総合研究大学院大学 2015年度 物理科学学生セミナー

[イベントレポート]
総 合研究大学 院 大 学
2 0 15年度 物理 科 学 学 生セミナー
『プレゼンテーション Zen』特 別 授 業
~ 理 系科学者のための
ビジュアル・プレゼンテーション戦 略 ~
よりシンプルに、分かりやすい発表を
理 系 学 生に必須のプレゼンテーションを英 語で学ぶ
大学共同利用機関をはじめとする日本の先端研究施設において、
そこに集まる優れた人材と研究環境を活用し、博士課程の教育を行う
「総合研究大学院大学」。
そのうち物理科学研究科・高エネルギー加速器科学研究科の2研究科が協同で開催する、
「2015年度 物理科学
学生セミナー」が岐阜県土岐市の自然科学研究機構 核融合科学研究所において、2015年7月2日・3日の2日間にわたり開催されました。
本セミナーは「広い視野を備えた物理科学研究者を育成するためのコース別大学院教育プログラム」の一環であり、学生有志による実
行委員会が、自分自身の今後の研究活動に活用できることを学ぶための場として企画運営するもの。5回目の開催となった本年は、核
融合に関連する実験やデータ解析の手法を学ぶ「物理科学演習」と、
プレゼンテーション・スキルの向上を目的とする「『プレゼンテー
ションZen』特別授業およびプレゼンテーション実習」が行われました。日頃は全国の研究施設に分かれて学ぶ大学院生36名が一堂に
集い、貴重な特別講義に学んだ、
その模様をリポートします。
自然科学系の研究者にこそプレゼンテーション技術が必要
本セミナーに参加するのは、素粒子・天文・宇宙・分子・核融合加速
器といった、いわゆる「理系」の代名詞のような専攻に所属する大学
院生です。その学生たちが「今後の研究生活に役立つ内容を」と希望
したのは、プレゼンテーションのスキルを向上させるセミナーでした。
同セミナー実行委員会で実行委員長を務めた、核融合 科 学専 攻の
渡邉一平さんは「研究者として学会発表などを行う立場となる我々に
とって、プレゼンテーション技術は必須のスキル。事前の参加者アン
会場となった、岐阜県土岐市の自然科学研究機構 核融合科学研究所
ケートでも、プレゼンテーションについて学びたいという声が多く寄
せられました」と、学生の高いニーズについて説明しました。
このような学生の要望を受け、担当教員を務めた自然科学研究機構
核融合科学研究所 ヘリカル研究部 高温プラズマ物理研究系 准教授
の後藤基志氏は、理系研究者ではなくプレゼンテーションそのもの
のプロフェッショナルを講師に迎える特別授業を企画。アドビ システ
ムズ社の協力により、世界的ベストセラー『プレゼンテーションZen』
の著者であり、プレゼンテーションの実施・指導における第一人者で
ある、ガー・レイノルズ氏による特別授業の開催を実現しました。
壇上でセミナーの開催 趣旨などについて話す、物理科学学生セミナー実行委
員会 実行委員長を務めた、核融合科学専攻 渡邉一平さん
た内容を読み上げるだけのプレゼンテーションを捨てましょう。効果
的にビジュアル要素を利用し、聞き手の感情や想像力に訴えかける
べき」と述べ、その具体的な手法についての講義が始まりました。
まず氏は、ビジュアル・プレゼンテーションは、禅の教えにも通じる
『抑制』『シンプル』『自然さ』が重要と説明した上で、良いプレゼ
ンテーションを作り上げるためには「Preparation(準備)」「Design
(スライドデザイン)」「Deliver y(発表)」の3段階でそれぞれ留意
すべきポイントがあることを説 明しました。まず「Prep ar ation(準
備)」においては、聴衆に何を伝えたいのかを簡潔にまとめ、ストー
リーを作る必 要があります。次に「Design(スライドデザイン)」段
セミナーの担当教員を務めた、自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル
研究部 高温プラズマ物理研究系 准教授 後藤基志氏
