調 査 報 告 シカゴ 北米プラスチック機械産業の動向について 2015 年 3 月、北米最大のプラスチック関連産業展 NPE(The International Plastics Showcase)2015 がフロリダ州オーランドで開催された。オレンジコンベンションセンター のほぼすべてのフロアを利用しており、出展者数は 2,000 社・機関を越え、来場者数も 6.5 万人(前回比+19%)を超えるなど非常に盛況な様子であった。出展者の 44%と来場者の 26%が米国外(37 カ国・地域)となっており国際色豊かな展示会である。加工装置、原材 料、加工処理、サプライヤーなど幅広い産業が結集しており、日系の装置メーカーも多く 出展していた。3 年に一度の頻度で開催され、次回開催は 2018 年 5 月を予定している。 今回は、このイベントで得られた知見を中心に北米プラスチック機械産業の動向につい て報告する。 1.北米プラスチック機械産業の需給動向 2012 年の北米プラスチック加工機械の需要は、約 41.6 億ドルとなり、世界全体の 15.6% を占め、アジア・太平洋地域に次ぐ第 2 位の市場となった。機械需要は、経済規模やプラ スチック産業規模に比例しており、米国は北米全体の約 70.7%を占める最大セクターとな った。2007 年から 2012 年にかけて、北米のプラスチック加工機械市場は本質的に横ばい であった。北米全体の設備投資支出や米国プラスチック需要の減少した一方で、米国やカ ナダにおけるプラスチック 3D プリンタ市場の急激な成長やメキシコ市場の堅調な伸びが プラス要因として働いた。 東欧 6% アフリカ等 7% 北米 16% 中南米 5% 西欧 14% アジア等 52% (出所:フリードニアグループ) 図1 世界プラスチック加工機械需要の国別市場シェア(2012 年、266 億ドル) ― 13 ― 調査報告 シカゴ 北米プラスチック加工機械の需要予測は、2017 年までに年率 6.2%で成長し、約 56 億ド ルまで増加すると見込まれている。歴史的に見て高い水準にある設備投資支出とプラスチ ック樹脂消費量は、装置サプライヤーの利益に貢献している。プラスチック加工機械の設 置台数の増加は、生産性向上や品質管理改善に寄与し、米国内への生産回帰や輸送コスト 削減に貢献する。例えば、米玩具メーカーのリトルタイクス社は全ての生産能力を中国か ら米国に移転しており、今後も米国内で設備投資を継続していくと見込まれている。 さらに、北米のシェールガスブームは、特に米国の石油化学関連企業の株価を豊かにし、 プラスチック加工や関連生産設備の需要増を後押ししている。業界全体ではプラスの効果 が期待されるが、厳しい競争環境により売上増もある程度制限されたものになるだろう。 2017 年までの見通しを用途別にみると、主に米住宅市場のリバウンド期待により建設向 けが最も市場拡大の速度が速いだろう。また、民生用は米国およびカナダ市場において最 もスローな成長となる。包装関連需要も上昇が見込まれ、需要別シェアでは 4 割を超え最 大となるだろう。 9,000 8,000 単位:百万ドル 7,000 カナダ・メキシコ 米国 2,430 6,000 5,000 4,000 3,000 1,700 1,185 1,220 5,190 2,000 1,000 2,960 2,940 2007年 2012年 3,930 0 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図2 北米プラスチック加工機械需要の推移 2012 年の北米プラスチック加工機械の出荷額は約 32 億ドルとなり、アジア・太平洋地 域および西欧に次ぐ第 3 位の生産地となった。米国は、金額ベースで北米全体の約 77%を 占め支配的な位置付けにある。カナダは市場規模こそ大きくないが、プラスチック加工機 ― 14 ― 調査報告 シカゴ 械メーカーで世界第 3 位のシェアを有するハスキーインジェクションモールディング社が 拠点を構えており、北米で唯一の純輸出国である。北米全体では、2012 年需要の約 23%が 輸入に依存している。2007 年から 2012 年にかけて生産に関する年間成長率は 1%に満たな い。 北米プラスチック加工機械の将来見通しは、2017 年までに出荷額は年率 6.4%で成長し約 43.6 億ドルまで増加すると予想しており、これは 2007 年から 2012 年の需要の伸びがさら に加速すると見込まれるためである。北米各国の需要増伸と好調な世界経済に牽引された 輸出拡大が、生産加速の要因となるだろう。一方で海外メーカーとの競争はさらに激化し、 北米地域の貿易赤字は 2017 年までに更に拡大すると見込んでいる。 また、北米にはプラスチック加工機械のサプライヤーが多く立地している。米国にはデ ービス・スタンダード社やミラクロン社といった世界規模で事業展開する企業が製造拠点 を有している。また、アーブルグ社やキャノングループ社、エンゲル社、ヘンネケ社とい った多国籍企業も北米地域(主に米国)に工場を有し生産を行っている。 2.