開催報告 - 公益財団法人 ソニー教育財団

ソニー幼児教育支援プログラム
優秀園実践提案研究会開催レポート
都跡こども園 優秀園実践提案研究会 開催レポート
2015 年 6 月 6 日(土)、2014 年度ソニー幼児教育支援プログラム優秀園の奈良市立都跡こども園において、
優秀園実践提案研究会を開催しました。
研究会概要
(1)
日時:2015 年 6 月 6 日(土) 9:30 ~16:30
(2)
会場:奈良市立都跡こども園
(3)
主題:「科学する心を育てる」
サブテーマ:「子ども自ら遊びを創る」
(4)
プログラム:
1.
公開保育
2.
開会・実践発表・グループ協議
3.
記念講演
4.
閉会
公開保育
<3歳児>
「お家の中で砂や水を使ったごちそう作り」
「泡を触ったり、容器の
中に入れたり、ごちそうにしたりする泡遊び」
「ペットボトル容器に水
を移し替えたり、砂場や机の穴に流したりする水遊び」など、それぞ
れ保育者と一緒に砂や水、泡の感触を存分に感じながら遊んだ。その
中でも水を使った遊びでは、「ジャー」「トポトポ」とそれぞれが感じ
たことを言いながら、ペットボトル容器に入れた水を流したり、砂場
に水や泡を流したりした。水や泡が流れていく様子に興味津々の子ど
もたち。「川みたい!」「もっと入れよう」と保育者に伝えながら何回も運んで楽しんでいた。
<4歳児>
泥だんごを作って築山から転がして遊んだり、いろいろな花びらを使って色
水遊びをしたり、お家の中でごちそう作りをしてパーティーをしたりと、友達
や保育者と一緒に感じたことを言葉で伝え合いながら遊びを楽しんでいた。そ
の中でも樋を使った遊びでは、樋で水を流すコースを作っている5歳児の姿に
刺激を受け、4歳児も築山の反対側で自分たちでコースを作り出した。トンネ
ルの中にも水を流したいと考えていたこともあり、保育者がビールケースを側
に置いておいた。子どもたちとどこに置くか考え、写真のこの形になった。水
を流すと水がビールケースにぶつかってはじけることがおもしろかった様子。
そのはじけた水がビールケースの中に繋がる樋に少しずつ流れていく様子をよ
く見ていた。そして、水がはじけてから樋の中に流すようにするために流し方を変えて何度も試して取
り組んでいた。
無断転載を禁ず。引用する場合は右記を必ず明記願います。「ソニー幼児教育支援プログラム 都跡こども園 優秀園実践提案研究会(C)公
益財団法人 ソニー教育財団 http://www.sony-ef.or.jp/preschool/ 」
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<5歳児>
樋を使った遊び、泡遊び、バーベキューごっこ、ステージごっこ、
など友達と考えを出し合って遊びを進めていこうとする姿があった。
砂場では、できた海(水溜り)にイカダを浮かべようと考えた子ど
もたち。タライを浮かべて乗ることから始まったイカダ遊びは、当日
まで牛乳パックで作ったイカダやペットボトルと組み合わせたイカダ
