幼児教育研究部

幼児教育研究部
【研究主題】
人の話を聞き,進んで話す幼児を育てるための環境構成と
援助の在り方を探る
―市内幼稚園の実践調査を通して―
幼児教育研究部
【研究主題】
人の話を聞き,進んで話す幼児を育てるための環境構成と援助の在り方を探る
-市内幼稚園の実践調査を通して-
目
次
1
主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2
研究の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
3
研究の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
4
研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
5
研究経過・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
6
研究の実際
・アンケート調査のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・3~11
・研究をもとにした実践例・・・・・・・・・・・・・・12~14
7
成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
8
終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
研究員
所
属
職
名
北方幼稚園
教
諭
川嶋 恵里
つやま幼稚園
教
諭
伊藤 雄太
石越幼稚園
教
諭
遠藤 美樹子
米山西幼稚園
教
諭
鈴木 美奈
[指導・助言] 学校教育課 生き活き学校支援室長
氏
菊 祐二郎
名
研究主題
人の話を聞き,進んで話す幼児を育てるための環境構成と援助の在り方を探る
―市内幼稚園の実践調査を通して―
1
主題設定の理由
(1)今日的課題から
幼児期は,心情や意欲,態度,基本的生活習慣など「生きる力」の基礎が培われる重要
な時期である。しかし幼児を取り巻く社会環境や家庭の変化は,幼児の育ちに様々な問題
を引き起こしている。
とくに共働き家庭の増加や少子化などの社会状況の変化は,幼児同士の遊びの場や直接
的な体験の減少につながり,幼児期に大切な「人とのかかわり」が築きにくい環境をつく
っている。また,テレビやゲーム,DVDなど,一人で楽しめる遊びが多くなったことが,
人とうまくかかわれない,コミュニケーションがうまく図れないといった幼児の姿を生み
出している。
幼稚園は,教師や他の幼児たちと共同の生活をつくっていく場であり,幼児が自分たち
の生活や遊びを充実させるために,人の話を聞いたり,自分の考えや気持ちを話したりす
ることが必要となる。そこで幼児期に自分とは違う他者の存在に気付き,人に話したいと
いう気持ちや,人の話を聞くことができる力を身に付けるために,人と人をつなぐ,言葉
での「伝え合い」の経験が大切だと考えた。
(2)登米市教育基本方針から
学校教育の中では確かな学力の向上と豊かな社会性の育成を目指している。幼稚園教育
においては,
「学ぶ土台づくり」として生涯にわたる人間形成の基礎を育むとされ,幼児期
にふさわしい生活体験の充実などがあげられている。幼稚園生活で「聞く」
「話す」ことの
大切さを知らせ,教師や友達の話を聞いたり,自分の考えや気持ちを話したりする態度を
身に付けることは,その後の小学校生活での豊かな人間関係を築くことや,学習習慣の基
礎となり,登米市教育基本方針の具現化につながると考えた。
(3)幼児の実態から
社会状況の変化に伴い,入園してくる幼児の環境や経験の差は様々で,幼児一人一人の
特性に応じた指導の必要性とその難しさが増している。言葉の面においては,
・思っていることを言葉でうまく相手に伝えられない幼児
・教師に頼って自分で話そうとしない幼児
・人前で話すことができなかったり,小さな声で話したりする幼児
・自分の思いだけを話し,相手の話を聞こうとしない幼児
など,様々な幼児の実態と問題点があげられる。
教師は幼児一人一人の行動の理解と予想に基づき,意図的・計画的に環境を構成し,幼
児の実態に応じた活動の場面に応じて様々な役割を果たし,活動を豊かにすることが求め
られており,その意味から幼児の聞く力や話す力を育てることが必要であると考えた。
2
研究の目標
人の話を聞いたり,進んで話したりする幼児を育てるための環境構成や教師の援助の在
り方を探る。
3
研究の内容
