二次元半無限地盤に関する浸透流解析と浸透破壊安 定解析 -解析領域

神戸大学都市安全研究センター
研究報告,第19号,平成27年 3 月
二次元半無限地盤に関する浸透流解析と浸透破壊安
定解析 -解析領域のとり方と限界水頭差-
Method for specifying analyzed region and hydraulic head difference against
seepage failure of semi-infinite soil in two dimensions
田中
勉 1)
Tsutomu Tanaka
三木
昂史 2)
Takashi Miki
概要:地盤の浸透破壊に対する限界水頭差を無次元化表示するにあたり, 基本となる二次元半無限地盤の矢板締切
り問題について考察した。ここでは, 二次元半無限地盤の浸透流解析解(厳密解)による地盤内水頭値及び限界水頭
差の値に基づいて, 流線の形状から解析領域のとり方について検討した。まず, 浸透流理論から, 無限地盤として,
流線に沿ったほぼ半円形の浸透領域(正確には, 矢板の根入れ深さ D (=10 m)に対して, 左右両側に幅 100 m, 深さ
約 100m の楕円形状)を考えればよいことを明らかにした。次に, FEM 浸透流解析領域としては, この流線形状に
近似した四角形領域(締切り矢板から左右両側に 100m, 深さ 100m の地盤)について考えればよいことを示した。
そして, 四角形領域における FEM 浸透流解析結果から, 二次元半無限地盤の限界水頭差の無次元化式として
Hcw/D' = 2.8466 を提案した。
キーワード:二次元半無限地盤, 浸透破壊安定解析, 限界水頭差, 解析領域
1.序論
地下水位の高い地点における地盤の締切り掘削では浸透破壊が問題となる。対応を誤ると甚大な被害を生じる
こととなる。浸透破壊理論には, いまだ解明されていない点が多々残されており, さらなる理論的解明が待たれて
いるところである。著者らは, 地盤の浸透破壊に対する限界水頭差について, 無次元化の方法を模索している。そ
の時に基本となる二次元半無限の締切り地盤について考える。
各種基準類を考えたとき, 例えば道路協会(1999)で与えられている式は, 領域を半無限地盤と仮定した条件につ
いて求められたものである。有限深さの地盤に対して, 無限深さの地盤すなわち深さ方向に半無限地盤は, 最小の
限界水頭差を与えるので, 安全側の考慮からとられていると考えられる。
二次元半無限締切り地盤とは, 工学的には, 二次元地盤において締切り矢板の根入れ深さと比較して地盤層厚
が大きい場合を意味する。二次元半無限地盤について, ここでは, まず, 理論解析における領域のとり方について
考察する。次に, 有限要素法を用いて浸透流解析を行う場合に必要となる, 解析領域の設定方法について考える。
また, 全水頭値 h に関して, 理論解(厳密解)と比較することで, FEM 浸透流解析結果(数値解)が十分な精度で計算さ
れているかどうかについて考察する。そして, 浸透破壊に対する限界水頭差に関して考える。無次元化に関する理
論的考察から(田中ら, 2015), 二次元地盤の場合, 矢板の根入れ深さ D に対して一つの無次元量 Hcw/D' が得られ
ることがわかっている。ここでは, 二次元半無限地盤について, 地盤内の水頭値を理論式から求めた場合と FEM
― 277 ―
浸透流解析から求めた場合について,
y
Prismatic failure の考え方(田中, 1996)を用
いて Hc を算定し, FEM 浸透流解析による
ものが妥当な結果を与えるかどうかにつ
x
いて考察する。
D
2.半無限地盤について
半無限地盤とは, Fig.1 に示すように, 水
Fig.1
平方向及び鉛直下方向に無限に広がる地
締切り矢板のある半無限地盤
盤を意味する。締切り矢板のある半無限地盤について, 浸透流理論から, 流線及び等ポテンシャル線は, 理論的に
次の式で表されることが知られている(山村・鈴木, 1977)。
x2
y2
 2
1
2
d sinh  ' d cosh 2 '
2

(1)
x2
y2
 2 2 1
2
2
d sin  ' d cos  '
ここに, d = D は矢板の根入れ深さ, x, y は座標を表す。また, ’ 及び ’は, ポテンシャル関数  及び流れ関数 
と次の関係式で表される。
'
 '

kH

kH

(2)