階では、ストーリーを一瞬で視覚的に伝えられるように、
「フォント」
「データ(チャート)」「イメージ(写真)」「ビデオ(映像)」の4要素
を駆使することが大切です。「フォント」の面では、聴衆にストレスを
一般にプレゼンテーションというと、ビジネスやコミュニケーションの
与えることなく情報を伝えることが重要であり、読みやすい文字であ
場で用いられるイメージがありますが、後藤氏は「研究者こそ、ビジュ
ることはもちろん、サイズや配置、文字色などにも気を配るべきと説
アル要素を最大限に生かしたプレゼンテーションのスキルを身に付
明する氏。一方「データ(チャート)」の説明では、物理系分野でよく
ける必要がある」と話します。「まず学会や国際会議での発表では、
見られるように、詳細なデータを掲載したスライドを用いると、聴 衆
決められた時間内に効率的に研究内容を伝えることが重要です。そ
はデータを読み解くことばかりに集中してしまい、話者への関心が薄
のためには図や写真を効果的に用いたビジュアル・プレゼンテーショ
れてしまうと警告。データは後に配布することを述べ、聴衆をプレゼ
ンがもっとも効果的と言えるでしょう。またアカデミックポストの採用
ンテーションに集中させることが大切だと述べました。
面接においても、同様のスキルは有利に働くはずです」。さらに学際
的研究が強く求められる現在、他分野の専門家と適切なコミュニケー
ションをとり意見やフィードバックを引き出す力、つまり専門的な研究
内容を分かりやすく伝える高度なプレゼンテーション・スキルも求め
られるようになっていると氏は説明します。また、例えば円滑な研究
実施のためには施設周辺の地域住民の理解と協力が不可欠であるよ
うに、研究に対して十分な知識を持たないステークホルダーに対して
も、研究の正当性や重要性を伝え共感を得ることが必要となる場合
があります。そのとき大きな効果を発揮するのも、視覚的に訴える力
を持つプレゼンテーション・スキルなのです。
続いて「イメージ(写真)」については、聴 衆の興味や共感を得るた
めに重 要であり、同じテキストでも背景の画 像を変えることで意味
合いが違ってくる例を紹介しました。またアニメーションを含む「ビ
デオ(映像)」は、複雑な内容を分かりやすく端的に聴衆に伝えられ
るため、物理系分野のプレゼンテーションにおいては有効だと説き
ました。また最後の「Deliver y(発表)」の段階では、話題を繋ぐ際
「And」ばかりを多用することは避け、
「But」や「Therefore」といっ
た言葉を使うことでメリハリのあるプレゼンテーションになるという
具体的なアドバイスを行いました。
最 後に氏は「ビジュアル・プレゼンテーションは実 践することが大
聞き手の感情に訴えるプレゼンの極意は『シンプル』
2日間にわたり開催されたセミナーは、初日である7月2日にガー・レイ
切。在学中に得たスキルはグローバル 社 会において大きな 武 器に
なるでしょう」と励ましのメッセージを述 べて、特 別 授 業を結 びま
した。
ノルズ氏による特別授業、および核融合に関連する研究を体験する
グループワーク「物理科学演習」を実 施。翌3日は、レイノルズ氏の
授業で得られた知見を生かしながら、
「物理科学演習」で体験した
実験・解析の内容をわかりやすく紹介するプレゼンテーションに取り
組むという流れで、前日の学びをさらに深めました。
「これまで受けたプレゼンテーションの中で一番良かったものと悪
かったものは?」。ガー・レイノルズ氏による、物理系科学者のための
プレゼンテーション・スキル向上の講義は、氏のこんな問いかけから
始まりました。学生から良かったものとして「聞き手を意識していた」
「威厳があった」、悪かったものとして「時間が長すぎた」「自信な
さげだった」「ひとつのスライドに情報を詰め込み過ぎていた」など
の回答が挙げられると、氏は「退屈なプレゼンテーションは、話し手
が一方的に情報を伝えているだけ。ありがちな、スライドに記載され
開会の挨拶を行った、自然科学研究機構 核融合科学研究所 所長 竹入康彦氏