幼稚園生活における「聞くこと」
「話すこと」の両方の観点から,教師の指導の在り方を
振り返るとともに,各園での「聞く」・
「話す」活動での日々の保育の取組や具体的な指導方
法をアンケート調査で明らかにし,それを基にした実践保育を通して教師一人一人の指導力
向上の一助とする。
4
研究の方法
(1)アンケート調査の実施
市内幼稚園教諭に,幼児の聞く力,話す力を身に付けるためのアンケート調査を実施し,
回答を集計・分析し,有効な環境構成や教師の援助の在り方についてを検討する。
(2)実践保育について
アンケート調査から得た環境構成や援助の在り方を視点とした,実践保育を実施し,実
践事例を通した考察をする。
5
研究経過
月
日
5
7
6
17
6
30
7
25
8
22
10
14
12
12
12
25
1
15
事 項
第1回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第2回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第3回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第4回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第5回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第6回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第7回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
第8回研究部会
視聴覚セ・教育相談室
第9回研究部会
視聴覚セ・第2研修室
内
容 等
○研究テーマの決定
○研究概要の見直し
○研究概要の確認,再検討
○アンケート調査の内容検討
○アンケート調査様式の決定
○配布・回収・考察の日程検討
○アンケート内容集計
○アンケート結果の考察
○実践保育に向けての検討
○アンケート結果のまとめ
○実践保育の検討
○研究のまとめ
○研究のまとめ
○研究集録の原稿作成・確認
※その他,随時ポータルメールにて資料や意見の交換,検討を行った。
6 研究の実際
アンケート調査のまとめ
・各設問のアンケート回答を,歳児ごと,多かった項目順に記載しました。
・回答の中の
1
は実践の視点としたものです。
一斉活動(クラス)の中で,幼児の“話を聞く力”を身に付けるために工
夫している活動を教えてください。
(1)どのような活動ですか
3歳児
4歳児
5歳児
1
絵本や紙芝居の読み聞かせ
絵本や紙芝居の読み聞かせ
1 日の振り返り
2
製作活動
1 日の振り返り
絵本や紙芝居の読み聞かせ
3
ゲーム遊び
朝の会
ゲーム遊び
予定の確認
*少数意見として…
・集団遊びでのルールの約束
・帰りの会 友達の発表や質問
・問題(トラブル)があった時
・日常の会話
・遊びを発展させるとき
・手遊びやまねっこ遊び
・当番活動
考察
・視聴覚教材を使って「聞く」指導をすることが効果的である。
・歳児が上がるにつれて一日の振り返りの活動が多いことから,幼児対教師より幼児対幼児という
活動を重視していると考えられる。
(2)どのような環境構成の工夫をしていますか?
1
2
3
3歳児
4歳児
幼児から見えやすい位置に立つ
幼児から見えやすい位置に立つ
視覚的に興味をひく工夫
掲示物を減らす・静かな場
(幼児の発達・興味・季節に
保育室の整頓
あったもの・絵カード・写真)
ゆったりとした雰囲気と時間 視覚的に興味をひく工夫
(幼児の発達・興味・季節に
の確保
あったもの・絵カード・写真)
5歳児
幼児から見えやすい位置に立つ
掲示物を減らす・静かな場
保育室の整頓
幼児の座る場所の工夫
(U字隊形,椅子の使用)
*少数意見として…
・幼児と一緒に考える場を設ける。
・幼児が発言する場を設ける。
・幼児の座る場所の工夫(新幹線の約束・お山座り)
・幼児が交代で読んでもらう絵本を選び,興味をもって聞くことができるようにする。
考察
・幼児から見えやすい立ち位置にすることが,話し手に注意を向けるために大切な環境構成である。
・話に集中できる環境づくりが大切である。
(余計な物や音を排除し,手遊びや視覚的な物を用意す
るなど)
・5歳児では話をただ聞くだけでなく,聞く姿勢についての指導が大切である。
(3)どのような教師の援助の工夫をしていますか?