米国 プラスチック機械産業の動向 2012 年の米国プラスチック加工機械需要は約 29.6 億ドルとなり、北米地域における最大 セクターであった。米国は旺盛な消費者需要を背景に、大規模な包装産業や建設部門に支 えられ、中国に次ぐ世界で 2 番目に巨大な国内マーケットを保有している。また、プラス チック需要に強い影響を及ぼす自動車産業の世界最大規模の生産拠点でもある。国内プラ スチック製品メーカーの生産性は自動化された大量生産が可能な装置により世界レベルで ある。 しかしながら、2007 年から 2012 年の期間に需要は 1%弱縮小した。景気後退の影響が長 引き、設備投資抑制やプラスチック樹脂の使用減少につながったものと見られている。ま た、中古機の流通増が、新しい装置の需要を減少させた影響もある。例えば、北米で事業 展開するケンネルアイレ社は、2011 年 11 月にプラスチック製のペットアクセサリー等を生 産していたカンザスとオタワの工場を閉鎖し、保有資産である米ミラクロンや三菱重工製 のプレス機に加え 16 台の射出成型機を競売に出している。全体的な製品の需要は、急速な 成長を示す自動車や医療機器向けプラスチック 3D プリンタに支えられ規模を維持してい る。 ― 15 ― 調査報告 シカゴ 6,000 単位:百万ドル 5,000 部品等 4,000 熱成形機等 3,000 吹込成形機 2,000 押出成形機 1,000 射出成型機 0 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図3 米国プラスチック加工機械需要額の推移(機種別) 100% 90% 80% その他 70% 60% 建設 50% 40% 民生用 30% 20% 包装 10% 0% 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図4 米国プラスチック加工機械需要シェアの推移(分野別) 2012 年の米国プラスチック加工機械の出荷額は約 25 億ドルとなり、中国、ドイツ、日 本に次ぐ世界第 4 位の規模である。米国メーカーは様々な種類の加工機械を世界各国に輸 出しており、2012 年の最大輸出先はメキシコおよびカナダ、中国であった。他方で、豊富 な国内需要を背景に輸入規模も大きく、2012 年需要の約 17%を占めていた。主な供給国は 日本やドイツ、オーストラリア等であった。 米国のプラスチック加工機械の出荷額は年率 6.5%で増加し、2017 年には約 34 億ドル規 ― 16 ― 調査報告 シカゴ 模まで成長すると予想されている。これは 2007 年から 2012 年の伸び率を上回っており、 地域や海外の需要に支えられている。米国は世界最大のプラスチック 3D プリンタの生産能 力を保有し 2017 年までは増強傾向が続くが、他方で、国内産業は海外競合他社との厳しい 競争環境に直面すると見込まれている。同様に従来型のプラスチック加工装置の輸出は増 加するが、それを上回る速さで輸入が拡大し、同品目の赤字幅は増加すると見込まれる。 3D システムズ社やデービス·スタンダード社、ミラクロン社、ストラタシス社に代表さ れるようにグローバル展開する大手プラスチック加工機械メーカーの幾つかは米国に本社 を置いている。同様に、関連サプライヤーの多くが米国に拠点を置いている(ファレル社、 グロスターエンジニアリング社、グラハムエンジニアリング社等)。 3.カナダ プラスチック機械産業の動向 2012 年のカナダのプラスチック加工機械需要は約 4.3 億ドル(US ドル、以下同様)と なった。カナダ市場は米国市場の約 1/6 と小規模であり、2007 年から 2012 年の期間に年 率 1.8%で減少し、北米で最もパフォーマンスの低い市場となっている。人件費の安価な国・ 地域のプラスチック製品メーカーとの競争やエネルギー価格の上昇、全般的な収益率の低 下等を背景にプラスチック機械市場は縮小傾向であった。しかしながら、世界的な景気低 迷で抑圧された設備投資の反動を受け、2017 年までに約 5.6 億ドルに達し年率 5.4%の成長 と予想されている。 800 単位:百万ドル 700 部品等 600 500 熱成形機等 400 吹込成形機 300 押出成形機 200 100 射出成型機 0 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図5 カナダ プラスチック加工機械需要額の推移(機種別) ― 17 ― 調査報告 シカゴ 2017 年の需要をアプリケーション別に見ると、包装市場が全体の 35%を占めており、引 き続き最大の市場である。これは、食品や飲料市場の拡大やそれに伴う包装需要の増加が 要因であると見込まれる。 100% 90% 80% その他 70% 60% 建設 50% 40% 民生用 30% 20% 包装 10% 0% 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図6 カナダ プラスチック加工機械需要シェアの推移(分野別) 2012 年のカナダのプラスチック加工機械の出荷額は約 6.9 憶ドルとなり、この 37%が輸 出に相当し同品目の貿易収支の黒字である。