機械翻訳の国家戦略 - JTFジャーナルWeb

#282
翻 訳 の 未 来 を 考 え る
特集
機械翻訳の国家戦略
Mar/Apr 2016
あのLocWorldがこの春日本に。
Engaging
Global
Customers
Tokyo
April 13-15
会場
メインホールでの各セッションでは
同時通訳あり
京王プラザホテル
〒160-8330 東京都新宿区西新宿2-2-1
www.locworld.com
282
Mar/Apr 2016 #
c o n t e n t s
特集:機械翻訳の国家戦略
6 機械翻訳の国家戦略
7 「グローバルコミュニケーション計画」の取組状況 ● 荻原 直彦
10 オリンピックに向けた自動通訳の国家プロジェクト ● 隅田 英一郎
12 「MT Summit XV」参加報告 ● 須藤 克仁
15 ミニアンケート「機械翻訳は顧客にうけいれられるか?」
(インタビュー)
イベント報告
16
2015 年度 第 4 回 JTF 翻訳セミナー報告
翻訳の品質管理とツールの活用
(TransQA を題材に)● 小林 卓
連載コラム
18
20
22
翻訳勉強会十人十色 ● 井口 富美子
24
翻訳業界インデックス
翻訳と役割語 ● 片山 奈緒美
外交官の武器は「ことば」∼沼田貞昭元カナダ大使に聞く∼ ● 沼田 貞昭(インタビュー)
表紙撮影:世良武史
一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌
一般社団法人 日本翻訳連盟
〒 104-0031
日本翻訳ジャーナル
2016 年 3 月/ 4 月号 #282
発行人●東 郁男(会長)
編集人●河野 弘毅
東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F
TEL. 03-6228-6607 FAX. 03-6228-6604
[email protected] http://www.jtf.jp/
無 断 転 用 禁 止 Copyright©2016 Japan Translation Federation
5
0
10101001011011001001101
0101000
01010
01
01101
10
1
0
1011
0
01
000
000
110
01
101
10
010
11
1
0
100
010
10
00
10
10
1
01
0
10
00
10
01
11
01
00
0
10
01
0
1
01
01
1
特集
機械翻訳の
国家戦略
01101101111
011101
1
0
1
101
10
111
01
01
01
01
10
00
10
01
01
01
00
01
101010100101000010101001010101
00001
1
1
1
1
1010
0101
1010
110
010
1
0
110
011
110
101
1
101
1
11
01
10
01
1
10
1
01
10
00
10
1
00
010
1
0
1
010
1
10
2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催までに「言葉の壁」
01
1
0
がない社会のショーケースを実現するという目標をかかげて、総務省は
11
0
1
2014 年 4 月 11 日に「グローバルコミュニケーション計画」を発表しま
01
1
した。総務省はその傘下に日本における音声翻訳および機械翻訳の研究
00
をリードする情報通信研究機構(NICT)を擁しており、計画の発表から 01
1
二年足らずのあいだに NICT の技術を利用した数多くの音声翻訳システ
10
ムが市場に登場しています。
01011
0101
010
01
01
00
10
10
000101010
010
11
01
1010110
01011
110
111
1
11
11
1
10
0100100101010101010101
0011
010010
1
0
1
1010
101
100
001
001
010
10
00
10
11
01
10
10
10
10
00
10
10
10
0
011010101010100000110101
0
01101
1
0
01
1011
0
1
0
100
0
0
0
0
010
1
10
0
10
1
001
01
10
10
0
01 110
10
0
10
10
10
1
0
1
1
10
10
10
10
10
10
10101101010101010
000
1101
0
010
1
10
10
1
10
01
10
0
1
00
00
10
01
00
10
01
0
1
000011010
1
10
0
1
0
00110
01 100
0
01
00
0
10
00
01
00
10
10
1
101
10
11
01
01
0
多言語音声翻訳は、まず音声を認識し、つぎに認識した原文を多言語
に機械翻訳し、最後に翻訳済みの文を音声に変換する手順を踏むため、
機械翻訳の性能向上が多言語音声翻訳の品質改善につながります。この
計画を通じて性能が向上した機械翻訳技術が翻訳業界にも活かされるこ
とが予想されます。
この特集では、グローバルコミュニケーション計画の推進を担当する
総務省情報通信国際戦略局の荻原直彦さん(技術政策課研究推進室長)
へのインタビューと、同計画の研究開発リーダーである NICT ユニバー
サルコミュニケーション研究所多言語翻訳研究室長の隅田英一郎さんの
講演会報告を掲載しました。二つの記事を読むことで、日本が取り組ん
でいる機械翻訳の国家戦略が把握できます。
また、NTT コミュニケーション科学基礎研究所の須藤克仁さんには昨
年秋にマイアミで開催された第 15 回機械翻訳サミットの参加報告を書
きおろしていただきました。機械翻訳の研究者と翻訳者がともに参加し
て活発な意見交換が行われる機械翻訳サミットは翻訳業界にとって意義
深いイベントであり、次回は来年(2017 年)9 月に名古屋で開催される
ことが決定しています。この記事をきっかけに、翻訳業界の方にも機械
1
11
10
10
11
1
00
01
0
0
01
11
0
0
01
10
01
00
0
10
1
100100
001
01
11
10
6
10
01
01
10
010010010010010翻訳サミットのことを知っていただき、できれば来年、会場に足を運ん
010101101
10101
でいただきたいと思います。
(河野)
0101
010
100
111
1000010101
010
001
10
00
10
01
10
00
001
0
11001010101010101001110101000010010101
1
00
0
0
0
0001
10
1
1001
011
100
10
10
011 01
100
0
0
1
0
1
00
0
10
0
101
01 1010001
10
10
1
0
01
11
11
01
10
10
00
0
00
0
10
11
01
110
00
1
10
101001001
0110
00
1
00
1
機械翻訳の国家戦略
00
01
0
特集
I n t e r v i e w
「グローバル
コミュニケーション計画」
の
取組状況
はじめに
荻原氏は音声翻訳の研究が始められたのは 1980 年代
後半であり、世に知られるようになったのは 2007 年の
後半であると紹介してくれた。2007 年に総合科学技術会
議(現 総合科学技術・イノベーション会議)で音声翻訳
のデモをしたことはニュースなどにも取り上げられた。
スマートフォンが普及しておらず、パソコンなどで実現
Interviewee
されたシステムは、使い勝手の観点からその当時はすぐ
総務省 情報通信国際戦略局
技術政策課 研究推進室長
に普及にはつながらなかった。
スマートフォンの普及、通信事業者による音声対話や
01原
001直01彦
0101荻
0101111
翻訳アプリの実現なども経て、2020 年オリンピックへ向
00101000
1
1010
0
1
0
O
g
i
h
ara Naohiko
1
1
0
1101
けて「外国人が日本に来たときに困らないために」と音
11
011
000
PROFILE
0
声翻訳技術の本格的な社会実装への取り組みが進められ
平成 4 年郵政省(現 総務省)入省。以来、情報通信行政に 110
11ている。
11
携わり、平成 21 年より情報流通行政局 衛星・地域放送課
10
地域放送推進室 技術企画官、平成 22 年より総合通信基
11
01
盤局 電波部 電波政策課 電波利用料企画室長。平成 25
00
グローバルコミュニケーション計画の概要
11
年より現職となり、多言語音声翻訳システムの研究開発と
00
社会実装を目標とする「グローバルコミュニケーション計
10
グローバルコミュニケーション計画には、
「世界の『言
00
画」を推進している。
01
葉の壁』をなくす」というミッションが掲げられている。
10
取 材 ● 2015 年 11 月
このミッションには、以下の 3 つのビジョンが伴う。
10
聞き手 ● 河野 弘毅(日本翻訳ジャーナル)
(1)多言語音声翻訳システムの利用による「グローバル
で自由な交流の実現」
、
(2)多言語音声翻訳システムの
報告者 ● 目次 由美子(LOGOStar)
社会実装および活用をもたらすパイオニアとしての「日
本のプレゼンス向上」
、
(3)世界から集まる選手や観客
2020 年に東京で開催されることとなったオリンピッ
クとパラリンピックへ向けて、訪日観光客のみならず、
日本国内の地域社会に居住する外国人の増加に伴い、グ
を対象とし、言葉の壁を感じさせることのない「東京オ
リンピック・パラリンピックでの『おもてなし』」。
この計画の核を成す「多言語音声翻訳システム」は、
ローバルなコミュニケーションの支援が高まっている。
国立研究開発法人である情報通信研究機構(National
このような状況において、総務省は 2014 年 4 月に世界の
Institute of Information and Communications
「言葉の壁」をなくし、グローバルで自由な交流を実現
Technology: NICT)で開発されている。たとえば、NICT
することをミッションとした「グローバルコミュニケー
は「VoiceTra」
(ボイストラ)という名前のスマートフォ
ション計画」を発表した。機械翻訳の波が押し寄せる最
ン向けアプリを無償で提供している。多言語音声翻訳シ
中、この動きを牽引するともいえる計画の最新状況につ
(2)多言語翻訳、
(3)音声合
ステムは、
(1)音声認識、
いて、総務省の担当者に直接インタビューをする機会を
成という 3 つの技術で構成されており、日本語を音声入
得ることができた。
力すると、直ちに外国語に翻訳し、音声出力される。
2015 年 10 月にはグローバルコミュニケーション計画
総務省 情報通信国際戦略局について
0101010100111010
に基づき、NICT の従来の研究成果を反映させた最新版の
01001001
0
1
0
1001001001001001010
0
1
0
1
1
0
1
1010
11 101010
1
0
0
展開する上で、研究開発、標準化活動、国際展開活
1
101
応し、10 言語における旅行会話は実用レベルに達してい
01
00
1
01
1
1
1
0
0
1
1
0
動などを一体的に推進しています。
0
0
1
0
0
1
0
1101010
るそうだ。
1
100
1
0 0100
0
1
1
00
10
10
1
0
01
0
1
00
0
1
1
0
101
000
10
01
00
10
000010101001101000
100
100
10
11
01
01
01
1
0
01
0
01
01
01
01
0
0
10
10
11
01
01
10
1
101101011010101
0101
010
101
00
10
10
10
10
01
1000
VoiceTra が公開された。ユーザビリティが考慮されユー
0101
01Communications
01&
Technology: 010010
情報通信技術
(Information
0
1
1ザー
00
01 インターフェースが刷新されたばかりではなく、翻
01
00
ICT)を経済の成長
10 ・競争における重要な源ととらえ、
01
0
訳精度も著しい向上を遂げ、また、世界で初めてミャン
0
01
1
0
グローバルな視点での総合的および戦略的な政策を
1
1
0
マー語の音声認識・音声合成にも対応した。29 言語に対
7
荻原:翻訳の精度を高めるためにはコーパスが必要とさ
この他にも、
「2015 東京国際ユース(U-14)サッカー
れています。要するにデータベースです。たとえば、
「日
大会」の選手交流会や、「2015 ジュニアスポーツアジア
本語の音声認識コーパス」については、聞こえ方の異な
交流大会(バドミントン・卓球)
」に参加する海外チーム
る「車」というデータをどれだけ多く集められるか、
「対
と都内学校との交流会でも実験的利用により、専門用語
訳コーパス」については、日英の対訳データをどれだけ
や年齢層に依存する話題の拡充、スマートフォンを操作
多く集められるか、これが翻訳精度の決定に関わってき
するために作業を中断する必要性など、取り組むべき新
ます。
たな課題も認識された。
※ コーパス: 自然言語の文章を品詞など文の構造の注釈をつけて
構造化したものを大規模に集積したもの
2015 年 8 月、東京メトロでは訪日外国人との円滑なコ
ミュニケーションを支援するツールとして導入され、岡
山県警では外国人旅行者に対する道案内や遺失物に関す
そして「グローバルコミュニケーション計画」が策定
る対応の支援として「VoiceTra」の試験利用が開始され
され、2020 年オリンピックまでに社会実装するという目
たなど、音声翻訳技術の活用の幅広さが伺える。今後、
標の下、取り組みが進められている。
フィードバックを受けてさらなる改善へとつなげる予定
であるとのこと。
「グローバルコミュニケーション計画」の推進
多言語音声翻訳技術では、旅行分野の会話だけでなく、
また、民間企業との共同研究も進んでおり、アナウン
スにおける音声技術やロボットなどの先進技術との融合
により、さらなる効果が期待されている。
特に医療やショッピング分野における会話の翻訳精度の
向上に取り組む予定であるが、対応言語数や雑音対策、
荻原:グローバルコミュニケーション計画において大き
長文翻訳などの課題も抱えている。病院、商業施設、観
く掲げてはいませんが、
「防災分野」も重要であることを
光地などでの社会実証を展開していく予定である。
認識しています。
河野:日常会話全般を最終目的にしていますか?
