研 究 開 発 - 医学生物学研究所

研 究 開 発
免疫の力でがんを倒す!がんペプチドワクチン療法の実用化に向けて
免疫機構は、ウィルスや細菌といった病原体など体内に侵入し
た非自己を攻撃し、私たちの体から排除しています。免疫細胞
がんペプチドワクチンによる
がん細胞の排除メカニズム
の一種である CTL は、がん細胞に特異的に存在する分子(腫瘍
抗原)を認識して、がん細胞を攻撃します。この時に、CTL は腫
ペプチド
ワクチン投与
瘍抗原の全体ではなく断片化されたもの(ペプチド)を認識し
ます。この CTL に認識されるペプチドを CTL エピトープと言い
ます。CTL エピトープと同じペプチドをがん患者の方に投与し
CTL
樹状細胞が CTL に
ペプチドを提示
て、CTL のがん細胞に対する攻撃性を人為的に高めて、がんを
排除する方法がペプチドワクチン療法です。
近年、がん細胞の中でも特に高い造腫瘍能を持つ「がん幹細胞」
CTL
の存在が報告されており、がん幹細胞の排除が、がん治療に重
要と考えられます。しかし、従来の抗がん剤ではがん幹細胞を
腫瘍抗原
ペプチド
CTL の
増殖・活性化
CTL
排除しきれないという指摘もあります。
CTL
CTL
CTL
がん細胞を
攻撃・排除
CTL
CTL
そこで MBL では、札幌医科大学と共同で、がん幹細胞に特異的
がん
幹細胞
がん細胞 がん細胞
な腫瘍抗原の CTL エピトープの同定に取組んでいます。同大学
の病理学第一講座 鳥越俊彦先生らはこれまでに婦人科がん・大腸がんのがん幹細胞に特異的な腫瘍抗原を探索し、
BORIS タンパク質を同定しました。BORIS は成人正常組織においては精巣にのみ存在し、がん幹細胞から BORIS の
量を減らすとがん幹細胞は造腫瘍能を失うことから、がん免疫療法のターゲットとして最適だと考えられます。
MBL は札幌医科大学と共同で BORIS 特異的 CTL エピトープを網羅的に同定し、2016 年 3 月までに特許化する事を
目指しています。同時に診断薬を開発し、ペプチドワクチン療法を近い将来に実用化したいと考えています。
うつ、がん、睡眠障害に関わる体内時計の研究用試薬を世界に先駆け開発!
地上の生物は地球の自転によってもたらされる約 24 時間の明暗周期
にその活動を同調させています。このような生物リズムは,概ね 1 日
概日リズム=概ね1日の生体リズム
周期という意味で概日リズムと呼ばれています。この概日リズムに従
い、睡眠・覚醒などの生命現象が生じることが知られます。近年、こ
の概日リズムを刻む体内時計の分子機構(分子時計機構)が明らかに
なってきました。体のそれぞれの細胞が共通の分子時計機構を持って
種を超えて共通の
分子時計を持つ
おり、またその機構はほとんどの生物で共通であることなどが報告さ
れています。研究の進展に伴い、概日リズムが多くの疾患と関係して
いることも明らかになりつつあります。現在、関連疾患としてうつや
がん、睡眠障害、糖尿病などが報告されています。
MBL ではこの分子時計機構の研究に用いられる試薬開発に注力して
います。2014 年には分子時計機構の中心因子の検出に用いられる一
連の試薬(抗体)を世界に先駆け開発・発売しました。開発に際しては
東京大学 教授 深田吉孝先生ら、この分野の先端研究者の先生方と協
力し、今後も先端の研究ニーズに即した試薬を世に送り出してまいり
ます。
22
組織を構成する
ひとつひとつの
細胞が
分子時計を持つ
!!