3歳児
4歳児
5歳児
1
分かりやすい言葉,声のトー 分かりやすい言葉,声のトー
ン,はっきり丁寧に話す,抑 ン,はっきり丁寧に話す,抑 話を聞いている姿を褒める。
揚,間の取り方の工夫をする。 揚,間の取り方の工夫をする。
2
手遊びやリズム遊びなどで興
味をひき,教師の方へ関心を
向くようにする。
幼児へ問いかけ,意識力を高
める。
分かりやすい言葉,声のトー
ン,はっきり丁寧に話す,抑
揚,間の取り方の工夫をする。
3
(少数意見)
手遊びやリズム遊びなどで興
味をひき,教師の方へ関心を
向くようにする。
幼児へ問いかけ,自分たちで
考 え なが ら でき るよ う にす
る。
*少数意見として…
・目と目を合わせることで意識させる。しっかり見ていることを確認してから話を始める。
・気持ちの安定を図るよう寄り添う。
・友達の様子や思いを伝えていく。話を聞いている幼児を褒めたり,認めたりしていく。
・目と耳で聞くことを繰り返し伝えていく。
・話を聞く大切さを実感できるように,話を聞かずに失敗する体験も大切にする。
・幼児の思いを聞きながら確認していく。全体へ伝えていく。
・「聞きたい」と興味がもてるような言葉掛けをする。
・だらだらと話をしない。
・真剣な話は真剣に,楽しい話はおもしろおかしくする。
・幼児の様子に合わせて無理せず,次回に持ち越す。
・教師が前に座ったら静かにするなど約束を決めておく。
・教師がモデルとなり聞く姿を見せていく。
(教師も)話を聞いてもらえてうれしい思いを伝える
など共有していく。
考察
・幼児が聞きたいと思えるように,読み聞かせでは声のトーンや抑揚,演技力の高さも重要である。
また,集中力に個人差があるので,ダラダラと話をしないことも大切である。
・話を聞く姿勢や態度を褒めたり認めたりすることで,自信や次への意欲へとつながり,聞く力を育
てることになる。
・なぜ,話を聞かないといけないのかということに気付かせるために,失敗する経験も聞く力を育て
ることにつながっていると考えられる。
2
一斉活動(クラス)の中で,幼児の“話す力”を身に付けるために工夫して
いる活動を教えてください。
(1)どのような活動ですか?
3歳児
4歳児
5歳児
1
当番活動
当番活動
当番活動
2
一日の振り返り
一日の振り返り
一日の振り返り
3
遊びの振り返り
遊びの振り返り
遊びの振り返り
*少数意見として…
・話し合いの場
・ゲーム遊び
・あいさつ
・製作活動での作品紹介
・質問コーナー
・手遊び
・少人数グループでの活動(宝探し,スタンプラリー)
・代表が話をする機会がある行事や活動(誕生会など)
・遊びのルールをみんなで決める
・絵本の感想を聞く
・好きな遊び(どんなルールか,何を使って遊んでいるか問い掛ける)
考察
・どの歳児も当番活動や振り返りの時間が話す力を身に付ける有効な活動である。
・当番活動の中身として,3 歳児はあいさつや短い言葉で話す,4歳児は自分の思いを言葉にする,
5歳児は友達と考えや思いを出し合い,話し合うなど発達段階を踏んだ活動が有効である。
(2)どのような環境構成の工夫をしていますか?
1
2
3
3歳児
4歳児
5歳児
十分に発表できる時間と場の
十分に発表できる時間と場の
十分に発表できる時間と場の
確保をする。
確保をする。
確保をする。
思いを伝えられるような安心し
た雰囲気づくりをする。
思いを伝えられるような安心し
た雰囲気づくりをする。
話し合いの機会を多くもつ。
マイクなどを用意し,自分か
発表する幼児の立つ場所の工
ら発表できるようにする。
夫をする。
思いを伝えられるような安心し
た雰囲気づくりをする。
*少数意見として…
・幼児の座る場所をマークシールなどで準備する。
・話す人,聞く人の体を向かい合わせる。
・当番表を作り,自分の順番が分かるようにして期待がもてるようにする。
・静かな場所を選ぶ。
・声が届くように幼児を近くに集める。
・友達に遊びの提案をしたり,困った時に相談したりする場を設ける。
・顔が見えるように丸くなって座る。
・楽しく声を出せる雰囲気づくり。
考察
・ゆったりとした雰囲気の中で十分に発表できる場を設けることが大切である。
・どの歳児も話したいと思えるような雰囲気づくりが大切である。
・5歳児は友達同士での話し合う場を意図的に設けることが有効である。
・マイクなどの小道具があることで,より意欲をもって話せるのではないかと考えている。
(3)どのような教師の援助の工夫をしていますか?
