金属スタイレット破損片の体内遺残症例 ―再発予防と早期発見のために

〔症 例〕
金属スタイレット破損片の体内遺残症例
―再発予防と早期発見のために―웬
古明地
脇 坂
剱
持
恭 子웬웬 盛 永 直 樹웬
웬 高
マリコ웬웬 身 崎 伊 織웬
웬 中
喜 之웬웬웬 田 尾 嘉 浩웬
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桑
野
良
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平웬
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:スタイレット破損,麻酔合併症,再発予防
Ke
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要
気管挿管時に
旨
の形状を確認することが大切である。
は じ め に
用した金属スタイレットの破
損片が体内遺残した症例を経験した。
気管挿管時に
用するスタイレットは時に破
症例:68才男性,右耳下腺腫瘍に対して耳下
損することがあり,これまでにいくつかの症例
腺腫瘍切除術が予定された。全身麻酔導入後,
報告がある。中には破損片による合併症がおき
挿管困難のためスタイレットを用いて挿管し
て初めて気づいた報告もある。
た。手術は予定通り終了した。翌朝,手術室準
今回,われわれは金属スタイレット破損片の
備していた看護師がスタイレットの形状の違い
体内遺残症例を経験した。スタイレット破損に
に気づき,先端が破損していることが判明した。
よる重大な合併症を起こさないために,スタイ
手術室内でスタイレットの破損片は見つから
レットの取り扱い基準を整備したので報告す
ず,前日スタイレットを
る。
用した患者の体内遺
残を疑い検査したところ,胸部レントゲン写真
で右下肺野に棒状陰影を認めた。破損片は全身
麻酔下で気管支内視鏡を用いて除去した。術中
術後経過に異常はなかった。
察:スタイレットは挿管困難や緊急挿管の
症
例
6
8歳男性,身長 1
67c
0kg 右耳下
m,体重 7
腺腫瘍に対して腫瘍摘出術が予定された。全身
麻酔導入後気管挿管を行った。喉頭展開はやや
用される。スタイレットは金属疲労や強
難しく,Cor
(喉頭展開により喉頭蓋は
mac
k3
い力が加わることで破損することがある。スタ
見えるが声帯は見えない状態)であったため2
イレット破損に気づかず経過し,小腸穿孔で発
回目にスタイレットを
見された報告もある。
時,気管チューブからスタイレットを引き抜く
際に
スタイレット破損と破損片による合併症を防
用して挿管した。この
際に強い抵抗があった。
手術は予定通り終了し,
ぐために,スタイレットの取り扱いや整備点検
麻酔覚醒後病室へ戻った。術中・術後のバイタ
に留意すること,特に
ルに異常はなかった。
用前後にスタイレット
웬
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:勤医協中央病院麻酔科
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:勤医協中央病院呼吸器内科
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:勤医協中央病院呼吸器外科
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Tao,Y.
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3
Vol
北勤医誌第 36巻
201
4年 12月
翌日,同じ手術室を準備していた看護師がス
タイレットの形状がいつもと違うことに気付い
た。調べると,スタイレットが短くなっており
先端が折れていることが判明した。手術室内を
ゴミ袋も含めて捜索したがスタイレットの先端
を見つけることはできず,前日スタイレットを
用した手術患者の体内に遺残している可能性
を
えた。患者本人に事情を説明した上で胸部
と腹部のレントゲン写真を撮影したところ,胸
部写真の右下肺野に棒状陰影を認めた(写真
1)
。詳しい部位の確認のため肺 CT 検査を行
い,スタイレット先端の除去について呼吸器外
写真 2 気管支鏡
金属スタイレットの先端が確認できる
科医および呼吸器内科医に相談した。検討の結
果,全身麻酔下に気管支内視鏡で摘出すること
管支粘膜の損傷がないこと,除去部に炎症所見
とした。内視鏡での摘出が困難な場合は肺の部
がないことを確認して終了した。術中,術後経
切除を行うことも想定し,その旨患者に説明
過に異常はなく7日目に退院した。
し同意を得た。
察
同日午後,全身麻酔導入後に気管挿管を行っ
た。こ の 時 も 挿 管 困 難 Cor
mac
k3で ス タ イ
レットを
用した。気管支内視鏡で右 B9
bにス
スタイレットは挿管困難症例や,緊急挿管の
際に
用される。スタイレット破損は非常にま
タイレット断端を確認でき
(写真2),生検鉗子
れな偶発症であるが,過去に症例報告があり皆
で破損片を把持して右主気管支まで移動させ
無ではない。
た。その後はスネアで気管チューブ内まで運び
気管チューブごと抜去した。破損片除去後,気
スタイレットが折れる原因としては,金属疲
労した部
に強い力が加わることが挙げられて
いる웋
