直列に配置したジベルの引抜き挙動に関する実験的研究

プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月)
〔報告〕
直列に配置したジベルの引抜き挙動に関する実験的研究
三井住友建設㈱
技術開発センター
正会員
○篠崎
裕生
三井住友建設㈱
技術開発センター
正会員
浅井
洋
三井住友建設㈱
技術開発センター
正会員
三加
崇
三井住友建設㈱
技術開発センター
正会員
三上
浩
1.はじめに
スタッドジベルや孔あき鋼板ジベルは,簡易に比較的大きなせん断抵抗力が得られるため,合成桁
橋や波形鋼板ウエブ橋などで接合部のずれ止めとして多く用いられている。一般的にこれらの橋梁に
おけるジベルの設計では、接合面に作用するせん断力の変化が比較的緩やかなため、ジベルを一定数
毎にグループ分けして1本あたりの平均せん断力を算出することが行われる。一方、例えば合成桁とPC
桁など異種桁同士を直接接合する部位おいては、多数のジベルを配置した鋼殻構造やPC桁内にジベル
を配置した鋼桁を直接埋め込み接合する方法1)などが採用されるが、この場合には短い区間で接合する
ためジベルが負担するせん断力の変化が比較的大きく、その分布に留意する必要があるとされている2) 。
そして、具体的な検討方法として、ジベルをバネとしてモデル化したFEM解析などが提案されている。
著者らは、穴あき鋼板ジベルを用いて、せん断
溝形鋼
力分布が大きく変化する状況を再現した実験を実
施してその挙動の分析を行ってきた 3)、4) 。再現方
法は、穴あき鋼板ジベルを深さ方向に直列に配置
変位計測位置
B1
ロードセル
球座
ジャッキ
A
した鋼材をコンクリート部材から引き抜くことに
B2
より行った。これまでに、浅い位置に配置された
ジベルはコンクリート破壊の影響を受けてせん断
600
ジベル
伝達耐力が小さくなることや、これらの影響を考
慮した非線形のバネモデルを用いて比較的精度良
く引き抜き挙動を評価できることなどを示した。
1000
1000
ここでは、新たに実施したスタッドジベルの引
コンクリートブロック
抜き試験と穴あき鋼板ジベルの配置方法を変えた
図-1
引き抜き試験、さらに、これらを非線形バネモデ
引抜き試験の模式図
ルにより解析した結果を報告する。
溝形鋼(250×90×11×14.5)×2
+上下鋼板(t=19)で補強
2.実験の概要
288
引抜き試験の模式図を図-1に示す。
240
3@100=300 80
80
1000×1000×600mmの 大 き さ の コ ン ク リ ー ト ブ ロ
80 3@100=300
ジャッキ
に配置した油圧ジャッキにより上方の溝形鋼を持
ち上げて引抜き力を与える。2つのジャッキは1つ
スタッド
の油圧ポンプに並列に接続し,2箇所で同じ荷重
600
7@120=840
400
ックにジベルを配置した鋼板を埋め込み,2箇所
80
が作用するようにしている。コンクリートブロッ
ク内には、図-2に示すようにD19の鉄筋を配置
1000
1000
した。
試験体の種類および形状寸法を図-3に示す。
−347−
図-2
引抜き試験装置形状寸法および配筋
プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月)
〔報告〕
S9-1試験体はスタッドジベルを9段配置したもの
コーン破壊領域
75 75
で計18本となる。スタッドはφ8mm、長さ60mm
25
である。スタッドは鋼板の両面に配置しているの
で、市販品であるφ16mmの1/2の形状寸法である。
し抜き試験を実施しており 6) 、せん断伝達耐力が
450
し抜き試験方法・同解説(案) 5)”にしたがって押
120
8@50=400
このスタッドについては、“頭付きスタッドの押
ることを確認している。S1-1試験体はスタッドを
深さ75mmの位置に1段配置したものである。これ
25
ほぼφ16mmスタッドの1/4(寸法比の2乗)とな
120
12
スタッドφ8mm
12
S9-1、N(Nはジベルのない平鋼のみ)
S1-1
は、S9-1試験体のコンクリート表面から2段目の
コーン破壊領域
としている。
5
φ35
?3
はD10である。貫通鉄筋の長さは全長で600mmと
55 70 55
180
475
たものである。ジベルの孔径は35mm、貫通鉄筋
5@80=400
C6T-1試験体は6段の穴あき鋼板ジベルを配置し
230
55 70 70
35
破壊性状とせん断伝達挙動を確認することを目的
35
