2011 年 9 月 財団法人 地域流通経済研究所 買い物における“無駄”を嫌う傾向さらに強まる ―― 第11回 熊本市の女性の購買行動調査 ―― ■調査結果のポイント 1.品目別の利用業態を見ると、全体的に変化がさほど大きくないが、生鮮食料品、酒 類、日用雑貨で「ドラッグストア」の利用率が高まったことが目につく。 2.業態選択理由を長期比較すると、総じて「価格が安い」の比率が高まっているが、 他の項目も重視されており、単純に低価格志向が強まったとは言えない。 3.買い物に関する意識と行動を見ると、総じて変化は小さいが、情報収集の多様化・ 活発化の傾向が見られた。 4.自由回答を見ると、「必要なものを必要なときに必要な分だけ買う」、「衝動買いをし ない」等の動きが見られ、総じて“無駄”を嫌う傾向が強いことがわかる。生活者 は、自分なりの“お得感・合理性・節約法”を求めており、小売店舗を選ぶ目は厳 しくなっている。なお、熊本市の生活者の購買行動においては、九州新幹線鹿児島 ルートの全線開業の影響は極めて小さかった。 ■調査の概要 ■回答者の属性 ○調査対象:熊本市在住の20代から60代の 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 合 計 女性モニター500人 ○調査時期:2011年8月 ○調査方法:郵送法 ○有効回答:443人(有効回答率88.6%) 実数(人) 60 92 96 98 97 443 構成比 13.5% 20.8% 21.7% 22.1% 21.9% 100.0% ※これまでの調査 ※利用業態とその略称 第1回:1998年12月実施 ①百貨店 第2回:2000年01月実施 ②ショッピングセンター・総合スーパー 第3回:2001年01月実施 (SC・GMS) 第4回:2003年09月実施、調査品目に「総菜・弁 ③食品スーパー(SM) 当」および「化粧品」を追加、利用業態 ④コンビニエンスストア(CVS) に「ドラッグストア」を追加 ⑤ホームセンター(HC) 第5回:2005年08月実施、日用雑貨と化粧品の利 ⑥ディスカウントストア(DS) 用業態に「100円ショップ」を追加、通信 販売から「インターネット」を分離 (データの連続性を保つため⑤と⑥は合算) ⑦ドラッグストア(DgS) 第6回:2006年08月実施 ⑧大型専門店 第7回:2007年08月実施 ⑨一般専門店 第8回:2008年08月実施 ⑩通信販売 第9回:2009年08月実施 ⑪ネットショッピング 第10回:2010年09月実施(第5回以降毎年実施) ⑫生協 1 ⑬その他 2011 年 9 月 財団法人 地域流通経済研究所 1.利用業態:ドラッグストアの利用率がさらに上昇 品目別にみた各業態の利用率を前回と比較した結果が、下の図表1である。 生鮮食料品と総菜・弁当では「SM」、酒類と日用雑貨では「HC+DS」、家電製品で は「大型専門店」、ファッション衣料では「SC・GMS」、化粧品では「DgS」と、各 品目において利用率トップの業態に変化は見られなかった。また、2位以下を見ると、酒 類、ファッション衣料、化粧品などで若干の順位変動はあったが、利用率の変化は総じて さほど大きくなかったと言える。 下の図表で目につくのは、生鮮食料品、酒類、日用雑貨の3品目において「DgS」が 利用率を大きく伸ばしていることである。この要因としては、薬や化粧品、日用雑貨だけ ではなく、酒類や食料品も取り扱うDgSが近年増加していることが挙げられるが、こう した業態を“ドラッグストア”と呼ぶことが果たして適切であるのか、ますます判断が難 しくなってきている。 その他では、要因は不明ながら、ファッション衣料でユニクロなどをはじめとする「大 型専門店」の利用率が低下し、逆にセレクトショップなどの「一般専門店」の利用率が上 昇したことも注目される。 図表1 品目別にみた利用業態の変化(前回との比較) 生鮮食料品 SM 総菜・弁当 SM 酒類 HC+DS 日用雑貨 家電製品 HC+DS 大型専門店 ファッション 衣料 化粧品 SC・GMS DgS 1位 -2.4p 72.5% +0.8p 54.5% SC・GMS CVS -4.0p 41.2% DgS -4.0p 75.0% DgS +1.6p 87.2% HC+DS -2.0p 49.8% 百貨店 -0.2p 46.0% 通信販売 2位 -0.2p 42.1% DgS +1.6p 29.9% +7.2p 30.0% SC・GMS SM +4.6p 54.7% -5.4p 21.6% SC・GMS 一般専門店 +0.2p 41.7% 一般専門店 -0.2p 20.5% 百貨店 3位 +4.7p 22.4% 生協 -0.9p 29.6% 一般専門店 -2.2p 28.2% -0.2p 24.5% SC・GMS SM +1.7p 13.1% ネット +5.9p 23.0% 大型専門店 +0.4p 15.6% HC+DS 4位 -1.3p 14.4% HC+DS -0.6p 13.9% +0.4p 17.9% 百貨店 -3.8p -2.2p 23.5% CVS 7.3% +0.5p +0.3p 6.4% 生協 10.1% -0.7p -0.1p 6.5% -5.0p 21.0% SC・GMS 通信販売 3.5% -1.3p 3.5% -1.4p 12.4% +0.7p 14.0% SC・GMS -2.4p 13.7% 5位 通信販売 -0.3p 3.5% 備考:1.