駅ホーム上の混雑状況を再現した旅客流動シミュレーションモデルの開発 -鉄道駅における旅客流動シミュレーションの精度確保に関する研究 その2正会員 ○山田 武志*1 正会員 坂本 圭司*2 正会員 柴崎 亮介*3 正会員 大西 一聡*4 駅 旅客流動 シミュレーション 1 はじめに 群集流動シミュレーションは、構造格子に分割された空 間の各格子上を歩行者が移動するモデル(メッシュモデル) エージェントデータ 旅客起終点 旅客起終点 空間形状 空間形状 旅客OD人数 旅客OD人数 乗降口設定 乗降口設定 列間隔 列数 旅客流動シミュレーション 旅客属性 旅客属性 列車運行ダイヤ 列車運行ダイヤ 設備仕様 設備仕様 出力データ 各旅客の時刻付軌跡データ 各旅客の時刻付軌跡データ ホーム端線分の方向 解析可能だが、歩行者挙動が格子に依存するため、局所の 詳細な流動解析には実座標モデルの方が適している。しか 加瀬 史朗*2 小口 悠*1 中村 仁也*4 入力データ 環境データ と、歩行者が実座標を移動可能なモデル(実座標モデル)に 大別される。メッシュモデルは大規模な群集流動を高速に 正会員 会員外 正会員 前後間隔 縦横のバラつき 左右移動距離 前方移動距離 前後間隔 待機点中心座標 待機点占有状態 し、駅の旅客流動を対象としたシミュレーションモデルは メッシュモデルを用いたものが多く1)2)、実座標モデルは 少ない3)。特に、列車への乗降を含むホーム上の旅客流動 を対象とした実座標モデルの既往研究はない。 本研究では、その 1 で示した全体構想に基づき、駅のホ ーム上の旅客流動を高精度に再現可能なシミュレータを開 発することを目的に、マルチエージェントシミュレーショ 乗車口中心線を 目的地とする ポテンシャル場 待機点配列 待機点配列要素数 乗車口付近 定義距離 図1 乗車口中心線分 回転角 乗車口付近 入出力データと乗車口パラメータの概要 ン手法による実座標モデルを開発した。本稿では、本研究 ル)の概要と旅客流動再現性の検証結果を報告する。 2 乗車口付近に到着 [列車状態≠停車 or 扉状態=閉鎖 or 満員] [扉状態=乗車中] 旅客流動モデルの概要 マルチエージェントシミュレーションモデルは複数のエ 乗車待ち行列最後尾に移動 定されるモデルである。本開発モデルでは、旅客をエージ ェントとし、環境として空間形状、旅客流動の起点終点、 ホームドア等の設備仕様、列車運行ダイヤ、列車待ち行列 制御用の乗車口データを設定した(図 1)。 2-1 旅客の状態遷移モデルと歩行モデル ホーム上の旅客の行動パターンを分析し、乗車客や再乗 車客がホームに到着してから列車に乗車するまでの状態遷 [扉状態=降車中] らが提案している群集流動特性の評価手法を応用した。ポ テンシャルマップの生成法を図 3 に、歩行モデルを図 4 に 示す。ポテンシャルマップ生成と歩行モデルのパラメータ の値(拡散係数、パーソナルスペース半径、先読み時間な ど計 11 個)の決定方法については、その 3 で詳述する。 Development of Passenger Flow Simulation Model Reproducing the Congestion at Station Platforms - A Study about the accurate simulation for the passenger flow on the railway station, Part 2- 扉脇に移動 <移動状態> ●個々の目的地を目指して歩行。 ●目的地到着または環境変化に応じて状態を遷移。 <待ち状態> ●その場で静止。 ●環境変化に応じて移動状態に遷移。 図2 [扉状態=乗車中] 扉脇に到着 降車待ち 列車内に移動(乗車) 車内に到着 [扉状態=乗車中] ホーム上の乗車客・再乗車客の状態遷移図 ■ ポテンシャルマップの生成には熱伝導や物質の拡散を表現する拡散方程式を用いる。 ■ 旅客流動の再現性を高めることができるよう、拡散方程式を拡張する。 ①対象空間を覆う1辺0.2mの二次元構造格子を作成。 