レビの音声やスピーカーを介したアナウンスの声は認識
一般的な日常会話も自然な展開として翻訳精度が上がっ
されないことがある。
アナウンスにおける技術の発展は、
ていくと考えています。
防災分野での技術展開が期待されている。
たとえば、成田空港ではターミナル内の巡回案内ス
2015 年 4 月には首相官邸で開催された総合科学技術・
タッフがタブレットを利用してフライト情報や施設情報
イノベーション会議において進化した「VoiceTra 」のデ
などを案内している。これには NICT の技術が活用され
モを実施し、2020 年オリンピック・パラリンピック東京
た多言語音声翻訳アプリ「NariTra」が活用され、アジア
大会へ向けて端末の形状や翻訳精度のさらなる向上につ
地域からの来客に対応している。
いて言及した。
2015 年 2 月に開催された「東京マラソン 2015」では、
また、内閣府による「2020 年オリンピック・パラリン
約 3 万 6 千人の参加ランナーのうち、約 5 千人は外国人ラ
ピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組
ンナーだったとのこと。ランナーやその家族に対する給
に関するタスクフォース」と連携した総務省の研究開発
水・給食、手荷物管理などを行う約 1 万人のボランティア
も進められている。このタスクフォースでは、
「海外から
スタッフに「VoiceTra」を活用してもらったそうだ。こ
の来訪者などに多様なサービスを提供するための意志・
のような実験的利用において、周囲の雑音により音声認
情報伝達サポートの実現」や、
「
『サイバーフィジカルシ
識が芳しくなかったなどの課題が示されたと同時に、外
ステム』による安全・安心の実現および快適な『おもて
国人との会話における利便性も挙げられ、期待の高さも
0
1101010010010明らかとなった。東京都や関係機関とも連携し、さらに
100101
01010
音声認識技術においては、人の声は認識されても、テ
荻原:旅行や医療の会話を中心に取り組んでいる中で、
01010
多言語音声翻訳システムの社会実装へ向けての取り組み
1
なし』の実現」など、9 つのプロジェクトが検討されて
いる。
010
101
が続けられていくこととなっている。
0
10
01
00
0
10100100001
010
10
0
10
1
0
01
00
1
10
01
0
01
00
01
01
01
11
1
10
01
01
10
8
011
101
011010101
1011
000
01
0
0
00
0
10
1
00
10
10 110
1
01 101010101010100111010100001001
000
1
0101
100
0
0
0
1
0
1
0010
1
0100
01
110
010
110 01
0
010
1
0
1
0
00
0
11
01 1010001
10
010
1
01
1
01
11
0
01
01
1
01
00
0
0
0
10
01
101010
01101
011
01
10
1000010101
001
10
10
00
10
0
11
01
110
00
1
10
101001001
0110
00
1
00
1
機械翻訳の国家戦略
研究体制の強化
00
01
0
特集
翻訳業界に及ぼす影響
グローバルコミュニケーション計画を推進するにあた
河野:翻訳業界では機械翻訳の発展が目覚ましいという
り、NICT 内には「先進的音声翻訳研究開発推進センター」
現状があります。グローバルコミュニケーション計画の
(Advanced Speech Translation Research and Development
Promotion Center: ASTREC)が設立され、民間企業から約
20 名の研究者を迎えた。
一部として、音声翻訳への取組以外に、テキスト翻訳へ
発展させる予定はありますか?
荻原:NICT では特許文書なども含め、テキスト翻訳にも
さらに、グローバルコミュニケーション開発推進協議
取り組んでいます。ただし、旅行会話のためなどとは異
会も設立され、NICT を中心に産学官の力を結集して、多
なるコーパスを収集する必要が発生します。音声翻訳へ
言語音声翻訳技術の精度を高め、さまざまなアプリケー
の取組と並行して進めていく予定です。
ションに成果を適用して社会展開していくための検討を
行っている。協議会には音声翻訳に関連する大学・研究
河野:私企業の事業とは異なると思いますが、世界戦略
機関ばかりではなく、医療、交通、観光など関連性が強
についてお考えはお持ちですか?たとえば、2015 年 10
く伺える分野、その他の各種メーカーや翻訳に携わる企
月末のアプリのダウンロード数を見ると VoiceTra は約
業など、2015 年 10 月現在で 128 機関がすでに参加して
14 万、一方、Google 翻訳は約 400 万ですが?
いる。
荻原:日本語を取り扱う翻訳という点では優れた技術で
あると思っています。表現豊かな日本語特有の言い回し
将来の社会実装に向けて
なども含め、日本国内の利用者からの要請にはさらに迅
速に対応する枠組みをつくっていきたいと考えていま
音声翻訳で今日抱えている課題の克服のみならず、現
す。
実的な理想イメージが掲げられている。たとえばショッ
ピングの分野では、見栄えも考慮し、店員が所持する端
河野:グローバルコミュニケーション計画が翻訳業界に
末のデザイン性への配慮なども挙げられている。
影響を及ぼすようなことは考えられますか?たとえば、
シンポジウムやセミナーを通じて、協議会の参加企業が
荻原:たとえば緊急医療でも、機械翻訳を使うのに適し
機械翻訳の利用を促進するような機会がもたらされるで
た場面としては想像しにくいかもしれませんが、頭が痛
しょうか? NICT に限定せず、機械翻訳の技術を活用し
いのかお腹が痛いのかを把握するだけでも大きな違いを
ている翻訳支援ツールはありますが。
もたらすことがあると考えられます。
荻原:協議会の参加企業にも、同様のシステムを活用し
ている企業はあります。また、
協議会の次の活動では、
会
クリティカルな場面では通訳者に接続するための
員企業の情報交換会を計画しています。翻訳技術を活用
HELP ボタンの搭載など、実社会での現実的な利用を見
する様々なテクノロジーを見せ合うというところでしょ
据えた目標が示されており、音声翻訳システムと人によ
うか。グローバルコミュニケーション計画を推進するこ
る翻訳・通訳との棲み分けも考慮されていることが伺え
とにより、NICT の翻訳技術が多方面で活用されることを
る。
望んでいます。
タクシー業界などでは運転中にヘッドセットを装着し
たり、スマートフォンの操作は不可能であり、カーナビ
と組み合わせた端末の必要性など、協議会でさらに改善
へつながる課題を集積する予定とのこと。
0101010011101010
10101
000
010
100
1
0
0
10
1
0
10
0
1
10
00
00
1
0
10
0
1
11
0
1
0
110
100
01
00
10
01
0
1000010101001101000
100
100
10
11
01
01
01
1
01
01
101101011010101
0101
010
101
00
10
10
10
10
01
01
0
0
10
10
11
01
01
10
1
01
01
01
01
01001001
0
1
0
010
01010010010010010011
1
1
0
1
0
0101
101
11
1
0
0
0101
1
1
0
0
0
1
01
1
1
1
0
0
1
1
0
0
0
10110 10
0
1
10010
1
0
1
0 0100
0
1
1
0
00
10
11
0
01
0
1
00
0
1
01
9
セミナー報告
立教大学の異文化コミュニケーション学部では、2015
立教大学 異文化コミュニケーション学部主催
連続講演会「通訳翻訳と異文化コミュニケーション」
年度に計 5 回の連続講演会を開催し、異言語・異文化のコ
ミュニケーションにおいて通訳翻訳行為が果たす役割や
課題に対し、専門領域の視点から理解を深めることに取
り組んでいる。第 4 回の講演では「2020 年のオリンピッ
第 4 回講演会
オリンピックに向けた
自動通訳の
国家プロジェクト
ク・パラリンピックは自動通訳国家プロジェクトの檜舞
台」という題目が掲げられ、増加し続ける訪日外国人に
対する言語サービスを支えるテクノロジーの最新状況に
ついて知識を深め、テクノロジー開発における異言語・
異文化コミュニケーションの課題について議論する機会
となった。
日本を訪れる外国人旅行者の増加によりもたらされる
経済成長について、2020 年に東京で開催されるオリン
ピックとパラリンピックへ向けての楽観的な希望を含め
た展望が囁かれている。しかしながら、
「言語の壁」はそ
日 時 ● 2015 年 11 月 7 日
(土)13:30 ∼ 15:00
の障壁ともなることが紹介された。たとえば外国人旅行
開催場所 ● 立教大学池袋キャンパス マキムホール
者を迎える旅館には、外国語での対応に不安を抱く傾向
講 師 ● 隅田
が伺えるそうだ。機械翻訳の支援により「言語の壁」を
英一郎
打ち破ることができれば、
観光産業はさらに活性化され、
情報通信研究開発機構
ユニバーサルコミュニケーション研究所
多言語翻訳研究室長
日本経済の成長の一躍を担うこととなるであろう。
アジアからの訪日外国人の多さも紹介され、特にタイ
報 告 者 ● 目次 由美子(LOGOStar)
からの訪日旅行者の近年での伸び率は著しいそうだ。そ
して、アジアの要として成長を遂げているミャンマーに
ついても言及があった。ミャンマーは、約 14 億人を抱え
る中国、約 13 億人のインド、約 6 億人のアセアンのほぼ
中心域に所在しており、経済成長における重要な地域と
して期待されている。アジア言語対策の重要性が認識さ
れている。
観光産業ではインバウンドばかりでなく、アウトバウ
ンドでの機会も伺える。医療技術の展開や新幹線などの
開発においては、日本語も英語も通じない地域への専門
技術者の海外赴任の需要があるという。ここでも「言葉
隅田 英一郎
の壁」は立ちはだかっている。
Sumita Eiichiro
音声翻訳の研究が開始されたのは 1986 年だという。
PROFILE
30 年以上、翻訳をやっている技術屋。 IBM、ATR、NICT と
隅田氏は 1992 年に実施された史上初めてのデモの動
三段跳びしながらも、一貫して機械翻訳を研究してきた。
画を一部見せてくれた。当初、1 行の処理には 1 分を要
規則翻訳、用例翻訳、統計翻訳の全ての手法を熟知してい
る。高精度の自動翻訳技術を創出し、74 件の特許、230 件
したそうだ。2014 年には総務省により「グローバルコ
10
01
00
0
10100100001
010
10
0
10
1
101010
01101
011
01
10
1
00
01
0
0
01
11
0
0
01
00
01
01
01
11
10
10
01
01
10
ミュニケーション計画」が策定された。当時の新藤義
の論文を公開した。 ATR 以降は音声翻訳にも注力し 2010
010010010010010
010101101
1
0
1010
孝総務大臣は隅田氏が勤務する情報通信研究開発機構
年に公開した音声翻訳のアプリ
VoiceTra、2014 年に開始
1010
したカスタマイズできるテキス
101 ト翻訳のサイト「みんなの
(National Institute of Information and Communications
001 音声翻訳の国プロ
自動翻訳@ TexTra」に貢献した。現在、
110
1000010101
Technology:
)0
を訪問したとのこと。
2020 年までに
101
1010
「グローバルコミュニケーション計画」を推進しながら、
イ
01101NICT
101
1
0
0
001
0
01
00
0は音声翻訳システムを社会で実装するようにとの目標が
01
00
10 ノベーションの兆しが見えた機械翻訳にメラメラと情熱を
01 掲げられた。
燃やす。
1
1
0
10
001
001
0101010100111010100001001
