June 5,2015

June 5,2015
韓国の中東呼吸器症候群 (MERS) 院内発生に対する大衆の反応は、事業や交通に大きな混乱を引き起こす可
能性あり
要旨
韓国で確認されている中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の感染は、複数の医療機関における感
染拡大により急増しています。今回のMERS流行パターンは、アラビア半島で発生した深刻な院内集団発生と
類似しています。しかし、アラビア半島以外の地域において、また独立報道機関やソーシャルメディアが広く
利用できる国においてMERSが流行するのは今回が初めてのこととなります。そのため、韓国や諸外国では重
大な懸念が発生しています。韓国の医療機関でウイルスが感染拡大を続けるリスクは低く、韓国全体ではさら
に低くなります。しかしながら、今回の流行に対する韓国や近隣諸国当局の反応は、地域全体を通して重大な
事業や交通機関の混乱を生じさせる高いリスクを抱えています。
主要な判断
• MERSの報告症例は韓国内で急増しており、伝染パターンは以前サウジアラビアでみられた流行と類似
しています。
o 人から人への感染は複数の医療機関で発生しています。
o 当局は速やかにMERS感染を報告しましたが、公式な報告書では最も被害が大きかった機関の名
前を開示しませんでした。
o 韓国における患者の大部分は、アラビア半島を渡航した際に感染した旅行者を介した二次感染
例です。ただし、二次感染患者との接触による三次感染の症例も複数確認されています。
o 当局ではこれらの患者と接触した人を1,000人以上特定しており、全員が隔離されるか、あるい
は当局の監視を受けています。
• また、症例の拡大速度や反応の高さに加え、影響を受けた機関名の公表を韓国の保健福祉部が躊躇し
たことから、韓国や近隣諸国では懸念が広がっています。
o 事実、(既知の症例はすべて医療機関にて発生しているにも関わらず)何百もの学校では病気
の拡大を防ぐために閉鎖されています。
o また、台湾当局では、韓国のMERSの脅威に関する渡航警告を発しています。
o 中国や台湾などの各国では、何千人もの人々が韓国への旅行を取り止めています。サムソンは
韓国での従業員会議を中止しました。
o 中国当局やベトナム当局では、韓国からの渡航者に対して検疫も実施しています。
• 現在のところ、MERSコロナウイルスに感染する可能性は極めて低い状態に留まっています。
o 現時点では、ソウル市内外で突発的な大流行に巻き込まれた医療機関は6カ所のみであり、その
中でも最も甚大な影響を受けた機関は閉鎖されています。
o 地域社会で感染するリスクは極めて低く、アラビア半島から持ち込まれた症例と直接関連しな
い感染例は当局によって特定されていません。
韓国におけるMERSの流行
韓国政府は5月20日、アラビア半島から最近戻ってきた旅行者に対してMERSの最初の感染例を報告しました。
この患者は当初、韓国への帰途で乗り継いだカタールに短時間立ち寄った以外は、バーレーンのみを旅行した
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と報告していました。しかしその後の報道では、バーレーン、サウジアラビア、およびアラブ首長国連邦を広
範囲に旅行したことが明らかにされています。患者が5月4日に仁川国際空港 (ICN) に到着した時は何も症状が
出ていませんでしたが、発症後は5月11~20日にかけて4カ所の医療機関を受診しています。MERSに感染して
いることが確認された後、当局は患者をソウル市内の国立大学病院に移送し隔離しました。
韓国の当局者が6月5日に発表したところでは、これまでに発端患者を含めて計41人がMERSに感染しており、4
人が死亡しています。報告によると、そのうち30人は病院B(当局関係者により京畿道ピョンテク市ピョンテ
ク聖母病院と確認)で発端患者への暴露後、MERSに感染しています。発端患者が訪れた他の医療機関でも、
複数の感染症が確認されています。さらに、一部の医療機関従事者の間でも二次感染が確認されています。当
局による報告では、感染した医療従事者が発症後に治療した人のうち、少なくとも5人に対して三次感染も確
認されています。これらの感染例に加え、患者の1人(発端患者と同じ病棟にいる父親を見舞った男性)は、5
月26日に中国の広東省に旅行した後に発症しました。発端患者や感染した医療機関従事者に接触した人数が多
いため、それらの中からさらなる感染例が確認されるのは避けられない見込みです。
今回の感染拡大の規模や速度は、憂慮すべき事態ではありますが、韓国における伝染は依然として(他の国で
も見られた)院内発生のパターンに収まっていることに留意してください。例えば、これまで報告された最初
のMERS流行は、2013年4月にサウジアラビアのフフーフ市で起こりました。当時は、医療現場内で50件以上の
