緑化された商業施設と地下空間の連続性と居住性の在り方について

緑化された商業施設と地下空間の連続性と居住性の在り方について
○籾山史奈(昭和女子大学), 大野拓陽(東京都市大学), 森田直之(千葉大学)
,川端康正(千葉大学)
Keyword: 商業施設、緑化、地下空間
【研究背景】
2020 年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催
されることが決定し、東京が再び世界に注目されている。
その機会に向けてさまざまなインフラが見直され、新た
な道路(環状 2 号線)や住宅などが整備され、再開発は
さらに加速すると思われる。そのような中で、
「都心に森
を」とコンセプトされた商業施設 OOTEMORI が 2013
年に開業した。商業施設 OOTEMORI は東京メトロ東西
線大手町駅と直結しており、大手町駅の真上には約 3600
図 1 現地調査
㎡の森も併設している。
「故郷の森」として取り上げられ
たのは千葉県君津市の森である。再現したとする森は、
かつて富士銀行本店があった場所だ。都心の主要駅の真
ん中に突如現れた OOTEMORI のコンセプトとともに、
緑の無くなってしまった所を緑化するということに、ど
のような可能性を持つのか調査を行なった。
【研究方法】
OOTEMORI に併設する森はコンセプトとして「都心
図 2 OOTEMORI 大手町の森
に本物の森を」
「都心に故郷の森を」などというものを掲
げている。ところで、私たちがイメージする森というも
のは緑豊かで自由に入ることができ、見上げれば木々が
青々としているものである。そして、森に入れば降り注
さらに、そこは全面的に立ち入り禁止とされている(図
3 参照)
。
ぐ日差しの心地よさを感じることを容易に想像すること
ができる。このように森や自然、緑の中は居住性が非常
に高いといえる[1]
。
また、森を表現する際に「自然とはただ緑が生い茂っ
ていれば良い」と考えてしまうが、実際にはそうではな
く、優れた森林ほど「下草が丁寧に手入れされている」
もので、乱雑に見える木々の生え方にも統率性のあるも
のである。しかし、OOTEMORI に併設する森に実際に
訪れたところ、ただ、木々を存在させているというよう
に雑多に下草が生え、あらゆる種類の木々の寄せ集めに
なってしまっている(図 1・図 2 参照)印象を受ける。
これでは森の生み出す自然の開放感を表現することが叶
図 3 立ち入り禁止の指示
わないだけではなく、今は青々と生い茂っているようで
も 10 年後 20 年後の先の未来も保っていることができる
OOTEMORI のコンセプトの一つとして「人と緑の関
かという不安が残る。コンセプトは素晴らしいので、も
わり」ということがある。しかし、森の中には、人が入
う一歩踏み込んだ計画にならないか考察した。
ることを可能にした通路もなく外からただ見ていること
しか叶わないというのは物足りなさを感じさせた。大手
人かその空間に滞留する機会をつくる。コンクリートの
町駅は、都心であり、東京駅と隣接する立地などを考え
道なのではないのは、自然を感じられる空間としての居
ると非常にポテンシャルが高いといえる。そこで、新た
住性を重視したためである。このウッドデッキを都市に
なコンセプトとして地下鉄である「地下鉄大手町駅を緑
設置する事例は、名古屋大学の山崎らにより実現してい
化する」ことによって地上の森との連続性をもたせるこ
る(図 6 参照)
。
とができるのではないかと考えた。地下鉄駅の緑化につ
いての事例はないが、日光の届かない場所での(室内や
オフィス)の緑化は、すでに㈱パソナの本社において実
証されており、室内空間の緑化は技術的には可能である
(図 4 参照)
。
現地調査により、新たなコンセプトを持たせた大手町
の森を考察した。これを事例として「自然豊かな東京」
をオリンピックイヤーに向けて発信していくことができ
ないかを考えた。
図 4 ㈱パソナアーバン事業部内
【調査結果】
調査活動をもとにして新たな大手町の森のコンセプト
を考えた(図 5 参照)
。まず、本来の森林とはどのような
図 6 都市を木質化する PRJ より転載
ものなのかを見直し、木々の選択を慎重に行いたい。そ
