裕三 2)、重城哲1)、森長正樹1)、沖和磨 1)
1)日本大学理工学部, 2)日本大学総合科学研究所
1.はじめに
3.結果
ストレッチングの効果について様々な研究がされて
各スタティック・ストレッチングで正しい部位が伸張さ
いるが、これら先行研究では、ストレッチング実施時に
れているか比較したところ、ストレッチング間で有意差
正しい部位が伸張されているか、また、どの程度伸張
が認められた。
されているかを調査したものはほとんど見ない。そこで、
スタティック・ストレッチング実施時に伸張部位を意識
本研究は、某大学の保健体育科目を受講した大学生
し、さらに正しい部位を伸張させている割合に有意差
を対象に、スタティック・ストレッチングを実施させ、筋
が認められたのは、大腿四頭筋部、上腕三頭筋部、肩
伸張部位の確認および主観的な筋伸張の度合いを調
上腕部であった。
査し、その実態を把握することを目的とした。
各スタティック・ストレッチングの主観的筋伸張度の比
較を行ったところ有意差が認められ、その後の多重比
2.方法
較でスタティック・ストレッチング間の主観的筋伸張度
2-1.参加者
本研究の参加者は、某大学の保健体育科目(実技)
を履修した男子大学生 119 名である。分析対象者は、
欠損値のない 115 名を対象とした。なお、参加者に対
しては事前に本研究の趣旨について説明を行い、同
意を得た上で、調査を実施した。
に有意差が認められた。
・臀部<大腿四頭筋部、ハムストリング、上腕三頭筋部、
腓腹筋部
・大腿四頭筋部<腓腹筋部
・肩上腕部<ハムストリング、腓腹筋部
・上腕三頭筋部<ハムストリング、腓腹筋部
2-2.伸張部位の確認と主観的筋伸張度
参加者に対し検者の指定した 6 種類(臀部・大腿四
頭筋部・ハムストリング・肩上腕部・上腕三頭筋部・腓
腹筋部)のスタティック・ストレッチングを実施させ、伸
張部位を配布したイラスト上にマークさせた。主観的な
筋伸張度は、10 段階のリッカートスケールを用いて記
スタティック・ストレッチング実施における伸張部位の
正誤との関連性については、正しい部位を伸張させる
と伸張部位を意識している傾向が見られたものの、有
意な関連性は認められなかった。
4.考察
録をさせた。本研究で実施した 6 種類のスタティック・ス
各スタティック・ストレッチングで①正しい部位を伸張
トレッチングは、本研究の実施者が行った先行研究で
している割合に差があったこと、②主観的筋伸張度に
医師・PT・AT・NSCA-CPT の協力により選定されたも
差があったこと、また、正しい部位を伸張していても、
のである。また、参加者に対して、小中高でのスポーツ
伸張部位の意識状況との関連性が見られなかったこと
歴、スタティック・ストレッチング実施時の伸張部位およ
から、正しい認識および手法による実践が正確に行わ
び伸張の度合いをどの程度意識しているか質問紙に
れていない可能性があると考えられた。
て調査を行った。
パフォーマンスの向上およびスポーツ障害予防のた
2-3.統計処理
めに、正しい認識と実践方法を指導することが重要と
各スタティック・ストレッチングで伸張部位の正誤の比
2
考えられた。スタティック・ストレッチングの効果につい
較は、χ 検定にて行った。また、各スタティック・ストレ
て、パフォーマンスおよびスポーツ障害予防の観点か
ッチングの主観的筋伸張度の比較は、Kraskal-Wallis
ら検討することを今後の課題としたい。
検定を、その後の多重比較は、Mann-Whitney 検定を
行った。さらに、伸張部位の正誤との関連についてロ
ジスティック回帰分析を行った。危険率および関連性
有りの判定は 5%水準未満とし、多重比較の危険率は
αおよびβ過誤率の観点から、0.83%水準未満とした。
統計処理ソフトは SPSS17.0for windows を用いた。
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------------
髙橋亮輔
日本大学 理工学部
〒274-8501 千葉県船橋市習志野台 7-24-1
電話 047-469-5518(内線 5352)
FAX 047-469-5518(体育事務室)
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5-3
主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析および提案(1)
○加藤里佳、武地美穂、難波咲子、山岡俊樹
京都女子大学家政学部
1.はじめに
ことからシャンプーの機能面の評価を高めるデザイン
現在市販されている女性向けのシャンプーは,その
ボトルデザインが多種多様になっている.本研究では,
であると考える.
(3)安心・親しみやすいイメージ
主観評価に基づきデザインを分析することにより,デザ
シャンプーA,F,G の評価が高くなった.シャンプー
インが顧客に与えるイメージを明らかにし,20代の女
A は「シンプルな」「安心な」「親しみやすい」という評価
性にとって魅力あるシャンプーボトルのデザインを究明
を多く得たことから個性的なデザインではないが親し
する.その為,イメージ調査他を行った.以下に研究の
みやすく安心して使用できるイメージを与えているとい
手順を示す.
える.シャンプーF は「かわいらしい」という評価を多く
主観評価
SD 法
7種類のシャンプーのデザインに
得たことから直感的にかわいいと思えるデザインである
関するアンケートを行った.
とわかる.シャンプーG は「丸みのある」「シンプルな」と
各シャンプーのデザインに対する
イメージを調査した.
ういう評価以外では突出している項目がなく無難なイメ
ージであるといえる.
個性的・⼤⼈っぽい
シャンプーのデザインとそのイメ
コレスポンデンス分析
ージの関係を明らかにした.
形式概念分析
購入したいと評価されたデザイン
に共通する要素を導き出した.
2.デザインイメージの調査
⾼機能な
2-1.目的
7種類のシャンプーのデザインについて,SD 法によ
りデザインイメージを調査する.
2-2.方法
女子大学生26人(平均20.6歳)に市販のシャンプ
ー7種類を提示し,それぞれのデザインについて「アダ
安⼼・親しみやすい
ルトな」-「アダルトでない」といった15組の形容詞対
を用いて,5段階の評定尺度に対して回答を求めた.
2-3.結果・考察
回答データの平均値を求めて,それらをスネークプロ
ット図で描いて,各シャンプーのデザインイメージを比
較した.また,その際に形容詞に関するデータについ
てクラスター分析を行い,個性的・大人っぽいイメージ,
高機能なイメージ,安心・親しみやすいイメージの3つ
のグループに分類した(図1参照).
(1)個性的・大人っぽいイメージ
図1.シャンプーデザインの SD 法評価プロフィール
シャンプーB,D,E の評価が高くなった.3種類すべ
てにおいて「上品な」という評価を多く得ている.またシ
ャンプーD は「個性的な」「斬新な」という評価が高いこ
とから目新しいイメージを与えているといえる.
(2)高機能なイメージ
シャンプーC の評価が高くなった.「高機能な」「しっ
とりとした」という評価を他のシャンプーに比べ多く得た
3.デザインとそのイメージの関係の把握
3-1.目的
シャンプーと形容詞との相対的な位置関係をマップ
上にプロットすることにより,デザインとそのイメージの
関係を把握する.
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
3-2.方法
オブジェクトはシャンプーB,E,F であり,これらは{上
デザインイメージ調査のデータを活用して,コレスポ
品な}{斬新な}{個性的な}という共通の属性を持って
ンデンス分析を行った.また座標値に関してクラスター
いる.さらにシャンプーE には{モダンな},{アダルト
分析を行いグループに分類した.
な},{高機能な}が追加される.またシャンプーF には
3-3.結果・考察
{親しみやすい},{丸みのある},{健康的な},{カジュ
図2に分析から得た散布図を示す.図2より,シャン
アルな},{安心な},{しっとりとした},{かわいらしい}
プーA,F は{かわいらしい},{健康的な},{親しみや
という属性が追加される.20代の女性が魅力を感じる
すい}などというイメージと近い関係にあり,シャンプー
デザインにおいて,上品という要素が最も重要であり,
B,E,D は{斬新な},{個性的な},{上品な}など,シャ
次に斬新・個性的という要素が重要であるといえる.
ンプーC は{しっとりとした},シャンプーG は{シンプル
{購入したい}に属するシャンプーB,E のデザインで共
な}というイメージと近い関係にあることがわかる.
通している点は,香水瓶のようである,西洋風,表面に
凹凸がある,クリアボトル,植物モチーフの装飾,英字
表記ラベル,金色の使用,オーガニック系であるという
ことが挙げられ,シャンプーF とコレスポンデンス分析
において最も近い関係にあったシャンプーA で共通し
ている点は,淡い色合い,泡をイメージしたイラスト,丸
みの強いシルエットであるということが挙げられる.
図2.シャンプーデザインのポジショニング
4.購入したいデザイン特性の究明
4-1.目的
購入したいと評価されたシャンプーのデザインに共
通する要素を明らかにする.
図3.シャンプーデザインの概念束
5.デザイン提案の方向付け
4-2.方法
SD 法,コレスポンデンス分析,形式概念分析の結
(1)形式概念分析とは
形式概念分析ではコンテクスト表(行:分析の対象,
列:対象の特性)の各セルにおいてセルの行に対応す
るオブジェクトがセルの列に対応する属性を持つ場合
そのセルに×が記入される.コンテクスト表のデータ間
果と考察を基に2種類のシャンプーのデザインを提案
する.表1にデザインの方向性を示す.主観評価に基
づくシャンプーのデザイン分析および提案(2)と(3)で
具体的デザイン案を提案する.
表1.提案するシャンプーデザインの方向性
の包含関係から概念束を描くことにより,概念間の関
シャンプーⅰ案
係を把握することができる.
(2)分析データ
SD 法による平均値データ行列を活用した.分析の対
象をシャンプーA~G,対象の特性を15個の形容詞と
し,5段階評価の評価点が2.5未満のセルに×を記
系統
ノンシリコンシャンプー
植物性シャンプー
素材
クリアボトル
不透明ボトル
色
暖色,淡いグリーン
白,パステルカラー
形
個性的・斬新な,稜線あ
り
個性的,丸みのある,稜
線なし
デザイン
西洋風,英字表記,金
色使用,植物装飾白系
統背景ラベル
かわいらしい,健康的,
親しみやすい,英字表
記+日本語表記
入した.
4-3.結果・考察
概念束を図3に示す.概念束では上位に向かうにつ
れてより多くのオブジェクトで共通する属性が分かり,逆
に下方に向かうにつれてより多くの属性をもつオブジェ
クトが分かる.図3より,{購入したい}という属性を持つ
シャンプーⅱ案
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加藤里佳
京都女子大学 家政学部 生活造形学科
〒605-0874 京都市東山区今熊野北日吉町 35
電話:075-531-7045
E-mail: [email protected]
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5-4
主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析及び提案(2)
○難波咲子、加藤里佳、武地美穂、山岡俊樹
京都女子大学 家政学部 生活造形学科
1.はじめに
前報(1)にて,シャンプーに関するデザイン要求事
項を紹介した.要求事項により定められたベクトルを基
に最適なデザインを作成した.
2.構造化デザインコンセプト
構造化デザインコンセプト[1]は,コンセプトを厳密
に決めることができる手法である.この方法では,トレ
ードオフの問題が生じても,ウエイト付けにより優先順
位が決まっているため解決できる.
図2.デザイン案ⅰ
3.2デザイン案ⅱ
デザイン案ⅱは,果物を模したパッケージを作成し
前報(1)にて抽出した要求事項を基にデザインコン
た.ボトル部分には,やわらかい素材を用いて,ボト
セプト(図1,図3)を構築した.デザイン案ⅰは,シャン
ルを絞るとシャンプー液が出てくる仕組みである.
プーB,D,E,を基にしており,斬新で稜線のあるクリア
「果物を絞る」という疑似的体験(UX)ができる.
ボトルが特徴である.デザイン案ⅱはシャンプーF を基
にしており,丸みを帯びた稜線のない不透明なボトル
が特徴である.
3.可視化
構造化デザインコンセプトを基に,デザイン案ⅰとⅱ
のコンセプトをそれぞれ可視化した.
3.1デザイン案ⅰ
デザイン案ⅰでは,照明とシャンプーを組み合わせ
た.照明と組み合わせることにより,空間との調和を図
った.
シャンプーを逆さにセットでき,クリアボトルを下から
ライトで照らす仕組みである.照明シャンプーを逆さに
セットすることにより,スムーズにシャンプー液が出る.
図3.デザイン案ⅱの構造化デザインコンセプト
さらに,最後の1滴まで使うことができる.