1
0
0
1
1
0
1
0
1
0
00
1
0
1
0
0
0
1
0
0001
10
1
1001
011
100
10
10
011 01
100
0
0
1
0
1
00
0
10
0
101
01 1010001
10
10
1
0
01
11
11
01
10
10
00
0
00
0
10
11
01
110
00
1
10
101001001
0110
00
1
00
1
機械翻訳の国家戦略
グローバルコミュニケーション計画は総務省による推
VoiceTra の 翻 訳 性 能 は TOEIC(Test of English for
進の下、NICT を中心として「オールジャパン」の体制で
International Communication)で 600 点を取得する日本
取り組みが進められている。「先進的音声翻訳研究開発
人に相当すると言われている。実際に、
さまざまな TOEIC
推進センター」
(Advanced Speech Translation Research
スコアを有する人間の音声翻訳能力と比較を実施し、最
and Development Promotion Center: ASTREC)が NICT
終的に英語のネイティブスピーカーによる判断を経て評
内に新設され、民間企業から約 20 名の研究者を迎えた。
価されている。翻訳の専門家からは、より高い TOEIC ス
また、
「グローバルコミュニケーション開発推進協議会」
コアに相当する性能が必要であるとの指摘も受けている
も設立され、音声翻訳を社会展開していくための検討や
そうだが、NICT では 2020 年にはどこででも使えるよう
実験的な利用を進めている。音声翻訳に関連する大学お
にという目標も掲げ、VoiceTra のさらなる改善に邁進し
よび研究機関のみならず、音声翻訳との関連性が強く伺
ている。
える分野の関連企業や団体、その他の各種メーカーや翻
ま た、「 み ん な の 自 動 翻 訳 」 と い う ウ ェ ブ サ イ ト
訳に携わる企業など、2015 年 10 月にはすでに 128 機関
(https://mt-auto-minhon-mlt.ucri.jgn-x.jp/)でも NICT
の機械翻訳技術を体験できる。ユーザーが対訳文や用語
が参加している。
隅田氏は NICT がリリースした「VoiceTra」という名前
を自由に追加し、自動翻訳のエンジンを成長させると
の自動翻訳アプリを実演してくれた。実際に隅田氏の携
いった取り組みであり、
「特許やマニュアルなど長文を正
帯端末をプロジェクターに投映し、隅田氏自身の発言を
確に翻訳するための新技術の研究」に基づくものだ。隅
VoiceTra でいくつかへの言語へ翻訳した。VoiceTra は 29
田氏は、この 5 ∼ 10 年で性能改善が停滞することはない
言語に対応した音声翻訳アプリである。NICT の研究の
だろうと考えており、
さらなる性能の向上が期待できる。
一環であり、無償でサービス提供しているとのこと。翻
しかしながら、2020 年以降の機械翻訳の社会実装に
訳結果に誤りがあった場合などにはレポートを送信する
ついては課題も抱えている。同時通訳特有の難しさや、
ための機能も装備されており、使い方のコツを紹介する
文脈の研究の必要性も提示された。また、昨今では機械
動画もウェブサイトで公開されている(http://voicetra.
翻訳が統合して使用される翻訳支援ツールにも言及があ
nict.go.jp/vt/picture.html)。
り、自動翻訳システムと翻訳者の共生については「花と
音声翻訳は、(1)音声認識、(2)機械翻訳、(3)音声
蜜蜂のような関係」と表現されていた。
合成という 3 つの技術が融合されており、コーパスに基
自動翻訳の精度が向上することにより翻訳の速度は上
づく統計翻訳により圧倒的に優れた性能を実現している
がり、文字単位での翻訳単価は低下することが予想され
とのこと。コーパスとは、簡単にはデータベースという
る。しかしながら、これによって翻訳の需要が大きくな
こともできるが、自然言語の文章に品詞など文の構造の
ることが見込まれるというのだ。翻訳が必要とされるテ
注釈を付与して構造化したものを大きく集積している。
キストの分量は増え、新たな分野でも翻訳の需要が発生
NICT ではコーパス収集にも尽力しており、2003 年には
し、高度な翻訳が一層大切にされるであろうとのこと。
約 20 万文であったが、2015 年には約 3 億文を蓄積した
このためにも、コーパスの共有、汎用自動翻訳の創出な
とのこと。
ど、さらなる課題が言及された。
◎機械翻訳技術の現状と性能
熱心な参加者からは質問も多く寄せられた。世界的に
コーパスに基づく統計翻訳が圧倒的に性能が良い
有名な大規模のオンライン機械翻訳システムに話が及ぶ
駅は/どこですか。
翻訳モデル (確率付き対訳辞書)
どこですか → Where is (60%)
どこですか → Could you direct me to (20%)
どこですか → Where am (20%)
日英対訳
コーパス
英語に置き換える。
と、NICT は「日本人が適正に使えるシステムを作る」こ
とに尽力しているとのことで、
「万能包丁で刺身を切るの
The station/where is.
The station/could you direct me to.
The station/where am.
モデル
を
作成
する。
00
01
0
特集
ではない」と表現されていた。
並替えを列挙する。
The station/where is.
10
10101010 01110101000
where is/ the station.
1010
010
0to.
The station/could you direct 1
me
0
010
could you direct
10 me to /the station.
0
10
0
The station/where
1 am.
10
where
00 am/ the station.
0
01001001
0
1
0
01
101001101001001001001010
0
1
0
1
1
10
0
1
0
01
1010
11 101010
1
0
0
1
101
01
00
1
01
1
1
1
0
0
1
1
0
0
0
1
0
0
1
0
1101010
1
100
1
0 0100
0
1
1
00
10
10
1
0
01
0
1
00
0
1
1
0
8
0
01
0
01
01
01
01
0
0
10
10
11
01
01
10
1
© NICT
Where is the station?
101101011010101
0101
010
101
00
10
10
10
10
01
2015/11/26
順位をつける。
000010101001101000
100
100
10
11
01
01
01
1
言語モデル (n-gram)
P(the station|where is)=0.001
P(where is|the station)=0.0005
P(the station|where am)=0.0001
101
000
10
01
00
10
英語テキスト
コーパス
11
MT Summit XV
参加報告
MT Summit XV( 第 15 回 機 械 翻 訳 サ ミ ッ ト ) は、
2015 年 10 月 30 日 ∼ 11 月 3 日 に 米 国 マ イ アミの Hyatt
Regency Miami にて開催された。約 200 名の機械翻訳関
係者(研究者、機械翻訳ソフト業者、翻訳業者、翻訳者
等)が参加し、米州からの参加者が大多数を占める中、
日本からの参加者は 20 名程度であった。他アジア諸国
からの参加は少なかったようである。本会議は 3 つの一
報告者 ●
須藤 克仁
般セッション(研究者・商用ユーザ&翻訳者・政府ユー
日本電信電話(株)
コミュニケーション科学基礎研究所
ン、技術展示を行う Technology Showcase で構成され
ザ)を中心とし、他に招待講演、パネルディスカッショ
ていた。以下、それぞれについて筆者が聴講したものを
簡単に紹介する。
一般セッションでは筆者は主に研究者セッションを聴
講した。近年の言語処理関連の学術会議では深層学習技
術が大きな潮流となってきているのに対し、機械翻訳に
関する幅広い話題が扱われていることが印象に残った。
特に、機械翻訳を人手の翻訳に役立てるための翻訳後編
集(Post-editing)とコンピュータ補助翻訳(Computer
Aided/Assisted Translation)については数件の口頭発表
があり、機械翻訳ユーザが多く参加する会議であること
が強く意識されていたようである。これらは統計的機械
EU のプロジェクトで研究開
翻訳の応用として注目され、
発が進められた関係で多くの欧州の研究機関が関わって
きたこともあり、前年の AMTA に引き続き興味深く聴講
した。
機械翻訳の精度と後編集の作業効率の関係、後編集
やコンピュータ補助翻訳に適したユーザインタフェース
や情報提示の方法、といった実用上重要な課題への取り
組みが継続的に進められているようである。また、日本
からは美野氏(NICT)の深層学習技術を利用したフレー
ズベース機械翻訳の改善に関する研究、富士氏(NICT)
の特許請求項翻訳のための前処理に関する研究、後藤氏
(NHK)の日本語のニュース文の平易化に関する研究、中
須藤 克仁
Sudoh Katsuhito
010010010010010
010101101
10年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了、
2002
同年
1010
1010
NTT 入社。コミュニケーション科学基礎研究所にて音声言
101
001 (情報学)。現在、言
語処理、機械翻訳の研究に従事。博士
110 特許翻訳研究
1000010101
011010101
語処理学会論文誌編集委員、AAMT/Japio
101
1011
000
0
001
0
会委員。
00
0
10
1
0
10
10
01 10
10
001
001
1
1
1
0
0
1
1
001
0
0
1
1
0
0
1
0
001001
0
1100101010
1
0
00
1
0
0
0
1
0
0001
10
1
1001
011
100
10
10
011 01
100
0
0
1
0
1
00
0
10
0
101
01 1010001
10
10
1
0
01
11
11
01
10
10
00
0
00
10
01
00
0
10
1
101010
01101
011
01
10
1
00
01
0
0
01
11
0
0
01
00
01
01
01
11
10
01
01
10
12
10100100001
010
10
0
PROFILE
0
10
11
01
110
00
1
10
101001001
0110
00
1
00
1
機械翻訳の国家戦略
岩先生(名大)の日本語のゼロ代名詞及び先行詞の同定
翻訳がどう役立つか、具体
に関する研究、宮田氏(東大)の日本語の機械翻訳しや
的にどの程度の価値を翻訳
すさを高めるための制約ルールに関する研究の 5 件の口
者にもたらすかについては
頭発表と、Lu 氏(京大)の漢字の知識を利用した韓日翻
共通した認識はないものの、
訳の精度改善に関する研究のポスター発表があった。
翻訳者の業務の習慣(work
00
01
0
特集
habit)は今後機械翻訳の技術
招待講演は、深層学習型機械翻訳に関するものが 2 件
によって変容していくであ
と、EC の機械翻訳プロジェクトについて、今後の機械翻
ろう、という議論が印象的で
訳の展望について、音声認識と結合した話し言葉翻訳に
あった。我々機械翻訳の研究
ついて、の計 5 件であった。全体的には研究者寄りの内
者は常々機械翻訳の精度が
容が多かったように思うが、いずれの招待講演も非常に
云々という議論をしがちであるが、機械翻訳が完璧なも
盛況であり、多くの質問 、議論が投げかけられていた。
のでない以上はそれが何にどの程度貢献し得るのかとい
深層学習型機械翻訳はこの 1-2 年で急速な発展を見せた
う視点が不可欠である。後編集であれば後編集のしやす