生成手順 ②壁や障害物等の歩行不能領域に該当する格子点に境界フラグを設定。 ③目的地に該当する格子点の濃度値を1、他の格子点の濃度値を0とする。 ④拡張拡散方程式に従って濃度の拡散計算を行う。 ⑤各格子点の濃度が設定値に達した時刻を記録(確定時刻)。 ⑥全格子点の確定時刻を0∼1の値に正規化し、ポテンシャルマップとする。 位置の決定は、①目的地方向探索、②進行方向決定、③移 探索にはポテンシャル法を用い、進行方向決定には木下4) [列車状態=停車] 列車待ち 移モデルを構築した(図 2)。移動状態の旅客の次の時刻の 動先地点決定という過程に従う(歩行モデル)。目的地方向 [列車状態=停車] 最後尾に到着 ージェントとその周辺環境とで構成され、各エージェント の挙動が環境や他のエージェントとの相互作用によって決 [扉状態=閉鎖 or 満員] 乗車口付近への移動 で開発した旅客流動シミュレーションモデル(本開発モデ 拡散方程式 ⎛ ∂ 2σ ∂ 2σ ⎞ ∂σ = D∇ 2σ = D ⎜ 2 + 2 ⎟ ∂t ∂y ⎠ ⎝ ∂x 拡張 G G ∂σ ∂ 2σ ∂ 2σ = Dx 2 + Dy 2 − ∇σ ⋅ F ∂t ∂x ∂y ( ) σ : 粒子密度場(濃度) σ : 粒子密度場(濃度) D : 拡散係数 Dx : x方向の拡散係数 ●濃度拡散量制御パラメータを方向別に設定 ●境界付近の濃度拡散量制御パラメータを設定 図3 Dy : y方向の拡散係数 G F : 境界からの斥力ベクトル ポテンシャルマップの生成方法 YAMADA Takeshi, KASE Shiro, SAKAMOTO Kiyoshi, OGUCHI Haruka, SHIBASAKI Ryosuke, NAKAMURA Jinya, OHNISHI Kazuaki ■目的地方向探索 ①現在地最寄格子点G0の近傍格子点(12点)から最小ポテンシャル値の格子点G1を探索。 ②G0を始点、G1を終点とするベクトルを求め、単位ベクトルに変換して目的地方向ベクトルとする。 <旅客属性> ・r:身体スペース半径 ・p:パーソナルスペース半径 ・V:最大歩行速度 ・a:加速度 ・t:先読み時間 最小ポテンシャル格子点G1 現在地の最寄格子点G0 近傍格子点 ■進行方向決定 ①XY平面と時間軸からなる3次元空間において、旅客Aが時刻T に点OA,T にいる場合、旅客Aの 時刻Tの速度をvとすると、旅客Aのt秒後の可動範囲は、中心OA,T+t、半径D=Vt-(V-v)2/2aの円C。 ②円Cを極座標の距離方向と回転方向に計n分割し、各領域に代表点Pi(i=1…n)を設定。 ③時刻T に点OB,Tにいる周辺旅客Bの時刻T+tの位置OB,T+tを速度と目的地から予測。 ④点OB,Tと点OB,T+tとを結ぶ線分と、OA,Tと各代表点Piを結ぶ線分との距離diを求める。 ⑤各代表点Piの干渉評価値siを 身体スペース 旅客B 旅客A 0≦di≦2r のとき si=0, パーソナルスペース 2r<di≦r+p のとき si=((di-2r)/(p-r))α, OB OA T のとき si=1 r+p<di とする。 (※αはパーソナルスペース 干渉量のsiに対する重み) 先読み時間 ⑤代表点の最寄格子点のポテンシャル について最小値mと最大値Mを求める。 ⑥代表点Pi の最寄格子点のポテンシャル T+Δt T+t Pn P’A がmiのとき、点Piのポテンシャル評価値 代表点 を ki=1-(β(mi-m)/(M-m)) とする。 時刻 (※βはkiの最小値を決める定数) ⑦代表点Pi の最終評価値uiを ui=si×ki×γ とする。(※γは評価値の重み係数) ⑧各代表点の選択確率を exp(ui)/Σexp(ui) とし、確率的に選択した代表点を進行方向とする。 ■移動先地点決定 ①旅客Aの現在地、現在の速度、加速度をそれぞれOT、vT、a とすると、時間増分 Δt 秒後の 移動可能地点は vT+Δt < V かつ OT+Δt = OT + vΔt + a(Δt)2/2 を満たす点である。この条件を 満たし、選択した代表点に最も近い地点を移動先地点とする。 