図4.デザイン案ⅱ
【参考文献】
1.山岡俊樹編著:UX・画面インターフェースデザイ
ン入門,pp 50-57,共立出版,2013
------------
図1.デザイン案ⅰの構造化デザインコンセプト
<< 連絡先 >>
------------
難波咲子
京都女子大学 家政学部 生活造形学科
〒605-8501 京都府京都市東山区今熊野北日吉町35番地
電話:075-531-7172
E-mail: [email protected]
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5-5
主観評価に基づくシャンプーのデザイン分析及び提案(3)
○武地美穂、難波咲子、加藤里佳、山岡俊樹
1)京都女子大学家政学部
ンプー,タグ 2 を各商品評価得点の数字(1-7)とした.
1.はじめに
前報(1)により,シャンプーボトルデザインの印象が購
生データを,シャンプー全体,各シャンプー,商品
買を左右する一因であることが裏付けられた.本研究
評価点数(1-7)の変化を考察できる txt データを用意し
では計量テキスト分析を用いて,クチコミサイトなどの
た.
CGM(Consumer Generated Media)における消費者の
KHcoder では MeCab を導入し,一度前処理を実行
コメントから,消費者の傾向や要求事項,シャンプーデ
した.その抽出語リストを参考にしながら,適宜前処理
ザインの影響を考察し,分析を行った.以下に研究の
の語彙の取捨選択のため強制抽出語の設定を行っ
手順を示す.
た.
2.頻出語の抽出
3.結果・考察
2-1.目的
表 1 にコメント例を示す.
前報(1)により評価の高かった 3 種のシャンプーにつ
表 2.シャンプーにおけるクチコミ用語の頻出用語
いて,KHcoder[1]を用いて消費者のクチコミの頻出語
を抽出する.
2-2.方法
クチコミサイトとして日本最大のコスメ・美容総合サイ
ト「@cosme」にてデータの収集を行った. 3 種の商品
「ロレッタ」,「オルジェノア」,「ダイアン」に対する 10 代
~20 代前半女性のコメント 112 件を,計量テキスト分析
のソフトウェア KHcoder を用いて抽出語リストを作成し
表 2 は頻出語の上位 10 語である.クチコミ全体の抽
た.
KHcoder で分析を行うデータはタグ付けを行う必要
出語リストの頻出語 150 では,香りや匂いといった項目
がある.今回のクチコミではタグ付けとしてタグ 1 にシャ
が頻出している.またこの全体の抽出語リストを描画数
60 で共起ネットワーク化して可視化したものが図1であ
表 1.ネット上でのコメント例
商
年
得
品
代
点
1 ダ
10
7
イ
代
る.この図では出現パターンの似通った語,すなわち
共起の程度が強い語を線で結んだネットワークが示さ
コメント
れている.
数回使ったので追記します。6★→7★
がなかったのですがシャンプーとトリートメントがきれたので探してたところ、こちらの商品
ン
の香りと口コミが良かったので(ダメ元で)購入しました。デザインも可愛くセレブになった感
じです シャンプーはとても良い香りでしたがやはりキシキシしました.トリートメントは少
量でも全体に使えてしっとりします乾かしたら心配していたキシみ、パサつきは感じられなく、
しっとりします数回使用しましたが最近あまり絡まなくなりサラサラで調子が良いです.今後
も使い続けたいと思いました♪
2 ロ
20
レ
代
5
大好きなロレッタ!いつもドラッグストアのシャンプーを使っていた私ですが、自分へのご褒
美として購入。
ッ
デザインもかわいいし
タ
地肌にもいいし、スッキリします!今は 2 本目です!
3 オ
20
ル
代
分析対象である‘ロレッタ’というシャンプーの単語に
私はノンシリコンはこれまで使ったものは髪がキシんでパサついたので あまり良いイメージ
ア
4
いる.このことからこの商品ではパッケージを気に入っ
て購入したことを表記する者が多いことが分かる.また
図 2 は語と見出し語との共起ネットワーク図であり,見
出し語は四角で表記されている.分類した各年代・商
品別に共起の強い語が線で結ばれている.中心部に
はすべての見出し語に共通して共起している語が並
ランキングの順位、コスパ、成分、ボトルのデザインでこのシャンプーを購入しました!
香りが苦手と仰る方もいるようですが、特にきついという訳ではなく、思っていたより優しい香
び,各見出し語から外周に表記された語はその見出し
語の特徴的な語が表記されている.商品によっては年
ジ
りでした。
ェ
以前はラグジー(ピンクのボトル)を使っていたので、それとの比較になってしまいますが、泡立
ノ
ちも良く洗った後はしっとりというより、髪がサラサラになった感じがしました。
ア
乾かした後、毛先がパサついているようにも思えましたが、椿油で軽くケアしたのでその点はあ
まり気になりませんでした!
500ml で 900 円(税別)というコスパにも惹かれたので、頭皮や髪の毛に異常がなければ今後も
使い続けたいと思います(*^^*)
‘気に入る’や‘ボトル’といった単語が線でつながって
代の差により語彙の特徴に差が現れる.
図 3 は最小スパニングツリーのみを表示させたもの
で,より重要な線の繋がりのみを表示させたものである.
この図からはシャンプーと香りといった語が特にダイア
- 51 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
ンとオルジェノアに強く共起していることが読み取れ
4.前報(1)との比較
る.
クチコミ情報ではデザインについての記載はあるもの
の,香りや使用感といったコメントに重点がいくため,
口コミ
残念
見る
惹く
強い
セット
気に入る
他
デザインに関する書き込みは少なく,またそれに関す
好き
購入
ロレッタ
気
ボトル
る詳しいコメントを得ることも難しかった.しかし少数の
香り
甘い
バニラ
泡
笑
以上から,ネットでのクチコミ情報とデザインに絞っ
シャンプー
思う
買う
今
洗い流す
評価
キシ
高い
たアンケート調査では,デザインの調査を行うという点
使う
以前
値段
シリコン
洗い上がり
指通り
リピート
多い
サラサラ
感じる
少し
痒い
匂い
無い
髪
広がる
感じ
しっとり
洗う
出る
オイル
うな効果を求めているかといった面においてはこの手
ツヤ
残る
かし,この調査から,特定の商品においてはパッケー
素になるというデータを得ることができた.また,どのよ
使用感
柔らかい
においては後者の方が有効であることが判明した.し
ジが購入者の選択基準の一因となり,気分を高める要
頭皮
乾燥
髪質
特に
た結果は類似した.
トリートメント
試す
(笑)
泡立つ
仕上がり
商品
安い
デザインに関するクチコミの特徴とアンケート調査で得
良い
使用
香る
法が有効であると考える.
図 1.語の共起ネットワーク
参考文献・URL
1.KHcoder, http://khc.sourceforge.net/
柔らかい
乾燥
(2015/5/19 アクセス)
商品
(笑 )
髪質
他
好き
感じる
ロレッタ
シリコン
買う
匂い
ロレッタ20代前半
頭皮
気
ダイアン10代
セット
使う
洗う
香り
オルジェノア20代前半
泡立つ 購入 オルジェノア10代
ロレッタ10代
感じ
リピート
乾かす 出る
トリートメント
シャンプー
思う 髪
バニラ
良い 使用
甘い
髪の毛
しっとり
-
使用感
ダイアン20代前半女性
少し
今
オイルシャンプー
サラサラ
オイル
リピ
合う
以前
図 2.語と見出し語の共起ネットワーク
髪 匂い
思う
オイル 以前
洗い流す
リピ
オイルシャンプー
合う
口コミ
甘い
頭皮
オルジェノア10代
人
柔らかい
セット
(笑 )
購入
無い
しっとり
良い 商品
ダイアン20代前半女性
感じ
ロレッタ20代前半
使う
シャンプー
トリートメント
見る
言う
使用感
今
髪質
出る
ダイアン10代
香り
サラサラ
オルジェノア20代前半
乾燥
自分
少し
惹く
ロレッタ10代
買う
洗い上がり
リピート
泡立つ
値段
ロレッタ
好き
コンディショナー
シリコン
他
香る
乾かす
バニラ
気
感じる
使用
洗う
キシ 髪の毛
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武地美穂
京都女子大学 家政学部生活造形学科
〒605-0874 京都市東山区今熊野北日吉町 35
電話:075-531-7172
E-mail:[email protected]
図3.共起ネットワーク (最小スパニングツリー)
- 52 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-1
京都市における自歩道整備に関する調査 ―歩行者行動をふまえて―
○今井 駿、岡田 明
大阪市立大学大学院生活科学研究科
離している(図 1).また,烏丸通り付近から東側は鉄柵
1.はじめに
自転車の走行環境の安全性を高めるためには,自
で分離している.しかし,縁石は駐車場や店舗入口な
転車用標識のデザインだけでなく,自転車が走行すべ
どにより分断されており分離が完璧ではないこと,分離
きルートのデザインも重要である.また,そのデザイン
されたが歩行者・自転車ともに守れていない利用者が
により,自転車用標識の効果的な設置へとつなげてい
いること,縁石があるため自転車同士のすれ違いや追
くこともできる.
い越しに危険を感じるなどの問題点も見られている.
日本においては自転車の走行路が明確に定められ
ているところは未だあまりなく,殆どは歩道または車道
との分離が全くなされていない,または曖昧であるのが
現状である.そのため,対歩行者や対自動車の事故
が継続して生じている.こうした状況を背景として,国
土交通省及び警察庁交通局により「安全で快適な自
転車利用環境創出ガイドライン」1)もつくられており,歩
行者と自転車を完全に分離することを目的とした自転
図 1 五条通りの整備例(縁石で分離)
車道路整備形態とその方法もまとめられている.
さらに,自転車道路整備が行われたところについて
4.五条通りにおける通行調査
は,その調査・研究も行われており,それに基づく以下
の特徴や指針も示されている.
・遵守率は,白線で分離<カラー化<構造物で分
離の順に良くなる
2)
・遵守率は整備後時間と共に低下していく
歩行者,自転車の遵守率は,互いに強く関係してお
り,道路幅や分離工作物の違いにも左右されると考え,
通行調査を行った.五条通りは,歩道幅が広い区間,
歩道幅が狭い区間,分離工作物が鉄柵の区間に分け
2)
ることができ,それぞれの区間で通行調査を行った.
・自転車通行帯を走る自転車は速度が上昇する
・自転車通行帯の幅員は,3m 以上が好ましい
3)
4-1.調査内容
3)
調査内容は以下のとおりである.
しかし,自転車と歩行者双方の観点での調査は少
・歩道幅が広い区間(以下,歩広区間)
なく,自転車と歩行者との関係は明らかではない.本
場所:五条御前付近
研究では,歩行者の行動も含め,自転車道路整備の
日時:2015 年 1 月 23 日(金) 15:30~16:30
実態を把握することにより問題点を抽出し,適正な道
形状:歩道約 3m,自転車通行帯約 2-3m,縁石分離
路整備のあり方の提案を目的とした調査を試みた.
・歩道幅が狭い区間(以下,歩狭区間)
場所:五条壬生川付近
2.京都市における自転車道路整備状況
日時:2015 年 5 月 8 日(木)10:00~11:00
京都市では,2010 年に実道路での社会実験を行っ
形状:歩道約 2m,自転車通行帯約 2-3m,縁石分離
た.その結果をふまえ,現在では御池通り,五条通り,
・分離工作物が鉄柵の区間(以下,鉄柵区間)
烏丸通りなどの主要な道路の自転車環境整備を実施
場所:五条高倉付近
している.歩道のない道路においても,自転車走行部
日時:2015 年 2 月 27 日(金)11:45~12:45
分をカラー化するなどの整備が行われている.しかし,
形状:歩道約 3m,自転車通行帯約 2-3m,鉄柵分離
「商売の妨げになる.」「景観を乱している.」「逆に危
険を感じるようになった.」と整備に反対する声もあがっ
ている.こうした整備の現状を踏まえ,ここでは特に主
要な五条通りの調査を実施した.
自転車で自転車通行帯を走っている者を遵守○とし,
歩道を走っている者を遵守×とする.また,区間内で
歩道から自転車通行帯に移動,またはその逆に移動
する動きをした者を遵守△としている.
3.五条通りの整備について
五条通りは,境界部分に縁石を設け,物理的に分
ただし,歩広区間では,調査区間内を縁石が継続し
て分離していたため,移動は見られなかった.また,区
- 53 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
間近くの店舗駐輪所に駐輪するために歩道を走る者
い越しの場面であった.すれ違いがあった 18 名の内,
がおり,ここではそれらを遵守△とした.