技術であるが、実は 30 年近く前の 1987 年には基本的な
さが重要であろうし、コンピュータ補助翻訳であれば翻
アイデアが論文発表されていたこと、今後は言語から言
訳者が望む翻訳候補をいかに提示できるかが重要であっ
語への翻訳を超えて、画像や映像を「翻訳」する方法が
て、これは単に参照訳への近さを BLEU 等の尺度で測っ
生まれようとしていること、等が非常に印象的であっ
て分かるものではない。こうした乖離をなくすことが翻
た。また、従来型の機械翻訳が細かい単位の翻訳例を記
訳者と機械翻訳がストレスなく協力できるようにするた
憶しておいて新たな文を翻訳するために細かな翻訳例を
めの一つのステップであると言える。またこの議論と関
再利用しようとするのに対し、深層学習型機械翻訳は細
連して、機械翻訳を利用した人手翻訳の生産性を単純に
かな違いよりも流暢な翻訳をしようとする傾向にある、
時間だけで測ることは望ましくないのではなかろうか、
といった知見が示され、非専門家にとってもその特徴を
という疑問が呈された。機械翻訳を介することで翻訳に
直観的に捉えやすいものであった。今後の展望に関する
違いが出る可能性は高く、そうした面での詳細な評価も
Google 翻訳の担当者の講演では、その経験を踏まえた
今後さらに必要になると考えられる。いずれのパネリス
現状認識として、比較的類似した言語間でデータが十分
トも機械翻訳の導入については比較的好意的であって、
にある状況であっても、肯定否定の誤り、語義の誤り、
機械翻訳は役立てたいが、
どう上手に機械翻訳を使うか、
文脈とのミスマッチ、等の致命的な誤りが多く残ること
互いに助けあって翻訳をよりよいものにできるか、とい
や、崩れた表現への対応が難しいものであることが述べ
うことを意識しているように感じた。
ただし同時に、
情報
られた。その上で、深層学習等の新しい技術的アプロー
の秘匿性を担保することと利用履歴の活用の両立の問題
チによって文や文脈をより深く理解すること、クラウド
のような今後課題となりそうな点についても話題に上っ
ソーシングを通じて致命的な誤りを発見・修正していく
ていた。
こと等を通じ、10 年後には深刻な翻訳誤りが大きく削減
可能(比較的容易な言語対では 10 分の 1 程度まで、難し
Technology Showcase で は 20 程 度 の 技 術 展 示 が あ
い言語対では現在容易な言語対で実現できている程度の
り、製品の紹介や最新研究成果のデモ等が行われた。
水準まで)であると展望が示された。ただ、それは人手
多くの参加者を集めていたのは最近一般公開された
の翻訳が不要になることを意味せず、高品質の翻訳は人
Microsoft の Skype Translator のデモであり、音声認識
手で行われるべきものであって、それを手助けする道具
に有利な接話マイクを利用してはいたものの、かなり騒
として機械翻訳がより一般的なものになるであろう、と
がしい会場で英語とドイツ語の音声翻訳がかなりの精度
1110101
01010100で動作していたことが印象に残っており、技術力の高さ
0000
10101
010
100
1
0
0
10
1
0
SDL、Systran 等の翻訳者サ
が際立っていた。その他は
10
10
10
0
0
00
ポート関連製品、機械翻訳ソフトウェアの商品紹介があ
パネルディスカッションでは、0301名の翻訳者をパネリ
10
11
01
01
ストとして、人手の翻訳と機械翻訳の関係、主に機械翻
り、翻訳者や翻訳業者が参加する会議であることを強く
01001001
0
1
0
1001001001001001010
0
1
0
1
1
0
1
1010
11 101010
1
0
0
1
101
訳が翻訳者にとって有用であるかどうかについて議論さ
感じさせた。
01
00
1
01
1
1
1
0
0
1
1
0
0
0
1
0
0
1
0
1101010
1
100 れた。翻訳メモリが広く使われているのに対して、機械
1
0 0100
0
1
1
00
10
10
1
0
01
0
1
00
0
1
1
0
101
000
10
01
00
10
101101011010101
0101
010
101
00
10
10
10
10
01
0
01
0
01
01
01
01
0
0
10
10
11
01
01
10
1
000010101001101000
100
100
10
11
01
01
01
1
いうものであった。
13
本会議の最終日には MT Summit を主催している国際
最後に会議全体を通じた筆者の所感を述べる。筆者
機械翻訳学会(IAMT)の Award of Honor の表彰があり、
が最も強く感じたのは、機械翻訳は産業上の応用が明
フレーズベース機械翻訳を考案・牽引し、機械翻訳ソフ
確に存在する技術であって、応用によって重視される
トウェアの Moses の開発を主導しているジョンズ・ホプ
ポイントが大きく異なる、
ということである。特に MT
キンス大学の Philipp Koehn 教授に賞が授与された。フ
Summit や AMTA、EAMT 等の会議では機械翻訳の研究
レーズベース機械翻訳の最初の発表が行われた 2003 年
者・開発者だけでなく翻訳者や翻訳業者からの参加者
から 10 年余りの間で、さらには統計的機械翻訳のアイデ
も多く、応用の視点から機械翻訳を見つめ直せること
アが IBM の研究者によって国際会議で発表された 1988
を再確認した。
応用、
特に翻訳後編集やコンピュータ補
年から四半世紀余りの間で、統計的機械翻訳は機械翻訳
助翻訳の利便性向上のための研究やユーザからの問題
の中心的な技術と認識されるようになっており、それを
提起といった内容は機械翻訳専門の会議であるからこ
象徴する出来事と言えるだろう。
そのものであると感じた。筆者も機械翻訳の一研究者
として、機械翻訳それ自体の性能向上を目指すだけで
また、会期初日には AAMT/Japio 特許翻訳研究会の
なく、実用において重要度の高い機能は何か、ユーザ
活動の一環として、特許・技術文書翻訳ワークショップ
にとっての有益性の評価軸を何にするべきか、といっ
(Workshop on Patent and Scientific Literature Translation)
た視点を忘れることのないようにしたい、という思い
を開催した。世界知的財産機構(WIPO)や日本国特許庁
を強くした。日本では翻訳後編集やコンピュータ補助
等の公的機関や翻訳業者からの招待講演も交え、産業的
翻訳に関する研究はあまり盛んであるとは言い難い状
需要の高い特許等の技術文書の翻訳について幅広く議論
況で、翻訳者と機械翻訳の開発者・研究者との協業も
した。特許や論文は比較的整った文体であり、直訳調の
道半ばである。日本語と英語との間の機械翻訳は様々
翻訳であっても意味が取れることが多いことから比較的
な言語的差異の大きさからハードルが高いものである
機械翻訳の対象としては扱いやすいものと考えられる。
が、現状の技術で何か翻訳者の役に立てることはない
国際的には大意を掴み検索結果の取捨選択を行ったり、
か、また、そのための最優先課題は何か、といったこ
後編集を前提とした下訳にする等の用途にはかなり用い
とを考えるためには、我々機械翻訳に携わるものがそ
られているようである。
ういった意識を持つことが不可欠であり、MT Summit
のような会議の場はそうした面で重要な役割を果たし
ていると言えるだろう。
10
01
00
0
10100100001
010
10
0
10
1
101010
01101
011
01
10
1
00
01
0
0
01
11
0
0
01
00
01
01
01
11
14
10
01
01
10
010010010010010
010101101
10101
0101
010
100
111
1000010101
010
110110101010
010
00
001
10
0
0
10
00
10
10
01 101
10
001
001
1
1
1
0
0
1
1
001
0
0
1
1
0
0
1
0
001001
0
1100101010
1
0
00
1
0
0
0
1
0
0001
10
1
1001
011
100
10
10
011 01
100
0
0
1
0
1
00
0
10
0
101
01 1010001
10
10
1
0
01
11
11
01
10
10
00
0
00
0
10
11
01
110
00
1
10
101001001
0110
00
1
00
1
機械翻訳の国家戦略
00
01
0
特集
ミニアンケート
「機械翻訳は顧客にうけいれられるか?」
行政もプロジェクトをたちあげ予算をつけて推進している機械翻訳ですが、
産業翻訳の市場での受け入れは進んでいるのでしょうか?
株式会社翻訳センターの協力を得て実施したソースクライアントへのアンケート結果をご紹介します。
● 調査期間:2015 年 4 ∼ 5 月 ● 回答者:医薬分野のクライアント ● 回答総数:38 ● 調査協力:株式会社翻訳センター
Q. MT の使用に興味はありますか?
とても興味がある
「とても興味がある」理由
用語統一ができる、精度がよくなる、長文を
13.2(%)
少し興味がある
47.3
どちらともいえない
10.5
あまり興味がない
「あまり興味がない」理由
23.7
まったく興味がない
短時間で概要理解できる、等
品質に期待が持てない、業務上活用できそ
5.3
うにない、自分の業務に適さない、等
Q. MT を使用したことがありますか?
10.5(%)
いつも使用している
まれに使用している
28.9
ほとんど使用しない
34.3
まったく使用しない
使用している場合、その目的
辞書代わり、内容確認用、等
26.3
Q. MT 使用のメリットとして、どのようなことを期待しますか?(複数回答可)
低コスト
18(件)
短納期
27
高品質
その他
全く期待できない
17
0
「高品質」で期待する点
訳語の一貫性、訳抜けがないこと、等
2
Q. 今後、MT を取り入れる場合、翻訳の質としてはどの程度のものを期待しますか?
0101010011101010
10101
000
010
100
1
0
10
010
10
0
1
10
0
0
00
1
0
10
5.3
%
)
(
辞書代わり
0
1
11 コメント
0
01
101
000
10
01
00
10
000010101001101000
100
100
10
11
01
01
01
1
0
01
101101011010101
0101
010
101
00
10
10
10
10
01
01
0
0
10
10
11
01
01
10
1
0
01
01
01
01001001
0
1
0
1001001001001001010
0
1
0
1
1
0
1
1010
11 101010
1
外部の人が読んで理解できるレベル、
大体の意味がわかる程度
44.7
0
0
1
101
1
00
しかも短納期、等10
1
01
50.0
人間が翻訳したものと同じレベル
1
1
0
0
1
1
0
0
0
1
0
0
1
0
1101010
1
100
1
0 0100
0
1
1
00
10
10
1
0
01
0
1
00
0
1
1
0
15
Event Report 01
2 015 年 度 第 4 回 J T F 翻 訳 セミナ ー 報 告
2015 年度 第 4 回 JTF 翻訳セミナー報告
日 時 ● 2015 年 12 月 17 日(木)14:00 ∼ 16:40
開催場所 ● 剛堂会館
テーマ ●
翻訳の品質管理とツールの活用(TransQA を題材に)
登壇者 ● 小林
卓
K o b a y a s h i Ta k a s h i
翻訳工房ベルテック 代表
報告者 ● 太田 和江(WIP ジャパン株式会社)
講師は翻訳工房ベルテック代表小林卓
氏。翻訳の品質管理という枠組みの中で、
QA チェックツールの特徴
チェックツールの活用方法および実践的
おもに IT 分野の英日翻訳でよく使わ
なチェックのあり方について、氏が作成
れており、スタイルガイドに従っている
された TransQA を題材にご講義いただ
かどうか、用語集に従っているかなどが
いた。
チェックできる。
スタイルガイドは、ソースクライアン
翻訳の品質
Tokyo
17
Dec.