ここに, k は地盤の透水係数, H は矢板前後における水頭差である。浸透流のある二次元地盤内において, 流れ関数
 が一定の値をとる曲線( = C, C : 定数)は流線を表す。Fig.2 に, sinh ’ =10, 7, 4 とおいたときの流線の形状を示
す。流線の形状は, ’ が小さいときは楕円形状であるが, ’ が大きくなると円形に近づいていく。定義から流線を
横切る流れはないので, 二次元地盤を対象とするのであれば, 流線と合致した浸透領域を考えることによって解
析結果は半無限地盤のものと同一となる。すなわち, 解析領域として, Fig.2 のどの曲線をとっても良いことになる。
しかしながら, FEM 浸透流解析を行う場合, 領域として四角形を考えるのが適切なこと, 二次元集中流条件や軸対
称流条件についても議論を進めようと意図していることなどから, 領域は, 流線に近似的に接した四角形で, なる
べく大きくとった方がよいと考えられる。ここでは, Fig.2 に示す流線の中から sinh’ =10 に対応する領域を考え,
この流線形状に近似した四角形領域(締切り矢板から左右両側に 100m, 深さ 100m の地盤)について考えること
にする。Fig.3 に, sinh’ =10 の場合の流線及びこの流線形状に近似した四角形領域を示す。ここでは, Fig.3 に示す
楕円形状の浸透領域(理論解析用)とそれを近似した四角形浸透領域(FEM 解析用)に関して, 地盤内水頭値 h 及び地
盤浸透破壊に対する限界水頭差 Hc について考察する。
’=10
-150
-100
7
4
-50
0
0
50
100
-20
-40
-60
-80
-100
(Unit m)
-120
Fig.2 幾つかの流線(sinh’ =10, 7, 4 の場合)
― 278 ―
150
-150
-100
0
-50
-20
0
50
-40
100
150
FEM 解析用
理論解析用
-60
-80
-100
(Unit m)
-120
Fig.3 半無限地盤の仮定と四角形領域(解析領域)への近似
3.解析領域の設定と解析結果
3.1 解析領域としての二次元半無限地盤の設定
前述したように, Fig.3 は, 中央に根入れ深さ d (=D) =10 m の締切り矢板のある半無限地盤に関する浸透流理論か
ら得られた流線(理論曲線)を示している。Fig.3 からわかるように, 前述の通り, 矢板の中央から左右それぞれ 100m
離れた位置から始まる流線はほぼ半円状になる。FEM 解析では, 半無限地盤における理論流線に外接した長方形
の領域を半無限地盤として仮定した。また, 今後の一連の研究において, 半無限地盤における二次元集中流及び軸
対称流条件の地盤は, Fig.3 の二次元半無限地盤を基本として作製することとした。
3.2 半無限地盤の間隙水圧
ここでは, Fig.4 に示すような締切り矢板のある半無限地盤について, 浸透流複素関数理論から理論的に得られ
た, 流れ関数 及びポテンシャル関数 と(2)式で関係づけられる’, ’ に関する(1)式について考える。
まず, (1)式の第 2 式から, ’ の値は次のようになる。
 x 2 cos 2  ' y 2 sin 2  '  d 2 sin 2  ' cos 2  '
  x 2 (1  sin 2  ' )  y 2 sin 2  '  d 2 sin 2  ' (1  sin 2  ' )
 d 2 sin 4  ' ( x 2  y 2  d 2 ) sin 2  ' x 2  0
 sin 2  ' 

1
d 2  x 2  y 2  ( d 2  x 2  y 2 ) 2  4d 2 x 2
2d 2

(3)
(3)式で正の方をとると(  sin 2   0 ),

1

2d
 '  sin 1  

d 2  x 2  y 2  ( d 2  x 2  y 2 ) 2  4d 2 x 2 

(4)
となり, (4)式から’の値を求めることができる。また, y=0 のときと x=0 のときの’の値は, 次のように求められる。
(1) y = 0 のとき:

1

2d
 '  sin 1  

d 2  x 2  ( d 2  x 2 ) 2  4d 2 x 2 


1
 sin 1  
2d


d 2  x 2  ( d 2  x 2 ) 2 


1
 sin 1  
2d


d 2  x 2  d 2  x 2 

 sin 1 1
(5)
― 279 ―
y
/2
/2
x
D


’ の値
’=0
Fig.4
締切り矢板のある半無限地盤(’の値と符号)
ここに,
Table 1
1
’= sin 1 = /2
’の値から全水頭値 h への変換方法*
地盤表面における h の値 (m)
1
’= sin 1 = /2
演算
上流側
下流側
/2
/2
である。
元の値
(2) x = 0 のとき:
÷(/2)
1.0
-1.0
÷2
0.5
-0.5

1

2d
 '  sin 1  

d 2  y 2  ( d 2  y 2 ) 2 



1
d 2  y 2  d 2  y 2 
 sin  
2d


1
+0.5
+100.0
1.0
0.0
101.0
100.0
* 計算は(8)式にしたがって上から下へ行う。下段の値
が実際の水頭値である。
 1

d 2  y2 
 sin 1  
d


(6)
Fig.4 には, 締切り矢板の上下流領域について, ’の符号を示した。’の符号は上流側が負となり, 下流側が正と
なる。また, ’の値は次式を用いて, ポテンシャル関数  に変換することができる。
' 


