一般入試/国語(後期) 出題のねらい

一般入試/国語(後期)
出題のねらい
二は、現代文(論理的文章)の問題です。森林学者
である只木良也氏の『新版 森と人間の文化史』から
出題しました。日本列島の自然環境を保全していくに
は、豊富な森林を中心にすえた様々な対応を検討する
べきとする本書の中から、森林こそが物質循環という
点で優れた体系を有すると主張する一文を問題文とし
二
【解 答】(50 点)
問一
問二
a 依存
b 適合
d 平衡
e 潤沢
Ⅰ ウ
Ⅱ イ
c 人為
(各 2 点× 5)
Ⅲ エ
Ⅳ ア
(各 3 点× 4)
問三
系である。
問四
物質循環とは、森林に生きる生物と周囲の
(4 点)
ました。自然界の物質循環の中で森林が果たす役割の
環境のやり取りで成立するものであるから。
重要性を説く筆者の視点と主張を、的確に読み取れて
無数の部分が集まって大自然を成し、部分
いるかどうかを問う問題です。自然科学的内容を主と
それぞれには嫌でも相互の関連があるから。
する文章ではありますが、一般読者向けに出版された
ものです。大学生入学後に専門的教養を身につける前
段階でのレベルとしては適切なものであると考えられ
ます。環境論的な問題を扱いながらも、文体にも用語
にも、深い専門性を必要とするものは見受けられませ
(8 点)
問五
ウ
(4 点)
問六
物質循環を~っている。
(4 点)
問七
ウ
(4 点)
問八
ア
(4 点)
ん。具体的事例をあげ、言葉を選択しながら繰り返さ 【解 説】
れる筆者の主張を、どれだけ汲み取れるかが分かれ目 問一 漢字問題は全体的にはよくできていましたが、残念
になってくる問題です。
ながら完答はほとんど見受けられませんでした。誤答
として目立つものは以下の通りです。b 「適」 の字
三は、源俊頼著の『俊頼髄脳』からの出題です。ある
和歌の紹介をした文章から出題しました。中国の呉松
孝という人が宮中から流れ出る川で漢詩を書いた柿の
葉を見つけます。心ひかれた松孝は同じような柿の葉
に返しの漢詩を書いて宮中へ流し入れます。漢詩の主
形を正しく書けないもの。c の「為」を「意」とし
てしまうもの。d の「平」を「並」としてしまうもの。
「衡」 の字形を正確に書けないもの。また、「行」
としてしまうもの。e の「潤」を「純」としてしまう
もの。「沢」を「択」としてしまうもの。この設問
に関しては、論理的文章によく見られる語彙を中心
に心ひかれつつも妻をめとった松孝は、のちにこの妻
に設問化しています。漢字学習を単なる知識の蓄
が漢詩の主だった事を知り、夫婦は感動するという話
積としてとらえず、文章を読み解くキーワードを把握
です。平易な古文を読んで、基本的な単語の意味を答
え、文章の内容が説明できたり、現代語訳ができるか
を問いました。
するものとしての側面も持たせた学習をこころがけ
てください。
問二 全体的によくできていました。空欄補充問題は、
例年出題されているとおり、筆者の論旨の展開に関
わる語を出題部分としました。この問題での設問選
択肢は、接続詞である「しかし」を除き副詞です。
一
長文に関する著作権の承諾を得ることができず、
問題を掲載しておりませんので、【解答】
、
【解説】
についても掲載しておりません。
なお、配点は[50点]です。
副 詞が論 理 的 文 章で用いられる場 合、筆 者の意
志や判断を表明しようとする文脈に現れることが多
く、その主張を読者に的確に伝えることを強く意識
した箇所と言えます。文脈の流れに即した使用でな
ければ、文意が大きく損なわれる可能性もあるため、
空欄への正確な補充には、文章全体の構造の把
握が欠かせません。前後の文の関係だけではなく
全体の論旨を踏まえた選択に心がけていれば、正
答が得られるものでした。
問三 全体的によくできていました。段落末尾への欠文
補充問題なので、各段落の内容との照合を注意深
一般入試/国語(後期)
く行った上で、段落と段落の関係、前段落からの
線部は、生態系そのものの安定性を述べた文脈に
論旨の展開を把握することが大切になってきます。
あります。生態系に関する部分的な論述に焦点をあ
次段落冒頭の「では」という語から、筆者の論述