各品目ごとに「2つまで」回答してもらった結果。 2.矢印は、前回調査との比較で、3ポイント以上上昇を黒、3ポイント以上低下をグレー、その他 を白で表示している。 2 2011 年 9 月 財団法人 地域流通経済研究所 2.業態選択理由:基本は低価格志向だが判断基準は多様化傾向 生活者が利用する業態を選ぶ理由を、長期比較(生鮮食料品、日用雑貨、ファッション 衣料は第1回調査、化粧品は第4回調査との比較)で見たものが、下の図表2である。 まず生鮮食料品では、「価格が安い」という回答が21.0%から37.5%へと16.5ポイント も上昇していることが目につく。ただし、「品質がよい」や「価格が適当」という回答も 増加しているため、単純に「低価格志向が強まった」と決めつけることはできないだろう。 一方、「1ヶ所で(何でも)揃う」の比率は8.3ポイント低下しており、いわゆる“ワンス トップショッピング”の利便性に対する評価はやや低下したと考えられる。 他の3品目でも「価格が安い」の比率は上昇しており、生活者の低価格志向は強まった、 あるいは定着したと見るべきであろう。しかしながら、各品目において「価格が安い」以 外にも回答が増えた項目が存在しており、生活者の判断基準が多様化していることがうか がえる結果であった。 図表2 品目別にみた業態選択理由の変化(長期比較) ①生鮮食料品 ②日用雑貨 % 80 % 80 1回 今回 60 60 46.1 41.6 40 20 13.710.6 20 12.7 11.9 12.5 価格が適当 駐車場使いやす い 自宅・職場に近 い 商品が豊富 価格が安い 1ヶ所で揃う 0 % 80 1回 今回 59.057.4 60 38.536.2 20 30.2 20.4 40 20.0 12.7 10.6 8.5 4回 今回 42.1 39.9 32.3 27.6 24.0 29.1 24.0 22.1 20 7.3 7.8 11.6 11.1 11.2 11.4 10.7 6.8 6.15.3 店員のサービス 外出する必要な い サービス・特典 自宅・ 職 場に近 い 商品が豊富 価格が 適当 価格が 安い 品質がよい 0 外出する必要な い 駐車場使いやす い 価格が 安い 価格が 適当 品質がよい 商品が豊富 0 19.8 ④化粧品 % 80 40 47.9 46.2 23.9 26.2 18.9 10.6 ③ファッション衣料 60 49.9 40 駐車場使いやす い 価格が適当 品質がよい 商品が豊富 価格が安い 自宅・職場に近 い 0 37.5 32.6 28.7 27.7 24.2 21.0 21.0 18.0 1回 今回 67.2 備考:1.各品目ごとに「2つまで」回答してもらった結果。 2.第5回調査でデータの継続性が失われたため、1998年12月の第1回調査と今回との比較に絞っ た。ただし、化粧品は第4回より調査対象となっているため、その時点との比較となる。 3 2011 年 9 月 財団法人 地域流通経済研究所 3.買い物に関する意識と行動:総じて変化は小さい 買い物に関する生活者の意識と行動について、24項目の設問を設けた。そのうち、特徴 的な6つの項目について前回との比較を行った結果が下の図表3である。 まず、日常の買い物についての考え方では、「日常の買い物は苦痛だ」で「あまりあて はまらない、まったくあてはまらない」の比率が3.2ポイント上昇している。一方、「買い 物はストレスの発散になる」では「あてはまる」の比率がわずかながら上昇していた。前 回は、買い物に行く回数を減らす、ウインドウショッピングをやめる、衝動買いをやめる というように買い物に対して消極的な回答が目立ち、全体的に“買い物の楽しみ”が乏し い結果であったが、今回はその傾向がわずかに緩和されたように感じられる。 その他では、「著名人などがオススメするものに弱い」ならびに「インターネットで商 品情報を調べる方だ」において、「あてはまる、ややあてはまる」の比率が上昇している (前者は+2.3ポイント、後者は+4.1ポイント)ことが特徴的であった。このことから、 生活者の買い物に関する情報収集が多様化かつ活発化している可能性がうかがえる。 最後に、今年3月の九州新幹線全線開業の影響を探るため、「熊本市外へ買い物に行く ことが多い」ならびに「福岡で買い物をすることが多い」の結果を見ると、いずれも大き な変化がないことがわかった。