歩道に移動した者は 1 名のみであったが,追い越しで
4−2.調査結果
は,16 名中 7 名が歩道に移動した.このことから,1 時
調査人数は,歩広区間で自転車 172 名,歩行者 80
間に 80 名程度の歩行者量では,歩道幅員は 2m で十
名.歩狭区間で自転車 143 名,歩行者 84 名.鉄柵区
分であることがわかる.また,自転車通行帯の幅員が
間で自転車 150 名,歩行者 250 名であった.
2m では,追い越しに不安が生じると考えられる.
各区間での遵守率を図 2 に示す.なお,歩広区間で
は,歩行者は全員が遵守○のため省略する.
鉄柵区間では,歩行者量が 250 名と多く,遵守率も
低下している.障害により歩道へ移動した自転車は,
自転車が障害である 25 名の内 4 名,歩行者が障害で
ある 15 名の内 7 名であり,自転車にとっては,歩行者
の方が障害となっていることがわかる.鉄柵は,歩行者
の移動も不可能にし,一度自転車通行帯に入ると,鉄
柵の途切れた箇所でないと歩道に戻ることができない.
そのため,自転車もそれを見越し,手前の鉄柵の区切
れから歩道に移動するような行動をとると考えられる.
6.まとめ
今回の調査では,歩狭区間で歩行者の遵守率が下
図 2 各区間における自転車及び歩行者遵守率
がり,自転車遵守率もそれに伴い下がるのではないか
また,同時に二台の自転車が走行している場面や,
自転車通行帯を歩行者が歩いている場面などを,自
と予想していたが,歩行者も自転車も遵守率は,歩狭
区間が最もよい結果となった.
転車にとって障害になるものとみなし,障害のある場面
での,自転車の歩道への移動の有無を集計した(図 3).
なお,歩広区間では,縁石により歩道への移動が不可
能であるため省略する.
また鉄柵は,歩行者を自転車との接触から守り安全
であるとの見方もあるが,一方で歩行者の移動を困難
にする一面もある.そのため歩行者量の多い鉄柵区間
では,自転車通行帯を歩く歩行者も増加し,歩行者を
却って危険な状況にしている場合もある.
歩道や自転車道の幅員や分離工作物のデザインは,
通行量を十分に考慮する必要があり,必要以上に歩
道を広くすると却って,自転車の遵守率を下げる結果
になることが予想される.また,分離工作物においても,
歩行者量により考慮しなければならないことがわかる.
図 3 両区間における歩道への移動の有無
障害の内訳は,歩狭区間で自転車 34 名,歩行者 0
しかし,調査を行う時間帯や曜日などにより結果が変
名の計 34 名.鉄柵区間では,自転車 25 名,歩行者
わる可能性があり,今後も続けて調査を行い,さらなる
分析を行う必要がある.
15 名の計 40 名である.
5.考察
歩広区間での自転車遵守△の者は,店舗駐輪場に
むかう者であり,歩道通行も仕方が無いという見方もで
き,それらを除外すると,自転車遵守率は,歩狭区間
90.2%,歩広区間 78.9%,鉄柵区間 74.7%の順となる.
また,歩行者遵守率は,歩広区間 100%,歩狭区間 95.
2%,鉄柵区間 78.4%の順となる.
参考文献
1)国土交通省及び警察庁交通局:安全で快適な自転車環
境創出ガイドライン,http://www.mlit.go.
jp/road/road/bicycle/pdf/guideline.pdf ,2013
2)小川 隆:郊外地域における自転車利用環境の評価と特
性-福岡市西部糸島半島を対象として-,日本建築学会
九州支部研究報告,第 52 号,2013
3)山中 英生:自歩道における自転車通行空間分離施策の
一分析-徳島駅前地区 192 号の施策事例から-,交通
学,Vol.42,No2 7-14,2011
------------
歩広区間の自転車遵守率が歩狭区間より低かった
理由として,歩道の幅員が広く走り易いからではない
かと考えられる.また,歩広区間,歩狭区間では,殆ど
の歩行者が歩道を歩いている.そのため,歩狭区間で
障害となったものは全て,自転車同士のすれ違いや追
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今井 駿
大阪市立大学大学院 生活科学研究科 居住環境学コース
〒558-8585 大阪府大阪市杉本 3-3-138
電話: 06-6605-2803
FAX: 06-6605-2823
E-mail: [email protected]
- 54 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-2
立位を取り入れたオフィスワークの心身への効果
宮田勇優 1)、○岡田 明 1)、山下久仁子 2)
1)大阪市立大学大学院生活科学研究科, 2)大阪市立大学研究支援課
1.はじめに
により腰部や下肢の負担度合いが変わることが示唆さ
腰痛に悩まされるオフィスワーカーの割合は少なくな
れた.
い.その対策のため,腰椎の生体力学的構造や,着
3.本実験:立位の適正姿勢の検討
座姿勢の長時間持続等の要因に目が向けられてきた.
以上の予備実験を通じ,立位での姿勢のとり方の適
そして,こうした課題を解決するためのオフィスチェアも
正な条件について検討する本実験を行った.
開発されてきたが,そもそも座り続けることへの健康上
3-1.方法
の懸念も近年取り沙汰されるようになった.Hidde ら
a.実験参加者:健康な男子学生 8 名(身長 166~
(2012)は着座時間の長さと死亡率との関係性を統計
186cm)である.
的に示しており,両者間の直接的な因果関係は明らか
b.デスク条件:デスク高さは肘高さを基準に,肘高さ
ではないものの,同一着座姿勢の持続をできるだけ回
+10cm,肘高さ,肘高さ-10cm の高さを,ノートパソコン
避する考え方は,健康志向と相まって徐々に浸透しつ
の設置位置についてはデスク前縁から 10,20,30cm
つある.
を設定した.ただし,肘高さ-10cm とパソコン設定位置
こうしたことを背景に,オフィスチェアの代わりに不安
30cm の組み合わせは明らかに不適当であるとして除
定なバランスボールを用いる試み,あるいは可動する
外し,またデスクにもたれかかる条件を 2 段階加えたこ
椅子の開発も行われている.一方,基本的な姿勢自体
とにより,計 10 条件を設定した(図 1,2).
を変更する提案もなされ,座位の間に立位を取り入れ
c.測定項目:主観評価として,疲労部位しらべ,独自
ることが産業現場等で検討され,また立位で執務する
に作成した快適度・負担感・好き嫌いに関する 5 段階
ためのデスクも提案されている.いずれもその有効性
評価アンケートを用いた.また生理的評価として,頚
は示されているものの,立位は下肢の負担を増加させ
部・背部・上腕・下腿の計 7 部位の筋電図を導出し,床
るため,その状態で少しでも負担軽減につながる姿勢
面の体圧分布を測定した.また,実験中ビデオカメラ
や,オフィス作業の中心となるパソコン操作における立
での撮影を行った.
位での適正な姿勢条件については十分検討されてい
d.実験手順:1 条件につき 3 分間のタイピング作業を
るわけではない.
課し,その間の筋電図と体圧分布を記録した.各条件
そこで本研究では,立位でのパソコン作業に適した
終了後に疲労部位しらべとアンケートを実施した.なお,
デスクおよび姿勢の条件を検討するための実験を試
順序効果を考慮して実験順序はランダムに設定した.
みた.
2.予備実験
S
上記の検討を行うのに先立ち,2 つの予備実験を行
端から10cm
った.
L
①立位導入による効果
1 時間のオフィスワークに立位を導入した場合(後半
30 分間)の影響について,2 名の学生の参加を得て主
観評価および筋電図から確認した.その結果,立位の
M
導入により眠気の改善効果は見られたが,下肢の負担
は増加した.
②立位間隔による影響
予備実験①の結果を受け,座位と立位を 30 分ずつ H
交代する場合と 15 分ずつ交代する場合について 3 名
の学生の参加を得て検討した.その結果,両者の差異
は特に見られなかったものの,立位時の姿勢のとり方
- 55 -
M
端から20cm
L
端から30cm
肘
高
さ
-
10
cm
肘
高
さ
と
同
じ
肘
高
さ
+
10
cm
図 1.デスクの条件
MO
もたれかかり
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
図 3.好き嫌いのスコアの平均値と標準偏差
図 2.HS 条件(左)と LL 条件(右)
3-2.結果と考察
デスク条件の快適さ,負担感,好き嫌いのいずれも,
パソコンの位置が遠くなるほど評価が低下する傾向が
みられ,高さによる差異は認められなかった(図 3).こ
れは,体重の一部を腕に分散させる効果はあるものの,
腰曲げ姿勢が強くなることが要因として考えられる.た
だし,肘の高さを基準にデスク高を設定したにもかか
わらず,身長の低い参加者の方が高いデスクを好まな
い傾向にあった.これは,腕の長さの影響も含まれるた
図 4.体圧分布の例(参加者 1,高さ L)
めと思われる.また,筋電図の結果より,HS 条件(図 2)
では僧帽筋肩部の積分値が他の条件に比べて一様
に増加していることもその要因として考えられる.
当初もたれかかり条件(MO)は下肢の負担軽減に効
果的であると思われていたが,評価は他の条件よりも
むしろ悪くなる傾向にあった.床面にかかる体圧分布
(図 4)は,たしかにパソコン位置が遠くなるほど,さらに
もたれかかり条件ほどより低下しているが,その分デス
ク上の肘を中心とした体圧が増加し,評価が低くなっ
たと思われる.インタビューでも肘の痛みを訴えた参加
者がいた.
今回は短時間での評価実験だったため,下肢の負
4.結論
立位でのデスク高さ,およびパソコンの設置位置の
適正な条件の存在が示された.また,主観評価および
生理計測結果より,下肢と腕との体重分散の比率の検
討や腰曲げ回避の重要性が示唆された.今後は,下
肢や体幹の寄りかかり姿勢も含む立位姿勢の適正条
件のバリエーションを,時間軸も加え検討することが必
要である.
【謝辞】
担については明確な差異を見出すまでには至らなか
本研究の遂行に際し,株式会社イトーキ八木佳子氏
ったが,各参加者のデスク条件を変えた一連の実験の
に資料と貴重なご助言をいただきました.ここに謝意を
時間経過により,次第に下肢の負担を感じる傾向にあ
表します.
ったことから,長時間では下肢の負担がより鮮明になる
と予想される.
------------
今後はさらに,天板のみのデスク設定ではなく,また
腕による体重分散に多くを依存することなく,下肢や体
幹の寄りかかりが可能な仕掛けを用いることで,立位で
のオフィスワークにおけるより快適なデスク形態やパソ
コン配置について提案したいと考えている.
<< 連絡先 >>
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岡田 明
大阪市立大学大学院生活科学研究科
〒558-8585 大阪市住吉区杉本 3-3-138
電話 06-6605-2823
FAX 06-6605-2823
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-3
香りがヒトに及ぼす覚醒作用に関する研究
-クルマ用芳香製品への応用-
○吉井 寛 1)、山下久仁子 2)、岡田 明 3)
1)株式会社ソフト 99 コーポレーション, 2)大阪市立大学研究支援課, 3)大阪市立大学大学院生活科学研究科
作用)を有する車用芳香製品として応用すること、すな
1.はじめに
近年、車は単に移動の手段として利用されるだけで
わち、車内で求められるニオイによる快適性と居眠り運
はなく、ヒトが車内で如何に快適に過ごせるかというこ
転防止の観点から、香りによって車内を快適に保ちつ
とが注目されており、快適のための手段として「ニオイ」
つ、かつ、安全性を考慮した覚醒作用を有する車用芳
が重要な因子と考えられている。車内は密閉空間であ
香製品を検討することを目的として試験を実施した。
るため、「ニオイ」がヒトに及ぼす影響は決して小さくは
ない。そのため、車用の芳香消臭剤の種類や販売数
量は年々増加傾向にある。一方で、今日の高度情報
化社会において車の有用性は大きいが、交通事故の
増大などのマイナス要因も発生している。交通事故の
中では、居眠り運転など眠気に起因する交通事故が
後を絶たず、特に大型トラックなどにおいては悲惨な
死亡事故につながるケースも多い。眠気による意識低
下状態からドライバーを覚醒させる手段としては、警告
ランプやアラームなどの視覚や聴覚に訴えかけるもの、
また、ガムやコーヒー、ドリンク剤など味覚に訴えかける
ものが良く利用される。さらに、車における香りによる覚
醒作用についてもいくつか研究されている 1)~3)。
本研究では、随伴陰性変動(contingent negative
variation,以下 CNV)を測定することおよび主観評価に
よる覚醒度や気分の評価、アンケート形式による「香
り」の評価によって、香りの嗜好性を調査するとともに
香りがヒトの覚醒に影響を及ぼすか否かを検証した。
そして、香りを単なる芳香剤としてではなく、機能(覚醒
NO.