時計の乱れが
多くの疾患に関与
・癌
・うつ病
・不妊
・睡眠障害
・糖尿病
などなど
創薬スクリーニングツール Fluoppi
Fluoppi は、タンパク質タンパク質相互作用(PPI)の検出に優れたシステムです。PPI の阻害剤は、創薬のターゲット
として注目されており、多くの研究者や製薬企業が研究を進めております。
MBL では、大学等の研究者へ本ツールを研究用試薬として活用いただくための製品販売と、製薬企業等へ創薬スク
リーニングツールとしての使用実施許諾ライセンスを行っています。国内外の企業様で興味を持たれており、一部の
企業様には創薬スクリーニングとしてライセンス実績があります。
Protein X
Protein Y
FP-tag
・・・
・・・
Ash-tag
Induction
Inhibition
抗体医薬
MBL は抗体医薬候補の開発にも力を注いでおり、がん、感染症、炎症性疾患などを標的とした開発を行っています。
その中でも、EGFR リガンドの一つで、がんのオートクライン増殖因子としての機能や、がんの成長を助ける間質を
発達させる役割を持つターゲット分子に対して、既存の中和抗体や EGFR ブロック抗体であるセツキシマブよりも
EGFR リン酸化シグナルの阻害活性が強い抗体の開発に成功しています。この抗体医薬候補は、セツキシマブが効か
ない KRAS 変異がんに対しても強い治療効果を示します。本抗体の特許出願を済ませ、現在、海外を含めた製薬企業
への導出活動を行っています。
また、関連会社の株式会社 Oncomics が見出した治療標的に対しても、抗体医薬候補の開発に成功しています。この
抗体は特許出願に加えてヒト型化も完了し、製薬企業への導出活動を行っています。
ウイルスを中和する抗体候補も国内外の機関との共同開発を推進しています。その他にも、興味深い活性を持つ抗体
医薬候補が多数単離できており、現在、知的財産化を進めています。
ヒトフュージョンパートナー SPYMEG
MBL は、奥羽大学薬学部 教授 山本正雅先生と共同で、SPYMEG
というヒトフュージョンパートナー細胞を開発しました。ヒトの
血液から単離した抗体産生細胞と SPYMEG を融合させ、ハイブ
リドーマを作製すると、高効率かつ安定的に完全ヒト抗体産生ハ
イブリドーマを取得できます。SPYMEG を用いた完全ヒト抗体
SPYMEG
抗体産生細胞
産生ハイブリドーマの取得効率は、これまで報告されてきた、ど
のヒトフュージョンパートナー細胞を使った場合よりも、はる
かに優れています。これまでの共同研究で、インフルエンザ A 型
H3N2 サブタイプまたはインフルエンザ B 型で、20 年近く前か
ら保存されてきた株に対して中和活性を有するヒトモノクローナ
ル抗体の単離に成功し、さらにこの抗体は 40 年前から保存され
ている株に対しても中和活性を示すことが確認されました 1)。
また、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際
協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科
ヒト抗体産生細胞
(ハイブリドーマ)
安定した有効な完全ヒト抗体産生細胞が大量増殖します。
23
学技術協力(SATREPS)2) の「デング感染症等治療製剤研究開発プロジェクト」3, 4) に参画し、タイ王国への技術支援
活動を行いつつ、インフルエンザウイルス、デング熱ウイルス、ボツリヌス毒素に対する治療用抗体候補を開発しました。
このプロジェクトにおいても、大変興味深いヒトモノクローナル抗体群が単離され、知的財産権の確保と論文発表を行い
ました。5, 6, 7)
以上の研究から、SPYMEG がヒトモノクローナル抗体を単離する有効なツールであることが明確となりましたので、
今後、この SPYMEG を多くの研究者に広めるべく、ライセンス事業を開始しました。
近い将来、特にウイルス感染症に対しては、SPYMEG が有効な抗体医薬の開発ツールとして普及する可能性がありま
す。感染症に罹患した未発症の患者さんや回復している患者さんの抗体産生細胞から SPYMEG を使ってヒト中和抗
体産生ハイブリドーマを樹立することで、中和抗体を患者の治療に役立てることができます。また、中和抗体の解析
