鍼灸師に必要な感染制御の基礎知識 - 鍼灸の安全対策

テーマ:鍼治療に対する国内公的保健衛生機関の
見解と今後の課題
第一部 鍼治療と肝炎の総説と最新情報 鍼灸師に必要な感染制御の基礎知識
(公社)全日本鍼灸学会 研究部 安全性委員会 第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
研究部安全性委員会ワークショップ
B型・C型肝炎の基礎知識
第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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B型およびC型肝炎
B型
C型
ウイルス遺伝子
DNA
RNA
エンベロープ
あり
あり
患者数
140万人(推定)
200万人(推定)
感染様式
血液感染 血液感染
経過
急性肝炎(20-­‐30%)→治癒 劇症化(1%)
多くの場合、無症状 時に急性肝炎
持続感染
まれ(母児感染に多い)
70-­‐80%(キャリア化)
ワクチン
あり
なし
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B型・C型肝炎の感染経路
HBV
HCV
・性行為(多い) ・輸血・血液製剤(昔) ・注射針・注射器の共用 ・注射針・注射器の共用 ・適切な消毒をしていない器具を ・適切な消毒をしていない器具を 使ったピアスの穴あけ、入れ墨、 使ったピアスの穴あけ、入れ墨、 出血を伴う民間療法 出血を伴う民間療法 ・医療行為(臓器移植、針刺し ・医療行為(透析、針刺しなど) など) ・母子感染(少ない) ・輸血(まれ) ・性行為(まれ)
・母児感染
*公益財団法人ウイルス肝炎研究財団:B型肝炎について(一般的なQ&A)改訂第4版 *公益財団法人ウイルス肝炎研究財団:C型肝炎について(一般的なQ&A)改訂第8版
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1回の針刺し損傷時に感染が
成立する確率
ウイルス
の種類
感染の成立する
確率
血中の
ウイルス量
HBV
約30%
107-9/mL
HCV
1.8~3%
105-6/mL
HIV
0.3%
102-5/mL
*U.S. Public Health Service. Updated U.S. Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational Exposures to HBV, HCV, and HIV and
Recommendations for Postexposure Prophylaxis. MMWR. 2001;50(RR-11):
1-52..
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5011a1.htm
第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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近年、本邦ではゲノタイプAの遺伝子型をもつ
HBV感染が増えている
•  本邦ではgenotype B・C(アジア型)の遺伝子型をもつ
HBV感染が主流であったが、近年ではgenotype
A(欧米型)のHBV感染が増加傾向にある。
•  感染経路は、ほとんどが性行為
•  genotype Aの慢性化率は10~20%
(genotype B・Cでは5%前後)
*国立感染症研究所ホームページ:B型肝炎とは. http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/321-hepatitis-b-intro.html
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鍼はB型・C型肝炎の感染原因/
感染経路となりえるのか?
その科学的根拠は?
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少量のウイルス接種でも感染は成立する
•  チンパンジーによる感染実験では、 HBV遺伝子量に換
算した絶対量として10コピー相当のウイルス接種により
感染が成立することが報告されている。 •  チンパンジーによる感染実験では、 HCV遺伝子量に換
算した絶対量として10コピーオーダーのウイルス接種に
より感染が成立することが報告されている。 *Katayama K et al:Titration of hepatitis C virus in chimpanzees for determining
the copy number required for transmission. Intervirology. 2004;47(1):57-64..
*Komiya Y et al:Minimum infectious dose of hepatitis B virus in chimpanzees
and difference in the dynamics of viremia between genotype A and genotype C.
Transfusion. 2008 ;48(2):286-94..
第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふ
くしま大会)研究部安全性委員会ワークショッ
プ
抜鍼後の鍼にはB型・C型肝炎
ウイルスが付着している
•  楳田らは、B型肝炎キャリアから抜鍼した鍼体には
HBV(ウイルス量は不明)が付着していることを確認
している。 •  笠原らは、C型肝炎キャリアから抜鍼した鍼体には
HCV(ウイルス量は不明)が付着していることを確認
している。 *楳田高士ほか:B型肝炎ウイルスは抜鍼後の鍼体に付着する.全日鍼灸会誌
52(2) 2002.
