先輩医師からのメッセージ!特別編

海外留学近況報告
Esophageal Diseases Center & Department of Internal Medicine,
Veterans Affairs (VA) North Texas Health Care System and the University of Texas (UT)
Southwestern Medical Center, Dallas, Texas, USA
玉 川 祐 司 はじめに
2013 年 8 月下旬に家族と共に出雲からアメリカへ慌しく旅立ったことがはるか昔の
出来事に感じられるようになってきました。留学前の出向先であった島大病院救命救
急センターや出身医局である内科学講座第二の上部消化管疾患研究グループの皆様に
送別会をしていただいた時には、こんなに素晴らしい仲間がたくさんいる出雲から本
当に離れたくないと思ったことを懐かしく思い出します。
当時からあまり変わらないと思われる厳しい県内医療や医局事情を考えると、私の
ような不出来な者を快く海外へ送り出してくれた木下芳一教授をはじめとする医局ス
タッフの皆様方には本当に感謝しております。
現 在、 私 は 米 国 テ キ サ ス 州 ダ ラ ス に あ る University of Texas Southwestern Medical
Center で実験に明け暮れる日々を過ごしています。私が所属するラボである Esophageal
Diseases Center は GERD や Barrett 食道などの酸関連食道疾患における世界的権威でも
ある Stuart J. Spechler 教授と Rhonda F. Souza 教授によって主宰され、私の PI (principal
investigator) である David H. Wang 先生は消化器内科医および腫瘍内科医でありながら、
当該分野を牽引する新進気鋭の研究者の 1 人でもあります。ラボの研究分野は専門で
ある Barrett 食道や食道腺癌の基礎研究に限らず、好酸球性食道炎や食道腺癌に対する
標的治療などの臨床研究と多岐に渡っています。私の海外研究留学生活も 1 年 10 ヵ月
が経過し、3 年間の留学予定も折り返し地点を過ぎて、
残り 1 年余りとなっています
(2015
年 7 月現在)。
“ エボラ出血熱 ” 騒動も沈静化
昨年 9 月下旬にダラスの知名度を一気に押し上げる大事件がありました。皆様も御
存知かと思いますが、米国初のエボラ出血熱感染例がダラスで確認され、その治療に
従事した看護師 2 名も更に感染しました。私が住む Dallas/Fort Worth (DFW) 地区周辺は、
間違った情報や噂によってかなり騒然となりましたが、実際のところ、当時話題となっ
た病院は居住地やラボからかなり離れたところにあり、基本的にエボラウイルスが空
気感染しないこともわかっていたので、留学先のラボではあまりその話題にもならず、
何事も無かったかのように淡々と仕事をしていました。後述もするのですが、
中には
「ダ
ラスで交通事故に遭遇するより、感染する方が遥かに難しい!」と豪語された方もい
− 39 −
るくらいでした…(汗)
。
結果として、街中では Halloween や Thanksgiving のイベントで例年より人出が減った
という風評被害もあったようですが、経時的にその騒ぎも沈静化し、今では何事も無
かったような状態です。当時、日本から安否を気遣うメッセージやメールも多くいた
だき、とても心強かったです。この場を御借りして厚く御礼申し上げます。
アメリカでの日常生活について
昨年度に引き続いて近況報告の機会をいただきましたので、アメリカでの日常生活に
ついて触れたいと思います。こちらでは臨床と教育にはほとんど携わっておらず、研
究だけに専念しており、日本で毎日忙しくされている同門の皆様方には大変申し訳あ
りませんが、業務時間は週 5 日午前 9 時から午後 5 時までの ON-OFF がはっきりした
生活をしています。恥ずかしながら日本では、妻や子供達を顧みる余裕もほとんど無