画像やイラストを多用する『プレゼンテーションZen』について講義を行った、
ガー・レイノルズ氏
学生は、初めて体験するレイノルズ氏のビジュアル・プレゼンテーションに聞き
入っていた
学んだスキルを活かし、本番を意識したプレゼンに挑む
られたと思う」と、成功の理由を振り返りました。また同グループで同
特別授業を受講した後、学生は5、6名ごとの班に分かれ、核融合に
専攻の深津亜里沙さんは「スライド制作・画像編集・データ処理など
関する実験や解析を行う「物理科学演習」を実施して初日は終了。翌
の作業は、5人の班員がフレキシブルに役割を交代しながら分担でき
2日目は、前日に演習で学んだ内容を班ごとにまとめて発表する「プ
た」と述べ、基本的なスキルを備えた大学院生だからこそ、講義で学
レゼンテーション実習」が行われました。実習のゴールは、レイノルズ
んだ新しい考え方をすぐに取り入れ、より高度な発表資料作成が短
氏を審査員とするコンペ形式の発表会です。採点の基準には、レイノ
時間で実施できたことをうかがわせました。
ルズ氏の講義内容を踏まえたわかりやすいビジュアル・プレゼンテー
ションであることに加え、アカデミックポストの採用面接を想定し「昨
日自班の学んだことがどれだけ重要なものかを伝えるものであるこ
と」との項目も付け加えられました。また、発表は原則として英語によ
り行い、発表時間も日本物理学会の口頭発表と同じ10分間に設定す
るなど、本番を意識させる条件が工夫されました。
学生らは前日の演習終了後から発表準備に取り組み、実習のデータ
処理から発表のシナリオ作り、スライドの作成まで、様々な作業を協
力し合ってこなしていきました。10時から始まった発表会では、短い
時間に集中して取り組んだ甲斐あって、演劇風の設定を用いる班、ス
ライドにアニメーションを使用する班など、全グループがそれぞれ特
色ある工夫を盛り込んだビジュアル・プレゼンテーションが披露され
ました。
発表風景。短い準備時間ながらすべての班がビジュアル・プレゼンテーション
に挑戦した
その中で優 勝したのは、
「プラズマの温度を測ってみる -プローブ測
定入門-」を発表したグループ。プラズマの物質としての状態の解説か
ら始まり、非常に高温であるプラズマの温 度を計 測するための機 器
や計測方法などを、グラフやイラスト、写真を用いながら発表した内
容が「シンプルかつ分かりやすいスライドで、話の内容が理解しやす
い」と評価されました。さらにレイノルズ氏は、聴衆を強く意識した分
かりやすい発表だった点も高く評価。一方で発表時にレーザーポイン
ターを使用していたことについては「聞き手はレーザーポインターが
指すスライドばかりに集中し、話し手に注目しなくなってしまう」と改
善点も指摘しました。発表を行った構造分子科学専攻の榎本孝文さ
んは「氏から教わったコツをふまえ、シンプルでありながら内容を過
不足なく表現できる発表資料づくりを心掛けた。実習で学んだ核融合
は専門外だが、それだけに聞き手の立場になって分かりやすくまとめ
プレゼンテーション実習で優勝した班には、レイノルズ氏のサイン入り著書が
贈られた。レイノルズ氏もメンバーを記念撮影
学生・教員の意識を変えた『プレゼンテーションZen』
セミナー終了後、参加した学生からは、
「本格的なビジュアル・プレゼン
テーションを初めて体 験した。授 業で学んでいたものとはまったく異な
り、シンプルで分かりやすかった」(加速器科学専攻 玄知奉さん)、
「デ
ザイン的な面をどのように考えるべきかのヒントが得られた」(宇宙科学
専攻 仲内悠祐さん)、
「海外のプレゼンテーションは日本のそれと異なっ
ており、何が違うのかと常々考えていた。参加してその理由が分かった気
がする。同時に、日本人でも工夫次 第で効果的なプレゼンテーションが
行えると実感した」(宇宙科学専攻 高橋葵さん)といった感 想が寄せら
れ、得られた手応えの大きさをうかがわせました。また刺激を受けたこと
で、
「明確なゴールを定め、聴 衆を意識した構成で展開する点が参 考に