2015
多いが、Trados などのツールとセットに
翻訳の品質チェックでは、原文の書か
なっている場合には、チェック内容ごと
れている内容を漏れなく訳出し、読む人
にツールが分かれるなどの制約が多いの
が誤読しない文として再構成し、校閲す
が難点である。
るというプロセスを経て、翻訳が目標ど
専門用語を間違えるのは致命的だが、
おりの品質を達成しているかが確認され
人手で確実にチェックするには限界があ
る。チェックは基本的に人手による作業
る。機械的にチェックできるツールがあ
だが、
ルールが複雑であったり、
チェック
れば、担当者は人にしかできない作業に
対象が大量であったりする場合、チェッ
集中できるようになり、ベストといえる
ク漏れなどの弊害が生まれることがあ
だろう。
る。
ツールには市販されているものもあ
り、ユーザー自身がチェックツールを定
QA チェックツールとは
義できるなど、ある程度の柔軟性は備
わっている。
QA チェックツールはプロジェクトで
本質的な部分ではなく外周的なチェッ
求められる規則に従っているかどうかを
クをすることがチェックツールの得意領
チェックするツールであり、あくまでも
域といえる。
対象は規則である。専門用語をあらかじ
QA チェックツールの基本的な仕組み
め原稿に置き換えることで、誤訳の発生
として、スタイル系処理と用語系処理が
を抑えられる。
ある。スタイル系処理は間違ったパター
チェック作業では、気をつけていても
ンを正規表現などで定義し、用語系処理
どうしても漏れがでてきてしまう。ツー
は原文にはあるが訳文では対応するもの
ルは、その漏れを拾い上げることで「品
がない用語などをチェックする。
質」を向上させる手助けをしてくれるも
のである。
16
トやエージェントから支給されることが
する克服として、典型的なパターンを
実装することや説明書を充実させる、
ルールを自動的に作成するといったこ
Event Report 01
校正機能と
QA チェックツールの違い
TransQA に関する情報
最 新 版 の バ ー ジ ョ ン 番 号 は 0.2.5.7。
校正機能(Word)とは、構文を解釈し
とが必要である。また、複雑な規則に
ま た、 バ グ 改 修 版 の 次 期 バ ー ジ ョ ン
たうえで誤りを検出する機能である。
もある程度対応できる柔軟さも必要で
(0.2.5.8)が年頭にリリース予定。当面は
例えば、
「てにをは」が使われている箇
あろう。
フリーソフトとなる。
所を検出したり、全文をなめて表記の
ゆれを検出したりできる。ただ、原文
と訳文との対比でチェックすることは
できない。
TransQA の強み
単なるチェックツールではない。既存
ツールのダウンロードはこちら
http://www7b.biglobe.ne.jp/~taku3/
toolindex.html
QA チェックツールは、パターンに当て
のリソースからスタイル定義を自動作成
はまったものを誤りとして認識する。
できるチェックパターンの自動作成機能
例えば、半角文字の後にスペースなし
や、スタイル定義のライブラリーやひな
http://www7b.biglobe.ne.jp/~taku3/
で全角文字が続いている箇所を誤りと
形を搭載しており、頻出用語の抽出機能
TransQA/Help/
して検出するなど、あくまでも原文と
なども備えた総合的なチェックツールで
訳文の 1 セットに対してのバグを検出
ある。また JTF 日本標準スタイルガイド
チェックツールに関するご相談は、
する。そのため、全体の表記のゆれは
ルールを実装している。
[email protected] までお気軽に
ご相談下さい。
チェックできない。相互に補完して使
うことに一考の価値があるだろう。
QA チェックツールの限界
TransQA の基本的な概念
プロジェクト固有の情報(ユーザーが
管理)とプロジェクト共通の情報
(システ
何でもチェック可能な万能ツールでは
ムが管理)という 2 つの体系から構成さ
ない。パターン化できる規則にも限界が
れ、これらを任意に組み合わせてチェッ
あり、条件が複雑すぎる場合は実装でき
クする。
ないケースが多い。イレギュラーなケー
スが検出されることもある。
基 本 的 に チ ェ ッ ク が 必 要 で あ る が、
ツールに関する情報はこちら
全体的に比較すると、Xbench(バー
ジョン 2.9)はファイルの処理に強く、
TransQA は日本語特有の処理に強い。
チェックツールには実装しにくい規則と
して、
「カタカナ複合語の場合、2 語で構
成される場合は中黒なし、3 語以上にな
ると中黒あり」などが挙げられる。定義
まとめ
チェックツールに慣れるには技術的
が複雑な場合、落としどころを見つける
な知識が必要であるため、正規表現や
ことも必要である。
Word のワイルドカードに関する知識は
あった方が良い。また、現実的な「解」
QA チェックツールの導入効果
を得るまでは試行錯誤も必要である。
ハードルが高そうな気がするが、一回
翻訳者の視点から見た導入効果は、納
定義すると何回も使いまわすことがで
品前にファイルをきれいにしてから渡
き、後が楽になるので便利である。最終
すための誤字脱字や誤記のケアレスミ
的に QA チェックツールを用いてチェッ
スを検出できることであり、翻訳の見
クすることで心理的にも楽になるので、
直しが終わった後にチェックツールを
これはチェックツールのメリットと言え
かけることで精神的な安定を得ること
る。
ができる。
翻訳会社の視点から見た導入効果は、
複数の翻訳者に分けて渡しているファ
イルの訳ゆれを検出でき、クライアン
トの指示が徹底されているかどうかが
検査できることである。こちらも精
神的な安定剤として作用する。また、
小林 卓
K o b a y a s h i Ta k a s h i
PROFILE
IT 業界で SE として 10 余年勤務。その間、各種のシステ
ム構築を手がけ、官庁主催の技術標準化ワーキンググ
ループにも参加。その後、翻訳業界に転身。3 年間の会
社勤務を経て独立。今に至る。
チェックツールの取っ付きにくさに対
17
Column 01
師を招いてセミナーも開催してい
ます
(正規表現入門など)。翻訳者
の希望がダイレクトに実現される
勉強会なのです。
ひろがる
翻訳勉強会
十人十色
2013 年 に は 5 月 に 広 島 と 大 阪
に 出 張 し、SNS で つ な が る だ け
だった地方在住の翻訳者と一緒に
勉強会を開催しました。これを
M I S S I O N S TAT E M E N T
「意外と知られていないフリーラン
翻訳者
井口 富美子
ス翻訳者の素顔をさぐる」シリーズ、
なんと 4 年目に突入です。このコラム
きっかけに両地で勉強会が立ち上
げられ、交流が活発に。大阪のメ
ンバーを講師に招くなど(1 回目
を始めた 2012 年春以降も、いろんな
の翻訳祭前夜祭)
、
翻訳者の輪が広
翻訳者さんたちと出会うことができま
がりました。
2014 年には「翻訳者のための
した。そのなかでとてもうれしかった
のは、人と人とのつながりをきっかけ
に、日本各地で「翻訳者による自主勉
つながる
AutoHotkey 入 門 講 座 」 を 開 催。
翻訳祭前夜祭では川月現大さんに
強会」が生まれてきたことです。翻訳
翻訳は孤独な作業です。ところ
よる「翻訳者のための日本語講
者が日々勉強を続けるのは、個人レベ
が SNS の登場で状況が変わりま
座」が好評でした。またこの年の
ルなら当然のことですし、小規模な勉
した。Twitter や Facebook で翻訳
翻訳祭に初めて十人十色として登
強会は以前からありましたが、こうい
者がゆるくつながり、翻訳クラス
壇(
「新米の上り坂、
中堅の曲がり
う形で横のつながりが広がったのは、
タとよばれるバーチャルなグルー
角」
)
。準備は大変でしたが反響も
ここ最近のすばらしい傾向だと思いま
プができたのです。悩みをつぶや
大きく、翻訳者が積極的に発信す
す。
くか投稿するだけでだれかがアド
る必要性を実感しました。
そこで、今年はそんな各地の勉強会
バイスを書き込んでくれる。1 日
の様子を、代表者に紹介していただく
中 PC の前にいる翻訳者にぴった
ことにしました。連絡先も書いてあり
りのコミュニケーションツールで
ますので、お近くで興味を持たれた方
しょう。
はぜひ、参加してみてください!