かったので、海外留学は確実に私の人生観も含めて人間性を大きく変えるターニング
ポイントになっていると自己分析しています。また、前述のようにこちらでの研究も
非常に多岐に及んでおり、帰国後も継続できる研究内容を常に意識しながら取り組ん
でいます。研究以外にも異国文化や自然を体験できる海外生活もとても刺激的なので、
9 個のキーワードをピックアップして紹介しようと思います。
(1) 言語(英語)
アメリカの法律で公用語は英語であると正式には定まっていませんが、一般的に英
語を第一言語とする人が多いです。特にテキサス州のあるアメリカ南部ではメキシコ
からの移民も多いので、スペイン語を第一言語として生活している人もいます。アジ
ア系民族では世界人口比そのままで、①中国、②インド出身の方が断トツで多いです。
私の印象としては、日本人より韓国人でアメリカへ来ている人が多いです。そのため、
日本人は中国語やハングルで話しかけられることも多く、私の失敗談でもありますが、
MLB の試合を観戦した時に地元放送局 FOX4 の記者に韓国人と間違えられてテキサス
レンジャーズの秋信守 (Shin-Soo Choo) 選手の事を聞かれた時に、
「イチロー選手や青木
宣親選手の方がはるかに優れていて、秋選手はそんなにたいしたことない。
」と答えて
しまい、記者の方に怒られたことがあります。アメリカへ来てもうすぐで 2 年になり
ますが、劇的に英会話が上手になったわけでもなく、英語を使わないと生きていけな
いので、使わざるを得ないという感じです。また、留学先のテキサス大学、教会、コ
ミニティセンターなどで English as second language (ESL) と言われる英語を第二言語と
する人達の英会話教室もよく行なわれ、参加もしていますが、なかなか自分の適性ク
ラスと巡り合うのも難しいというのが現状です。
(2) 税金(消費税や所得税)
日本では消費税が段階的に 5% → 8% → 10% へと引き上げられると聞いていますが、
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アメリカでは州によって異なり、テキサス州では 6.25%(都市や地区によっては 8.25%
のところもあり)で、中には消費税自体が存在しない州(オレゴン州、モンタナ州など)
もあります。日本のように何でも一律に課税されるというわけでは無く、テキサス州
では食料品、調理品、衣服はほとんど免税となるので、日常の買い物で消費税をとら
れたという印象はほとんどありません。また、テキサス州は州税の中に所得税が無い 7
州の 1 つでもあります。そのため、テキサス州は『低い税金、低いサービス』の定評
もあるのですが、企業に対する極端な優遇政策(税金免除や起業基金支援)も行なっ
ているので、アメリカの名立たる企業の本社がテキサス州に多くあります(後述する
北米トヨタ本社の移転もその影響です)
。
(3) 衣服(衣)
衣服に関しては、日本と質はあまり変わらないと思いますが、アメリカ人は体格が
しっかりしているので、大きいサイズのものが多いです。テキサス州では洗濯物を外
へ干すのは違法となっており、部屋干しをするか、乾燥機を使います。特に、T シャツ
は乾燥機でよく縮むので、あえて大きめのサイズを買うようにしています。自宅の玄
関に備え付けの洗濯機と乾燥機はとても大きく昼夜問わずにガンガン回せる優れもの
です。また、アメリカではユニクロのヒートテックのようなインナーがなかなか手に
入らないので、時折、日本から送ってもらって重宝しています。どうやら、ユニクロ
がテキサスへ進出するのはまだまだ先の話のようです。
(4) 食事(食)
「アメリカ生活だと…、食事も高カロリーだし、日本食も食べたくなるでしょ?」と
日本の友人によく聞かれますが、実を言いますと、日本にいた時とほとんど変わらな
い食生活を毎日しています。DFW 近郊に日本人が約 3000 人住んでいると言われていま
すが、中国人、インド人、韓国人などのアジア民族も比較的多く住んでおり、アジア
系スーパーも乱立しています。特に全米の主要な州に展開されている『H Mart』という
