Anomaly Labo. Working Paper, 2015-93, August 2015 内外市場における月齢効果の比較 月の満ち欠けは、我々の精神状態を変化させることで、株式市場にも影響を与える。心理学分野での研究 によれば、満月近辺では悲観的な心理状態になりやすい反面、新月近辺は楽観的な心理状態になりやすい。 この結果、株式市場では一般に満月近辺のパフォーマンスが悪く、新月近辺のパフォーマンスが高いとさ れている。しかしながら本稿での分析によれば、満月近辺および新月近辺のいずれも株価パフォーマンス が高くなった。 第1章 はじめに 第2章 各市場における月齢効果 古くから、月の満ち欠けと我々の心理状態につい 本稿では、データ取得の容易性および、実際に投 ては、その関係が指摘されてきた。心理学分野での 資を行う際の投資容易性の観点から、国内大手運用 研究によれば、満月の時には我々は塞ぎ込みやすい 会社である M 社が運用するインデックス型の投資 といわれており(Yuan et.al.(2001))、その結果、欠 信託の 2009 年 10 月から 2015 年 7 月までの日次リ 勤が多く(Sands and Miller(1991))なったり、犯 ターンデータを利用した分析を行う。図1では各資 罪 が起きやす くなる(Lieber(1978)、 Tasso and 産のリターンを月齢別に集計した。また、月齢効果 Miller(1976))ことが報告されている。当然、金融 のトレンドを見やすくするために、月齢±3 日にお 市場の参加者もこの心理的な影響から逃れること ける平均リターンも図示した。 はできないことから、市場で取引される株式などの 価格は月の満ち欠けから影響を受けることとなる。 世界 48 か国の株式市場について分析した Yuan et. al.(2001)によれば、満月近辺の株価リターンは、新 月近辺の株価リターンに比べて 8.3%も低い。また、 こうした株価のリターン格差は、先進国よりも新興 国や小型株、REIT など市場の効率性が低い市場ほ 図1.内外株式の月齢別平均騰落率 日本株 0.6% 0.5% 0.4% 0.3% 0.2% 0.1% 0.0% -0.1% -0.2% -0.3% -0.4% 月齢 月齢3平均 0 ど 大 き く な る ( Yuan et.al.(2001) 、 Ming-Te et.al.(2014))ことが知られている。また、月の満ち 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 先進国株 0.6% 0.5% 欠けの影響は株式市場のみならず、銀やプラチナな 0.4% 0.3% どの貴金属市場でも見られる。 0.2% 月齢 月齢3平均 0.1% このような月の満ち欠けによる資産価格への影 0.0% -0.1% 響を「月齢効果」と名付けることとする。本稿では、 -0.2% -0.3% 0 日本から投資をするという観点にたち、日本株、海 外先進国株、海外新興国株の 3 種類について、円換 2 4 6 8 10 12 確認する。本稿での分析の結果、先行研究同様に新 月近辺の株価リターンが高いことが確認されたほ か、満月近辺にも株価リターンが高い時期があるこ 1 18 20 22 24 26 28 月齢 月齢3平均 0 とが判明した。 16 新興国株 0.6% 0.5% 0.4% 0.3% 0.2% 0.1% 0.0% -0.1% -0.2% -0.3% -0.4% 算でのリターン分析を行ない、月齢効果の有効性を 14 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 http://anomalylabo.jimdo.com/ Anomaly Labo. Working Paper, 2015-93, August 2015 3市場に共通して言えることだが、最もリターンが なお、月齢効果が生じる時期については、市場参 高い時期は新月近辺である。具体的には月齢 24 ぐ 加者の特性の変化などにより、分析対象期間や分析 らいから月齢 2 ぐらいまでの期間の株価パフォーマ 対象資産ごとにある程度の変動があると考えられ ンスは大きなプラスになりやすい。これは先行研究 る。表 1 の期間に株式を買持ちした場合の運用成果 と整合的な結果である。 は図2の通りとなる。図 2 から分かるように、月齢 ただし、先行研究の主張とはやや異なり、満月近 効果は非常に高いリターンを示すとともに、その安 辺にも株価リターンが高い時期が存在する。具体的 定性も高い。その大きさおよび安定性は、数あるカ には月齢 14 から月齢 17 ぐらいまでの時期である。 レンダー効果の中でも特筆すべき水準である。 この満月近辺のリターンは、新月近辺に比べると水 もっとも、分析対象期間は株価が概ね上昇基調を 準が低く、プラスとなる期間も短い。したがって、 たどっていたこともあり、月齢効果が過大に出てい 先行研究と矛盾しない結果の範囲内とも言えるが、 る可能性がある。実際、分析対象期間を長くした場 満月近辺のリターンがプラスになりやすいという 合には月齢効果のリターンが低下することも確認 傾向については、独立して指摘することが望ましい している。しかしながら、特定の月齢時点に大きな と思われる。こうした傾向も踏まえ、それぞれの市 プラスリターンが出やすい傾向には変わりがない 場において月齢効果が生じる時期を本稿では以下 ことから、月齢効果は有用な投資手法となりうるも の表1のように定める のと思われる。 表 1.月齢効果の得られる期間 国内株 月齢 13-17、月齢 24-2 参考文献: 海外先進国株 月齢 14-17、月齢 24-2 Lieber, Arnold, 1978, Human aggression and 海外新興国株 月齢 14-18、月齢 24-2 lunar synodic cycle, Journal of Clinical Psychiatry, 39, p385 Ming-Te Lee, Ming-Long Lee, Bang-Han Chiu 図2.月齢効果のパフォーマンス and Chyi Lin Lee, 2014, Do lunar phases affect 日本株 4.5 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 US REIT returns?, Investment Analysts Journal, NO.79, pp67-78. Sands, JL and LE Miller, 1991, Effects of moon 2015年6月 2015年2月 2014年6月 2014年10月 2014年2月 2013年6月 2013年10月 2013年2月 2012年6月 2012年10月 2012年2月 2011年6月 2011年10月 2011年2月 2010年6月 2010年10月 2010年2月 2009年10月 運用 月齢 BM phase absenteeism, 外国株 6 5 運用 月齢 BM 3 2 Psychological variables Reports. on 69, on human-behavior, Journal of Psychology 93, 2015年6月 2015年2月 2014年10月 2014年6月 2014年2月 2013年10月 2013年6月 2013年2月 2012年10月 2012年6月 2012年2月 2011年10月 2011年6月 2011年2月 2010年10月 2010年6月 0 2010年2月 temporal Tasso J. and Miller, E., 1976, Effects of full moon 1 2009年10月 other pp.959-962 4 pp81-83. Yuan K, Zheng L and Zhu Q., 2006, Are investors 新興国株 3 and 2.5 moonstruck? Lunar phases and stock returns, 2 1.5 運用 月齢 BM 1 Journal of Empirical Finance, 13, pp1-23. 0.5 2015年6月 2015年2月 2014年10月 2014年6月 2014年2月 2013年10月 2013年6月 2013年2月 2012年10月 2012年6月 2012年2月 2011年10月 2011年6月 2011年2月 2010年10月 2010年6月 2010年2月 2009年10月 0 2 http://anomalylabo.jimdo.com/
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