2


kH

1
2
 ,    kH (上流側)
1
' 
 ,   kH
2
2 kH
(7)
(下流側)
ここで, 水頭差 H が 1.0 m となるように, 浸透領域内の水頭値 h を求めるためには, (7)式より,
h = ’ ÷ (/2) ÷ 2 + 0.5 + 100.0
(8)
にしたがって, 右辺について左側から順番に計算すればよい。(8)式は, 地盤の下端 y = 100 に基準線(Datum line)
をとったときの水頭値 h を求める式である。例えば, 上下流地盤表面の水頭値 h は, Table 1 に示すように計算され
る。
次に, 理論解析と FEM 解析によって得られた地
y
盤内各点における水頭値 h の値を比較した。ここで
は上下流地盤表面の水頭差が 1.0m の場合について
10
解析した。ここで, Fig.5 に示す 10 点における h に
0
ついて考えると Table 2 のようになる。Table 2 から,
h の理論値と FEM 解析値はよく一致していること
    
    
がわかる。理論値に対する FEM 解析値の相対誤差
(絶対値)は 0.63%以下である。Table 2 において, 全
x
10
y=
10
15
(Unit m)
地点に 100 という基礎値が与えられているのは ,
Datum line を地盤下端 (y = 100 m) においているた
Fig.5
― 280 ―
地盤内のチェック点
Table 2
地盤内各点における理論解析と FEM 解析による水頭値 h の比較
INP*
x (m)
y (m)
h (m) (Analyses)
h (m) (FEM)
Relative error (%)
2891
-10
-10
100.78790
100.78710
-0.10
3601
-5
-10
100.71480
100.71300
-0.25
4331
0
-10
100.50000
100.50000
0.00
5041
5
-10
100.28520
100.28700
0.63
5751
10
-10
100.21210
100.21290
0.38
2871
-10
-15
100.66150
100.66120
-0.05
3591
-5
-15
100.62720
100.62640
-0.13
4321
0
-15
100.50000
100.50000
0.00
5031
5
-15
100.37280
100.37360
0.21
5741
10
-15
100.28850
100.28910
0.21
* IPN は本報で用いた FEM 浸透流解析の分割図(4CST 要素, 総節点数 8611, 総要素数 8400)に
おける節点番号を表す。
めである。したがって, 相対誤差は, 1m の水頭差の下で地盤内に実際に生じる過剰間隙水頭に対するものとして,
((hANAhFEM)/(hANA100)) 100 (%)と求めた。ここに, hANA, hFEM は, h についての理論解(厳密解)及び FEM 数値解で
ある。
4.半無限地盤の限界水頭差に関する考察
FEM 浸透流解析は, 浸透流の支配方程式を境界条件や初期条件の下に, 流れ場のポテンシャル関数(または全水
頭値 h)や流れ関数, 動水勾配などを近似的に導出するものである。したがって, h の値に関して, FEM 浸透流解析
は近似的であるため, 数値解と理論解(厳密解)とは異なっている。ここでは, FEM 数値解に基づく Hc の妥当性を確
認するため, 言い換えれば, 領域のとり方, 及び, 数値解の妥当性を把握するため, 「浸透流理論に基づいて(4)式
を用いて求められた水頭値から計算した限界水頭差」と「FEM 浸透流解析から求められた水頭値から計算した限
界水頭差」を比較した。
Table 3 は, 「理論解析」と「FEM 浸透流数値解析」による水頭値から計算した Hc の値を示しており, 相対誤差は数
値解と厳密解の差を厳密解で除して表している。数値解による Hc と厳密解による Hc は, 相対誤差が1.21 %であ
り, おおよそ等しいといえる。数値解析解の方が小さくなった要因として, 厳密解の解析対象領域が, 締切り矢板
両側に 100 m の楕円(近似的に半径 100 m の円)であるのに対して, FEM 浸透流解析の解析領域が, その近似円に外
接する 100×200 m の長方形であり, 後者の方が左右両側下方で少し広くなっており, 浸透水がより流れやすくなっ
ているためであると考えられる。このように, FEM 数値解は厳密解よりも安全側に限界水頭差が求められることが
わかる。また, ほぼ等しい値であるため, FEM 浸透流解析は妥当性があると考えられる。このようにして, FEM 浸
透流解析解より得られた限界水頭差を半無限地盤の解として用いることができる。今後, 無次元化に関する考察で
は, 二次元半無限地盤の限界水頭差(無次元化量)として, FEM 浸透流解析結果を用いて得られた値,
Hcw/D' =2.8466
を用いる ((田中他, 2015)参照)。
5.結論
(9)
Table 3
理論解と数値解による水頭値から求めた Hc の値の比較
限界水頭差 Hc (m)
誤差 (%)
理論解
28.81551
0.00
FEM 数値解
28.46634
-1.21
水頭値の計算
地盤の浸透破壊に対する限界水頭差を無次元化表示するにあたり, 基本となる二次元半無限地盤の矢板締切り
問題について考察した。ここでは, 二次元半無限地盤の浸透流解析解(厳密解)を用いて, 地盤内水頭値 h 及び限界
水頭差 Hc を算出し, 流線形状に基づいて FEM 解析領域のとり方を検討した。そして, 「浸透流理論から, 流線の形