Column 01
Owner
高橋 聡
Ta k a h a s h i A k i r a
PROFILE
CG 以前の特撮と帽子をこよなく愛する実務翻訳者。
翻訳学校講師。学習塾講師と雑多翻訳の二足のわら
じ生活を約 10 年、ローカライズ系翻訳会社の社内翻
Give & Give
「互いに教え合う」勉強会なの
2012 年春、「どんな風に翻訳し
で、会費は会場費と運営費の実費
ているか互いに見せ合いません
です。私たち主宰者側も登壇され
か」という投稿がきっかけで実
る方も基本的に無償ボランティア
際に数人が集まって勉強会を開
です(セミナー形式の講師は除
催しました。それが翻訳勉強会
く)
。ベテランや中堅も、先輩にお
十人十色の始まりです。すぐに
世話になってここまで来られた、
Facebook でグループを作り、
「翻
今度は自分が後進を育てる役だ、
訳者が互いに教え合って勉強す
という思いで自分の「企業秘密」
る」という、今までにない形の勉
を惜しげなく披露してくださいま
強会ができました(現在管理人 10
す。勉強会の参加者がやがて中堅
名、メンバー約 500 名)。
やベテランになり、この勉強会で
後進のために発表してくださる。
翻訳者の「欲しい」を
かなえる
それが理想です。
日本中、世界中から
訳者生活を約 8 年経たのち、2007 年にフリーランス
最初は翻訳方法、使用ツールや
に。 現在は IT・テクニカル文書全般の翻訳を手がけ
辞書、仕事の増やし方などを数人
当勉強会には、同業者が少なく
で発表し合い、動画でも配信する
仲間が見つかりにくい、情報も限
という形でしたが、現在は大きな
られている地方や海外在住の方が
■ブログ「禿頭帽子屋の独語妄言」
会場を借りて発表する方式に落ち
多く、グループの存在をとても喜
http://baldhatter.txt-nifty.com/misc/
着きました。自分たちが勉強した
んでおられます。最初は勉強会の
いと思うテーマが見つかったら講
様子を動画で公開していました
つつ、翻訳学校や各種 SNS の翻訳者コミュニティに出
没。
18
ラウザの使い方と学習辞典」
(高橋
翻訳祭のセッション、
「曲がり角
在は発表資料をグループ内で共有
聡)。午前午後の長丁場でしたが内
を抜けて、ベテランへ」は先号の
しています。2015 年の広島・大
容の詰まった緊張感あふれる勉強
ジャーナルに詳しいレポートが掲
阪遠征ではバーチャル参加(アン
会でした。
載されています、翻訳者の本音が
ケートに回答)を募り、地方はも
10 月には広島と大阪に遠征(2
ちろんインドやイギリスからも参
回目)。西日本医学英語勉強会や
全力で駈けぬけた1年でした
加者がありました。広島編には大
ほんま会の方に会場手配等大変お
が、今後も翻訳者が望むテーマで
阪、岡山、島根から、大阪編にはド
世話になりました。広島での発表
勉強会/セミナーを地道に開催し
イツや東京、京都から参加があり、
内容は、「冗長環境で辞書引き時
ていきたいと思っています。
さらに偶然アメリカから帰国中の
間を短縮」(井口富美子)、「私の
方が飛び入りで発表もしてくださ
翻訳環境」(大賀美範)
「自家製情
、
いました。翻訳祭前夜祭には九州
報子辞典と翻訳公害対策」
(辻谷真
や山陰、カナダ、イギリスからの
一郎)。大阪では「翻訳者のための
参加者もいらっしゃいました。リ
Evernote 入門」(井口)、「ぼくが
アルな場に参加して「仲間ができ
出会った日英翻訳 ・ 英文ライティ
る」ことが大きな心の支えになる
ングの参考書たち+α」
(藤田順
のだと思います。
弘)、「海外の翻訳会社と仕事をす
るコツ」(野中貴男)
、
「4
つの自家製辞書+データ
ベース」(辻谷)
、
「辞書
と作業環境のお話」
(小
林晋也)、「アンケートに
Column 01
が、管理人の負担が大きいため現
聞けた貴重な場でした。
参加方法
参加をご希望の方は Facebook ページ
(https://www.facebook.com/jyunintoiro/)
にメッセージをお送りください。メッセージ
には翻訳者/勉強中であることを明記してく
ださい
(スパム対策)
。折り返しグループペー
ジ(非公開)のリンクを知らせします(イン
ハウス/フリーランスの個人翻訳者、または
翻訳を勉強中の方に限定)
。
回答して」(名村孝、西垣
内寿枝)。広島編、大阪編
の両方で、アンケートで
寄せられた「翻訳者の悩
2015 年 7 月、十人十色東京編
み」について意見が交わ
されました。
活動の年
昨年はこれまでで最も活動的な
年でした。まず 4 月には管理人の
お一人遠田和子さんによる「英訳
に役立つ頭の柔軟体操 ̶言葉の
置き換えから意味を伝える翻訳
へ」セミナーを開催。
7 月には十人十色東京編でツー
ル、
翻訳、辞書について発表が行わ
2015 年 10 月、十人十色広島編
れました。内容は、
「産業翻訳者が
出版翻訳の世界に踏み出すには」
(矢能千秋)、「Evernote 活用法」
11 月の翻訳祭前夜祭は「翻訳そ
(井口富美子)、
「クラウド型工程管
のもの」をテーマにした勉強会を
理ツール」(中島拓哉)、
「Xbench
開催。
「悩ましい表現をみんなで一
の活用方法」(東尚子)、
「ライティ
緒に考える」(大光明)
「訳し方の
、
ングの基本」
(高橋さきの)、「私
『原理原則』」(高橋さきの)
、
「
『世
の翻訳法」
(大光明宜孝)、「青空
界で最も○○』を英訳しよう」
(遠
WING な ど 自 作 公 開 EPWING 形
田)、「ハチの本の原文と訳文比較
式」
(大久保克彦)、
「Dicregate 中
∼産業翻訳との二足の草鞋∼」
(矢
心に検索について」
(水谷健介)、
能)、「脳みその筋トレ、やってま
「自作のツール『かんざし』の紹
介」
(内山卓則)、
「代表的な辞書ブ
すか?」(井口耕二)、と非常に濃
い内容でした(敬称略)
。
井口 富美子
Iguchi Fumiko
立教大学文学部日本文学科卒業。卒業後は専門図書館
に勤務。国内外のゲーテインスティテュートでドイツ語を
学ぶ。数回の短期留学とバイエルン州の小中高校での
インターンシップ
(半年間)
を経て 1992 年から 1994 年ま
でフンボルト大学文学部日本語翻訳学科(ドイツ/ベル
リン)
に留学。帰国後は翻訳会社に 10 年間勤務し、2005
年にフリーランスの翻訳者として独立。 専門分野は自
動車・機械・医療機器・歯学他。翻訳学校で独日実務翻
訳の講師も務める。 blog: It's a Wonderful Life(http://
wonderful-translife.com/)
19
Column 02
いかがでしょう。小説や会話が
出てくるようなノンフィクション
を訳している翻訳者なら、役割語
などという名前は知らなくても、
ごくあたりまえに使いこなしてき
た表現法ではないでしょうか。と
ころが、この表現法、いまアカデ
ミックな世界でホットなテーマの
ひとつなのです。
翻訳と役割語
なぜ、いま役割語? いくら読
書離れが進んでるといっても、日
本人なら当然知っている言葉づか
いでしょ ?
M I S S I O N S TAT E M E N T
フリーランス翻訳者になり 16 年目
に入りました。最初の 10 年はがむしゃ
らに走ってきました。10 年後、20 年後
出版翻訳者
片山 奈緒美
ごもっとも。しかし、いまや日
本語を話す人は日本人だけではあ
りません。来日する外国人留学生
の翻訳者としてのキャリアを模索し、
や海外での日本語学習者が増える
いろいろな方のお話を伺ってきまし
につれて、彼らに対する日本語教
た。向こう 10 年、20 年、30 年の翻訳者
授法などを研究する日本語教育界
としてのキャリアプラン、ライフプラ
こんにちは。書籍や雑誌の翻訳
ンを立てる上で、業界で活躍されてい
業の傍ら大学院で日本語教育の研
る翻訳者の方々のお仕事ぶりを拝見し
究をしています。今回は日本語教
その理由のひとつに、こんな事
では、役割語を教える必要性が議
論されています。
たい、と思い、このコラムでは、2000
育学のテーマのひとつで、翻訳と
情があげられます。日本語学習者
字、翻訳、というお題に対して映し出
も関係の深いことについて書きた
のなかで近年増えているのは日本
される「人間翻訳者」の方々の「仕事
いと思います。
のポップカルチャーに憧れて言葉
部屋」を拝見したいと思います。皆さ
役割語という用語をお聞きに
を学ぶようになった人たちで、ア
ん方の「機械翻訳」に負けない「人間
なったことがあるでしょうか。ひ
ニメや漫画、
歌、
ドラマなどで日本
翻訳者」としてのキャリアの一助とな
ところ金水敏著『
〈役割語〉小辞
語教科書にない日本語に数多く触
れば幸いです。
典』(研究社)や『ヴァーチャル
れています。それらはとうぜんな
日本語 役割語の謎』( 岩波書店)
がらフィクションですから、わた
などについて、ネット上でおもに
したち翻訳者があたりまえに使っ
文芸書の翻訳者の書き込みが続い
てきた特定のイメージの登場人物
たことがありましたね。ご記憶の
が話す日本語や、昨今の性差が少
かたも多いと思いますが、あえて
なくなった口語日本語(女の子が
説明するなら、役割語は次のよう
男っぽい話しかたをするなど)な
に定義されています。
どが混在しています。つまり、必
Column 02
Owner
ずしも標準的な日本語ではなく、
ある特定の言葉づかい(語彙・
特定の作品のなかでの特定の登場
矢能 千秋
語法・言い回し・イントネーショ
人物の言葉づかいで、
《ちびまる子
Ya n o C h i a k i
ン等)を聞くと特定の人物像
ちゃん》の「あたしゃ……」だっ
( 年 齢、 性 別、 職 業、 階 層、
たり、
《ドラゴンボール》の「お
時代、容姿・風貌、性格等)を
すっ! おら、悟空!」だったり
デミー翻訳者養成コース本科(日英)修了。日本翻訳
思い浮かべることができると
するわけです。そうした素材が日
者協会会員、
「日本翻訳ジャーナル」編集委員。スピー
き、あるいはある特定の人物
本語とのファースト・コンタクト
PROFILE
レッドランズ大学社会人類学部卒業。サイマル・アカ
チ、ウェブコンテンツ、印刷物、鉄道分野における日英・
英日翻訳に従事。サン・フレアアカデミー主催「オープ
ンスクール」講師。
共訳『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』河出書房新社
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309253213/
特集:翻訳の未来を語ろう http://journal.jtf.jp/files/user/pdf/JTFjournal277_2015May.pdf
人間翻訳者●矢能 千秋 http://journal.jtf.jp/special/id=435
像を提示されると、その人物
だった日本語学習者は、実際に日
がいかにも使用しそうな言葉
本人の前で日本語を話すときに、
づかいを思い浮かべることが
妙な言葉づかいをする可能性があ
できるとき、その言葉づかいを
ります。
「役割語」と呼ぶ。
(金水 敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』2003年、岩波書店)
わたしの知りあいのある中国人
の女子留学生Aさんは、いまや日
本語で大学院の授業を受けるのに
支障がないほど日本語力を身につ
20
いわけて訳さないと、会話の話し
とき、アルバイト先で「中国から
手が誰なのかがわからなくなりま
来ました。自分は××であります」
すね。それに、日本語ではきょう
と名乗って自己紹介し、ひどく笑
だいが登場するとき、どちらが兄
われたそうです。そう、これは軍
/姉でどちらが弟/妹なのかは重
人など特殊な身分・職業の男性、
要な問題です。" ∼ , isn't it, Tom?"
運動部に所属している男子学生な
を「∼よね、お兄ちゃん?」とす
どが使う表現であり、女子学生に
るか「∼だよな、トム?」とする
はそぐわない。日本語が母語であ
かによって、読者はその会話の話
る女性なら、ふつうは使わない言
者が誰なのかを読みとります。生
葉づかいです。Aさんはぱっちり
まれながらに日本語で生活してい
した目の美人ですから、よけいに
るわたしたちは、脳内で自然にそ
違和感が際立ち、アルバイト先の
の読みとり作業をしますが、まだ
日本人にはこっけいに聞こえたの
多様な日本語があることを知らな
でしょう。でも、当のAさんは漫
い学習者には、文末のささいな違
画やドラマで見聞きした日本語を
いが実は大きな違いであることを
使っただけで、そのときはそれが
教えていかねばならないのです。
妙な日本語なのだとは知りません
そのためにも翻訳者のみなさまに
でした。
「自分は∼」は一人称表
はさまざまな分野の海外作品をど
現だと覚えていたからです。だか
しどし訳していただき、役割語を
ら笑われるとは思っていなかった
使った華麗な訳しわけをわたしの
し、とても恥ずかしかったそうで
翻訳者としての学びに、そして院
す。
生として研究材料とさせていただ
語学は失敗を繰り返して習得し
ていくものであるといいます。自
Column 02
けた人ですが、来日したばかりの
きたく、この場を借りてみなさま
のご活躍をお祈りいたします。
分の経験を振り返ってもその意見
に何ら異論はありません。ただ、
いかんせん日本語は年齢や性別、
身分などによる言葉づかいの別が
複雑です。日本語学習者用の教科
書に載っている、もっともスタン
ダードな日本語の習得が必要なの
は言わずもがなですが、学習者に
はより自然な「日本人が話すよう
最近の仕事。手前は性格がまったく違う双子の男子
高校生の訳しわけが必要でした。
な日本語」を習得したいという欲
求があります。その希望をかなえ
てあげるために、逆に役割語のよ
うに「自分にあるカラーをつけて
しまう日本語」、「日本人がふつう
は話さない日本語」を学ぶ機会を
提供する必要があると思います。
わたしたち翻訳者は、海外の書
き手が書いた本を訳す過程で日本
人の作家以上に役割語を生みだし
ています。その理由は翻訳者のみ
なさんならよくご存じのとおりで
す。
たとえば英語にも会話場面にい
ちいち she said. などと入れてい
ないことはありますが、日本語は
圧倒的に人称代名詞を使う回数が
少ない。
だから、役割語を巧みに使
片山 奈緒美
Katayama Naomi
出版翻訳者。ミステリ、
ロマンスなどのフィクション、
ビジ
ネス・自己啓発、エッセイ、ペットロスやドッグ・
トレーニン
グなど犬関係のノンフィクションに取り組む。最新訳書は
『クーポンマダムの事件メモ』
リンダ・ジョフィ・ハル著、
早川書房。都内の大学でスピーチ実践講座の非常勤講
師を務め、2015 年 4 月から大学院で日本語教育の研究
中。趣味は狂言鑑賞(茂山千五郎家!)、茶道、犬と遊ぶ
こと
(甲斐犬最高!)、和ハーブ栽培。 http://nkatayama.
tea-nifty.com/honyaku/
21
Column 03
した。Kennedy 大統領が挨拶に
起ち、
「いつかあなた方の内の誰
かが、このホワイトハウスで未来
の米国大統領に会うことを期待す
る」と語りかけました。モチベー
ションが上がりましたね。振り返
れば、外務省在職中 Nixon, Ford,
Interview
M I S S I O N S TAT E M E N T
WordSmyth Café は、翻訳に関わる
人々が集う「誌上カフェ」です。当
外交官の武器は
「ことば」
~沼田貞昭元カナダ大使に聞く~
コーナーでは、毎号異なる執筆者に
沼田:なんといっても信頼を築く
integrity が 必 要 で す。 あ と 実 体
状態になります。日本語なら「板
wordsmith(言葉の職人)と myth(神
います。
ですか?