感染が起きたことを当局者が報告しています。また、2014年4月にはサウジアラビアのジッダで180件以上の
感染例が報告されています。大部分は院内感染によって引き起こされたものでした。同年同月には、アラブ首
長国連邦のアブダビでも医療機関従事者の間で30件以上の症例が報告されています。韓国内でこれほど多くの
MERS確定患者が数多くの人と接触したことが、今回の感染拡大の背景にあります。また、近日中にさらに多く
の感染症が確認される可能性があることも示唆しています。しかし、専門家の間では、今回の流行がMERS-CoV
ウイルスの突然変異の結果であることを示すいかなる遺伝子変化も特定されていないとの見方が主流です。
韓国におけるMERS流行に対する反応
国内での病気の蔓延を抑えるため、韓国当局はMERS確定患者と接触した可能性のある1,000人以上の人々を厳
重に監視しています。大部分の人々は自宅で自発的な隔離状態にあり、感染の兆候がないか毎日検査されてい
ますが、中には、予防手段として病院で隔離されている人もいます。さらに、MERS患者1人が自宅隔離から
抜け出して海外へ渡航するといった事態も発生したため、韓国当局は感染者に対する移動制限を検討している
とも伝えられています。
今回の感染拡大は、韓国という独立報道機関やソーシャルメディアが広く普及している国で生じたことによ
り、韓国人の間で重大な懸念を生み出しています。韓国内で確認されているMERS症例はすべて医療現場内に
おける感染事例です。その一方で地方当局は、患者の大部分が住んでいたとされる京畿道をはじめ、ソウル、
テジョン、忠清北道、忠清南道、江原道、慶尚北道、および慶尚南道などの地域で800以上の学校を閉鎖また
は休講にしています。そのような広範囲にわたる地域社会の混乱により、両親が日中は子供の世話に当たるこ
とを余儀なくされるため、事業の混乱も招く見通しです。さらに、MERSへの恐怖のため、何千人もの人々が
韓国への渡航を取り止めています。韓国に本拠地を置くサムスンも、従業員への感染をおそれて従業員会議を
中止しています。台湾当局では、韓国全域について健康上の理由による渡航勧告を出しています。これは基本
的な健康上の注意事項に対する注意喚起に過ぎませんが、必要以上に恐怖心をあおるおそれもあります。
5月26日に患者の1人が中国に旅行にした後は、アジア各国の間でも韓国におけるMERSの流行に対する反応が広
まっています。中国当局は、韓国だけでなく、アラビア、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、アラブ
首長国連邦、イエメン、などの感染が確認されている国からの渡航者に対して、検疫を強化しています。また、
異様なことに、MERS流行が一度も確認されていないイラクもその対象国に含まれています。ベトナム当局の関
係者も、韓国からの渡航者に対する健康調査、体温および症状検査の実施を発表しました。このような入国規制
は、前述の各国からの渡航者が入国する際にも影響が出るため、事業活動や国外への移動に影響を及ぼす可能性
があります。さらに、韓国や前述の各国における事業や渡航を思いとどまらせることにもなりかねません。
結論
韓国のMERS確定感染症は、複数の医療機関における感染拡大を受けて急増しています。今回のMERS流行パタ
ーンは、アラビア半島で発生した深刻な院内集団発生と類似しています。しかし、アラビア半島以外の地域に
おいて、また独立報道機関やソーシャルメディアが広く利用できる国においてMERSが流行するのは今回が初
めてのこととなります。そのため、韓国や諸外国では重大な懸念が発生しています。韓国の医療機関でウイル
スが感染拡大を続けるリスクは低く、韓国全体ではさらに低くなります。
しかしながら、今回の流行に対する韓国や近隣諸国当局の反応は、地域全体を通して重大な事業や交通機関の
混乱を生じさせる高いリスクを抱えています。韓国で確認されている症例はすべて、アラビア半島からの発端
患者が治療を受けた医療現場における感染、発端患者を介した感染、およびその治療に当たった医療従事者の
間における感染に留まっています。当局は最大の感染者が出た機関の名前を公表していませんが、報告による
と、6つの機関で感染例が確認されており、その中でも最大の被害を出した機関は閉鎖されています。当局は
MERS確定患者との接触が確認された人すべてに対して監視を続けており、さらなる感染がないか警戒を強め
ています。ただし、韓国、とりわけ医療現場以外でMERSに感染するリスクは極めて低い状態にあります。
MERSコロナウイルスをはじめ、韓国における最新の感染状況や、国際的に感染が広まる中で事業活動を維持する
ための対策などについては、iJETのWebサイト(www.ijet.com/solutions/health-intelligence)をご覧ください。