スタッドに相当し、当該位置におけるスタッドの
して十分な定着長を確保している。鋼板断面はT
形となっており、鋼桁などの上下フランジにジベ
報 3) においては、T形断面ではなく平鋼に6段のジ
300
9
120 40
ル用の鋼板を取り付けた状態を想定している。既
鉄筋 D10
12
ベルを配置した実験(C6-1試験体)を実施してお
300
70
C6T-1
りこの結果と合わせて比較検討する。C3-2試験体
図-3
は、深さ方向に3段×2列に穴あき鋼板ジベルを配
置し、ジベルが近接して配置された場合の影響を
表-1
確認するものである。ジベルの列方向の配置間隔
は2×φ(φはジベルの孔径)とした。これ以外に、
鋼板表面の摩擦が耐力に与える影響を確認するた
めにジベルのない平鋼(N試験体)の引抜き試験
C3-2
項目
試験体一覧
鋼材の材料特性値
スタッドφ8mm
鉄筋 D10
2
366
386
2
482
-
546
195500
降伏強度(N/mm )
引張強度(N/mm )
弾性係数(N/mm2)
を実施した。
バネ特性
以上の試験体で用いた鋼板の厚さは、文献 2) で
鋼板
P:せん断力
P
計算した最大引抜き荷重においても降伏しないよ
うに、12mmとした(C6T-1は母材が12mmでジベ
ジベル
Kf
Kj1
δ
ル鋼板の厚さは9mm)。鋼板の材質はSM490とし
P
た 。 コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 は C3-2 試 験 体 が
2
:ずれ変位
Kf
Kj2
2
41.4N/mm 、それ以 外の試験体 は33.1N/mm であ
δ
P
る。鋼材の材料特性値を表-1にまとめて示す。
Kf
Kj3
載荷方法は,コンクリート面からの鋼板の抜出
δ
し変位が0.5mmに達するまで荷重制御による単調
載荷,その後は変位制御により,0.5mmずつの漸
増繰返し載荷を行った。抜出し変位は,図-2の
鋼材抜出し変位計測点Aの値からジャッキ位置に
−348−
Kji:表面から i 番目のジベルのバネ特性
Kf:鋼板表面の付着によるバネ特性
図-4
非線形バネモデル
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50
せん断伝達力(kN)
40
3段目以深
2段目
1段目
押し抜きせん断試験結果
30
20
10
0
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
引抜き(せん断伝達)荷重(kN)
80
スタッドジベル
60
N試験体実験値
40
解析値
3段目以深
120
ずれ変位-せん断
伝達力モデル
20
ずれ変位(mm)
140
せん断伝達力(kN)
〔報告〕
0
0.0
穴あき鋼板ジベル
5.0
2段目
100
10.0
15.0
抜け出し(ずれ)変位(mm)
20.0
1段目
80
図-6
鋼板摩擦のモデル化と解析結果
60
60
40
20
S1-1実験値
50
0
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
図-5
40
荷重(kN)
ずれ変位(mm)
各ジベルで設定したずれ変位と
S1-1解析値
30
せん断伝達力の関係
20
おける鉛直変位(B1,B2)を差し引いて求めた。
10
3.解析の概要
0
非線形バネを用いた解析モデルの概要を図-
4に示す。鋼板を棒要素でモデル化し、ジベル
位置に相当する節点において,鋼板の付着特性
0.0
2.0
図-7
4.0
6.0
抜け出し変位(mm)
8.0
10.0
S1-1 試験体
をモデル化したバネと,ジベルのずれ変位-せん断伝達力関係をモデル化したバネを並列に配置して
不動点と接続する。鋼板の付着特性は,図-6の N 試験体の実験結果を基に解析により同定した。
スタッドのバネ特性は、先に述べた押し抜きせん断試験結果の包絡線をそのまま用いた。そして浅
い位置のバネ特性は、S1-1試験体の結果により表面から2段目の特性を決め、さらに表面に最も近いも
のは単純にせん断伝達耐力をその1/2とした。穴あき鋼板ジベルのバネ特性は、既報 4) で配置深さごと
に設定したモデルをコンクリートの強度の補正(せん断伝達耐力が強度比の平方根に比例すると仮
定)をして用いた。スタッドと穴あき鋼板ジベルのバネ特性をまとめて図-5に示す。
4.実験と解析の結果
図-6は、ジベルのない鋼板のみの N 試験体の結果である。70kN程度まで荷重が増加した後、急激
に抜け出し変位が増加し荷重が大きく低下した。その後50kN程度の荷重を保持していた。深さ方向の
