橋上クレーン工法による変断面細幅箱桁橋の架設

橋上クレーン工法による変断面細幅箱桁橋の架設
[報告]
-社会資本整備総合交付金(改築)工事(行田大橋上部工その1)-
吉 川 彰 彦*
坂 本 淳 平**
1.はじめに
なる約48mの桁架設工を,秩父鉄道株式会社より清水建
国道 125号行田バイパスは,埼玉県行田市街地を通過
する国道125号の渋滞緩和道路として,熊谷市~羽生市
設株式会社が受注しており,当該範囲の桁架設工事を下
請工事として弊社が受注した.
までの約10km区間を結ぶバイパス道路である.現在,行
全体一般図および施工区分を図-2に示す.
田バイパスの渋滞緩和を目的に2車線から4車線化へ拡張
桁架設は,橋梁直下に大型重機を配置したベント架設
整備工事が進められており,行田大橋を含む小見~荒木
工法が困難な現場条件であるため,主桁上に覆工設備を
区間(約1km区間)を除き,4車線化が完了している.
配置した橋上クレーン工法を採用した.
行田大橋は,行田バイパスのほぼ中間地点に位置し,
秩父鉄道,武蔵水路および県道306号を跨ぐPC2径間連続
本稿では,橋上クレーン工法による変断面細幅箱桁橋
の架設について報告する.
中 空 床 版 橋 ( 54.125m ) + 鋼 3 径 間 連 続 細 幅 箱 桁 橋
(206.35m)+PC2径間連続中空床版橋(34.725m)で構
2.橋梁概要
対象橋梁の概要を以下に示す.
成された橋長295.2mの橋梁である.工事個所位置図を図
-1に示す.
両側径間部PC床版橋については,平成24年度までの整
形
式:鋼3径間連続2主細幅箱桁橋
橋
長:206.350m
備事業で完了しており,残りの鋼橋区間を3工区分割発
支 間 長:52.100m+90.500m+62.100m
注工事として埼玉県より発注された.
幅
員:車道部7.250m,歩道部3.250m
本工事は,鋼橋区間の半分にあたる約94.4mの鋼桁製
平面線形 :θ=90°00′00″
作および付属物工,起点側から約46mの桁架設工,鋼橋
主 桁 高:2.100m~3.600m
区間床版工一式を受注した.また,秩父鉄道直上範囲と
床
版:鋼コンクリート合成床版(リバーデッキ)
活 荷 重:B活荷重
鋼
重:約800t(合成床版除く)
適用基準:道路橋示方書・同解説(平成14年3月)
3.工事概要
本工事の工事概要を以下に示す.
①
元請工事
工 事 名:社会資本整備総合交付金(改築)工事
(行田大橋上部工その1)
発 注 者:埼玉県
行田県土整備事務所
工事箇所:埼玉県行田市小見地先
工
期:(自)平成25年 2月 5日
(至)平成27年 3月31日
図-1
*
**
橋梁事業部
橋梁事業部
対象箇所:鋼桁製作工
P8~J9 (L=94.400m)
鋼桁架設工
P8~J4 (L=46.087m)
床版工
P8~P11(L=206.350m)
付属物工
P8~J9 (L=94.070m)
工事箇所位置図
工事部
保全部
計画工務課
保全工事グループ
(38)
片山技報
No.34
図-2
②
全体一般図および施工区分
るクレーンを配置し,レール上を容易に移動可能となり,
下請架設工事
後方台車による主桁輸送により,PC床版橋からの輸送お
工 事 名:一般国道125号(行田大橋)2期線整備に伴う
よび架設する工法である.クレーン本体には移動式クレ
橋桁架設工事
発 注 者:秩父鉄道株式会社
ーンと異なり,車両に重量ウエイトが装備されていない
元請業者:清水建設株式会社
ため,重機重量が大幅に軽減され,主桁に負荷される荷
工事箇所:埼玉県行田市小見地先
重影響を軽減することができる.ただし,ウエイトが装
工
期:(自)平成26年 2月17日
着されていない分,桁架設時の反力に架設済み主桁重量
(至)平成27年 3月31日
を利用するため,鋼桁とクレーンを連結する反力治具を
対象箇所:鋼桁架設工
桁に設ける必要がある.
J4~J9 (47.983m)
工法の利点として,トラベラクレーンの自重は同性能
4.架設現場条件
の移動式クレーンに比べて軽量であり,桁に作用する荷
架設地点の現場条件として,橋梁下作業ヤード横に公
重影響を軽減することができる.その反面,クレーン本
共ガスパイプ施設,水田用水路,秩父鉄道,武蔵水路が
体とは別に架設桁を輸送するための後方台車や台車へ桁
それぞれ近接しており,側径間(P8~P9間)は小型移動
を積載するための移動式クレーンの配置等,クレーン本
式クレーンによるベント設備の組立配置は可能だが,大
体とは別に機材を準備する必要があり,設備コスト面で
型重機を桁下に配置することができない地形である.ま
やや高価となる上,軌条設備の組立解体に時間を有し,
た,既設Ⅰ期線が並行しているため,作業ヤードは1幅
工程が若干長くなる.