韓国系スーパーの支店が DFW 近郊に 2 店もあり、そこで日本の食料品も普通に購入で
きる為、日本と同じような食生活ができています(図 1)。やっぱり納豆や明太子をア
ツアツ御飯(コシヒカリ)と一緒に食べられると幸せです。敢えて言うなら、内陸な
ので刺身の種類や質が若干落ちるのが難点です。ダラスは人口に対する飲食店の数が
全米ナンバー 1 でもあり、意外と日本料理店(定食屋、ラーメン屋、寿司屋、居酒屋
など)も多くありますが、その当たり外れは結構極端です…。
また、2016 年以降に北米トヨタの本社機能がダラス郊外プレーノへ集約移転すること
が決まっており、その関連企業や日系企業が雪崩を打ってダラス近郊へ移転するような
ので、DFW の在留邦人が更に増えると言われています。それに伴って、100 円ショップ
で有名な『DAISO』や日系スーパーの『Mitsuwa』の進出も大きく噂されています。まさに、
今後のアメリカにおける日本人のビジネススポットは DFW なのかもしれません。
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図 1 スーパーマーケットが豊富にあり、食生活は豊かです
韓国系スーパーである
『H Mart』
の外観
(写真左上)
と内装
(写真左下)
。
ダラスの在留邦人家庭の食生活を支えています。
その他にもアメリカ3大スーパーと言われるWalmart, Target, Krogerや日本で
も知名度の高い
『トレジョ』
こと、TRADER JOE Sもあります
(写真右上)
。
スーパーではありませんが、Costcoも日用品を揃えるのにとても便利です
(写真右下)
。
(5) 住居(住)
「アメリカで生活する為に、“ 衣食住 ” の何が一番大切か?」と日本の方によく聞か
れるのですが、私は自信を持って「“ 住 ” だ!」と答えます。アメリカでは地域の治安
と公立校の学区レベルが極めて高い正の相関にあります。『自由の国』と言われるアメ
リカですが、その格差社会は日本より遥かに激しく、富まざる者の子が高い水準の教
育を受けられるという環境では決してありません。ダラスを例にすると御子様のおら
れる在留邦人家族で治安の悪いダウンタウンに住んでいる御家庭は皆無です。我が家
もそうなのですが、在留邦人のほとんどがダラス郊外にあるコッペル、プレーノ、リ
チャードソン、ラスコリナス、キャロルトン、ファーマズブランチ、ルイスビル、フ
ラワーマウンド、アレンなどの治安が極めて良い北部郊外地区(学区レベルが 8 点以
上 /10 点満点)に居住しています。
家賃についてですが、アメリカ全土で地域によって相当差があるようです。ニューヨ
ークやボストンなどのニューイングランド地方はアパートの家賃が 25~30 万円すると
聞いたことがありますし、ロスやサンフランシスコなどの西海岸でも家賃が最低でも
20 万円はかかるようです。一方、ダラスは月に 10 万円くらいなのですが、前述の通り
に治安が悪いので、
それより更に 4~5 万円プラスとなるラスコリナスに住んでいます
(安
全な生活をお金で買っています)
。また、北米トヨタ本社の移転決定で、以前から日本
人に大人気のプレーノにはアパートも一軒家も空が無い状態のようです。
一般的に日本では『3LDK』などのように間取りが表現されますが、アメリカでは『2
− 42 −
ベッドルーム、2 バスルーム』という間取りのアパートに住んでいます。必ずリビング、
ダイニング、キッチンが含まれているので、アメリカでは LDK という表現はありませ
ん。私のアパートを日本流の表現に変換すると『2LDK』になるのですが、浴槽、シャ
ワー、トイレ、洗面シンクから成るバスルームが 2 つあり、さらに 4 畳半くらいのウ
ォークインクローゼットが 2 つとサンルームという書斎のような部屋も 1 つあるので、
正確には日本の 2LDK とは、間取りやその広さも似て非なるものだと思います。家族 5
人では広すぎるアメリカンサイズのアパートも、1 歳 3 ヵ月になった娘が所狭しと走り