の理由として、実際の森はその風土に合った形で形成さ
本研究を通して、さらに連続性を持たせるために、地
れていくので、緑が極端に少ない土地に森を作るという
下鉄空間の緑化案も考案した(図 7 参照)
。地下鉄空間と
際には気を使わなくてはならない[7]
。
緑地の連続性についてコンセプトを明確にすることで緑
と人との繋がりということをより示すことができると考
える。
そもそも、地下鉄の緑化までに至った根本は、地下空
間の殺風景さや閉鎖感、圧迫感などを緩和するには、自
然の持つ癒しと解放感の効果を期待してのことである。
地下鉄は、都市にとって欠かせない重要な交通機関であ
り、利用者数は計り知れない。しかし、機能のみを追求
され、内装はあまりにも簡素である。その簡素な造りは、
図 5 新たなコンセプトイメージ
大手町駅も例外ではない。
どのような箇所に閉鎖感が現れるのか調査したところ、
また、森に自由に入るためにウッドデッキを整備して、
コンクリートで打ち付けられた壁、天井、床、柱などが
大きな原因であると感じた。このほかに、広告が外され
空いてしまったままの看板が冷たさを感じさせた。また、
【謝辞】
本研究にあたり、㈱パソナアーバンファーム事業部の
私が見た地下鉄駅のほとんどにベンチが少なく、柱や壁
みなさまには、施設内の見学をさせて頂きました。この
に寄りかかる人を見かけることが多かった。このような
場を借りて御礼申し上げます。
ことを踏まえて地下鉄緑化のコンセプトを考案する。
まずは、コンクリートのような見た目の冷たさを緩和
するために全体的に木質化・緑化を目指す。天井には植
物をつるし、天井からの圧迫感を減らす。これにより、
照明の光が隙間から漏れてくることで木漏れ日のように
感じられるということも期待する。看板の内側には窪ま
せるなどをして空間を作り、その空間に植栽が行われる。
このことにより、地下鉄駅空間がこれまでにない緑化空
間となることを想定した。
また、地下鉄駅空間は 2 層構造、3 層構造になってい
ることが多く、この構造を利用し、駅空間を望める空間
を作り、その空間から駅が望め、駅の天井に施された緑
【引用・参考文献】
[1] なんばパークス パークスガーデン植栽設計 林
広一 ランドスケープ研究 Vol.70 2006
[2] 園芸療法 バイオメカニズム学会誌 田崎史江
vol.30 2006
[3] 「植育」の必要性 大阪国際サイエンスクラブ
会報 214 16-18 2007 年秋
[4] 京都駅ビルにおける孟宗竹を利用した屋上緑化
三輪隆 日緑工誌 Vol.33 2007
[5] 株式会社パソナグループ HP
http://www.pasonagroup.co.jp
地帯を眺めるデザインにすることによって、駅空間デザ
[6] 株式会社緑化計画研究所 HP
インとして、緑化を実現することができるのではないか
http://www.gplabo.jp/
と考えている。
[7] 日本学術会議 魅力ある都市構想のための空間緑
化〜近未来のアーバン・クリーニング〜
[8] 建物の緑化技術 設備講座「環境と省エネルギー」
BE 建築設備 三坂育正 2004
[9] アフォーダンスの心理学〜生態心理学への道〜
エドワード・S・リード 新曜社 2000
[10]アフォーダンス・新しい認知の理論 佐々木正人
岩波書店 1994
[11]生態学的視覚論 ジェームズ・J・ギブソン サイ
図 8 大手町駅緑化計画模型
エンス社 1986
[12]誰のためのデザイン? D・A・ノーマン 新曜社
【研究展開】
本研究では、事例調査をもとに OOTEMORI と地下鉄
大手町駅の緑化による連続性の提案を行った。しかし、
OOTEMORI を利用する人々への調査を行えていない。
この空間を利用する人々の意識調査を行い、都心の森と
いうコンセプトを最大限活かし、都市における緑化の可
能性について、さらに追求していきたいと考えている。
また、そのことを元にして、東京に緑化された地下鉄駅
が出現しないかと期待している。2020 年に向けて世界で
も有数の地下鉄網の発達した東京が新たな文化発信のシ
ンボルとして地下鉄を捉えなおし、ランドスケープとし
ての地下鉄の在り方について模索していきたいと考えて
いる。
2015