状は, 矢板近傍では楕円形状, 矢板から離れると円形形状に近くなること」, また, 「その流線形状は, 矢板から離
れていくほどより円形形状に近くなっていくこと」を示した。そして, 無限地盤として, 流線に沿ったほぼ半円形
の浸透領域(正確には矢板の根入れ深さ D (=10 m)に対して, 左右両側に幅 100 m, 深さ約 100m の楕円形状)を考
えればよいことを明らかにした。また, FEM 浸透流解析領域としては, この流線形状に近似した四角形領域(締切
り矢板から左右両側に 100m, 深さ 100m の地盤)について考えればよいことを示した。したがって, 本研究を含む
― 281 ―
一連の研究では, FEM 浸透流解析領域としてこの四角形領域について考えることにした。また, 理論解析(厳密解)
及び FEM 解析(数値解析)による浸透流解析とそれらの結果を用いて浸透破壊に対する安定解析を行い次の結論を
得た。
(1) 地盤内水頭値 h について, 数値解によるものは理論解によるものに対して, 相対誤差(絶対値)は 0.63%以下とな
る。
(2) 限界水頭差 Hc について, 数値解によるものは厳密解によるものよりも少し小さくその相対誤差は1.21 %であ
り, おおよそ等しいといえる。
(3) 四角形領域における FEM 浸透流解析結果から, 二次元半無限地盤の限界水頭差の無次元化式として Hcw/D' =
2.8466 を提案した。
参考文献
田中
勉, 永井
茂, 三木昂史 (2015): 浸透破壊問題における限界水頭差の無次元化に関する考え方, 神戸大学都
市安全研究センター研究報告, 第十九号, pp.266-276.
田中
勉 (1996): 上昇浸透流を受ける矢板背後地盤の浸透破壊 -Prismatic failure の概念と解析結果-, 農業土木
学会論文集, 第 64 巻, 第 6 号, pp.77-87 (第 186 号, pp.969-979).
山村和也, 鈴木音彦 (1977): 現場監督者のための土木施工 5 土と水の諸問題, 鹿島出版会, pp.78-81.
日本道路協会編 (1999): 道路土工―仮設構造物工指針,日本道路協会,pp.76-82.
Tanaka, T. and Verruijt, A. (1999): Seepage failure of sand behind sheet piles –The mechanism and practical approach to
analyze–, Soils and Foundations "Underground Construction in Soft Ground", Vol.39, No.3, pp.27-35.
著者
1) 田中 勉, 神戸大学大学院農学研究科, 教授
2) 三木昂史, 神戸大学大学院農学研究科博士課程前期過程, 学生
― 282 ―
Method for specifying analyzed region and hydraulic head
difference against seepage failure of semi-infinite soil in
two dimensions
Tsutomu Tanaka
Takashi Miki
Abstract
The seepage failure of soil within a cofferdam is discussed in order to perform non-dimensional
formulization of the critical hydraulic head difference, Hc. In this paper, using precise models of seepage
flow through semi-infinite 2D soil around under sheet piles, the analyzed region is discussed based on a
stream line. A semicircle (depth of sheet pile, D: 10 m; breadth of both left and right sides, L: 100 m; and
depth of soil, T: about 100 m) is taken as an infinite analyzed region. It was verified that the quadrilateral
(both left and right sides being 100 m from sheet piles; depth: 100 m) can be taken as an FEM analyzed
region. The non-dimensional formula for the critical hydraulic head difference of Hc, Hcw/D'=2.8466, is
given for the semi-infinite 2D soil, based on analyses of the FEM seepage flow and stability against
seepage failure, where ' and w are the buoyant unit weight of soil and unit weight of water, respectively.
Key words: Semi-infinite 2D soil, Stability analysis against seepage failure, Critical hydraulic head difference,
Analyzed region
― 283 ―