回るには十分な広さで助かっています。もう 1 点、日本のアパートとの違いはリーシ
ングオフィスという管理事務所があり、電球交換、温水器・エアコンの故障などのメ
ンテナンスで困ったら、相談すれば無料ですぐに対応してくれますし、スポーツジム、
プール、会議室、パーティールーム、メディアセンター、BBQ 器具セットなども事務
所に併設されており、
充実した余暇をアパートにいながら過ごすことも可能です(図 2)
。
渡米当初、プール & 庭付きの一軒家もお得物件であったのですが、メンテナンス(プ
ールの掃除や庭の芝刈りなど)がとても大変だと聞いていたのであっさりと諦めま
した。
図 2 アパートに併設された施設も豊富です
私が住んでいるアパートの外観です(写真左上)。キッチンも使いやすい構造です(写真右上)。
スポーツジムは 24 時間いつでも使用可能(写真左下)で、アパートの敷地内にはプールが 2 つあり、5 月初旬から 10 月中
旬まで泳げます(写真右下)。
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(6) 自動車
渡米直後は、
『左ハンドル車で右側通行』になかなか馴染めなかったのですが、慣れ
というのは恐ろしいもので、今では帰国した時に『右ハンドル車で左側通行』できるか
どうか?がとても不安です。冗談はさておき、アメリカでは州によって運転免許が異
なり、テキサス州では免許取得のために学科と実技の試験が必須です。インターネッ
ト予約をし、学科試験(コンピューターを使った 4 択問題)
、実技試験(路上と縦列駐
車)を受けたのですが、日常生活レベルの英語が理解できれば、まずは落ちない程度
のものでした。日本と比べてかなり簡単な試験なので、
運転者のレベルが全体的に低く、
毎日の通勤で交通事故現場を通り過ぎなかった日は一度もありません。また、車線変
更や曲がる際に方向指示器を全く出さない人が大半なので、テキサス州では常に危険
予測レベルを MAX にして運転しないと簡単に交通事故に遭遇するかもしれません。よ
く考えると恐ろしい話なのですが、Highway 走行中に対向車線の車が急に横転して中央
分離帯を乗り越えて、私の目の前をアクション映画のように激しく通り過ぎて行った
こともあるくらいなので、どんなに自分が気をつけていても、当てられる時は当てら
れると痛感しました。
日米の交通ルールの違いとしては以下のものが挙げられます(図 3)
。①左ハンドル
右側通行(前述通り)
、②赤信号時の右折(一部を除いて、信号のある交差点では赤信
図 3 日米の交通ルールの違い
4-way stopは日本には無いアメリカらしいルールの1つです
(写真左上)
。
スクールバスとスクールゾーンには絶対的な優先権が
あります
(写真中央上と右上)
。アメリカではMPH表記です
(写真左下)
。テキサス州の一部だけに最高速度85MPHの道路があ
ります
(写真中央下)
。
− 44 −
号であっても右折可能)
、③ 4-way stop(日本には全く無いシステムで 4-way stop の交
差点では、全ての車は一旦停止し、到着した順番に交差点へ進入する。初めのうちは
自分が何番目かわからずにもたもたしてしまうのがオチ…)
、⑤踏切(踏切手前で一旦
停止をしてはいけません。追突されます)
、⑥スクールバス(絶対的優先権があり、バ
スが赤い回転灯を回して “STOP” サインを出して停車している時は、どんな時でも必ず
その場で停止しないといけません。もし、守らないとバスに搭載されたカメラで写真
を撮影され警察へ通報されます)、⑦マイル表示(1 マイル= 1.6km ですが、25mile per
hour (MPH) = 40km/h と言われてもピンとこない。一般道で 65MPH=104km/h、Highway
で 85MPH=136km/h 設定の道もあり、アメリカではスピードが出過ぎになります)
、⑧
運転中の携帯電話(テキサス州では 18 歳以上のドライバーがスクールゾーン以外で、
運転中に使用しても問題ありません)
、⑨ヘッドライト(昼間でも雨が降れば点灯しま