ただし、「福岡で買い物をすることが多い」という設問で 「まったくあてはまらない」の比率が64.0%から61.2%へと若干低下していることから、 「たまには福岡に買い物に行くかもしれない」という人が増えた可能性はあるが、一部で 懸念されたような熊本から福岡への“ストロー現象”は見られないと言ってよい。 図表3 買い物に関する意識と行動の変化(前回調査との比較) 0 20 日常の買い物は 苦痛だ 前回 2.7 買い物はストレ スの発散になる 前回 著名人などがオ ススメするもの に弱い 前回 1.8 12.1 インターネット で商品情報を調 べる方だ 前回 熊本市外に買い 物に行くことが 多い 前回 4.3 11.2 福岡で買い物を することが多い 前回 1.8 8.1 7.9 今回 1.4 8.6 7.9 22.5 今回 3.6 7.0 17.1 あてはまる あまりあてはまらない 8.1 12.8 6.5 0.4 15.6 5.0 0.2 0.7 37.7 0.7 1.3 17.5 0.7 47.0 31.9 32.5 13.8 38.4 51.0 16.0 36.9 15.1 35.4 64.0 20.5 61.2 ややあてはまる まったくあてはまらない 4 1.8 18.1 14.6 9.0 2.0 20.7 30.7 18.7 13.8 18.7 31.2 14.7 9.5 今回 3.8 30.9 15.7 13.3 16.6 33.9 31.2 30.2 % 100 80 32.8 25.3 28.3 今回 2.9 60 23.4 16.7 今回 今回 40 どちらともいえない 不明 0.7 0.7 0.7 0.5 2011 年 9 月 財団法人 地域流通経済研究所 4.自由回答より:生活者の意識や行動はますます多様化、対応は困難に 最後に、ここ1年の間に買い物に関する変化について自由に記入してもらった結果から、 生活者の生の声を拾ってみたい。 (1) 必要なものを必要なときに必要な分だけ この傾向は2006年頃から目につくようになったが、今回も40人以上が「必要なものを必 要なときに必要な分だけ買う」と回答している。さらに、「衝動買いをしない」も11人存 在しており、無駄な買い物をしないように注意している生活者が多いことが目につく。 (2) まとめ買いをする派・しない派 今回調査では、「まとめ買い派」が19人、「まとめ買いをしない派」が12人と、若干まと め買い派が多いという結果であった。まとめ買いでポイントがつくことなどによって金銭 的に節約につながると考える人と、まとめ買いをしても最終的に無駄になってしまうこと を避けたいと考える人とがかなり明確に分かれており、各人がそれぞれ“お得感・合理 性・節約法”といったものを求めていることがわかった。 (3) 新幹線の全線開業の影響は極めて小さい 前ページでも見たように、新幹線の全線開業が購買に与える影響は非常に小さい。自由 回答でも「新幹線の開業によって福岡での買い物が増えた」という人が2人、「新幹線を利 用して大阪や福岡に行くことが増えた」という人が1人存在しているのみである。むしろ、 全体的には「買い物は近場で手軽に」という意識が強く、わざわざ新幹線で福岡に出かけ ようという人は少数派であることが改めて明らかになった。 (4) 東日本大震災の影響は自由回答からはうかがえない マスコミ等では、震災後に生活者の購買行動は大きく変わったとして「節電・防災関連 消費、復興支援消費、社会貢献消費、商品・サービスの共有(シェア)、つながり・絆に 関わる消費」といった動きが大きく取り上げられている。しかしながら、今回の調査結果 を見るかぎり、明らかに震災の影響だと思われるものは少なかった。具体的には、「放射 能問題があったため、食品の選び方が変わって、地産地消を心掛けるようになった」(50 代)、「東北産のものが特集されていると、買うことに決めている」(50代)、「震災以降、 大量買いをやめた」(50代)、「震災以降、『今本当に必要か』をまず考えて買うようになっ た」(30代)等の意見が挙がったが、すべて合計しても10人に満たなかった。 今回の調査を通して見ると、生活者の購買行動はさほど大きく変化してはおらず、利用 業態で「ドラッグストア」の強さが目についたことを除けば、特徴的な動きは見られない。 これは、従来にも増して生活者の意識や行動が多様化していることによるものと思われ、 もはや“価格志向か品質志向か”というように単純に割り切ることはできない。 そうした中、生活者の“無駄”を嫌う意識は非常に強く、その結果、それぞれが自分な りの購買行動を追求することとなっているため、小売店舗を選ぶ目がますます厳しくなっ ていることは間違いない。 以 5 上
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