3歳児
4歳児
5歳児
1
幼児の話を十分に聞き,受け
止めながら自分の思いを安心
して話せるようにする。
幼児の話を十分に聞き,受け
止めながら自分の思いを安心
して話せるようにする。
幼児が話したことを全体に紹
介し,取り入れていく。
2
話せた幼児や話そうとしてい
る姿を認め,自信や満足感に
つなげていく。
話せた幼児や話そうとしてい
る姿を認め,自信や満足感に
つなげていく。
話せた幼児や話そうとしてい
る姿を認め,自信や満足感に
つなげていく。
3
話し方や姿勢を分かりやすく
知らせていく。
言葉を補ったり,代弁したり
幼児に問いかけたり,質問し
たりする。
する。
*少数意見として…
・幼児が話す時は,他の幼児が話をしないように,集中できるように言葉掛けをする。
・友達の話に興味がもてるように言葉掛けをする。
・幼児が話した内容を紙に書き出し,話し合いの内容が分かるように前に貼る。
・幼児が話したことを周囲に知らせたり,意見を取り入れたりしていく。
・話すことを強要しない。
・歳児や個人差に応じて,話し始めるのを待つ。
・予想される言葉をこちらから出す。
・思いを引き出せるような言葉掛けをする。
・話をする際の声の大きさや言葉づかいなどの約束を確認し,一緒に考えていく。
・恥ずかしさや緊張に慣れるように,時間がかかっても自分で発表できるようにする。
考察
・3,4歳児では,教師が十分に話を聞いてあげるなど安心感をもてるような援助が必要である。
・教師や友達に,
「思いや気持ちを話すことができた」「聞いてもらえた」という満足感を味わわせる
ことが,また話してみたいという思いにつながるようだ。
・3,4歳児では言葉の伝え方が分かるように,教師が言葉を補ったりモデルとして手本を見せたり
することが必要である。
・5歳児では,友達の良い姿を知らせることや,やり取りができるような投げ掛け,また幼児の意見
を取り入れるような援助が有効である。
3
幼児の聞く力,話す力を身に付けさせるために,日々,一斉活動の場面以外でも
心掛けていること,意識していることは何ですか?
アンケートに協力いただいた諸先生方の思いを,歳児別に聞く力・話す力に分けてまとめ
ました。諸先生方が普段意識していることを知る機会となるかと思います。
※()の数字は,複数回答です。
《3歳児》
○聞く力
・
「話したい」という気持ちをもてるようなクラスづくりを心掛けている。
・教師や友達の話をしっかり聞けたときは,たくさん褒める。
たくさん褒める。
○話す力
・日々の保育の中で子どもたちの中から良いつぶやきがあった時は,その都度クラスのみんなに
知らせ「聞く力」を身に付けていく。
・教師が先に幼児の気持ちを言ってしまわないよう心掛け,幼児が自分で発言できるように配慮
している。
・幼児の何気ないつぶやきにも耳を傾け共感し,褒めたり,励ましたりするよう意識している。
①良いつぶやきを全体に伝える。
②何気ないつぶやきも聞きもらさず,共感し,認めていく。
○聞く力・話す力(共通)
・自分の気持ちや考えを言葉にして話ができるように,幼児の気持ちを汲みながら聞くようにす
る。
・自分以外の友達の気持ちを聞く場を設ける。
・会話を大切にするとともにスキンシップを図る。
①幼児の気持ちに寄り添う。
②好ましいスキンシップを行う。
《4歳児》
○聞く力
・ほとんどの幼児には,
「聞く」という力はまだ十分に身に付いていないが,今後,様々な行事を
経験しながら聞く力を身に付けていけるように援助していきたい。
・幼児が話をしてきた時には,落ち着いた雰囲気で聞けるように心掛ける。あわてさせず,時間
をかけて聞くようにする。
・教師自身も幼児の話をよく聞き,受け止めるようにしている。
(4)
・なるべく丁寧にゆっくりと話すように心掛けている。
・聞くことの大切さを伝えていく。
①落ち着いた雰囲気づくり
②ゆっくりと丁寧に話す。
③幼児の話を受け止める。
○話す力
・幼児の思いを先取りして話さないこと。
・幼児の思いに耳を傾け,安心して自分の思いを伝えられるようにする。
・幼児の話に耳を傾け,コミュニケーションをたくさんとるようにしている。
・教師が幼児の話をよく聞き,幼児の思いに共感することで幼児自身も“話したい”“伝えたい”
という気持ちがもてるように適切な援助を心掛けている。
・教師自身が,幼児の目を見てしっかり聞くようにする。