2.方法
実験 1:CNV 測定のために図1のようなタスクを、実
験参加者(大学生または大学院生の男性 4 名、女性 6
名)に実施させ、このタスク 30 回を1セットとして7回繰
り返した(図1参照)。同じ参加者に対して、図1中の⑤
終了後に、香り(レモンジンジャー系の香りを採用)を
暴露した場合と暴露しない場合の各1回ずつ実験を実
施した。なお、香りの暴露方法は、香りを 0.035mL 噴霧
したマスク(㈱白元社製サニーク快適ガードプロ立体タ
イプ)を着用した(香りを暴露しない場合は、香りを噴霧
していないマスクを装着した)。同一参加者においては、
香り暴露有無は別の日の同一時間帯に実験を行い、
実験順序は無作為に半数に分けた。測定項目は、タ
スク試行中の CNV(Fz、Cz、Pz 部位の脳波および脳
波へのアーチファクト混入の監視用として垂直方向の
眼電図)、CNV 測定中の第2刺激に対する反応時間
および反応のバラつき、神経系の疲労度を推定するた
めの指標であるフリッカー値(CFF)の測定、並びに、
主観評価とアンケート調査とした。なお、各測定時期は
時 間
タスク内容
1
空白時間Ⅰ
2
音(予告音)が鳴る(第1刺激:S1)
0.1秒
3
空白時間Ⅱ
3秒
4
モニターにポイント(直径1cm程度の白い丸)が現れる(第2刺激:S2)
0.5秒
5
ポイントを確認すると可及的速やかにボタンを押す
一瞬
1セット
7秒±1秒
約7分
このタスクを 30 回
繰り返す
*上記タスクを1セットとして、全体で7回試行する
実験概要説明
電極装着
①
CNV
②
CNV
③
CNV
休憩
④
CNV
⑤
CNV
⑥
CNV
⑦
CNV
約7分
約7分
約7分
10分
約7分
約7分
約7分
約7分
CFF測定・主観評価
CFF測定・主観評価
電極取り外し
CFF測定・主観評価・アンケート調査
香り
図 1 実験プロトコル概要
- 57 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
図 1 のとおりとした。1回目の CNV 測定は、緊張や慣
現象は認められなかった。また、同じくその傾向は早
れによる個人差の影響を減らすために、練習とし、必
期 CNV において顕著であった。タスクの反応時間およ
要に応じて1回目終了後に参加者に注意を促した。し
びバラつきは香り暴露群の方が、反応時間が早く、バ
たがって、解析は2~5回目の CNV 値と6回目の CNV
ラつきが少ない傾向が認められたものの、両群間で有
値、および、2~5回目の CNV 値と7回目 CNV 値を香
意な差は認められなかった。CFF 相対値において、香
りの暴露の有無で対応のあるt検定を行った。また、
り暴露なし群の方が暴露群に比べて有意に CFF 値が
CNV の加算条件は原則として一定とし、あきらかに特
低かった。
異的な波形(目の動きなどの影響で波形が異形となっ
ているなど)が認められる場合にはマニュアル操作で
個別に修正し、原則として加算回数が 30 回中 10 回を
上回るようにした(10 名中2名は全計測における平均
加算回数がそれぞれ 9.4 回、8.7 回であった)。なお、
ここでいう、CNV 値とは早期 CNV(S1 後 400msec~
1000msec)および後期 CNV(S2 前 1000msec~S2)の
比較項目数値を指す。比較項目としては CNV 測定に
おいて CNV の平均振幅および面積とした。タスクの反
応時間およびバラつきについても、CNV と同様の検定
を行った。
実験 2:次に、慣れによる影響を調べるために、実験
1 の参加者のうち比較的データのバラつきが少なかっ
た者(男性 3 名、女性 3 名)に、同系統のやや強めの
香りを用いて同様の実験を実施した。
4.考察
CNV は覚醒レベルが高い時に振幅が増大し、疲労
などにより振幅が減少することが知られている。特に、
早期 CNV が覚醒に対応しており、後期 CNV は予期や
注意、動機づけなどの神経活動や運動の準備状態を
反映するといわれている。解析手段としては、一般的
に、CNV の振幅や面積が指標として用いられる。本研
究ではレモンジンジャー系の香りを暴露し、CNV の変
化、タスクの反応時間・バラつき、CFF および主観評価
により、香りがヒトに対して覚醒効果をもたらすか否か
を検証した。また、香りのアンケート調査も行い、ニオイ
として基本的重要事項である嗜好性(快適性)の検証
も行った。
本研究では、CNV 測定の結果から、香りのある場合
とない場合で有意な差が認められ、さらに、主観評価
結果においても覚醒状態について有意な差が認めら
3.結果
実験 1:CNV 測定の結果、全般的に香り暴露群が香
れ、逆転現象は起こらなかった。また、実験 1 では CFF
り無し群に対して、有意に CNV 値が増大し、逆転現象
の結果には両群間において有意な差が認められなか
は認められなかった。また、その傾向は特に早期 CNV
ったが、実験 2 では有意な差が認められた。これは、
において顕著であった。タスクの反応時間およびバラ
CFF は疲れに直接起因する測定方法であるため、今
つきは香り暴露群の方が、反応時間が早く、バラつき
回のタスクによる疲れ程度では明確な差が出にくかっ
が少ない傾向が認められたものの、両群間で有意な差
たが、2 度目の実験では機器操作の慣れによって、精
は認められなかった。CFF は両群間に有意な差が認
度の高い測定ができたためだと推測される。
められなかった。主観評価項目のうち、覚醒状態を示
これらの結果から、本研究で用いた香りを嗅ぐことに
す得点は、香り暴露群の方が有意に高かった。また、
よって、ヒトに対して覚醒作用が認められることが検証
アンケート調査による「香り」の評価結果は図 2 のとおり
できた。従って、嗜好性が良く、かつ、覚醒作用を有す
である。
る車用芳香剤、すなわち、快適性と安全性を兼ね備え
実験 2:CNV 測定の結果、実験 1 同様、香り暴露群
が香り無し群に対して、有意に CNV 値が増大し、逆転
気分の休まる
3
た車用芳香剤の製品化の可能性が示唆された。
5.文献
1)各務ら,信学技報,pp49-54(2010)
活発な
快適さ
0
2)川上ら,日本経営工学会論文誌,pp214-219(2000)
3 ) 近 森 ら , 自 動 車 技 術 会 論 文 集 Vol.32,No.3, p p
107-112(2001)
-3
------------
品がある
好き
深み
爽やかさ
<< 連絡先 >>
吉井 寛
株式会社ソフト 99 コーポレーション
〒540-0012 大阪市中央区谷町 2-6-5
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図 2 アンケート調査結果
- 58 -
------------
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-4
行動センサ技術を用いた電子バッジによる社会的シグナルに関する研究
-看護組織におけるコミュニケーション経路の視点から-
○水野基樹 1)、山田泰行 1)、芳地泰幸 2)、本多里也子 3)、高橋季子 4)、
庄司直人 4)、曾田秀子 5)、岡田綾 6)、水野有希 7)
1)順天堂大学・順天堂大学大学院, 2)聖カタリナ大学, 3)株式会社ビジネスコンサルタント,
4)順天堂大学大学院, 5)順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院, 6)順天堂大学医学部附属練馬病院, 7)東洋学園大学
2-2.調査日時
1.はじめに
近年の医療技術の進歩をはじめ、高品質な医療サ
ービスの提供(チーム医療の実現)、医療事故へのレ
ジリエンス(リスク・危機管理)や顧客への接遇とホスピ
タリティ(顧客満足)などの要請は、看護師の業務をより
高度に複雑化している。そのためか、看護師の日常業
務の多くはコミュニケーション活動によって占められて
2014 年 10 月 28 日から 11 月 11 日までの 2 週間
2-3.調査の概要および測定データ
対象者の社会的シグナルの測定には、MIT の研究
グループが開発した行動センサ技術を製品化した、
(株)日立テクノロジーズ社製の電子バッジ(名札型)、
および赤外線装置(ビーコン)を使用した(図 1)。
いる。例えば、患者の状態に関する情報の共有や申
電⼦バッジ:名札型
送り、さらには患者への医療サービス、感情労働等は
⾚外線装置(ビーコン)
コミュニケーションがその主たる活動(業務)となる。
約30mm
しかしながら、Barnard(1938)に代表される組織論に
約30mm
関する数多くの先行研究もコミュニケーションの重要性
を指摘しつつも、コミュニケーションの構造やチャネル
約50mm
(経路)、流れ(フロー)などの社会的シグナルについて
は充分な議論がなされておらず、医療現場でのコミュ
ニケーションの質量と業務パフォーマンスの関連やア
ウトカムに起因する有益な情報を見出せていない。
名札型の電⼦バッジが誰と、
どれだけの時間、対⾯しているか測定
以上のことから、本研究では、MIT の研究グループ
図 1.行動センサによる測定方法
により開発された行動センサ技術を用いて、大学病院
に勤務する看護師の勤務中および、インフォーマルな
場面(例えば、看病ステーション、ロッカールーム、およ
びダイニング・ルーム)でのコミュニケーションの実態を
把握するために社会的シグナルを測定した。看護師が
いつ、どこで、誰と、どれだけの時間対面して話してい
るかなどの日常業務における病棟内外での看護師間
のコミュニケーション経路※の特徴を明らかにすることを
目的とした。
帯を含む)。なお、電子バッジが観測した加速度リズム
や対面情報は病棟内に設置する赤外線ビーコンで受
信し、データ受信用 PC に記録した。なお、赤外線ビー
コンは休憩室、ナースステーション、管理職のデスク等、
敷地面積に応じて計 22 個を設置した。
本研究に参加した大学病院の看護師の 1 日のコミュ
首都圏の大学病院(精神科病院)に勤務する看護
師に対しインフォームド・コンセントを実施し、同一の病
棟に所属する 33 名(男性 16 名、女性 17 名)から調査
協力の同意が得られた(回答率=94.1%、同意率=94.1%)。
33 名の平均年齢は 35.6 歳(SD=±7.2)であり、管理職
「コミュニケーション経路」とは電子バッジが記録した
対面情報および、加速度リズムからコミュニケーション
(会話)の状態を予測したものである。
バッジを出勤から退勤まで常時携帯させた(夜勤時間
3-1.1 日のコミュニケーション時間による経路
2-1.対象
※
調査期間中、調査対象者にはカードサイズの電子
3.結果
2.方法
5 名、フルタイムのスタッフ 28 名の構成されていた。
⾏動センサが測定した会話記録
は⾚外線ビーコンへ送信される
(半径3m以内)
ニケーション時間を 30 分以上、90 分以上、180 分以上
の 3 つ区分から、それぞれの経路を分析した(図
2.3.4)。その結果、コミュニケーション経路は時間に応
じて、より個別化していくことが明らかになった。つまり、
時間の経過とともに、対人間の繋がりがより明確に示さ
れた。また、看護組織におけるコミュニケーションネット
ワークにおけるキーパーソンは、180 分の時間軸を基
準に特定し得る可能性も示された。特に、図4に示され
た 4 名(MM(17)、FC(7)、M(12)、M(10))の看護師
- 59 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
(点線囲み)は、当該病棟における連結ピンの役割を
表 1.特徴的な参加者の属性
担う、コミュニケーションネットワーク上のキーパーソン
記号
役職
性別
勤務年数
である可能性が高いことが推察される。なお、上記 4 名
MM(17)
師長
男性
17 年
FC(7)
主任
女性
7年
M(12)
スタッフ
男性
12 年
M(10)
スタッフ
男性
10 年
の属性は表 1 の通りである。
4.考察
行動センサによって得られたデータを解析し、1 日
のコミュニケーション時間に基づく看護業務のコミュニ
ケーション経路を明らかにした。その結果、管理業務を
担う看護師は、病棟内外でのコミュニケーション活動に
大きな影響を与えていることが確認された。中でも、師
長と主任を取り巻くコミュニケーションの重要性が確認
され、特に男性看護師は、看護組織で重要な役割を
果たしていると考えられる。
さらに、注目すべき本研究の成果は、上記のコミュ
ニケーション経路の把握(可視化)が人事評価やジョブ
図 2.コミュニケーション経路(30 分以上/日)
ローテーションに活用できる可能性を含んでいるという
点にある。つまり、コミュニケーションの視点から病棟を
活性化するための有益な指標を提供することで、評価
(Check)を含む、効果的マネジメント・サイクルの構築
に貢献できる。
5.今後の課題
本研究では行動センサ技術を用いて、看護組織で
交わされるコミュニケーションの測定方法を確立し、時
間軸に基づくコミュニケーション経路を明らかにした。
今後は、他部署・他病院への調査を拡大(群間比較デ
図 3.コミュニケーション経路(90 分以上/日)
ザインの構築)するとともに、電子バッジによって得られ
た社会的シグナル(コミュニケーションの特徴や経路)
と、個人や病棟単位での業務パフォーマンス(医療事
故、ワーク・モチベーション、職業ストレス、職務満足
度)などのアウトカムとの関連を検証(定性分析・統計
解析)することで、効果的なコミュニケーションの特徴
や在り方を探求していく。
<主要引用・参考文献>
1. Barnard, Chester I. 1938. “The Functions of
the Executive” Harvard University Press.