要素分割長さを50mmとして、各節点に図中に示す摩擦によるずれ変位-せん断伝達力関係を付与した
モデルで 解析をした結果が赤線である。最大荷重までは良く実験結果と一致している。ピーク以降は
鋼板の摩擦を過大に評価しないよう一定の割合で耐力が低減するよう設定した。
ジベルを配置した試験体は、いずれも浅い位置にあるジベルの影響により、図-3に示すようなコ
ーン破壊が比較的低い荷重で生じた。図-7はS1-1試験体の結果である。最大荷重48.9kN時にコーン
状の破壊を生じて荷重が低下した。2段目および1段目のスタッドの特性はこの実験結果を基に決定し
た。赤で示した解析値はここで決定した特性と摩擦バネを考慮したものである。
図-8はS9-1試験体の結果である。変位 2.0~2.5mmにおいてコーン破壊によるひび割れが生じ、最
大荷重(420kN)到達時に一部スタッドが破断して荷重が低下するとともにコンクリートブロックに
−349−
プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月)
〔報告〕
500
縦方向のひび割れが生じた。解析値は載荷初期
の挙動は概ね良好に再現しているが、耐力を若
S9-1実験値
S9-1解析値
400
挙動に比較的大きな差異が見られた。縦ひび割
れにより上方が引張、下方が圧縮となる曲げが
ブロックに生じて下方の鋼板の拘束が大きくな
荷重(kN)
干小さく評価していることと、ポストピークの
ったことなども考えられる。
300
200
100
図-9は穴あき鋼板ジベルを6段配置したC6T1試験体の結果である。抜出し変位1.5~2.0mmで
0
0.0
コンクリート表面にコーン破壊による円周状の
5.0
ひび割れが見られ,荷重の増加が緩やかになっ
10.0
抜け出し変位(mm)
図-8
た。その後徐々に荷重が回復し変位20mm付近で
15.0
20.0
S9-1 試験体
600
複数の貫通鉄筋が破断する音が確認され,荷重
500
破壊の性状は同様であり、T断面にすることで鋼
400
板の摩擦が増えた分耐力が上昇した。解析結果
は摩擦も考慮しているため良好に試験体の挙動
荷重(kN)
が大きく低下した。平鋼の結果 4) と比較すると、
を評価できている。図-10は穴あき鋼板ジベ
300
200
ルを2列で3段配置した試験体である。C6T-1と
C6T-1実験値
C6T-1解析値
100
同じジベル数であるが、浅い位置に多く配置さ
れているため耐力は小さくなっている。解析値
0
0.0
はジベルが近接して配置されている影響は考慮
していないが、引抜き挙動を良好に追跡できて
5.0
図-9
いることから、70mm(2×φ)の間隔でジベル
10.0
15.0
抜け出し変位(mm)
20.0
25.0
C6T-1 試験体
400
を列方向に配置しても近接による影響は無視でき
ることが分かった。
5.まとめ
スタッドと穴あき鋼板ジベルについて深さ方向
に多段に配置した場合の引抜き挙動について実験
荷重(kN)
300
と非線形バネによる解析を実施した。ジベルの配
200
C3-2実験値
C3-2解析値
100
置位置によってバネの特性を変えること、および
鋼板表面の摩擦の影響を適切に考慮することで、
0
0.0
引抜き挙動を概ね良好に再現できることが分かっ
た。
篠崎、浅井、西村、春日:鋼部材埋込み方式によ
研究所報告
4)
る合成桁-PC 桁接合構造に関する実験的研究、
2)
3)
25.0
C3-2 試験体
第 5 号,pp.51-56,2007
篠崎、竹之井、浅井、三上:孔あき鋼板ジベルの
友建設技術研究所報告
5)
土 木 学 会 : 2009 年 制 定 複 合 構 造 標 準 示 方 書 ,
2009.12
20.0
引抜き耐荷挙動のバネモデルによる評価、三井住
コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集 , Vol.33, No.2,
2011.7
10.0
15.0
抜け出し変位(mm)
図-10
参考資料
1)
5.0
第 7 号,pp.85-89,2009
日本鋼構造協会:頭付きスタッドの押し抜き試験
方法・同解説(案)、1996.11
6)
土橋浩:分合流部を有するシールドトンネル拡幅
篠崎、三上、中島、川上:孔あき鋼板ジベルの引
構造接合部の応力伝達機構の実験的検証および数
抜き耐力に関する実験的研究,三井住友建設技術
値解析による評価、東京大学博士論文、2008.12
−350−