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4. ダーク・マター
2015年度 春学期 火V限
1970年代: ヴェラ・ルービン等による渦巻銀河
の回転速度の観測から、渦巻銀河に普遍的に
ダーク・マターが存在する可能性が示唆された。
1978年: アインシュタイン衛星(NASA)が、楕
円銀河や銀河団に、これらを包むような大量の
高温プラズマを検出。これから楕円銀河や銀河
団が可視光から予測される以上の質量を有す
ることが確認された。
開講日
担当者と内容
06月30日 西浦 : 宇宙と銀河
07月07日
07月14日 土橋 : 銀河系と銀河系内天体
● 銀河・銀河団の可視質量の導出:
07月21日
銀河・銀河団の観測から直接得られる
物理量は光度(単位時間あたりに天体が
放射するエネルギー量)である。
07月28日 試験(西浦・土橋担当分)
・ 7月28日の試験は、試験時間60分。持ち込みは
一切不可とする。学生証を忘れないこと。なお、試験
開始後30分以上の遅刻は受験不可とする。
東京学芸大学 自然科学系
宇宙地球科学分野 講師
西浦 慎悟
・ 出席・受講態度・試験結果から総合的に評価する。
講義資料  http://astro.u-gakugei.ac.jp/~nishiura/  「西浦クンの講義室」からPDFをDL可
銀河団 : 銀河の集団
銀河 : 恒星の集団
 恒星の質量・光度関係を銀河に応用して、
その質量(可視質量)を算出する。
● 銀河団の力学質量の導出 1: (仮定)
・ 銀河団は質量M、半径Rの球形。
・ 銀河団中心に対する銀河の「平均
の運動速度の大きさ」はV3D。
・ 銀河団銀河の「平均の」質量はm。
・ 銀河団はビリアル平衡状態。
● 宇宙の密度
 宇宙の将来(未来)を決める重要な要素
後退速度 v
(全エネルギー) =
質点(質量m)
1
mv2 2
運動エネルギー
半径 R
4
G ・ πR3ρ
3
m
R
m
R
V3D
① 銀河団が個々の銀河を
捕まえようとする万有引力
によるポテンシャル・エネ
ルギーUの大きさは、
ポテンシャル・
エネルギー
(全エネルギー) > 宇宙は膨張を続ける
(全エネルギー) < 宇宙は収縮に転じる
一様密度ρ
↑銀河団のモデル
・ (全エネルギー) = 0 の場合:
ρ=
3v 2
3(H 0R)2
3H 2
0
=
=
2
2
8π G
8πR G
8πR G
この密度を宇宙の臨界密度と呼ぶが、宇宙論では一般に、物質密度をこの臨界
密度で規格化した密度パラメータΩ0を用いる。なお、臨界密度は、∼10-30 g/cm3
という小さな値である。
4. ダーク・マター
● ダーク・マター (Dark Matter)
おとめ座銀河団の一部
現在まで、あらゆる光(電磁波=γ線、X線、紫外線、
可視光線、赤外線、電波)の観測によって直接検出
されないが、重力には作用し、間接的には存在が示
されている物質の総称。その正体は未だ不明である。
1933年: ツヴィッキーが「おとめ座銀河団」の銀河
の速度分散が、目で見える銀河の総質量よりも大き
いことを発見する。
渦巻銀河M100
(東大木曽観測所)
1971年: ホールが、渦巻銀河を数値計算で再現する
際、銀河のまわりをもっと大きな質量の物質が取り巻い
ている、とすると、その構造が安定化することを見出す。
(東大木曽観測所)
log(恒星質量/太陽質量)
↑恒星の質量・光度関係
4. ダーク・マター
4. ダーク・マター
・ 単純な力学モデルを考える。
↑アインシュタイン衛星(NASA)
log(恒星光度/太陽光度)
・ 今後のスケジュール(予)
1974年: 今までケース・スタディの結果に過ぎなかっ
たダーク・マターについて、オストライカー、ピーブルス、
ヤヒルが、その存在を明確に主張した。
U =G
② 個々の銀河が銀河団
全体の万有引力に逆らっ
て、飛び散ろうとする運動
エネルギーTは、
Mm
R