・友達同士のトラブルが起きた時や自分の気持ち,要求を伝えたい時など,どうしたいかを聞き,
自分の言葉で話すように促している。また,どうしたらいいのか考えさせ,どう伝えたらいい
か言葉にできるよう援助している。
・話し方を一緒に考えたり,具体的に知らせたりしている。
・幼児のささやきや発見に耳を傾ける努力をしている。
・日本語の正しい言葉づかいや語意を伝えたいと考えている。
①幼児の思いに共感する。
②幼児の目を見てしっかり聞く。
③話し方を一緒に考える。
○話す力・聞く力(共通)
・普段の生活の中で,幼児が考え自ら発言できるような言葉掛けを心掛けている。特にトラブル
時は「どうしてそうなったのか?」
「どうすればよかったのか?」など自分の言葉で話してもら
い,また相手の気持ちや考えを聞いてもらいながら,一緒に考えて解決していけるよう配慮し
ている。
・聞いたり,話したりするときは,相手の目を見るように伝えている。
・教師との信頼関係を築き,自分らしさを発揮できるようにする。次第に,話に耳を傾け,思い
を伝えたりできるようになり,聞く力や話す力が身に付くと思い,日々の保育にあたっている。
・話を集中して聞く幼児や,緊張しても自分の言葉で話す幼児の姿を褒めている。
・何が原因で話せない(知っている言葉の数が少ない,気持ちの面など)のか,聞けない(相手
の話し方が悪く理解できない,発達障害など)のかをしっかり理解し,それに応じた援助を考
えるようにしている。
・幼児が自分から話したり,聞きたいと思えるように,興味を引き出せるような言葉掛けや雰囲
気づくりを心掛けている。
①聞いたり,話したりする時は相手の目を見る。
②幼児の良さを褒める,認める。
③幼児の実態を把握し,適切な援助をする。
④興味を引き出す言葉掛けをする。
《5歳児》
○聞く力について
・教師が幼児の話をしっかりと聞く姿勢を見せる。
・友達の話にも耳を傾けられるように,相手の思いを知らせ気付かせるようにしている。
・友達の話を聞かずに遊びを進めて行こうとする幼児に対しては,相手の話を聞く大切さを伝え
たり,友達の話を聞いたりして遊びを進めている姿を認めるような言葉掛けをする。
・
「今は先生の話す時間だからね」「今は○○君が話しているから聞いてね」と話し,聞くことを
全体に伝えるようにしている。
・集中して話を聞くことができない幼児にはその原因を考え,個別に言葉掛け等をする。
・上手に話を聞いている幼児を他児にも紹介する。
・話の内容をしっかりと理解しているか時々確認しながら話を進める。
①教師が聞く姿勢を見せる。
②話している幼児の思いを気付かせる。
○話す力について
・一人一人の話したい気持ちを大事に,よく聞くようにしている。
・まず自分自身がしっかりと幼児の言葉に耳を傾けるように心掛けている。幼児一人一人と会話
する時間を大切にしている。
・教師自身が幼児の話をしっかりと聞き,思いを伝えるうれしさを味わわせるようにしている。
・発表した時はその幼児に応じた言葉掛けをして次回の「話す意欲」につなげるようにする。
・話すことに自信がもてるよう,一つ一つの出来事を大事にする。
・できるだけ一人で話す機会をつくる。
・幼児の話に耳を傾け,目を見てしっかり話を聞いてあげる。
・幼児の言おうとしていることを先取りしない。幼児の話をじっくり最後まで聞く。質問等はそ
の後で行う。
・遊びの場面で自分の思いを話せるようにきっかけをつくったり,どのように話したらいいかを
一緒に考えたりしている。
・幼児の思いを先取りして教師が話してしまい,幼児自身が話さなくても用が済んでしまうこと
がないように,幼児が話そうとしている気持ちを受け止め,幼児自身が発する言葉を待つよう
にする。
・自分の思いを話す機会が少ない幼児に対しては,思いを話す機会をつくったり,友達と言葉を
交わしている姿を認めたりしながら,思いを話す喜びを感じることができるようにする。
・幼児の気持ちを受け止めながら、自分の気持ちを伝えられるように一人一人に応じた援助をし
ていく。
①しっかり聞く。
②教師が話しすぎない。
③話せたことを認める。
○聞く力・話す力(共通)
・遊びの場面でトラブルが起きた時は1対1で話をする場を設け,自分の思いを相手に伝えたり,
相手の思いを聞いたりする。
・個人の変容を記録し,幼児にも知らせ,自信をつけさせていく。