てた選択肢やまとめとしての枠を広く取り過ぎた選択
内容が新しい段階に入っていることが読み取れます。
肢が並記される中から、こうした設問では、より的確
「生態系の安定性」という語句が、直後の段落冒
な記述を選択する能力が試されます。選択肢に提
頭部と呼応している点も大きなヒントとなり、正しい
示された一文が、出題文のどの論述部と呼応する
補充箇所とするのは容易でした。
のかに注意して読み解いてほしいと思います。
問四 文全体の前半部の読解が的確になされているか
をはかる設問です。前半部の論述の中心点である
三
「物質循環」に森林が果たしている役割について、 【現代語訳】
筆者がどう分析し解釈しているかという点を読み取り、 唐土に、呉松孝といった人がいて、この人が、内裏
適切に要約することが必要です。出題文の一部を、 の中から流れでている川の流れに入って興じていたとき
そのまま書き抜いただけの解答が目立ちました。論
に、漢詩を作って書いた木の葉で、川の流れに下って
旨を読み取り自らの言葉で要約することは、論理的
きたのを見つけて、取り上げて見ると、柿の葉で紅葉し
文章を正確に理解するためには重要な作業です。 ていた葉に、漢詩を書いてあると思った。その後に、女
日常的にも、文章に接する際の習慣として身につけ
の筆 跡だと思われたので、どのような人 が 作って書い
ておきましょう。 たのだろうかと、この人のことを知りたくて、 恋心になっ
て、どうしたらよいかもわからなかったので、その漢詩に
問五 よく知られている慣用句であり、ほとんどが正答
応じる漢詩を作って、 同じような紅葉した柿の葉に書い
でした。後段の文章中に一万円札と財布の譬喩表
て、その川の川上から流したところ、宮中へ流れ込んだ。
現があらわれるのも理解の一助となっています。選
その後、その漢詩の女が恋しくなるたびに、この柿の
択肢にあげた慣用句は、日常の表現の中でも頻用
葉の詩を取り出して見て、泣く以外の事はしようがなかっ
されるものですが、多くは正確な理解を得ていると
た。こうして、年月が経つうちに、この宮中に込められ
は言えません。時代変化の中で慣用句の理解も変
て、むなしく年月を送る女が、あまりにも数多くなったので、
遷していくのはよく見られる現象ですが、文脈に照 「気の毒だ。自分を頼りに思って、むなしく年月を送って
らし合わせて筆者がどのような意図でそれを用いて
いる。気の毒な事だ」と帝はおっしゃって、女たちを少
いるかを読み解く能力が必要です。
し、 それぞれ親元に返して、結婚もさせようとして、お
返しになった。その女たちの中で一人の女が、あの松
問六 前半部の論述の中心点である「物質循環」 に
孝も婿として迎えた。松孝は、あの柿の葉に漢詩を書い
ついて、筆者がどう分析と解釈をまとめているかと
た人ばかりが恋しくて、なんとしても、他の女性と結婚を
いう点に理解が届いているかをはかる設問です。よ しようなどとは思われなかったが、親がすすめたことなの
くできていました。しかし、文中からの抜き出し問
で、不本意だが、婿になってしまった。この結婚した女は、
題にもかかわらず、誤字や記号の脱落が目立って
松孝の意のままに従い、しみじみと柿の葉の女を思い続
いたのが残念でした。
ける事が心苦しかったので、寝ても覚めても恋い慕い、
逢えないのを悲しんでいた柿の葉の女の事も、すぐに思
問七 文章後半部の新展開部分でも、筆者は、ここま
い忘れて、日々を過ごすうちに、妻が言ったことは、「あ
での論 述を踏まえた上での発 言を続けています。 なたが物思いをする人の様子に見えたのは、どういうこ
その振り返りを通じた文章全体の読み取りを問う設
となのか。お願いだから、私に隠し事はしないでほしい」
問です。ウのみが、自然界における通常の物質循
と言った。 松 孝は、 応えて言ったのは、「 私は昔、あ
環の各段階を述べた文脈からは外れた、変則的な
の内裏の外で川の流れに興じたことがあった。その時、
状況を述べた部分的言及の中にあらわれます。論
木の葉が水の上に浮かんでいて、それを見ると、女の
理的文章では、主張の補強のために、こうした想
筆跡で漢詩が書かれていた。それを見て、今日の今ま