によって得られる情報は感染症の機序の解明や新たな予防法、治療法の開発への波及効果が期待されます。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
Kubota-Koketsu R. et al . Biochem Biophys Res Commun. 387, 180-185 (2009)(PubMed: 19580789)
http://www.jst.go.jp/global/
http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2011_thailand.html
http://www.jica.go.jp/project/thailand/004/index.html
Yasugi M. et al . PLoS Pathogen 9, e1003150 (2013) (PubMed: 23408886)
Setthapramote C. et al . Biochem Biophys Res Commun. 423, 867-872 (2012) (PubMed: 22713454)
Sasaki T. et al . Antiviral Research 98, 423-431 (2013) (PubMed: 23545366)
人工リンパ節技術
2004 年の Nature Biotechnology 誌に、理化学研究所の
渡邊武ユニットリーダー(現・公益財団法人田附興風会
医学研究所・北野病院)らによって、人工リンパ節技術が
報告されました 1)。MBL では、この人工リンパ節技術を基
盤として、高性能な抗体を作製する技術開発を進めていま
す。人工リンパ節技術はその名が示す通り、マウスの本来
抗原特異的な抗体産生細胞
を選択的に集積させた
人工リンパ組織を腎臓で
構築する
リンパ節が存在しない腎臓に、人工的なリンパ節を創りだ
人工リンパ組織
す技術です。通常のリンパ節には様々な抗原に対応する免疫細胞が存在するのに対して、人工リンパ節は目的の抗原
特異的な免疫細胞のみで構成されるという大きな特長があります。抗原を免疫したマウスで構築した人工リンパ節を
免疫不全(SCID)マウスに移植すると、標的抗原に対する免疫系だけをもつマウスができます。このマウスを抗原で
刺激すると、血中抗体価が通常マウスの 10 ~ 100 倍高くなります 1)。
本技術をモノクローナル抗体作製に展開したところ、従来の方法に比べてマウス 1 匹あたりで取得できる目的のモノ
クローナル抗体数が 10 倍以上に改善され、多様で超高親和性のクローンで構成されていることが判りました。これ
は、人工リンパ節技術が、多様性に富んだ質の高い抗体を取得できる革新的なモノクローナル抗体作製技術であるこ
とを意味します。現在、さらに高品質な抗体を作製できるよう改良を進めると同時に、難易度の高い抗体の作製技術
の開発にもチャレンジしています。
1) Suematsu S. and Watanabe T. Nature Biotechnology. 22, 1539-1545 (2004)
口腔細菌・腸内細菌:糖鎖・レクチン研究からの広がり
MBL では、数名のチームで 10 年余の期間、第 3 の
生命鎖といわれる糖鎖・レクチン※ 1 分野の研究開
発を継続してきました。岡山大学との共同研究で、
2010 年に海藻ミルのレクチンが虫歯菌のバイオ
フィルム形成を阻害する働きを発見して以来、口腔
細菌・腸内細菌の研究、消化管免疫の分野での研究
開発に力を入れています。
最近の研究で、歯周病が様々な全身性疾患に関係し
ミルレクチンにより付着抑制されたバイオフィルム
ていることが明らかになりつつあります。これま
でにエビデンスが得られている歯周病との関連疾患は、糖尿病、動脈硬化、早産など多岐に渡っています。慢性炎症と
24
しての歯周病を治療することで、糖尿病が改善する可能性も示されています。
介護施設での死因第一は肺炎で、これは口腔内の細菌が肺に入ることで発症する誤嚥性肺炎が原因です。昭和 44 年
には 1 人当たり平均 6 本あった子供の虫歯が近年では 1 本前後に減少してきました。その反面で超高齢化社会を迎え
るに当り、高齢者の口腔ケア対策が歯科医師にとって急務となっています。8020 運動(80 才で 20 本の歯を残す)が
示すように、生涯に渡って歯を残す喪失歯予防がこれからの歯科の主流になると予想されています。このように、口