*笠原由紀ほか:C型肝炎ウイルスの鍼体への付着性及び綿花のウイルス除去
効果について. 全日鍼灸会誌 54(1) 2004.
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様々なシミュレーション実験からは・・・
•  チンパンジーによる感染実験からは、HBV・HCVのどち
らであっても少ないウイルス量で感染が成立することが
分かっている。 •  B型・C型肝炎患者から抜去した鍼にはウイルスが付
着していることが確認されている。 結論:鍼体には感染を成立させるだけのウイルス量が 付着している可能性がある 第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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B型・C型肝炎の感染対策
今、我々(鍼灸師)がすべきことは何か?
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B・C型肝炎の感染対策
結論はすでにでている・・・
• 標準予防策の徹底 • 滅菌された鍼を使用すること (単回使用がベスト) に尽きる 第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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標準予防策
(standard precaution)
すべての患者の
•  血液、体液
•  分泌物(汗は除く)
•  排泄物
•  傷のある皮膚や粘膜
⇒感染性を有するものとして対応する
CDC; Centers for Disease Control and Prevention (米国疾病予防管理センター)
標準予防策(standard precaution)
項目
鍼灸領域での具体例
手指衛生
施術前後の手洗い、手指消毒
個人防護具の使用
施術時の手袋などの着用
呼吸器衛生・咳エチケット
咳が出る場合はマスクの着用
患者ケアに使用した器材 ・器具・機器の取り扱い
使用後の鍼、酒精綿などの安全な廃棄
周辺環境整備およびリネン 患者の血液などが付着したバスタオル、
の取り扱い
シーツなどの処理(消毒、クリーニング)
患者配置
-
安全な注射手技
-
腰椎穿刺時の感染予防策 -
血液媒介病原体の曝露防
止
針(鍼)刺しが起こらないようなルール作り ワクチンの接種
B型肝炎ウイルスに対する消毒薬の効果
消毒薬
一般 芽胞性
ノロ 結核菌 真菌
HBV HIV
細菌 細菌
ウイルス
グルタラール
○
○
○
○
○
○
○
70%アルコール
○
☓
○
○
△
△
○
次亜塩素酸ナト
リウム
○
○
○
○
○
○
○
ポピドンヨード
○
△
○
○
○
○
○
塩化ベンザルコニ
ウム
○
☓
☓
△
☓
-
-
グルコン酸 クロルヘキシジン
○
☓
☓
△
☓
-
-
○:有 効 ☓:無 効 △:十分な効果が得られない場合がある
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B・C型肝炎ウイルスに対する消毒
手指衛生
•  手指が血液で汚染された場合は、石けんと流水で洗浄 •  速乾性手指消毒薬のみでは不十分
環境表面 •  0.5~1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭 •  消毒用エタノールまたは70%イソプロパノールで清拭 •  基本は2度拭き
器材およびリネン類
•  汚染を水洗除去した後に、 熱水消毒(80℃・10分間) または0.1%次亜塩素酸ナトリウムに30分間浸漬
標準予防策(standard precaution)
項目
鍼灸領域での具体例
手指衛生
施術前後の手洗い、手指消毒
個人防護具の使用
施術時の手袋などの着用
呼吸器衛生・咳エチケット
咳が出る場合はマスクの着用
患者ケアに使用した器材 ・器具・機器の取り扱い
使用後の鍼、酒精綿などの安全な廃棄
周辺環境整備およびリネン 患者の血液などが付着したバスタオル、
の取り扱い
シーツなどの処理(消毒、クリーニング)
患者配置
-
安全な注射手技
-
腰椎穿刺時の感染予防策 -
血液媒介病原体の曝露防
止
針(鍼)刺しが起こらないようなルール作り ワクチンの接種
手袋は針刺し時の血液曝露量を減らす
•  血液または体液の曝露が予想される場合には手袋
などの個人防護具を着用する。 •  手袋の着用は、施術者と患者双方の感染リスクを
減少させる。 •  注射針が手袋を貫通する際に、針に付着した血液
を46~86%減少*させる。
*Mast ST et al:Efficacy of gloves in reducing blood volumes transferred during
simulated needlestick injury. J Infect Dis. 1993 ;168(6):1589-92.
