[第3回]クレジット購入企業の社長に聞く ~株式会社アユセン~(PDF

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第3回
クレジット購入企業の社長に聞く
~株式会社アユセン~
これまでの 2 回 のコラム(2015 年 8 月 5 日 、10 月 7 日 配 信 )では、J-ク
レジットを「買 う側 」、「売 る側 」、それぞれの立 場 で基 本 的 なルールや条 件 、
考 え方 、メリットについて紹 介 しました。
今 回 は、実 際 に CO 2 クレジットをご購 入 された企 業 経 営 者 に、購 入 のきっ
かけや活 用 方 法 、そこでの苦 労 、今 後 の展 望 についてインタビューさせてい
ただきま した。ク レジットの 購 入 に ご関 心 のある 事 業 者 は、ぜ ひご一 読 く だ
さい。
■インタビュー企 業 の概 要
社 名 :株 式 会 社 アユセン
http://ayusen.jp/
所 在 地 :愛 知 県 豊 川 市 御 津 町 御 馬 中 島 128-1
代 表 者 :石 黒 円 (※インタビューご対 応 者 )
事 業 内 容 :養 殖 鮎 「ハーブあゆ(商 標 登 録 )」の生 産 、加 工
資 本 金 :1,000 万 円 、従 業 員 数 :24 人 (パート含 む)
■「ハーブあゆ」について教 えてください。
これは 水 産 物 全 般 に いえ ることですが、一 般 消 費 者 の 皆 様 に は、「 養 殖
より、天 然 のほ うが美 味 しく て安 全 」 とい う認 識 があります。そ の 全 て が間
違 いとは申 しませんが、少 なくとも安 全 性 については、「天 然 ものだから安
全 」と鵜 呑 みにするのは極 めて危 険 だと思 います。
例 えば、近 所 の川 の水 をあなたは飲 めますか?最 近 は川 の水 もだいぶき
れいになったといわれますが、それでもやっぱり飲 むのは躊 躇 する方 が大 半
ではないかと思 います。上 流 の澄 んだ水 であっても、天 候 や気 候 の 変 化 に
よって、あるいは時 に人 為 的 な開 発 活 動 の影 響 により、その水 質 は大 きく変
動 しています。
その点 、当 社 が使 用 している水 は、かつて全 国 の一 級 河 川 水 質 調 査 で第
1 位 を取 ったこともある豊 川 水 系 の地 下 25~200m の良 質 で豊 富 な地 下 水
です。飲 料 用 水 質 検 査 も受 けています。安 全 で高 品 質 な水 を安 定 的 に確 保
できていることは、ハーブあゆを育 てる上 で絶 対 に不 可 欠 な条 件 の一 つで
す。
美 味 しさの点 についても、天 然 鮎 はよく「スイカの香 りがする」といわれま
すが、当 社 のハーブあゆも養 殖 鮎 でありながらスイカの香 りがします。その
理 由 は、ガーリックやジンジャー、シナモンなど 5 種 類 のハーブエキスを配 合
した餌 を食 べさせ、加 えて背 脂 を極 限 までおさえることに成 功 したからです。
これにより天 然 鮎 にも勝 る味 と香 りを実 現 しました。
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2015.10.30
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■環 境 に対 する取 り組 み、J-クレジットを知 ったきっかけは?