なった。アカデミックなプレゼンテーションではさらに、原因‐結果の関
係や筋道立った論理構成などを工夫し、自分なりのスタイルを作る必要
があると感じた」(宇宙科 学 専 攻 狩谷和季さん)など、自分なりのプレ
ゼンテーションに対する考えを深めるきっかけにもなったようです。担当
教員の後藤氏も「学生は1回の講義を受けただけでプレゼンテーション
に対する意識が変わり、レイノルズ氏のスキルを素早く吸収し活用してい
た」と、今回のセミナーがもたらした効果を高く評価しました。
セミナーの最後に、レイノルズ氏を囲んで全員で記念写真を撮影
Photoshopのヘビーユーザーであるという縁もあって、アドビ システムズ
社が企画協力した今回の講義に賛同し、協力させてもらった」と説明し
ました。一方で「ただ今回の講義を行うにあたって、学生がAdobeのソフ
トウェアを活用していない事 実を知り、驚いた」とも語り、
「『プレゼン
テーションZen』を実践するためには、グラフィックデザインのグランド
ルールを知り、表現する機会が重要。そのためにもAdobe製品は欠かせ
ないツールである。理系、文系を問わず、世界に通用する学生のプレゼン
テーション・スキル向上のために、アドビ システムズ社には今後もこのよ
また同席した教 員からも「カルチャーショックを受けた」( 素 粒子原子
うな機会を設けていくことを期待したい」と今後の課題について意見を述
核専攻 教授 橋本省二氏)、
「レイノルズ氏の話術に感銘を受けた」(宇
べました。
宙科学専攻 准教授 足立聡氏)、
「日頃ぼんやりと感じていた、プレゼン
テーション・スキルの良し悪しを、はっきりと認識することができた」(素
粒子原子核専攻 研究機関 講師 板倉数記氏)などの感想が寄せられ、現
役の研究者にとっても有益な情報であったことをうかがわせました。
グローバル化が進む現代社会においては、研究者もまた国際協力・国際
競争の波にさらされています。学会や国際会議での発 表はもちろん、研
究職を目指す学生にとっては、アカデミックポジションもまた海外の研究
者と競うことになります。レイノルズ氏が提唱するビジュアル・プレゼン
多 忙 なスケジュール の 合 間を縫って 2日間 の 講 師を 務 めたレイノルズ
テーション・スキルの有効性は、ビジネスの世界に限定されるものではな
氏 は 、その 経 緯 について「『プレゼ ンテーションZ e n 』で 述 べ ている
く、こうした知的クリエイティビティを必要とする分野に共通して求められ
内 容 は 、科 学 者にとっても役 立つスキルであり、また 私自身 がA d o b e
るものだと言えるでしょう。
ガー・レイノルズ氏 著
『プレゼンテーションZen』特別授業
で触れられたTips
「Presentation Zen」シリーズ
「プレゼンテーション Zen」第2版
● Preparation(準備)
発行:丸善出版
2,600円+税
・核となるテーマを定める
・アイデアを形にする際には、直接パソコン
に向かうのではなく、紙とペンのようなア
ナログ的なツールを活用する
● Design(スライドデザイン)
「プレゼンテーション Zen デザイン」
・プレゼンソフトのひな型を使わない
発行:丸善出版
2,400円+税
・スライドには重要な内容のみを記載する
・スライドには発表内容に即した画像を背
景一面に敷く
・文字にメリハリをつけ見やすくする
・話の序盤に状況設定とイントロダクショ
ン、中盤にメソッドや結果を挙げ、終盤に
ディスカッションを行う構成を設定する
「裸のプレゼンター」
発行:丸善出版
2,300円+税
● Delivery(発表)
・話を進める上では「And」を多用せず、
「But」や「Therefore」を効果的に使う
セミナーを 受 講した 学 生 による
プレゼン資料の改善例
アドビ システムズ 株式会社
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