民間企業の マイナンバー収集のための実務

「マイナンバー」基礎知識
民間企業の
マイナンバー 収 集 のため の 実 務
社会保険労務士法人サトー 特定社会保険労務士 佐藤
克則
マイナンバーシリーズ第3弾では、民間企業が実際に従業員等からマイナンバーを収集する際の実務
や注意点についてご紹介いたします。
企業は、役所等への届出書類について、雇用保険関係は平成28年1月1日以降の提出分から、税務
関係は平成28年1月1日以降の金銭支払い分から、社会保険関係は平成29年1月1日以降の提出分か
ら、従業員やその扶養家族のマイナンバーを記載しなければならなくなります。
また、本人交付用の源泉徴収票については、退職者の場合、退職後1か月以内に交付する義務があ
りますので、中途退職の人の場合、平成28年の早い段階で、源泉徴収票を作成する必要が生じます。
企業としては、本年中、
たとえば年末調整書類の回収時期に合わせてマイナンバーを収集して保管
し、必要となったときに事務処理がスムーズに行えるように体制を整えておくことが大切です。
1.
収集前の準備
②他の市町村への住所変更の場合
(東京特別区含む)
従業員からマイナンバーを収集する前に、
以下のよう
住民票のある従前の住所地に転出届を提出して転
な手順でお知らせをします。
出証明書を入手し、現在の住所地の市町村で転入届
1)住民票の住所の確認のお願い(8月中)
を提出します。転出届は、
郵送でも行うことができます。
2)通知カード厳重保管のお願い(9月中旬)
3)利用目的と収集方法の通知(9月下旬)
2)通知カード厳重保管の案内文通知
届いた通知カードを紛失しないよう厳重に保管するよ
1)住民票の住所の確認のお願い
う案内しましょう。
マイナンバーは、
今年の10月5日の時点の住民票をも
とに全住民に付番され、
10月5日以降、
市町村から住民
3)利用目的の通知及び収集方法の案内
票の住所地に、
世帯単位でまとめて簡易書留で送られ
マイナンバーを従業員から取得するためには、
あらか
てきます。
したがって、現住所と住民票の住所が異なっ
じめ利用目的を通知しておく必要があります。
これは、
ていて、万が一通知カードが届かないということがない
個人情報保護法第18条に基づく措置として必要なも
よう、従業員に向けて、必要な住民票の異動手続は10
のです。個人情報保護法の対象となる個人情報取扱
月5日までには済ませておくよう、
案内しましょう。
事業者※以外については、
義務ではありませんが、
従業
員の制度理解を促す意味でも行ってください。
【実際の住所と住民票が異なる場合の手続き
(住民票異動の手続)】
書類(後述)
を事前に検討しておき、
この案内文の中に
①同一市町村内での住所変更の場合
記載します。
現在の住所地の市町村に、
転居届を提出します(広
※個人情報取扱事業者とは、過去6か月間の保有個人情報の数が1日でも
5,000件を超える事業者
島市の区から別の区への異動は区間異動届)。
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また、
収集方法(対面、
郵送、
オンライン)
や本人確認
ワイエムビジネスレポート 2015.9月号 No.83
4)通知方法
従業員への案内や利用目的の通知の方法には、以
下の方法があります。
①社内LANの利用
(会社ホームページの従業員専用
サイトへの掲示、電子メール送信など)
②文書の配布や掲示板への掲示
③就業規則への記載
2.
マイナンバーの収集方法と
本人確認書類
従業員からマイナンバーを取得する際は、厳格な本
3.