す。日本では夜間の交差点で赤信号止まると消す習慣がありますが、これは対向車線
の車に注意される可能性があります)
、
⑩日本流の慣習はアメリカでは一切通じない(御
礼のハザード、譲る時のパッシングはトラブルの原因になるので絶対にやってはいけ
ません)。
現在、車を 2 台所有していますが、アメリカでは車の個人売買が多く、2 台とも日本
へ帰国される企業駐在社員の方から購入しました。参考までに中古車の価格は日本よ
り少し高めな印象です。自動車天国のアメリカでは車が無いと生活できないのですが、
DFW で見かける車の 60~70% くらいが日本車(トヨタ、日産、ホンダ)で、次に多い
のが韓国車(現代)です。ちなみに私は 2 台とも日本車(トヨタとホンダ)です。
(7) 教育
「子供はアメリカで日本人学校へ行っているの?」
、
「子供は英語をペラペラ喋るの?」
と日本の友人からよく聞かれますが、DFW にはニューヨークやパリのような大都会と
は違い、週 5 日制の日本人学校はありません。アメリカでは年度(シーズン)が 8 月
下旬から始まって 6 月初旬で終わり、残りは約 3 ヵ月間の Summer Vacation となりま
す。私には息子 2 人(6 歳、4 歳)と娘 1 人(1 歳)がいるのですが、息子 2 人が現地
の小学校(現地校)へ週 5 日通っています。テキサス州の小学校は Kindergarten(幼
稚園年長相当)から 5th grade(小学 5 年相当)までが通いますが、英語を母国語とし
ない子供に限って、Pre-K(幼稚園年中相当)へ通うこともできます。現在、長男が
Kindergarten、次男が Pre-K のクラスで英語漬けの日々を過ごしており、現地校では『話
す』、『聞く』、『書く』
、
『読む』
、そして、
『対話する』がうまくリンクした教育プログ
ラムなので、渡米前と比較できないくらいの目覚ましい英語力アップを自然と遂げて
おり、親ながら感心させられます。特に、独り言、鼻歌、寝言まで英語になっており、
印象としては 2 人とも日本の中学 3 年レベルの語彙力があります。しかしながら、1 年
余りで日本へ帰国する予定でもあるので、息子 2 人は、日本教育を維持する目的で毎
週土曜日だけダラス日本人会が経営する日本語補習授業校(補習校)へも小学 1 年生
− 45 −
と幼稚園生(年中)として通っています。特に、長男は週 5 日で学ばないといけない
日本の教育課程を週 1 日しか補習校で学べないので、補習校から出される 1 週間分の
宿題や日本から送られてくる通信教育教材もうまく駆使して、取り残されることがな
いように親としてできる限りのフォローをしています。つまり、英語は放っておいて
もペラペラになりますが、重要な母国語はアメリカに日本語環境がほとんどないので、
両親の努力が日本在住時よりかなり必要となります。我が家の場合はまだ学年が低い
ので序の口ですが、知り合いの方で高 1、中 1、小 4、小 2 と 4 人も御子様がおられる
家庭もあるので、その苦労を想像すると大変です。
(8) 医療(特に医療保険)
アメリカでは、日本で言うところの国民健康保険(法定強制型医療保険)は一切あ
りません。アメリカでの診療自体は基本的に自由診療なので、
各自(会社斡旋などあり)
で民間の保険会社と契約をして高額な医療費に備えています。日本と大きく異なるの
は、低所得の方は保険料が支払えないので、満足に治療が受けられなかったり、医療
費が多く必要となる慢性疾患患者との保険契約更新を保険会社が一方的に拒否したり
と…、俗に言うところのお金持ちでないと日本と同じような質の高い医療を受けるこ
とは難しいです。しかしながら、大企業に就職されている方などは、その企業と民間
保険会社(企業の関連小会社)が連携し、保険料を企業が 7~8 割くらい負担してくれ
るところもあります。私の勤めているテキサス大学系列も同じパターンで、月々の医
療保険料の自己負担は低額となっています。
そして、アメリカの医療を受ける時、受診診療科によって保険が異なります。大き
く分けて医科保険(歯科と眼科以外)