2. Olguin-Olguin, Daniel and Alex Pentland
2010. “Sensor-Based Organisational Design
and Engineering” Int. J. Organisational
Design and Engineering, Vol.1: 69-97.
3. Pentland, Alex 2008. “Honest Signals: How
They Shape Our World” The MIT Press.
4. Pentland, Alex 2010. “To Signal Is Human”
American Scientist, Vol.98: 204-211.
5. Rogers, Everett M. and Rekha Agarwala
Rogers. 1976. “Communication in
Organization” Macmillan Publishing.
図 4.コミュニケーション経路(180 分以上/日)
【謝辞】
本研究は科研費の基盤(B)「看護組織における行動
センサ解析を用いたコミュニケーションに関する経営
学的研究」(No.26285089)(研究代表者:水野基樹)の
助成を受けたものです。ここに記して謝意を表します。
------------
<< 連絡先 >>
------------
水野 基樹(Motoki MIZUNO, Ph. D.)
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 准教授
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001㈹ FAX 0476-98-1011㈹
E-mail: [email protected]
- 60 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-5
フィットネスクラブを対象としたレジリエンス向上を目指すガイドラインによる介入
-クラスターランダム化比較試験のリサーチデザイン-
○庄司直人 1)、森口博充 2)、河野洋 1)、岩浅巧 1)、高橋季子 1)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
1.はじめに
厚生労働省の調査によれば、職場において強いスト
表 本研究の試験デザイン
基本デザイン
ランダム化
ランダム化の単位
ブラインド化
コントロール
層別化
動的割付
試験実施施設の考慮
レスを感じるという人が全体の半数以上を占める(厚生
労働省, 2014)。そうしたなか、厚生労働省からストレス
チェックに関する指針が示されるなど職場のストレス対
策への機運が高まっている。ストレッサーは職場の状
況により異なるが、仕事とストレスを完全に切り離すこと
並行群間比較
ランダム化
集団
オープン
無介入対照
有(マッチング)
無し
施設をクラスターとしてみなす
は難しい。また、ストレスフルな状況下でもうまく適応し
たガイドラインに従い本研究を進める。本研究におけ
たり、やり過ごしながら仕事を進めることが必要である
アマネジメントやキャリアデザイン、さらには人的資源
る試験デザインは表の通りである。
2-1.対象
本研究においては、介入の対象となる単位(クラスタ
の最大化の視点からも同様に必要とされよう。
ー)を店舗全体もしくは店舗内のセクションとする。一
(水野, 2014)。これはメンタルヘルスだけでなく、キャリ
近年、その心のしなやかさとも言えるレジリエンスの
つの店舗(セクション)をクラスターとして介入し、アウト
向上を目的としたプログラムが多数開発されている
カムの評価を行うものとする。店舗(セクション)の介入
(Gillham, 20006; Gillham, 2007; Reivich, 2011, et
群と統制群への割り付けについては、プール・スタジ
al. )。しかし、その多くのプログラムの有効性について
オ・ジム(三種の神器)の有無を共変量としたマッチン
は 、 科 学 的 に 検 証 さ れ て い な い 。 Penn Resiliency
グに基づくランダム化を行う。
Program (PRP) の有効性については繰り返しランダム
単純ランダム化における必要なサンプル数は 352 人と
化比較試験によりエビデンスが蓄積されているが
算出された(G* Power 3.1.7)。必要なサンプル数の算出
(Gillham, 2006; Gillham, 2007)、その他については科
条件は、分析方法t-検定(両側)、エフェクトサイズは 0.3、
学的エビデンスが蓄積されているとはいい難い。
有意確率は5%、検出力は 0.8、割り付け比率は 1:1 と設
さらに、レジリエンスの向上を目的としたプログラムの
定した。しかし、本研究ではクラスターランダム化比較試
多くが研修形式であり、多くの経済的・時間的コストを
験を行うためデザインエフェクトを考慮する必要がある。
要することが考えられる。しかし、レジリエンスは経験の
そ の た め 、 352 人に デ ザイ ン エ フ ェク ト ( {(30-1) ×
連鎖のなかでも獲得・強化される。そのため、多くのコ
0.01+1} )を乗じ、455 人が必要なサンプル数として算出さ
ストを要する研修形式のプログラムではなく、経験を上
れた。
エフェクトサイズは、PRP の効果に関する報告を参考
手く活用しレジリエンスを向上させることも可能であろう。
その点に着目し、日常業務を通じてレジリエンスの向
に設定した(Gillham, 2007)。とりわけ PRP の開発チー
上を目指すためのガイドラインの開発が進められてい
ムメンバーによる介入ではなく、介入の対象に関連す
る(庄司, 2014)。このガイドラインはレジリエンスの向上
る第三者による介入の報告を参考にした。
2-2.介入
レジリエンスの向上を支援するガイドラインを用い、組
につながる職場における経験をデザインし、レジリエン
スの向上を目指す取り組みを支援するツールである。
しかしながら、現時点でその有効性は未検証のままで
ある。そこで、そのガイドラインを用いた介入の効果を
検証することを目的とした研究に着手した。
織レベルの介入(現場マネージャーのファシリテートに
よるガイドラインの運用)を行う。ガイドラインに示された
21 項目の取り組みのリストから個々の店舗の状況に応
じて2~3項目を選択し、個々の店舗(もしくはセクショ
2.方法
クラスターランダム化比較試験により、レジリエンスの
ン)ごとに4週間取り組む。選択する項目は、マネージ
向上を目的としたガイドラインを用いた介入効果の検
職場レベルの改善に関する RCT における介入期間を
証を行う。すべての過程において CONSORT で示され
参考に算出した。多くの RCT で介入期間は 3 か月以
ャーと従業員で決定する。介入の期間は PRP や他の
- 61 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
姿勢やストレッチした職務への態度の変化を評価する
適格性
主要アウトカム:
レジリエンス(BRS)
指標としてハーディネス尺度を用いる。
ランダム化
マッチング
割付
介入群
統制群
合計:455 名
追跡
介入
2-4.分析方法
量的データ解析においては、主要アウトカムであるレ
ジリエンスと代理指標のハーディネスについてt検定、
マルチレベル分析の双方を用いガイドラインによる介
解析
4週間
非介入
入の効果を統計学的に検証する。介入効果を検証す
るための主要な分析にはt検定を用いる。t検定はガイ
データ解析
データ解析
t検定およびマルチレベル分析
ドラインによる効果(固定効果)を検出するために用い
図 本研究のフロー
上に設定している。しかし、研修形式の介入の場合 3
るが、各店舗特有の効果(変量効果:従業員数、従業
員の参加態度、マネージャーのファシリテートに関する
か月の間に1回 90 分のセッションを6回などの介入が
スキルおよびモチベーション)についても検討する必
多い。本研究では、研修形式ではなく職場単位で一
要があるため、店舗による変量効果を投入したマルチ
定期間の取り組みを行うため単純な比較が困難である。
レベル分析を行う。双方の分析結果を報告し、ガイドラ
そのため、まず PRP の研修による介入の時間を算出し
インによる介入の効果に関する統計学的根拠を示す。
た(gillham, 2007)。PRP による介入は最初の3ヶ月間
で 90 分のセッション×12 回で計 1080 分の介入を実施
3.まとめ
本研究によりガイドラインの有効性を実証し、フィット
した。本研究においては、この 1080 分を介入期間の
ネス産業の発展への貢献を目指す。
目安に設定する。フィットネスクラブの店舗勤務の従業
員の大部分はアルバイトであり、出勤日数は限定的で
ある。週 2 回勤務で2時間/回の勤務(週1回勤務の場
合、4時間/回の勤務)を想定すると、4週間で 960 分の
勤務時間となる。この 960 分を一定の基準とした場合、
従業員の大多数が最低限介入に必要な時間を満たす
と推測され、本研究の介入期間を4週間と設定した。
2-3.アウトカム
介入の効果を測定するためのアウトカム変数をレジリ
エンス、代理的アウトカム指標をチャレンジとする。そ
れぞれを測定する尺度には二次元レジリエンス要因尺
度(BRS)(平野, 2010)、チャレンジ、コミットメント、コン
トロールの 3 因子で構成されるハーディネス尺度(多田、
濱野, 2003)を用いる。
BRS は、生得的資質と獲得的資質の2因子構造であ
る。また、ライフイベントによる影響が小さく安定的であ
ることが示されている。本研究における介入の効果をよ
り精緻に検討するために、できるだけ時間的経過の影
響を受けない安定的な尺度が求められる。そのため、
BRS は本研究のアウトカムの測定に適した尺度である
と言えよう。本研究で用いるガイドラインでは3領域(①
チャレンジを促す、②支援関係の構築、③顧客からの
フィードバックの活用)に焦点を当てる。そのうちチャレ
ンジを促すことを目指す領域に関して、ストレッチされ
たチャレンジングな職務を通じてレジリエンスに関連す
る心理的要因の変容を目指すが、4週間という限られ
た時間のなかで心理的な能力やスキルの獲得まで至
るかどうかは疑問が残る。そのため、チャレンジングな
4.参考文献
厚生労働省(2014).平成 25 年「労働安全衛生調査(実態
調査)」の概況
Gillham J. E., Hamilton J., Freres D. R., et al. (2006).
Preventing depression among early adolescents in
the primary care setting: A randomized controlled
study of the Penn Resiliency Program, Journal of
abnormal child psychology, 34(2), 203-219.
Gillham J. E., Reivich K. J., Freres R. D., Seligman M.
E. P., et al. (2007). School-based prevention
depressive symptoms: A randomized controlled
study of the effectiveness and specificity of the
Penn Resiliency Program, Journal of consulting
and clinical psychology, 75(1), 9-19.
平野真理(2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因
の分類の試み-二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の
作成-, 日本パーソナリティー研究, 19(2), 94-106.
水野基樹(2014). キャリアデザインとレジリエンス―職場全
体でレジリエンスを高める工夫・仕掛け, 労働の科
学,66(7),18-22.
Reivich K. J., Seligmen M. E. P., McBride S. (2011).
Master Resilience Traning in the U. S. Army,
American psychologist, 66(1), 25-34.
庄司直人, 森口博充, 本多里也子, 北村茉衣, 水野基樹,
北村薫(2014). フィットネスクラブにおけるレジリエンス
支援のためのガイドライン作成の取り組み, 産業保健人
間工学研究 supplement, 16, 75-79.
多田志麻子, 濱野恵一(2003). ハーディネス尺度の信頼
性と妥当性の検討, ノートルダム清心女子大学紀要 生
活経営学・児童学・食品・栄養学編, 27(1), 56-62.
