藤村 隆氏に聞く - 不動産証券化協会

Special
●トップインタビュー
ジャパン・シニアリビング投資法人
ジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社
代表取締役社長
藤村 隆氏に聞く
ジャパン・シニアリビング投資法人(証券コード:3460 )
が 、2015 年 7 月29 日 、東京証券取引所に上場
しました。本投資法人は、健康長寿社会の実現に資するヘルスケア関連施設に選別して投資することにより、
「 健康長寿社会 」の実現に寄与し、社会への貢献を果たすことを資産運用の基本的な考え方としています。
ヘルスケア関連施設は、高齢化社会を支えるインフラとしての高い成長性と社会性と共に、Jリート市場に
おいては投資対象の多様化という点からも大きな注目を集めています。
資産運用会社であるジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 藤村 隆 氏にお
話を伺いました。
(インタビューは2015 年 11 月に実施 )
―ヘルスケア施設特化型リートでは3番目の上場と
アリートが誕生する可能性はあるでしょうか?」という質
なりました。上場までの経緯を教えてください。
問をしました。すると岩沙会長から「日本の高齢化社
私は、1985年に新生銀行(当時、日本長期信用銀
会を支えるヘルスケア施設の整備は社会的な課題であ
行)
に入行し、J-REIT が発足した2001年頃から一貫
り、ヘルスケアリート創設の意義は高いのでは」という
して不動産証券化業務に携わってきましたが、遊戯施
お答えがありました。この瞬間、私の中で「ヘルスケア
設、温浴施設、結婚式場、斎場等様々な種類のオペ
リートを立ち上げよう!」という目標が設定されたので
レーショナルアセットが証券化の対象として試みられる
す。そして、新生銀行の中に社内ベンチャーとして「ヘ
中、2004年に有料老人ホームの証券化案件を手がけ
ルスケアファイナンス部」を創設し、ヘルスケアリートの
たことがきっかけで、ヘルスケア施設というオペレーショ
設立に向け全力投球してきました。
ナルアセットの面白さと奥の深さに魅かれていきました。
そのプロセスにおいては、ARES の一貫した強力な
つまり、ヘルスケア施設は、オペレーター業界が未成熟
サポートがあったことを皆さんにお伝えしたいと思いま
な段階にありファイナンスのノウハウも確立されていない
す。特に2011年11月東京大学安田講堂で開催され
反面、高齢化社会において確実な成長性が見込まれ
た「医療介護と連携した住まいの整備とその課題」と
る点、社会的インフラとして社会貢献性の高いビジネス
いう公開フォーラム、2012年のヘルスケアリートの設立
である点や、不動産投資と事業投資の性質を併せ持
啓発のための国交省と金融庁による検討委員会(有
つハイブリッド型の投融資である点にやりがいを感じ、
識者会議 )、2014年のヘルスケアリートガイドラインの
以後試行錯誤を繰り返しながら市場の開拓とノウハウ
策定は、いずれもARES が事務局としてその活動を
の蓄積をしてきました。
支えたもので、ヘルスケアリート実現の原動力となって
その後今から約5年前、ARES の定時社員総会時
います。
のレセプション会場で私は岩沙会長に「米国ではヘル
スケアリートが大きな存在感を示しているのに、なぜ日
―多種多様なヘルスケア関連施設への分散投資
本にはヘルスケアリートはないのか、日本でもヘルスケ
を投資方針として掲げていますが 、具体的に教
November-December 2015
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Special
えてください。
施設タイプ、地域、オペレーター、規模ともに分散の
効いたポートフォリオを構築し、中長期的な安定運用を
目指しています。
―オペレーターとのパートナーシップに基づく成長
戦略( ORE 戦略 )
は、どういった内容ですか。
「 ORE 戦略 」
とは、ヘルスケア関連施設のオペレー
ターと本投資法人が共に成長するために、その運営
現状、いわゆるシニア向け施設といえば、要介護者
する不動産( Operator Real Estate )
を最有効活用
向けの施設が大半を占めていますが、団塊世代の高
し、新規施設の開業等の不動産の運用に関するソ
齢化に伴い、自立者向けの施設需要が今後大きく伸
リューションの提供を行う戦略のことをいいます。本
びると見込んでいます。シニアリビング施設の収益構
投資法人は、オペレーターの資金調達ニーズ、バラン
造を踏まえ、プライベードペイ(自己負担部分 )
とパブ
スシートのスリム化のニーズや事業の拡大や効率化の
リックペイ( 介護保険 / 健康保険 )
に対する依存度合
ニーズに対し、資産保有機能により施設のセール・ア
いを考慮し、介護保険制度に依存しない自立高齢者
ンド・リースバックの機会を提供します。また、オペレー
向け施設も積極的に取り入れていることで制度リスク
ターの新規施設の開発ニーズに対しては、本資産運
をコントロールし、キャッシュフロー上も分散効果が期
用会社が有する知見・ノウハウやスポンサー会社の開
待できると考えています。
発機能等を活用した開発ソリューションを提供するな
その上で、ポートフォリオは有料老人ホームやサ高
ど、オペレーターに対する様々なソリューション・サポー
住をメインとした「シニアリビング施設 」を全体の70%
トの提供を行います。ORE 戦略の具体例として、琵
以上とし、病院や医療モールなどの「メディカル施設 」
琶湖の西岸に位置し、384 室という日本最大級の規模
を30%以下として構築する方針です。
を誇る「アクティバ琵琶 」という老人ホームがあります。
地域の分散については、後期高齢者の絶対数の
この施設は自立者向けの高級老人ホームとして開業
急増が見込まれる三大都市圏及び中核都市圏に
しましたが、開業後 20 年を経て入居者の高齢化が進