、歯科保健、眼科保険、そして、処方された薬剤
を購入する際の薬剤処方保険となります。それぞれに Health Maintenance Organizations
(HMO) と Preferred Provider Organizations (PPO) というプランがあるのですが、その違い
を説明するとややこしいので、ここでは省略します(興味のある方は調べてみてくだ
さい)。
我が家もこれまでに何度もアメリカの医療機関に御世話になっていますが、加入し
ているテキサス大学系列の医療保険により自己負担はあまり無く、妻の妊婦健診 & 分
娩費、子供 3 人の定期健診(予防接種含む)については全て無料でした。唯一例外だ
ったのは歯科治療で、日本に比べてアメリカでは歯科治療費がもともと高い上に、保
険でカバーできるのが 5 割弱なので、次男が虫歯になった時はかなりの額を自己負担
しました。歯科治療の中身でも日米の違いは顕著で、最初に伺った小児歯科クリニッ
クでは診断と治療後フォローをするのみで、治療は小児外科センターと言われる施設
を紹介されて、日帰り入院の全身麻酔下で一期的に治療を受けて終了でした。よって、
アメリカの小児歯科クリニックで子供達の喚き声や泣き声が聞こえることは絶対にあ
りません。
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(9) 日本人コミュニティ
私や家族が異国であるダラスで生きていく為にとても重要な位置を占めているのが、
日本人コミュニティである『ダラス日本人会』です。多くの日系企業会員や個人会員が
所属しており、元来は日本の文部科学省に認可をされたダラス日本語補習授業校の経営
母体として設立されたものですが、私達のように日本から急遽ダラスへ転居すること
になった家庭に対して、不動産の斡旋などの生活のセットアップも支援してくれる団
体でもあります。ここから得られる日本や日本人に関する情報により、ダラスへ来て
からとても多くの日本人の友人もできました。私と同じような研究者(with or without
M.D.)や日本企業からの研修社員、駐在社員などとその背景も本当に様々です。
アメリカでの研究生活について
今年 5 月に開催された DDW2015@Washington D.C. では 2 つのポスター発表をしまし
た(図 4)。でも、これらの発表は昨年夏までに集めた予備実験の結果をまとめたに過
ぎず、この 2 つの研究に関しては今年 9 月までには全てのデータが集まる予定です。現
留学先の大ボスである
Stuart J. Spechler 教授
図 4 DDW2015@Washington D.C. で発表しました
今年はポスター演題を 2 つ発表しました
(写真左上)。ラボパーティーもあり、木下教授にもお越しいただきました
(写真中央上)。
慶應義塾大学医学部消化器内科から同じ UTSW へ留学中の宮田直輝先生と一緒にホワイトハウス前にて(写真右上)。
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況では、その詳細をあまり公にできないのですが、他にもいくつかの研究課題にも取
り組んでおり、少しずつ学会や論文として発表していけるものであると考えています。
最後に、今回の海外留学近況報告はアメリカの日常生活に則したものがメインとなり
ましたが、将来的に海外留学を考えておられる先生や入局希望の研修医の先生、更に
は医学部医学科の学生さんにとって一助となれば喜びます。残り 1 年余りの海外留学
生活となりますが、来年の今頃にはしっかりとした総決算ができればと思います。御
存知の方もおられると思いますが、Facebook の方にもこちらで体験したことや感じた
ことをアップするようにしています。御質問や御意見などが御座いましたら、こちら
の連絡先([email protected])までいつでも御連絡下さい。末筆なが
ら皆様の益々の御発展と御活躍を御祈り申し上げます。
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