・個人差があるので一人一人に応じた言葉掛けをする。
・幼児の気持ちに寄り添いながら,話したり聞いたりする機会を多く設け,しっかりと話を聞い
たり,自分の気持ちや考えを相手に伝える機会に慣れさせている。
・友達や教師のやり取りの中で,自分の気持ちだけを通すのではなく,周りをよく見て今,どう
したらよいのかを気付かせ,話したり聞いたりのコミュニケーションをもたせていきたいと思
って保育している。
・トラブルになった時など,自分の思いを言葉で伝えたり相手の思いをしっかりと聞いたりでき
るように援助していく。
・遊びの中で,幼児の良さや友達とのかかわりの中で,優しく接している場面があれば,その都
度,話したり,幼児の良かった姿を全体に伝えたりしていく。
・幼児から出たアイディアを集団で共有していく。
①変容を認め,自信を付ける。
①
②幼児の良い姿を全体に伝える。
③幼児のアイディアを集団で共有する。
《預かり他,諸先生方》
○聞く力
・教師の話を聞いてもらえるように,幼児の話も聞くようにする。
・幼児が話しているときは,聞くように心掛けている。
・個別に話をする時には,名前を呼び,その幼児の近くに来て,目線の高さを合わせるなどして
目を見て話すようにする。
目線の高さを合わせる。
○話す力
・全員の声を聞くようにする。
・話す力を身に付けるためには,話したいと幼児が思える環境が必要だと思うので,幼児が話し
ている時には最後までじっくりと聞いて,幼児をせかさないようにしている。
・幼児の話に耳を傾け,思いをよく聞いてあげる。
・上手に言葉にできなくて話すのに時間がかかっても待ってあげるよう,心掛けている。
(2)
・聞くときは幼児の思いをできるだけ引き出せるように質問をしたり,共感したりしながら聞く
ようにする。
・顔の表情で(場に応じて)言葉を掛け,引き出せるようにする。
①最後まで聞く。
②幼児をせかさない。
③思いを引き出す質問を行う。
④顔の表情に気を付ける。
○聞く力・話す力(共通)
・幼児に多く言葉掛けをし、信頼関係を築く。
・見守る。
・遊びの中でルールを再確認する。
・幼児同士の会話にスムーズに入っていくことができるように言葉を補う。
・遊びのルールを幼児同士で決められるように待つ。
・自由遊びの中で個々の思いや考えを言葉にして引き出せるような言葉掛けや配慮をするように
意識している。
・幼児同士の話に耳を傾け,荒い言葉や相手が不愉快になるような言葉を知らせ,時には一緒に
話に入り,入ってこられない幼児を巻き込むようにして,伝え合う楽しさを感じられるように
する。
①良くない言葉遣いを全体に知らせる。
②幼児への言葉掛けを積極的に行う。
アンケートをもとにした実践例
☆実践1
絵本を基に,聞く力を高める試み
活動名
「絵本を使った活動を通して」
(聞く活動)
対象児
4歳児
期日
10 月 27 日,11 月 5 日,11 月 10 日
場所
保育室
ねらい
環境構成
教師の援助
興味をもって話しを聞き,内容を理解する。
伝えたいことが視覚でも分かる絵本を用意する。≪アンケート1-(2)≫
問い掛けながら話をし,興味をもって聞けるようにする。≪アンケート1-(3)≫
季節が秋となり,気温や園庭の木々など身近な自然にも変化が見られる。子ど
幼児の姿
もたちは肌寒い日でも戸外で元気に体を動かして遊んだり,砂場でままごと遊び
を楽しんだりしている。
日時
10 月 27 日
エピソード
絵本:
「あきのはやしであそぼう」
A男が園庭の木々から落ちた葉っぱを見ながら「顔みたいな形だね」とつぶや
いた。A男の気付きを他の幼児と共有できるように,帰りの会の中で「あきのは
やしであそぼう」の絵本を読んだ。A男の気付きが絵本の内容にも出てきたので,
その部分を取り上げて話をすると,A男が「それ,ぼく見付けたよ」と言葉を返
してきた。「どうだったの?」などとA男にさらに問い掛けていくと,他の幼児
もA男の話に興味をもち,見付けた場所やどんな葉っぱがあったのかを興味津々
で聞いていた。
11 月 5 日
絵本「あきのふくにきがえよう」
登園し,荷物の整理が終わったB男は薄着のまま,戸外へ遊びに行った。初め
は友達と一緒に砂場で遊びを楽しんでいたが,「寒い」と言って保育室へ戻って
行った。朝の会でB男の姿を取り上げ,絵本を通して衣服の調節をしないとどう