を考え、試行錯誤して作ってきた。その中で、
「牛乳パックはガムテー
プで留めても水が入るからあかん!」
「ペットボトルには水が入ってな
い!」ことを発見した。「立って乗ったらユラユラする」と足を踏んばったり、「イカダの上で寝てみよ
う!」といろいろな乗り方に挑戦したりしていた。失敗を何度も繰り返しながら、自分たちで新しい方
法を考え遊びを創り出していた。
実践発表
〈子ども自ら遊びを創る〉とは、子どもが遊びのイメージを膨らま
せ、主体的に“ひと・もの・こと”に関わり、興味や関心を深め、友
達とイメージを共有し、試行錯誤して遊ぶ姿だと捉え、遊びの中で、
五感を働かせ、体全体で感じる場面を見逃さず、それが「科学する心」
にどのように繋がるかを見つめてきた。
3歳児からの発達を追いながら取り組む中で、3歳児は、遊びの中
で、偶然起こる不思議と出会い、「あれ?」と感じたことを繰り返し
やってみたり「先生見て!」と伝えたりする姿が多くあり「不思議と出会う3歳児」とした。4歳児は、
遊びの中で感じた不思議を「おもしろい」と感じ、いろいろな方法を試し、その楽しさを先生や友達と
共有する姿が多くあり「不思議をおもしろがる4歳児」とした。5歳児は、「こうなるだろう」と予想
を立てたことが予想通りにいかないことを不思議と感じ、いろいろな方法を繰り返し試していく。それ
が、新たな発見へと繋がっていった。そこで、「不思議から新たな発見へ繋げる5歳児」とし、それぞ
れの年齢ごとに事例を紹介した。
【まとめと課題】
〈子ども自ら遊びを創る〉保育をする中で、子どもがいろいろな不思議を感じることができる環境構成と、
保育者の関わり方で「科学する心」は育つと確信した。3歳児から5歳児の姿を追って、「科学する心」に
視点をあてた実践事例をもちより、子どものつぶやきや表情等を出し合い、カンファレンスする中で、発達
の過程や援助の違いにも気付いた。また、子どもの発見や感性に触れ「科学する心」に気付かされることが
多くあった。なにより子どもが不思議だと感じたことを、保育者自身が子ども以上に、不思議!おもしろい!
と感じるようになった。子どもの「科学する心」を見つめていくことで、保育者の「科学する心」も育って
きたように思う。子どもの楽しさを、保育者が楽しめた時にこそ、子どもの育ちがあるのだということを確
信した。今年度も、昨年度の研究を活かして保育を進めて行きたいと思う。
無断転載を禁ず。引用する場合は右記を必ず明記願います。「ソニー幼児教育支援プログラム 都跡こども園 優秀園実践提案研究会(C)公
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グループ協議
3・4歳児のグループと5歳児のグループの2グループに分かれ、話
し合った。(抜粋)
【グループ協議の視点】
◇
保育での『子どもの自ら遊びを創る』姿について
◇
子どもが遊びの中で“すごい”
“不思議”
“おもしろい”と思い、
繰り返し試したり、工夫したりするための環境構成や保育者の
援助について
(3・4歳児)

