福澤諭吉記念文明塾 コア・プログラム 第 15 期 小論文出題 次の設問に対する志願者自身の考えを別紙の解答用紙に述べてください。 【 設問 】 次の文章は『学問のすゝめ』の一節です。社会におけるミドルクラスの現状と、慶應義塾の役割 について福澤諭吉は論じていますが、ミドルクラスのあるべき姿について、あなたの意見を自由 に記して下さい。(1000 字程度) おい か しゅしょう 今我国に於て彼の「ミッヅルカラッス」の地位に居り、文明を首 唱 して国の独立を維持すべき者は、 あるい 唯一種の学者のみなれども、この学者なるもの時勢に付き眼を着すること高からざるか、 或 は国を うれう うれう ごと ひ た すら 患 ること身を 患 るが如く切ならざるか、或は世の気風に酔い只管政府に依頼して事を成すべきも おおむね やす か ん と おもむ さ ま つ いたずら のと思うか、 概 皆その地位に安んぜずして去て官途に 赴 き、些末の事務に奔走して 徒 に身心 いえど みず また はなはだ を労し、その挙動笑うべきもの多しと 雖 も、自からこれを甘んじ、人も亦これを怪まず、 甚 しきは野 い け ん いい よろこ もと しか に遺賢なしと云てこれを 悦 ぶ者あり。固より時勢の然らしむる所にて、その罪一個の人に在らずと いえ 雖も、国の文明のためには一大災難と云うべし。文明を養い成すべき任に当りたる学者にして、そ うれ ちょう た い そく つ う こく の精神の日に衰うるを傍観して之を患うる者なきは、実に 長 大息すべきなり、亦痛哭すべきなり。 わずか 独り我慶應義塾の社中は、 僅 にこの災難を免れて、数年独立の名を失わず、独立の塾に居て独 いえど 立の気を養い、その期する所は全国の独立を維持するの一事に在り。然りと 雖 も、時勢の世を制 いきおい き つ りつ もと やす あら するや、その力急流の如く、又大風の如し。この 勢 に激して屹立するは固より易きに非ず、非常の あら し なび やや おそれ 勇力あるに非ざれば知らずして流れ、識らずして靡き、動もすればその脚を失するの 恐 あるべし。 そもそ より あら 抑 も人の勇力は、唯読書のみに由て得べきものに非ず。読書は学問の術なり、学問は事をなすの あら すで 術なり。実地に接して事に慣るゝに非ざれば、決して勇力を生ずべからず。我社中既にその術を得 か ん なん おか たる者は、貧苦を忍び艱難を冒して、その所得の知見を文明の事実に施さゞるべからず。その科は いとま 枚挙に 遑 あらず。商売勤めざるべからず、法律議せざるべからず、工業起さゞるべからず、農業勧 およ ことごと めざるべからず、著書、訳術、新聞の出版、凡そ文明の事件は 尽 く取て我私有と為し、国民の先 か を為して政府と相助け、官の力と私の力と、互に平均して一国全体の力を増し、彼の薄弱なる独立 ほこさき ごう を移して、動かすべからざるの基礎に置き、外国と 鋒 を争て毫も譲ることなく、今より数十の新年 かえりみ びんしょう を経て、 顧 て今月今日の有様を回想し、今日の独立を悦ばずして、却てこれを愍 笑 するの勢に至 あに よろ るは、豈一大快事ならずや。学者宜しくその方向を定めて期する所あるべきなり。 以 上
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