金沢水族館で確認した漂着鯨類と骨格標本の作成について 坂井恵一(金沢水族館) S t r a n d i n gr e c o r dso fc 巴t a c e an sa n dt h em a k i n go ft h e i rs k e l e t o ns p e c i m e n s a tK a n a z a w aA q u a r i u m b yK ei ic h iS A K A I 金沢水族館が開館より 1 9 92 年春までの間に,直接 その周辺を除くほとんどの筋膜を剥離した。漫演す 9 9 1年に山田致知 確認した鯨類をまとめた。また, 1 る容器にあわせて,脊椎骨を5 個のブロック分けると セト研代表の指導を受け,淡水浸演による鯨類の骨 共に,大型の椎体は骨端が離脱しないように5 ∼1 0個 格標本の作成を試みた。その結果,鯨体より表皮と を連続して被服銅線で補綴した(写真 1 )。尾部の椎 筋肉などを可能な限り除去した状態で淡水に漬け, 体や小型の骨格は,網袋あるいは袋状にしたタキロ 嫌気性細菌の分解作用を利用することで比較的手軽 ン製のトリカルネットに収納して浸潰した(写真 2 ) 。 に骨格化できることが判ったので,その手順と方法 0 c mのほぼ正方体で,水量は 浸潰した容器は三辺が 7 を紹介する。 D O i : i ' .である(写真 3 )。脂質分が極端に少なかった 約3 1.漂着,迷い込みで確認された鯨類 9 9 1年6月中旬から 供給を絶ち,嫌気的環境を保ち, 1 ため,流動パラフィンを用いて浸漬水内への酸素の 石留意した種類は表 l に示した5 種 , 7 個体である。 1 9 9 2年の 5 月下旬までの約 1 1カ月,浸演した 。取りだ には確認した年月日,性,全長(推定値を含む) 表 l したときには頭骨細部や骨端周辺の筋膜などもほぼ 等を,また図 1にそれらの確認場所を示した。この ) 。 完全に離脱していた(写真 4 うちのスナメリ 2 個体は,ホルマリンの全身固定で金 沢大学医学部に保管されている。また,ミンククジ 2 )ハナゴンドウ ラは能都町真脇遺跡資料展示室の加藤三千雌氏,ハ ハナゴ‘ンドウは漂着した海岸で死因を調べるため ナゴンドウは内灘町の七回栄太郎氏,カマイルカは 解剖すると同時に,頭と両前肢を切り放し,脊椎骨 七塚町の新蔵敏昭氏と金沢市の村上彩氏,そしてメ を数個のブロックに分けて,可能な限り筋肉を除去 ソプロドン属のl 種は北日本新聞の高椀氏(高岡市)と した。水族館へ運搬後,頭骨や下顎の脂質,脊椎骨 七尾市の山田外志勝氏(山田屋社長)のご好意で標本 の筋肉をさらに除去したが,筋膜の量j l 離は行わなか の収集ができた。この場をかりで感謝の意を表する。 った。尾部のt i t 体については,表面の脂質と筋肉の 種 , 5 個体は,骨格標本(作成中)とし なお,これら 4 除去は行っていない。浸潰した容器は縦 9 5 c m,横4 5 て金沢水族館が保管している。 c m,深さ 6 5 c m,水量はがJ 2 8 0 ' l : i ' .である。底に頭骨と下 顎骨をそのまま入れ,その隙聞に肋骨(左右別々に配 2.鯨類の’同格標本の作成 1 9 9 1年に漂着したミンクク ジラとハナ ゴ‘ ン ドウの 骨格標木化の手順と方法を以下に示す。 列の順番に並べて綴っ た),尾部の椎体や小型の骨格 (袋状にしたトリカルネットに収納)を沈めた。脊椎 骨は数個のブロックに分けたが,ミンククジラのよ うに椎体を被服銅線で補綴しないで,箱型にしたト 1 ) ミンククジラ リカルネットに入れ,中層に浮かすような状態で浸 漂着個体は特に頭部と尾部,内臓で腐敗が進んで 演した。また,流動パラフインは用いず, 1 9 9 1年7 月 いたため,現地で解剖を行った。頭部の骨格類と肋 9 9 2年5 月下旬までの約1 1カ月,漫潰した。 下旬から 1 骨などはその場で骨だけの状態にできたが ,脊椎骨 取り出したときには頭骨細部の脂質や椎体の宵端周 は筋膜を付けたまま持ち帰り,水族館で骨端および 辺の筋膜もほぼ完全に離脱していた(写真 5 ) 。 5- なお, 1 9 9 2年に採集したカマイルカとメソプロド である(写真 6 ,7 )。 ン属の一種も,ほぼ同僚な方法で骨格標本を作成中 表 l 金沢水族館が確認した鯨類 種 名 年月日 Neophoca8na phoc88noid8s 性全長 確認場所 確認時の状況等 1 9 6 7 52 1 ♂ 1 6 3 5 福井県美浜町 定置網に乗網( 3日間飼育) 1 9 7 9 82 3 9日間飼育) 姫港内へ迷込む( 4 (スナメリ) N8ophoca8n a phoca8noid8s ♀ ( 1 5 0 0 ) 石川県能都町 (スナメリ) Bala8nopt8ra acutorostrata 1 9 9 1 61 5 ♂( 3 3 0 0 ) 石川県能都町 小浦海岸に漂着(腐船 1 9 9 1 71 0 ♂ 2 8 5 0 石川県内灘町 砂浜海岸に漂着(生存) (ミンククジラ) Grampusgr1seus (ハナゴンドウ) L81l8norhpnchus obiiquidens 9 8 0 石川県字ノ気町砂浜海岸に漂着(死亡) 1 9 9 2 41 4 ♂ 1 (カマイルカ) Lag8norhpnchus obiiquid8ns 1 9 9 2 5 7 ?( 1 8 0 0 ) 石川県1 郁 r 砂浜海岸で腐乱していた (カマイルカ) 6 0 0 ) 富山県主!?湊市 1 9 9 2 51 5 ♂( 4 / ' 1 8 s o p l o d o ns p . 海岸に漂着(死亡) 全長( 1 3 5 " 1 3 8"E 1 3 7 " 1 3 6 " Sea of Japan 日本海 r 。 ,>a1a B a r/ 戸 − − ノ/.,−− j 白 < ) メソプロドン属の一慣 寓山県 / ' ・ 企沢/ r ’ . . f,_’\ F u k u i Pref. WakasaBay 若狭湾 ,、50・ l ー町.~·_/ r --1- 1 3 ・ 0 、 図 l 鯨類の確認場所 -6- N 3 6" \ , 《J ) ‘ 、 ,、 、 〆 -- 'j ¥ 畑井県 、 −, _ 、, h . I v ν r ' 、. . . .~ { ハ 、/" 1 . ‘ 」「−−、 t , , . . . Kanaz•••) Ishikawa Pref 3 7 "N 1 、 "IN o ρl a d \ 「石川県 、 、 ピ富山湾) j @ - )は推定値 、 受 \ ーノ\ 事! 写真 l 被服銅線で補綴したミンクの椎休 写真 2 尾部の椎体の浸演状態 写真 3 ミンククジラの浸漬状態 写真 4 骨端周辺の筋膜も完全に離脱した(ミンク) 写真 5 1 0カ月浸演したハナゴン ドワ頭骨腹而 写真 6 浸漬前のカマイルカ 写真 7 浸演中のメソプロドン属の一種の骨格 - 7-
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