T =
③ ビリアル平衡状態では、 ④ 観測で測定される速度成分
U = 2T が実現する。また、 はV3Dでは無く、その視線方向
成分V losのみ。統計的に、V3D =
①、②から、
2
3Vlos から、
M =
RV 3 D
G
M =
1
m V 23D
2
3 R V 2los
G
注) los = line of sight
(気体の状態方程式の導出
方法を参照のこと)
4. ダーク・マター
銀河団は巨大な重力ポテンシャルを有する
ため、数1000万∼数億Kにもなる高温プラズマ
を捉えておくことが可能である。高温プラズマ
は強いX線を放射するため、X線観測からその
温度を推察することができる。より深い重力ポ
テンシャル(つまりより大きい質量)を持つ銀河
団ほど、より高い温度のプラズマを閉じ込める
ことができる。
(仮定)
・ 銀河団の高温プラズマは静水圧平衡(圧力
勾配と重力が釣り合った)状態にある。
・ 高温プラズマは球状に分布し、動径R方向の
↑ペルセウス座銀河団の可視画像
温度、電子密度をT(R)、ne(R)とする。
● 銀河団の力学質量の導出 2:
(グレー)およびX線画像(等輝度線)。
 半径R内の質量M(R)は、以下のようになる。
kT ( R ・
) R d ln ne ( R ) d ln T ( R )
M ( R) = (
+
)
Gμ m p
d ln R
d ln R
k :ボルツマン定数、G :万有引力定数、
mp :陽子質量、μ:平均の粒子質量
(力学質量) > (可視質量)
約10倍
1
4. ダーク・マター
5. ダーク・エネルギー
(仮定) 渦巻銀河の回転は等速円運動。
回転速度V(R)
渦巻銀河中心から、距離 R を回転速度 V(R)
で、等速円運動する質量 m の質点を考える。
質点
これを整理して、
RV ( R ) 2
M ( R) =
G
渦巻銀河の回転曲線からは、ほぼ「V(R)=一定」と
みなせる。すると、
M ( R) µ R
↑渦巻銀河の回転曲線
となり、非常に淡くみえる銀河の外側にも、大量の質
量が存在することになる。
ビッグ・
バン
M ( R)m
V ( R) 2
=m
2
R
R
G
渦巻銀河質量M(R)
K <0
(万有引力)=(遠心力)、より
K >0
現在は膨張しているが、やがて
収縮に転じる。
ビッグ・クランチ
光(電磁波)の速度が有限(約30万km/s)であるため、遠方の宇宙を観測することは、
宇宙の過去を観測することと同じである。
 宇宙膨張を捕えるためには、より遠く、より過去の宇宙を観測する必要がある。
5. ダーク・エネルギー
幾つかの仮定が必要となるが、観測から得ら
れる銀河の見かけの明るさと数の関係と、理論
による計算結果を比較することで、宇宙論のテ
ストを行うことが可能である。
一般相対性理論の
証拠の一つともされる。
ただし、非常に暗い銀河までを均一かつ完全
に検出する必要があるため、従来の写真乾板よ
りも、はるかに高感度なCCDカメラの登場が必
要だった(1980年代に実現)。
虚像
銀河団
虚像
膨張速度が小さくなり、やがて
(無限の先で)ゼロとなる。事実上、
膨張は続く。
● 銀河のナンバー・カウント
天体から放射された光の進路が、
途中に存在する天体の重力によっ
て曲げられることで、あたかもレンズ
による像の歪曲や集光が生じたよう
に観測される現象。
観測者 ↑ハッブル宇宙望遠鏡による銀河団Abell 1689の画像
遠方の天体
K =0
時間
↑曲率 Kによる膨張宇宙の振る舞いの違い
4. ダーク・マター
● 重力レンズ :
膨張速度が一定に近付くが、
膨張は続く。
銀河団の像と重なって、各所に引き伸ば
された弓状の銀河の像が観測される。
 詳細な解析から、銀河団の質量や
その空間分布などの情報が得られる。
↑重力レンズの概念図
4. ダーク・マター
現在では、電磁波による観測では、
直接検出できない暗黒物質(ダーク・
マター)が、銀河内部、銀河周辺部、銀