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ニトリル製検査用グローブ
最近は、薄くてフィット感のよいニトリル製グローブが主流
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プ
標準予防策(standard precaution)
項目
鍼灸領域での具体例
手指衛生
施術前後の手洗い、手指消毒
個人防護具の使用
施術時の手袋などの着用
呼吸器衛生・咳エチケット
咳が出る場合はマスクの着用
患者ケアに使用した器材 ・器具・機器の取り扱い
使用後の鍼、酒精綿などの安全な廃棄
周辺環境整備およびリネン 患者の血液などが付着したバスタオル、
の取り扱い
シーツなどの処理(消毒、クリーニング)
患者配置
-
安全な注射手技
-
腰椎穿刺時の感染予防策 -
血液媒介病原体の曝露防
止
針(鍼)刺しが起こらないようなルール作り ワクチンの接種
不衛生な状態での鍼治療とは?
再使用可能な毫鍼
•  未滅菌または滅菌不良鍼の使用 例)高圧蒸気滅菌のし忘れ(取り違え) 高圧蒸気滅菌機の不具合 個人用鍼の取り違え 消毒(アルコール清拭など)のみでの再使用
滅菌済み単回使用毫鍼
•  単回使用を遵守していれば、鍼が媒体となる血液感染 は起こらない。 •  施術者の手指や他の医療機器(物療機器)、周辺環境
(リネンなど)を介しての血液感染は考えられる。 第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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血液透析におけるHBV・HCV感染防止策
HBV, HCVは血液を介して感染する
血液による汚染が起こる可能性のある すべての経路を遮断するよう徹底
• 設備・環境の見直しと改善
• スタッフ全員の教育・訓練の実施
※一人遵守しない職員がいると感染は起こる
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標準予防策(standard precaution)
項目
鍼灸領域での具体例
手指衛生
施術前後の手洗い、手指消毒
個人防護具の使用
施術時の手袋などの着用
呼吸器衛生・咳エチケット
咳が出る場合はマスクの着用
患者ケアに使用した器材 ・器具・機器の取り扱い
使用後の鍼、酒精綿などの安全な廃棄
周辺環境整備およびリネン 患者の血液などが付着したバスタオル、
の取り扱い
シーツなどの処理(消毒、クリーニング)
患者配置
-
安全な注射手技
-
腰椎穿刺時の感染予防策 -
血液媒介病原体の曝露防
止
針(鍼)刺しが起こらないようなルール作り ワクチンの接種
B型肝炎ワクチン 0歳児に3回接種へ (厚労省 予防接種・ワクチン分科会)
記事:2015年1月16日 朝日新聞
•  肝がんや肝硬変に進行する恐れのあるB型肝炎のワクチンに
ついて、厚生労働省の分科会は15日、すべての0歳児に3回
接種する方針を決めた。
•  財源や供給量を検討した上で、早ければ2016年度に予防接
種法に基づく定期接種にし、公費で受けられることを目指す。
•  B型肝炎ワクチンをめぐっては、WHOがすべての乳児への接
種を推奨している。
•  厚労省の部会が12年に「広く接種を促進していくことが望まし
い」という提言をまとめ、接種対象年齢などの検討を進めてい
た。
第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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今後、鍼治療が安心して受けられる 治療であると啓蒙するためには・・・
•  標準予防策の徹底 ⇒とくにグローブの使用 •  滅菌済み単回使用毫鍼の使用 •  施術者のワクチン接種 ⇒とくにB型肝炎ワクチン •  施術環境の衛生管理 ⇒目に見える血液汚染の適切な処理 現状では以上のことが推奨される
第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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まとめ
今後の展開として、以下のことが必要となると 考えられる。 • 鍼灸師養成施設における教育のための安全性
ガイドラインの作成 • 安全性に関する科学的根拠の提示 • 科学的に安全性が担保できない事象について
は、医療現場に準じた対策を講じる。 第64回(公社)全日本鍼灸学会学術大会(ふくしま大会)
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