場所の間に挟まれる)と表現する
前の WordSmyth(ワードスミス)は、
紡ぎたい」という店主の願いを表して
店主:外交官とはどのような職業
rock and a hard place (岩と堅い
さまざまなテーマを取り上げます。名
「言葉の職人として、さまざまな物語を
う機会がありました。
験からいうと、 stuck between a
ご登場願い、翻訳を含む言語に関わる
話=お話)を組み合わせた造語です。
Carter, Reagan, Clinton と い う 5
人の大統領にホワイトハウスで会
挟み」ですが、
英語だと「岩挟み」
本日は沼田貞昭元カナダ大使に
ですね。
大使ともなれば、日本国と
お越しいただき、言葉に関わるお
受入国の政府・世論からの圧力を
話を中心に伺います。沼田大使は
常に受け、両者の板挟みになるわ
長年の外交経験を持ち、外務省在
けです。公式に発言するとともに
職中には歴代首相の英語通訳ほか
舞台裏で交渉することにより両国
外務報道官も務められました。
間の食い違いを最小化し、利害の
一致を最大化する努力をします。
Column 04
Owner
遠田 和子
Enda Kazuko
店主:初めに、なぜ外交官を目指
外交官は「ことば」を使う職業で
したかについてお話しいただけま
す。外交官にとり「ことば」はと
すか。
ても重要です。
沼田: 私は 1960 年高校 3 年生の
店主:言葉の重要性については、
ときに American Field Service (AFS)
翻訳者とまったく同じですね。
の留学生として米国東部にある
Choate School に留学しました。
沼田:そうでしょう。古代ギリ
J.F. Kennedy の出身校です。1960
シャの政治家デモステネスが、こ
年といえば日米安保条約改定に反
んな言葉を残しています。 their
対する安保闘争が吹き荒れ、学生
(=ambassadors ' ) weapons are
PROFILE
が激しいデモを繰り広げていた年
words and opportunities. 「大使
日英翻訳の傍ら翻訳学校での講師、またプレゼン研修
です。
多くのアメリカ人から Why
の武器は、言葉と機会である」と
are Japanese students rioting?
いうことです。
の講師をしています。著書に、
「英語なるほどライティ
ング」、
「Google 英文ライティング」、
「eリーディング英
語学習法」、
「あいさつ・あいづち・あいきょうで 3 倍話
(
「なぜ日本の学生は暴動を起こし
せる英会話」
(講談社)
があります。趣味は読書・映画・
ているのか?」
)という質問を受
店主:通訳のご経験についてお話
旅行です。また英語スピーチの練習、バレエのレッス
け、そのたびに日本人の問題意識
しください。
ンを続けています。 それぞれ少しでも上手くなるた
とか願望を外国にきちんと説明す
め、地道に努力しています。
*Website: WordSmyth 英語ラボ
http://www.wordsmyth.jp
*Facebook Page: WordSmyth
http://www.facebook.com/wordsmythlab
*e-reading ブログ : One Chapter Reading Club
http://minamimuki.com/fun-and-free
22
る役割が必要だと感じました。そ
沼田:初めて通訳をしたのは大
れが外国との架け橋となる職業外
学 1 年 生 の と き で、1962 年 に 広
交官を目指したきっかけです。
島で開催された原水爆禁止世界大
一年の留学の終わりに、世界中
会での同時通訳です。ほとんど訓
から来ていた AFS 留学生千人以
練なしでブースに入ったのです
上がホワイトハウスに招かれま
が、反射神経だけは速かったです
かについて政府内のコンセンサス
沼田:今の学校教育ではディベー
a knack for sounding plausible.
がとれていませんでした。首脳会
トを教えません。批判的思考を鍛
(
「もっともらしくは聞こえるな」)
談でこの問題が出たら総理がどう
えるのに良い手法であるばかりで
と言われました。褒められたのか、
答えるか。関係者は戦々恐々とし
なく、議論の作法を教え、身ぶり
けなされたのか分かりません。
ていました。案の定、会談が始ま
やアイコンタクトなど伝え方の訓
卒業後は外務省に入り、オック
ると早々に Onn 首相は円借款の
練にもなります。これからの人に
スフォード大学での研修や各種業
質問をしました。福田総理は「以
は、明快な言葉でメッセージを世
務を経験したあと 1972 年に北米
心伝心です」と答え、僕の方を向
界に発信して欲しいのです。
一課に配属され、その後在外のポ
いてにたっと笑ったのです。それ
ストにいた時も含め 10 年間歴代
は「沼田、これ訳せるか?」という
店主:私も翻訳者として言葉の力
首相の通訳官を務めました。外務
顔でした。数秒間考え、 We have
を引き出す能力を磨き続けます。
省では実質的仕事をする人が通訳
a Japanese version of telepathy.
本日は貴重なお話、どうもありが
をします。政治家の発言要領やス
と訳しました。それを聞いて Onn
とうございました。
ピーチを書き起こし、さらに通訳
首相は数秒間黙っていました。や
もするわけです。こき使われます
がて、にこ∼っと笑って“Thank
けど、首脳会談の通訳は中身が分
you!”と応えたのです。「私もいろ
かっている人を使うのが外務省の
いろ厳しい状況だけど、あなたの
伝統です。
気持ちは分かるから、何とかする
1978 年 か ら の 4 年 間 は ワ シ ン
よ。ノーということはないから」
トン在勤でした。当時は日本が経
という福田総理のメッセージが、
済 成 長 を 遂 げ Japan as Number
Onn 首相に伝わったわけです。
Column 03
ね。先輩の通訳者から You have
One の言葉が流行ったころです。
アメリカは日本に平等な責任分担
店主:微妙な状況のなかでの素晴
を求め、厳しい日米折衝が続いて
らしい訳、反射神経ですね。そこ
いました。
まで英語を上達させるには何が役
に立ったのでしょうか?
店主:1979 年の大平総理と Carter
大統領の対談記録を読むと、その
沼田:英語を「書く」ことです。
場での発言を通訳する難しいタス
AFS 留学中も、オックスフォード
クだったようですね。英語では肯
研修時にもエッセイをたくさん書
定的なニュアンスの言葉が足され
きました。例えば哲学の授業では、
ています。このような補完は通訳
週ごとにあるテーマを与えられま
でどこまで許されるのでしょう?
す。毎週本を十冊近く読み、
数千語
のエッセイを書き、それを基に先
沼田:それは発言者との信頼関係
生と一対一でたっぷり 1 時間議論
で決まります。あと相手のくせを
の学問
しました。哲学は「ことば」
知っていること。大平総理は英語
です。書くことで考えを纏めてか
が分かる方で、私の訳を聞いては
ら議論するのはクリティカル・シ
一文毎に頷いていた。それで OK
ンキングの良い訓練でした。通訳
を確認できました。大平さんは「あ
官のみならず報道官になって BBC
∼う∼」が多くて言語不明瞭と言
とか CNN のインタビューを受け
われたけれど、実は「あ∼う∼」
たときも、簡潔明快にメッセージ
を取ると内容は非常に明晰で通訳
を伝える能力の基礎は書くことで
しやすかったです。
培われました。
Interviewee Profile
沼田 貞昭
Numata Sadaaki
American Field Service にて米国留学(The Choate School)
店主:思い出深い通訳体験はあり
店主: 最後に、沼田さんが会長
ますか?
を務められる日本英語交流連盟
東京大学法学部卒業、オックスフォード大学修士(哲学・
政治・経済)
1966 年外務省入省 英国、インドネシア、米国、スイス、
(ESUJ) の活動について伺います。
。 1994
豪州に在勤(1972 ∼ 82 年歴代総理の英語通訳)
沼田:1977 年に福田総理がマレー
ESUJ では即興型ディベートの普
∼ 1998 年在英国日本大使館特命全権公使。 1998 ∼
シアを訪問し、Hussein Onn 首相
及を活動の柱としていますが、そ
と会談したときです。当時、日本が
の目的は?