なるかを読み聞かせた。「この服だとどうなるかな?」などの教師からの質問を
聞いて,幼児たちは絵本を見ながら「服着ないと寒くなる」「風邪をひく」など
と答えていた。
11 月 10 日
絵本「かぜばいきんがすきなのはどっち」
幼児たちは戸外で遊んだ後に進んで手洗い,うがいをしているが,雑に終わら
せたり,口うがいと喉うがいを間違っていたりする幼児がいた。そこで,絵本を
使って正しい手洗い,うがいの方法を確認した。絵本を読みながら手洗い,うが
いをする時に大切なことを幼児自身に考えさせたことで「こうやるんでしょ」と
言って丁寧に手洗い,うがいをする姿を教師にやって見せたり,「B子ちゃんこ
うやるんだよ」と言って友達に教える姿が見られたりした。
【考察】
1.環境構成から
・絵本を使用したことで言葉のみで伝えるよりも話の内容が伝わりやすかった。聞いた内容
を理解するためには,言葉と一緒に視覚的教材を利用し,相手にもイメージできるように
してあげることで,相手も聞こうとする気持ちがもてるようだ。そのため,話を聞くため
には「見る」ことも大切であると考える。
2.教師の援助から
・問い掛けながら話をしていくことで,幼児は「自分に話しかけてくれている」という気持
ちをもつことができ,相手の話を聞こうとする姿が見られた。また,問い掛けによって幼
児自身で考えることが多くなるため,話の内容をより深く理解することできた。
☆実践2
自分の思いをうまく伝えることができないA女への援助から
活動名
「生活発表会に向けて」
(話す活動)
対象児
4歳児
期日
11月15日~11月18日
場所
保育室,遊戯室
ねらい
環境構成
教師の援助
生活発表会に向けての活動の中で自分の思いを出しながら楽しく取り組む。
思いを言えるような安心した雰囲気づくりをする。≪アンケート2-(2)≫
幼児の話を十分に聞き,受け止めながら自分の思いを安心して話せるようにする。
≪アンケート2-(3)≫
活発な女児が多く,普段の遊びや生活の中で自分の考えや思いをしっかりと話す
幼児が多いクラスである。生活発表会に向けての活動が始まり,幼児たちからの
教師の願い
動きを遊戯の振り付けに取り入れたいと考えた。一人一人が自分の考えた動きを
交えながら話し,どういう振り付けにしたらいいかを教師や友達と一緒に相談し
ながら楽しく取り組めるようにしたい。
周りの幼児たちと比べ,身体も小さく幼さがあるA女。そのためか遊びの中でも
友達に言われるがままに遊びをする傾向がある。自分の思っていることやしてほ
A女の姿
しいことがあっても多くは話さず,「○○なの?」と教師や友達に聞いてもらう
ことで思いを伝えようとすることがある。また,困ったことがあると,泣く場面
も多く見られる幼児である。
日時
エピソード
11 月 15 日
・発表会に向けて,女児6人で遊戯をすることが決まった。音楽を流し,どうい
う踊りがいいかを話し合うことにした。「こういう踊りがいいんじゃない?」
と積極的に取り入れる動作について話す幼児がいて,「いいね~!!」
「あと,
こんなふうにするといいよ!」などと話が盛り上がった。一人一人が思いを話
したり,友達の意見を受け止めたりしながら,話し合う様子が見られたがA女
はあまり興味を示さなかった。教師が,「Aちゃんはどういうのがいいの?」
と問い掛けても,首をかしげるだけで,話したり,表現したりする様子もなく,
周りの幼児の様子を見ているだけであった。
11 月 16 日
・積極的に話す幼児の意見から少しずつ踊りが決まっていき,音楽に合わせて踊
~
って楽しめるようになっていった。特に,振り付けを積極的に考え,話してい
17 日
た幼児たちは,はりきって踊る姿が見られていた。その中で,A女もみんなと
一緒に動作を合わせながら,踊っていた。
11 月 18 日
・最後のポーズが決まらずにいたため,再度またみんなで話し合う機会を設けた。
「こういうポーズは?」
「前の人が座って,手を伸ばしてみるといいよ」
「手で
ハートの形をつくろう!」など,様々な意見がでた。ハートをつくるという意
見に賛成の声が上がり,みんなでやってみることになった。しかし,A女だけ
が動かず,急に泣き出してしまった。
「こうするんだよ」
「大丈夫だからやって
みよう」と周りの友達に言われれば言われる程,意固地になって首を横に振っ