当 社 には 5 つの分 場 (池 )があり、他 に商 品 開 発 加 工 場 と出 荷 センターが
あります。これらの施 設 をフル活 用 して、ハーブあゆの生 産 から加 工 、出 荷
まで一 貫 した育 成 、防 疫 、鮮 度 の品 質 管 理 を行 っています。また、工 程 のひ
とつひとつに商 品 の安 全 性 を確 保 するという強 い自 覚 をもって取 り組 むた
めに、鮎 養 殖 業 界 で初 めて生 産 履 歴 を証 明 する JAS(日 本 農 林 規 格 )認 定
を取 得 しました。
古 い業 界 の中 で、こうしたさまざまな取 り組 みを行 ってきたのは、経 営 理
念 「お客 様 に安 心 して食 していただけるおいしい鮎 の育 成 を通 じ、豊 かな生
活 に貢 献 する」の実 現 のため、その一 心 に尽 きます。義 務 だけこなしていて
は他 社 と同 じになってしまいます。自 ら高 い目 標 を掲 げ、それに挑 み続 ける
ことが、ハーブあゆのブランドの魂 です。
しかしながらその一 方 で、最 近 ずっと気 になっていたのは、生 産 量 の増 加
に伴 い年 々増 加 する電 気 使 用 量 と包 装 資 材 です。どちらもコスト削 減 対 象
として気 になる要 素 ですが、特 に加 温 に必 要 な膨 大 な電 気 使 用 量 について
は東 日 本 大 震 災 以 降 、どこか後 ろめたさのような感 情 を抱 いていました。
そんな時 、ある経 営 者 仲 間 との会 合 で、たまたまカーボン・オフセットにつ
いて聞 くことがあり、その仕 組 みにとても興 味 が沸 きました。そこで早 速 、こ
ういう分 野 に詳 しそうな知 人 や友 人 を頼 るなどして情 報 収 集 を行 い、J-ク
レジット制 度 という存 在 を知 りました。制 度 の内 容 を知 ることで、またさらに
関 心 が高 まり、やってみたいと思 いました。
■購 入 されたクレジットの活 用 方 法 、周 囲 の反 響 などは?
当 初 は年 間 生 産 量 550 トンの全 量 をカーボン・オフセットすることも考 え
ましたが、それだとさすがに費 用 も高 額 になるとのことで断 念 しました。最
終 的 にはオフセットプロバイダーの助 言 もあり、末 端 までの販 路 がほぼ特 定
できる地 元 の小 売 店 向 け出 荷 に限 定 した約 7 トン(全 生 産 量 の約 1.3%)のハ
ーブあゆをオフセットすることにしました。正 確 には「特 定 顧 客 向 けアユ(約
7 トン)の製 造 に伴 う CO 2 排 出 量 (工 場 電 力 )及 び包 装 資 材 の使 用 に伴 う
CO 2 排 出 量 」として、24 トンの CO 2 を中 部 産 CO 2 クレジットでカーボン・オフセ
ットしました。
購 入 の手 続 きは、いたって簡 単 で電 力 会 社 との契 約 内 容 、過 去 3 年 間 の
電 気 代 と容 器 包 装 資 材 費 の月 次 実 績 を用 意 したぐらいです。費 用 も思 った
より遥 かに安 価 で、数 万 円 で済 みました。これでハーブあゆの製 造 に伴 って
排 出 されている CO 2 を相 殺 し、地 球 環 境 に与 えている負 荷 を軽 減 できるの
であれば、十 分 納 得 できるコストだと思 います。
ただし、当 社 の取 引 先 各 社 は、このJ-クレジット制 度 やカーボン・オフセッ
トについて、まったく何 もご存 知 でなく、仕 組 みを説 明 しても、なかなか理 解
してもらえませんでした。まあ自 分 だって、つい最 近 知 ったばかりなわけです
から、偉 そうなことはいえませんね(笑 )。これから地 道 に広 めていけたらと
考 えています。
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2015.10.30
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■最 後 に、今 後 の展 望 などについて教 えてください。
鮎 に限 らず、これからはあらゆる食 品 が、量 を追 うのではなく、質 を追 い
求 め、それを理 解 してくれる売 り場 を選 ばなくてはならないと思 います。ゆ
えに、追 い求 める質 の一 つとしてカーボン・オフセットを訴 求 するのなら、今
年 度 取 り 組 ん だ地 元 の 食 品 スーパーよりも大 手 量 販 店 のほ うが制 度 の 理
解 度 は高 く、適 した売 り場 なのかもしれません。よって、来 年 度 は大 手 量 販
店 向 けの出 荷 分 についてオフセットしてみたいと考 えています。
また、今 回 の取 組 みを通 じて、当 社 社 員 たちの環 境 ・エネルギーに対 する
意 識 も向 上 したと感 じています。生 き物 を扱 う企 業 として、こうした環 境 意
識 の 高 まりは、安 全 性 や安 定 性 を 担 保 するにおいて、目 には見 えない大 き
な資 産 です。今 後 もJ-クレジット制 度 に積 極 的 に関 わっていきたいと思 い
ます。
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2015.10.30