。今回の症例も折れたのは先端から 5
−6
웗
cm の部位であり,スタイレット
折り曲げる部
用時に常に
であった
(写真3,
4)。メーカー
保証の 3
0回を超えて
用していた可能性が高
く金属疲労があったこと,いつもよりスタイ
レットの曲げ方が強く,挿管チューブからスタ
イレットを引き抜く際に強い力が加わったこと
が折れた原因と思われる。この時,スタイレッ
トは破損することがあると知っていれば,無理
に引きぬくことはせず,一旦挿管を中断してス
タイレットを入れ直すなど別の対応を取り,破
損を回避できただろう。
金属スタイレットが破損すると破損片は体内
遺残となり,
破損片による合併症が問題となる。
写真 1 胸部写真
右下肺野に棒状陰影を認める
.3
6 3
4
Vol
挿管後すぐにスタイレットの破損に気づいた場
合には,気管チューブ内に留まっているスタイ
金属スタイレット破損片の体内遺残症例―再発予防と早期発見のために―
用するという選択もあるだろう。
しかし,ディ
スポーザブルでも折れる可能性は皆無ではな
く,コスト面での問題もある。また,コーティ
ングされたスタイレットならば折れても脱落し
写真 3 折れたスタイレット(全体)
先端から 5−6c
m の部位で折れている
ないのではと思われるが,コーティングスタイ
レットでも破損することが あ り웎
,破 損 し た
웗
コーティング破片により気管チューブが閉塞さ
れ,換気できない状態になった웏
との報告があ
웗
원
웗
る。
したがって,どんなスタイレットを
用する
にせよ,スタイレット破損と破損による合併症
を防ぐには,以下の様な注意が必要である。
1,スタイレットの整備点検をする。
スタイレットは消耗品であるのでメーカー保
証の
用回数を守って
用する。
2,スタイレットに無理な力を加えない。
そのためには,きつい曲げ方はせず,滑りを
写真 4 折れたスタイレット(先端)
よくするため潤滑剤を
用する。スタイレット
抜去時に強い抵抗がある場合には一旦チューブ
レット破損片を SwanGanzカテーテルを用い
を抜管することも検討する。
て除去したり워
,下部食道にある破損片を直達
웗
3,
食道鏡を用いて除去した웋
報告がある。
웗
用前後にスタイレットの長さおよび先端
の形状をチェックする。
一方,スタイレット破損に全く気づかなかっ
万が一,スタイレット破損が起こってもそれ
た場合,3ヶ月後に破損片による小腸穿孔で発
による合併症を防ぐには早期の発見が重要であ
見され手術に至った症例が報告されている웍
。
웗
る。挿管直後にスタイレットが短いことに気づ
これらの報告から早期に発見することが重要と
きながら,
初めから短かったのだろうと判断し,
いえる。
破損の発見が遅れた報告もある웑
。
웗
今回は手術翌日にスタイレット破損に気づい
用の前後
にチェックすることが大切である。
たが,その時すでに破損片は右気管支に落ち込
我々は,今回のスタイレット破損の経験を基
んでしまい,除去のため全身麻酔下に気管支鏡
に,当院の医療安全委員会でスタイレットの取
を行うことが必要となった。血痰などの症状も
り扱いについて話し合い,以下のように基準化
なく,肺損傷することなく除去できたことは不
した。
幸中の幸いであったが,もし,挿管直後にスタ
①スタイレット管理は中央材料部門で行い
イレットの形状を確認していれば破損に気づく
ことができ,患者への悪影響を減らせたかもし
れない。
スタイレットの破損と破損による合併症を防
ぐにはどうしたらよいか?
スタイレットが破損しないように,金属疲労
の心配のないディスポーザブルスタイレットを
用
回数をカウントする。金属疲労があるもの,
用回数がメーカー保証回数を超えたものは
破棄する。
②スタイレットは消耗品であり破損の可能性が
あることを院内に広く知らせる。
③スタイレット
用時は潤滑剤を
い,無理な
力で抜かない。
.36 3
5
Vol
北勤医誌第 36巻
④
201
4年 12月
用前後でスタイレット先端の形状の確認を
する。
麻酔 Vol10No10
,139
5−139
6,19
86
3)平林邦明,戸口景介他:気管挿管用金属スタイ
レット折損片による小腸穿孔の1例,日臨外会誌
結
70
(1
1),33
30−3
333
,2009
語
4)野崎京子,野田啓一他:金属スタイレットおよび
金属スタイレット破損片の体内遺残症例を経
験し,スタイレットの取り扱い基準を整備した。
なお,本論文の要旨は日本麻酔科学会北海道・
ナイロンコーティングスタイレットによる事故,
臨床麻酔 Vol9No9,1
139
−1140
,198
5
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東北支部第3回学術集会(2
01
3年9月仙台)で
発表した。
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8
7)横山武志,山下幸一他:金属スタイレットの折損
献
片による消化管異物の1症例,日臨麻会誌 Vol2
4
1)樋口美栄子,鈴木美佐子他:スタイレット破損の
3−156
,200
4
No4,15
2症例,麻酔 31
,1
71
−1
75,19
82
2)小
研二,羽山憬一他:折損したスタイレットを
SwanGanzカテーテルにて除去した症例,臨床
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