定される異例の提示が行われることが多く見受けら
で忘れることがない。しかし、
あなたとこうして夫婦になっ
れます。主張の根幹部は文章のどこにあるのかを
た後、特に思い慰められるのだ」と言った。女はこれを
注意深く読む練習をしましょう。
聞いて、「その漢詩はどのようなものだったのか。また、
その漢詩の返事の詩は作ったのか」と言ったので、松
問八 まとめとなる終末部から文章全体を振り返り、その
孝は、「そうだった」と返事をしたところ、女はこれを聞
論旨を理解できているかどうかをはかる設問です。傍
いて、涙が先にたってあふれ、松孝との縁が深かったこ
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とを知った。「その漢詩は私の作った漢詩である。あな
問四 「に」 の識別。正答率は低かったです。傍線部
たの書いた返事の漢詩は、私の手元にある」と言って、
②の「に」は動詞 「なる」 連用形に接続している
それぞれが取り出したものを見ると、互いに自分の筆跡
完了の助 動 詞 「ぬ」 の連用形。 選 択 肢のアとウ
だとわかるのを見て、中途半端な前世からの縁ではない
は格助詞。エは断定の助動詞 「なり」 の連用形。
のだなあといったことを知った。松孝が、「それにしても、
識別問題は、単語一つ一つを見極める能力なので、
どのようにして私の返事の漢詩を手に入れたのか」と言
しっかりと身につけたいものです。
うと、「私は、むなしく月日を送る事を嘆いて、川の畔を
逍遙していた。岩の隙間に、流れ止まった木の葉を見る
問五 理由説明問題。正答率は高かったです。傍線
と、ひとつの漢詩がある。もしかして、かつての私の漢
部の直前の、「この女の、思ふさまにて、あはれに
詩を見た人が、作ったのかと思って、残しておいたので
心ぐるしかりければ」 が正解の該当箇所です。こ
ある」と申し上げた。これを聞くと、夫婦の仲は、前世
れを現代語に換えたものを選びます。
「已然形+ば」
からの宿縁でいい加減に考えるものではないから心ひか
は理由をあらわすことが多くあるので、おさえておき
れあうという事なので、夫婦になることを良いとも悪いと
ましょう。
も決めることはできない。
問六 現代語訳の問題。問一で「詩の和」 が 「漢詩
に応じる返事の漢詩」であることをおさえます。
「か」
【解 答】(50 点)
は疑問の係助詞。「たり」は完了の助動詞 「たり」
問一
A エ
B エ
C ウ
問二
a ウ
b オ
c ウ
d エ
e ウ
(各 4 点× 3)
(各 2 点× 5)
問三
イ
(4 点)
問四
イ
(5 点)
問五
エ
(4 点)
問六
その詩の返事を作ったのか
(6 点)
問七
ア
(5 点)
問八
ア
(4 点)
の連用形。疑問文です。
問七 内容説明問題。正答率は高かったです。形容
動詞 「おろかなり(疎かなり)」 は、「いい加減で
ある」の意。夫婦の仲は前世からの宿縁で不思議
なものだと作者は言っています。
問八 文学史の問題。正答率は低かったです。『俊頼
髄脳』は「髄」「脳」という医学を思わせるような
名をしていますが、歌論書です。選択肢からは鴨
長明著の『無名抄』を選びます。
【解 説】
問一 単語の意味を問う問題。いずれも正答率は高かっ
たです。A「詩の和」 が、 漢詩の返事となる漢詩
であることを文脈から読み取ります。B「をとこをす」
が、
「結婚する」の意であることを文脈から読み取り
ます。Cの動作主体が「女」であることに注目し、
「涙
がさきにたつ」を適切に説明したものを選びます。
問二 動作主体(主語にあたる人)を問う問題。正答
率は6割程度でした。a 詩を書きたりけると、「思ひ
よ」
った人は松孝。b 内裏に流れ込んだのは、柿の葉。
c 柿の葉を手に入れ、恋しく思っては「泣く」 のは
松孝。d 女たちを返したのは内裏の主、つまり、帝。
「返し」 のあとの「給ふ」 が尊敬語であることに注
目します。e 返事をしたのは、松孝。直後の、これ
を受けての動作が「女」であることをヒントにします。
問三 内容説明問題。正答率は高かったです。
「こと事」
が 「異事」 つまり、「柿の葉に詩を書いた人を恋し
く思うこと以外の事」であることを把握します。