腔細菌の制御が長寿社会の実現にとって極めて重要であることが分かってきました。
また、腸内細菌と正しく付き合っていくことも健康を維持していくために不可欠です。腸内細菌の生存数バランスが
腸管免疫や肝機能の低下、さらには癌の発症にも関与していることが分かってきました。ビフィズス菌には幾つかの
型があり、腸内環境を正常に保つためには個々人にとって適切なビフィズス菌を腸内で増やす必要があるようです。
難治性の Clostridium difficile 腸炎、炎症性腸疾患のクローン病や潰瘍性大腸炎に腸内細菌が関わっていることが明ら
かになり、最近、健康な人の大便の微生物叢を移植する革命的な実験的治療法が実施され、多くの患者が完治に至っ
ていることが次々と報告され、日本でも慶應義塾大学で臨床研究が始まっています。
腸内フローラ(腸内細菌叢)※ 2 は次世代シーケンス技術の発展によって解析が低コストかつ容易になり、口腔内細菌
や腸内細菌を健康の指標にする時期もすぐそこに来ていると思います。健康で長寿な人生を送るためには腸内細菌の
バランスを整えることが大事です。MBL は、レクチンを用いた口腔ケア製品(食品、化粧品、医薬部外品)の開発や、
新規の細菌検査・解析技術の開発を新たな事業領域として、少子・高齢化社会の健康と福祉に貢献したいと考えてい
ます。
※ 1:糖鎖を認識する、抗体や酵素とは異なるタンパク質で、植物、動物、ウィルスなど幅広い生物に存在します。それぞれのレクチンが認識する糖鎖構造
は異なり、マンノース、ガラクトース、シアル酸、フコースなど特定の糖鎖構造を認識するさまざまなレクチンが知られています。植物レクチンは生
体防御や根粒細菌の宿主特異性などに、動物レクチンは細胞接着、形態形成、炎症・免疫反応に関わっています。
※ 2:ヒトの大便には 1 グラムあたり 1012 個もの細菌が生育しており、最近の研究では 400 種(操作的分類単位 OTU)以上のヒト腸内細菌が存在するこ
とが判ってきました。かつて細菌が植物に分類されていた名残りで、腸内細菌群集は腸内フローラとも呼ばれています。腸内細菌と宿主はお互いに
影響を与え合っており、腸内フローラの構成の変動は健康や病気の発症に大きな影響を与えることが判ってきました。善玉菌はビタミンの産生や病
原菌の増殖を抑制していますが、悪玉菌が優勢になると過剰な腐敗臭や発がん物質の産生などの有害な作用が現れます。腸内で善玉菌を増やすため
の胃腸薬、食品、サプリメントが数多く市販されています。
顧みられない熱帯病(NTDs)プロジェクト
MBL は、国立大学法人長崎大学と独立行政法人国立国際医療研究センターと共同で、平成 24 年度より「途上国にお
けるイノベーションを促進する国際協力の戦略的推進」事業において「貧困層を中心とする複数感染症の一括・同時
診断技術開発のアフリカ拠点整備とその技術を用いた多種感染症の広域監視網と統合的感染症対策基盤の構築」プロ
ジェクトを推進しています。本事業は、1997 年の G8 北海道洞爺湖サミットの際に日本政府がアフリカ支援の重要性
を表明したことより始まり、文部科学省の科学技術戦略推進予算で実施されています。
「顧みられない熱帯病:Neglected Tropical Diseases, NTDs」とは、熱帯地域の貧困層を中心として蔓延する 17 種
類の寄生虫や細菌の感染症(住血吸虫、エキノコッカス、トリパノソーマなどの)で、三大感染症(エイズ、マラリア、
結核)に比べて世界からあまり関心が向けられず、十分な対策が取られていません。本事業は、NTDs を含む複数感染
症を一括同時診断する技術を実用化し、アフリカでの拠点整備と感染状況を把握する仕組みの構築を目指しているプ
ロジェクトです。その中で MBL は診断キットの開発と製品供給の役割を担っています。
東京大学 医科学研究所と共同研究契約・社会連携研究部門「システム免疫学」設置
2014 年に国立大学法人 東京大学 医科学研究所と共同研究契約を締結し、同研究所に社会連携研究部門「システム免
疫学」を設置いたしました。難解とされ立ち遅れている、免疫疾患の全 DNA 解析による病態解明、免疫疾患の個別化
医療の実現を目指します。
MBL は本共同研究から得られる成果をもとに、自己免疫疾患にとどまらず、がん免疫、粘膜免疫など免疫学分野での
革新的な医薬品・検査薬・試薬の開発を推進いたします。
25