------------ << 連絡先 >> -----------庄司直人
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台1-1
電話 0476-98-1001 FAX 0476-98-1011
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- 62 -
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-6
看護師の多重役割と精神的健康度の関連
―多重役割マップ(質問票版)を用いた横断研究の展開―
○山田泰行 1,2)、榎原毅 3)、水野基樹 1,2)
1)順天堂大学スポーツ健康科学部, 2)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科, 3)名古屋市立大学大学院医学研究科
1.はじめに
看護師は職業生活と家庭生活を通して、看護師役
とき、看護師役割にどのくらい良い影響がありましたか
割、マネジメント役割(管理職、リーダー、プリセプター、
で評価した。回答者はマネジメント、友人関係、パート
等)、友人関係役割、パートナー役割(夫・妻、恋人)、
ナー、親、子(娘)、プライベート(役割無し)との関連の
親役割、子役割(両親に対する娘・息子としての役割)
程度を 6 段階で回答した:「(1)非常に良い影響があっ
1)
(その他の役割→看護師役割)」という 2 つの質問項目
などの多重役割に従事している 。看護師はどのように
た」、「(2)良い影響があった」、「(3)少し良い影響があっ
これほど多くの役割を両立しているのだろうか。
た」、「(4)良い影響はなかった」、「(5)そもそも影響は生
我々は多重役割を逞しくこなし続ける看護師のロー
ルモデルを提示するため、多重役割マップというツー
1-2)
じない(分離として評価)」、「(6)役割に該当しない(欠
損値として処理)」。
。これにより、多重役割の数、役割期
NSP の評価には「看護師役割の負担によって、次の
待、多重役割従事による恩恵(ポジティブ・スピルオー
役割はどのくらい妨げられましたか(看護師役割→そ
バー:PSP)、葛藤(ネガティブ・スピルオーバー:NSP)、
の他の役割)」、「次の役割の負担によって、看護師役
補償(ポジティブイベントによるネガティブイベントの相
割はどのくらい妨げられましたか(その他の役割→看
殺)、分離(役割間で影響を及ぼしあわない状態)につ
護師役割)」という質問項目を採用し、6 段階の回答を
いてのナラティブデータの収集が可能となった。一方、
求めた:「(1)非常に妨げられた」、「(2)妨げられた」、
多重役割マップの記入には 60~90 分を要するため、
「(3)少し妨げられた」、「(4)妨げられなかった」、「(5)そ
ルを開発した
2)
データ収集が難しいという課題がある 。
もそも影響は生じない(分離として評価)」、「(6)役割に
そこで本研究は、簡便な手続きで多重役割構造を
該当しない(欠損値として処理)」。
評価するための重役割マップ(質問票版)を作成する。
補償の評価には「看護師役割で負担を感じたとき、
これを用いた Web 調査によって、多重役割をこなしな
次の役割はどのくらいあなたの助けとなりましたか(看護
がら健康的に働く看護師の特徴を明らかにすることを
師役割→その他の役割)」、「次の役割で負担を感じた
目的とする。
とき、看護師役割はどのくらいあなたの助けとなりました
2.方法
2-1.対象
インターネット調査企業 A 社にモニター登録してい
か(その他の役割→看護師役割)」という質問項目を使
る女性看護師を対象に Web 調査を実施した。調査期
らなかった」、「(5)そもそも影響は生じない(分離として評
間は 2015 年 2 月 25 日から 3 月 3 日までの1週間であ
価)」、「(6)役割に該当しない(欠損値として処理)」。
る。有効データ 792 名の平均年齢は 41.0 歳(SD=±
2)GHQ-12
用し、6 段階の回答を求めた:「(1)非常に助けとなった」、
「(2)助けとなった」、「(3)少し助けとなった」、「(4)助けとな
精神的健康度の指標として GHQ-12 を採用した 3)。
9.33)、現勤務先の平均勤続年数は 6.9 年(SD=±7.1)
であった。詳細は表1の通りである。
2-2.質問票
1)多重役割マップ(質問票版)
これまでの調査
1-2)
によって収集した多重役割
マップによると、PSP、NSP、補償のエピソードのう
ち 90%以上は看護師役割とのインタラクションの
中で生じていた。そこで、看護師役割とのインタ
フェースに焦点を当てた質問項目を作成した。
PSP は「看護師役割が充実したとき、次の役
割にどのくらい良い影響がありましたか(看護師
役割→その他の役割)」、「次の役割が充実した
表 1 本研究が扱う有効データのプロフィール
プロフィール
区分
年齢
20代
30代
40代
50代以上
勤務年数 3年未満
(現在の職場) 4-6年
7-9年
10年以上
雇用形態 正職員
非正職員
その他
家族からの なし
サポート※ あり
- 63 -
n
84
270
294
144
258
213
106
215
567
189
36
249
543
%
10.6
34.1
37.1
18.2
32.6
26.9
13.4
27.1
71.6
23.9
4.5
31.4
68.6
プロフィール
区分
役職
なし
あり
育児
なし
あり
介護
なし
あり
婚姻歴
未婚
既婚
離婚・死別
職種
看護師
助産師
保健師
准看護師
n
707
85
494
298
737
55
277
411
104
655
23
30
84
%
89.3
10.7
62.4
37.6
93.1
6.9
35
51.9
13.1
82.7
2.9
3.8
10.6
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
表 2 多重役割間で生じた PSP、NSP、補償、分離と精神的健康の関連
女性看護師が従事している
多重役割のインタフェース
PSP
NSP
補償
分離
OR (95%CI)
OR (95%CI)
OR (95%CI)
OR (95%CI)
看護師
→ マネジメント 1.53 (1.05-2.24)
0.78 (0.55-1.10)
1.70 (1.19-2.42)
-
看護師
→ パートナー
2.01 (1.39-2.92)
0.90 (0.62-1.29)
1.96 (1.36-2.82)
-
看護師
→
母親
1.88 (1.29-2.75)
0.97 (0.67-1.42)
1.92 (1.32-2.80)
-
看護師
→
子(娘)
2.12 (1.46-3.07)
1.24 (0.86-1.80)
2.49 (1.72-3.60)
-
看護師
→
友人関係
2.11 (1.48-3.01)
1.08 (0.76-1.54)
2.08 (1.46-2.94)
-
看護師
→ プライベート 1.79 (1.26-2.55)
0.87 (0.61-1.22)
1.72 (1.21-2.43)
-
マネジメント →
看護師
1.14 (0.79-1.66)
0.72 (0.51-1.02)
1.53 (1.07-2.18)
-
パートナー →
看護師
2.22 (1.53-3.21)
1.00 (0.70-1.45)
1.82 (1.27-2.62)
-
母親
→
看護師
1.84 (1.26-2.69)
1.10 (0.75-1.61)
1.85 (1.27-2.70)
-
娘
→
看護師
1.98 (1.37-2.87)
1.34 (0.92-1.95)
2.17 (1.49-3.14)
-
友人関係 →
看護師
2.05 (1.44-2.92)
1.34 (0.93-1.91)
2.10 (1.48-2.99)
-
プライベート →
看護師
1.63 (1.15-2.32)
1.08 (0.76-1.54)
1.87 (1.32-2.65)
-
↔ マネジメント
-
-
-
0.97 (0.60-1.57)
看護師
看護師
↔ パートナー
-
-
-
0.78 (0.51-1.19)
看護師
↔
母親
-
-
-
0.81 (0.53-1.25)
看護師
↔
子(娘)
-
-
-
0.74 (0.49-1.12)
看護師
↔
友人関係
-
-
-
0.71 (0.47-1.06)
看護師
↔ プライベート
-
-
-
0.93 (0.62-1.40)
GHQ-12(高健康群0~1点、統制群2~12点)を従属変数、多重役割マップ質問票の項目を独立変数とし、「家族からのサポート」と
「役職」を補正したLRAの結果(調整済ORと95%CI)を提示。有意な関連性(5%水準に相当)は網掛けで提示。
3.結果
多重役割マップ(質問票版)の項目を独立変数、
要かもしれない。本研究の結果では、子(娘)役割と看
GHQ-12 得点を従属変数とするロジスティック回帰分析
比較的強く関連していたため、働きながら親孝行でき
(LRA)を実施した。GHQ-12 得点は第 1 四分位を基準
る職場環境の整備なども効果的かもしれない。
として高健康群(0~1 点)と統制群(2~12 点)の二区分
変数に置き換えた。PSP、NSP、補償の得点も二区分変
数とした(0:回答(4)~(5)、1:回答(1)~(3))。分離の得
点は PSP、NSP、補償の全てに(5)と回答した場合に 1 点
とした(0:分離なし、1:分離あり)。「家族からのサポート
(1:非常に(1)~多少(3)、2:全くない(4))」と「役職(1:な
し、2:あり)」の変数はχ2 検定において GHQ-12 との関
連が示唆されたため補正した(p<0.001)。以上の変数を
使用した LRA の結果は表 2 に示した通りである。
4.考察
多重役割をこなしながら健康的に働き続ける看護師
(GHQ-12 得点が 0~1 点の者)は、NSP と分離よりも
PSP と補償によって特徴づけられる可能性が示唆され
た。PSP の結果は、看護師役割が他の役割にもたらす
恩恵と、他の役割が看護師役割にもたらす恩恵を振り
返り共有する機会を設けることで、職場の精神的健康
度を高く維持できる可能性を示唆した。看護師役割や
その他の役割で生じたネガティブなイベントをどのよう
に乗り越えたかという“補償”のエピソードを掘り下げる
ことも、看護師のキャリアを逞しく邁進していく上では重
護師役割の間で生じる PSP と補償が精神的健康度と
【引用文献】
1. Yamada Y, Hochi Y, Mizuno M.「Key points of procedures
of Multiple Role Map program toward Japanese nurses:
Differentiation between individual and group approaches」,
『New Ergonomics Perspective』, Ed. Sakae Yamamoto,
2015, 177-80. CRC Press, London.
2. Yamada Y, Kinooka Y, Ebara T, Mizuno M, Hirosawa M,
Kamijima M. 「 Descriptive evidence of the work-family
compensation among Japanese midwives: Using the
Multiple Role Map program」,『Advances in Social and
Organizational Factors』, Ed. Peter Vink, 2014, 420-4.
CRC Press, London.
3. Goldberg DP, Hiller VF. “A scaled version of the General
Health Questionnaire”, Psychol. Med., 9, 1979, 139-145.
【謝辞】
本研究は JSPS 科研費「“子育てしながらでも働け
る!”という意欲を喚起する多重役割マップ看護師版
の開発(No.24700779)」の助成を受けたものです。
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<< 連絡先 >>
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山田泰行(Yasuyuki YAMADA, Ph. D.)
