リュープロレリン酢酸塩 注射用キット「あすか 」 によるホルモン療法を 受けられるあなたへ 監修:熊本大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科 教授 岩瀬 弘敬 先生 はじめに この冊子は、リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」 (一般名:リュープロ レリン酢酸塩。以下、リュープロレリン)によるホルモン療法を安心して受けていた だくために、治療法の解説やお薬との付き合い方、生活上の留意点などについてまと めたものです。この資料が治療の正しい理解の一助となり、あなたが納得して治療を 受けられるよう切に願っています。なお、この冊子を読んでも分からないことや不安 に感じることがあれば、遠慮なく担当医師や看護師、薬剤師にご相談ください。 ■ 乳房の構造 目次 肋骨 1. 乳がんのホルモン療法について …… 2 小葉 乳腺 1)どんな治療法ですか? ………………… 2 脂肪組織 2)どのようなお薬が使われていますか? … 3 乳管 乳輪 2. リュープロレリン酢酸塩注射用キット 「あすか」について ………………… 5 大胸筋 乳頭 1)どのようなお薬ですか? ……………… 5 2)注射の仕方は? ………………………… 7 3)どんな副作用がありますか? ………… 8 じんたい クーパー靭帯 3. 副作用対策のために ∼日常生活の工夫∼ ……………… 9 乳腺組織は、エストロゲンの影響を 1)ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ) や発汗 受けて変化します。乳がんのほとんど の対処法 ………………………………… 9 は乳腺組織から発生するため、患者 2)腟の乾燥と性生活について …………… 9 さんの 7 ∼ 8 割の方が「ホルモン感 3)骨量低下を予防するための工夫 …… 10 受性乳がん」というタイプに分類され 4)治療後の月経と妊娠について ……… 10 ます。 1. 乳がんのホルモン療法について 1)どんな治療法ですか? 女性ホルモン(エストロゲン)の働きを阻止することで、乳がん細胞 が増えないようにする治療法です。 乳がんには、女性ホルモン(エストロゲン)によって大きくなる「ホルモン 感受性乳がん」というタイプがあります。ホルモン療法はこのタイプの乳が んに対する治療法で、エストロゲンの働きを抑えることで乳がんが増えたり 転移したりするのを防ぎます。 ■ 乳がんのタイプ ホルモン感受性乳がん エストロゲンが 受容体 E に結びつくと乳がん細 胞が増える。 + E E E ホルモン療法は、エス 乳がん細胞 トロゲンの働きを抑え、 エストロゲン E 乳がん細胞が増えるの を阻止します。 エストロゲン受容体 E エストロゲン ホルモン非感受性乳がん + 乳がん細胞 E エストロゲンは、乳がん E 細胞を増やさない。 エストロゲン 1. 乳がんのホルモン療法について 2)どのようなお薬が使われていますか? 体内のエストロゲンを減らすお薬と、エストロゲンの働きを防ぐお薬 があります。 ■ 体内のエストロゲンを減らす + E エストロゲンが減るため、 E 乳がん細胞が増えない。 主な薬剤 主な働き 種類 一般名 卵巣でエストロゲンが LH-RH アゴニスト製剤 リュープロレリン酢酸塩 作られないようにする (注射薬) エストロゲンを作る酵素 (アロマターゼ)の働き を抑える アロマターゼ阻害剤 (内服薬) ゴセレリン酢酸塩 アナストロゾール エキセメスタン レトロゾール このほかに、間接的に女性ホルモンの働きを抑える「黄体ホルモン剤(一般名:メドロキシプロゲステロン 酢酸エステル)」が使われることがあります。 ホルモン療法に使われる薬剤には、体内のエストロゲンを減らす作用のあ るお薬と、乳がん細胞にあるエストロゲン受容体をふさぐことで、エストロ ゲンの働きを防ぐお薬があります。なお、これらのお薬を組み合わせて治療 することもあります。 ■ エストロゲン受容体をブロックし、エストロゲンの働きを妨げる エストロゲンが受容体に + E 結びつくことができない E ため、乳がん細胞が増え E 抗エストロゲン薬 ない。 主な薬剤 主な働き エストロゲン受容体を ブロックし、エストロゲン の働きを妨げる 種類 抗エストロゲン剤 (内服薬) 一般名 タモキシフェンクエン酸塩 トレミフェンクエン酸塩 フルベストラント※ ※ エストロゲン受容体の分解を促進する働きもあります。 2. リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」 1)どのようなお薬ですか? 脳に働きかけて卵巣からエストロゲンが分泌されないようにするお薬 です。 閉経前の女性では、脳の視床下部という所から LH-RH というホルモンが 分泌されると、下垂体から卵巣にエストロゲンを作る指令が伝わり、卵巣か らエストロゲンが分泌されます。 ■ 卵巣からのエストロゲン分泌 脳 視床下部 LH-RH 下垂体 E 乳がん細胞が E 増える E エストロゲン を作る指令が でる。 E E E E エストロゲン 卵巣 卵巣 卵巣でエストロゲン が作られる。 子宮 について リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」は、閉経前のホルモン感受 性乳がんの治療に用いられる LH-RH アゴニスト製剤です。LH-RH の作用 を止めることで体内のエストロゲンの量を減らし、乳がんが増えたり転移し たりするのを防ぎます。 ■ リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」の作用機序 脳 視床下部 LH-RH LH-RH の作用 を止め ること で、卵 巣 か ら のエストロゲン 下垂体 分泌を抑える。 乳がん細胞が 増えない エストロゲン を作る指令が 抑えられる。 E E E E エストロゲン 卵巣 卵巣 卵巣でエストロゲン が作られなくなる。 子宮 リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」は、 4 週間効果が持続するタイプのジェネリック医薬品です。 2. リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」 2)注射の仕方は? リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」は、4 週間ごとに 1 回 皮下に注射します。 リュープロレリン酢酸塩注射用キット「あすか」は、1 回の注射で 4 週間効 果が持続するお薬です。注射の間隔が 4 週間以上空いてしまうと安定した効 果が得られませんので、4 週間に 1 回、必ず注射を受けてください。 投与スケジュール(4 週間に 1 回) 4 週間 4 週間 4 週間 ・・・ 注射できる場所 上腕部 臀部 (おしり) 腹部 ■ 注射時の注意点 ● 注射日を忘れないために、注射する日をカレンダーな どに記入しておきましょう。 ● 注射部位は、もまないようにしましょう。 ● 毎回注射部位を変えるために、注射部位を記録してお くと良いでしょう。 について 3)どんな副作用がありますか? 注射部位の腫れや痛み、更年期様症状、骨量低下などが現れること があります。 注射部位が赤く腫れたり痛みを感じたりすることがありますので、異常が みられた場合は担当医師や看護師にご相談ください。このほかの主な副作用 として、更年期や閉経後の女性に起こりやすい症状(更年期様症状、腟の乾燥、 骨量低下など)が現れることがあります。これらの症状は、血液中のエスト ロゲンが閉経した女性と同程度にまで低下することが原因で起こります。 ■ 主な副作用 注射部位の腫れ・痛み 更年期様症状(ほてり・のぼせ、発汗、冷え、イライラ、頭痛、肩こりなど) 腟の乾燥、骨量低下 など また、次のような症状が現れた場合は、 ( )内の副作用の症状の可能性 がありますので、速やかに担当医師や看護師、薬剤師にご相談ください。 ● から咳、息切れ、疲労感、発熱(間質性肺炎) ● 呼吸困難、顔面などの浮腫(アナフィラキシー様症状) ● からだがだるい、脱力感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる(肝機能障害、 黄疸) ● からだがだるい、脱力感、体重減少、のどの渇き(糖尿病の発症又は増悪) ● 激しい頭痛、 (下垂体卒中) ● 胸の痛み、激しい頭痛や息切れ、足の痛み・浮腫(血栓症) ● やる気がおきない、気分が落ち込む、不眠、 (更年期障害様のうつ状態) このほかにも気になる症状がありましたら、担当医師、看護師、薬剤師にご 相談ください。 3. 副作用対策のために∼日常生活の工夫∼ 不快な症状を少しでも和らげていただくため、日常生活の工夫をまと めました。なお、お薬などによる対処法もありますので、症状がつらい ときには担当医師や看護師、薬剤師にご相談ください。 1)ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や発汗の対処法 ● ほてりなどを感じたときにサッと服が脱げるよう 重ね着スタイルにするなど、体温調節をしやすい 服装で行動しましょう。 ● 首周りを冷やしたり、外出時に汗拭きシートなど を携帯して首や脇などを拭いたりするのも効果的 です。 2)腟の乾燥と性生活について ● エストロゲンが低下すると腟の乾燥や萎縮に伴っ て性交痛がみられることがあります。その場合は、 腟潤滑ゼリーを使用するとよいでしょう。 ● お薬の作用で月経は止まりますが、治療中は必ず 避妊をしましょう。その際、ピルなどのホルモン 性の避妊は避け、コンドームなどで避妊を行いま しょう。 3)骨量低下を予防するための工夫 ● 適度な運動は骨量低下の予防に有効なだけではなく、 気分転換やストレス解消になるほか、睡眠の質を高め る効果も期待できます。無理のない範囲で、定期的 な運動を心がけましょう。 ● カルシウムやビタミン D、ビタミン K を多く含む食品 を積極的に摂りましょう。ビタミン D はカルシウムの 吸収を高めますので、一緒に摂ると効果的です。ビタ ミン K は、カルシウムが骨から溶け出すのを防ぎます。 ● 担当医師の指示にしたがって、定期的に骨量をチェック しましょう。 カルシウムを多く含む食品 乳製品、大豆製品、小魚、海草類、小松菜、 チンゲン菜など ・ ビタミン D を多く含む食品 脂肪に富んだ魚、卵黄、きのこなど ビタミン K を多く含む食品 納豆、ホウレン草、小松菜、ニラ、 ブロッコリー、サニーレタス、キャベツなど 4)治療後の月経と妊娠について 個人差はありますが、通常、治療中止後数ヵ月で月経 は回復します。ただし、治療中に閉経したときなど月経 が再開しない場合もありますので、妊娠のタイミングは 医師と相談して決めると良いでしょう。 リュープロレリン酢酸塩 注射用キット「あすか 」 によるホルモン療法を 受けられるあなたへ LEU005(JB-30A) 製作:あすか製薬株式会社
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