河団内の銀河と銀河の間、などに存在
すると考えられている。
↑重力レンズから求められたD.M.の空間分布
● ダーク・マターの候補 :
・ ニュートリノ
僅かに質量を持つことが分ったが、
現在では主要な候補ではない。
・ ニュートラリーノ
電気的に中性の超対称性粒子だ
が、理論上の存在で未発見。ただし、
ダーク・マターの最有力候補の一つ。
・ アクシオン
未発見の素粒子。強い磁場の中で
光子に変わると考えられている。
・ 白色矮星、中性子星、ブラックホール
超高密度天体。一般に暗いため、
検出が難しい。
・ 褐色矮星
質量が小さく、恒星になれなかった
ガス状天体。
・ 惑星
 未発見の素粒子の可能性が高い。他に「修正ニュートン力学」も主張されている。
1990年: 福来等は、タイソンが行った銀河の
深い撮像観測の結果と、理論に基づく計算結
果を比較することで、宇宙項の存在を示唆した。
他にも多くの研究者によって、ナンバー・
カウントによるテストが行われたが、銀河の進
化など複雑な要素を導入する必要があり、
様々な結果が提出された。
● Ia型超新星
銀河の数(個/0.5等級/平方度)
半径R
質量m
● 宇宙の将来:
宇宙の大きさ
● 渦巻銀河の力学質量の導出 :
青色等級(mag)
5. ダーク・エネルギー
白色矮星と赤色巨星の連星系において、赤色
巨星から白色矮星への物質の流入が起こり、チャ
ンドラ・セカール限界を超えることで、中心部の炭
素の核反応が暴走して、星全体が爆発する。この
種の超新星は、絶対光度が一定であると考えられ
ており、極めて明るく、どのような銀河にも発生し
得る。
↑NGC4526に出現した超新星
SN1994D(HST:NASA)
遠方銀河に現れたIa型超新星の観測
から、宇宙項の存在が示唆された。
 ・ 宇宙膨張は加速している
・ 加速の要因は宇宙項(ダーク・エネルギー)
2
6. 銀河と銀河団
●銀河
● 銀河団: 数10個から数1000個以上の銀河が集まった大規模な集団。
6. 銀河と銀河団
典型的には数1000億の
恒星からなる巨大な天体
だが、実際には様々な形
態・サイズ、性質を持つ。
↑レンズ状銀河NGC5866
↑渦巻銀河NGC6946
↑楕円銀河M87
↑かみのけ座銀河団の中心部
↑おとめ座銀河団の一部
(東京大学木曽観測所)
我々が住む銀河系(天の川
銀河)も渦巻銀河の一つ。
6. 銀河と銀河団
↑不規則銀河NGC4449
↑渦巻銀河M100
6. 銀河と銀河団
●銀河群 : 銀河団よりも銀河が少ない小規模な銀河集団だが、銀河団と銀河群の
間に具体的な区別はない。
●渦巻銀河(銀河系)の構造
(距離は銀河系の場合)
バルジ
ガスやチリ(恒星の材料)は
ほとんど存在せず、比較的
年老いた恒星が分布してい
る。速度分散で構造を支持
している。
ハロー 極めて物質が希薄な領域。球状星団(非常に
老齢な恒星のみからなる星団)が存在している。
約1.5万光年
アーム(渦状腕)
ディスク上に形成される。
ガスやチリが集中し、若い
恒星が多く分布している。
↑ステファンの五つ子(HCG92)
(東京大学木曽観測所提供)
↑ヒクソン・コンパクト銀河群40(HCG40)
(国立天文台提供)
● 局所銀河群
約5千光年
約10万光年
約3万光年
ディスク(銀河円盤)
ガスやチリ(恒星の材料)といった星間物質が豊富にあり、年老いた恒星から非常に
若い恒星までが存在している。散光星雲や暗黒星雲、散開星団や惑星状星雲、超
新星残骸などの恒星の一生に関わる天体が分布している。回転運動によって、構造
を支持している。
6. 銀河と銀河団
局所銀河群 = 局部銀河群ともいう。
銀河系とアンドロメダ銀河(M31)を中
心に大小マゼラン銀河など数10個の
銀河からなる銀河群。
(東京大学木曽観測所提供)
6. 銀河と銀河団
● 渦巻腕(渦状腕)と星形成
(M31・M33:東京大学
木曽観測所提供)
渦巻銀河の円盤部(ディスク)にあるガスや恒星が渦状に集まったものが腕?