順天堂大学 スポーツ健康科学部 (同大学院) 助教
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(内線 354)
FAX 0476-98-1011㈹
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-7
ヒトの一側優位性:質問紙法を用いた運動行動研究における誤差の検討
○松村秋芳 1)、中村好宏 2)、竹内京子 3)、真家和生 4)、樋口桂 5)、岡田守彦 6)
1)防衛医大生物学科, 2)防衛医大数学科, 3)平成帝京大学ヒューマンケア,
4)大妻女子大学博物館, 5)文京学院大学解剖, 6)筑波大学
1.はじめに
かが全体の結果に影響している可能性が指摘された。
発表者らはこれまでに、質問紙調査法による比較
実際の一側優位性の有無が結果に適切に反映される
分析によって、上肢と下肢における一側優位性と機
ためには、アンケート調査時に前もって軸足について
能分化について、運動・動作の適応、性差、運動種
の定義説明を行い、共通認識を持つ必要がある。一
目の違い等に注目して検討してきた。その結果、サ
連の調査では、「軸足はバスケットボールでピボットを
ッカー選手では上下肢の間に機能分化が生じてい
行うときに動かさない足」と定義説明した。このとき、実
ること、運動適応や男女で機能分化の度合いに違い
質的な軸足と見なされる「片足立ちの時に体を支える
が観測されるなど、いくつかの知見を得ることがで
足」と利き足と見なされる「ボールを蹴る足」、あるいは
きた。
「走り幅跳びの踏切足」との相関は定義説明前よりも明
これらの結果は運動経験に関連した一定の傾向
らかに低くなることが確認された。また、以上のような配
を示す一方で、主観的な判断が関与した誤差が含ま
慮の下において、利き足と軸足との相関関係は運動
れている可能性が残されている。今回は質問紙法に
未経験群が運動経験群よりも大きい傾向が認められ
よって得られた結果が左右の機能分化を適切に反
た。
映しているかどうかについて確認検討した。
3-2.被検査集団の大きさ
質問紙法では、行動の画像分析や生理学的分析に
2.方法
よる手法に比べて、より多くの個体のデータを集めるこ
質問紙調査法を用いて、上肢、下肢、頭部の運動
とができる。被検集団の大きさは 20 から 200 の間で類
動作、計 30 項目に関する一側優位性の度合いにつ
似した傾向が認められた。これまでの結果は、数十か
いて、11 段階評価による結果を得た(被検査者 1000
ら百のオーダーの被検者数で運動行動に関する一定
名以上)。これをもとにして、これまでに行ってき
の情報が得られることを示している。
た一側優位性に関する研究の分析結果を総合的に
3-3.質問項目の数
互いに類似した質問項目は複数行う必要はないの
比較検討した。
で整理すべきとの考え方がある。しかし、利き手を判断
3.結果と考察
するときに「鉛筆を持つ手」、「箸を持つ手」、「ドアノブ
3-1.従来の研究の検討
運動や体性感覚に関連したアンケート調査は客
観的計測では得られない情報を引き出せる可能性
が期待できる反面、質問項目に対する個人個人の誤
差が生ずる可能性がある。このような誤差を最小限
を持つ手」など複数を問うことに明らかなメリットがある。
異なる動作について問うことによって、手指の細かい
作業、大まかな作業、文化の影響を受ける作業などの
比較が可能となる。
にする配慮が必要である。そのために適切な質問項
目の設定、被検者に質問内容を徹底することが重要
と思われる。
複数のデータセットから同様の結果が得られる
かどうかの検討も必要である。これまでの調査では、
同様の傾向が複数のデータセットから得られてお
り、このことは、一連の一側優位性に関する質問紙
法の安定性の高さを示している。
3-2.軸足に関する理解の基準
これまでの研究の過程で、調査対象者、特に運動未
経験群が軸足に関して適切な認識を持っているか否
------------
<< 連絡先 >>
松村秋芳
防衛医科大学校 生物学科
〒359-8513 所沢市並木 3-2
電話 04-2995-1424
FAX: 04-2996-5219
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-8
通信教育大学生の疲労パターンにおける休憩効果の検討
○松田文子 1)2)、宇賀神博 2)
1)公益財団法人労働科学研究所, 2)武蔵野大学
1.はじめに
主な例として「労働時間に占める休憩(大休憩)時間
通信教育で学ぶ大学生は、その職業や年齢も多種
の割合」の効果について述べる。個々の総活動時間
多様である。筆者らは、2005 年度から 2014 年度の 10
の長短にも依存することを考慮し、活動時間の分布か
年間に渡り、担当した通信教育科目「人間生活工学」
ら、8 時間未満の短時間、12 時間以上の長時間活動
において、受講者が提出するレポートの1つとして「自
の例を除いた。分析対象は 301 名、内訳は休憩時間
覚症しらべ」(日本産業衛生学会産業疲労研究会撰,
割合が「5%未満」14 名、「5%以上 10%未満」123 名、
2002)を用いて、「自分自身の疲労の測定をし、その様
「10%以上 15%未満」119 名、「15%以上 20%未満」22 名、
態をまとめる」課題を課してきた。受講者個々という単
「20%以上 25%未満」12 名、「25%以上」11 名であった。
位でみると、「ある人のある 1 日の行動に伴う疲労測定
「ねむけ感」は、休憩後が休憩前に比べ、スコアが上
の結果」に過ぎないが、10 年間の測定結果を積み上
昇する傾向を示す層が多かったが、「15%以上 20%未
げることによって、通常の用法で業種や職場、年代等
満」の層ではスコアが下降し、回復の効果がみられた。
の違いを見出し検討する“以外”の、何らかの傾向を見
「25%以上」の層では、始業時から終業時にかけて、
出すことができないかと考え、本研究に着手した。本稿
一度も下降することなく上昇することが分かった。「不
では、休憩時間の長短に着目し、疲労自覚症の結果
安定感」「不快感」は、「ねむけ感」に近い傾向は見ら
が示す関連について分析を試みた結果を報告する。
れるものの、「ねむけ感」に比べると、どの層においても
測定時点間のスコアの高低差は少なかった。「だるさ
2.方法
2005 年度から 2014 年度での通信教育受講の大学
生 628 名(女性 543 名、男性 84 名、不明 1 名。平均年
齢 38.7±7.8 歳)から提出された課題レポートより、「測
定日」「年齢」「性別」「職業」、「自覚症しらべ」による測
定結果の内、「仕事開始直前、大休憩開始直後、大休
憩終了直前、仕事終了直後の 4 時点の記録」を抽出し
た。自覚症しらべの測定結果とは、25 個の質問項目を
5つの群(ねむけ感、不安定感、不快感、だるさ感、ぼ
やけ感)に分け、スコア平均を算出したものである。
倫理的配慮として、何らかの疑問がある場合、担当
者(筆者ら)に質問ができる体制を整え、データ使用に
関し、教育研究目的以外に使用しないこと、個人特定
できる形で開示しないことを説明した。
が下降したが、「だるさ感」では「5%未満」と「20%以上
25%未満」の層が、「ぼやけ感」では「25%以上」の層が、
始業時から終業時にかけて、一度も下降することなく
上昇することが分かった。
以上の結果から、休憩時間が極端に短い場合や長
い場合では、疲労が回復しないまま仕事を続けている
傾向が見られた。また「15%以上 20%未満」の層は、相
対的に見て、疲労の程度は低めで、「N 字」を描く(始
業時にスコアが低く、仕事をする中でスコアが上昇し、
休憩後に下降し終業にかけて上昇する)傾向があると
いう、特有のパターンを見出すことができた。
4.まとめ
今回の分析によって、同一業種や同一職場といった
3.結果および考察
「測定日」「年齢」等が不明でデータセットに欠陥があ
るもの、4 時点の測定が課題の指定する観点に立って
記述されていないもの(例:休憩中にも、実質的に仕事
をしているもの等)を分析の対象から除外した。また、
男性と女性のデータ数に偏りがみられたこと、少数例
ではあるものの夜勤などが含まれていたことから、今回
は、女性の日勤帯のデータのみに絞って分析した。
分析は「年齢」「職業」「測定した曜日」および「労働
時間」「休憩時間」「労働時間に占める休憩時間」の長
短を属性にして疲労程度の傾向の違いを検討した。
感」「ぼやけ感」は、ほとんどの層で休憩によってスコア
共通性を持たない、多様な属性を対象としたデータの
集合体であっても、休憩時間の長短と疲労自覚症の
有訴傾向の間に有意義な関連性があることを見出すこ
とができた。引き続き、他の要因についても分析を進め、
様々な疲労のパターンを見出していきたい。
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<< 連絡先 >>
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松田文子
公益財団法人 労働科学研究所
〒216-8501 川崎市宮前区菅生 2-8-14
電話 044-977-2121
FAX 044-976-8659
E-mail: [email protected]
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-9
雇用創出に向けた作業改善および健康管理システムの構築
○水野有希 1)、芳地泰幸 2)、茂木伸之 3)
1)東洋学園大学,
2)聖カタリナ大学, 3)公益財団法人労働科学研究所
(自覚症しらべおよび身体疲労部位)、歩数、ヒアリン
1.はじめに
近年、先進国における少子高齢化は労働力人口の
グとし、質問紙と歩数は 1 日 6 回実施・計測した。
不足を招き、わが国では既に平成 10 年から 15~64
現状の問題点抽出を行い、問題解決のための改善
歳の労働力人口が減少に転じ、今後も出生数の減少
案を検討した。作業改善として支援機器を試作し、作
による若年労働力の減少と、高齢者の引退の増加によ
業者と一緒に試作機の改良を重ねた。支援機器の導
って、労働力人口は高齢化しながら、減少していくこと
入後、効果測定を実施した。
が予想されている。とりわけ、団塊世代の大量退職を迎
2-3.健康支援テスト
え、産業現場における労働力の確保が深刻な問題とな
対象工場で必要なテストの項目を選定し、オリジナル
っている。より多くの人が社会を支えるという観点から、
の健康支援テストを作成して健康に関する定義を定め
若者、女性、高齢者、障害者を含め、働くことを希望する
た。テスト内容は、現場の作業者にヒアリングをし、回
すべての人が就業参加を実現することが望まれている。
答しにくいものや不安全であるものは検討を重ね、全
多くの企業では、定年到達者の継続雇用や定年の
社員が継続的に実施できる内容に改良した。
引き上げなどにより、労働力確保の対策を講じており、
健康支援テストは 2 回実施(8 月、2 月)し、テスト結果
本研究における調査対象の企業では、平成 11 年に高
を個人で管理できるよう、「カルテ」を作成した。また、1 回
齢者を活用する方針を取り入れ、定年 60 歳以後、希
目のテスト後、健康支援のための講習会を開催した。
望者全員 65 歳まで働ける制度を導入した。しかし、一
部の工程では、部品が重いということに加え、取扱のス
ピードが要求され、力のある若手男性作業者しか耐え
られない状況になっており、高齢者も雇用できる部品
の加工作業の創出が求められていた。加えて、塗装作
業や塗装補助作業などは高齢者が中心となっている
ものの、重量のある製品を取り扱う際の事故の危険性
や作業者自身の健康不安の訴えなどがあり、高齢者
の継続雇用に関する問題を抱えていた。
本研究では、対象企業の作業負担や健康における
現状の問題点を洗い出し、雇用創出に向けた健康で
安全に働ける職場づくりを目指し、作業改善および健康
管理システムの構築を実施した。
2.方法
2-1.調査対象
対象作業は、鋳物部品の曲げ加工工程および塗装工
程をとし、作業負担調査では、曲げ加工工程を専属で行
っている若中年作業者2 名(新人作業者 30 歳、熟練作業
3.結果および考察
3-1.作業改善
1)現状における作業負担調査
扱うペースの重量が 10kg から 30kg を超えるものまで
あり、人力でその部品をプレス機まで移動させ、水平
回転や垂直回転させるなど、加工終了まで何度もペー
スの持ち上げが発生していた(図1)。腕や肩などの上
肢、腰への負担が非常に高い作業であるといえる(図
2)。また、ベースをプレス機に置いた際の位置決めや、
曲げ角度の確認などは、経験とコツが必要な作業であ
り、新人と熟練では時間時間に大きな開きがあった。
塗装工程では、20kg を超える製品はフォークリフトを
用いて塗装を行っており、フォークリフト周りで数名の作
業員が補助的な作業を行い、大きく前傾しそれを維持
しながら作業を進めていた。また、フォークリフトを使うた
め、安全面の問題や操作できる作業者が限られているこ
と、突発的な生産に対応できないなど、作業者の不安感
や新たな雇用創出ができない問題も発生していた。
2)負担軽減のための改善施策
者 40 歳)、塗装工程の高年齢作業者 2 名(50 歳,58 歳)
曲げ加工工程では、人力によるベースの持ち上げ・
とした。健康支援テストでは、全社員対象に実施した。な
お、調査期間は 2011 年 5 月~2012 年 3 月であった。
2-2.作業負担調査
調査項目の洗い出しを行うため、事前に 3 日間、自覚
症しらべを 1 日 4 回実施し、健康状態の把握も行った。
調査項目は、タイムスタディ、表面筋電図、質問紙
図1 作業風景(左図:曲げ加工工程、右図:塗装工程)
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
回転の減少させる工夫と位置決めや寸法確認が容易
ら各年代の目標となる数値が予測可能となるためであ
にできるようなプレス機、昇降可能な荷台などの支援
る。高齢者の負担や計測の容易性、作業内容を考慮
装置を導入した。操作ボタンは安全面を配慮した。