マレーシアに円借款をいくら出す
2000 年外務報道官。 2000 ∼ 2002 年パキスタン大使。
2005 ∼ 2007 年カナダ大使。 2007 ∼ 2009 年国際交流
基金日米センター所長。 2011 年 6 月より日本英語交流
連盟会長。
23
INDEX
翻訳業界
WysiWyg は設立時より、
ida はアウトバウンド&インバウンドの
品質をもっとも大切に考え、
ビジネスを、多言語翻訳をベースに貢献して
科学的に正確な、そして、
お客様の望む翻訳を提供し続けてきました。
います。 言語展開の販促ツールから観光用のパンフの
新しい翻訳の形にも挑戦してまいります。
仕上げまで一元管理でスムーズに対応します。
●グローバル企業様向けに、多言語 CMS 活用の
WEB サイト構築をご提案、運営を行います。
まずは、新しい形の翻訳教室から…
→弊社 HP をご覧ください。
インターグループは、50 年にわたる信頼と
実績を持つ異文化コミュニケーションの
リーディングカンパニーです。
●「わかりやすい世界標準の英語」をベースに多
WysiWyg はこれから
『言葉のプロフェッショナル集団』
●翻訳資産を最大活用できる最新の支援ツール
●フリーランス翻訳者募集
幾多の経験が培った“伝える能力と心”で、質
の高い作品を私達と共に作り出して下さる方
●インタースクール 受講生募集
翻訳・通訳なら専門英語力が武器になる。
卒業後のお仕事紹介まで。
を運用。多様な媒体でも用語統一されます。
是非弊社 HP をご覧ください。
株式会社ウィズウィグ
http://www.wysiwyg.co.jp/
〒104-0032 東京都中央区八丁堀 2-21-2 京橋第九長岡ビル 6 階
TEL. 03-5566-1669 FAX. 03-5566-4808
◆フリーランス翻訳者常時募集中◆
知財コーポレーションは特許翻訳専門の翻訳会
社です。特許翻訳は専門性が高い仕事であるた
め、フリーランス翻訳者の皆様に安心して取り組
んでいただけるよう、当社では顧客の仕様に関す
る説明会や、翻訳チェック結果のフィードバック
などを行っています。より良い翻訳をするために
は、翻訳者の皆様・顧客・当社が近い距離でコ
ミュニケーションを取ることが大切と考えており、
そうした環境を整えています。
知的財産の世界で人材は常に求められていま
す。ご応募をお待ちしています。
株式会社インターグループ
アイ・ディー・エー株式会社
http://www.idanet.co.jp/
〒530-0051 大阪市北区太融寺町 1-17
TEL. 06-6360-6300 FAX. 06-6360-6303
技術翻訳に特化したジェスコーポレーションは
ひとりひとりが得意の専門分野を持ち
「原文の正確な理解」を心がけています。
●取り扱い言語●
英語、中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語
インドネシア語、ミャンマー語、モンゴル語
ウルドゥー語、ベンガル語、アラビア語
ドイツ語、フランス語、スペイン語、ロシア語
その他アジア言語、その他ヨーロッパ言語
http://www.intergroup.co.jp/
〒105-0001 東京都港区虎ノ門二丁目 2 番 5 号 共同通信会館 4F
TEL. 03-5549-6907 FAX. 03-5549-3207
サン・フレア アカデミーは、
翻訳会社サン・フレアが母体の翻訳スクール。
創業約 40 年、50 以上の言語とあらゆる産業分野
に対応する翻訳サービスで 1000 社以上の顧客
から高い評価を得ているサン・フレアにおいて高
品質の翻訳を提供しているのは登録翻訳者。
その約 8 割がサン・フレア アカデミーから巣立っ
た人財です。サン・フレア アカデミーは翻訳実務
での豊富なノウハウと現場のニーズを活かし、次
世代の産業翻訳業界を担う優秀な翻訳者の養成
に力を注いでいます。
株式会社 知財コーポレーション
株式会社 ジェスコーポレーション
(株)サン・フレア/サン・フレア アカデミー
〒160-0023 東京都新宿区西新宿 6-10 -1 日土地西新宿ビル 7 階
〒220-0003 横浜市西区楠町 4-7 ニッセイ横浜楠町ビル 6F
〒160-0004 東京都新宿区四谷 4-7 新宿ヒロセビル 2 階
TEL. 045-313-3721 FAX. 045-314-3765
TEL. 03-6675-3965 FAX. 03-6675-3968
http://www.chizai.jp/
TEL. 03-5909-1181 FAX. 03-5909-1183
ベストな品質を提供するために大切なことは
お客様の要件を翻訳者の皆様に正しく伝え、必要
な情報を皆様と迅速・的確に共有することだと考
えています。お客様のフィードバックも適時に還
元します。 US、欧州、中国、韓国をはじめとす
る当社の海外拠点とも歩調を合わせ、時差を利
用し世界のあらゆる言語に対応します。
十印を支えるのは皆さまの協力をおいて他には
ありません。
プラスのしるし、十印は業界のパイオニアです。
ご応募をお待ちしています。
株式会社 十印
http://www.to-in.com/ja/
24
http://www.jescorp.co.jp/
翻訳センターグループは、日本最大規模を誇る
外国語サービスの総合サプライヤーです。
●「世界の語学サービス会社ランキング」
4 年連続アジア第 1 位
● 2006 年、産業翻訳業界で初の株式上場
(証券コード 2483)
●専門性の高い翻訳を提供
(特許、医薬、工業ローカライズ、金融法務)
●翻訳以外の外国語サービスも展開
(通訳、派遣、コンベンション、MW、
外国特許出願支援、多言語コールセンター)
株式会社 翻訳センター
http://www.honyakuctr.com/
〒141-0031 東京都品川区西五反田 7-25-5
〒541-0056 大阪市中央区久太郎町 4 丁目 1 番 3 号 大阪御堂筋ビル 13 階
TEL. 03-5759-4353 FAX. 03-5759-4376
TEL. 06-6282-5010 FAX. 06-6282-5018
http://www.sunflare.com/academy/
翻訳者・校正者・チェッカーを大募集中!
スピード翻訳 by GMO の翻訳者に
ご登録いただくと…
● 24 時間 365 日、ウェブから翻訳案件を受注で
きます
●空き時間を有効活用できる小規模の案件か
ら、翻訳に数日を要する中規模案件まで積極
的に受注できます
●手紙や一般的なビジネス文書から、医療、契
約書、論文までさまざまなご依頼案件が受注で
きます
GMOスピード翻訳株式会社
https://www.quicktranslate.com/
〒203-0051 東京都渋谷区桜丘町 26-1 セルリアンタワー 10F
TEL. 03-6415-7189 FAX.03-6674-2482
INDEX
翻訳業界
翻訳プロ(trans-Pro.)は 38 言語対応クラウド型
「最もユーザーフレンドリーな CAT ツール」 のオンライン翻訳サービスです。お客様評価や
「翻訳メモリと用語集の共有、
指名・お気に入り登録等、お客様の利便性に加え
高品質な翻訳提供のため翻訳者皆様のことも考
えて設計されています。
カスタマイズ可能な自動通知メールのおかげで
我々の時間はかなり短縮されました」
「翻訳の生産性が 50%向上しただけでなく
●実績数・評価が上がると翻訳料金 UP!
― ASCA の「翻訳者育成」の取り組み ―
ASCA は医薬/バイオ分野に特化したドキュメン
トサービスを提供しています。高い専門性を持つ
翻訳者の育成に力を注いでいます。
●オンライン講座「ASCA Academy」
コストが 20%削減しました。」
登録翻訳者を対象としたセミナーを月 1 回以上
の頻度で実施
あなたもここで、チャレンジしませんか?
Memsource(メムソース)をご愛用頂いている
●ミーティングの実施
→翻訳プロ登録 https://www.trans-pro.net/
お客様から、こんなお声を頂戴しています。
㈱ビーコスでは 162 言語 168ヶ国 の登録者と
大規模案件のキックオフミーティングなどを随時
実施。翻訳者同士の情報交換も支援
翻訳・通訳以外にも様々なサービスを提供中!
業務効率化のためのクラウド型翻訳支援ツール
日本語デモ・資料請求はこちらまで
→その他スタッフ登録 http://staff.hiwork.jp/
[email protected]
●指名をもらうと更に翻訳料金 UP!
株式会社ビーコス/翻訳プロ(trans-Pro.)
http://www.b-cause.co.jp/
Memsource
https://www.memsource.com/ja
TEL. 03-5733-4264 FAX. 03-3433-3320
Memsource Technologies, Spalena51,
110 00 Prague, Czech Republic
〒105-0013 東京都港区浜松町 2-1-3 第二森ビル 4 階
●フィードバックシステム
品質管理工程の結果を翻訳者と共有
株式会社アスカコーポレーション
http://www.asca-co.com/
〒541-0046 大阪市中央区平野町 1-8-13 平野町八千代ビル 9F
TEL. 06-6202-6272 FAX. 06-6202-6271
翻訳業界
インデックス
掲載会社募集中!
翻訳業界をリードする
企業をご紹介します!
翻訳者をはじめ、
翻訳者を目指している方、
翻訳の依頼をお考えの方など
翻訳会社やスクールを
お探しの方は
このインデックスを
是非ご活用ください。
25
募集
広告募集のおしらせ
翻訳者、翻訳会社を対象とする広告や特集記事
Next Issue
に関連する広告を随時募集しています。詳しく
は JTF 事務局までお問い合わせください。
次号
予告
JTF 事務局:TEL. 03-6228-6607
E-mail [email protected]
広告募集 HP:http://journal.jtf.jp/ads/
283
May/Jun 2016 #
2016 年 5 月 6 日発行予定
※発行日や内容は変更になる可能性があります。
リニューアル第 1 弾
「翻訳の未来を考える」をテーマに新時代の翻訳者と翻訳会社の姿を問う JTF ジャーナルは、次号からリニューアルします。
ホームページとジャーナルを組み合わせることで読者の皆さんに「読んでよかった」と思っていただける、
より付加価値の高いコンテンツの提供を目指します。
新連載も多数スタートします。
ご期待ください。
「日本語の壁」にふたたび挑む機械翻訳
日本の機械翻訳研究は世界をリードする水準にありますが、日本でこ
のように機械翻訳の研究が盛んになるきっかけとなったのが 1982 年か
ら 1985 年にかけて京都大学の長尾真教授(当時)をリーダーとして科学
「京大、電総研(現産
技術庁が取り組んだ「Mu プロジェクト」でした。
総研)、JICST(現 JST)、工業技術院筑波情報計算センターの他、東芝、
NEC、富士通、日立、沖電気が参加」(AAMT ホームページより引用)し
て実用機械翻訳システムの研究開発が行なわれ、その成果は製品として
市場にもでました。
それから 32 年の時を経て総務省が推進する「グローバルコミュニケー
ション計画」は、かつての Mu プロジェクトに匹敵するスケールで機械
翻訳の実用化に新たな地平を開こうとしています。機械翻訳が利用され
る場面も Mu プロジェクトの時代と較べてはるかに広範囲にわたり、こ
の技術が時間をかけて実用化への長い階段を着実に歩んできたことを実
感します。
一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌
機械翻訳技術の進歩は翻訳業界にとっては仕事のやりかたが大きく変
わる契機となるものでもあります。今月号の特集記事で須藤克仁さんが
日本翻訳ジャーナル
2016 年 3 月/ 4 月号 #282
発 行 ● 2016 年 3 月 4 日
書いておられるように、
翻訳者と機械翻訳の開発者・研究者との協業は道
半ばですが、両者が協力することが人間にとってより使いやすい機械翻
訳の実現につながると思います。そしてそこで活躍するのは、機械翻訳
発行人 ● 東 郁男(会長)
を道具として使いこなす新しいタイプの通翻訳者になることでしょう。
編集人 ● 河野 弘毅
JTF ジャーナルでは、そんな「次世代の通翻訳者」の新しい働き方、新
発行所 ● 一般社団法人 日本翻訳連盟
〒 104-0031 東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F
TEL. 03-6228-6607 FAX. 03-6228-6604
[email protected] http://www.jtf.jp/
しい生き方を、提言をふくめて追い求めていきたいと考えています。
企画・編集 ● ジャーナル編集委員会
校正協力 ● 豊田 麻友美、大谷 真由美、笠川 梢、
花嶋 みのり、矢能 千秋
表紙撮影 ● 世良 武史
デザイン ● 中村 ヒロユキ(Charlie's HOUSE)
印刷 ● 株式会社 プリントパック
26
編集長
河野 弘毅
Kawano Hiroki
業務効率化のためのクラウド型翻訳支援ツール
登録翻訳者用エディション無料
最新の作業進捗・翻訳メモリ/用語集の共有
~まずは30日間無料でお試しください~
www.memsource.com/ja/pricing
[email protected]
日本語マニュアルサイト
http://createmore.jpn.org/memsource/
Memsource Technologies, Spalena51, 110 00 Prague
Czech Republic (チェコ共和国プラハ)
翻訳・ローカリゼーション・
ドキュメンテーションサービス
お客様のご要望に応えるため、更なるベストサービスを目指しています。
Communications for
a global marketplace
プロジェクトチームに参加しませんか?
282 Mar/Apr 2016
医療・医薬
医療機器
#
半導体関連
在
宅・
オ
IT 関連
金融
ン
翻
サ
訳
者 イト
募
集
化学分析
マーケティング・
ビジネス関連
〒141-0031 東京都品川区西五反田7丁目25番5号 オーク五反田ビル
TEL 03-5759-4371(採用担当窓口まで)http://www.to-in.com/ja 「お問い合わせ」
(
)
頒布価格 540 円(税込)
日本翻訳ジャーナル
一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌
2016 年 3 月 4 日発行