員方向のみ作業場所が確保できない上,桁下作業ヤード
までの一般市道の道幅が狭く,大型重機および主桁を積
5.2
橋上クレーン工法
トラベラクレーン工法では,桁上に軌条設備を配置し,
載したトレーラーの搬入が困難であることから,桁下か
らの架設作業は困難であると判断した.そこで,先行し
専用クレーンを自走させて桁架設を行うが,移動式クレ
て架設が完了しているPC床版橋の橋面を利用し,桁上か
ーン自体を直接主桁上を自走させる架設方法として,橋
らの架設を実施した.
上クレーン工法がある.この工法は,主桁上に覆工設備
を配置することにより,覆工設備上を直接移動式クレー
5.架設工法の選定
ンが自走でき,順次作業スペースを拡張しながら桁架設
桁上からの架設を実施する上で,トラベラクレーン工
法と橋上クレーン工法とで工法比較した.
を行う.この工法の利点は,桁架設と同時に桁下作業空
間が利用できない現場においても資材置き場を確保する
ことができる.使用する移動式クレーンは,局部的な荷
5.1
トラベラクレーン工法
重影響を受けないようにするため,荷重分散効果がある
主桁上に軌道設備を組立て,その上に自走機能を有す
片山技報
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クローラークレーンを選定する必要がある.
(39)
5.3
工法比較
試験結果より,クレーン自重+鋼桁重量+架設桁重量
工法比較を表-1に示す.本工事では,工程およびコ
スト比較より,100tクローラークレーンを桁上に配置
+輸送トレーラー重量を合算した最大荷重に対して,地
耐力が満足していることを確認した.
した橋上クレーン工法を採用した.また,作業スペース
が少ない本現場において,桁架設後の桁上覆工設備が作
業ヤードとして利用することができるため,桁架設時の
資機材の仮置きスペースや輸送部材の直接搬入等,作業
効率が大幅に向上する点が決定要因として大きかったこ
とが挙げられる.図-3に本工事の桁架設順序を示す.
表-1
架設工法比較表
トラベラクレーン工法
橋上クレーン工法
重量
○
△
(重量比)
(0.67)
(1.0)
設備
(主要機材)
△
(軌条設備・台車・反
力治具・荷積クレーン等)
○
(覆工設備・勾配調整)
工程
△
○
(日数比)
(1.3)
(1.0)
コスト
△
○
(概算比)
(2.0)
(1.0)
写真-1
ベント設備位置平板載荷試験
7.桁上覆工設備の検討
7.1 覆工板の配置検討
桁上覆工設備は,使用する覆工板寸 法より必然的に
受桁間隔が決定し,その配置が決まる.主桁上フランジ
作業スペース
△
○
上は,架設用吊金具,頭付スタッドジベル,合成床版底
覆工設備上利用可
鋼板パネル固定用スタッド等,フランジ天端から突起し
※( )内の数値は,本工事における比率を示す.
た部材が,合成床版のリブ配置を避けるように配置させ
るため,一定寸法の覆工板にて配置検討を行っても容易
6.ベント設備の検討
に決定することができない.また,突起部材以外にも,
クローラークレーンが,桁上覆工設備を自走し順次架
主桁添接板やハンドホール等も配置されることから,仮
設する上で,架設状態が不安定となる側径間(P8~P9間)
設材優先で覆工設備を配置決定することができない.そ
では,格点位置にベント設備を設け荷重作用を分散させ
のため,本工事では,全長2mタイプと3mタイプの覆工板
るベント設備を配置した.
を組み合わせることで,優先順位の高い部材(表-2参
ベント設備直下の地盤は,架設時荷重および仮設材荷
照)を避け,覆工設備を配置することにした.
重が直接作用するため,ベント設備組立前に平板載荷試
験を実施して地耐力を確認した(写真-1参照).
桁架設方向
図-3
桁架設順序
(40)
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表-2
優先
順位
部
①
配置検討優先順位
材
名
8.2
主桁継手位置・寸法
クレーン水平据付け方法
縦横断勾配に沿って配置した覆工設備上では,クロー
移設・後施
工の可否
ラークレーン自体が傾斜した状態となり,吊荷作業がで
きない.そのため,クレーン本体が水平に配置できるよ
不可
う,別途仮設材を用いて水平据付する計画とした.
②
架設用吊金具・架設治具
不可
③
覆工板寸法・受桁サイズ
不可
④
ハンドホール
移設
⑤
桁上スタッド関係
後施工
本橋の縦断勾配は,起点側から中央径間中央部にかけ
てクロソイド変化しながら約5%~1.5%に勾配変化する形
状であり,横断勾配は一律2%勾配を有しているため,ブ
ロック桁架設毎に変化する縦横断勾配を反映した据付架
台が必要であった.また,クローラーシューからの面載
荷機能を損なわないような構造とした.写真-3にクロ
ーラークレーン水平据付状況を示す.
7.2
覆工板受桁の固定方法
本橋の上フランジは,横断勾配を反映した傾斜構造で
あるため,直接フランジ上に覆工板受桁を配置した.