2-2 ン精度の定量的な評価については、その 3 で詳述する。 4 まとめ 本研究では、駅のホーム上の旅客流動を対象とした旅客 目的地方向ベクトル 図4 の高さが確認された(図 5、図 6)。なお、シミュレーショ 流動シミュレーションモデルを実座標モデルで開発し、レ ーザー計測によって得た実現象データとの目視による比較 により旅客流動性状の再現性の高さを確認した。 [参考文献] 1) 高梨宏一、北井精一、梅津充幸、浅見秋実、大釜みち代:セルオ ートマトンを用いた駅構内の旅客流動予測、日本機械学会セルオ ートマトン・シンポジウム講演論文集、pp.222-226、2001 2) 山本昌和、石突光隆、青木俊幸:駅における歩きにくさを可視化 した旅客流動シミュレーション、鉄道総研報告、Vol.23、No.12、 pp.59-64、2009 3) 木下芳郎、島村誠、栗原智亮、山田武志:災害時における鉄道駅 の広域・局所的旅客流動シミュレーションシステムの開発、第 2 回相互関連を考慮したライフライン減災対策に関するシンポジウ ム講演集、pp.78-83、2010 4) 木下芳郎、島村誠、三須弥生:歩行者の移動可能範囲に着目した 群集流動特性の評価方法、日本建築学会学術講演梗概集 E-1、建 築計画Ⅰ、pp.715-716、2009 実現象(レーザー計測結果) 旅客流動シミュレーション結果 ① 8:37:40 列車到着で旅客が降車 ESC1 ESC2 エスカレータ ② 8:38:00 エスカレータ周辺に滞留が形成 ③ 8:38:20 滞留が成長 歩行モデル 混雑箇所の迂回行動の再現 ホーム上の旅客流動を撮影したビデオ画像を観察した結 果、多くの列車待ち旅客でホームが混雑している場合やエ スカレータ前に滞留ができている場合、旅客は最短経路で はなく、これらの混雑エリアを迂回する経路を移動するこ とが分かった。この混雑箇所の迂回行動を再現するために、 ④ 8:38:40 滞留が除序に解消 本開発モデルでは、ホーム上の混雑状況を反映してポテン シャルマップを逐次更新し、移動状態の旅客の目的地方向 を制御した。具体的には、ポテンシャルマップの再計算を 0.2 秒に 1 回の頻度で行い、このとき移動速度が 0.5m/sec 図5 以下で目的地が異なる全旅客について、それぞれの旅客の パーソナルスペース内の格子点に境界フラグを設定した。 3 実現象(左)とシミュレーション(右)の比較(E駅) 実現象(レーザー計測結果) 旅客流動シミュレーション結果 ① 8:26:30 1番線列車到着直後 1番線 再現性の確認 E駅とM駅のホームの一部分を対象としたモデルを作成 し、朝ラッシュ時のシミュレーションを実施して、実現象 2番線 レーザー計測データなし ② 8:27:30 2番線列車到着直前 1番線 データ(同日同時刻の対象領域をレーザー計測して得た旅 客位置データ)や撮影したビデオ画像との目視による比較 を行った。その結果、旅客同士の衝突回避や滞留、迂回な 2番線 ③ 8:28:00 2番線列車到着直後 1番線 どの細かな旅客挙動が良好に再現されていることが確認さ れた。特に、E駅モデルでは列車到着後の乗降部の混雑状 2番線 況やエスカレータ前の滞留状況等について、M駅モデルで はエスカレータ脇の狭隘部の混雑状況等について、再現性 *1 (株)ベクトル総研 *2 東日本旅客鉄道(株) フロンティアサービス研究所 *3 東京大学空間情報科学センター *4 (株)ゴーガ 図6 実現象(左)とシミュレーション(右)の比較(M駅) *1 Vector Research Institute, Inc. *2 East Japan Railway Company, Frontier Service Development Laboratory *3 Center for Spatial Information Science, University of Tokyo *4 GOGA, Inc.
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