例 : 渦巻銀河M101(NGC5457)の可視光画像[Kiso105cm+2kCCD : by 西浦]
アンドロメダ銀河(M31)
大マゼラン銀河(LMC)
LMC、SMCは銀河系の
衛星(伴)銀河。
小マゼラン銀河(SMC)
(アングロ・オーストラリア
天文台(AAO)提供)
(須藤靖「宇宙の大構造−その起源と進化」、培風館)
渦巻銀河M33
青色 : Bバンド (440nm)
緑色 : Vバンド (550nm)
赤色 : Rバンド (660nm)
青色 : Uバンド (330nm)
緑色 : Vバンド (550nm)
赤色 : I バンド (800nm)
ほぼ恒星の分布を見ている
チリが多い部分は暗黒帯に見える
特に若い恒星が多い部分は青く見える
渦巻腕には恒星、特に若い恒星が多い
3
6. 銀河と銀河団
6. 銀河と銀河団
大 
存在割合
若い恒星(O型星・B型星)は質量が非常に大きく、表面温度が数万度と非常に
高いため、紫外線を大量に放射する。すると、恒星の周辺の物質(多くは水素)が
電離(イオン化)して、Hαと呼ばれる輝線を放出する。
渦巻+不規則
小

レンズ状
楕円
↑電波21cm線(中性水素)で観た
おとめ座銀河団の渦巻銀河。
青色 : Bバンド (440nm)
緑色 : Vバンド (550nm)
赤色 : 659nmバンド
青色 : Uバンド (330nm)
緑色 : Vバンド (550nm)
赤色 : I バンド (800nm)
水素イオンガスが多い部分は赤く見える
特に若い恒星が多い部分は青く見える
 渦巻腕の若い恒星が多い場所と水素イオンガスが多い場所は一致している
6. 銀河と銀河団
赤っぽい
渦巻腕の領域
渦巻腕に入っていた恒星
これから渦巻腕に入る恒星
少ない
箱型(ボクシー)と円盤型(ディスキー)
で、内部の恒星の運動や活動性などに
違いがあることが知られている。
 形と性質を決めるものは何か?
Sb
渦巻銀河
恒星に対するガスの相対量
バルジ / 円盤の明るさの比
無秩序運動が大きい
M104
きつい
N147
棒構造あり
楕円率で分類
ゆるい
棒構造なし
回転運動が大きい
環境
低い銀河数密度
高い銀河数密度
● 活動銀河
↑アンテナ銀河(NGC4038/39)(DSSより)
N5308
SBb
SBc
円
内部運動
● 銀河衝突・銀河合体
銀河
N185
M74
渦の巻き具合の強さで分類
SBa
M87
Sc
Irr
M82
S0
小さい
不規則
E5
多い
Sa
円盤も渦巻腕も
持たない銀河
E3
青っぽい
6. 銀河と銀河団
M88
E0
渦巻銀河
棒渦巻銀河
色
6. 銀河と銀河団
楕円銀河
現代天文学の重要なテーマの一つ
レンズ状銀河
(S0銀河)
楕円銀河
大きい
● ハッブルの形態分類(1936年∼)
「ハッブルの音叉図」「ハッブル系列」
などとも呼ばれる。
銀河の形態と存在環境には、何らかの
関係がある。先天的か?後天的か?
6. 銀河と銀河団
● 銀河の基本的な性質
● 箱型楕円銀河と円盤型楕円銀河
箱型楕円銀河
恒星やガスが「動いて」渦巻腕を作ると、
短い時間で渦巻腕は巻き込まれて消えて
しまう。 「巻き込みのジレンマ」
1964年 : リンとシューは渦巻銀河の渦巻
腕は、「恒星やガスの運動そのものではなく、
物質が多く集まる領域において、重力の影
響で回転運動が渋滞することで生じる」とい
円盤型楕円銀河
うアイディアを発表。= 密度波理論
● 渦巻腕の正体は何か?
恒星の運動方向
低 銀河数密度  高い
銀河団中心に近い渦巻銀河ほど
中性水素ガスが少ないように見える。
 銀河と高温プラズマガス(銀河団
ガス)、または、銀河どうしの相互作
用でガスが剥ぎ取られる。
扁平
レンズ状銀河
バルジと円盤を持つが
渦巻腕を持たない銀河
↑楕円銀河NGC5128(= ケンタウルスA,
Cen A)の可視+電波画像
IB
M65
M66
棒渦巻銀河
M83
N4449
↑NGC4650A: 銀河中心を他の銀河が通り
抜ける例(NASAハッブル宇宙望遠鏡撮影)
銀河中心部分に、太陽の何1000万∼数
億倍の質量を持つ超巨大ブラック・ホール
が存在し、これによって電波ジェットが形成
されている。
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