ていた。A女は他にやりたいポーズがあるのだと考え,どういうポーズにした
いのかを教師に教えてほしいことを話し,1対1でかかわりながら思いを引き
出していった。ピースサインで終わりたいというA女の気持ちを受け止め,
「い
い考えだだね,みんなにも話してみよう」と自信がもてるようA女に言葉を掛
け,さらに,全体で話す機会を設けることで,みんなでA女の思いを聞けるよ
うにした。教師がそばにいることで,A女は恥ずかしがりながらも「こうがい
いの・・」と動作をして見せてくれた。今まで,思いを言えないで泣いてしま
ったことも周りの幼児たちに伝えていくと,「じゃあ,Aちゃんのピースにし
ようよ」と,受け入れてもらうことができ,A女も「ありがとう」とうれしそ
うに話し,喜んで踊りに取り組む姿が見られた。
【考察】
1.環境構成から
・A女は普段から自分の思いを話すことが少ないことに加え,周りの幼児たちの積極さに圧
倒されたため,ますます自分の思いを言い出すことができにくい環境であったと考える。
しかし,教師がそばにつき,
「みんなが自分の話を聞いてくれる」といった安心して話せる
ような場面設定をしたことで話すきっかけができた。
2.教師の援助から
・A女と1対1のかかわりの中で,じっくりと丁寧に思いを引き出していくことが必要であ
った。A女が話してくれた思いを受け止め,褒めたり,認めたりすることで自分の思いを
受け入れてもらえた,という喜びや満足感を味わわせることができた。さらに,教師に認
められたことでA女の自信となり,みんなの前でも安心して話すという行動につながった。
7 成果と課題
(1)成果
① アンケート調査から
≪環境構成≫
・幼児の座る位置や教師の立ち位置など,幼児が落ち着いて話を聞くことができる環
境を整えることは幼児たちが集中して話を聞く重要な配慮である。
・幼児が発表できる十分な時間と場を確保し,幼児なりのペースで安心して自分の思
いを話せる機会をつくることが大切である。
≪教師の援助≫
・幼児が聞きたいと思えるような援助が大切であり,教師の声のトーンや言葉掛けの
工夫が幼児の興味を引き出すきっかけとなることが改めて分かった。
・教師や友達が話を聞いてくれたという満足感を味わわせることや受け入れてもらう
という経験が「話したい」という思いや楽しさにつながっている。
≪共通≫
・教師対幼児の言葉のやりとりから,幼児対幼児での言葉のやりとりができるように
発達段階に応じた環境構成,教師の援助がともに必要である。
② 保育実践から
≪環境構成≫
・話を聞くためには視覚的な面について考えていくことも必要である。
「見る」ことの
環境構成を工夫していくことで,聞く力をさらに伸ばしていけることが分かった。
・自分の話を聞いてくれるという安心できる環境,周りの幼児の「聞き方」への働き
かけも重要であることが分かった。
≪教師の援助≫
・幼児が「話したい」と思える事が大切であり,教師との信頼関係の中で安心して思
いを話す,認められる,褒められる,喜び,自信というようにプラスの経験を積み
重ねることによって,人に思いを伝えたいという気持ちが育つことが分かった。
(2)課題
① アンケート調査では多くの意見を聞くことができた反面,具体的な回答を得ることが
できなかった。活動の場面や幼児の姿を提示し,回答してもらうことで環境構成や援
助も具体的に知ることができたのではないかと思う。
② 今回は回答数の多い環境構成や援助をもとに実践を行ったが,少数意見の環境構成や
援助を行った場合の幼児の変容についても実践し,提示できれば良かった。
8 終わりに
今年度は人の話を聞き,進んで話す幼児を育てるための環境構成と教師の援助の在り
方について研究を進めてきた。アンケート調査や実践を行ってきたことで,私たちが日々
の保育で行っている環境構成や援助の有効性を再確認することができた。また,「話す」
「聞く」は相互に関係しあっており,教師は様々な環境構成や援助を工夫しながら,指
導にあたっていくことが大切であることが分かった。今回の研究内容をもとに園内でさ
らに意見を深め,幼児の発達段階や個々に応じた適切な環境構成と教師の援助の在り方
を考えていきたい。
終わりに,本研究のために市内幼稚園の先生方にはアンケート調査に貴重な時間を割
いていただきましたことに深く感謝申し上げます。