子どもの気持ちを受け止め、一番したいこと、感じたことを大切にしていた。思いを十分受け止
める保育者の言葉かけが大切である。

異年齢の遊びが刺激になった遊びとなっている。5歳児の遊びの近くで4歳児が遊び、遊びの様
子を見ながらやりたいことができる。遊びながら確かめられる環境がよい。

やりたいことをできる場所、空間を大切にしている。材料が豊富にあり、やってみたいと思える
環境であった。

遊びの話し合いの場では、明日へ繋げられるような話し合いとなっていた。
(5歳児)

それぞれの遊びの場で子どもたちがとても楽しそうだった。保育者も子どもたちと一緒に遊びの
楽しさを感じていた。

5歳児のこの時期はどんどん関心がでてきて、いろいろな面白さに出会う時期ではないか。

保育者も遊びを体感し、いろいろな用具の特性を活かして遊ぶ子どもたちの姿を受け止め、一歩
先の環境を示していく。

何を面白がっているかを保育者がしっかりと見取り、遊びの中の学び、課題を乗り越える力、諦
めずに何度も挑戦する姿があった。このような姿が今後の小学校教育に繋がるのではなないか。
などの意見が出た。グループでの協議終了後、2グループで司会進行をした方からの発表を通して、皆
の意見を参加者全体で共有した。
記念講演
奈良教育大学教授 横山真貴子氏を講師にお迎えし、
「“不思議”との
出会いから育む科学する心~都跡の子どもの姿から『科学する心』
の育ちをみる~」を演題にご講演いただいた。
公開保育当日(6月6日)に至る3日間の3歳児・4歳児・5歳児
の遊びの様子を、画像を使い丁寧に主題に結び付けて解説してくだ
さり、明日の保育に繋がる貴重なお話をいただいた。
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●都跡こども園が捉えた「科学する心」
都跡こども園では、子どもが自ら遊びを創る姿に着目し、
「科学する心」を水、土、砂と関わる中で出
会う“不思議” から捉えている。“不思議”と出会い、表現し、考える、といった観点から「科学する
心」の育ちを捉えている。では、そもそも“不思議”とは何だろう。調べてみると、
「よく考えても原因・
理由が分からないこと」
(広辞苑)とあり、“不思議”には「考える」といった行為がもとから含まれて
いることが分かる。“不思議”との出会いは、「考える」こととの出会いでもある。
●都跡こども園の環境構成と保育者の援助のあり方
そうした“不思議”との出会いを生む都跡こども園の環境構成と保育者の援助を見てみると、まず環
境構成では、種類や形、大きさも様々な多様な素材が置かれている。予想を超える大きい物や不揃いの
物も敢えて置かれている。今日の保育を見てもらうと分かるように、子ども一人では簡単に扱えない物、
その大きさにワクワクする物、どうしたらいい??と子どもが感じる物など、環境構成が工夫されてい
る。
保育者の援助では、行動を起こす前に、子どもを見取ることを大事にされている。子どもと共におも
しろがることを大切にしている。保育者の先生方の方が、子ども以上に楽しみ、おもしろがっている。
また、子どもの発想を生かし、できるだけ禁止をしない。日頃から「自分が楽しいと思ったことができ
る環境」だからこそ、今日の子どもたちの遊びの姿がある。
●都跡こども園の魅力
ではなぜ、このように、都跡こども園では子どもたちも保育者もいつも生き生きとしているのだろう?
その秘密の1つは、まずピンチをチャンスに変える先生方の前向きな姿勢にある。都跡こども園では、
昨年度、2年保育から3年保育の認定こども園になった。そうした大きな変化の時期に研究に取り組ん
だ。研究を核に教職員が1つになった。
また、本気で夢中なのは、子どもたちだけではない。保育者も本気で夢中、環境構成も援助も真剣勝
負である。保育者がねらいをもって環境を構成しても、子どもたちが使わないこともある。予想とは違
う使い方をすることもある。それを受けとめ、
「この環境ならどうだ!」と子どもたちに挑んでいく。ね
らいをもちつつも、
「子どものため」といったスタンスではなく、保育者自身も「もっとおもしろくした
い!」
「いいこと考えた!」と心を動かし、子どもたちとともに生きている。日々、生活している。そこ
に都跡の魅力があると思う。
●まとめ
・不思議(「科学する心」)との出会いは保育者がつくる。
子どもが不思議と出会う環境を構成することはもちろん大切だが、子どもにとって最も大切なことは、
不思議と出会ったときに、共感してもらえること。おもしろい、不思議だなと思うことが素敵なことだ
と思えること。「そうだね、不思議だね」「そうね、おもしろいね」と保育者と一緒にプラスの感情体験
をすることである。それが、次のおもしろいこと、不思議なことに目を向けることにつながる。共感が
次の「不思議」との出会いを生む。
・不思議をひろげ、ふかめるのも保育者。
不思議との出会いを発展させていくには、保育者がタイミングを見て環境を再構成していくことが必
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益財団法人 ソニー教育財団 http://www.sony-ef.or.jp/preschool/ 」
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要。環境構成においては、
「うれしい、おもしろい、楽しい」と心で感じるだけでなく、体全身で感じる
ことも重要である。“不思議”は頭で「考える」活動であるが、今日の都跡の子どもたちのダイナミッ
クな身体を使った遊びのように、全身を使って“不思議”を体験することも大切だと思う。幼児期は体
を使ってかかわる、体験の教育の時期である。
・“不思議”から学びへ
都跡こども園では、
「科学する心」を“不思議”に着目し、出会い、表現し、考えることの過程を発達
的にみている。表現は、主に言葉による表現を捉えている。幼児期が体験による教育の時期であるなら
ば、小学校教育は、言葉による教育の時期である(無藤,2014)。
“不思議”はそもそも「考える」ことを
含んでいたが、“不思議”との出会いは、言葉を用いて考える、学びの芽生えへとつながる。
・「科学する心」は「生きる」ことにつながる
財団のホームページの「科学する心」の7つを丁寧に見ると、心も体も頭も存分に使うことだと分か
る。まさにそれは、人として生きていく力である。今を精一杯生き、そこに学びの芽生えがある。それ
が「科学する心」と言えるのだろう。
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