収 集・保 管 の 際 の 注 意 点
人確認が必要となります。厳格な本人確認とは、
確実な
マイナンバーを含む特定個人情報については、
法律
書類に基づいて、①番号確認と②身元確認を行うこと
で定められた利用目的(社会保障や税)以外では収
です。
集したり、
保管することができません。
したがって、
たとえ
①番号確認−マイナンバーが正しい番号であることを
ば、支店や営業所で本人確認をする場合でも、実際に
公式の書類で確認
②身元確認−現に手続を行っている者がその番号の
正しい持ち主であることの確認
役所への届出書類を作成するのが本社であれば、速
やかに本社に移送する必要があります。決められた人
以外の人が、書類を受け取ったり、不用意にマイナン
バーをメモしたりすることがないよう、
社員教育を行いま
本人確認の書類を次ページの表に記載しています。
しょう。
本人確認書類は、対面・郵送・オンライン・電話といった
また、
書類等を保管する際は、
鍵のかかるキャビネット
マイナンバーの収集方法によっても異なります。
自社で
に保管したり、
データを保管してあるパソコンへは、
権限
どのような方法で収集するのかを決めた上で、確認書
のある人以外アクセスできないようアクセス制御を行い
類をあらかじめ把握しておくとよいでしょう。
ましょう。
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民間企業のマイナンバー収集のための実務
本人からマイナンバーの提供を受けるときの本人確認書類
【番号確認】
初回
2回目以降
①個人番号カード
(裏面で番号確認)
対面・郵送※
②通知カード
③個人番号が記載された住民票の写し・住民票記載事項証明書
オンライン
①∼③のほか、①∼③が困難な場合
すでに会社で作成しているマイナンバーの
ファイルを確認
①個人番号カード
(ICチップの読み取り)
②個人番号カードや通知カードの画像データや写真等の電子的送信
すでに会社で作成しているマイナンバーの
ファイルを確認
電話
【身元確認】
初回
2回目以降
①個人番号カード
(表面で身元確認)
②運転免許証、運転経歴証明書、旅券、身体障害者手帳、精神障害者保健福
祉手帳、療育手帳、在留カード、特別永住者証明書
左記に同じ
従業員等を対面で確認するときのみ
身元確認書類は不要
(国税庁告示)
③ア 写真付き学生証・資格証明書・社員証
(氏名・住所等の記載のあるもの)
イ 会社が氏名・住所等があらかじめ印字して本人に交付又は送付した書類
(入社時に会社所定の基準で本人確認を行っていることが前提)
対面・郵送※
④①∼③が困難なとき 次の書類を2つ以上
〇健康保険証、年金手帳、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、雇用
保険被保険者証 など
〇学生証・社員証
(写真なし)
(氏名・住所等の記載のあるもの)
〇国税、地方税、社会保険料、公共料金の領収書、納税証明書
(何れも発行から
6か月以内のもので、氏名・住所等があるもの)
〇住民票の写し
(発行から6か月以内のもの)
会社が発行する文書に本人の
氏名・住所等を記載し、その
文書そのものに通知カードの
コピーを貼り付けて返送して
もらうことで、番号確認と身
元確認を行うことができます。
⑤身元確認書類が不要となるケース
従業員等を対面で確認するとき
(入社時などに本人確認と同等の措置を行っていること)
①個人番号カード
(ICチップの読み取り)
オンライン
電話
②〇個人番号カード、運転免許証、旅券等の画像データや写真等の電子的送信
〇企業が本人であることを確認した上で本人に発行するIDとパスワード
基礎年金番号、社員番号など
※郵送の場合は、
書類又はその写しの提出 (注)
表中の下線は、国税庁の告示によるもの
4.
記録の保存
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つどのような状況で、漏えいしてしまったかを追跡可能
にするためです。
マイナンバーを収集した際は、
いつ収集したかを記
コンピューターシステムで管理している場合は、
システ
録します。
また、今後はマイナンバーを利用・提供・廃棄
ムログを確認できるしくみが必要です。
した際の記録もとっていく必要があります。
これは、
マイ
マイナンバー制度が正しく運用され、情報漏えいが
ナンバーの取り扱いが正しく行われているかを確認した
起きないよう、社内規定や取扱マニュアルを整備し、経
り、
万が一、
マイナンバーが漏えいしてしまったときに、
い
営者も含めて社内教育の徹底を図りましょう。
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