し、柔軟性、持続力、危険予知力、体力、コミュニケー
塗装工程では、フォークリフトは使わず、誰もが簡単
ション能力等を対象工場が必要とする健康と定義とし
にできるクレーンを導入し、スイッチの位置やマニュア
た(表1)。危険予知では、帽子にドライブレコーダーを
ル作成には現場と一緒に検討し、クレーンの形状の変
装着して実際の作業を撮影したが、画像が鮮明では
更や塗装液の垂れを防ぐ荷台などを新たに導入した。
なかったため、作業風景を撮影したものを採用した。
3)作業改善の効果
2)健康支援テストの評価とフィードバック
改善策導入後に効果測定を実施した。上肢や腰部
テスト実施後の評価は、実年齢で評価するのではなく、
への負担の軽減、安全面の確保、効率化などが数量
作業者が当該作業を行う上で“健康である”と判断される
的なデータやヒアリングなどからも明らかになった。とり
数値を年齢ごとに設定(健康年齢)した。作業ごとにテスト
わけ、身体的な負担の軽減は高齢作業者だけでなく、
結果を集計し、文科省のデータがあるものはそれに準じ
若中年層の作業者の当該作業の精神的不安や継続
て評価し、日常生活活動テストは「65 歳から 79 歳」が対象
的に行うことへの健康不安を取り除くことができた。こ
であり、それ以前の年齢のデータは予測して評価した。
れは、当該作業の雇用継続につながり、加えて中途採
テストの結果では「カンコツ」や「手の器用さ」は年齢
用などの熟練ではない高齢作業者の雇用も期待でき
による差は見られなかったものの、「危険予知力」では
る。また、支援機器の試作に現場で働く作業者の意見
自社の問題点を指摘するような出題内容であったため、
を多く取り入れたことにより、安全や改善に対する意識
解答することに抵抗を感じる者が多く、出題方法の検
の向上も見られ、支援機器導入後も作業台の高さやボ
討が必要となった。テストの結果は講習会を開催して
タン操作の新たな問題など、さまざまな意見があがっ
フィードバックし、作業工程ごとの健康問題を理解して
た。今回の支援装置導入により、作業者自身が高齢に
もらい、健康維持のための体操を取り入れた。
なっても働けると感じており、定年退職後の雇用延長
3)健康管理システムの導入
や雇用創出などの意識が高まる相乗効果が伺えた。
作業者個人がテスト結果や健康維持対策を確認でき
る「カルテ」を作成し、「健康年齢」の把握や作業工程
ごとに求められる「健康」を一覧できるシステムを構築し
た。一人ひとりが健康を意識してもらうように、カルテは
いつでも閲覧できるようにした。とりわけ、高齢作業者
には、始業前に健康状態を記録するチェックシートに
記入させ、意識的に健康体操を取り入れさせるようにし、
健康維持に繋げた。
3-2.健康管理システム
1)テスト項目の選定
テスト項目を文部科学省の「新体力テスト」を参考に
した。これは、公的なデータを取り入れることにより、オ
リジナルの健康支援テストの信頼性や過去のデータか
4.まとめ
作業の問題点を洗い出し、作業改善および健康管理
システムを導入した。一部の作業者しか行うことができな
かった作業工程は、支援装置の導入により当該作業を
行える対象者が増え、職域拡大に繋がった。健康管理
図2 自覚症しらべ、筋電図の比較(曲げ加工工程)
システムの導入により、現行は希望者全員 65 歳までの
制度であったが、希望者全員 70 歳までの雇用を検討す
ることとなった。また、高齢者の継続雇用を
表1 健康診断テスト項目
受け入れる職場が拡大できることにより、他
新体力テスト(平成10年~)
健康診断テスト
項目 テスト項目
方法
①日常生活
日常生活活動テスト
20~64歳 65~79歳
日常生活活動テスト
〇
握力
〇
〇
②バランス感覚
開眼片足立ち
上体起こし
〇
〇
③握力
握力
長座体前屈
〇
〇
④柔軟性
長座体前屈
立ち幅跳び
〇
⑤カンコツを使う
輪投げ⇒ボール投げ
反復横跳び
〇
⑥持続力と器用さ
ねじ締め
⑦危険予知力
ドライブレコーダ活用⇒KYシート
⑧コミュニケーション力
検定テスト⇒アンケート
開眼片足立ち
急歩または20mシャトルラン
〇
〇 10m走障害歩行
〇
6分間歩行
〇
- 68 -
データ
部門への水平展開を施し、全社的に高齢者
文科省の
体力テスト
データを
活用
自身が意欲と体力に合わせ、年齢に関わら
対象工場
独自の
データを
作成
ず働ける職場の創造への足掛かりとなった。
---------- << 連絡先 >> ---------水野有希
東洋学園大学 教養教育センタ
〒270-0161 千葉県流山市鰭ケ崎 1660
電話 04-7150-3001 (代) FAX 04-7150-3345
E-mail: [email protected]
人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
P-10
メンタルヘルスに役立つ『職場ドック』の実践
○竹内由利子・酒井一博・小木和孝・池上徹・松田文子 1)、吉川悦子 2)、武澤千尋 3)、佐野友美 4)、吉川徹 5)
1)公益財団法人労働科学研究所, 2)東京有明医療大学, 3)北海道赤十字看護大学,
4)帝京大学大学院公衆衛生, 5)独立行政法人労働安全衛生総合研究所
1.はじめに
④良い点・改善点の討議
メンタルヘルス不調予防のためには、実効性のある
⑤フォローアップのしくみ
職場環境改善進めていくことが必要との認識が広まっ
『職場ドック』を進めるうえで重要なことは、「改善」に
ている。このような時流の中、2014年6月に公布され
ついて特別な知識や技能を持たなくても、誰もが参加し
た労働安全衛生法の一部を改正する法律により、新た
実施できるところにある。それは、労働者自身が職場の
に設けられた「ストレスチェック制度」の具体的な内容
働きやすさを実現している良い点、改善したらもっと良く
や運用方法を定めた省令が公布され、告示、指針(心
なる点も知っているからである。しかし、良い点を認め合
理的な負担の程度を把握するための検査および面接
い、その事例のシェアや具体的な改善のアイディアや優
指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が
先順位づけなど、どのように整理しながら進めていくかな
講ずべき措置に関する指針)が公表された。「ストレス
どは、事業計画の中での位置づけ、スケジュール、チェ
チェック制度」とは、労働者に対して行う心理的な負担
ックリストをはじめとした各種ツールを準備し活用する。
の程度を把握するための検査(ストレスチェック)や、検
2-2.計画・実施
査結果に基づく医師による面接指導の実施などを事
(1)計画
業者に義務付ける制度(従業員数 50 人未満の事業場
『職場ドック』は、経営方針、経営戦略の一つとして
は制度の実施後、当分の間努力義務)であり、2015 年
事業場のトップが、この『職場ドック』の位置づけ、意味
12 月より実施されるが、新しいメンタルヘルス対策とし
づけ、皆で取り組もうという姿勢を明確に表明すること
て注目されている。この法令改正によって、事業主は、
が重要である。
年間の取り組みスケジュールは以下の点に留意し、
事業場の責務として行う「ストレスチェック制度」を通じ
て、労働者の集団のストレス状況を把握し、それに基
事業計画とともに作成する。
づいて職場環境の改善を行う仕組みづくりに各職場で
①年間を通じたスケジュールの作成
取り組む必要がある。
②役割分担の明確化
③PDCAサイクルを組み込む
労働科学研究所では、このような取り組みを国内外
様々な業種・業態で長く提案・指導し、特にこの数年は
(2)事前準備
『職場ドック』は、職場の仲間同士ですぐできる改善
公務職場を中心に『職場ドック』活動として支援している。
『職場ドック』活動は、この職場環境改善をすすめる効
を参加者の合意で進めていくこと、つまり、話し合い、
果的な仕組みとして、その有効性が確かめられている。
理解し合う過程が重要である。
しかし、「さあ、話し合おう」と時間と場所の設定さえ
2.方法
すれば良いのではなく、忙しい業務の間隙をぬって確
2-1.『職場ドック』がとりあげる一次予防策
『職場ドック』は、ストレスが少なく、働きやすい職場づ
くりを目指して、労使が協力しながら、自分たちの職場
環境の改善を自分たち自身ですすめていく労働者参
加型職場環境改善プログラムである。特に、メンタルヘ
ルス対策の中では一次予防を推進する取り組みとなる。
『職場ドック』が職場のメンタルヘルス一次予防策と
して確かな効果を生むためには、次の点に配慮する必
要がある。
①良好事例に着目
②各種ツールを活用
③グループワーク
保した貴重な時間を効率的で有意義に活用するため
にも、各自で自分の職場を振り返ることのできるチェッ
クリストや、考えや意見をまとめやすいようなワークシー
トなど、職場に合った各種ツールを準備する。
職場は業種、業態でも大きく異なるため、ツールは
その職場に合ったものを十分に検討して準備する。似
たような職場はあっても実情は異なるため、現地(=そ
の業種・業態、職場)に合わせてカスタマイズした、現
地適合型ツールが必要となる。これは、現地の良好事
例を反映して、十分実施可能な知恵を出し合うことが
できるように整える。これらの各種ツールは、例えば
「職場ドックマニュアル」としてまとめるとわかりやすい。
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人類働態学会 第50回全国大会号 2015年6月20,21日
(3)実施
3.考察
職場単位で推進担当者(リーダー)を置いて進めると
2015年現在、『職場ドック』の名称を使った本取り組
やりやすい。リーダーは「職場ドックマニュアル」をもと
みは、職場ドックの名称が生まれた高知県をはじめ、
に各職場への周知とグループワーク開催の準備をす
北海道、京都府といった自治体だけでなく、国家公務
るが、参加者のひとりでもあるので、教師ではなく活発
員、特殊な公務職場やさまざまな企業などに広がり、
な議論を促す助言者として位置づける。大きな事業体
各職場の特徴に合わせたメンタルヘルス対策のひとつ
の場合は、全体で取り組む前段階として、一足先に
として展開されている。また、職場ドックの名称は用い
『職場ドック』を体験し、全体の流れや各職場での取り
なくとも、メンタルヘルス向上をねらいとした同様の参
組みのポイントを学ぶリーダー研修会の機会を設ける
加型職場環境改善に取り組む職場も多い。
こともある。
『職場ドック』は職業性ストレスに関連する多領域の
実施の際の各職場のステップと力点を図1に示す。
要因(心理社会要因を含む)に注目し、一見難しそうに
職場検討会で実施するグループワークを成功させる
みえる職場環境や働き方の改善手法を、産業保健ス
ための準備として、『職場ドック』の趣旨と手順を理解し、
タッフ目線のアプローチで容易化したところに大きな特
参加者が自身の職場について事前に意見を整理する
徴がある。
個人ワークをしておくとスムーズに進む。
グループワークは少人数(最大で5名程度)のグルー
プごとに意見交換をする。活発な意見交換のコツは、
抱える課題や弱みから始めるよりも、参加者や職場で
の成果や強み、すなわち、良い点から討議し、それか
ら改善点を討議していくポジティブな思考である。視点
を幅広く持ち、良いところを認め合い、すぐできることを
目標に、安全、健康と業務に役立つ改善、成果が分か
りやすく、仲間で共有できることがポイントである。
「改善計画書」を年間スケジュール内の一定期日ま
でに提出することで、参加職場の合意成立を確認する
ことができる。改善計画書の提出から2~3か月後の期
限までに改善を実施し、その成果を「改善報告書」にま
とめ提出する。改善前後を写真で記録することも、その
ステップ1
ステップ2
2014年6月に公布された労働安全衛生法の一部を
改正する法律でストレスチェック制度が創設されてから、
義務化の対象となる事業体を中心に、実施をめぐる対
応が急務の課題となっていたが、本年、5月7日に、厚
生労働省(労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保
健支援室)より、「労働安全衛生法に基づくストレスチェ
ック制度実施マニュアル」が公開された。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzenei
(4)改善計画の作成から報告書提出
後の情報共有と水平展開に大きく貢献する。
4.おわりに
sei12/pdf/150507-1.pdf
この中で、『職場ドック』 は良好事例として掲載(97
頁)され、京都府での取り組みも掲載(99頁)されてい
る。これは、『職場ドック』がストレスチェックの結果をモ
ニタリングと位置づけ、むしろ改善への取り組みを容易
化することに力点を置くことから、現場の労働者が具体
的に自分たちの職場の職業性ストレ
マニュアル配布による事前準備
・職場ドックチェックリストの個人記入
[実施例]
ス(心理社会的要因を含む)を個人で
推進者による配
布と記入依頼
も、組織としてもリスクマネジメントする
職場検討会(グループワーク)
ステップ3
場を提供し活用できることを担保して
いる。
・職場の良好事例から学ぶ
・職場環境を広くとらえて話し合う
・職場で実施可能な改善策を提案
60分~90分
で自由に討議
今後の課題として、ツールの工夫や
現場の規模やニーズに合わせた支援
の在り方、ネットワーキングなどがあげ
改善計画の作成
ステップ4
られるが、業界団体、行政、専門家グ
・すぐ実施する改善にしぼり込み
・具体的な内容の「改善計画書」提出
検討会後に早め
に提出
ループなどを通じ、ますますの広がり
と進化・深化をすすめたい。
改善計画の実施
2~3ケ月の期
限内に実施
改善報告書の提出
ステップ5
・改善の成果と写真も
・良かった点をまとめる
・報告会等で情報共有
報告期日までに
図1 各職場のステップと力点
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竹内由利子
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