80%以上投資を行い、その他の地域についてもコンパ
み、要介護者の割合が徐々に増加しました。自立者
クトシティや地方創生を推進する国、地方自治体の政
向けのビジネスモデルとして限界が来ていたため、銀
策を背景に一定程度投資します。
行の融資を担当していた私は、新たに介護専用の別
施設を運営するオペレーターについては、現状 14
棟の建設を提案し、7 年前に竣工、開業しました。い
物件で11 社に分散しています。業界大手のオペレー
わゆる日本版 CCRC( Continuing Care Retirement
ターに加えて、特定の地域において安定した事業基
Community )
と呼ばれるモデルの先駆けですが、こ
盤を有している当該地域のトップクラスの実績を有す
れにより、要介護状態になった入居者は介護専用棟
る中堅クラスの事業者も取り込んでおり、今後も積極
に移り住み手厚い介護を受けることが出来ます。上
的に起用する方針です。
場時のポートフォリオにはこの様な ORE 戦略を活用
最後に、規模の分散ですが比較的大規模な施設
して取得した施設が10 施設ありますので、今後もこう
を積極的に取り入れ、規模の分散を図っています。
いった手法を取り入れながら資産規模の拡大を図って
上場時のポートフォリオ14 物件における平均取得価
いきたいと考えています。
格は約 20 億円ですが、50 億円以上の施設を1 物件、
20 億円以上の施設を3 物件組み入れています。運
営の安定性や収益性、あるいは取得時の効率性も考
てください。
えた際、シニアリビング施設も一定のスケールメリットが
本投資法人はケネディクス株式会社を中心に、株
必要と考えています。
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―スポンサーの役割とサポート体制について教え
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.28
式会社新生銀行、株式会社長谷工コーポレーション、
トップインタビュー: ジャパン・シニアリビング投資法人
ジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社
代表取締役社長 藤村 隆氏に聞く
三菱 UFJ 信託銀行株式会社、株式会社 LIXIL グ
ループ、損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式
会社といった業種の異なる実績豊富な6 社のスポン
サー会社との間でスポンサー・サポート契約を締結して
おり、優先交渉権、情報提供、人的サポート、バック
アップオペレーターや財務等でのサポートを受けること
ができます。これが、本投資法人にとって最大の強み
となっています。ケネディクス株式会社は、不動産投
資信託証券市場に上場している5つの投資法人のス
ポンサーの実績がある不動産投資のプロフェッショナ
ルです。株式会社新生銀行は、有料老人ホームを中
ジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社
代表取締役社長 藤村 隆氏
心としたヘルスケア関連施設に対してノンリコース・ロー
ンの提供や証券化業務を行い、ヘルスケアファイナン
スに先端的に取り組み、確かなリスク分析力とリスクマ
ネジメント力を有しています。三菱 UFJ 信託銀行株
両立を目指しています。高齢者が健常時から移り住
式会社は、不動産仲介・不動産管理処分信託で国内
み、要介護になった場合には、手厚いケアや介護サー
トップクラスの実績があります。
ビスを受けながら生活を続けることが出来る日本版
また、損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式
CCRCもその一つです。
会社はワタミの介護株式会社を買収することを発表
すでに上場時のポートフォリオには、この様なポート
し、大手介護事業者である株式会社メッセージへの
フォリオの施設が5施設含まれており、CCRC の先が
資本・業務提携するなどヘルスケア事業へ積極的に取
けとも言える「アクティバ琵琶」(滋賀県大津市 )
や、
り組んでおります。
UR 団地の再生案件である「ゆいま~る聖ヶ丘」(東
スポンサーのうち株式会社長谷工コーポレーショ
京都多摩市)
などを組み入れています。また、商業テ
ン、株式会社 LIXIL グループ、損保ジャパン日本興
ナント、医療モール、有料老人ホームで構成された複
亜ホールディングス株式会社の3 社は子会社を通して
合施設「アルファ恵庭駅西口再開発ビル」(北海道
全国でシニアリビング施設 79 施設・約 4,500 室の運営
恵庭市)
のような、コンパクトシティ化構想に基づく地方
を行っており、そのうち自己保有している施設は20 数
都市の再開発物件の取得も積極的に検討していきま
施設あります。本投資法人はこれらの案件に対して
す。
優先交渉権を有しており、ORE 戦略に加え、スポン
効率性や収益性に加え、上場 REIT の公益性とい
サー・サポート力を活かしたパイプラインの充実という点
うことも考えると、REITという仕組みを利用し、社会
も今後の継続的かつ安定的な外部成長を支える本
貢献することが重要と考えています。自治体とも連携
投資法人の強みとなっています。
して地方創生の一助となれるよう、REIT の成長性と
社会のニーズを両立させていく方針です。
―国の政策や社会のニーズと歩調を合わせた成長
今後も資本市場とヘルスケア業界をつなぐ担い手と
戦略について教えてください。
して、本投資法人のステークホルダーである利用者、
地方創生やコンパクトシティといった国の施策や社
オペレーター、そして投資家の皆様の満足度の最大
会的ニーズに対応した投資により、成長と社会貢献の
化を追求することにより、社会に貢献したいと考えてい
ます。
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