クレーン自走時のズレと地震や突風,既設橋の交通振
動による外的作用に伴うズレを防止するため,上フラン
ジと受桁は,ブルマンを用いて固定した(写真-2参
照).ブルマンは,上フランジ厚の変化に対応できるよ
う,50タイプ~90タイプの4種類を使用した.ブルマン
で桁を挟みこむ箇所は,直接固定すると桁が損傷するた
め,養生PLを用いて強固に締込み固定した.
写真-3
クレーン水平据付け状況
(1)横断勾配水平据付方法
横断勾配に対しては,クローラークレーンの左右クロ
ーラーシューの高低差が約105mmであり,勾配の低い側
を敷鉄板と敷板を敷設することで,幅員方向に対する水
平据付手法を採用した.図-4に横断勾配に対し,仮設
材による水平据付要領を示す.
写真-2
覆工板受桁固定方法
8.桁上重機架設による対策
8.1 桁上重機移動時の変動対策
本橋は横桁間隔が広く(約 10m間隔),主桁が桁高の
低い横桁のみで連結される形式であることから,床版構
造が未完状態では,平面かつ鉛直の剛性が小さいため,
桁上を100tクローラークレーンが自走または旋回した際
に,平面的なズレや主桁間のたわみ差が生じる可能性が
考えられた.そのため,桁上クレーンの自走範囲に,剛
性効果を向上させる形状保持材を配置し,桁架設完了後
に撤去した.
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図-4
横断勾配重機水平据付方法
(2)縦断勾配水平据付方法
縦断勾配に対しては,重機据付位置毎に勾配率が異な
るため,据付状態を微調整できるよう,橋軸方向の左右
クローラーシュー下に敷板の積み重ね枚数を調整したス
ロープ状の架台を設ける手法を採用した.図-5に縦断
勾配に対し,仮設材による水平据付要領を示す.
写真-4
カウンターウエイト敷設状況
9.桁架設状況
図-5
縦断勾配重機水平据付方法
桁架設時の状況一例として,4ブロック架設時を写真
-5,写真-6に示す.秩父鉄道直上に100tクローラー
8.3
鉄道軌道上張出し架設時の転倒対策
クレーンを配置し,張出し量最大で桁架設を実施した状
P9橋脚からB5ベントまでの約33m区間は,秩父鉄道が
況を写真-7,写真-8に示す.また,平成26年度11月
斜め方向に横断しており,ベント設備等仮設備を設置で
時点での行田大橋全景を写真-9に示す.
きる場所がない.そこで,鉄道上の主桁架設は,張出し
状態で夜間縦架設を行う計画とした.張出し架設による
桁の転倒を防止するため図-6の検討図を基に,S1部に
カウンターウエイトを載荷して桁架設する計画とした.
100t 載荷
図-6
張出し架設転倒検討条件
主桁 9ブロック張出し架設時に最も桁に働 くモーメン
写真-5
橋上クレーン桁架設状況①
写真-6
橋上クレーン桁架設状況②
ト影響が大きくなり,カウンターウエイト重量の決定要
因として検討した結果,P9橋脚を支点部として張出し側
(桁重量+重機)に5 , 595tmの曲げモーメントが生じる.
抵抗モーメントは,側径間に安全率を考慮したカウン
ターウエイト重量を設定すれば良いため,カウンターウ
エイトの載荷点をS1より5m位置と設定して,張出し側モ
ーメントに安全率1.5を考慮した約8 , 400tmを満足できる
ウエイト重量として,100t分の荷重を側径間先端部に載
荷する計画とした.
本工事では,100t分のカウンターウエイトとして,敷
鉄板5×20(1524×6096mm)を積み重ね,G1桁上とG2桁
上にそれぞれ30枚ずつ載荷させ(写真-4参照),最大
張出し架設時には追加で4t車を敷鉄板間に載荷すること
でウエイト重量を満足させ,桁架設を完了した.
(42)
片山技報
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写真-7
秩父鉄道上桁架設状況①
写真-9
表-3
年月
工種
年
平成24
写真-8
行田大橋全景(平成26年11月時点)
実施工程表
平成25
10.おわりに
本工事は,平成25年11月より起点側架設工事を開始し,
平成26
月 2~10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
設計照査・工場製作・準備工
平成26年7月時点で隣接工区も含め桁架設を完了した.
鋼橋架設工(桁架設・継手工)
橋梁現場塗装工
版
床版工(床版架設・合成床板)
橋梁付属物工
秩父鉄道上桁架設状況②
今後の予定として,各工区ごとに合成床版架設を行い,
床版工以降の作業を一括施工する予定(表-3参照)で
ある.平成27年3月までの期間は,無事故・無災害で工
鋼橋足場等設置工
仮設工(ベント設備・覆工設備)
事進捗できるよう,安全行動を第一に現場施工を進めて
いく所存である.
最後に,本工事を進めるにあたり,多大なるご指導・
ご協力を賜りました埼玉県行田県土整備事務所の職員な
らびに関係各位に深く感謝の意を表します.
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