最大の輸入国は米国である。カナダの装置メ ーカーはこうした需要に対応した様々なタイプの装置を生産している。2017 年の出荷額は 約 9.1 憶ドルと年率 5.8%で成長すると見込まれており、米国やメキシコ等の輸出先の健全 な需要に期待されるものである。他方で、プラスチック加工機械の低コスト生産が可能な 新興国の台頭により、カナダ市場の成長は抑制される可能性もある。例えば、カナダに本 社を置くハスキーインジェクションモールディング社は中国蘇州で新工場を立ち上げると 2012 年 7 月に発表した。 また、カナダに拠点を置く代表的な装置サプライヤーは、アルファマラソン社やブラン プトンエンジニアリング社、デルタプラストマシナリー社、GN プラスチック社、マクロエ ンジニアリング&テクノロジー社等が挙げられる。 4.メキシコ プラスチック機械産業の動向 2012 年のメキシコのプラスチック加工機械需要は約 7.9 億ドルとなった。北米需要の 19%を占め、米国に次ぐ規模である。プラスチック製品の加工処理条件がより厳しくなる中 ― 18 ― 調査報告 シカゴ で、メキシコのプラスチック加工業者は、加工設備や機器をアップグレードしている。例 えば、ハイエンドのプラスチック加工装置を供給するクラウスマッファイ社およびヴィッ トマンバッテンフェルド社は、両者ともに 2012 年にメキシコ国内での売上レコードを更新 した。他方で、2007 年から 2012 年の期間の利益に注目すると、リセッションにより最大 の市場である米国でのプラスチック製品の消費低迷の影響を受け、2002 年から 2007 年の 期間に比べ顕著に減速した。 また、加工機械需要は 2012 年から 2017 年の期間に米国やカナダを上回る年率 7.6%で成 長し、2017 年は約 11 億ドルに達すると見込まれる。国内外の設備投資支出が通常レベル に戻りつつあり、メキシコ製のプラスチック製品需要の増加が要因である。例えば、ソノ コ社は、航空宇宙や家電、自動車、医療機器といった幅広い用途に用いられるフォーム製 品の工場をセラヤ市の新設するため、1,100 万ドル規模の投資を実施することを 2013 年 3 月発表した。 1,800 単位:百万ドル 1,600 1,400 部品等 1,200 熱成形機等 1,000 800 吹込成形機 600 押出成形機 400 200 射出成型機 0 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図7 メキシコ プラスチック加工機械需要額の推移(機種別) 需要をアプリケーション別に見ると、包装市場向けが最大シェアとなり 2017 年に全体の 38%を占めると予想されている。これは、個人所得の上昇に伴い食品や飲料製造業の需要が 増加し、包装市場も拡大することが見込まれるためである。 ― 19 ― 調査報告 シカゴ 100% 90% 80% その他 70% 60% 建設 50% 40% 民生用 30% 20% 包装 10% 0% 2002年 2007年 2012年 2017年 2022年 (出所:フリードニアグループ) 図8 メキシコ プラスチック加工機械需要シェアの推移(分野別) 2012 年のメキシコのプラスチック加工機械の出荷額は約 0.65 億ドルとなった。これは北 米全体の約 2%という規模である。メキシコではプラスチック加工機械を輸入に依存してお り、国内で生産しているのは、コモディティユニットや機械部品に限定されている。ドイ ツが最大のサプライヤーであり、米国、日本、中国、オーストリア、イタリアが続く。 メキシコのプラスチック加工機械の出荷額は年率 6.7%で成長し、2017 年には 0.9 億ドル に達すると見込まれる。但し、2007 年から 2012 年の期間に比べ成長は鈍化すると予想さ れている。現地生産レベルは国内需要を大幅に下回り、外資系サプライヤーとの競争によ り同国の貿易収支の赤字幅は 2017 年まで増加し続けると見込まれる。他方で、プラスの要 因としては、国内外の好調な需要や多国籍企業によるメキシコ工場への継続的な投資が挙 げられる。これらの企業は、安価な人件費のみならず、成長を続ける国内需要や米国に近 接する立地に魅力を感じている。例えば、アーブルグ社は、メキシコ国内の高度な加工機 械の需要の高まりに対応するため、2013 年 6 月にケレタロでの射出成型機(オールラウン ダー機)の生産拠点を設置した。 メキシコの主なプラスチック加工機械メーカーは、国内に本社を有する Beutelspacher 社や Her-Maq 社、 Inyectora Para Plasticos Ars 社に代表される。また、前述のアーブル グ社に加え、KHS 社、SIPA 社、ユニロイ社(ミラクロン子会社)などの多国籍企業がメ キシコ国内で生産活動を実施しており、さらに多くの海外企業が販売・サービス拠点を設 けている。 ― 20 ―
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